Global distribution of
annual mean total ozone
averaged for the period 1997–2006.
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ひところ、オゾンホールの拡大によって、地表面に降り注ぐ紫外線量が増えて人間を含む地表の生態系に大きな影響をあたえるのではないかというオゾンホール脅威論が蔓延したことがありました。しかし、この話題は既に過去のものとなり、昨今では既にオゾンホールは縮小局面に入ったのではないかと言われています。
しかし、義務教育や高校の理科・社会科の教科書では、未だにオゾンホールの脅威を煽り、『オーストラリアではオゾンホールの拡大に伴って紫外線量が増え、その結果として白内障や皮膚がんの増加が懸念されるから、子どもたちはサングラスなどを着用して防御している』という事実とは全く異なる非科学的な説明がまことしやかに書かれています。
オゾンホールの観測結果の実証的データからオゾンホールの特徴あるいは人間社会の受ける影響について「事実」だけをまとめておくことにします。
1)オゾンホールは春先の極地方、特に南極における局地的な現象
オゾンO3は大気中の酸素に紫外線が作用することによって合成されます。極地方の冬から春にかけての期間は、太陽放射が大気に水平に近い方向から入射するので、波長の短い紫外線は強く散乱され、極上空まで殆ど到達しません。この時期、極地方ではオゾンは殆ど生産されない為、オゾン量は必然的に低いレベルになります。特に南極では特徴的な気象条件(詳細は槌田レポート参照)によってこの傾向が顕著に現れ、春先(10月頃)にオゾンホールとして観測されます。
2)オゾンホールは拡大しておらず、フロンが原因でもない
オゾンホールの観測の歴史は浅く、どういう変動特性を示すのか、あるいは一定の傾向があるかどうかさえも明確ではありません。オゾンホール拡大フロン原因説では、フロンの使用でオゾンホールが拡大傾向を示すとしていますが、これは机上の空論に過ぎません。
上図は、220DU(ドブソンユニット*)未満の領域をオゾンホールと定義した場合の面積の経年変化を示しています。オゾンホールの面積は単調に増加しているわけではなく、かなり急激な増減を伴った変動を示していることがわかります。2002年には急激なオゾンホール面積の減少が観測されました。
*註)オゾンはオゾン層を中心に大気のあらゆる高度に存在しているが、観測地点上空の大気の上端から下端までの全層に存在するオゾンを集めて0℃、1気圧の状態にしたときの厚さによってオゾンの全量を表す。cm で表した数値を1000 倍してm atm-cm(ミリアトムセンチメートル)の単位で表示する。日本付近では通常、250 〜 450m atm-cm 程度の値となる。ドブソンユニット(DU) と表すこともある。
下図は、南極のオゾンホールが最大となる10月の衛星観測の結果を示したものです。観測によると、2002年のオゾンホールは、観測史上1991年以降で最小になりました。2001年、2003年に比較するとその大きさの違いが顕著です。図から、225DU未満の面積は南極大陸の1/3程度にまで縮小していることがわかります。
このように激しい変動、しかも拡大したり縮小したりするオゾンホールの『拡大』の原因が大気中フロンの増加によるというのは全く現実を無視しています。仮にフロンによってオゾン層の破壊があったとしても、このような激しい変動を見せるオゾンホールの観測結果から、フロンの影響だけを他のノイズから分離して観測することは不可能です。オゾンホールの拡大・縮小の主要な原因は春先の極上空の気象条件であるとされています。
3)オゾンホールの拡大による皮膚がんの増加はない
オゾンホールの最大の問題は、紫外線量の増加による皮膚がんの増加だと言われています。
しかし既に述べた通り、オゾンホールは殆ど紫外線の存在しない南極地方の春先の一時期にだけ観測される現象です。オゾンホールを通過して地表に到達する紫外線量は全く問題にならないレベルです。しかも南極地方に居るのは各国の観測隊員程度であり、人口密度は極めて希薄であり、社会的に皮膚がんの増加が問題になることはありません。
春先の南極(高緯度地方)のオゾン量の減少で、夏場の中・低緯度地方の皮膚がんの増加を心配する必要はありません。皮膚がんの増加に対する心配は杞憂です。
※オゾンホールのデータはこちらをご覧下さい。http://ozonewatch.gsfc.nasa.gov/
フロンは魔女ではない 名城大学 槌田 敦 (物理学会、環境物理、2005.9.22)
環境問題についての高校教科書の記述を科学する