No.717(2012/02/05)日本の原発を推進する確信犯の名簿

 NHKは、昨年12月28日午後10時55分より総合テレビで追跡!真相ファイル「低線量被ばく 揺らぐ国際基準」という番組を放送しました。内容的には取り立てて新しい知見はありませんでしたが、ICRPの内部からの告発であったということが目新しいところでした。
 この程度の番組に対して、日本の原子力発電を推進する勢力から猛烈な抗議があったようです。この番組やそれに対する抗議文にはあまり興味はありませんが、この抗議文を出した主体がどのような勢力であるかが期せずして明らかになったことはとても良かったと思います(笑)。以下、抗議文の前文とに名を連ねた人々の名簿を紹介しておきます。


拝啓

 時下、益々ご健勝のこととお喜び申し上げます。
 さて、昨年3月11日の東日本大震災に引き続いて起きた東京電力福島第1原子力発電所1〜4号機の事故により大量の放射性物質が周辺に放出されましたが、それらによる低線量被ばくの影響について、地域住民はもとより国民の間に大きな不安が拡がっています。NHKでは、昨年12月28日午後10時55分より総合テレビで追跡!真相ファイル番組「低線量被ばく 揺らぐ国際基準」を放映されました。

 NHKが多大の費用と長期にわたる取材によって制作された真相ファイル番組ということで私達は標記番組を真剣に視聴しました。その結果、この報道番組は、期待に反し、数々の論旨のすり替え、事実誤認、不都合な情報隠べい、根拠薄弱な問題指摘などにより構築された非常に問題の多い内容であり、誠に遺憾ながら、公共放送としてNHKに求められる高い放送倫理に疑義を挟まざるを得ない番組であったと受け止めております。

 ことに、今から本格除染を開始しようとしている福島県民の方々や、食品の放射能に神経をすり減らしている多くの国民を混乱に陥れる倶れがあるという点で、大変に影響の大きい、問題のある内容であったと言わざるを得ません。
 以下に、今回の報道番組に見られる様々な間題点を指摘しつつ、私達の率直な考えを以下の通りお伝えしますので、当方の見解、疑問点及び要望について誠意あるご回答をいただきたく、お願い申し上げます。
(以下略)

代表
金子熊夫 エネルギー戦略研究会(EEE会議)会長 元外交官、評論家
宅間正夫 日本原子力学会シニア・ネットワーク連絡会会長 元東電本店企画部
林勉 エネルギー問題に発言する会 代表幹事 元日立製作所原子力事業部長

<賛同者氏名>
青木直司 日本原子力学会、日本機械学会
秋山元男 元 IHI
荒井利治 日立製作所名誉顧問、元JNF会長
石井 亨 元三菱重工
石井正則 元IHI技監
石井陽一 エネルギー問題に発言する会(SNW)、元原子力技術協会理事長、元東芝、日本
原子力発電
石川迪夫 元原子力技術協会理事長
一木忠治 元東芝
出澤正人 日本原子力発電(株)
伊藤 睦 元(株)東芝原子カ事業部長、元東芝プラント建設(株)社長
伊藤裕基 元丸紅株式会社
犬飼英吉 元名古屋工業大学客員教授 *元中部電力
岩瀬敏彦 元独立行政法人原子力安全基盤機構参与
岩本多實 元原研職員、元福井工大教授
上路正雄 元三菱原子力工業(株)
上田 隆 元日本原子力発電(株)
梅本忠宏 原電事業(株)敦賀支社、元IHI原子力事業部
大塚徳勝 元東海大学教授
小笠原英雄(元?日立原子力事業部)
小川博巳 非営利活動組織エネルギーネット代表 元東芝原子力事業部技監
奥出克洋 米国サウスウェスト研究所コンサルタント 物産パワープラントエンジニアリング
織田満之 元日本原子力発電蒲搦磨A元原電事業鰹務
小田島嘉一郎 元中部電力
小野章昌 元三井物産
加藤 仁 元鞄本原子力産業会議調査資料室長、元外務省原子力課課長補佐
加藤洋明 元日立製作所技師長
加納時男 前参議院議員、元東電副社長(原子力担当)
金氏 顯 原子カ学会シニアネットワーク代表幹事、三菱重工業株式会社特別顧問元常務
金子熊夫 外交評論家、元外交官、元東海大学教授
亀ヶ谷勝之助 元海洋研究開発機構
川合將義 高エネルギー加速器研究機構名誉教授、元(株)東芝原子力技術研究所
河田東海夫 原子力発電環境整備機構フェロー *元核燃料サイクル開発機構理事
川西康平 元三菱重工業
北田幹夫 褐エ子力安全システム研究所
岸本洋一郎 元核燃料サイクル開発機構
工藤和彦 九州大学
黒田 眞 安全保障貿易情報センター・理事長
栗原 裕 元原電事業会長、元日本原電役員
黒川明夫 発電設備技術検査協会IS0品質主任審査員
軍司 貞 鞄訣H業技術顧問 *元日立日立工場
小杉久夫 元中部電力浜岡原子カ発電所長
後藤征一郎 元(株)東芝首席技監
小山謹二 財)日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター客員研究員元日本原子カ研究所主任研究員
紺谷健一朗 元(財)エネルギー総合工学研究所副主席研究員、元(株)東芝
西郷正雄 元原子力安全委員会技術参与 元原子力産業協会
税所昭南 元(株)東芝
齋藤 修 元放射線影響協会常務理事
齋藤健彌 元東芝原子力事業部燃料サイクル部長
齋藤伸三 元原子力委員長代理、元日本原子カ研究所理事長、元日本原子力学会会長
櫻井三紀夫 元日立製作所、元横須賀商工会議所副会頭
実松俊弘 元日立製作所上席常務
島田昭一郎 日本技術士会(原子カ/放射線部会幹事)委員 *原電情報サービス 原子力船むつ炉心設計者
清水彰直 元原子力委員会参与、元東京工業大学教授
白山新平 元関東学院大学教授、元IAEA職員
末木隆夫 元東芝
末廣和康 末廣技術士事務所、元三菱重工
菅原剛彦 シニアネットワーク東北代表幹事 元東北電力
鈴木光雄 元日本原燃副社長、元中部電力
清野 浩 東北大学医療技術短大部名誉教授
副島忠邦 株式会社国際広報企画代表取締役
高島洋一 東京工業大学名誉教授
高田 誠 森村商事(株)エネルギー事業企画室担当部長
高野元太 原子カサービスエンジニアリング(株) *元三菱重工業
高橋輝実 元IHI
高間信吉 元IHI技監、元EPRI(米国電力研究所)
宅間正夫 日本原子力産業協会、元東京電力
太組健児 日本原子力学会フェロー 元日立原子力事業部次長.
竹内哲夫 元日本原燃社長、元原子力委員会委員 元東電副社長
田中長年 元(財)原子力発電技術機構耐震技術センター部長
田中隆一 NP0法人放射線教育フォーラム理事 元日本原子力研究所高崎研究所長
力石 浩 リキ・インターナショナル元三菱重工業原子力事業本部原子力部長、元日本原燃経営企画室国際業務統括部長
長 惇夫 長技術士事務所代表、元三菱重工業
辻萬亀雄 元兼松株式会社
坪谷隆夫 原環センター技術顧問、元動燃事業団理事・環境技術開発推進本部長
寺澤倫孝 兵庫県立大学名誉教授
長尾博之 日本原子力学会フェロー、元(株)東芝
中神靖雄 元三菱重工、元核燃料サイクル機構
中村 進 JAEA(独立行政法人日本原子力研究開発機構)
永崎隆雄 日中科学技術交流協会常務理事 元動力炉・核燃料開発事業団
中村 威 元関西電力
中村尚司 東北大学名誉教授、放射線審議会前会長
奈良林直 北海道大学教授
西村 章 東京工業大学原子炉工学研究所特任教授 *元?(株)グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン理事
野島陸郎 元IHI
林 勉  エネルギー問題に発言する会代表幹事、元日立製作所原子力事業部長
早野睦彦 三菱FBRシステムズ株式会社
平沼博志 T&H社会活力研究会 元日立製作所
藤井晴雄 (社)海外電力調査会調査部、元四国電力原子燃料部、元IAEA
藤井靖彦 東京工業大学名誉教授
古田富彦 東洋大学地域活性化研究所客員研究員、元東洋大学国際地域学部教授
堀 雅夫 エネルギー高度利用研究会・代表 *元動力炉核燃料開発事業団(現核燃料サイクル開発事業団),大洗工学センター所長
前川則夫 元日本原子力発電(株)常務
前田 肇 元関西電力
牧野 功 元電源開発
桝田藤夫 元東芝
益田恭尚 元鞄月ナ首席技監
松浦辰男 NPO法人放射線教育フォーラム理事長、立教大学名誉教授
松岡 強 元三菱重工、元(株)エナジス
松岡信明 エコアクション21審査人
松永一郎 エネルギー問題研究・普及会代表、元住友金属鉱山
松永健一 日本技術士会原子力・放射線部会 *元三菱重工業
松村一雄 株式会社カナメ電研代表取締役元東京電力
三谷信次 原子カコミュニケイションズ、元日立
向山武彦 元日本原子力研究所
山崎吉秀 元電源開発 元関西電力
山田明彦 元東京電力
山田信行 元日立造船
山本康典 日本原子力文化振興財団フェロー
吉島重和 元東芝エンジニアリング(株)
由岐友弘 IAC(インターナショナルアクセスコーポレーション)社長、元住友商事
路次安憲 元三菱電機
若杉和彦 元原子力安全委員会技術参与、元GNF(グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン)
(合計112名)


 

No.716(2012/02/04)ハイブリッド車の性能劣化

 ハイブリッド車の販売が好調のようですが、どうも私にはよくわかりません。私の周りにハイブリッド車に乗っている人がいないので、その実態を聞いたことが無いのですが、総合的に考えるとメリットがあるとはとても思えないのですが・・・(笑)。
 今週、米国においてホンダのハイブリッド車『シビック』について、燃費の不当広告に関する訴訟が起きていることが報道されました。日経新聞電子版から紹介します。


燃費不当広告、ホンダに賠償命令 米裁判所
 【ロサンゼルス=共同】
 米ロサンゼルス郡地裁は1日、購入したホンダのハイブリッド車の燃費が広告よりも悪いため、予想外のガソリン代の出費を強いられたと主張する女性の訴えを認め、同社に9867ドル(約75万円)の賠償を命じた。
 ガソリン価格上昇や環境意識の高まりから米国のドライバーの間でも燃費への関心は高まっている。女性は同様の不満を持つ人々に訴えを起こすよう呼び掛けており、メーカー各社が競って燃費の良さをアピールする環境対策車の販売戦略に影響を与える可能性もある。
 ホンダは「判決は納得できない。上訴する」との談話を発表した。
 こうした裁判は集団訴訟で争われることが多いが、原告の女性は手続きが簡素で判決までの時間も短い少額訴訟制度を利用。結果次第ではホンダをはじめメーカーを相手にした同種訴訟の増加につながるとして米メディアの注目を集めていた。
 この女性はホンダのシビックの2006年モデルを購入。ホンダは燃費を1リットル当たり約21キロと宣伝していたが、バッテリーが劣化するに従って13キロ以下にしかならないと主張。1万ドルの支払いを求めていた。
 ホンダ側は法律の規定通りに計測した燃費を表示したと反論していた。
 原告の女性は共同通信に「世界中のホンダ車のオーナーにとっての勝利だ。もう同社の車は買いたくない」と話した。


 私は、別にホンダの商品をどうこう批評しようというつもりはありません。本当のところ、ハイブリッド車の走行性能や性能劣化特性を知りたいという純粋な興味はあります。
 蛇足ですが、自動車の走行性能ほどカタログデータと実際の使用感覚の違うものは無いような気がします(笑)。おそらく多くの人はカタログデータを本気で信じている人はいないのが実情かもしれません。それでも、同じ条件で測定した二つの車の走行性能を比較すれば、何とか相対的な性能の目安になるであろうという程度の信頼しかしていないと思います。
 話を元に戻します。記事によると、シビックは21.0km/Lという燃費を宣伝していたが『バッテリーが劣化するに従って』燃費が悪化して13.0km/L以下に低下したというものです。
 まず、この記事から推測されることは、ハイブリッド車の走行性能が、車載バッテリーの能力に大きく影響されるということです。おそらく、ガソリン・エンジン出力の劣化はそれほど考えられませんから、21.0km/Lから13.0km/L以下への38%以上の性能低下の原因の大部分がバッテリー性能の劣化に起因するということです。これを新車レベルまでに回復するためにはどのような作業(バッテリー交換しかないのか?)どの程度の追加費用が生じるのかを知りたいものです。
 次に、ハイブリッド車の性能低下から考えると、100%バッテリー性能に依存する電気自動車の走行性能劣化は更に激しいのではないか、ということです。

 いずれにしても、自動車だけでなく環境性能を売り物にするすべての耐久消費財の総合的な性能の評価は、単に導入時のカタログ性能だけではなく、使用期間中を通した経年劣化とそのメンテナンス費用、追加資材についても判断しなければならないということです。冷静な実態把握をせずに新規技術に飛びつくことは、エネルギーや資源の浪費を加速することになるので、ご注意を!

2012年2月9日 追記:
 その後、少しネット上で情報を調べてみました。現在ハイブリッド車の車載バッテリーの主流はニッケル水素電池で、寿命は充・放電サイクルで500回程度、実際の運用では5年程度を目安にバッテリーを交換する事になり、その費用は工賃込みで15万円程度というところでしょうか。このバッテリー交換工賃を燃料費に加えた場合、果たして低燃費といえるのかどうか、冷静な判断が必要でしょう。少なくとも、最近の低燃費の新型ガソリンエンジン車のほうがはるかに優れているように思います。
 バッテリーでもう一つ気になるのが温度に対する充電・放電特性です。経験的に、寒冷地では電池の電圧が低く、短時間で放電してしまうことを知っています。電気自動車ほどではないでしょうが、寒冷地でのハイブリッド車のアドバンテージは更に小さいと考えるべきでしょう。

No.715(2012/02/02)東大IR3S裁判/明日香被告人証人尋問

 東京大学IR3S『地球温暖化懐疑論批判』による名誉毀損事件について、次回口頭弁論において中心人物の一人である東北大学の明日香壽川に対する被告人証人尋問が行われます。尋問内容について、槌田敦氏から上申書を受け取りましたので紹介します。

2012年2月1日
槌田敦

 2月14日(火)1時半から東京地裁411号法廷で、東京大学・小宮山宏らによる名誉毀損事件の証人尋問がおこなわれます。
 1時30分から2時50分までが原告槌田への尋問、3時から4時20分までが被告明日香への尋問となっています。
 その準備として、1月30日、原告は東京地裁に下記上申書を提出しました。
 代理人のいない裁判ですから、2月14日の法廷では、裁判長が、この原告の上申書にある陳述書(4)を参考にして、原告本人の尋問をすることになります。
 その後、原告が、別紙2の尋問事項に沿って、被告明日香寿川を尋問します。

2012年1月30日 上申書

No.732(2012/03/18)
東北大学教授明日香壽川の驚きの三段論法

No.714(2012/01/30)日本生活協同組合連合会の
非科学的エネルギー戦略の検証E


http://jccu.coop/info/suggestion_120118_01_01.pdf

 前回まで、『エネルギー政策の転換をめざして』第2章の内容について検討してきました。その中で、生協の今回の冊子の内容が非科学的である具体的な理由を示しました。第3章「生協における取り組み」の内容は第2章の内容に対する生協自身の活動の具体化ですので、これまでの指摘に照らして、各自検討していただければよいと思いますので、敢えて検討しません。
 連載の初回で述べた通り、私は庶民の自主的な集まりである生活協同組合はトップダウンの国や企業とは異なり、本質的に問題解決する可能性を持っていると考えていますので、何とかその運動を自然科学的に強化し、本当の政策能力を鍛えていただきたいと考えています。
 最後に、『エネルギー政策の転換をめざして』に対する私の政策提言をしてこの連載を終わることにします。

4.何をなすべきか・・・脱電力化と工業生産の縮小

4−1 電力化がエネルギー浪費の元凶
 発電という工業生産プロセスとは、有効なエネルギーを発電装置に投入して電気に変換する過程である。工業的生産過程の効率は熱学の法則から絶対に100%にはなり得ない。その結果、工業生産過程が複雑になるほど効率は指数関数的に低下する。つまり、一般的に発電も含めて工業生産過程は単純なほど効率が高いのである。
 現在の日本の発電全体への一次エネルギー投入量から最終製品である電力への変換効率は資源エネルギー庁の2004年の統計値から、一次エネルギー量は8,312PJ(PJ=ペタジュール=×1015J)であり、これによって生み出された電力量は3,363PJなので発電効率は次の通りである。

3,363PJ÷8,312PJ = 40%

この発電過程で(8,312PJ−3,363PJ)= 4,982PJ 、実に投入した一次エネルギーの60%に当たるエネルギーが廃熱として無為に消え去ってしまったのである。
 確かに電気は便利なエネルギー形態であるが、安易に電気を利用することは社会全体の一次エネルギー利用効率を著しく悪化させている。電気でなければ運用できない、例えば情報関連機器以外については出来るだけ電気を使用しないことが社会全体の一次エネルギー利用効率の改善に繋がる。特に低温熱源として電気を使う装置、例えば電気温水器やIH調理器具などは即刻廃止すべきである。
 一例として電気温水器とガス瞬間湯沸かし器について考えてみる。電気温水器で温水を作る場合、電気を得る段階で既に平均的に60%の一次エネルギーが廃熱として捨てられている。電気温水器の電気から温水へのエネルギー利用効率が95%とすると、総合的なエネルギー効率は0.4×0.95=0.38=38%になる。これに対してガス湯沸かし器の熱効率は90%を超えている。
 1単位の湯を得るためには、電気温水器では1/0.38=2.63単位の一次エネルギーが必要なのに対して、ガス湯沸かし器では1/0.9=1.11単位の一次エネルギーですむ。つまり同量の湯を沸かす場合、電気温水器はガス湯沸かし器に比較して2.63/1.11=2.37倍の一次エネルギーを消費するのである。
 少し付言しておくと、夜間電力使用の電気温水器が普及した背景には、短時間の出力調整になじまない原子力発電が増加した結果、夜間余剰電力がだぶつき気味になったため、揚水発電所の代わりの安上がりな捨て場として夜間余剰電力のダンピング販売先として電気温水器が最適であると判断された結果である。つまり電気温水器は原子力発電所増設に一役買っているのである。
 同様に、電気自動車の利用も一次エネルギーの浪費に他ならないことは説明の必要も無い。ガソリン車に比べて運用費用が安いというのは、ガソリン税率が発電用重油に比較して圧倒的に高いことを反映していること、夜間電力がダンピング販売されていることなどの要因による。

 まず、電気以外のエネルギーで運用可能な機器は脱電力化することで同じ効果を得た上で一次エネルギー消費量を飛躍的に削減することが出来る。次の段階として、電気でしか駆動できない機器について、その社会的な必要性の優先順位に従って、優先度の低いものは廃していくことが望ましい。例えばテレビゲームや不必要に巨大なTV受像機などの娯楽機器には高額な個別物品税を課すことも有効であろう。

4−2 工業生産規模の段階的縮小
 既に日本の産業は工業化されすぎている。また、必要以上の工業製品があふれ、工業製品は使えるものでも短期間で破棄され、絶えず更新され続けている。このような資源浪費的な社会構造そのものを見直すことが求められている。
 第一に社会的に必要な工業製品以外は出来るだけ製造せず、製造したものは製品寿命まで徹底的に利用することが必要である。総じて工業化された産業構造を見直し、自然の物質循環に根ざした農林水産業を健全な形で回復していくことが、今我々に求められている。
 究極的には、無国籍の世界市場から脱却して、日本の気候風土に根ざした産業構造・生活様式を再構築することこそが生活協同組合の目指すべき方向であろうと考える。

(連載1回へ)

2012年2月7日 追記:
 本日、やっと生協の方と明確にわかるアクセス(coopnet.or.jp)がありました。ご訪問、ありがとうございます。
 このままでは、生協はまた原子力発電を見過ごしてしまったのと同じ、安全神話を信じた非科学的な判断による過ちを自然エネルギー発電で繰り返すことになります。しかも、今回は生協の組織方針として積極的に自然エネルギー発電の導入に加担する「加害者」として係ることになります。
 重電・重工・情報産業をはじめ関連企業やそのおこぼれに預かろうとする連中や経済産業省・環境省・文科省は、原発を自然エネルギー発電に取り替えただけで、またしても血税、しかも震災復興予算をも食物にしようとしていることに一刻も早く気づいていただきたいと思います。
 不明な点や疑問がございましたら、いつでもお答えしたいと思います。よろしくお付き合いください。合掌。

No.713(2012/01/26)日本生活協同組合連合会の
非科学的エネルギー戦略の検証D


http://jccu.coop/info/suggestion_120118_01_01.pdf

 既に4回の連載で示したように、生協の自然エネルギー発電(彼らの表現では再生可能エネルギー)に対する評価は非科学的であり、まったく実体を論理的に判断したものではありませんでした。自然エネルギー発電企業やIT企業、その宣伝部隊である評論家やNEDOなどの関連機関などの主張を自ら検討も行わずに、継ぎ接ぎしただけの無内容なものでした。その結果として、彼らの政策提案は必然的に誤ったものにならざるを得ません。今回は、彼らの政策提案についてコメントすることにします。

3−3 自然エネルギー発電の拡大は亡国のエネルギー政策


(5)電力・原子力に関わる制度改革と次世代送電網(スマートグリッド)の構築
(冊子17・18頁)


@大規模一極型集中システムから多様分散型システムへ
 これまでの日本の電力システムは、大規模一極集中を基本に、巨大供給施設(大規模な原子力発電所、火力発電所など)と供給ネットワーク(送電網)を形成してきましたが、これからはそれぞれの地域にあった多様な(地産地消的な)電源によるエネルギーミックスと分散型供給システムが基本となります。
 そのためには、電力システムに関わる制度改革や新たなIT技術を活用した次世代送電網(スマートグリッド)の構築が必要です。


 ここで、これまでの連載で触れてこなかった自然エネルギー発電の本質的・致命的な欠陥である、制御不能な不規則変動について触れることにする。
 既に連載2回において触れたように、低いエネルギー密度の自然エネルギーを利用する発電装置は、必然的に単位発電量あたりに必要な発電装置=工業製品が圧倒的に大きくなる。さらに重要なのは、利用可能な自然エネルギー量は気象現象等の影響で不規則で激しく変動する。勿論制御することは不可能である。その結果、自然エネルギー発電装置の発電出力は制御不能で短時間で激しく変動し、設備利用率が極めて低い。
 風力発電では定格出力に対する平均的な設備利用率は15%程度である。太陽光発電の場合、定格出力は0.1kW/m2程度であるが、日本の運用実績による1日の平均的な発電量は0.3kWh/(m2日)程度であるから、1日当たり3時間程度しか稼動していない(3時間/24時間=12.5%)のと同じである。
 工業化された社会システムを維持する電力には、高い品質、つまり電力需要に対して過不足なく供給出来る能力が必要である。これは換言すれば発電出力が完全に制御可能でなければならないということである。需要と供給が乖離すれば、供給電力に異常な周波数変動が生じたり、最悪の場合には予期せぬ大規模停電が発生することになる。
 原子力発電は短時間の出力変動に追随して運転する能力が無い欠陥発電システムであるから、単独で電力需要を全て賄うことは不可能である。しかし、原子力発電出力は一定で発電することが可能であるから、ベース電力を分担することは可能であった。しかしながら、自然エネルギー発電は需要に対する制御が出来ないばかりか、発電量の変動を予測することも困難であり、発電装置としては明らかに原子力発電以上の欠陥システムである。
 その結果、自然エネルギー発電出力が総供給電力に対して無視できるほどに小さい現状では、送電線網に直結して運用しても大きな問題は起こらない(=逆に言えばノイズとして無視される、役に立っていないということである。)が、次第に自然エネルギー発電導入量が大きくなれば、その悪影響は無視できなくなる。既に風力発電の密集地帯である北海道電力傘下では、既存火力発電による調整能力を超える危険性が生じているため、その場合には風力発電を電力系統から切離す『解列』を前提として風力発電を行っている。これは全くの無駄である。
 No.621(2011/06/17)デンマーク風力発電の実像で触れたように、デンマークでは自国の消費電力の20%に見合う電力を風力で発電しているが、自国の小さな送電線網では激しい出力変動を処理できないために、その大部分をEUの巨大な送電線網に流し、その代わりに安定電力を輸入しているのである。
 スペインでは自国の消費電力の9%に見合う風力発電を行っているが、やはり隣国に対して余剰電力を売電している。既存の火力発電や揚水発電では風力発電に対する調整能力が限界に達しており、大規模停電の危険性が増している。これを回避するためには大消費地と風力発電立地地域との間に超高電圧大容量の送電線網の新規建設とバックアップ用の揚水発電所などの建設が必要とされているが、財政破綻の危機に瀕しているスペインではその経済負担に耐えられないのが現実である。
 日本においても、今後更に制御不能の自然エネルギー発電を導入するためには、自然エネルギー発電電力の変動を相殺するために調整用の付帯設備、具体的には小規模なものでは家庭用蓄電装置からバックアップ用の火力発電や揚水発電、そして超高圧大容量送電線の新規建設が必要となる。
 以上に示したのは電力供給側の付帯設備であったが、情報通信網を利用して需要を調整するシステムとして考えられているのがスマートグリッドである。電力消費端において接続されている電力消費機器の稼動状態をモニターして、例えば供給電力に欠損が生じるような場合には優先度の低い電力消費機器の運転を停止することで供給電力に需要を合致させようというものである。
 スマートグリッドが果たして効果的に作動するかどうかは現状では未知数である。その前に、スマートグリッドという電力を消費する全戸に対する情報通信網を構築し、電力消費モニター装置を設置するだけでも莫大なエネルギーと資源の追加消費が発生する。これは、IT企業にとって莫大な市場を提供することになるであろう。更に、モニター装置を運用するためには全ての電力消費機器(たとえば個別の家電機器)に運用状況をモニター装置に送信するための待機電力が発生する。
 自然エネルギー発電の市場が拡大すれば社会的経済コストは低下するという、全く科学的な根拠の無い説明に納得する愚かな人々が大多数である。しかし不安定電源の増加はそれを補うための莫大な付帯設備の増設を要求するというのが科学・技術的な現実である。単体で見ても既存の火力発電システムよりもはるかにエネルギー・資源浪費的な自然エネルギー発電を大規模に社会システムに導入するためには、更に出力調整用の各戸の蓄電装置、火力発電所、揚水発電所の新規建設と、広域の電力の融通のための超高圧大容量送電線網の建設、あるいはスマートグリッドという全戸に対する情報通信網とモニター装置の設置などが必要となり、社会的費用はむしろ割高になるのである。

 生協の提言に戻ってみよう。彼らは『これまでの日本の電力システムは、大規模一極集中を基本に、巨大供給施設(大規模な原子力発電所、火力発電所など)と供給ネットワーク(送電網)を形成してきましたが、これからはそれぞれの地域にあった多様な(地産地消的な)電源によるエネルギーミックスと分散型供給システムが基本となります。』と述べている。
 これまでの議論で示したように、自然エネルギーは出力変動が激しすぎるため、発電した場所で個別にそのまま有効利用することは困難である。電力供給網から切り離したスタンドアローンで運用する場合には、自然エネルギー発電装置の最大発電能力に等しい安定なバックアップ用の火力発電装置を用意する必要がある。それでも完全に出力変動を相殺する運転は不可能なので、巨大な蓄電システムを備えることが必要になる。自然エネルギー発電装置個別にこのような対応を行うことがあまりにも無駄が多く現実的でないことは説明の必要は無いであろう。
 自然エネルギー発電のような不規則変動する装置を運用する場合には、出来るだけ数を増やし相互に接続することで互いの変動を相殺してやることが現実的な対処法である。そのためには出来るだけ広域をカバーする超高圧大容量の巨大な送電線網で発電装置と大電力消費地を繋ぐことが必要である。生協の認識とは全く逆で、自然エネルギー発電こそ巨大なネットワークが必要なのである。自然エネルギー発電の大規模導入は分散型のシステムにはなりえないのである。
 蛇足であるが、出力調整の容易な火力発電こそ地産地消の可能性のある発電方式なのである。


A電力システム改革
 消費者・需要家がエネルギーを積極的に選択できるようにしていくためには、規制改革を推進する必要があります。電力システム改革は段階的に進められてきましたが、当初想定されていた10電力会社間相互のエリアへの進出がほとんど行われず、事実上の地域独占が維持されたままになっています。電力市場も、ほとんど有効に機能していませんし、対象範囲の一般家庭(消費者)や小口需要家への拡大も先送りされています。情報通信分野で行われてきたような、消費者・需要家が多様な選択肢(供給会社、発電源、料金、サービスなど)から選べるシステムへの転換が必要です。また、総括原価方式の見直しも課題です。
 あわせて、送電線網の利用料金の適正化をはかり、新規参入会社も公平な条件で利用できるように、発送電分離も検討を急ぎ、実現していくべきと考えます。


 この提言には全面的に賛成する。しかしその意図するところは、おそらく生協とは全く逆である。

 新規参入の売電事業者に公平ということは、送電線網運用会社(現状は電力会社)は自由競争の電力市場から買電すべきであり、『再生可能エネルギー発電』に対してだけ市場を無視した高額の固定価格の全量買取などという強力な国家介入を排さなければならない。完全な電力販売の自由化によってこそ、安価で安定した最良の電力供給システムが実現できる。
 変動が激しく、発電量も制御できないような不安定な低品質の電力を高額で買い取るなど馬鹿げたことであり、国家的な損失である。


B次世代送電網(スマートグリッド)の構築
 多様分散型システムの社会的基盤となる次世代送電網として期待されているのが、スマートグリッドです。スマートグリッドとは、直訳すると「賢い送電網(smart grid)」ですが、単なる送電網に限定されるものではなく、上流の発電所から下流の家電製品をはじめとした消費者・需要家側システムまでを包含し、従来の電力ネットワークに情報通信ネットワークを融合させて、再生可能エネルギーの大量導入を可能とし、また、電力供給を無駄なく、安定的、効率的に需給調整していく技術全体のことをいいます。こうした革新的技術を積極的に取り入れていくことを求めます。


 この問題は既に議論したとおりである。自然エネルギー発電にソフトバンクの孫正義が熱心なのは、国家政策として全戸に対する情報通信網が整備されることが彼の商売に対して莫大な利益となることを見越してのことであろうと考えられる。
 ここで一つ付言すれば、スマートグリッドによって各戸の家電の数や機種、その運用状況などから、家庭の経済状況や生活スタイルをはじめとする個人情報が筒抜けになる危険性についても考えておく必要があろう。


Cエネルギーに関わる税制の改革
 これまで電気料金に課せられてきた電源開発促進税の使い方も、原子力発電中心から、再生可能エネルギーへと大きくシフトしていくべきであると考えます。エネルギー予算の大幅な組み換えと電力会社の努力により、政策転換に伴う消費者負担も最小限に抑えることが可能と考えます。



 愚かなことである。非効率的で資源浪費的な自然エネルギー発電システムに対する国家予算の投入は税金をドブに捨てるようなものである。効率的な電力供給システムを構築するためには、電力市場を完全自由化し、固定価格買取制度などの国家介入を排除することである。ただし、送電網の運用会社は電力供給の安定性を担保するために何らかの国家的な介入は必要であろう。

<参考記事>
No.595 (2011/05/04)
連載 脱原発は科学的な必然
そのJ 不安定電力はエネルギー効率を落とす

(続く)

No.712(2012/01/23)日本生活協同組合連合会の
非科学的エネルギー戦略の検証C


http://jccu.coop/info/suggestion_120118_01_01.pdf

3−2 自然エネルギー発電電力全量固定価格買取制度が日本社会を壊す


2-2-(3)再生可能エネルギーの急速拡大(冊子16頁)
 再生可能エネルギーは、クリーンな新しいエネルギーとして、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、地熱発電、小水力発電など、注目を集めています。これまでは、発電電力量の1%にとどまっていましたが、今後の取り組みで大きく広がることが期待されています。また、再生可能エネルギーの導入は、地域にある多様な資源を活かして、新たな地域の雇用や成長を生み出す可能性も持っています。
 これらの再生可能エネルギーを普及していく切り札といわれているのが、「再生可能エネルギーの全量買取制度」です。この制度を定めた法案が8月26日に国会で成立しました。今後はこの制度を含め、再生可能エネルギー普及の取り組みを広げ、発電電力量を大きく高めていくことを求めます。


 前回検討したように、自然エネルギー発電は石油をはじめとする工業的に供給されるエネルギーと鋼をはじめレアメタルなどを含む材料資源を浪費する極めて非効率的な発電方式ゆえに、その製品である電力原価が非常に高い。自然エネルギー発電の大規模導入は、工業生産規模を爆発的に肥大化させるため、環境問題は本質的に悪化することになる。
 しかし、無駄の多い発電方式であるが故に、市場の購買意欲さえあれば、自然エネルギー発電装置メーカーは法外な利益を上げることができる。福島第一原発事故以降、東芝・三菱・日立などの重電メーカーは当面販売の難しい原子力発電事業から自然エネルギー発電やそれと抱き合わせで導入が考えられているスマートグリッド事業にシフトしたのは、自然エネルギー発電が原発同様に、メーカーにとって『おいしい』事業だからである。
 電力市場が本当に自由化されるならば、資源やエネルギー浪費的であるが故に供給電力価格の高い原子力発電や自然エネルギー発電は真っ先に淘汰される。こうした高価な発電方式が生き残るためには、電力市場に対する強力な国家介入が必要であることは容易にわかる。日本において原子力発電がこれだけ広まったのは、国が電力会社に対して実質的な地域独占権を与え、しかも総括原価方式による電力価格決定方式を許した結果、高価な発電設備を使うほど電力会社の利益が増大するというとんでもないカラクリを仕組んだ結果であった。
 そして今、自然エネルギー発電を国家政策として導入促進するために始められようとしているのが、『再生可能エネルギー特措法』で導入されることになった全量固定価格買取制度というカラクリである。これによって、通常各電力会社が売電事業者から買い入れている電力価格の数倍〜十倍程度の買取額が保証されることになる。これは確かに自然エネルギー発電による売電事業に新規参入するための強力な動機付けになる可能性がある。
 今回の制度では、電力会社が売電事業者から購入する価格を法律で定めるが、実際に購入するのは電力会社であり、その買取金額は電気料金に上乗せされ、最終的に消費者が支払うことになる。つまり、自然エネルギー発電電力という通常の市場では売れない低発電効率であるが故に高価で、しかも低品質(これについては後述)な電力を法外な値段で消費者に売りつけ、自然エネルギー発電事業者をトンネルとして東芝・三菱・日立などの重電メーカーに儲けが流れ込む仕組みを国が法律によって強制するということである。正に電力自由化とは真っ向から対立する時代錯誤の制度である。
 この自然エネルギー発電という資源浪費的で非効率的な発電方式を政策的に導入することは、非科学的であるが故に失敗することは必定である。既にこの制度の先発国である西欧では自然エネルギー発電電力の固定価格買取制度はほとんど破綻している。この件については、既にこのコーナーで検討しているので、その記事をご覧いただきたい(No.618 電力固定価格買取制度の失敗など)。

 電力価格の高騰は、単に商品としての電力価格の上昇に止まらない。電力という工業生産分野における基本的なエネルギー資源価格が高騰することによって、全ての産業分野におけるエネルギーに対するコストが上昇するため、全ての工業製品価格が高騰することになる。
 確かに初期において、自然エネルギー発電装置メーカーは活況を呈すことになるであろう。しかし、電力価格高騰の影響は、自然エネルギー発電装置メーカーにとっても悪影響を及ぼすことになり、国内生産を維持すれば国際市場における価格競争力を失うことになる。
 その結果、大手企業はエネルギー価格の低い海外へ生産拠点を移すことになり、日本の工業生産の空洞化に拍車がかかることになる。海外進出の出来ない弱小企業は国際的な価格競争に敗れて軒並み淘汰されることになる。スペインでは、固定価格買取制度を導入して太陽光発電の国内普及と同時に、太陽光発電装置産業を育成することで海外市場を開拓することを目論んだが、輸出するどころかむしろ安価な他国の太陽光発電パネルが国内市場まで侵食することになった。このスペインの自然エネルギー発電電力に対する固定価格買取制度による自然エネルギー発電規模の増大がスペインの財政危機の一因である。

 今回は、自然エネルギー発電普及の切り札といわれる高額固定価格買取制度の社会的な影響を考察した。この制度の影響は、単に個人が電力に対する多少の支出の増加を我慢すればよいという問題ではないことを示した。エネルギー価格の高騰は日本の全ての産業の価格競争力を弱め、産業の空洞化を加速し、その結果として既に破綻寸前の日本の国家財政を回復不能にさせる危険性をはらんでいる。

(続く)

No.711(2012/01/23)日本生活協同組合連合会の
非科学的エネルギー戦略の検証B


http://jccu.coop/info/suggestion_120118_01_01.pdf

 これまで2回の連載で、エネルギー問題における基本的な誤りについて紹介しました。今回からは日本生活協同組合連合会『エネルギー政策の転換をめざして』の内容に沿って問題点を指摘することにします。第1章については検討は省略し、生協の主張である「第2章 日本のエネルギー政策への提言」について検討することにします。

3.生協のエネルギー政策への提言を検討する

3−1 日本のGDP当たりのCO2放出量は世界最低


2-1-(1)エネルギー政策の5つの視点(冊子13頁)
 現在のエネルギー政策基本法では、「安定供給の確保」「環境への適合」「市場原理の活用」の3つを基本視点として定めています。「安定供給の確保」の視点では、それまでの石油中心からエネルギー供給源の多様化を図るなど、総合的なエネルギー安全保障の強化が取り組まれてきました。「環境への適合」の視点では、地球温暖化対策として、省エネルギーや再生可能エネルギーの促進が図られてきましたが、世界的に再生可能エネルギーが大きく広がっている中で、日本の立ち遅れが目立っています。また、「市場原理の活用」の視点でも、世界的に電力システム改革が進んでいる中で、日本は各国と比べると大幅に遅れをとっています。
 さらに、今後は、この3つの視点に基づく取り組みを推進していくことに加えて「安全の確保」と「国民の参加」を基本視点に盛り込む必要があります。


 生協は「環境への適合」の視点では地球温暖化対策を主張している。連載第1回で示した通り、人為的な化石燃料の燃焼に伴う付加的なCO2放出量の増加によって気温が上昇する事実はなく、現状において温暖化することは好ましいことであるから、本来、地球温暖化対策など全く必要ない。ここではこの問題は一旦棚上げし、生協のエネルギー政策がCO2放出量の削減に意味があるかどうかという視点から考察することにする。
 生協のエネルギー政策の目標はあくまでも工業生産活動からのCO2放出量の削減が目的であって、再生可能エネルギー(蛇足であるが、再生可能エネルギーなどという言葉を無批判に使うところに生協の非科学性が現れている。)の導入は、もしCO2放出量削減に有効であれば利用すべき手段の一つであるということに過ぎないはずである。
 第一の誤りは、前回紹介したとおり、自然エネルギー発電の導入によって無条件にCO2放出量が削減できる保証はなく、現実的には自然エネルギー発電の導入でCO2放出量は確実に増大することになる。生協のエネルギー政策では目的と手段が取り違えられており、再生可能エネルギーを導入することが目的化されてしまっている。このような「政策」を組合員に対して主張するのならば、生協の責任において自然エネルギー発電がCO2放出量削減に効果があることを自然科学・技術的に示すことが最低の義務であろう。現状は、自ら思考することを完全に放棄しており、巷の噂をつまみ食いするような愚かな政策としか言いようが無い。
 工業生産過程からのCO2放出量について、その判断の尺度としてGDPに対する石油換算の一次エネルギー消費量を示す。

 日本は主要工業国の中でGDP当たりの一次エネルギー消費量が最低であることが判る。つまり生協の認識とは裏腹に、再生可能エネルギー導入がいくら低くても、実質的にCO2放出量は世界最低を実現しているのである。「世界的に再生可能エネルギーが大きく広がっている中で、日本の立ち遅れが目立」っていても、日本が最もGDP当たりのCO2放出量は低いのである。電力部門の80%を「CO2を放出しない」原子力発電に頼っているフランスや、自然エネルギー発電導入先進国であるドイツに比較しても日本の方がCO2放出量ははるかに低いのである。この事実は、今後日本が原子力発電や自然エネルギー発電の比率を増加させてもCO2放出量削減に結びつく保証が無いことを示している。
 なぜこのような事実があるにもかかわらず、愚かな誤りを犯すのであろうか?これは、日本という国全体からのCO2放出量と、エネルギー供給部門の一つである電力供給部門からのCO2放出量を混同していることに問題がある。

 図1に示すように、日本の一次エネルギー消費のほぼ80%が石油、天然ガス、石炭である。

 図4に示すように、最終エネルギー消費に占める電力の割合は25%程度である。仮に電力の20%を自然エネルギー発電で置き換えることが出来た場合でも最終エネルギー消費全体に対する割合はわずか0.25×0.2=5%にすぎない。
 一方、この電力供給部門における5%の石油、天然ガス、石炭を削減するためには、前回検討したとおり、発電装置製造部門の工業生産量は数10倍(数100倍?)に膨れ上がるため、産業部門の石油、天然ガス、石炭消費量は激増することになり、エネルギー供給全体ではむしろ石油、天然ガス、石炭の消費量は増大する可能性のほうが高いのである。

 日本は1970年代のオイルショック以降、自然エネルギー発電を導入しなくても、製品価格に直結するエネルギー消費の効率化に勤めた優れた工業生産プロセスを実現した結果、GDP当たりのCO2放出量が最低の極めて優れた社会システムを獲得したのである。

<参考記事>
No.593 (2011/05/03)
連載 脱原発は科学的な必然
そのH 電力化がエネルギーを無駄にする

(続く)

No.710(2012/01/22)日本生活協同組合連合会の
非科学的エネルギー戦略の検証A


http://jccu.coop/info/suggestion_120118_01_01.pdf

 前回は、エネルギー政策転換の原因の一つであると考えられている『人為的CO2地球温暖化脅威説』が自然科学的には全くの虚構に過ぎないことを示しました。ではなぜここまでこのような愚かな人為的CO2地球温暖化脅威説が蔓延してしまったのでしょうか?
 人為的CO2地球温暖化仮説は、温暖化が人類にとっての最大の脅威であると宣伝することによって研究費を得たい気象関連の研究者、そしてこれによって経済的な利益を上げることを狙ったエネルギー業界、とりわけ原子力発電関連企業と自然エネルギー発電関連企業(実はこの二つの企業は同一であるケースが多い。東芝、三菱、日立などなど・・・)、そして原子力発電で大儲けを狙った電力会社、そしてその監督官庁である経済産業省・文部科学省・環境省が結託して、マスコミや報道機関を利用して行った大量宣伝によってでっち上げられた虚像だったのです。
 多くの国民は大量の宣伝によって洗脳されてしまったのです。前大戦中の軍国教育や大本営発表を信じてしまった過ちの轍を再び踏んでしまったのです。
 人為的CO2地球温暖化脅威説については、前回示したように、専門的な知識がなくとも少しでも自ら調べる意思があれば誤りであることは常識の範囲で容易に確認できる事柄であり、また槌田敦をはじめ多くの良識的な自然科学者は早い段階から誤りであることを主張していたのであり、騙されてしまった大多数の国民自身に重大な責任の一端があるのです。
 人為的CO2地球温暖化脅威説が事実だと認識されたことによって、その対策として原子力発電所の新規建設計画が正当化されると同時に高価な自然エネルギー発電の導入も認知されたのです。しかも、原子力発電や自然エネルギー発電が科学的・技術的に見て本当にCO2排出量が削減できるかどうかの検討さえ行われませんでした。ここでもまた同じ過ちを犯したのです。

2.自然エネルギー発電は間接火力発電

2−1 工業生産過程と製品価格

 工業生産とは、原料を工業的なエネルギーを利用して製品に加工するプロセスである。現在の工業生産システムを支える基本的なエネルギー資源は石油である。

 図に工業生産過程の生産図を示す。横方向の流れは原料資源から製品が製造される過程を示す。縦方向の流れは、製品を作る過程で消費される石油を中心とするエネルギー資源や副次的な資源、そして製造設備の減価償却に相当する設備の損耗を示す。
 工業生産過程に投入された原料は、工業的なエネルギーや工業用水や有機溶剤など(低エントロピー資源)を使用して不純物を取り除き、加工・組み立てられて最終製品になる。工業生産過程に投入されたエネルギーや副次的な資源は廃熱や廃物(高エントロピー状態)になる。
 つまり、現在の石油に支えられた工業生産過程では、製品の直接的な原料になる資源のほかに、必ず石油や電力などのエネルギー(資源)と冷却・洗浄用の低エントロピー資源(水や有機溶剤など)が消費されている。
 次に工業製品の価格について検討する。生産図からわかるように、工業的な生産過程における原価には原料資源の費用、製造過程で投入される石油をはじめとするエネルギー費用、低エントロピー資源などの副次的な材料費用、工場および生産機械などの減価償却費用があり、これに利潤などを加えたものが製品価格となる。
 工業製品原価には必ず一定割合の石油をはじめとするエネルギー投入の対価としての費用が含まれている。つまり、製品価格の高い製品ほど大量のエネルギー消費を伴うのである。これは工業製品の普遍的な性質である。

2−2 自然エネルギー発電の本質

 自然エネルギー発電とは、環境に普遍的に存在する自由財である自然エネルギーを原料として、電力という工業製品を製造するプロセスである。自然エネルギーという自由財を原料としているにもかかわらず、一般的に自然エネルギー発電によって供給される電力は非常に高価である。なぜであろうか?
 生物が生息できる環境に普遍的に存在する自然エネルギーは、空間的なエネルギー密度が極めて低い。これを工業的に利用できる密度の高い電気エネルギーに変換するためには極めて大規模な自然エネルギー捕捉装置という工業製品を必要とする。つまり、自然エネルギー発電電力の価格とは自由財である密度の低いエネルギーを捕捉するために必要な巨大な工業製品価格によって決まるのである。
 例えば、No.615で紹介したハマウィングという風力発電装置の実効出力は255kW程度(1980kW×12.9%)であり、これに見合う250kW出力のガスタービン発電機やディーゼル発電機であれば、総重量は6t程度である。これに対してハマウィングの総重量は上部工だけでも238t、重量比では40倍にもなる。
 250kW出力のガスタービン発電機が1年間に発電する電力量は250kW×24h×365日/年=2,190,000kWh/年である。日本における太陽光発電の運用実績は100kWh/(年・m2)程度なので、2,190,000kWh/年を得るためには、2,190,000kWh/年÷100kWh/(年・m2)=21,900m2、ほぼ150m×150mの太陽光発電パネルが必要となる。
 自然エネルギーはどこにでも存在する自由財であるから工業的には無価値である。これを工業的な価値あるものにする自然エネルギー発電の本質とは自然エネルギーを捕捉するための巨大な発電装置という工業製品の製造なのである。
 前節の議論で示した通り、工業製品の製造過程では必ず一定割合の石油などのエネルギー資源を消費している。自然エネルギー発電電力が高価であるということは、それだけ大量の工業製品を必要としていることの反映である。つまり、自然エネルギー発電装置製造のためには莫大な石油をはじめとするエネルギーが消費されているのであり、この意味において自然エネルギー発電とは間接火力発電である。通常の火力発電では高温熱源を得るために燃料として直接石油を燃やすのに対して、間接火力発電では発電装置を製造するために石油を燃やすのである。

 今回は、自然エネルギー発電の本質が自然エネルギー発電装置という工業製品の製造であること、そしてその必然的な帰結として大量の石油をはじめとするエネルギーを消費すること、従って、自然エネルギー発電を導入することによって無条件に発電プロセスから放出されるCO2量を削減することが出来る保証など存在しないことを示した。
 生協のエネルギー政策を含め、非科学的な善意のエネルギー政策における常套句である「自然エネルギー発電はCO2を出さないが、電力価格が高いことだけが問題である」という評価は全く見当はずれである。電力価格が高いということは、それだけ多くの石油やその他のエネルギーを消費する低効率の発電装置であることを反映しているのである。同時に、装置製造のために必要となる鋼をはじめとする鉱物資源の消費量は爆発的に増大する。自然エネルギー発電は石油と鉱物資源の利用効率の極めて低い浪費的な発電方式である。
 自然エネルギー発電を石炭・石油・天然ガスの枯渇後のエネルギー供給システムとして必要であるとする主張がある。しかし自然エネルギー発電は低効率(エネルギー産出比<1.0)であるために、石炭・石油・天然ガスが枯渇すれば、自然エネルギー発電だけで自己を単純再生産することすら不可能である。ましてその他の工業生産を維持することなど出来ない。石炭・石油・天然ガスが枯渇した時点で自然エネルギー発電は放棄せざるを得ないのである。

<参考記事>
No.594 (2011/05/03)
連載 脱原発は科学的な必然
そのI 太陽光発電は石油消費を加速する

(続く)

No.709(2012/01/21)日本生活協同組合連合会の
非科学的エネルギー戦略の検証@


http://jccu.coop/info/suggestion_120118_01_01.pdf

 日本生活協同組合連合会が彼らのエネルギー戦略を『エネルギー政策の転換をめざして(2012年1月)』という冊子にまとめて公開しました。詳細については上のURLにアクセスするかダウンロードすることが出来ますのでご覧ください。
 ここでは、この生協のエネルギー政策を“善意のエネルギー政策”=非科学的で情緒的な判断に基づくエネルギー政策の典型例として検討することにします。もとより私は生活協同組合には何の敵意もありませんし、むしろ庶民の集合体である生協には、国家や大企業に対するカウンターとして、何とかがんばって欲しいと衷心より願っています。
 生協運動も含めていわゆる日本の市民運動は、科学性が弱いのが弱点です。市民による環境保護運動は非科学的で情緒的、それゆえ体制に騙されやすいということが歴史的に示されています。しかし、環境問題、とりわけエネルギー問題を論ずる場合、その自然科学的な分析は決定的に重要な問題です。これを怠れば政策的な意味が崩壊してしまうことを理解することが必要です。それ故、組合員に向けて発する政策には妥協の無い徹底的な科学性・論理性の追及が必要だと考えるものです。
 以上の立場から、今回発表された『エネルギー政策の転換をめざして(2012年1月)』を徹底的に検討することにします。

1.人為的なCO2濃度の上昇による地球温暖化の脅威は存在しない

 生協のエネルギー政策も含めて、現在主流の善意のエネルギー政策は、すべて「人為的CO2地球温暖化」が実在しており、それは人間社会にとって致命的な悪影響を及ぼすことを前提として組み立てられている。しかしながら、未だかつて気象現象の観測結果から、人為的なCO2の増加によって地球の気温が上昇したことを示す証拠が確認されたことはない。気候シミュレーションという壮大なコンピューターゲームの仮想現実によって洗脳されていることに気づくべきである。歴史的な事実を直視すれば、人為的CO2地球温暖化脅威説の虚構性は誰の目にも明らかであることを以下に簡単に示す。

1−1 気温変動の歴史的考察

 現在の地球は、南極と北極に恒常的に極冠(氷)が存在する氷河期の只中にある。

 上図に、顕世代(現在〜5.4億年前)の気温変動の概略を示す。右端が現在である。端的に判ることは、人為的CO2地球温暖化脅威説がいう「未だかつて経験したことの無い高温」という主張は全く現実を無視した主張であり、それどころか、大局的にはこの5.4億年で最も寒冷な時期の一つが現在だということである。

 上図は、顕世代の中の完新世(現在〜1万年前)の気温変動を示す。500万年ほど前に始まった現在の氷河期は、ある時期から約10万年の周期で比較的温暖な時期(間氷期)と寒冷な時期(氷期)を繰り返すようになった。最終の氷期(Ice Age)以降の間氷期を完新世と呼ぶ。
 現在は、15世紀から19世紀にかけて現れた小氷期という寒冷な時期からの回復期にある。古代の四大文明が栄えた完新世温暖期や、中世の文化が栄えた中世温暖期に比較して現在は明らかに低温である。人為的CO2地球温暖化脅威説が言う「未だかつて経験したことの無い高温」という主張は有史以来の人類史に限っても根拠の無い主張であることがわかる。
 四大文明や中世文明は、気候が温暖であり、可耕地が両極方向に広がり、農業生産が増加したことによって豊かな食料生産が可能であったことによって成立した。逆に寒冷な時期には食糧生産が逼迫した結果、人類の大移動・北方諸国の南下による戦争が起こり、日本でも飢饉が起こり百姓一揆が頻発した。

註)右端の赤の実線で示された気温変動は、Climategate事件で問題になったイースト・アングリア大学(University of East Anglia)の改竄データである可能性が高いので、1940年以後のデータの信頼性は低いと考えるべきである。

 上図は、紀元以後の気温変動の推定値を示している。人為的CO2地球温暖化脅威説は「近年の気温上昇速度は過去に経験したことが無い早さである」とも言う。しかし上図からわかるように、現在経験している気温の上昇速度(曲線の勾配)は、有史以降でもさほど珍しいものではないことがわかる。

 以上、歴史的な事実から、現状は人類史上で異常に高温な時期ではなく、多少気温が上昇することは好ましいことだというのが科学的な事実である。更に生態系の第一生産者である植物にとって、大気中CO2濃度が上昇することは好条件であることは、農業生産者とつながりの深い生協であれば周知の事実であろう。温暖化脅威説は誤りである。

1−2 CO2濃度上昇の主要な原因は自然現象

 上図はIPCC2007年報告に示された地表環境の炭素循環の概略である。図中に黒で示された値は産業革命以前の炭素循環であり、赤で示された値はその後の変動を示す。
 産業革命以前では地表(海洋を含む)と大気の間のCO2循環は次のとおりである。

地表→大気:1,196+706=1,902(億トン/年)
大気→地表:1,200+2+700=1,902(億トン/年)
大気中CO2量:5,970(億トン)

 つまり、大気中には炭素重量換算で5,970億トンのCO2が存在しており、毎年その中の1,902億トンが地表との間で交換されているのである。平均的に見ると、5,970(億トン)÷1,902(億トン/年)≒3.14年で大気中のCO2は入れ替わるのである。3.14年を平均滞留時間と呼び、年間のCO2交換率rは平均滞留時間の逆数として求めることが出来る。

r=1,902(億トン/年)÷5,970(億トン)≒0.319(1/年)=1/3.14(1/年)

 つまり、大気中のCO2は概ね3年程度の期間でその大部分が入れ替わっているのである。産業革命以後に人為的に放出されたCO2だけが200年間もの間、大気中に留まり続けるなどということは現象的にありえない。

 現在の地表(海洋を含む)と大気の間のCO2循環は次のとおりである。

地表→大気:1,196+706+16+200+64=2,182(億トン/年)
大気→地表:1,200+2+700+26+222=2,150(億トン/年)
大気中CO2量:5,970+1,650=7,620(億トン)

 現在は大気中CO2濃度は上昇傾向にあるため地表からの放出量のほうが吸収量よりも32(億トン/年)程度大きい値を示している。年間変化率は比較的小さいので、以下、議論を単純にするために地表からの放出量=吸収量=2,182(億トン/年)の定常状態として近似することにする。
 現在の炭素循環における平均滞留時間は7,620(億トン)÷2,182(億トン/年)≒3.49(年)である。年間のCO2交換率はr=1/3.49=0.287である。以上から、現在の地表面環境は産業革命当時よりも幾分大気中CO2の吸収能力が低下しているようである。その要因としては都市化や農地拡大、砂漠化による自然植生の破壊や気温の上昇が考えられる。
 大気中CO2の炭素重量20億トンが大気中CO2濃度1ppmに対応するとして大気中CO2濃度の概算値を求めると、次のとおりである。

産業革命前:5,970(億トン)÷20(億トン/ppm)=298.5ppm
現在   :7,620(億トン)÷20(億トン/ppm)=381.0ppm

 つまり産業革命以後の200年間で大気中CO2濃度は82.5ppm程度の上昇を示している。その内の人為的な化石燃料の燃焼による影響はどの程度であるかを推定する。
 現在の地表環境からのCO2放出量から人為的な化石燃料燃焼に伴う64億(トン/年)を減らすことにする。

地表→大気:1,196+706+16+200=2,118(億トン/年)
大気中CO2量=2,118(億トン/年)÷0.287(1/年)≒7,380(億トン)
大気中CO2濃度=7,380(億トン)÷20(億トン/ppm)=369.0ppm

 以上から、現状で人為的な化石燃料の燃焼によるCO2放出量をゼロにすることができた場合、それによって低下する大気中CO2濃度は 381.0ppm−369.0ppm=12ppm 程度である。つまり、産業革命以前から現在までの大気中CO2濃度上昇量82.5ppmの内、化石燃料の燃焼による上昇量は12ppmにすぎず、70.5ppmは自然環境の変化に起因している。

 つまり、大気中のCO2濃度の上昇による地球大気の温室効果の上昇によって近年の気温上昇が説明できるとしても、CO2濃度の上昇の主因は自然現象であり、従って人為的なCO2排出量を減らしてもその効果は無いに等しいのである。

1−3 気温上昇の結果として大気中CO2濃度が上昇する

 自然現象では、時系列的に必ず原因が先に生じ、その後に結果が現れる。逆は有り得ない。次に示す図は最近30年程度の期間における大気中のCO2濃度の1年当たりの変化量と気温(世界平均気温偏差)の1年当たりの変化量を比較したものである。

図から明らかなように、気温の変化から1年間程度の時間をおいて大気中のCO2濃度が変化している。つまり、気温と大気中CO2濃度の二者関係において、気温の変動が原因となってその結果として大気中のCO2濃度が変動することを示しているのである。CO2地球温暖化説は現実の観測事実と因果関係が逆転しており、明らかに誤りである。

 今回は人為的CO2地球温暖化脅威説について、歴史的事実あるいは観測値から検討を行った。その結果、
@気候の温暖期は人類を含む生態系の活動にとって好都合であり、
A近年観測されている大気中CO2濃度上昇の主因は自然現象であり、
B気温変動を原因とし、その結果として大気中CO2濃度が変動する
ことが示された。つまり、人為的CO2地球温暖化脅威説は全く自然科学的な根拠の無い虚像に過ぎないのである。現在行おうとしている温暖化対策としてのCO2排出量の削減は全く無意味なのである。
 この時点で既にCO2排出削減を議論する理由は消滅しているが、次回以降、エネルギー政策の内容について、CO2排出量の削減に有効であるか否かについて検討することにする。

参考:
CO2濃度の増加は自然現象 槌田敦/近藤邦明(気象学会誌「天気」投稿論文2008/04/25)
日本物理学会誌Vol.62, No.2, 2007『CO2を削減すれば温暖化は防げるのか』槌田敦
日本物理学会誌Vol.65, No.4, 2010.4『原因は気温高, CO2濃度増は結果』槌田敦

(続く)

No.708(2012/01/20)セレモニーと化した保安院安全審査

 既にご存知のとおり、1月18日に行われた経済産業省原子力安全保安院のストレステストについての専門家会議において、傍聴者を締め出し、ストレステストの結果に批判的な立場の委員2名を除いた密室において大飯原発3号機のストレステストの評価を行い再稼動は妥当であるという判断を下した。
 一説によると、この日の会議でストレステスト結果に妥当という判断を下すことは保安院の既定の方針であり、来週訪日を予定しているIAEAの監査にあわせたスケジュールであったといわれる。

 既にこのHPでは何度も主張していますが、ストレステストなどという机上のシミュレーションで原発の安全性を担保することなど出来ません。
 また、今回の原発再稼動の判断基準としてストレステストを導入したそもそもの目的は、建前ではありますが、福島第一原発の事故の教訓を生かすということであったはずです。しかし、未だに福島第一原発の事故調査はほとんど進んでいませんし、それどころか原子炉はいまだに底抜けの状態にあり、事故は全く収束しておらず、事故処理の方針すら立たない状況です。
 このような状況において、強引に形ばかりのストレステストで原発の運転を再開させようとする国や電力各社の姿勢は、福島以前と何も変わっていないことがよくわかります。
 ストレステストの審査会のメンバーには後藤氏や井野氏という、原発推進では無い誠実な委員も含まれていましたが、結局これは大衆を欺くために利用されただけであり、ストレステストは妥当であるという結論を得るための人選による出来レースだったようです。

 原発を再稼動させないためには、国民個人個人が声を上げる以外に無いことを再確認する出来事でした。


大分合同新聞2012年1月19日朝刊

No.707(2012/01/19)12.3原発フォーラムin沖縄/論文集

 昨年12月3日に開催された「原発フォーラムin沖縄」において配布された小冊子の原稿を沖縄高専の中本正一朗教授からお送りいただきましたので、抜粋して紹介いたします。

12.3原発フォーラム・シンポジウム 論文集

 

No.706(2012/01/19)愚かな東京大学の秋入学

 一体何を考えているのだろうか?
 曰く、「世界標準は秋」、「海外から優秀な学生を集めるため」。何をとぼけたことを言っているのだろう。東京大学は日本の国家予算で運営されている大学であり、第一義的に日本国民の教育にこそ最大限の注意を払うべきことは当たり前である。
 海外から安易に優秀な学生を集めるなどという発想は、どこかの新聞系プロ野球チームでもあるまいし、亡国の教育姿勢である。問題は、日本の愚かな教育行政によって、国内の初等中等教育が崩壊し、高校卒業時点での知的レベルが低下し続けていることであり、まず行うべきは国内の教育環境の抜本的な建て直しである。
 また、日本と海外の入学時期が違っていたとしても、本当に学習したい、研究を行いたい者にとってはそんな条件は取るに足らない判断材料に過ぎない。入学時期が異なっていたにも係らず、戦後日本の優秀な学生・研究者が数多く海外の大学に留学してきたことを見ればわかる。これも問題は、入学時期ではなく研究環境において日本よりも海外の方が優れていたからである。

 万が一、彼らの目論見が功を奏したらどうなるのだろうか?それもまた悲劇である。日本の社会システムの中枢を海外から流入した外国人が握り、日本国民は単純労働者として生き延びるしかなくなるということである(それとも彼らは日本を西欧諸国の属国としたいというのが本音なのであろうか?)。

 こんなことも判らぬ大馬鹿者の売国奴が東大を牛耳っているようである。

No.705(2012/01/17)寒い冬・・・

 冒頭の写真は、今朝自宅から見た西方の景色です。鶴見岳の山頂付近がこの時期に冠雪しているのは珍しいことではありません。しかし、これだけ広い範囲が雪化粧することは珍しいことです。朝日に輝く美しさに、つい写真を撮ってしまいました。

 今朝の冷え込み自体はそれほどではありませんでしたが、“体感的に”はこの冬は比較的寒い冬なのではないでしょうか。おりしも、東北から北海道では記録的な豪雪になっているようです。最近では2005〜2006年の冬にも豪雪がありましたが、それをしのぐ1970年代に記録した豪雪を超えている地域も少なくないようです。
 現在、短期的にはラニーニャが発生しており、その影響で東日本から北日本は低温傾向であるという解釈のようです。しかし、今世紀に入ってから、気温の上昇傾向は鈍化し、世界的には横ばいから低下傾向を示しているようにも見えます。

 この傾向は太陽活動の低下傾向の影響である可能性を指摘する専門家が増えています。

 上図は最近の太陽黒点数の増減を示したものです。通常太陽黒点数の増減の周期は11年程度と言われています。太陽活動が活発な時期には周期は短くなり、逆に活動が低下すると周期が長くなることが知られています。
 直近の黒点数の極小期は1996年であり、既に15年が経過したにもかかわらず、明確な黒点数の増加傾向は現れていないようです。太陽活動は非常に低い状態が継続しています。この状態が継続すると、もしかすると17世紀の小氷期に出現した無黒点期であるマウンダー極小期のような低温化が継続することになる可能性があります。
 気温低温期には凶作が続き、感染症が蔓延するなど人間社会にとって大きな影響を与えることになります。人為的CO2温暖化などという妄想とは異なり、寒冷化は歴史的に見ても確実に人間社会にとって大きな影響を与える重大事件です。今後とも注視していくことが必要です。

No.704(2012/01/16)太陽光発電モジュールの実効性能

 ネット上に面白いサイトを発見しましたので紹介しておきます。大分市の江藤産業株式会社が自社のホームページ(http://www.eto-sangyo.co.jp/solar)でメーカー各社の4kW太陽光発電システムの実績データを公開しています。
 江藤産業の担当者に伺ったところ、このデータは2011年12月8日からの運用データを公開しているものです。つまり本日現在で40日間の運用実績になります。

メーカー 形式 面積m2 発電効率% 積算発電量
kWh(kWh/m2)[kWh/(m2日)]
三菱 シリコン多結晶 29.85 13.0 467(15.64)[0.391]
東芝 シリコン単結晶 23.63 16.9 441(18.66)[0.467]
サンテック シリコン単結晶 26.80 14.9 413(15.41)[0.385]
パナソニック  シリコン単結晶
+アモルファス 
23.00 17.9 461(20.04)[0.501]
ソーラーフロンティア 化合物CIS 38.94 10.2 529(13.59)[0.340]
ホンダ 化合物CIGS 36.32 11.4 442(12.17)[0.304]
現代 シリコン単結晶 27.56 14.4 450(16.33)[0.408]
シャープ シリコン多結晶 27.70 14.3 458(16.53)[0.413]
京セラ シリコン多結晶 28.43 13.7 434(15.27)[0.382]

 4kW発電モジュールの発電効率はカタログデータだと思われます。標準条件=太陽放射強度1000W/m2を受けた場合に定格出力の発電能力を示すとした場合の発電効率のようです。
 例えば、三菱のモジュールでは、受光面積が29.85m2ですから、モジュールの受け取る太陽放射は、

1000W/m2×29.85m2=29.85kW

です。このモジュールが定格出力である4kWを発電するとした場合の発電効率は次のとおりです。

4kW÷29.85kW=13.4%

 つまり、定格出力を面積で割った値が発電効率=モジュール単位面積当たりの発電性能と等しくなっているようです。これはあくまでもカタログデータであって、あまり意味が無いようです。
 この40日間の積算発電量から、1m2のモジュールが1日に発電した平均電力量を示したのが[ ]内に示した数値です。この数値の相対的な比率が実績としてのモジュール単位面積当たりの発電性能を示しています。これはカタログ性能とはかなり食い違いがあるようです。

 このHPでは、太陽光発電モジュールの実績の目安を100kWh/(m2年)=0.274kWh/(m2日)としています。大分県の晴天率は全国有数の244.3日/年であること、全ての太陽光発電パネルが理想的な受光角度・方位で設置できないこと、季節ごとの晴天率の変動などを考慮すれば、妥当な数値ではないかと考えます。

追記:2012年1月17日におけるモジュールの瞬間最大発電能力の概数(晴天、正午前後)

メーカー 形式 面積m2 最大出力kW(kW/m2)
三菱 シリコン多結晶 29.85 3.3(0.111) 
東芝 シリコン単結晶 23.63 3.2(0.135) 
サンテック シリコン単結晶 26.80 3.2(0.119) 
パナソニック  シリコン単結晶
+アモルファス 
23.00 3.4(0.148) 
ソーラーフロンティア 化合物CIS 38.94 3.8(0.098) 
ホンダ 化合物CIGS 36.32 3.2(0.088) 
現代 シリコン単結晶 27.56 3.2(0.116) 
シャープ シリコン多結晶 27.70 3.2(0.116) 
京セラ シリコン多結晶 28.43 3.1(0.109) 
 現状では、積算発電量、瞬間最大発電能力から見て、太陽光発電モジュールの性能としてはパナソニック(シリコン単結晶+アモルファス)が高く、4kWシステムの合計発電能力としてはソーラーフロンティアが最も高いと結論できそうです。後は、経年劣化と温度特性が問題になるでしょうが、ホームページからの情報ではこれ以上の詳細な検討は難しそうです。
 このパナソニックとソーラーフロンティアの企業戦略は対照的です。パナソニックはモジュール性能を出来るだけ高くし、設置面積を小さくする戦略であり、ソーラーフロンティアはモジュール性能は低くても設置面積で合計発電能力を稼ぐ戦略です。

 1月17日は晴天でしたが、太陽光発電出力は、おそらく雲で日が翳った場合には急激に低下し、短い周期で変動を繰り返していました。とてもスタンドアローンで運用することは不可能でしょう。冷静に考えればこのような不安定な電力は、蓄電池などのバッファーを設けたり、既存の送電線網に接続して不足分を補填したりしない限り、工業化社会を支える電力供給システムとして使い物にはなりません。どう考えても、自立した有効な電力供給システムになることなどあり得ません。

No.703(2012/01/16)放射性物質の拡散と集積

 昨日のNHKスペシャル『知られざる放射能汚染』(2012年1月15日午後9:00〜)において、福島第一原発事故による海洋および湖沼、河川の放射能汚染についての報告がありました。このHPでは海洋汚染や水棲生物による放射性物質の生態濃縮について言及してきました。その意味で特に目新しい内容ではありませんでした。問題は、事故後10ヶ月が過ぎて、やっとこの程度の調査結果しかないということへの驚きです。
 確かにこの番組で放射能の実測を行った結果が公開されたことは意義のあることです。しかしあまりにもサンプリングのメッシュが粗すぎて、汚染の全貌を把握できるレベルにいたっていません。また海洋では海流による放射性物質の動的な変化、あるいは食物連鎖による濃縮・拡散が起こると考えられますから、より高い密度による継続的な調査を行うことが必要です。
 番組の中で福島第一原発から遠く離れた群馬県の赤城大沼の湖底堆積物から900Bq/kgを超える高い放射能が検出されたこと、東京湾に注ぐ河川の下流でもやはり900Bq/kgを超えていることが、『予想外の出来事』として報告されました。
 しかしこれは、山間部の狭隘な水田で収穫された福島県産米が高い放射能レベルを示したことと同じ現象、つまり放射性物質が地表水によって流され、次第に重力分布に従って山間部の湖沼のような閉鎖水域や、河川下流部という場所に集積され始めていることを事実が示しただけです。
 群馬県北部の山系には放射能レベルが30kBq/m2を超える地域が広がっていることから、赤木大沼の湖底堆積物の放射能レベルは更に高くなることが予想されます。また、関東平野を流れる集水面積の大きな河川であれば、たとえ流域の放射能レベルが高くなくても、河口付近に高い放射能が検出されるのは当然の結果であろうと考えられます。このような現象は関東以北で今後とも数多く発生すると考えられます。
 この事実から、海洋ばかりでなく、地上環境においても放射性物質は動的に分布を変化させていることを示しており、地上においても緻密で継続的な放射能測定が必要であることを示唆しています。

 さて、もう一つ気になる報道がありました。福島県二本松市に昨年7月に完成したマンション建設に用いられたコンクリート用の骨材が放射性物質に汚染されていた結果、完成したマンションの1階部分で高い空間放射線量率が測定されたということです。この建物の建設に用いられたコンクリート骨材は浪江町の計画的避難区域内の採石場で福島原発事故以前に採取したもので、その後放射性物質に汚染したと考えられます。
 この事実は「1階に住む女子中学生が個人線量計で測定した累積被ばく線量が高いことが12月に判明。調査したところ、放射線量は屋外では毎時0・7〜1・0マイクロシーベルトのところ、1階は0・90〜1・24マイクロシーベルト、2〜3階は0・10〜0・38マイクロシーベルトだった。(毎日新聞電子版)」ということです。
 つまりこのケースも福島米や粉ミルク事件と同様に、民間の個人の申告によって初めて明らかになったのです。現在の杜撰な放射性物質の監視体制では、今後とも予想もしない放射性物質の拡散と集積が起こる可能性が高いと考えられます。

 放射性物質に高い濃度で汚染されている地域内で経済活動を行うことは、不可避的に放射性物質の拡散を引き起こします。汚染地域内での安易な経済活動の再開は慎むべきだと考えます。

1月17日追記:
 1月17日大分合同新聞朝刊に掲載された事件の続報を示します。記事によると、またしても国の対応の遅れがあったようです。いつまでたってもこの国の役所は反省しないようです。
 また、放射性物質に汚染された砕石は、マンションだけでなく多くの場所で使用されたようです。おそらくこうした事件は氷山の一角であり、行政の杜撰な監視体制の間隙を縫って、類似の案件は他にも数多く存在すると考えられます。汚染地域の産業活動を規制しない限り、放射性物質の流出と拡散は今後も続くことになるでしょう。

 

No.702(2012/01/12)大熊町町長選挙事情

 年明け以降、報道から福島第一原発事故関連の内容が激減しています。政府の報道に対する圧力がこれまで以上に強まったのか、全く役に立たない報道機関ばかりの情け無い状況です。
 そのような中で、本HPのリンクサイトである『阿武隈裏日記』のたくきさんや『雑草の言葉』の雑草Zさんの現地からのレポートは貴重な情報源です。

 今回は、雑草Zさんのレポートで、昨年行われた福島県の大熊町の町長選挙について報告します。レポートにあるように、一旦原発の補助金漬けにされてしまった町では、原発事故でもっとも甚大な被害を受けながらも原発推進から容易には抜け出せないという、誠に悲しい現実があります。しかし、どうか勇気を出して子供達のために原子力発電との訣別を選択して欲しいと、切に願います。


大熊町町長選挙事情
2012-01-11 00:01

 去る2011年11月20日に大熊町町長選挙が行われました。大熊町は事故が起きた福島第一原発の1号機から4号機の立地町で、全域が警戒区域に指定されています。
 町長に立候補したのは2人。新人の木幡仁氏が町ごとの移転を主張し、現職で再選を目指した渡辺利綱氏が、町への帰還を訴えて対立。除染を進めて地元の復興を目指した渡辺氏が中高年層を中心に支持者を集めて3451票で当選。町議を途中で辞職して立候補した木幡氏は、明確なヴィジョンを提示して浸透させることが出来ず2343票で、落選。・・・のようなマスコミの報道でした。しかし実際はもっと別の根本的な対立要因があったようです。。

 木幡氏の提示する基本政策を見てみますと
 先ず、最初に確かに
1.放射能汚染の厳しい現実を直視し、「地元には帰れない」と言う事を前提とした新たな取り組みを行います。
とありますから、この点を際立った1つの対立ポイントと考えるのはわかります。そして、放射性物質の基本性質や汚染の現状を考えれば木幡氏の主張こそ至極まともな主張でしょう。いくら数兆円をかけて除染したところで、数年で戻れる筈がありません。それに、時間のみの関数で、化学処理などで放射能を無くす事の出来ない放射性物質の『除染』の実体は『移染』です。既に放射性物質でかなり酷く汚染されてしまった原発立地から、汚染の低い他の地域に放射性物質を移動して汚染する事は愚かなことです。

 次に木幡氏の基本政策案には
2.町として町民の東電賠償請求を支援します。
とあります。これはどちらの候補者も示している政策で、一見対立点はないと考えられるでしょう。しかし、この内容をもう少し詳しく見ると木幡氏は、
・役場に弁護士を常駐とし、賠償請求のモデルプランを作成、請求をスムーズに行えるようにします。
大熊町役場に常駐入居している東電職員を撤退させます。
とあります。これには驚きです。現在会津若松市にある大熊町役場の仮庁舎には東電の職員が3人も入居して常駐しているというのです。それは現職渡辺利綱町長の方針で、東電の職員が常駐してすぐに対応出来るように・・との説明のようです。町役場に東電の職員を時々呼ぶのなら理解できますが、常駐している事はかなり異様な事でしょう。損害賠償の請求相手が役場に常駐しているのです。町役場が東電と癒着して、損害賠償を東電に有利に進め、損害賠償請求裁判の阻止の為と言われても仕方ないでしょう。
 原子力マネーで潤ってきた大熊町は、この期に及んでも、東電の影響下に留まりたいのでしょうか?東電をいまだに恐れているのでしょうか?まともに考えたら木幡氏の主張通り、東電職員は撤退させて、その代わりに弁護士を常駐させ、損害賠償のモデルプランを作成してもうほうが、被災した町民にとって遥かに便利で有利でしょう。これまでも仮設庁舎に常駐している東電職員を撤退させるよう、木幡氏や他の住民も何度か申し入れして来たようですが、無視されてきたのです。マスコミもこの異様な事態をしっかり報道するべきではないでしょうか?福島県のマスコミも、いまだに東電の顔色を窺っているように感じます。

 木幡氏の最後の主張は
5.原発をなくす。
です。そう、もうお分かりの通り、今回の選挙は、原発推進派で東電と仲の良かった現職と、脱原発、脱東電を主張した木幡氏の闘いであったのです。

 そして、3.11以降の今回の選挙でさえも、大方の予測通り、推進派の渡辺利綱氏が勝ちました。残念ながら、大熊町にはまだまだ東電に感電している大人が多いという事でしょう。若しくは、この期に及んでさえ、東電に反旗を翻せない雰囲気があるようです。・・これが原発立地の現実です。
 ただ、これまでの選挙と比べると、有効投票のほぼ4割の票を獲得した脱原発派の木幡氏は、かなり善戦したと言えましょう。しっかり、彼の主張が届けば、今回の選挙に勝つ事も可能だったと考えられます。

 今回の選挙の投票日の前日あたりには、地元の新聞やテレビなどのマスコミは、除染が成果を上げているような論調で、他の情報が入らない人々には、翌年あたりにでも町に帰れるような錯覚を起こすような報道振りでした。意図したかどうかは分かりませんが、実質、現職を援護射撃した形です。(・・政府や東電の言う事を信じて、そんな報道をするマスコミも低レベルです。・・)
 投票日前には、東電や関連会社が仮設住宅などに出向いて、住民に対する暗黙の「引き締め」もあったようです。
 大熊町には東電関係の会社に勤めている人間が6、7割いるとの事です。東電職員が3人も常駐している町役場でまともに損害賠償の話ができる筈がありません。そればかりか、避難民は保証金もまだろくに渡されず、苦しい生活を強いられています。今、東電やその関連会社をクビになったら生活していけないという不安も大きいでしょう。東電の職員が役場に常駐している現状を見て、これからも東電は存続し、東電関連企業でずっと働き続ける事を期待してしまうかも知れません。

 この期に及んでも原発立地の住民に限ってこそ原発賛成派が多いという現実があるようです。事故前と同様、福島県の市町村の中で、原発推進派がダントツに多いのは、原発立地の大熊町や双葉町(福島第一原発)富岡町、楢葉町(福島第2原発)のようです。(・・・現在、福島県内で原発立地以外での原発賛成派はほとんどいないでしょう。それは、福島県に限った事ではなく、日本全国の傾向ではないでしょうか?)
 今回の選挙で現職が勝った要因は、勿論、年配の(特に男)住民が、地元を除染して、また地元に住みたい・・・と言う希望も大きかったと思いますが、それ以外に、まだまだ東電の力が地元に及んでいたという現実もあったからのように感じました。
 もう何度潰れても然るべきであり、償いきれない大きな罪を犯してしまった東電が、生き残りをかけて、いまだに大熊町や富岡町などの原発立地の大きな被害者を支配しようと考えていたのです。許されざることではありませんし、地元の住民ももっと怒るべきでしょう。
 東電を潰して国有化して事故処理を行い、東電の影響を取り払わなければ、まともな選挙も期待出来ないようです。残念ながら今回の選挙でも、東電の感電から解放されていない大熊町の有権者が多数派だったと言う事になりましょうか。

※注「感電」
・・・電力会社に原発マネーで取り込まれて仕舞うという意味で使っています。


 

No.701(2012/01/03)現状報告2012/槌田敦

 槌田さんから近況報告を受け取りましたので、紹介します。東大裁判はやっと明日香壽川の出廷になるようです。

No.700(2012/01/02)寒中見舞い2012

 私は年賀状を出さないことにしていますが、年賀状をいただいた方には寒中見舞いを出すことにしています。今年の寒中見舞いを掲載することで、年頭のあいさつといたします。今年もよろしくお付き合いください。


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