No.384 (2009/02/26)新エネルギーは環境破壊 そのD

 さて、連載に戻ることにします。これまで、風力発電装置単体のしかも絶対的な発電量にだけ着目して検討をしてきました。電気とは、消費するために発電を行うのですから、発電は需要とともに語らなければなりません。
 ご存知のように、電力需要は大まかには一日サイクルの変化をしながら、1週間サイクルの変化、更に1年間周期のサイクルを持って変動しています。
 発電電力は電力需要に即応するように供給されています。本質的に電気というエネルギーは発電と同時に消費されていくという特徴があります。例外的には、余剰電力による揚水発電所における水の汲み上げによって、水の位置エネルギーとして蓄えることはありますが、汲み上げのポンプアップの消費電力まで含めると、基本的に常に発電電力≒消費電力と考えて差し支えないでしょう。これを実現するために、常に消費電力を監視しながら直近の未来の電力需要を予測しながら発電電力を調整しているのです。
 このように、発電電力は高度な制御が必要なのです。現在日本では、核暴走の危険を持ち、こまめな出力調整になじまない原子力発電と言う『お荷物』で一定の(ベース)電力を供給し、主に火力発電と水力発電によって需要の変動に対応しています。

 さて、この高度に制御された電力供給システムに制御不能な風力発電システムを組み込む(系統連系)と言うのはかなり無謀なことであることは容易に想像されます。

 

 このように激しく変動する『低品質』の電力供給装置である風力発電を既存の電力供給システムに組み込むことは、システム全体の安定運用に対して多大な負担を強いることになります。具体的には、電力調整能力の高い火力発電に対する負担の増加、したがって火力発電の発電効率の低下につながるのです。
 本来ならば、風力発電を導入することによる既存火力発電の発電効率の低下あるいは設備利用率の低下に関わるコストは風力発電事業者が負担すべきもの、つまり風力発電コストに計上すべきものですが、現状ではこれは行われていないようです。
 風力発電の電力供給量はおそらくどの電力会社においても全供給量の1%のオーダーであろうと思われますが、電力の安定供給に責任を持たなくてはならない電力各社は既に既存の電力供給システム内では風力発電の不安定電力に対応することが困難になりつつある(供給電力の品質の低下、周波数・電圧の変動。)として、風力発電の解列(電力系統から切り離す)を前提に風力発電を導入する様になっています。これは電力供給者の社会的責任から当然の処置だと思われます。
 それにもかかわらず、無能な国の役人はCO2排出量削減のためとして更に風力発電の導入を進めようとしています。無理やり風力発電を『普及』させるための施策の一つが風力発電に併設する蓄電装置に対する国家補助を行うと言うものです。これはもうとんでもない愚策です。ただでさえエネルギー・コストの高い風力発電に更に蓄電装置を加えれば、蓄電装置を含めた風力発電装置のエネルギー・コストは更に悪化し、石油消費量は増加する一方です。

 

 

 また、次図に示すとおり、現在考えられている蓄電池による風力発電出力の平滑化技術は、短時間の激しい出力変動をある程度『平滑化』する技術であり、発電出力を完全に制御することは不可能であり、風力発電による既存発電システムに対する負担が無くなるわけではありません。

 

 

 次の図は、九電による蓄電池導入コストの試算です。ここに示したのは、10分間の電力平滑化を想定したモデルです。

 
 

 一般的に、同じ量の電力量を供給するための施設が大きくなるほど、供給される電力のエネルギー・コストは大きくなるのです。


No.383 (2009/02/26)新エネルギーは環境破壊 番外編
〜太陽光発電電力の高値買取は亡国の経済政策〜

 

 この連載で風力発電の検討の後に太陽光発電について触れる予定でしたが、ご承知のように、太陽光発電電力について、電力会社に高値買取を義務付ける制度を導入すると言う、環境政策としては全く愚かな、また経済政策としては消費者を馬鹿にした施策が実施されようとしていますので、急遽その速報を書くことにします(記事参照:大分合同新聞2009/2/25朝刊)。

 まず経済政策として考えます。以前行われた個人で太陽光発電を設置しようとする者に対する国家の直接補助は、太陽光発電設置者をトンネルとして国税を太陽光発電パネル製造メーカーに流す制度でした。
 今回は、電力各社が高値で太陽光発電電力を買い取り、これを価格転嫁することによって全く恩恵を受けることのない消費者・大衆から徴収して太陽光発電設置者を介して太陽光発電パネル製造メーカーに流すと言うものです。何のことはない、国や電力各社は身銭を切ることなく、消費者から搾り取った金で太陽光発電パネル製造メーカーを太らすと言う制度なのです。

 次に環境対策としての愚かさです。例えば、個人住宅用の3kW出力の太陽光発電装置の価格は200〜300万円程度です。ここでは250万円としておきましょう。3kWシステムの年間発電量は3000kWh程度です。耐用年数を17年間とすると、総発電量は51000kWhです。kWh当たりの設備費は、メンテナンス・コストを無視しても49円/kWh程度になります。この設備費用の中に含まれるエネルギー・コストは費用の20%として、9.8円/kWhになります。これは現在検討を進めている風力発電よりも更にエネルギー浪費的なシステムであることを示しています。
 連載@で用いた値を使うと、消費する重油量は9.8/20=0.49L/kWhになります。重油0.49Lのエネルギー量は0.49L×10.5kWh/L=5.145kWhになります。
 つまり、太陽光発電で1kWhの電気エネルギーを供給するために、燃焼エネルギー5.145kWh分の重油を消費するのです。エネルギー産出比=0.193となり、石油火力発電の値0.35よりもはるかに低いのです。つまり、同量の電力を供給する時、太陽光発電は火力発電に対して(0.35/0.193)=1.8倍程度の重油を消費しているということです。

 つまり、今回の制度は「太陽光発電は石油消費の削減につながる」と言う虚偽宣伝によって、消費者・大衆に「電気料金引き上げ」を認めさせ、実質は「石油消費を増大させて石油業界を喜ばせ」その上「騙してかき集めた金を太陽光発電パネル製造メーカーに大盤振る舞い」して、通常の市場では売れるわけのない製品を無理やり製造していると言うのが実像なのです。

 この制度の導入にはお馬鹿な民主党をはじめ、社民・共産の各党も諸手を挙げて賛成するのでしょう・・・。しかし、このHPは断固この愚かな制度の導入に反対であることを表明するものです。HP閲覧者諸賢のご協力を強くお願いいたします。

No.388 (2009/03/03) 新エネルギーは環境破壊 そのH太陽光発電

No.382 (2009/02/25)新エネルギーは環境破壊 そのC

 風力発電の動力源は制御することのできない自然風です。その結果、風力発電の発電能力は風まかせの不安定なものになることが避けられず、前回示した通り、計画段階で発電能力を的確に設定(推定)することは困難、というよりも不可能と言うべきかも知れません。
 その結果、風力発電の運転は通常運転中であっても通常の工業的な発電施設に比較して大きなリスクを内包することは強く認識しておかなければなりません。更に、外気に曝された環境での運用には自然災害がつき物であり、突発的な事故の危険性が常に存在しています。

 まず、『「北海道における風力発電の現状と課題〜稼働状況とメンテナンスの実態〜」平成17年3月15日北海道経済産業局』から、風力発電の事故の発生状況を見ておくことにします。

 

 この結果から、故障の程度は様々ですが、ほとんどすべての風力発電装置で年に1回程度の突発的な故障が起こっていることがわかります。風力発電装置においては突発的な故障は特殊な状況ではなく、故障することが常態であることを考慮しておかなくてはなりません。

 突発的な事故の発生は二つの点で風力発電のエネルギー・コストを押し上げる要因になります。
 まず第一に、稼働時間の損失です。レポートのグラフから平均的な稼働時間の損失の概略を推定すると16日/年程度になります。これは年間の最大稼働時間(365日)の4.4%にあたります。故障がないときの年間設備利用率が25%ならば、突発的な故障によって平均的に年間25×0.044=1.1%が失われることになります。故障によって耐用期間中の供給可能電力量が減少することが第一の損失です。
 次に、故障によって補修のための付加的な資源とエネルギーの投入が必要になります。この付加的な補修費用の支出が第二の損失です。

 特に大規模な事故による故障では、風力発電の致命的なダメージになる可能性があります。大規模事故の事例を少し見ておくことにします。事故の形態別には、ブレードの破損、発電機の破損、タワーの倒壊と言うことになります。この種の大規模な事故の補修費用は数1,000万円以上と言うケースも少なくなく、倒壊にいたっては場合によっては億円単位の支出になることも考えられます。


 大規模事故の原因としては、落雷、強風が主要なものです。このいずれの原因も屋外環境に曝された風力発電装置の形状から避けることの出来ないもので、根本的な回避策は残念ながら存在しません。
 大事故に対してとり得る対策は、風力発電装置を構造的により強固なものにすることです。しかし、これは初期投資額の増大につながり、エネルギー・コストの悪化につながります。ブレードの強化による重量の増大は発電能力の低下要因になるかもしれません。しかし、風力発電装置を強固なものにしたとしても落雷による事故は避けられないでしょう。

 ここで、前にも紹介した大豊風力発電所の稼動実績から、具体的な事故の影響を見ておくことにします。

 

 発電実績から、長期間にわたって発電を停止している期間はこの10年間に3回であることがわかります。

H.16〜H.17年 8ヶ月間
H.18、H.20年 各2ヶ月間

 この3回はかなり大規模な事故のようです。この明らかな事故による稼動時間の損失は、

(8+2+2)÷(12×9+9)×100=10.3%

 ですから、かなり大きな損失につながっています。更にこれだけ長期の補修期間を要する事故であることを考えると、復旧のために投じられた資源やエネルギー量もかなり大きいことが予想されます。

 この大豊発電所の事例が特殊なのかどうか不明ですが、風力発電の計画に当たってこの種の災害による影響をある程度考慮することは行っておくべきことだと考えます。
 風力発電の導入に当たっては、風力発電にとって避けられない費用である自然災害による事故を含めた突発的な故障に対して、既存風力発電所のデータを蓄積して、故障に対するリスクを適切に評価しておくことは不可避であろうと考えられます。

No.381 (2009/02/24)新エネルギーは環境破壊 そのB

 今回は、風力発電の発電量の推計について検討することにします。

 風力発電愛好者の方によりますと、現在の標準的な大型風力発電では、『平均風速が6.5m/秒程度で設備利用率は25%程度になり、EPTは1年程度』というのが常識のようです。EPTが1年については既に検討したとおりありえない数値ですが、ここでは設備利用率について考えることにします。
 まず、設備利用率の定義ですが、これは『定格出力で発電し続けた場合の発電電力量に対する実際の発電電力量の割合』で表します。通常『定格』という言葉は、『定常的に安定して』と言う意味ですから、風力発電の定格出力の定義にはいささか違和感を覚えますが、とりあえずこのままこの言葉を使うことにします。
 既に前回述べた通り、風の持つ運動エネルギーは風速の3乗に比例しますから、定格出力に達する風速をAm/秒、実際の風力発電所を通過する平均風速をBm/秒とすると、設備利用率は次の式で推定することができます。

設備利用率=(B/A)3×100(%)

 今、B=6.5m/秒、設備利用率を25%とすると、定格出力になる風速は次のように求めることができます。

25=(6.5/A)3×100 より A=(6.53/0.25)1/3=10.3m/秒

 以上から『平均風速が6.5m/秒程度で設備利用率は25%程度』と言うのは、定格発電能力に達する風速が10m/秒程度と言うことを示していると理解されます。

 以下、風力発電の計画の手順を踏みながら、発電能力推計における問題点を示していくことにします。

■風速の推定

 通常、過去の気象観測データから風力発電の適地を探します。建設場所が決まると、その場所(あるいはその近く)で通常1年間の風況調査が行われることになります。
 接地層では風速の鉛直分布が地表面の状態や地形によって強く影響を受けることになります。現在、風力発電施設の大型化によって、ハブ高(ブレードの回転中心)は50〜100m程度になっています。しかし風況調査では、調査費用の問題もあり、実際の風力発電のハブ高よりも低い位置で風況を調査することになります。その結果、風況調査のデータを元に風速の鉛直分布を仮定して高度変化によって風速を割増することでハブ高の位置における風速を推定することになります。
 第一の問題点は、この高度変化による風速の推定の信頼性の問題になります。通常風力発電における風速の推定にはべき乗則が用いられているようです。例えば次のようなものです。

U2/U1=(Z2/Z11/n
ここに、
U2:地上高Z2 における風速
U1:地上高Z1 における風速
n :指数法則のべき指数;ここではn=5

 あくまでもべき乗則で表されるのは仮定の風速分布ですから、風力発電建設場所周囲の環境条件や風の特性による影響を正しく反映しているかどうか不明であり、必ずしも正しい推定値を与える保証はありません。また、季節風帯に属する日本では、夏と冬の卓越風の風向が異なり、風向によって影響を受ける地表面の性状や地形が異なるため、一律の分布を用いて風速を推定することにも問題があります。
 第二の問題は、観測期間の問題です。通常、季節変化を捉える目的で観測期間は1年間です。しかし、当然のことですが年毎に風況は必ずしも一定ではありません。前回示した大豊風力発電所の発電実績を見るだけでも年毎に大きな変動があることをうかがわせます。観測した年次のデータだけで耐用期間中の平均的な風況を適切に推定できるかどうかは全く保証がありません。
 第三に、これは次節で扱う発電電力量の推計とも関係のある点ですが、風況調査において風の乱れ強度を観測していますが、乱流の特性を風力発電能力にどのように反映するかという手段を私たちは持っていないのです。乱流の特性については未だ理論的に定式化することが出来ていない問題であり、例え乱れの性状を観測しても、それがどういう影響を与えるのかは実際に風力発電装置を回してみなければわからないのです。
 おそらくブレードの動特性の問題は将来的にも理論化すること、あるいは風洞実験で再現することも難しいでしょうから、本来ならばこの種の問題は既設の風力発電について詳細なデータ収集を行い、経験的に推定精度を上げる努力をしなければならない問題でしょう。

 風力発電が計画の発電電力量を得られない問題は、風況調査が杜撰なことが主要な原因だと言う者もいます。しかしながら、例えマニュアルどおりの風況調査を行ってもここに示した問題は回避できないのであって、調査が杜撰だからと切り捨てられる問題では無いのです。むしろ的確な推定ができないと言うのが風力発電の本質的な特性なのです。

■発電電力量の推計

 既設の風力発電施設では、当初計画の発電電力量が得られずに、経済的に破綻する事例も少なくないようです。系統的な統計データとして『「北海道における風力発電の現状と課題〜稼働状況とメンテナンスの実態〜」平成17年3月15日北海道経済産業局』を参照することにします。
 この報告書から、計画設備利用率と実績利用率についての調査結果を示したのが次の図です。

 図の赤い線上は計画と実績が等しく、赤い線より上は実績の方が計画を上回る場合であり、下は実績が計画を下回る場合に対応します。図から、半数以上の発電施設で計画を下回っていることがわかります。
 計画を下回った理由として、計画通りの風況が得られなかった、故障による停止が多かった、パワーカーブ通りの性能が発揮できなかったというのが主要な要因として挙げられています。
 計画通りの風況が得られない点については前節で問題点を指摘しました。故障については後で触れることにします。ここでは、パワーカーブによる発電電力量の推計についての問題を考えることにします。

 まず、パワー・カーブから発電電力量を算出する方法を示しておきます。

 

 風力発電施設への入力風速波形を与えると、入力風速に対応したパワー・カーブ上の点によって発電出力を得ることができます。こうして得られた発電出力波形を時間軸の方向に積分することによって発電電力量を求めることが出来るのです(出力波形の着色部分の面積)。

 実際には、風況調査の結果を元に、風力発電装置のハブ高における風速を推定し、この風速を幾つかの階級に分け、各階級の範囲に含まれる風の吹いている時間を積算し、各階級の中心値の風速に対するパワー・カーブの発電能力との積を求めて、これをすべての階級にわたって加算することによって求めています。
 例えば、風速3〜5m/秒という階級に含まれる風が吹く積算時間が100時間、風速3〜5m/秒の中心の風速である4m/秒における発電能力を20kWとすれば、この階級に含まれる風による発電量は

20kW×100h=2000kWh

として求めるのです。これをカット・イン風速〜カット・アウト風速の範囲で加え合わせることで発電電力量を推計するのです。

 このパワー・カーブによる発電電力量の推計は、乱れのない風とは異なり実際の風の乱れの特性を適切に反映できないという致命的な欠陥があります。それが報告書の『パワーカーブ通りの性能が発揮できなかった』という要因として挙げられているのです。
 この件については、『電中研報告「風力発電の出力変動特性の分析と発電出力の簡易推定手法の開発」』の中で次のように報告されています。


背 景
最近、風力発電の伸びが顕著であるとともに、RPS制度の導入に伴い風力エネルギーの利用拡大についても検討されている。しかし風力発電の連系にあたっては、分散型電源の連系一般に関わる課題以外に、出力変動による悪影響が懸念される。一方、風速変動と出力変動の関係については不明な点が多く、広く用いられているパワーカーブによる出力換算の精度は高くない。(後略)


 電中研報告の図からわかるように、風力発電の発電能力は、実際にはパワー・カーブからかなり外れて激しく変動していることがわかります。おそらくこの変動幅は乱れの強さに大きく依存するものと考えられますが、乱れの強さを如何に推定精度の向上につなげるかは今後の課題であろうと考えます。
 ここの議論とは直接関係ありませんが、定格出力を瞬間的に大きく超えるケースも少なくないように見受けられます。乱れの強さ・突風率という風の性状による発電機の限界的な発電能力に対する定格発電能力の設定もかなり難しい問題と言えそうです。

 これらの問題を解析的に計算によって推定することは不可能です。また、実験による推定も非常に困難だと考えられます。
 まずデータを収集することが極めて困難なことが大きな問題です。風力発電装置の大型化に伴って、ブレードの回転半径は50mにも達している現在、回転半径内において風速や乱れ強さがどのように分布するのかを継続的に計測して数値化することは技術的にほとんど不可能ではないでしょうか?
 次に、それが可能だとして風洞実験でこれを再現することはこれまたほとんど不可能です。乱れの平均的なサイズを再現することすら困難を極めるでしょうが、様々な乱れが混合している非定常な流れを再現することは技術的に不可能です。

 現実的に可能なことは、既設の風力発電のデータを系統的に蓄積することで経験的に推定精度の向上を計るしかないでしょう。ただし、それでも気まぐれな風の経年変化は予測できませんからこれにも限界があることを認識しておかなくてはなりません。

No.380 (2009/02/22)新エネルギーは環境破壊 そのA

 前回の風力発電のモデル計算によって『風力発電のEPTは1年程度』等と言う主張は、全く非科学的な数値に過ぎないことがお分かりいただけたと思います。この例に限らず、風力発電や太陽光発電をはじめとする新エネルギーについての夢のような説明は、そのほとんどが科学的な実測データによって説明されたことがないのです。楽観的な机上の空論だけが一人歩きしているのです。
 それでも、前回の試算について、『条件がおかしい』、『わが町の風力発電の利用率はもっと高い』、『この町の風力発電はほとんど回っていないので利用率は10%未満だと思う』など等、色々な声が聞こえてきそうです。そうです、おそらく10箇所の風力発電施設の運転状況を比べたら、一つとして同じものはないのです。それが風力発電をはじめとする自然エネルギー発電の典型的な特徴であり、そして致命的な欠陥を示しているのです。

 あまり多くはないのですが、ネット上に風力発電の設備利用率の実績を公開しているものがあります。それを見るだけでも低い方では10%程度から高い方では30%を越えているところもあります。また同じ風力発電装置でも、ある年の設備利用率は10%台なのに、次の年は20%台ということもあります。また、同じ風力発電施設の隣接した同性能の風力発電装置の月毎の発電量実績の変動傾向や発電電力量はかなり違うということも見られます。風力発電の発電能力とは風力発電装置の設置場所による環境条件に非常に敏感であり、少しの条件の違いで大きく異なるのです。
 前述の通り、ネット上には具体的な実績データを公表している風力発電施設は少ないのですが、 『高知県公営企業局』 の施設に関して貴重なデータが公開されています。ここで紹介する大豊風力発電所の諸元は以下の通りです。

 大豊風力発電所の建設費は3.76億円です。公開データの発電実績をグラフ化したものを以下に示しておきます。

 

 この施設は、定格出力1,200kW(600kW×2)の施設です。H11年度からH20年度12月までの合計9年9ヶ月間の総発電量は17,577,867kWhです。この間の平均設備利用率は、

17,577,867kWh÷(1200×24×365×(9+3/4))=0.172=17.2%

です。平均的に見ると、比較的優秀な風力発電施設ではないかと思われます。しかし、グラフからわかるように、年毎の設備利用率や月毎の発電量実績は大きく変動しています。年間設備利用率で見ると最低H16年度の5.29%〜最高H14年度の25.07%間で大きな開きがあります。

 詳細な検討は後で行うとして、このように風力発電とは非常にばらつきの大きい不安定なシステムであると言うことが本質的な特徴であることを理解していただきたいと思います。

■風力発電の仕組み

 まず、風力発電の仕組みについて見ておきます。これは説明の必要も無いことでしょうが、風という大気の流れの持つ運動エネルギーの一部を風車によって捕捉し、この運動エネルギーで発電機を回して電気エネルギーに変換する装置です。発電量は風の強さに影響されることは言うまでもありません。
 では風の強さと風の持つ運動エネルギーとの間にどのような関係があるのでしょうか?自然の風のような乱流(色々な渦を含む流れと考えてください)の性質は現在でも良くは解っていないのですが、ここでは乱れのない流れだとして考えることにします。
 私たちが日常的に風の強さと言うのは風速で表されています。乱れのない流れの場合、流れの方向に直交する一定の面積を通過する風の持つエネルギーは風速の3乗に比例します。例えば、風速5m/秒の風の持つエネルギーを1とすると、風速10m/秒の風のエネルギーは(10/5)3=8になります。風速15m/秒の風では27にもなります。

 

東電八丈島風力発電所500kW風力発電施設の説明より

■風力発電『装置』の性能

 風力発電装置の性能は『パワーカーブ』で示されることが多いと思います。これは、風力発電施設を通過する風の風速と発電量の推計値をグラフにしたものです。上図に東電のHPからの例を示しておきます。
 風力発電装置は、発電機とこれに取り付けられた回転翼(ブレード)によって構成されていますが、風力発電装置を始動するためには、装置の静止回転摩擦抵抗を超える起動力が必要になります。例の場合、その風速は2.5m/秒になっています。これを『カット・イン風速』と呼ぶことがあります。
 パワーカーブでは、風速が高くなるにつれて発電量が多くなりますが、その様子は下に凸の曲線で表されています。これが前述のように風速の3乗に比例する曲線だと考えられます。
 パワーカーブは、発電量が『定格』に達すると風速に関わらず一定値になっています。風の持つ運動エネルギーは勿論風速の3乗に比例するのですが、定格出力を超えると、発電機の安全性を考慮して、余分な風のエネルギーを受け流すためです。具体的にはブレードの風に対する迎角(ピッチ)を変化させる(この装置のことをピッチドライブと呼ぶようです。)ことによって、あまり多くの風を受けないように調整するのです。
 例に示したパワーカーブでは風速10m/秒を越えるあたりからピッチを調整し、14m/秒で定格出力に達し、25m/秒を越えると風力発電装置の安全のために発電をやめるようです。この発電をやめる風速のことを『カット・アウト風速』と呼ぶことがあります。

■自然風の特性と定格出力

 少し脱線しますが、私はかつて橋梁の設計に携わっていたことがあります。30年前になりますが、学生時代には研究室の友人のテーマは本州四国連絡橋の南備讃瀬戸大橋という吊橋の耐風安定性についての風洞実験でした。 少し脱線しますが、私はかつて橋梁の設計に携わっていたことがあります。30年前になりますが、学生時代には研究室の友人のテーマは本州四国連絡橋の南備讃瀬戸大橋という吊橋の耐風安定性についての風洞実験でした。


南備讃瀬戸大橋(上)と崩壊する旧タコマ橋(下)

 長大橋梁において動的な耐風安定性が問題とされ始めたきっかけは、よく知られたアメリカのタコマ橋の風による自励振動による落橋事件でした。
 研究室の雑談で、風の力をうまく使えないものかという話をしたことがあります。ですから風の力をうまく使いたいという気持ちはよく解ります。しかし、そこで問題になったのは気まぐれな自然風の特性を如何に飼いならせば利用できるか?という点でした。
 また、研究室の別の友人は、北九州市に建設予定の高速道路のインターチェンジの高架橋による風の乱れについて研究していました。そこで、冬の北西季節風を狙って、小高い山の上にテントを張って数日間自然風の連続観測を行ったことがあります。風が強い日を狙って観測するわけですが、風が強いと言っても、のべつ強風が吹くわけではありません。テントが飛びそうな強風が吹いたかと思うと突然風が止まり、また次の瞬間には強風が吹くといった具合です。

 だいぶ脱線しましたが、自然風とは乱流であることが避けられないのです。乱流とは、乱れのない流れと異なり、風の流れの方向と直行する方向の速度成分を持つ流れです。イメージとしては様々な大きさの渦(竜巻のような3次元的な構造を持つ渦)が全体として主流の方向に流れているような流れです(下図参照)。

 この図はJAXAが数値モデル(DNS)を使って乱流構造を画像化したものです。赤が高速領域、青が低速領域、白で示したのが渦を表しています。
 自然風では、高度の低い層では地表面の影響を強く受けることになります。高度1km程度までを大気境界層と呼び、更に高度100m程度までの層を接地層と呼び地表面の強い影響を受けます。大気境界層の平均的な風速の鉛直分布は高度の対数に比例すると考えられています。また、風速分布や乱れの強さは地表面の性状(表面粗度:例えば舗装された地面なのか草原なのか森林なのか)、あるいは周辺の地形の影響を強く受けます。

対数分布で表される風速の鉛直分布の例
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kisho/kisho10.html

 乱れのない風であれば、ベルヌーイの定理から気圧と風速が定まるとどのような風なのかの概要を定義することができます。ところが乱流である自然風は、地表面の性状や地形などの影響によって、様々なスケールの渦を色々な割りあいで含むために、一口で乱流というものを定義することはできません。同じ風速であっても、乱れの性状によってその特性は大きく変わるのです。
 一般に風速と言う場合、それは10分間平均風速です。これに対して瞬間風速とは3秒間の平均風速です。瞬間最大風速の風速に対する比率=(瞬間最大風速)/(風速)を突風率と言い、通常1.5〜2程度といわれますが、場合によっては3を超えることもあります。
 一般に、地形が複雑で表面粗度が大きいほど乱れが大きく(大きなスケールの渦を含む)突風率も大きくなります。また、平均風速が大きいほど乱れは大きくなります。

 さて、自然風の特徴が少しはお分かりいただけたでしょうか?この自然風という乱流は風力発電に利用しようとする場合、非常に厄介であろうということがお分かりだと思います。
 通常の火力発電では、タービン出力を完全に制御できるため、定格発電能力に対する発電機本体の余裕はそれほど大きくする必要はありません。タービンの最大出力に見合う発電機を使用すればよいため、設備の利用効率はきわめて高い水準で継続的に営業運転することが可能です。
 風力発電では、パワーカーブで示した通り、発電電力量が定格に達すると迎角を調整して発電出力を一定値に保とうとします。しかし、風力発電の定格出力は、発電機の定格出力とは全く違うのです。
 既に述べたように、風力発電の動力源は制御不能な自然風の運動エネルギーであるため、絶えず大きく変動し続けています。しかも変動幅=突風率は風速が高くなるほど大きくなるのです。
 例示した風力発電装置において風速10m/秒で運転していたとします。突風率が2程度の乱れを持つとして、突然20m/秒の風が吹いて来たらどうでしょうか?風力発電装置は風速計のデータからピッチドライブでブレードの迎角を調整して対処し、定格の発電量を維持しようとするでしょうが、どうしても迎角の調整に遅延が生じることは避けられず、短期的には定格発電能力を大きく超える電力が生じることになるでしょう。また、カット・アウト風速を超える30m/秒の風が吹いたとしたら、迎角制御による調整では間に合わず、これまた過大な電力が生じることになります。
 このような事情から、風力発電に使用される発電機は風力発電装置としての定格発電能力に対する余裕をかなり大きくとっておかなくてはならないのです。そのため、風力発電に使用される発電機は、おそらく運転期間中の大部分において発電電力に対して過大な設備になっており、これが風力発電による電力が高価になる本質的で致命的な欠陥なのです。
 この自然風の乱れの特性を考慮して、パワーカーブの定格発電能力に対してどの程度の余裕を持つ発電機を選択するかが風力発電装置のコスト・パフォーマンス=エネルギー・コストに大きな影響を与えることは明らかです。余裕を大きくとりすぎれば発電能力当たりの設備費が膨張し、石油利用効率の低下につながります。反面、余裕を小さくすれば発電機破損の危険性が大きくなります。実際に海外だけでなく国内でも数年前に九州のある風力発電施設では台風の強風時に過負荷によって発電機から出火して焼失するという事故が起こっているのです。

 このように、自然風の中で運用される風力発電装置の『定格』を定めると言うのは非常に難しい問題です。風力発電装置を建設する場所の風況の特性を考慮して、発電機の限界的な最大発電能力にどの程度の余裕をもって定格発電能力を設定するのかと言う判断には、絶対的あるいは一般的な基準は存在しないのです。

No.379 (2009/02/21)新エネルギーは環境破壊 その@

 さて、ここ数年人為的CO2地球温暖化仮説の検討に集中していましたが、一応の結論が出ました(笑)ので、本来の環境問題について、少しづつ考えることにしようと思います。

 洞爺湖サミットを終え、米オバマ政権の誕生、更にはオバマによる『グリーン・ニュー・ディール』政策に遅れをとるまいと、我国でも『温暖化対策』、中でも新エネルギー政策が推し進められようとしています。
 このHPでは、新エネルギーのような低効率のシステムを大規模導入すれば、確かに経済規模は拡大する=経済拡大政策としては有効だが、環境問題は更に悪化すると繰り返し主張してきました。
 そのおかげで、太陽光発電や風力発電愛好者の皆さんからは罵倒され続けています(笑)。私の主張が全く的を外れたものならば罵倒されたところで仕方ないのですが、どうも感情的な反発ばかりで、事実に基づいた批判がないことが物足りないのですが・・・。
 勘違いされては困るのですが、私は風力発電や太陽光発電に反対しようなどと言うつもりは毛頭ありません。私の判断基準は、あくまでも「貴重なエネルギー資源である石油・天然ガスや石炭を浪費する、環境負荷の大きい発電システムの導入はすべきではない」と言うことです。
 太陽光発電や風力発電愛好者の方には、この辺をご理解いただきたいと思うのですが・・・。愛好者の方が個人の「趣味」で太陽光発電パネルを自宅に設置しようが、小型風力発電装置を設置しようがそんなことに干渉するような無粋なことをするつもりは毛頭ありません(笑)。問題は社会的な電力供給システムにエネルギー・資源浪費的で制御不可能な発電システムを大規模・組織的に組み込むべきではないと言うことなのです。

風力発電にEPTが定義できるか?

 ここでは、最近では新エネルギーの中心的な技術の一つと目されている風力発電について考えてみることにします。NEDOや風力発電設置事業者や風力発電愛好者の皆さんは、風力発電は実質的なエネルギーを生み出すシステムであり、投入エネルギーを風力発電で得た電気で取り戻すための期間=EPT(Energy Payback Time)は1年程度だと信じているようですが、私には到底理解できません。風力発電の実態とはどういうものなのかを考えてみましょう。

 風力発電は既に実績も多く、本来ならば実績に基づいてその実態を検討すべき時期に来ているはずなのですが、どうしたわけかそのようなレポートはほとんど存在しませんし、実績を示すデータもあまり入手することができません。
 これは、つくば市の風力発電訴訟からも判る事ですが、計画通りにうまく発電を続けている風力発電施設が少ないことの反映だと考えています。もしうまく行っているのならば、おそらく実績を示すデータを使って大いに宣伝するはずですから・・・。これは私の邪推でしょうか?。

 そのようなわけで、ここでは断片的な情報から仮想のモデルを作って検討することにします。

定格出力 1,000kW
設備利用率 25%
初期費用 300,000,000円(内50%NEDO補助)
耐用年数 17年
売電価格 11.5円/kWh

  さて、このモデルが、耐用期間終了時に収支が均衡するという条件で考えることにします。実際には採算割れする事例も少なくないようですから、かなり楽観的な仮定ですが・・・。まず、耐用期間中の総発電量を求めます。

1,000kW×24(h/日)×365(日/年)×17(年)×0.25=37,230,000kWh

次に、売電収入を求めます。

37,230,000kWh×11.5(円/kWh)=428,145,000円

発電経費をA円として、17年間で収支が均衡するものとします。この際利払いは無視しておきます。

300,000,000円(初期費用)+A円(経費)=428,145,000円(売電収入)+150,000,000円(NEDO助成金)
∴A円=428,145,000円+150,000,000円−300,000,000円=278,145,000円

風力発電電力の原価は次の通りです。

(300,000,000円+278,145,000円)÷37,230,000kWh=8.06円/kWh+7.47円/kWh=15.5円/kWh

 以上の試算をまとめると次の表に示す通りです。

定格出力 1,000kW
設備利用率 25%
初期費用 300,000,000円/1,000kW(内50%NEDO補助)
発電経費 278,145,000円/(1,000kW×17年間)
耐用年数 17年
売電価格 11.5円/kWh
電力原価 15.1円/kWh

 さて、この順調に運転され耐用年数を経過したモデル風力発電システムのEPTを考えることにします。

 一般に、工業製品の価格には、その製品を作るまでのプロセスで投入されたエネルギーの費用(エネルギー・コスト)が含まれています。風力発電からの生産物である電力原価にもエネルギー・コストが含まれています。
 風力発電の場合、特殊なのは生産物である電力の原料は自然風の持つ運動エネルギーという自由材です。この場合、生産物である電力の生産コストに含まれるエネルギー・コストとは、風力発電装置の製造と風力発電装置の運転維持という発電経費に含まれるエネルギー・コストになります。工業的な機械生産や機械装置の操業におけるエネルギー・コストを費用の20%程度と仮定しておきましょう。これについては異論のある方もいらっしゃるでしょうが、それほど実態とかけ離れたものではないと考えています(積上げによる詳細なデータをお持ちの方は是非、情報提供をお願いします。)。

 モデルケースの場合、発電原価に占めるエネルギー・コストは次の通りです。

15.5円/kWh×0.2=3.1円/kWh

 さて、エネルギー・コストとは具体的には石油価格と考えられます。投入する重油価格を20円/Lとしておきます(ここ数年、原油価格は政治・経済のカードとして乱高下していますが、高騰前の価格で考えておくことにします。)。3.1円は重油3.1/20=0.155Lに相当します。重油の燃焼熱を9Mcal/L=37.8MJ/L=10.5kWh/Lとすると、重油0.155Lの燃焼熱量=エネルギー量は

10.5(kWh/L)×0.155(L)=1.63kWh

 つまり、風力発電で1kWhの電力を得るために燃焼熱1.63kWh分の重油の投入が必要なのです。

エネルギー産出比=(生産エネルギー量)/(投入エネルギー量)=1/1.63=0.61<1.0

エネルギー産出比が1.0未満であれば、産出エネルギーによって投入エネルギーを回収することができないことを意味しています。つまり、EPTは存在しないのです。
 ちなみに、火力発電のエネルギー産出比は0.35〜0.5程度であると考えられます。風力発電がエネルギー産出比0.61を安定的に維持し、発電出力が制御可能であれば、石油利用効率と言う側面だけから考えれば火力発電に取って代わる可能性を否定しません。

 さて、ではNEDOや風力発電愛好者の皆さんが言う『風力発電のEPTは1年間程度』と言う主張について検討してみましょう。この場合、耐用年数を17年とするとエネルギー産出比は17になります。電力1kWhを生産するために投入される重油の熱量は、1/17=0.059kWhになります。これを重油価格に換算すると、

0.059(kWh)÷10.5(kWh/L)×20(円/L)=0.11円

風力発電電力の原価に対するエネルギー・コストは

0.11/15.5=0.0071=0.71%

これは、風力発電設備が工業製品である限り絶対にあり得ない数値です。

参考:資源エネルギー庁/エネルギー白書2007

 

No.378 (2009/02/06)温暖化?寒冷化??・・・

 さて、2月2日の日経の記事以来、現在の世界は寒冷化に向かっているのかどうかという話題がにぎやかなようです。私自身は温暖化しているのか、寒冷化しているのかということにはさほど興味はありません。私の興味の中心は気温の変動の原因がCO2濃度の変動によるのか、あるいは気温変動がCO2濃度を変動させるのかという点であることはこれまでも述べてきたとおりです。ただ温暖化とは異なり、寒冷化しはじめているということになればこれは飢饉の襲来や世界的な食糧不足に直結する重大な問題ではあります。
 私自身は、これまでのこのHPにおける検討も含めて全球的な気温変動は自然変動が主因であり、人間の対応によってどうこうなる問題だとは考えていません。東工大の丸山さんが言うように、人類は常に自然の気まぐれな気候変動に翻弄されてきているのであって、これに受動的に対応策を考えるしか打つ手は無いと考えています。人間の対応、例えばCO2排出量の削減で気温をコントロールしようなどというのは傲慢な独りよがりの考えだと思っています。
 さて、日経の記事で一気にメジャー(?)になりつつある寒冷化ですが、実は昨日今日に始まった傾向ではありません。昨年も読者からの情報提供を元にこのコーナーNo.320『一喜一憂・・・』でも取り上げたとおりです。今回は、気象庁の最近のデータ、日経記事のグラフと同じ時期の気温変動の状況を紹介しておきます。日経の記事の観測値は年平均気温偏差のようですが、もう少し詳細な傾向を見るために月平均気温偏差の13ヶ月移動平均を示すことにします。

 

 まず注意しておきますが、世界平均気温偏差は全球に散らばる観測点の月平均気温偏差の全球に亘る平均値ですから、『離散的データによる自然現象の把握について』で述べている通り、日本という局所的な空間的な広がりのデータに比べて平滑化されており、極値の値は小さくなるのは不思議なことではありません。この図で比較するのはあくまでも変動傾向の方が重要です。この点に注意しておいて下さい。

 まず、世界平均気温偏差ですが、これは日経記事の図と基本的に同じ傾向を示していることがわかります。1990年以降、1995年と1998年に明確な極大値が発生し、1993年、1996年、2000年に明確な極小値が発生し、それ以降はあまり大きな変動はなく、2006年頃から低下傾向を示しているように見えます。ただこのまま更に気温の低下傾向が継続するかどうかは微妙です。確かに太陽の活動は現在予想以上に平穏で、太陽黒点がほとんどなくなっているともいいます。このまま黒点極小期のような黒点消失期が長期間継続することになれば気温の低下は避けられないでしょう。私たちはまず温暖化ではなく寒冷化による飢饉の発生を想定した対応に取り掛かるべきだと考えます。

 これに対して、日本の気温変動も傾向的には世界の動向と同じような傾向を示しています。ただ、気温の変動幅は世界の平均的な傾向よりもかなり顕著に現れているようです。これは北半球中緯度の大陸東岸に隣接する島国である日本の局所的な特殊条件を反映していると考えられます。2000年以降の大きな気温振幅はそれが顕著なようです。

 世界気温の曲線から、2000年以降は気温の上昇傾向は鈍化し、ほとんど変化していないようであり、この2,3年に限れば低温化しているといっても良いかもしれません。チューリッヒ番号24に対する太陽黒点の増大(=太陽活動の活性化)が遅れている、あるいは消失した状態がその一因であることは十分考えられます。
 もう一つ重要なことは、例えば、2004年のように、世界の気温が前年より低下していても、日本の気温は前年よりも大きく上昇することもあるのです。全球的な地球の気温の変動と局所気候は必ずしも同期しないのです。『一喜一憂・・・』にも書いたとおり、局所的な事象をいくら集めても、温暖化を示すのと同数の寒冷化を示す事象を示すのはそれほど難しいことでは無いのです。身の回りの出来事と全球的な気候の変動傾向を直接結びつけるような議論は無意味なのです。

 さて、では日経の取材に対して江守氏は殊更PDOなどという一般人には分からないような指数を持ち出してまで太陽活動との関係に触れようとしないのでしょうか?これは憶測ですが(笑)、CO2地球温暖化仮説を支持し気候シミュレーションを絶対視する江守氏らは、太陽活動の変動が気温変動の主因であっては困るのです。彼らの仮説では、太陽活動を放射強度だけで捉え、太陽の放射強度の変動は小さく、その影響は気候予測では無視し得るとしてきました。もしこれを認めると、CO2温暖化仮説ないし気候予測シミュレーションの信頼性が瓦解してしまうからにほかならないからでしょう。

No.377 (2009/02/03)『日経』のCO2温暖化の記事・・・

 昨年来、日経新聞はCO2温暖化騒ぎに対して「微妙」なスタンスを示しています。どうも同一の記者らしいのですが、朝日の記者などに比べると多少目端が利いた記者のようです。ただ、あくまでも商業紙の記事ですからそれほど褒めるほどの内容ではありませんが・・・。まず、記事を紹介することにしましょう。


日経新聞2009年2月2日朝刊12面
 昨年の気温、21世紀で最低 
地球の気候当面は「寒冷化」
自然変動が温暖化抑制?

 地球の平均気温の上昇が頭打ちとなり、専門家の間で気候は当分寒冷化に向かうとの見方が強まってきた。地球温暖化の主因とされる二酸化炭素(CO2)の排出は増え続け長期的には温暖化が続きそうだが、自然の変動が気温を抑制するように働き始めたとみられている。気温の推移は、温暖化対策の論議の行方にも影響を与えそうだ。

 平均気温は1970年代半ば以降ほぼ一貫して上昇。しかし98年をピークにこの10年間は横ばいないし低下し、2008年の気温は21世紀に入り最も低かった。
 この結果、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が予測する気温の上昇カーブとの隔たりが拡大。IPCCは気温が2000〜25年に10年あたり約0.2度のペースで上昇するとしているが、実際は最近十年で約0.2度下がった。
 気温低下の原因として専門家が有力視しているのが、海の自然変動の影響。太平洋では数十年ごとに水温が上下する太平洋十年規模振動(PDO)という現象が知られる。PDOの高温・低温期は、平均気温の上昇・下降期とほぼ連動。2000年前後にPDOが高温期から低温期に切り替わったと見られている。
 前回のPDO低温期は70年代半ばまで約30年間続いた。今回も同じ規模で低温期が続くと、2030年ごろまで平均気温が上がらない可能性がある。IPCCの長期見通しが正しければその後は気温が再び上昇することになる。
 IPCCに参加する研究者は、近未来の気温を正確に予測するため、自然変動の発生時期を考慮した計算機シミュレーションに乗り出している。
 寒冷化との関係で太陽活動の「異変」も注目されている。米航空宇宙局(NASA)は昨年9月、「太陽活動が約50年ぶりの静かさ」と発表。その後も太陽活動は静かな状態が続いている。太陽の日射量の変化のほか、太陽磁気の変動が地球の気候に与える影響への関心が高まっている。
 IPCCは2007年の報告書で、今世紀末までに最大6.4度の気温上昇を予測している。


 さて、記事に表れている太平洋十年規模振動=PDO(Pacific Decadal Oscillation)指標の実際の変動を気象庁のHPから引用しておきます。


PDO指数の時系列(1901年1月〜2005年8月)
月平均値が正のときを赤、負のときを青で表しています。実線は3か月移動平均値です。

 何の事だか良く分からないPDOなど殊更に持ち出さなくても、海面水温と気温変動が同様の傾向を示すことは周知の事実です。それはそうでしょう、地表面の70%以上は海面なのですから、気温と海面水温は同じ傾向を示すのは至極当然のことです。例えばこのHPにも掲載している次の二つの図を比べれば一目瞭然です。 
 何も最近になって突然海水温の影響が気温を変動させたわけではなく、常に両者は連動しているのです。日経の記事の論理でいえば、海水温が低温化することによって気温が低下するのと同様に、海水温が高温化することによって気温は上昇するのです。海水温が低下するのを『自然変動』と言うのなら海水温が上昇することも『自然変動』であって、要するに気温変動は上昇傾向を示そうが下降傾向を示そうが、いずれも自然変動ということになります。CO2温暖化仮説を支持する江守氏らが言うように、気温の上昇はCO2濃度の上昇の影響であるが気温の低下は海水温の低温化が原因などというのはご都合主義の言い分に過ぎないのです。

 

 

 CO2地球温暖化仮説で説明しようとしていたのは正にこのような『気温や海面水温の変動がどうして起こるのか』ということです。その上でCO2地球温暖仮説を主張する者たちはこのような変化は人為的なCO2の増加で説明できると強弁してきたのではなかったでしょうか?今更、海水温が下降局面に入ったから気温が下がったなどというのは誤魔化しというしかありません。正にお笑いです。日経の記者氏は知ってか知らずかは測りかねますが、間抜けな記事を書いているに過ぎないのです。
 海面温度が低下することは気温が低下するのと同じように結果なのです。問題としているのはあくまでも気温や海面水温がどうして低下傾向を示しているのかを明らかにすることなのです。記事の後半に述べられている太陽活動の静穏な状況が続いているというのは一つの有力な可能性だと考えます。
 いずれにしても、記事の主張は後に紹介する『専門家の見方』という付帯記事の江守氏の主張を鵜呑みにしている誠に滑稽なものです。ここで気温と海面温度が連動しているという説明ではあまりにも情けないので、格調高い日経の記事にすべく『PDO』などという分かりにくい、崇高な理論を持ち出して読者を煙に巻くところが姑息です(笑)。では、付帯記事を紹介しましょう。


 専門家の見方 

いずれ温暖化に反転
江守正多・国立環境研究所温暖化リスク評価研究室長の話

 気温変化はCO2などの増加によるなだらかな上昇に、様々な周期の自然変動による凸凹が重なって表れる。海洋の数十年規模の自然変動が現在は低温局面に入っており、長期的な上昇傾向を打ち消していると考えられる。
 IPCCの将来予測の根拠になっている計算機シミュレーションでは、自然変動も再現されるが、その発生時期までは特定できていない。このため気温上昇の予測は複数の計算結果が平均された直線的な上昇線で示される。目下の気温の推移と食い違って見えるのはそのため。IPCCの予測が外れたとの批判は当たらない。
 自然変動はいずれ反転し、今度は気温を押し上げることになる。十−二十年後には急速な温暖化が訪れるだろう。


 この江守氏の主張は相変わらず非科学的であり、開いた口が塞がらない(笑)ものです。正に後出しじゃんけんであり、厚顔無恥も極まれりです。前述のように海面温度が気温を支配するなどというのは無意味です。問題はなぜ海面温度が低下傾向を示しているのか、なのです。
 彼は、(過去の)自然変動は再現できると言いますが、これは結果論であって、彼らお得意のパラメーターを弄んでどのようなお好みの結果も自由自在です。ただしそれは自然科学的な正しさとは一切関係のないことです。自然現象の発生を予測することは占い師でなければ不可能ですから、数値シミュレーションによる将来予測は出来ないと表明しているのです。無数の解が存在可能な非線形問題において高々数種類のアンサンブルを用いて一体何が説明できるのか、愚かなことです。沖縄高専の中本さんが主張するように、気象現象は再現性の期待できない問題なのです。このような問題に対してアンサンブル平均を用いても解の信頼性が上がることはありません。
 これだけ予測と実測値が食い違っても『外れたとの批判は当たらない』というのであれば、一体どの程度まで食い違えば外れたと判断するのでしょうか(笑)?『自然変動はいずれ反転し、今度は気温を押し上げることになる。十−二十年後には急速な温暖化が訪れるだろう。』とは手前勝手な希望的な観測であって何の科学的な根拠もなく、これでは競馬の予想屋以下です。20年先まではCO2温暖化仮説による予測の当否を判断出来ないというのでは・・・。外れたところで20年先には江守氏もどこかに天下りしてしまっているのでしょう。言いっ放しで結構なことです。


 専門家の見方 

気温上昇は最大1度
赤祖父俊一・米アラスカ大学名誉教授の話

 IPCCが温暖化の主因と見ているCO2の増加は今も続いているのに、気温の上昇は止まり、海水面も降下し始めている。IPCCは予測の誤りを認め、直ちに公表すべきではないか。
 地球の気温は小氷期と呼ばれる寒冷期からの回復が1800年代から続いており、その上昇ペースは百年で0.5度。過去百年の気温上昇は約0.6度なので、近年の気温上昇の大部分は小氷期からの回復分と見なすことができる。これに数十年規模の自然変動が作用して今は気温上昇が抑えられている。
 小氷期からの回復が今後も続けば、今世紀末までの気温上昇は約0.5度。そのときに数十年規模の自然変動が温度を上げる方向に働いた場合でも、上昇幅は最大1度程度に留まるだろう。


 赤祖父さんの主張はほぼ同意できるものです。数字を弄ぶ江守氏らとは違い、観測者のデータからの主張は重いと考えます。

 結局日経の記事は、気温が低下傾向にあるという観測事実を報道したことにはそれなりの意味がありますが、本文の主張は江守氏らCO2地球温暖化仮説を支持する内容であり、目下のCO2温暖化対策の狂騒状態、グリーン・ニューディール(笑)の愚かな行動に棹差すつもりはないようです。なかなか見事な処世術と言ってよいでしょう(笑)。

No.376 (2009/01/28)学問の自由とは何か?

 横浜市は、日本の科学技術振興のためという触れ込みで『横浜サイエンスフロンティア高校』という、科学教育に特化した公立高校を新設し、今年から生徒の募集を始めました。『フロンティア』という言葉は沖縄高専の中本さんによると、旧科学技術庁の学閥を中心として北から南まで日本全国の教育研究機関の中に広がっていったということです。要するに、国家や資本に奉仕する国家的巨大教育研究プロジェクトであるということを表明しているのであろうと思われます。温暖化問題でなじみのあるものとして『地球フロンティア』は皆さんご存知の通りです。
 今回の横浜サイエンスフロンティア高校とは、こうした国家プロジェクトに奉仕する優秀な若者を早い段階から組織的に育成しようというものだと考えられます。
 科学振興といえば、悪いことではないように思われるかもしれませんが、あくまでも従順に『国家・資本に奉仕する』ことが目的であり、一般大衆のための科学振興ではないことに注意しておかなくてはなりません。

 この問題も含めて、科学を含めて学問が国家や資本によって、これに奉仕するように組織化されている状況は非常に危険です。既に国立大学を始めとする教育機関の独立行政法人化によって、国家や資本によって研究分野の選択や経済的な首根っこが押さえられているのが現状です。
 そのような中で、大学運営においても国家や資本の言いなりになる学長を配置しようとする動きが始まっています。既に新聞報道などでご存知かもしれませんが、富山大学の学長の選任に当たって、大学関係者よりも学外の政治・官僚・資本の意向を重視した人選が行われています。大学の自治・学問の独自性を破壊する危険な兆候です。

 以下、沖縄高専の中本さんのmixiの書き込みを転載させていただきます。前半は、中本さんに届いた『日本科学者会議沖縄支部からの電子メール(JSA沖縄支部電子メールニュース)』です。


皆様

富山大学人間発達科学部の野平慎二です。本日は、不躾ながら、賛同署名のお願 いがあり、メールさせていただいています。

昨年12月、富山大学の学長選考会議は、2度にわたる教職員の意向投票において、いずれも2割の得票しか得られず、候補者3名のなかで最下位に沈み、事実上不信任の評価を下された現学長を再任しました。昨日の朝日新聞でも取り上げられていますので、概略はそちらをご覧ください。

http://www.asahi.com/national/update/0114/TKY200901140350.html

また、昨年中に出された4学部の異議申し立ての声明に対し、富山大学の監事が、個人的な見解をふまえながら監査を実施するという新たな問題が生じています。(この監査は富山の代表的な企業グループからの「出向」身分で、選考会議議長もまた同グループの親族の1人です)

このような事態に対し、教職員の側では、有志の会を母体として、再任の辞退と選考のあり方の再検討を求めています。その一環として、全国の方々に富山大学の現状をお知らせし、賛同していただける方からの署名を集めることといたしました。

今回の問題は一地方大学の問題であるにとどまらず、大学の自治や学問の自由にかかわる全国問題であると理解しています。趣旨に賛同していただける場合には、以下のHPのなかの「賛同署名フォーム」から署名していただきますとともに、このメールおよびURLをお知り合いの方々に広く転送していただきますよう、お願い申し上げます。

富山大学発 日本の大学の危機(学長選考の異常さ)を全国に訴える会
http://tomidaikiki.hp.infoseek.co.jp/

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以下は署名の例です。

氏名 中本 正一朗
所属 国立工業高等専門学校機構沖縄高専
職名 教授

メッセージ
産業界代表に大学長を選ばせてはなりません。
教育者や研究者が所属する機関長を選挙で選ぶのは私が知っているアメリカの大学や国立研究所での慣習でした。
産学官という掛声で大学の教育と研究を破壊することが1990年代になって流行してきたようです。この危険な流行を止めなければますます日本の高等教育はもちろん、初等教育も中等教育も行き着くところまで雪崩の如く崩れていきます。
富山の危機は我々の危機です。富山大学の学長を産業界の代表に選ばせてはなりません。全国の教育機関に働く人々に富山の危機を訴えましょう。


 

No.375 (2009/01/28)オバマ

 米国新大統領オバマの就任前後の日本の報道は、この国は米国の属国かと思われるほどのお祭り騒ぎでした。日本の報道機関の無能振りを示した事件だと思います。

 オバマは勿論、残念なことですが我国の麻生に比べればはるかに理知的で有能な政治家であろうとは思います。しかし、彼の登場で全てがうまく行くことなど無いのは分かりきったことです。所詮オバマは米国の大統領、つまり米国の利益を最大限に追求する政権なのです。ブッシュとの違いはその米国内におけるバックグラウンドの違いだけです。ブッシュはどちらかと言えば米国の伝統的な古い勢力の代表であるのに対して、オバマはより新しい新興勢力の代表だということです。
 その姿勢オバマの政策に良く現われているようです。彼の目指す中心的な政策は米国の経済の建て直しです。そこには二つの要素があります。

 まず一つはブッシュの中東政策による戦費の膨張による経済的な疲弊を回復することです。具体的にはイラクからの早期撤退と同時に、アフガニスタンの既得権益の確保を目的に兵力をアフガニスタンに傾注することです。本来9.11の報復目的という文脈ではアフガニスタン・イラク侵攻はいずれも全く大義のなかったことは既に明らかなことであり、本来ならば両国から即時米軍は撤退すべきです。
 しかし、オバマは見込みの無いイラクからは早期に撤退するが、アフガニスタンの米国権益を確立したいと考えているようです。ある意味では面子にこだわるブッシュ以上にしたたかな現実主義者ということです。中東・イスラム圏に対する米国の本質的な姿勢が変わっていないことはオバマのイスラエルに対する姿勢によく現われていると考えます。
 アフガニスタンの旧タリバン政権にしろパレスチナのハマス政権にしろ、これはテロ組織ではなく民衆の信任を受けた正式な政権なのです。米国は自国の利益のためであれば、正当な政権であろうともテロリストというレッテルを貼り付けることで武力的に攻撃するという手段を全く放棄していないのです。この点を見誤ってはいけません。オバマは平和主義者などということは無いのです。
 こうしたオバマの世界戦略を見れば、米国にとって重要な局面には集中的に直轄の米軍を傾斜注入することと同時に、あまり重要でない部分は他国に肩代わりさせることを狙っているように思われます。これは、おそらく東アジアにおいて、米国の世界戦略の一翼として日本の更なる軍事介入の要求となって現われると考えられます。おそらくソマリア沖への日本の派兵への要求も強くなることが予想されます。もしかすると日本の核武装への要求も強くなるのかもしれません。注意しておかなくてはなりません。

 そしてもう一つのオバマの政策は『グリーン・ニューディール』政策と呼ばれるいわゆるカッコつきの「環境産業」の振興です。ブッシュは伝統的な石油メジャーよりの経済政策を採ってきたわけですが、オバマは当面の世界的な趨勢である新エネルギー路線に転換しようと考えているようです。その背景は単純にいえばそのほうが今後のマーケット拡大の幅が大きく、儲かる可能性が高いと判断したからです。
 現在考えられている石油に代わるエネルギー技術は、本質的には石油によるエネルギーシステムを基本にしていますが、技術的に迂回度が大きいために、石油以外の鉱物資源をより多く消費する=産業規模が大きくなるために、経済規模が大きくなることは明らかです。
 単純な例で考えれば、普通のガソリン・エンジン自動車の車両価格は100万円のオーダーであるのに対して、同等の機能の燃料電池車の車両価格は10000万円=1億円のオーダーです。燃料電池車が高価なのは、それだけ多くの希少資源を含む大量の資源とエネルギー(=石油)消費を反映しているからにほかなりません。太陽光発電や風力発電についても同じです。
 科学的かつ冷静に考えれば、こうしたカッコつきの「環境技術」の大規模導入は更なる工業生産の増加を意味しますから、確かに経済政策としては有効ですが、反面、環境問題は更に悪化することを示しているのです。

 今回はオバマ米国政権の政策の概要を見てきたわけですが、本質的に米国の世界戦略が変わったのではない事、米国政権は米国の利益「だけ」を考えているという点を銘記し、浮ついた期待を持つべきではないことを確認しておきたいと思います。

No.374 (2009/01/23)温室効果ガス観測衛星「いぶき」

 本日、温室効果ガス観測衛星「いぶき」が打ち上げられました。ニュース報道では二酸化炭素やメタンガス濃度を測定する衛星ということで紹介されています。しかし、当たり前のことですが宇宙空間の衛星から実際に大気中の二酸化炭素濃度を測定することなど出来ません。ではどうするのか?温室効果ガスは赤外線を吸収する能力のある気体のことですから、宇宙空間から地球からの赤外線強度をいぶきのセンサーで観測することによって、地表面と衛星間にある大気に含まれる温室効果ガスの濃度を『推定』しようということです。
 しかし、これは技術的には非常に困難なことであろうと思われます。また、観測結果から推定された二酸化炭素濃度を検証することも容易なことではないと考えられます。なぜなら、推定値を検証するためには、実際に観測点の二酸化炭素濃度や大気組成、エアロゾル濃度を同時刻に観測できる体制が必要だからです。
 いぶきの観測結果から何らかの数値的なアルゴリズムに従った処理で二酸化炭素濃度を推定するわけですが、これではその推定値を検証して数値アルゴリズムを改良することさえおぼつかないと考えます。

 この件について、Wikipediaの関連記事を以下に一部引用しておきます。


目的
いぶきは、京都議定書の第一約束期間(2008年〜2012年)における地球上の温室効果ガス濃度分布の測定と、長期的な気候変動予測に必要なデータの取得のために開発された。

1997年、京都で第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)が開催され、京都議定書が採択された。それを受けて、第一約束期間に日本が行うべき温室効果ガス観測ミッションとして、以下の目標が定められた。

a.. 温室効果ガスの全球濃度分布の測定
b.. 二酸化炭素吸収排出量の亜大陸単位での推定誤差の半減
c.. 温室効果ガス観測技術基盤の確立

また、1992年からは、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により提案された計画である全球気候観測システム(GCOS, Global Climate Observation System)がスタートしている。 気候関連問題への対処に必要な情報の取得と、必要とする全ての利用者に得られた情報を確実に提供することを目標としているが、測定ポイントは約319個所(2006年5月時点)と限られているうえに地理的にも偏りがあり、それぞれ異なる機関によって観測されていたため、空間的分解能やデータの連続性に欠けていた。

いぶきにより、測定ポイントは地球表面を約180kmのメッシュで区切った約56,000個所へと飛躍的に向上する。また、同一のセンサによる地球全体の観測が可能なため、全地点を同じ尺度で継続的に観測を行うことができる。

こうして得られた衛星からのデータと地上での観測データを組み合わせ、シミュレーションモデルにかけることによって、温室効果ガスの濃度分布を高い精度(目標1%)で推計することができる。

これにより、京都議定書で定められた期間での二酸化炭素排出量削減量の監視や、温室効果ガスの長期的な変動データを取得して気候変動予測に役立てることができる。

観測装置

TANSO-FTS (温室効果ガス観測センサ)
TANSO-FTS(TANSO : Thermal And Near infrared Sensor for carbon Observation,FTS : フーリエ変換分光器、Fourier Transform Spectrometer)は、二酸化炭素、および、メタンガスを測定する、いぶきの主センサ。地球表面で反射してくる太陽光をフーリエ分光して吸収スペクトルを観測することにより、大気中に含まれる温室効果ガスの濃度を推定する。 短波長赤外バンド1〜3(SWIR Band1-3)により二酸化炭素の気柱積算量を測定し、熱赤外バンド4(TIR Band4)により二酸化炭素の鉛直濃度分布を測定する。 雲やエアロゾル等の誤差要因のない条件において、測定誤差1%以内を目標にしている。

TANSO-CAI (雲・エアロソルセンサ)
TANSO-CAI(CAI : Cloud and Aerosol Imager)は、TANSO-FTSにて二酸化炭素を測定する際に誤差要因となる、雲の有無の判定やエアロゾル(大気粒子状物質)の測定に用いる画像センサ。いぶきの副センサである。 TANSO-FTSで得られた測定データの補正のために用いられる。

 


 要するに、赤外線センサーによって赤外線強度と波長分布を観測することで特定赤外線波長領域の減衰を観測することで赤外線吸収量と温室効果ガスの種類と濃度を特定しようということです。しかし、例えばニンバスの観測結果からもわかるように、大気に水蒸気や雲やその他のエアロゾルが存在すれば、赤外線強度は大きく変動するのです。
 その結果、『雲やエアロゾル等の誤差要因のない条件において、測定誤差1%以内を目標にしている。』としか言えないのです。水蒸気や雲やエアロゾルの無い大気などほとんど存在しませんから、この目標自体ほとんど無意味なことですが、そんな無意味な制約条件を課した上での誤差1%を『目標』にするというのですから、これは実質的な意味はほとんどないと考えるのが合理的な判断ではないでしょうか?壮大なおもちゃになることが期待されます(笑)。

No.373 (2009/01/17)エネルギー・資源学会

 複数の知人から掲題のエネルギー・資源学会の学会誌上で温暖化についての意見交換の記事についての情報を頂きました。詳細につきましては同学会のHPの記事をご覧頂きたいと思います。
2009年1月号「エネルギー・資源」 新春e-mail 討論地球温暖化:その科学的真実を問う 本文掲載!!

 参加者は以下の通りです。
赤祖父俊一Shun-Ichi Akasofu 米国アラスカ大学名誉教授
丸山茂徳Shigenori Maruyama 東京工業大学理工学研究科教授
伊藤公紀Kiminori Itoh 横浜国立大学工学研究院教授
江守正多Seita Emori 国立環境研究所地球環境研究センター 温暖化リスク評価研究室長
草野完也Kanya Kusano 海洋研究開発機構地球シミュレータセンター プログラムディレクター

 約一名を除けば(笑)、それなりの人選だと思います。内容的には既に各論者のこれまでの発言に沿ったものなのでそれほど目新しいものではありません。ただ、冒頭2に示されたIPCCの主張に対する評価は各氏の考え方が端的にわかるもので興味深いと思いますので、紹介しておきます。

 江守氏の主張は立場上(?笑)、単にIPCCの主張を支持する我国の公式見解を表明している実に能天気なもので評価に値しませんので除外してよいでしょう。彼にはこの問題を科学的・実証的に語るような能力はありません。

 まず興味深いのは赤祖父氏と伊藤氏が、人為的CO2蓄積説を肯定している点です。これは私には謎です。この点を除けば、赤祖父氏の主張は賛同できるものです。つまり、赤祖父氏は近年の気温変動の主要な原因はCO2濃度の増加による温暖化であるということを否定しておられる訳です。

 これに対して伊藤氏の主張はかなり微妙です。これは伊藤氏の慎重な表現なのかもしれません・・・。
 特徴的なのは、おそらく東大の渡辺氏と共通ではないかと勝手に推測していますが、最近の気温上昇という観測結果そのものに対して疑いを持っている点です。勿論伊藤氏が主張するように、近年の気温観測点の状況を見ると、とても同質の条件で観測されたデータとして統計処理してよいとも思えません。ただ、1970年代後半から30年間あまりの間、世界的に気温は上昇傾向を示しているという点はおそらくかなり高い確度で認めてよいと思います。もう少し大きなスパンで見れば、小氷期後期からの気温の回復過程にあると考えてよいように思います。
 また、伊藤氏は気温の上昇という観測結果に疑問を持っていながら、近年の気温の高温状態を普通ではないという点に一定の理解を示しています。これは私には理解不能です。
 更に、温室効果ガス=CO2排出量の更なる増加は温暖化の原因になりうるとしている点から、伊藤氏はCO2温暖化仮説そのものは肯定しているのであろうと推測されます。
 つまり、伊藤氏の主張は、CO2による温室効果による気温変動機構は肯定するものの、近年観測されている気温の上昇についてはCO2濃度以外にも幾多の変動要因があり、むしろそちらのほうが影響の度合いが大きいと主張されているのだと思います。本質的には私や槌田さんの主張とは全く異なる主張なのです。

 これに対して丸山氏の主張は明快であり、このIPCCの主張に対する評価は全く同じです。

 意外だったのが、海洋研究開発機構地球シミュレータセンターの草野氏の評価です。これは一縷の望みかもしれません。

No.372 (2009/01/11)恒例NHKが来た!

 寒中お見舞い申し上げます。

 さて、今回は恒例のNHK集金人の訪問についての備忘録です。何か面白いことを書きたいのですが・・・(笑)。これまで訪問のたびに、私の渡した書面に対する回答を持ってこない限り話はしませんよと訪問者だけでなく、親切に訪問者が来るたびにNHKにもメールを送っているのですが、今回もまた手ぶらでやってきました。なんという厚顔無恥で不誠実な連中でしょうか。あきれ果てるばかりです。今回もこれからメールを送ろうと思います。次回の訪問時には少なくとも以下の記事程度には目を通してから来て欲しいと思います。

No.230 (2006/10/06) NHKが来た!!
No.303 (2007/10/28) NHKが、また来た!
No.316 (2008/03/18) NHKが、またまた来た!!
No.330 (2008/06/07) 改めてNHK受信契約を拒否する
No.332 (2008/06/13) 権力・NHK・司法〜鉄の三角形

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