No.750(2012/05/05)福島第一原発事故告発に対する東京地検のサボタージュ

 東京電力福島第一原発事故が発生してから1年以上が経過します。これだけの大規模かつ重大な事故に対して、未だに日本の検察組織は何の捜査も行わないという異常事態が続いています。
 この事態に対して、槌田敦氏はこのコーナーNo.674(2011/10/09)犯罪者東京電力の罪状で紹介したように、東京電力の未必の故意ないし重過失による事故であることを詳細に分析しています。これを下に、槌田氏は東京地検に対して2012年3月7日に東京電力を告発しました。
 これに対して東京地検は、告発状の内容では東電の罪状を確定できないとして告発状を返却しました。なんという馬鹿げた話でしょうか。東電福島第一原発事故の詳細については国家と東電がグルになって未だに情報を開示しないため、強制捜査権のない民間人にとってはマスコミに公開されている限られた情報で分析するしかありません。真相を明らかにすることが出来るのは検察による強制捜査なのであって、本末転倒しています。この対応は明らかなサボタージュにほかなりません。
 東電福島第一原発事故について東電、行政、検察・司法が談合して国民の権利を徹底的に蹂躙していることがますます明らかになって来ました。

告発状(1)槌田敦 2012年3月7日
告訴状(1)に対する東京地検の返書
告発状(2)槌田敦 2012年4月28日

No.749(2012/05/01)米国無人機によるパキスタン爆撃

 このコーナーのNo.738やNo.741において、日本や米国の安全保障問題に対するダブルスタンダードの問題に触れてきました。米国や日本は、北朝鮮については衛星打ち上げ実験を軍事技術開発だとして過度の軍事的な対応を行うとともに国連の場などを通じて批判を繰り返しました。ところがその直後に行われたインドの弾道ミサイル発射実験に対しては何の批判も行いませんでした。
 そして、当の米国はインドの隣国パキスタンに対してテロリストの掃討という名目でパキスタンの主権を侵し、無人機による空爆を繰り返し、11回の攻撃で少なくとも多くの非戦闘員を含む83人ものパキスタン人を一方的に殺害しているのです。
 機械によって人を殺害するなどというグロテスクな科学技術の高度化は許してはならないと考えます。機械によって人を殺害することは必要だと開き直る米国の醜悪さには反吐が出ます。
 北朝鮮の無謀な冒険主義的な軍事行動に対しては勿論自制を促すべきです。しかし、その前提として圧倒的な武力を有する米国自身が軍事行動を自制し、段階的な武装解除の方向性を見せない限り、この泥沼の軍事技術開発競争は金輪際なくなりはしないでしょう。
 本来ならば、平和憲法を持つ日本が率先して世界的な武装解除の先頭に立つべきですが、現実にはこれまで禁止されていた武器輸出を解禁するなど、この国の軍事国家化は加速しているようです。人間というものはなんと愚かなのでしょうか。

 米軍無人機によるパキスタン空爆の記事をサーチナの記事で紹介します。



searchina 米無人機がパキスタンの女子高にミサイル2発を発射 3人死亡

 パキスタンメディアの29日の報道によれば、米軍の無人機が当日午後、パキスタン北西部の北ワジリスタン地区にあるミランシャーを空襲し、少なくとも3人のパキスタン人が死亡し、2人が負傷した。中国国際放送局が報じた。

 報道によれば、空襲は北ワジリスタン地区のミランシャーで行われ、米軍が地元政府の運営する女子高校にミサイル2発を発射した。目撃者は当時、4機の米軍無人機がこの地区の上空を旋回していたと語った。

 今回の空襲は2012年に米軍がパキスタンで行った11回目のもので、米軍無人機の空襲によって、これまで少なくとも83人のパキスタン人が死亡した。(編集担当:村山健二)


 

No.748(2012/04/30)NHKお馬鹿番組の記録O

●2012年4月30日(月)8:20〜9:03
●NHK総合「キミたちの未来 僕たちの選択 〜時任三郎 世界エネルギーの旅」
●出演 時任三郎

 子供向けのエネルギー問題に関する番組のようでした。この番組で、NHKの立ち位置が微妙に変化しつつあることを感じました。かつては財団法人原子力文化振興財団に現職の局長クラスを役員として派遣していたNHKですが、福島第一原発事故の後の世論の動向を見て原子力にはどちらかと言うと反対の立場にシフトしたようです。そして再生可能エネルギー導入には積極的に加担することを決めたようです。
 それはさておき、判断力の未熟な子どもに対して、非科学的な再生可能エネルギーの一面的な情報だけを刷り込む洗脳放送です。非常に悪質な番組です。


No.747(2012/04/30)太陽電池パネルの耐久性

 自然エネルギー発電のうち風力発電については目立つこともあり事故は隠しようがなく、破損事故や火災事故が発生することがよく知られていますが、太陽光発電については圧倒的に個人所有の小規模な物が多いために、これまでその故障についての情報はあまりなく、このホームページにおける試算においても維持管理費用=ランニングコストは無視してきました。
 先日、NHKのニュース番組で太陽電池パネルの破損事故に関する話題が取り上げられていました。ネット上でその記事を発見しましたので紹介しておきます。
 記事によりますと、全国で調査した住宅に設置された太陽電池483台のうち、およそ2割の97台が10年以内に発電量が減って電池パネルを交換していたと言います。つまり、太陽光発電の標準的な耐用期間を20年だとすると、おそらくこの2倍以上、太陽光発電を設置した住宅の半数程度が耐用期間中に発電能力の大幅な低下を伴う事故ないし故障によって太陽電池パネルの一部を交換することになることが予測されます。
 現在、太陽光発電パネルの出力1kWh当たりの初期費用はNo.720『太陽光発電を推進する方からのメール』で紹介したように70万円程度です。しかしながら、これだけ高い割合で発電能力に大きなダメージを与える修理を要する故障が発生することになると、太陽光発電についても何らかの維持管理費を考慮するか、あるいは事故を見込んで初期費用を割増して考えることが必要なようです。これによって、太陽光発電のエネルギー産出比は更に低下することは避けられません
 近年、太陽電池パネルの価格低下の要因として、物理的にシリコンウエハーの厚さを極限まで薄くすること等による材料費用の削減がありますが、これは同時に物理化学的な耐久性の低下に直結することになりますから、果たして実質的にエネルギー産出費の改善に結びついているかどうか、疑問の残るところです。
 再生可能エネルギー特措法による個人住宅用の太陽光発電で供給される電力の買取価格は42円/kWhで10年間ということになりそうですが、これではおそらく太陽光発電に投資した費用は回収されることはありません。更に修理や太陽電池パネルの交換費用、家庭用蓄電装置まで導入すればとんでもない大赤字になることは必至です。もし太陽光発電パネルの導入を考えている方がいらっしゃいましたら、ぜひ冷静に考えていただきたいと思います。
 以下、NHKの記事をそのまま転載しておきます。


WEB特集 太陽光発電に思わぬ落とし穴
(4月24日 19時15分 黒瀬総一郎記者)

太陽光発電というと、一度屋根に取り付ければ半永久的に発電を続けてくれる、そんなイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。
東京電力福島第一原発の事故以降、再生可能エネルギーとして太陽光発電を導入する動きが家庭や企業で広がっています。
岡山県は年間の晴天率が高く、国などの研究所による太陽電池の性能実験が行われています。
その取材をしているなかで、太陽電池の耐久性やメンテナンスに思わぬ課題があることが分かりました。
岡山放送局の黒瀬総一郎記者が解説します。

メンテナンスフリーと聞いたのに…

岡山県倉敷市に住む兼安靖さんは環境や家計のことを考え、12年前、自宅に36枚の太陽電池を設置しました。
購入当時は業者からメンテナンスの必要はないと聞いて、10年間はそのまま使えると考えていました。
しかし、6年目に発電量に気になる変化が現れました。
兼安さんは導入してから毎日欠かさず発電量を記録したのですが、その記録から発電量が急激に低下したことに気付いたのです。
結局兼安さんは、設置した36枚の太陽電池パネルのうち15枚のパネルを交換することになりました。

兼安さんは「販売店の営業担当者は、売る際にメンテナンスは必要だときちんと説明するべきだ。それをメンテナンスはいらないといって売るのは言語道断だ」と憤りを隠せません。

実は多かった太陽電池のトラブル

取材を進めると、設置した太陽電池パネルが数年で壊れるケースが全国的に起きていることが分かってきました。
産業技術総合研究所の加藤和彦主任研究員などが全国で調査した結果、住宅に設置された太陽電池483台のうち、およそ2割の97台が10年以内に発電量が減って電池パネルを交換していました。
加藤研究員は、数年で太陽電池が壊れる背景には、▽耐久性の評価基準が十分ではないこと、▽定期点検も義務づけられていないこと、などがあるのではないかと指摘しています。

どんな故障が起きるのか?徹底検証

太陽電池で実際にはどのような問題が起きているのかを探るため、加藤研究員は、今月から研究所で使っている5600枚の太陽電池パネルの調査を始めました。
発電中の電池パネルの表面を赤外線カメラで写すと、全体が赤く映し出されるなか、色が白くなっている部分が見つかりました。
異常な発熱が見られる部分です。
原因は、電池の回路が切れて発電効率が下がっていることが考えられます。

電池パネルのトラブルは、こうした故障が最も多いそうです。
電池パネルを実験室に運び込んでさらに詳しく調べると、電流が集中しすぎて発熱するのを防ぐ安全回路が壊れていたことが分かりました。
加藤研究員は「住宅では、電池パネルが設置される屋根とパネルの間に枯れ葉がたまってることも多く、発熱によって最悪の場合、火事につながりかねない」と危惧しています。

故障をいち早く見つけるには

こうした回路の故障をどうすればいち早く見つけることができるのか。
外見ではなかなか分からない太陽電池の故障を簡単に見つけ出す方法は、まだ十分に確立されていないのが現状です。
加藤研究員が開発したのが、電気信号を太陽電池の回路に流して断線している場所を見つけ出す装置です。
信号の受信機を電池パネルの表面に当てて徐々にずらしていきます。
電流が流れている場所では信号を受信して音が鳴りますが、急に音が鳴らなくなる場所があり、そこで回路が断線しているとみられます。

装置の値段はおよそ10万円と比較的、ほかの調査機器よりも安く、メンテナンス業者などへの普及が期待できるとしています。
加藤研究員は「太陽電池は、一度付けて運転を始めてしまうと、屋根の上で故障が起きているのかどうか分かりにくい。業界としても正しい保守点検方法を作っていきたい」と話しています。

導入する際の注意点は?

加藤研究員は太陽電池を自宅などに導入する場合、メンテナンスの業者から購入することを勧めています。
また導入後も日々、発電量を記録して異変に気付けるようにすることがユーザーのとれる自衛策だと話しています。

この夏の電力需給を検証する政府の第三者委員会は、この夏に節電が行われたとしても、猛暑になれば西日本全体で3%余りの電力が不足するなどとした電力会社による最新の見通しを23日に示しました。
政府が代替エネルギーの柱とする太陽光発電の普及を本格的に進めて行くには、保守点検の技術を確立して信頼性を高めることが何より求められています。


 

No.746(2012/04/27)再生可能エネルギーの隠された費用

 再生可能エネルギー特措法の施行が近づき、買取価格が固まったようである。新聞記事を紹介する。


大分合同新聞4月26日朝刊

 現在の家庭用電力の販売価格は20円/kWh前後でしょう。火力発電電力の発電原価は10円/kWh程度です。今回提案されている再生可能エネルギー発電電力の買取価格は軒並み電力販売価格を大きく上回るものです。
 枝野経産大臣は、『脱原発を進めるためには再生可能エネルギー導入のための費用を負担してほしい』と述べていますが、これは嘘っぱちです。原子力発電停止による欠損を火力発電でカバーすれば、電力価格は安くなることはあっても高くなることはありえません。枝野の発言は原子力発電の停止=再生可能エネルギー導入というすり替えにほかなりません。
 この電力買取価格は、いうなれば表の費用の増加分です。しかし実際に再生可能エネルギー発電を大規模に導入することになれば、その他にも莫大な付帯設備が必要になります。不安定電力調整用の発電設備、蓄電装置、スマートグリッド…。
 その一つが、このHPでは既に何度も繰り返し述べてきましたが、新聞記事にある長大な送電線網の建設です。再生可能エネルギーについて、これまでマスコミの諸君はエネルギーの地産地消、分散型のエネルギーだと持ち上げてきたわけですが、これは全くの嘘っぱちだったのです。今頃になって『実は…』などという、正に後出しじゃんけんです(笑)。
 新聞記事の値がどういう背景で計算されたものかわかりませんが、再生可能エネルギー発電電力買取価格の電力販売価格への上乗せ分が350円、おそらくkWh当たり1円程度なのに対して、送電線網の建設費用による上乗せ分が10円/kWh程度になるということは、高価な再生可能エネルギー発電装置価格そのものよりも、この不安定電力を利用するために必要な付帯設備費用のほうがはるかに大きな費用を要するということです。この『再生可能エネルギー発電装置+電力安定化のための付帯設備』=再生可能エネルギー発電システムで従来の火力発電システムを置き換えることによって、電力価格は爆発的に上昇し、日本の国内産業を破壊することはほとんど自明といってよいでしょう。再生可能エネルギー発電電力の固定価格買取制度の導入で経済的な破綻に向かいつつある西欧諸国に学ばないこの国は、近い将来同じ轍を踏むことになりそうです。

No.745(2012/04/27)行き場のないプルトニウムの憂鬱

 既にこのHPでは、『プルサーマル、もう一つの意味 』などにおいて、日本の核開発の中心的な課題である高速増殖炉核燃料サイクルの破綻と、行き場を失った再処理プルトニウムの捨場として軽水炉で定格外のMOX燃料を利用するプルサーマル発電の意味について考察しています。
 軽水炉ウラン燃料価格は2億円/t程度なのに対して、このウラン燃料を軽水炉で燃やした後の使用済み核燃料から再処理によってプルトニウムを取り出して軽水炉用MOX燃料を作る軽水炉核燃料サイクルの場合、MOX燃料価格は25.5億円/t程度になると言われています。再処理および軽水炉核燃料サイクルは経済的にもエネルギー収支からも割の合わないことは明らかなのです。新聞記事を紹介します。

 記事にある通り、日本は既に大量の再処理プルトニウムを持っていますが、本来の目的であった高速増殖炉核燃料サイクルは、原型炉「もんじゅ」の破綻によって事実上実現不可能になりました。更に、福島原発事故で軽水炉の通常運転も見合わされている状況です。ましてプルサーマル方式で軽水炉が再稼働する可能性は更に小さいというのが現実です。
 使用済み核燃料処理は、再処理を行わずにそのまま廃棄処分にすることが最も経済的であるということを事業者自身も認めざるをえないことを見れば、使用済み核燃料再処理事業から撤退することこそ最良の選択であることは最早検討の余地はありません。
 ただ、行き場を失ったプルトニウム239の放射能の半減期は2万年以上、これを安全に処分することは技術的にも経済的にも重い、憂鬱な課題です。

No.744(2012/04/26)東大IR3S名誉毀損訴訟証人尋問調書の公開について

 前回お知らせした通り、東大IR3S裁判の2月14日の第10回口頭弁論において行われた証人尋問の調書を槌田敦氏より提供いただきましたので公開します。
 尋問は、まず裁判長による槌田敦氏に対する尋問が行われ、その後、被告側証人明日香壽川への尋問が行われました。
 明日香への証人尋問の要点は、明日香の私的グループの論文集が東大IR3S/TIGS叢書『地球温暖化懐疑論批判』として発行されるに至る経緯とその狙いについて明らかにすることと、その中で名指しで取り上げられている主張に対して、彼らがその特徴として挙げる次の9項目

◎既存の知見や観測データを誤解あるいは曲解している
◎すでに十分に考慮されている事項を、考慮していないと批判する
◎多数の事例・根拠に基づいた議論に対して、少数の事例・根拠をもって否定する
◎定量的評価が進んできている事項に対して、定性的にとどまる言説を持ち出し
て否定する(定性的要因の指摘自体はよいことではあるものの、その意義づけ
に無理がある)
◎不確かさを含めた科学的理解が進んでいるにも関わらず、不確かさを強調する
◎既存の知見を一方的に疑いながら、自分の立論の根拠に関しては同様な疑いを
向けない 2)
◎問題となる現象の時間的および空間的なスケールを取り違えている
◎温暖化対策に関する取り決めの内容などを理解していない
◎三段論法の間違いなどロジックとして誤謬がある

の特徴が、具体的に何を指すのかを明らかにすることでした。

 詳細は調書をご覧頂きたいのですが、私の感想としては、明日香の陳述は非論理的で何を言っているのか頓珍漢な受け答えで、自らの行為すらよくわからないなどという、ふざけた内容です。結局彼の証言は思い込みと推測ばかりで、何ら具体的な証言にはなっていなかったようです。

 それでも分かったことは、当時の東大総長小宮山宏の指示を受けた東大教授住明正が明日香壽川の私的論文集を東大IR3Sからの書物として発行することを打診して、明日香が受諾したということのようです。東大IR3S/TIGS叢書『地球温暖化懐疑論批判』は、IR3S統括ディレクターという肩書きで住明正が巻頭言「IR3S/TIGS叢書の創刊にあたって」を書いたのみで、その他の内容は明日香ないし彼の私的グループによって作られたということです。
 明日香らが特徴として貼り付けた9項目の特徴については、ついに具体的な指摘は何一つなく、彼らの主張は事実無根の悪質な誹謗・中傷だということがわかりました。中でも、『三段論法の誤り』については全く事実無根であり、それ以前に明日香は三段論法とは何かがわかっていない様子であり、後日三段論法についての陳述書を提出することになりました。その陳述書がNo.732「東北大学教授明日香壽川の驚きの三段論法」で取り上げた、これまた意味不明の陳述書の内容となったわけです。この内容について、槌田氏は原告陳述書(5)「明日香陳述書に対する反論」によって反論していますので、御覧下さい。

 さて、前回お伝えした通り、裁判はこの名誉毀損事件の主犯である小宮山宏と住明正、あるいは現東大総長濱田に対する尋問を行わないままに結審となります。この東京地裁の判断は何を意味するのか?
 これまでの裁判の流れからは、名誉毀損の事実は明らかです。また明日香壽川は実行犯ではありますが、単なる小宮山の駒にすぎないことも明らかです。東京地裁としては、主犯小宮山・住・濱田および東大の罪は不問にした上で、明日香を見殺しにするのか、あるいは全面的に無罪にしようと考えているのか…。

2012年2月14日証人尋問 槌田証言
2012年2月14日証人尋問 明日香証言

No.743(2012/04/21)東大IR3S名誉毀損訴訟次回6月12日最終弁論で結審

 東京大学IR3S『地球温暖化懐疑論批判』(以下冊子と呼ぶ)による名誉毀損訴訟の東京地方裁判所における1審が最終段階に入りました。既に報告した明日香壽川の被告証人尋問を見ても明らかなように、冊子によって槌田氏や私達に貼り付けられたレッテルは根も葉もないものであったことは明白です。槌田氏は更に冊子発行の経緯を明らかにするため、元東大総長小宮山宏、東大教授住明正、東大総長濱田純一らに対する被告人証人尋問を要求しましたが、東京地裁はこれを認めず、次回口頭弁論で結審することになりました。
 勝訴することは、かなり難しいかもしれませんが、裁判記録という公文書にその経緯が記録されたことに大きな意義があると思います。明日香被告の証言記録は近いうちに全文公開できると思いますので、ご期待ください。

東京大学による名誉毀損事件の報告
槌田敦(2012年4月)

原告陳述書(5) 明日香被告陳述書(乙19)への反論
槌田敦(2012年4月3日)

No.742(2012/04/21)福島第一原発2号機の現状

 福島第一原発の原子炉からは、相変わらず高濃度の放射能を含む冷却水の漏洩が続いているものと思われます。このHPでは、昨年の5月22日の記事『原子炉の冷却と放射性物質の拡散』などにおいて原子炉の破損状況が確認できないことから考えて、原子炉の損傷箇所を特定して修復するのではなく、原子炉建屋を含む放射能による高汚染地域を囲い込むような面的なバリアーを構築することを提案してきました。国や東電は冷却水の漏洩についてはいまだ何の手も打たぬという理解に苦しむ対応をしています。
 さて、福島第一原発2号機について、冷却水の漏洩箇所を確認するための作業が行われたという新聞記事を紹介します。

今回の調査では、2号機の格納容器につながるドーナツ状の圧力抑制プールについてロボットを使って漏洩箇所を探したようですが、確認できなかったようです。地下室の放射線量率は最高で120mSv/hというとんでもない数値を示していますから、たとえ漏洩箇所が確認できても修理作業を行うことは事実上不可能であろうと考えられます。
 東電は福島第一原発1〜4号機の廃炉を決定したのですから、損傷箇所を修復するという方法にこだわらず、実現可能な方法で冷却水の周辺環境への漏洩を食い止める方法を検討し可及的速やかに工事にかかるべきでしょう。

No.741(2012/04/19)インドの弾道ミサイル発射実験

 先週末に、北朝鮮で衛星打ち上げ実験が実施されましたが、これについては日・米・韓の3国は、とりわけ我が日本はミサイル攻撃を受けるような過剰反応を示し、国連でも非難の決議が行われました。
 今週はインドが射程距離5000kmのICBM級の弾道ミサイルの発射実験を行い、成功したと発表しました。これを報道した日経新聞の記事を紹介します。


インド、弾道ミサイル実験に「成功」 中国全土射程に        2012/4/19 13:19

【ニューデリー=岩城聡】インドは19日、核弾頭が搭載可能で中国全土を射程に収める弾道ミサイル、アグニ5(射程5千キロ以上)の発射実験を東部オディシャ(オリッサ)州沖の島で行った。地元メディアは成功したと伝えている。領土問題を抱える隣国中国やパキスタンを刺激しそうだ。

 インドは対中国やパキスタンとの軍事バランスを取るため武器の近代化を推進している。アグニ5は、対中軍事抑止力の強化や「ミサイル大国」への仲間入りを果たすために重要な役割を持つとして国家を挙げて開発を進めてきた。

 インドとしては、射程が5500キロ以上と定義される大陸間弾道ミサイル(ICBM)に匹敵する長距離ミサイルを獲得したことになる。

 インドは1974年に初の核実験を行った後、83年から国産弾道ミサイルの開発に着手。昨年11月には、中距離ミサイルのアグニ4(射程3000キロ)の発射実験を成功させた。報道によると、今後1年間にアグニ5の実験を繰り返し、2014〜15年の配備を目指すという。


 このインドの実験は北朝鮮の場合とは異なり、堂々と弾道ミサイルの発射実験として兵器開発を行うことを表明した上で実施されたわけですが、日本の報道は事実を報道するのみで、何のコメントも行なっていません。勿論米国が批判することもないし、国連で非難決議が出されることもないでしょう。

 このダブルスタンダードの意味、そしてマスコミの報道姿勢をよく考えなくてはなりません。

No.740(2012/04/13)なりふり構わぬ原発再開への策謀

 この所の民主党野田政権の原発再開に向けてのなりふり構わぬ強引な対応にはあきれ果てています。わずか数日で新たな安全基準をまとめ、原子力発電所の安全対策の実施計画があれば実際には安全対策が施されていなくても良いなど、非論理的にも程があります。こんなもので納得できるはずがありません。
 また、関西電力を中心とする電力各社は、原子力発電が再開できないと夏場の電力不足が不可避であるから、一刻も早く再稼働を求める趣旨の発言が続いています。しかし、これはとんでもない話です。
 第一に、原子力の安全性と電力が不足するという問題を同じレベルの問題として比較することがまず不謹慎極まりないことです。こういう主張をすること自体が、福島の原発事故に対する無反省ぶり=経済活動を優先し安全性を軽視してきたことへの無反省ぶりを示しています。
 第二に、関西電力の言っている電力不足というのは夏場の一時期、しかも1日の中の数時間において、ピーク需要が少し電力供給能力を超える可能性があるということに過ぎません。これは電力需要の調整によって回避することは可能であり、騒ぐほどの大した問題ではありません。
 昨年の関西電力における需要実績の速報に対する評価を行った新聞記事を次に示します。

 図に示されているのは一日の需要ピーク値であり、記事によると電力供給能力を超えたのは全部で12日間、総時間で58時間に過ぎないのです。この程度であれば、電力需要の調整によって十分対応可能であり、これを口実に原発の再稼働を要求するなどふざけた話です。

 さて、昨晩テレビ朝日の『報道ステーション』という番組を見ていると登山家の野口健が登場して、ド素人の彼に対して電力問題を語らせていました。その中で野口健は当面原子力発電を温存することを主張しており、非常に違和感を持ちました。テレビ朝日はなぜこのド素人を使って原子力発電を肯定させたのか…。
 今朝、はれほれ氏のブログを見て、疑問が氷解しました。野口健という登山家はその活動資金を東京電力から受けているのです。

写真を見ると、彼のジャケットの胸には東京電力のロゴが付けられています。つまり、東京電力は環境に対して配慮している企業であることを宣伝するために、ゴミ拾い活動で名を売った野口健のイメージを利用するために資金援助を行い子飼いにしていたのです。
 この背景を知れば昨日の番組は、おそらく東京電力からテレビ朝日に対する差金で、野口健を使って原子力発電再稼働を擁護する主張をさせることが目的であったのであろうと推測されます。野口健という登山家、そしてテレビ朝日という放送局もどうしようもないクズであることが明らかになったように思います。

 そう言えば、日産の子飼いにされている坂本龍一なども、どうしようもない三流文化人である。こうした三流文化人のことばをありがたがる日本の風土には幻滅する。

No.739(2012/04/11)加速する日本の軍事国家化と環境

 私は絶対平和主義者です。その理由は次の3点に集約できます。
 第一に如何なる理由があろうとも、合法的に他者を傷つけたり殺したり、あるいは傷つけられたり殺されたりすることは嫌だからです。
 第二に戦争行為は最も非生産的で、破壊のみを目的とする行為であり、そんなことのために貴重な人的資源を含むあらゆる資源を浪費することなど愚かなことだからです。
 第三に戦争行為は貴重な地球環境を破壊・汚染するからです。特に、核爆弾、劣化ウラン弾、化学兵器、生物兵器による環境の破壊・汚染は極めて危険です。

 私が違和感を感じるのは、自分の大切なもの、例えば家族や国を守るために戦争を行うことを美化する風潮が蔓延していることです。自分の大切なものを守るためには“戦争行為=合法的な殺人”が正当化できるのですか?戦う相手にも大切な家族が存在することをどう考えるのですか?一度戦争行為を肯定してしまえば、平和のための戦争などというお為ごかしは非論理的であることは自明です。子を持つ親として、若い人達にはもっと現実感をもって戦争というものを捉えて欲しいと思います。要するにこれはどんな理由をつけても殺し合いなのです。

 米国や先進諸国は最先端技術を投入して戦闘ロボットの開発に血道をあげています。彼らは戦場から遠く離れた安全なオフィスからコンピューター・ゲームのように戦闘ロボットを操り、相手国の国土を破壊し、住民を虫けらのように殺そうと技術開発を進めています。既に一部は9.11以後の米国を中心とする連合国のアフガニスタンやイラクに対する侵略戦争で実戦に利用されているのです。
 機械が人間を殺すという、最もグロテスクなSF世界がすぐそこに実現されようとしています。これはかつてアウシュビッツで行われたガス室による一方的殺人とどれだけの違いがあるというのでしょうか?
 こうした戦争機械の更なる技術開発を進める米国を中心とする国家連合に対して、対立する中東諸国や北朝鮮の中に不信感が増幅され、せめてその対抗措置として旧式の核兵器を持とうと考えるのは、悲しい事ですが当然の反応であろうと考えます。

 日本国憲法の平和条項に対して自民党や民主党の中には他者から押し付けられた憲法だから改憲は当然というような意味不明の主張があります。私はどのような経緯でまとめられたかを超えて、あらゆる紛争の解決手段として武力を否定した現行憲法は、それゆえに世界に誇るべき憲法であると考えます。
 民主党、中でも現野田政権は好戦的な色彩の強い内閣です。昨年末に武器輸出を事実上解禁する決定を行い、ついに日本は武器を輸出する死の商人の仲間入りすることを表明したのです。一体日本は今後どのような国になっていくのか、不安は募るばかりです。昨年の震災以降、マスコミは自衛隊賛美の姿勢を鮮明にしていますが、自衛隊の本質とは戦闘を行うこと=殺人を目的とする集団であるということを忘れないで欲しいと思います。

 

No.738(2012/04/09)北朝鮮衛星打ち上げに対する野田民主党政権の異様な対応

 この所、日本のマスメディアでは毎日のように“北朝鮮の衛星と称する弾道ミサイル”(笑)の話題が取り上げられています。日本のマスメディアの無様さには呆れ果てます。衛星打ち上げロケットと弾道ミサイルの違いとは何でしょうか?突き詰めれば、弾頭に衛星を搭載するか何らかの爆発物を搭載するかの違いです。
 今回の場合、北朝鮮は西欧諸国や日本に対しても政府高官やJAXAに衛星打ち上げの見学に来るように招請を行い、昨日は各国報道機関に対して搭載予定の衛星や発射台に準備された打ち上げ用ロケットの取材を許可しています。これらの情報に鑑み、来週にも実施されようとしているのはあくまでも衛星打ち上げです。おそらくこうした情報は米国の情報機関は把握しているでしょう。しかし日本政府はあくまでも弾道ミサイル実験と言い張りたい理由があるのです。それは後で検討します。
 衛星打ち上げ技術は弾道ミサイルに即時応用可能であることは間違いありません。故に、今回の衛星打ち上げ実験は北朝鮮の弾道ミサイル開発に寄与することは当然です。ではこれを止めさせようとしている日本や米国の側の主張のほうが道理にかなっているのでしょうか?
 例えば、日本は既にH2Aという弾道ミサイルに転用可能な衛星打ち上げロケット技術を保有しています。H2Aの開発段階で、外国からミサイルに転用可能な技術開発だから打ち上げ実験をおこなってはならないであるとか、かつて実験で打ち上げたロケットを地対空ミサイルで撃ち落とすなどという恫喝を受けたことがあるでしょうか?
 同じ事をおこなっても日本は許され、北朝鮮は非難される、正にダブル・スタンダードの典型的な事例です。要するに、親米的な国であるか、そうではないかということによって判断されているに過ぎないのです。これは核開発におけるインドとパキスタンに対する対応にも通じるものです。
 根底にあるものは、第二次世界大戦後の米国を中心とする主要戦勝国グループだけが核兵器と弾道ミサイルを保有し、それ以外の国にはこれを許さないことによって第二次世界大戦戦勝国グループの圧倒的な武力による世界支配構造を普遍化することを目論んだNPT体制を堅持すること、NPT体制に反対する中東諸国や北朝鮮にはあらゆる核開発・ロケット開発を許さず、場合によっては専制的な武力攻撃でこれを抑えこもうとする野蛮な行為が、“国連”の名のもとに正当化されているだけの話です。9.11を口実とした米国を中心とする多国籍軍が濡れ衣の下に行ったアフガニスタン・イラクという二ヶ国に対して行った野蛮な侵略行為と、これを黙認した国連の対応を冷静に見て下さい。
 私は何度も言っていますが、絶対平和主義者ですから、勿論北朝鮮の冒険主義的な軍事国家化は支持しません。しかし同時に米国を中心とする西欧諸国に牛耳られた国連の名の下に正当化された一方的な軍事支配構造にも反対です。湾岸戦争や9.11以降のアフガニスタン・イラクへの軍事侵攻では劣化ウラン弾が使われ、無人のロボット戦闘機が住民を殺すなど、絶対に正当化され許される行為ではないと考えます。
 今回の北朝鮮の衛星打ち上げ実験に対する批判の直接的な根拠となっているのが、『国際連合安全保障理事会決議第1718号』であろうと思われます。これはこれまで述べてきた通り、米国を中心とする軍事的支配構造の維持を国連安保理の名の下にまとめた文章であり、自らの兵器開発や核実験は不問にした上で、北朝鮮に対して一方的に核兵器開発に繋がる可能性のある技術開発を禁止するという、誠に手前勝手なものです。
 米国のための正義を無批判に追認する米国傀儡民主党政権、そして無能なマスコミ・報道機関には絶望するばかりです。現民主党政権下では見果てぬ希望ですが、対米盲従を脱して、新たなアジア外交を行うことによって日本の国際関係を安定させる道を模索すべきだと考えます。

 さて、では民主党野田政権は滑稽なまでに今回の北朝鮮の衛星打ち上げ実験を弾道ミサイルの発射実験と言いつくろうかといえば、これを口実にして、PAC3やSM3を艦載したイージス艦を全国各地に実戦配備するまたとない演習の機会を失いたくないからなのです(ただし、PAC3やMS3を本音では発射したくないはずです。発射すれば、まず間違いなく迎撃は失敗し、ブリキの兵隊に高いカネを払っていることがバレてしまいますから…。)。
 沖縄に配備された異常なまでに大規模な自衛隊キャンプや、PAC3やイージス艦を守るために武器を携行した部隊を展開したり戦闘機までを配備し、化学防護部隊までを投入するなど、衛星を撃ち落とすだけにしてはあまりにも過剰な展開であることは誰の目にも明らかです。あくまでも北朝鮮の衛星打ち上げを口実に自衛隊の国内展開の演習を行うことが目的なのです。

 この愚かな野田内閣には絶望感が増すばかりです。

No.737(2012/04/08)ドイツ再生可能エネルギー買取価格の大幅切り下げを決定

 このコーナーでも何度か取り上げてきた通り、自然エネルギー発電電力に対する高額固定価格買取制度を導入してきた西欧諸国では、次第にその失敗が明らかになり、スペインでは既に固定価格の大幅見直しを実施していましたが、ユーロ圏では比較的経済的に安定していると見られていたドイツでも制度の見直しが行われました。
 自然エネルギー発電電力の高額の固定価格買取り制度によって自然エネルギー発電の導入を積極的に進めてきたドイツでしたが、膨らむ買取り費用の消費者負担が経済に悪影響を及ぼし始めています。2012年3月29日にドイツ連邦議会下院は太陽光発電電力の買取り価格を大幅に引き下げることを柱とした「再生可能エネルギー法」改正案を賛成多数で可決し、太陽光発電の普及を事実上抑制する方針に転換しました。これによって2012年4月1日以降に導入した太陽光発電は原則として購入価格を20〜30%引き下げることになります。

 このように、既に自然エネルギー発電の高コスト電力の政策的な導入は西欧諸国で数々の失敗の前例があるにもかかわらず、我が日本政府はこれに全く学ぼうとせず、この7月から再生可能エネルギー特措法を発効させます。ただでさえ東北地方太平洋沖地震と福島第一原発事故の災害復旧に多額の復興債を発行して自転車操業状態の日本経済は、更に財政破綻へと加速度的に転落していくことになりそうです。

No.736(2012/04/02)CO2循環モデルに対する頓珍漢な批判

 本コーナーNo.732に於いて、久しぶりに大気中CO2濃度についての循環モデルに言及しました。本ホームページでは大昔に結論の出ている問題ですが、予想もしないご批判を受け(笑)、私自身にはなかなか何を問題にしているのかが理解出来ないものでした。
 どうも私には思いも寄らない誤解がまだ存在するようなので、以前、私の循環モデルを中学生程度の理解能力のある人に説明するための実験モデルとして示した水槽を使ったモデルを使って、もう一度説明を試みることにします。

循環モデルの定式化

 左図に示したのが、大気中のCO2量Qが定常状態、すなわち時間に対する変化率が0の場合の循環モデルを示しています。下の水槽に溜まっている水は固体地球や液体地球(生物に固定されているものも含む)に含まれている炭素のストックです。ポンプPNによって汲み出される水流は自然環境の生物・化学的なCO2の放出を表し、その水量qinは単位時間あたりのCO2放出量=CO2放出速度を示します。
 上の水槽は対流圏大気を示し、そこに溜まっている水量Qが大気中に存在するCO2量を表します。上の水槽の底には穴が開いており、大気中のCO2はここを通して地表環境に還流してきます。地表環境に還流するCO2の速度をqoutとします。水槽の底には穴の大きさを調整するバルブVがあります。これは地球環境の状態によって変化する地表環境のCO2吸収能力を表現します。
 この循環モデルを数式で表現する事を考えます。質量保存の法則から、Qの時間に対する変化は上の水槽へ流入する水量qinと流出する水量qoutの差として表すことができます。時間変数をtとすると次の微分方程式で表すことができます。

dQ/dt=qin−qout

qoutの実体は、大気と地表面との界面におけるCO2吸収反応なので、CO2の大気中濃度∝大気中CO2量Qに関連付けて表現するのが妥当です。一般に化学反応速度は対象物質の濃度に比例すると考えられますので、単位時間に地表環境に吸収されるCO2量qoutの大気中CO2量Qに対する割合をrとおくと、qout=Q・rと書くことができます。これを使って微分方程式を書き直すと次式になります。

dQ/dt=qin−Q・r

 ここでは単純にqout=Q・rとおきましたが、ここには前提条件があります。地表環境による大気からのCO2吸収反応に寄与するのは、その界面に接する大気のCO2濃度です。幸い、対流圏大気は対流や地球の自転運動によって急速に攪拌される結果、そのCO2濃度は概ね均一で偏りがないため、界面に接する大気のCO2濃度が大気中CO2量に比例するとしても大きな問題にならないのです。

註)水槽モデルでは、トリチェリの定理から水槽の底から放出される流速は水深の平方根に比例するので、大気中のCO2量をシミュレートする場合には底に取り付けられたバルブVを調整してやることが必要になります。

 実際にはCO2放出速度qinはある程度観測的に推定することは可能ですが、地表環境のCO2吸収能力をあらわす係数rは極めて複雑な地球環境の諸条件の総体で定まるものであり、その一般的な表現は事実上不可能です。幸い、大気中CO2量Qの時間変化率はそれほど大きくなく、年間変化量を儔とすると儔/Q=1.5/400≒0.4%程度なので、近似的にrを定数として扱っても実用上は特に問題は起きません。この微分方程式をr≒constとして一般解を求めると次のとおりです。

Q=qin/r+C・exp(−r・t), C:定数

 左図に示す定常状態は、t→∞の極限値なので、上式の右辺第二項はC・exp(−r・t)→0となり、簡単に次式の関係が得られます。

Q=qin/r

 あるいは、dQ/dt=qin−Q・rにおいて定常状態はdQ/dt=0なので、直ちにQ=qin/rを得ることができます。1/rは時間の単位を持ち、“平均滞留時間”と呼びます。
 つまり、定常状態における循環モデルの満足すべき条件とは、“大気中CO2量は地表環境からのCO2放出速度に平均滞留時間を乗じた値になる”ということです。
 既に述べたように、大気中のCO2量の時間変化率は小さいので、実用的にはここで得た定常状態の関係式によって大気の状態を近似的に推定することが可能です。

モデル計算@

 冒頭の左図に示すように、定常状態にあった状態から右図のようにCO2放出速度qinが冫inだけ増加した場合にどのような変化が起こるのかを考えて見ることにします。例として、定常状態として産業革命前の状態を用いることにします。当時の大気中CO2濃度は280ppm程度、炭素重量でQ≒560Gtとします。自然のCO2放出量は190Gt/年とします。この場合、

r=qin/Q=190/560=0.34

 この定常状態からCO2放出量にステップ関数的に冫in=6.4Gt/年の増加が生じた場合を考えます。Qの一般解から、t=0における関係は、

560=(190+6.4)/0.34+C・exp(−0.34・0)=577.65+C
∴C=−17.65

以上から、定常状態からステップ関数的に冫in=6.4Gt/年の増加が生じた場合の大気中CO2量の時間変化は次式によって表すことができます。

Q=577.65−17.65・exp(−0.34・t)

時間の経過による大気中CO2量の変化を次の表に示します。

t(年) 1 2 3 4 5 6  
Q(Gt) 565.09 568.71 571.29 573.12 574.43 575.35    577.65

 つまり、6.4Gt/年の増加をステップ関数的に与えたとしてもQの値は急速に一定値に収束し、10年経過すると最終状態の577.06/577.65≒99.9%にまで収束することになります。
 既にお分かりの通り、この試算は産業革命前の定常状態から、現在の人為的なCO2放出速度である6.4Gt/年が増加した場合にどうなるのかをシミュレートしたものです。実際には産業革命後から徐々に人為的なCO2放出量が増えて現時点で約6.4Gt/年になっています。qinがこの間、約200年間で線形的に増加したとすると、qinの時間変化率は次のとおりです。

dqin/dt=6.4/200=0.032Gt/年年

循環モデルの結論としては、増加した放出速度である冫inに平均滞留時間を乗じた値だけ大気中のCO2量が増加するのです。しかも、収束は急速で数100年もの間増加し続けることはないのです。

 水槽の模型実験で考えて見ることにします。冫inをステップ関数的に増加させるということは、ポンプPMで汲み上げられる水量を0から一瞬で冫inにすることに対応します。この場合、この計算例に示したように最終的な定常値に至るまで有限の時間をかけながら指数関数的に収束します。これに対して、ポンプPMで汲み上げられる水量を、ゆっくり時間をかけて0〜冫inになるように徐々に増加させると、水量が冫inになるとほとんど遅延時間を置くことなく定常値になります。
 つまり、水量=CO2放出速度が連続的に変化する場合には、現象は準定常的に変化するので、定常解を用いて近似することができるのです。

モデル計算A

 モデル計算@から、どうも人為的なCO2放出量の増加だけではこの200年間に起こった大気中CO2量の増加を説明できそうもありません。これを指して短絡的な人は循環モデルは間違いだと言います(笑)。もう一度一般解を見なおしてみましょう。

Q=qin/r+C・exp(−r・t)

 大気中CO2量Qに影響を与える因子は、地表環境からのCO2放出速度qinと地表環境のCO2吸収能力を表す係数rです。一般解の第2項は急速に0に収束すること、更にqinの変化はステップ関数的ではなく連続的に増加すると考えられます。以上を考慮して、準定常状態と見ることのできる地球大気に含まれるCO2の状態は、定常解を用いることで実用上十分な精度で近似することが可能です。ただし、qinとrは観測時刻に依存するとし、大気中CO2量Qを次の式で近似することにします。

Q(t)=qin(t)/r(t)

 上式にIPCC2007年の炭素循環図の数値を代入すると次のとおりです。

762=218.2/r(t) ∴r(t)=0.2863,平均滞留時間=1/r=3.49年

モデル計算@で示したr=0.34に比較して、現在の地表環境はCO2を吸収しにくくなっていることが推定できます。仮に、r(t)がこの間、線形的に変化してきたとすると経過時間を200年間として、

dr/dt=(0.2863−0.34)/200=−0.00027(1/年年)

程度です。

 地表環境からのCO2放出速度の現状を、産業革命前の自然起源のCO2放出速度、その後の環境変化によって増加した自然起源のCO2放出速度、そして人為起源のCO2放出速度に分けて、それぞれの放出が大気中CO2量に与える影響を推定することにします。

762(Gt)=(190.2+21.6+6.4)(Gt/年)/0.2863(1/年)=664.34(Gt)+75.45(Gt)+22.35(Gt)

つまり、現在の大気中CO2量Q=762Gtの内、人為的なCO2放出の影響によるものは22.35Gt、割合にして22.35/762≒2.93%に過ぎないのです。

頓珍漢な言いがかり@

 さて、この循環モデルの定常解を用いた大気に含まれるCO2の状態についての推定について頓珍漢な言いがかりが行われています。
 その頓珍漢な言いがかりの一つが、定常解=大気中CO2量の時間変化は表すことができないから、間違いであるという批判です。循環モデルの本質は大気中CO2量についての質量保存則ですから、普遍的に正しいものです。地表環境から大気へのCO2放出速度qinと地表環境の大気中のCO2に対する単位時間あたりの吸収率rが決まるとそれに対応する定常解が確定するのです。
 現実の地球環境ではqinとrは地球環境のあらゆる性状に関する状態量の関数として時間に対して常に変化しています。故に、その関数である大気中CO2量の定常解であるQも時間に依存する=時間に対する変化を示すことになるのです。実際にはqinとrが確定してもQが収束するのに多少時間遅れが生じることになるはずですが、既に示した通りqinとrの時間変化は微小であり、Qの変化は準定常的であると考えられるので収束にかかる時間遅れを無視することによって、定常解で状態を近似することにしているのです。
 現実には地球環境のあらゆる状態量に依存するqinやrを何らかの明示的な関数として普遍的に定義することは不可能ですから、その将来的な変動を表すQの関数形を定めることは不可能です。しかし観測結果のqinやQの値からrを特定し、その時の大気中におけるCO2の質量保存則を満足する性状を推定することができるのです。

頓珍漢な言いがかりA

 これは私には全く予期せぬ指摘でした。曰く“一旦大気に放出された人為起源のCO2が地表環境に吸収され、その後再び大気中に放出された場合、これも人為的なCO2としてカウントしなければならない。したがって循環モデルは誤りである”という主張でした。この指摘の真意は、未だに私にはよくわからないのですが(笑)、唖然としました。
 既に読者諸賢には十分お分かりだと思いますが、循環モデルではどのような起源のCO2であろうと、一切かまいません。着目した時点の状態が質量保存則を満足していれば良いのです。
 冒頭に示した右の図で言えば、固体・液体地球に固定されていたCが大気中にCO2として放出されるときにポンプPNで上の水槽に汲み上げられたのかポンプPMで汲み上げられたのかという違いに過ぎません。一旦上の水槽に入ってしまえばCO2に区別はありません。上の水槽の底に取り付けられたバルブVを通して下の水槽に還流したCにも勿論区別はありません。
 循環モデルでは、下の水槽から汲み上げられるCO2が以前にどのような履歴を経ているかは、大気中のCO2量の結果に影響しませんから、全くどうでも良いことであり、そのようなことを斟酌する必要はありません。結果に影響をおよぼすのはポンプの汲み上げ能力なのです。循環モデルの主張は、ポンプPMによって単位時間に汲み上げられたCO2量冫inに平均滞留時間1/rを乗じた値だけ大気中CO2量が増加するということです。
 更に、理想的な状態として、ポンプPNとポンプPMで汲み上げられたCO2が上の水槽の中で一様に混合しているとすれば、上の水槽に溜まっているCO2の混合比はqin:冫inになります。この場合はポンプPMで汲み上げられたCO2そのものが水槽中に冫in/rだけ存在することになりますが、これはどうでも良いことです。

モデル計算B

 私達がどうして大気中のCO2量のモデル化を行うかといえば、現在、人為的CO2温暖化対策として人為的に放出するCO2量の削減が叫ばれているわけですが、その効果を推定するためです。モデル計算Aの結果、つまり現状の大気中CO2についての状態を再度示しておきます。
 地表環境からのCO2放出速度の現状を、産業革命前の自然起源のCO2放出速度、その後の環境変化によって増加した自然起源のCO2放出速度、そして人為起源のCO2放出速度に分けて、それぞれの放出が大気中CO2量に与える影響は次のとおりです。

762(Gt)=(190.2+21.6+6.4)(Gt/年)/0.2863(1/年)=664.34(Gt)+75.45(Gt)+22.35(Gt)

 この結果に対して、rは変化しないものとして、人為的なCO2放出量を50%削減した場合の大気中CO2量を推定すると次のとおりです。

(190.2+21.6+6.4×0.5)(Gt/年)/0.2863(1/年)=664.34(Gt)+75.45(Gt)+11.18(Gt)=750.97(Gt)

人為的CO2放出量を50%削減した効果は(750.97−762)/762=−1.4%、現状のCO2濃度を380ppmとすると、5.32ppmの削減効果ということになります。
 京都議定書における削減目標を人為的なCO2放出量の5%程度と仮定すると、その効果は−0.14%、大気中濃度で0.5ppm程度に過ぎず、実質的には全く何の効果もありません。大気中のCO2濃度を削減するという意味において、人為的なCO2放出量の削減には微々たる効果しかないということです。

No.735(2012/03/31)電力料金値上げの妥当性について

 東京電力が原子力発電所事故の影響から電力料金を値上げするとしています。また、電力各社も火力発電用LNG購入費用の増加を価格転嫁させようとしています。


大分合同新聞2012年3月29日朝刊

 この九州電力や東京電力の言うLNG購入費用の増加による支出増加を価格転嫁することには賛成できません。また、九電の瓜生が言うように、原発を再稼働しなければ値上げを考えなくてはならないというのは全く事実無根の虚言です。

 まず、これまでに何度かこのコーナーでもLNG火力の燃料費に対する試算を行なっていますが、最近のデータで再度検討しておきます。


米エネルギー省エネルギー情報局の統計より

 昨年から今年にかけて中東情勢の不安定化と日本のLNGの緊急買い付けの影響で、かなり値上がりしているようです。図から、1MMBtu=100万Btu≒294kWh当たり16USドル程度です。1USドル≒80円とすると、LNG価格は、16×80円/294kWh=4.35円/kWh程度ということになります。LNG火力発電の熱効率を50%とすると、電力の燃料費は8.7円/kWhということになります。高くなったといっても、LNG火力発電電力の原価は10円/kWhそこそこです。
 しかし、東京電力による安全対策を極限まで削って安くした原子力発電の電力原価でも20円/kWh程度なのですから、これに比べればLNG火力発電は圧倒的に安い電力です。繰り返しますが、今回、原子力発電の停止にともなって、短期的に予想外の出費が増えただけであって、LNG火力発電電力が高価であるから損失が生じたわけではないことをまず確認しておかなければなりません。
 今回の原子力発電所事故は100%東京電力による未必の故意ないし運転操作上の重過失によって起こったのですから、この追加のLNG購入による燃料費の追加支出は電力会社の企業努力によって賄うべきものであって、電力料金に価格転嫁して消費者から徴収すべきものではありません。これは燃料費の二重徴収です。

 また、長期的に見れば、既に検討したようにLNG火力発電電力の方がはるかに低コストなので、原子力発電をLNG火力発電で置き換えることによって電力価格は値下がりすることはあっても九電の瓜生が言うように値上げしなければならないことなどあり得ないのです。瓜生の発言は、電力料金の総括原価方式がこれまで通り維持されることを前提に、虚偽の理由で電力消費者を恫喝して、発電経費の高い原子力発電を維持することでこれまで通り甘い汁を吸おうと画策しているということです。この九電の態度には原発事故の反省は微塵も無いようです。

 しかし、一方で原子力発電を運用するためには当然支出あるいは準備しておくべきであった安全対策費用、事故発生時の復旧費用、損害賠償費用、バックエンド処理費用などに対する引当金を原子力発電電力原価に計上して来なかった東電を始めとする原子力発電所を保有する電力各社によって電力のダンピング販売が行われてきたのは事実です。今回はそのつけが原子力発電所事故という最悪の形ではじけ飛んでしまったのです。
 勿論、今回の事故の発生を含めて第一義的な責任は歴代自民党政府と原子力発電所を保有する電力会社に帰すべきものです。しかしながら、政府や電力会社に原子力発電を許してしまい、ダンピング販売の恩恵にあずかってきた我々の世代には共同正犯として少なからず責任があります。
 更に現実問題としては福島第一原子力発電所事故処理に関わる全ての費用を含めて、これまで電力料金に計上されて来なかった多くの費用を何らかの形で捻出しなければなりません。この巨額の費用は通常の国家予算や電力会社の企業努力で処置できるような金額ではありません。これは、愚かな原子力発電を許してしまった我々世代の責任として負担するしかありません。
 先ずは最も責任の重い東京電力については、国家管理とした上で売却可能なあらゆる資産を売却し、これを国庫に納め事故処理費用の一部に充当させなければなりません。これだけの事故を起こした上に国庫からの税金の無原則的な注入で民間企業として存続させるなどあり得ないことです。

 それでも不足する費用をどのように捻出するのか、という問題が残ります。具体的には今後発送電分離が進むのか、発電事業者に対する電力市場の開放・自由化がどうなるのかなどいろいろな要因はありますが、福島原発事故処理を十分に行い、原子力発電システムを出来る限りの安全性に配慮して日本から葬り去るためには、莫大な費用が必要であり、これは原子力発電を使ってきた日本国民全体で負担する以外にないのです。
 その前提として、LNG購入費の増大などという虚偽の説明を辞め、原子力発電関連に費やされているすべての経費の洗い出しを行いこれを国民に対して全面的に公開するとともに、福島原発事故処理を含めて、全ての原子炉を廃炉し、放射性核廃棄物を処理するために必要な費用を算出した上で、適切な費用分担の内容を明示させなければなりません。その費用の徴収を税と電気料金とでどのように分担すべきかは議論がわかれるでしょうが、原発廃棄のための費用負担は我々世代の責任として、何らかの形で背負わなければならないことを銘記すべきです。

No.734(2012/03/24)ドイツZDF『フクシマの嘘』を見る

 福島第一原子力発電所事故報道に限らず、日本の新聞、テレビなどの主要報道機関の無能ぶりにはほとんど絶望しています。閉鎖的でニュースソースとべったり癒着している記者クラブなど、お話になりません。福島原発事故に関しては弱小の報道機関ないし海外のメディアの報道内容にのみ傾聴すべき情報があるようです。
 ドイツのZDF(Zweites Deutsches Fernsehen:ドイツ第二テレビ、公共放送)は福島第一原発事故に関して、この一年間に優れた番組を数多く放映しています。確かに、ZDFは日本の権力機構や大資本との利害関係が薄いから出来ることなのかもしれませんが、残念ながら日本の報道機関の惨憺たる状況から見ると、誠に立派な仕事をしていると思います。同じ公共放送であるNHKはかつて(?今はどうかは確認していませんが…。)、日本の原子力発電推進の宣伝機関である原子力文化振興財団に現職の局長クラスを理事として派遣していました。この見識のない無節操さにはあきれ果てたものです。

ZDFのドキュメント番組『フクシマの嘘』をご覧下さい。

No.733(2012/03/18)不合理な愛知県の瓦礫処理

 一体この国の為政者達は何を考えているのであろうか?愛知県知事大村秀章は、震災瓦礫処理を受け入れるために焼却プラントを建設することを検討している。まず東京新聞電子版の記事を紹介する。


がれき 愛知受け入れへ 火力敷地に施設検討          2012年3月18日 朝刊

 東日本大震災で発生したがれきの広域処理で、愛知県は受け入れに向けて、中部電力の火力発電所敷地内に自前で処理施設をつくる方向で最終調整に入った。中電は週明けにも結論を出す見通し。中電の協力が得られれば、県は地元自治体や住民に理解を求める。法的な手続きに時間がかかるため、受け入れ開始時期は不透明だ。

 候補地は中電碧南火力発電所(愛知県碧南市)で、埋め立て地も含めた敷地面積は二百八万平方メートル。

 関係者によると、県が碧南火力の敷地の一部を借り、がれきの焼却炉と、焼却灰を埋める最終処分場を整備することを検討。大村秀章知事が中電幹部に要請を繰り返してきた。

 国は二〇一四年三月末までに被災地のがれき処理を終える計画だが、焼却、埋め立て施設の整備には、工事だけでなく許認可などの法的手続きにも長い時間がかかる。県は受け入れをできる限り早期に始めたい考えで、整備にかかわる特例措置を求めて国と協議を始める。環境影響評価などは規模によっては一年以上かかる場合もあり、協議が難航すれば、受け入れが進まない可能性も残る。

 震災のがれき処理をめぐって愛知県は昨年四月、大村知事が県内での受け入れを表明したが、放射能汚染への不安が広がったことで動きが進まず、処理の安全性を環境省に問い合わせる状態が続いていた。処理施設をもつ県内市町村で、受け入れ姿勢を明かした自治体はない。

 このため県は、施設を自前で整備することを検討。知事が水面下で、受け入れに協力的で、所有地に余裕がある企業を探していた。

 県は、処理施設の安全性を地元に理解してもらうために、試験焼却時には放射性物質の濃度を測ってデータを公表する。埋め立て地から出る汚水のモニタリングも行う。


 震災瓦礫の広域処理は、域外に瓦礫を搬出することだけでも問題であるが、しかも運び出された瓦礫処理のために新たに焼却プラントを建設するなどとんでもないことである。
 このコーナーのNo.727非科学的な震災瓦礫広域処理でも述べた通り、大量の瓦礫を受け入れるだけの余剰の焼却プラントを持つ域外の自治体など、実質的には殆ど無いというのが実情だということの一例であろうと考える。
 瓦礫を受け入れるために新たに焼却プラントを建設することが必要ならば、被災地に焼却プラントを新設すべきであることは当たり前のことであろう。なぜ被災地から遠く離れた愛知県において瓦礫焼却プラントを新設するなどという愚かな事業が構想されるのか、理解不能である。愛知県民の皆さん、この愚かな計画には絶対反対すべきである。

No.732(2012/03/18)東北大学教授明日香壽川の驚きの三段論法

 東京大学IR3S『地球温暖化懐疑論批判』による名誉毀損に関する裁判(原告槌田敦)の被告側証人である東北大学教授明日香壽川(環境科学研究科 環境科学政策論)に対する尋問が去る2月14日に東京地裁で行われました。まず、当日の裁判の傍聴記録を紹介します。


東大による名誉棄損並びに憲法違反裁判 明日香被告証人尋問傍聴記

たんぽぽ舎会員 近藤恭彦

去る2月14日火曜日に、東京大学IR3S裁判の傍聴に行って参りました。
原告槌田敦氏が、代理人の弁護士を立てずに裁判を行いましたので、槌田敦氏の書いた陳述書に従って、前半は裁判長による原告槌田敦さんへの尋問、後半は、原告による被告明日香壽川の尋問でした。それぞれおよそ1時間半ずつの尋問でした。
尋問のメイン、圧巻であった後半の原告槌田敦さんによる被告明日香壽川の尋問の部分についてレポートさせて戴きます。
この問題となっている冊子『地球温暖化懐疑論批判』の元になったのは、明日香氏が私的レベルでネットに発表していた、『地球温暖化問題懐疑論へのコメントVer2.4』です。その内容を加筆修正して膨らました内容が『地球温暖化懐疑論批判』です。
本書の記述には、一般の論文と違って、著者名が、明日香氏のみしか記されていません。その事に関して明日香氏は、表紙に記された10名の共著の形であると答えました。本当に10人で論議したかとの質問に、明日香氏は、大体みんなで議論して書いたと答えていましたが、実体は、『地球温暖化問題懐疑論へのコメントVer2.4』などの焼き直しに近いものがあり、事後承諾的なイメージがあります。
『地球温暖化懐疑論批判』のはじめに記された9項目の特徴の批判に関して、槌田敦氏からの「自分はどの項目に当てはまるか?」の尋問に関しては、明日香氏は色々言っていましたが明確な回答は得られませんでした。特に『三段論法の誤謬』と糾弾された部分に関して、槌田氏が明日香氏にどこが三段論法の誤謬か具体的に尋ねたところ、明日香氏は意味不明な事を言ってお茶を濁していました。槌田氏及び裁判長から再度次回までにしっかり答えるかどうか回答を催促されて、しぶしぶ次の公判に間に合うように書いて提出する事を了承し、裁判官に提出期限を決められていました。

(後略


 結局、尋問当日の明日香壽川の説明は意味不明であり、後日文書で明日香の主張する槌田らに対する『三段論法の誤謬』の具体的な内容を文書回答することになりました。槌田敦氏より、明日香壽川の陳述書を送って頂きましたので、全文を公開します。

三段論法の誤謬に関する明日香壽川の陳述書

 全文を読んでいただけると自ずとお分かりだと思いますが、明日香の陳述書の三段論法はとても国立大学の教授とは思えないほど出鱈目なものです。明日香は、槌田氏はじめ彼らが懐疑論と呼ぶ論者の主張を正しく理解する能力がないために、三段論法で説明する以前の段階で論理的に破綻しています。

 ここでは、明日香陳述書において懐疑論の三段論法の誤りの例として示されている、槌田氏の大気中CO2濃度モデルに対する明日香の三段論法による理解がいかに馬鹿馬鹿しいものであるのかを示すことにします。まず明日香陳述書のその関連部分を以下に示します。


(2)被告ら準備書面(3) 6頁で述べた具体例を大前提・小前提・結論の構成に整理してみると,以下のようになります。
大前提:人間が放出した二酸化炭素の約3割は海洋・森林に吸収される。
小前提:人間が放出した二酸化炭素は選択的に吸収されるので,人間が放出した二酸化炭素のうち大気中に残存するのは3.33年分の放出量である。
結論:よって,人為的に放出された二酸化炭素の大気中滞留時間は短い。

 しかし,実際には地球全体では海洋・森林は,現在.正味で二酸化炭素を吸収していて,その年間吸収量は,量の大きさとして,人間が1年間で放出する二酸化炭素量の約3割です。すなわち、小前提にある「人間が放出した二酸化炭素は選択的に吸収される」というのは間違いです。
 この意味で,上記議論は小前提自体に誤りがあり,三段論法として成立せず,ロジックとして誤謬があります。


 まず、この明日香流の三段論法は意味不明です。標準的な私の知る三段論法の体をなしていません。それはさておき、明日香がここで取り上げた“(2)被告ら準備書面(3) 6頁で述べた具体例”の部分の原文を以下に示します。



 この明日香の理解は東大IR3S『地球温暖化懐疑論批判』の議論18で取り上げられている内容(赤のアンダーライン)です。
 非常にわかりにくい説明ですが、ここで述べている明日香らの主張は、人為的な化石燃料の燃焼で放出されたCO2を除くと、自然のCO2循環(明日香は“森林や海洋”と表現している。)では大気へのCO2放出量より地表環境が大気中から吸収するCO2量のほうが多いと解釈しているようです。これが「地球全体では現在正味で吸収となっている。」という分かりにくい表現の意味です。この正味の吸収量が人為的な化石燃料の燃焼で放出されたCO2量の約5割(本文中では“3割”としているが、明日香によるとこれは槌田の誤りであって、“5割と言ったほうが実態には近いが”と『地球温暖化懐疑論批判』議論18で述べている。そもそも、明日香にはモデルが異なるからこの割合の意味が異なることが理解できていないのである。)に当たるため、差し引き5割程度が大気中に残留する=大気中CO2量が増加すると言っているようです。
 まあ、これもひとつの考え方のように思えますが、実は論理的に破綻しています。確かに単年度のCO2収支としては一見正しいようにも思えますが、それでは初年度に大気中に残留した人為的な化石燃料の燃焼で放出されたCO2量の約5割は、翌年にはどうなるのでしょうか?大気中に残留した人為起源のCO2は、大気中に存在する自然起源のCO2と混合すると自然のCO2循環が変化し、論理矛盾が生じます。なぜなら、自然のCO2循環では大気中に含まれるCO2は平均的な滞留時間が経過すると大半が入れ替わってしまうため、一旦大気中に残留した人為起源のCO2も、平均滞留時間の経過後には大気中から大半が消滅してしまうため、人為的な化石燃料の燃焼で放出されたCO2が大気中に(200年間以上も!)蓄積し続けるという彼らの主張は成り立たないのです。
 唯一彼らのモデルが成り立つためには、自然のCO2循環システムと人為的な化石燃料の燃焼で放出されたCO2の蓄積システムは独立に存在し、その線型結合で全体を表現する事しかないのです。つまり、明日香らのモデルでは大気中に放出された人為起源のCO2だけが特殊な振る舞いをすることが必要なのです。明日香らは槌田の循環モデルが理解出来ないどころか、自らの蓄積モデルの成り立つ条件すら理解できていないというおそまつさなのです。ここではアウトラインだけ述べましたが、詳細は本HP所収の『解題 CO2循環を理解するための数学的枠組み 近藤邦明(2010/08/04)』および『解題 東大IR3Sによる人為的CO2蓄積仮説 近藤邦明(2010/11/09)』などをご覧下さい。

 槌田氏や私達の主張は、明日香らの示す蓄積モデルがCO2放出源によって異なる振る舞いをするという彼らの主張が不合理であると批判し、一旦大気中に放出されたCO2は放出源の如何に関わらず同様の振る舞いをすることを主張しています。明日香がここで述べている“「人間活動によって放出された二酸化炭素のうち約3割が海洋や森林に吸収される」という表現を「人間活動によって放出された二酸化炭素分子のうち約3割が海洋や森林に吸収される」”は全くお門違いの論評であり、彼が全く槌田の循環モデルを理解していないことを告白しているのです。 
 要するに明日香陳述書の前掲の三段論法の元になる彼の槌田モデルに対する理解が誤りなのですから、それを三段論法の形に整理しようが誤りは誤りであり、陳述書では彼の誤った三段論法を誤りだといっているだけであり、槌田モデルの誤りを示しているのではないのです。
 明日香らによる“(2)被告ら準備書面(3) 6頁で述べた具体例”に対して、槌田は原告準備書面(3)の中で次のように指摘しました。


(9) 「三段論法の間違いなどロジックとして誤謬がある」
 被告東京大学は、三段論法とは何かを理解していないようである。議論18における被告準備書面(3)p6の記述では、大前提、小前提、結論が示されておらず、三段論法での何をどのように間違えたのか説明できていない。つまり、 「三段論法の誤謬」という被告東京大学の指摘は真実ではない。
 ところで、三段論法の誤謬をする者は科学者として失格であるから、原告に対して三段論法の誤謬をしたと指摘をしたことは、極めて悪質で深刻な誹譲中傷・人身攻撃である。
 さて、三段論法の間違いをしているのは、被告ら人為的CO2温暖化論者の方である。その論理は、 @大気中のCO2濃度は毎年増加している。 Aその年間増加量は人為的CO2の55.9%に相当する。故に、大気中CO2濃度増の原因は人為的C02である、と。このふたつの前提は単に数値の話であって、原因の話ではない。したがって、結論で原因を論ずるのは詭弁である。この詭弁に科学者たちも騙されて、現在の人為的CO2温暖化説がてきあがったのであった。
 さらに付け加えれば、気象学には滞留時間という考え方がある。気象ハンドブック(1984)朝倉書店p61には、大気中CO2ではこの時間は2-4年とある(正しくは原告の計算による3.3年)。したがって、大気中のCO2は3.3年で総入れ替えになるので、人為的CO2もこの年数分以上大気中に留まることはない。これは気象学の常識である。
 これから計算すると大気中の人為的CO2の濃度は最大でも8.5ppmであって、これ以上増えることはない(甲14-4、 『CO2温暖化説は間違っている』p166)。
 測定開始以来50年間に増えたCO2濃度はほぼ70ppmであるから、人為的起源の8.5ppmを引くと、残りのほぼ60ppmのCO2は自然原因である。 「CO2削減」という世界的な政策は気象学の常識も無視しており、まったく無意味な主張であった。このように、人為的CO2温暖化論者たちこそ、三段論法や気象学など基本的な論理で間違えているのである。
 被告東京大学がその書物『地球温暖化懐疑論批判』において原告に張り付けた「三段論法などの誤謬」という特徴(9)は真実ではなく、極めて悪質で深刻な誹誘中傷、人身攻撃ということになる。


 この槌田の主張ないしその後に提出した上申書に基づいて2月14日の被告人尋問が行われたわけですが、法廷では明日香は論理的な説明が出来ず、裁判官から陳述書の提出を求められ、今回の意味不明の陳述書の提出になりました。

 以下、槌田によるCO2循環モデルによる大気中CO2量について、要点を簡単に説明し、最後に正しい三段論法による表現を考えることにします。まず、現在の地表環境と大気を巡る炭素循環の概略をIPCC2007年の図で紹介します。

 これを次に示すモデルとして表現します。

ここに、
qin(地表→大気):1,196+706+16+200+64=2,182(億トン/年)
qout(大気→地表):1,200+2+700+26+222=2,150(億トン/年)
Q(大気中CO2量):5,970+1,650=7,620(億トン)

 このモデルを時間変数tに関する微分形式で表現すると以下のとおりです。

dQ/dt=qin−qout=qin−Q・r

 ここに、rは大気中に存在するCO2量Qから1年間にどれだけのCO2量qoutが地表環境に吸収されるかの割合を示します。qoutの実体は化学的あるいは生物的なCO2吸収反応なので、qoutは大気中のCO2量Q(∝大気中CO2濃度あるいは分圧)に比例すると考えられます。その比例定数がrです。

近似的に定常状態でこのモデルを単純化すれば、dQ/dt=0なので、

qin-Q・r=0 ∴Q=qin/r, ここに1/rが平均滞留時間です。

 このモデルで、大気中に放出されたCO2が一様に混合するとすれば、人為的なCO2の滞留時間も1/rですが、この際これはどうでも良いことです。あくまでもこのモデルの主張は大気中に存在するCO2量Q全体の平均滞留時間が1/rであることです。

 付加的な人為的CO2の年間放出量を明示的にδqinとすると、

Q+δQ=(qin+δqin)/r ∴δQ=δqin/r

だけ大気中のCO2量が増えるというだけのことです。つまり、人為的なCO2放出量がδqinだけ増加すれば、大気中のCO2量はδqin/rだけ増加するが、必ずしもこれは人為的に放出されたCO2そのものが大気中にδqin/rだけ存在する必要はないということです。

 例えば、人為的CO2放出量をδqin、r=0.3であれば、大気中のCO2量は

δqin/0.3=3.33δqin

つまり人為的CO2放出量の3.33年分に“見合う量”だけ増加することを主張しているのであって、それが人為的に放出されたCO2であるかどうかは問わないということです。

 そもそも私達の循環モデルは大気中に放出されたCO2は起源の如何を問わず同じ振る舞いをすることが前提ですから、明日香陳述書のように大前提で“人間が放出した二酸化炭素”などと限定的な条件を挙げることはあり得ません。以上の槌田モデルの内容は、三段論法として次のように表すことができます。


大前提:1年間に地表環境から大気中に放出されるCO2量の約3.33年分が大気中に存在する。
⇒Q=3.33qin

小前提:化石燃料の燃焼によって大気中へ放出されるCO2は地表環境から大気中に放出されるCO2の一部である。
⇒δqin∈qin

結論:1年間に化石燃料の燃焼によって増加するCO2量の約3.33年分に見合う量だけ大気中のCO2量が増加する。
⇒δQ=3.33δqin


 明日香の解釈による槌田の大気中CO2モデルについての陳述書の三段論法との違いは明らかです。以下に再録しておきます。


大前提:人間が放出した二酸化炭素の約3割は海洋・森林に吸収される。
⇒0.3δqin=δqout

定常状態の循環モデルではδqin=δqoutであり、この大前提は全く誤りである。明日香は循環モデルにおけるrの意味が理解できていない。

小前提:人間が放出した二酸化炭素は選択的に吸収されるので,人間が放出した二酸化炭素のうち大気中に残存するのは3.33年分の放出量である。
⇒δQ=3.33δqin

結論:よって,人為的に放出された二酸化炭素の大気中滞留時間は短い。
⇒0.09δQ=δqout


??意味不明である。

 明日香の三段論法の大前提は、既に述べた通り、“人間が放出した二酸化炭素”に限定した条件を述べており、この段階で槌田の主張に対する理解が誤っています。小前提は、再び“人間が放出した二酸化炭素”についての別の条件を述べています。ここで三段論法として破綻しています。更にこの2つの条件から、導かれたという“人為的に放出された二酸化炭素の大気中滞留時間は短い。”という定性的な結論は無意味です。明日香の大前提、小前提からどうしてこのような結論になるのか意味不明です。“短い”などという感覚的な尺度は全く無意味です。

 このように、明日香の三段論法の破綻は明らかですが、果たして無能な東京地裁の裁判官の国語の理解力あるいは論理的な理解力でこれが判断できるかどうか、これが大きな問題です。

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