本題に入る前に、最近のトピックスから。
気候変動に関する枠組条約締約国会議COP21を前に、NASAが爆弾発言(笑)という話題です。衛星観測の結果、南極氷床の体積が年間1000億t程度増加していることを確認したということです。COPに関わる連中にとっては大変困った発表でしょう。
今更、そら見たことか!等というつもりはありません。またこの報告に一喜一憂するつもりもありません。結局のところ、リモートセンシングとは非常に大きな不確定要素があり、定量的に信頼できるかどうかわからないということが今回の報告の教訓だと考えています。早くも気象研究者主流からNASAの今回の報告に対して信憑性を疑う発言が続いているようです。バカバカしいことです。
気象研究者諸君は、巨大コンピュータの仮想空間で遊ぶことをやめて、気象現象に対して真摯に向き合い、CO2温暖化のお祭り騒ぎからは身を引いて、地道な研究に戻るべきでしょう。合掌。
槌田−近藤による分析の概要
さて、本題に戻ります。Keelingの示したグラフによって、どうやら人為的CO2地球温暖化仮説とは異なり、現在でも気温変動が原因であり、大気中CO2濃度の変動は結果であるらしいことが分かりました。
ただ、Keelingの研究は、グラフを得るために長期的な傾向を取り除くという恣意的操作の詳細が不明確なこと、その後あまり論理的に進められなかったため、曖昧さを残していました。
そこで、熱物理学者の槌田敦と私は更に検討を行うことにしました。まずは、Keelingのグラフの追試することから始めることにしました。気象庁による世界平均気温偏差とKeelingによるMauna Loa山におけるCO2濃度の観測値を比較した図を次に示します。
図を詳しく見ると、気温とCO2濃度の曲線の変動傾向は確かに同期しており、曲線の特徴点の発現は1年程度気温変動が先行することが分かります。
Keelingのように恣意的なデータ操作をせずに、誰にでも追試できる方法で気温とCO2濃度の変動傾向を比較するために、気温とCO2濃度を示す曲線の時間に対する変化率を比較することにしました。
上図に示すように、Keelingのグラフ同様、まず気温の変化率が変動し、その後1年間程度経過した後のCO2濃度変化率が追随していることが確認できます。
一方、気温変化率については平均気温に対する偏差を表すために0℃の周辺で変動するのに対して、CO2濃度変化率は1.5ppmの前後で変動しています。これは、大気中CO2濃度が長期的な傾向として年率1.5ppm程度上昇していることを示しています。
これは何を意味しているのでしょうか?つまり、観測期間の平均的な温度状態では年率1.5ppm程度の大気中CO2濃度の上昇をもたらし、気温が平均気温よりも高くなると1年ほど後の大気中CO2濃度の上昇量が年間1.5ppmよりも大きくなることを示しています。ここから類推できることは、気温変動が大気への1年間当たりのCO2放出量=CO2放出速度を変化させるのではないか、ということです。
そこで、これを確認するために世界平均気温偏差と大気中CO2濃度変化率の変動傾向を比較することにしました。
図からわかるように、気温とCO2濃度変化率を表す曲線の変動傾向は同期していることが確認できます。両曲線が乖離している部分は、気温以外の現象、例えば1990年前後であればフィリピンのピナツボ火山の大噴火が影響していると考えられます。それでも両曲線の極値などの発現は時間的に同期しています。
現象的には、気温変動と同期している海面水温の変動によって、海洋からのCO2放出速度が大きくなることが主要な原因の一つであると考えられます。
以上から、気温と大気中CO2濃度の関係として、気温とCO2濃度変化率(速度)が同期していること、気温がCO2濃度変化率を変化させる事が分かりました。
また、大気中CO2濃度の変動が気温変動から1年間程度遅れる理由が明らかになりました。気温やCO2濃度はエルニーニョ/ラニーニャの発現の時間スケールである4年程度の周期で増減しています。CO2濃度は、気温変動と同期しているCO2濃度変化率を積分することによって求められます。周期変動関数を積分することによって位相が1/4周期だけ遅れることが知られています。例えば、コサイン関数を積分すると
∫cos(x)dx=sin(x)=cos(x−π/2)
位相がπ/2だけ遅れます。エルニーニョ/ラニーニャの発現周期は4年程度なので、CO2濃度変化率を積分することで求められるCO2濃度は位相が1年間程度の遅れを生じるのです。
気温と大気中CO2濃度変化率が同期することが確認できたので、更にその関係を詳しく調べるために、同じデータに対して気温と大気中CO2濃度変化率の関係を求めるために散布図を作成しました。
散布図の回帰直線から、分析期間において大気中CO2濃度変化率 y は世界平均気温偏差 x に比例し、次の関係にあることが分かりました。
y = 2.39x + 1.47 (ppm/年)
つまり、槌田と私の共同研究の結論は以下のとおりです。
@分析期間において大気中CO2濃度は平均して年率1.47ppm上昇した。
A世界平均気温偏差が1℃上昇することで大気中CO2濃度の上昇量は年率2.39ppmだけ多く上昇する。
B世界平均気温偏差が観測期間の平均から約0.6℃低くなると大気中CO2濃度が定常状態になる。
この研究の成果は、気象学会員であった槌田によって気象学会誌『天気』に投稿されましたが、気象学会は論文掲載を拒否しました。その後、槌田によって物理学会誌に「原因は気温高、CO2濃度増は結果」(2010年 Vol.65, No.4)として報告されました。
この散布図について、形式的には大気中CO2濃度変化率が気温を変化させると解釈することも出来ます。しかし、現象的に、CO2温暖化仮説のように、CO2濃度が気温を変化させるという可能性はあったとしても、CO2濃度変化率が気温を変化させることは考えられません。
それに対して、気温が大気中CO2濃度変化率を変化させるという現象は、化学反応速度論に合致するものです。
槌田と私の研究によって、現在においても大気中CO2濃度と気温の関係は、気温変動が原因であって、大気中CO2濃度は気温変動の結果として変動していることが観測データの分析で明らかになりました。CO2地球温暖化仮説は机上の空論であり、虚像だったのです。
仮に、万が一CO2地球温暖化仮説が正しかったとしても、大気中CO2濃度に対する人間活動による影響は小さく、たとえ現状でCO2放出をゼロにしたとしても、減らせるのは高々12ppmにも満たない微々たるものであるため、CO2排出量の制限など、温暖化対策として無意味なのです。
CO2循環モデルの定式化
前回、人為的CO2地球温暖化脅威説の正当性の原点である人為的CO2蓄積説について紹介しました。まず蓄積説の数値モデルを別の方法で導いてみることにします。
IPCCの炭素循環図について、現在の状態を次のように表すことが出来ることを述べました。
dQ=qin−qout=3.2Gt/年
蓄積説では、この変化量全てが人為的なCO2放出だと考えます。IPCCの炭素循環図によると、人為的なCO2放出量 q2=6.4Gt/年でした。したがって、上式の右辺を次のように書き換えました。
3.2Gt/年=6.4Gt/年✕ r ∴ r =0.5
以上の関係を使って大気中の滞留量の1年間当たりの変化量をdQ(Gt/年)を書き直すと、
dQ=qin−qout=3.2Gt/年=0.5q2
上式は1年間当たりの関係式ですが、これを一般的に時間dtに対する式に書き換えると
dQ=0.5q2・dt
両辺を積分することで、時刻tにおける蓄積説の大気中CO2滞留量を表す数値モデルを求めます。ただし、q2は時間に対して変化しないものとします。
Q(t)=Q0+0.5q2・t
ここに、Q0は、t=0における大気中CO2滞留量の初期値です。これは、『地球温暖化懐疑論批判』議論18で示された離散的な表現と等価です。
これに対して、熱物理学者の槌田敦は大気中に存在するCO2は全て同じように振る舞うことを主張し、最初に環境経済・政策学会において等比級数モデル=離散的表現の循環モデルを示しました。ここでは、物理学会誌Vol.62, No.2, 2007「CO2を削減すれば温暖化は防げるのか」から関連部分を紹介します。
(前略)
IPCC によれば,大気中のCO2 の量は約730 ギガトンであるが,毎年約120
ギガトンを陸と交換し,約90 ギガトンを海と交換している.2) つまり,大気中CO2
は毎年30%が入れ替わり,大気中に残るのは70%である.
人間が毎年排出するCO2
についても,その30%は陸と海に吸収され,70%が大気中に残るこの量はCO2 温暖化説で大気中に溜まるという55.9%よりも多い.
しかし,今年溜まった70%の人為的CO2
がいつまでも大気中に残ることはない.去年の分は70%の70%,つまり49%しか残っていない.一昨年の分は70%の70%の70%,つまり34.3%しか残っていない.
この人為的CO2 の大気中に溜まる量の最大値は,
0.7+(0.7)2+(0.7)3+・・・=0.7/(1−0.7)=2.33
と簡単に計算できて,人為的排出で溜まるCO2 の量は最大でも2.33 年分でしかない.
(後略)
ここで述べている槌田の主張の要点は、蓄積説では人為的に大気中に放出されたCO2の半量が大気中に蓄積することによって大気中のCO2滞留量が変化すると主張しているのに対して、大気中に存在するCO2は区別することは出来ず、全く同じ振る舞いをすることを前提に、地表面環境のCO2吸収量qoutは大気中のCO2滞留量Qに比例するとした点です。これは、化学反応速度論(質量作用の法則)に合致するモデルです。
ここでは槌田の主張を連続量で表現することにします。比例定数を r とすると、1年間当たりの大気中CO2滞留量Qの変化量は、
dQ=qin−qout=qin− Q・r
一般的に時間 dt に対して書き直すと、
dQ=( qin− Q・r ) dt
qinと r は時間に対して変化しないとしてこの微分方程式の一般解を求めると
Q(t)=qin/r+C・exp(-rt), ただし、Cは積分定数
定常状態(時間に依存する項をゼロにする、あるいはQの式で t→∞の極限)では、
Q=qin/r
になります。
q2とqinと r は時間とともに変化しないとした場合、同じ初期状態から時間の経過とともに蓄積モデルと循環モデルがどのように変化するかを下図に示します。
蓄積モデルでは時間とともに大気中のCO2滞留量は無限大に発散します。これに対して循環モデルでは速やかに定常状態であるqin/r
に収束します。
化学平衡から考えれば、気相と液相からなる系では、平衡状態から大気中へのCO2放出量が変化すると大気中のCO2量と吸収反応速度が変化して、新たな平衡状態に速やかに遷移します。循環モデルは化学平衡論的に見て合理的ですが、蓄積モデルは不適格であることが分かります。
Keelingの取り除いた長期傾向の大部分は自然変動
これでKeelingのグラフで取り除かれた長期的な変動傾向をどう解釈すべきかの道具を手に入れることが出来ました。循環モデルを使って検証することにします。
循環モデルから、地表面環境のCO2放出源が複数ある場合を考えます。つまり、
qin=qin1+qin2+qin3+qin4+・・・
∴Q=( qin1+qin2+qin3+qin4+・・・ )/r = qin1/r+qin2/r+qin3/r+qin4/r+・・・
Qは各放出源からの影響の線形結合で表されています。つまり、放出源ごとの放出量の比率で、Qに対する寄与率が判断できるのです。IPCCによる炭素循環図から、現在の地表面環境から放出されているCO2の合計はqin=218.2Gt/年、人為的な炭化水素燃焼によって放出されたCO2は6.4Gt/年です。大気中CO2濃度は高々400ppm程度なので、大気中CO2濃度はCO2量に比例すると考えて差し支えありません。したがって、現在の大気中CO2濃度を390ppmだとすると、人為的なCO2放出による影響は
390ppm✕( 6.4/218.2 )=11.44ppm
つまり、現在の大気中CO2濃度を390ppmだと仮定したとき、人為的なCO2放出による寄与は僅か11.44ppmに過ぎないのです。これは人為的CO2蓄積説による推定値の1/10程度です。
大気中CO2濃度の構成は上図に示すようになります。Keelingが気温とCO2濃度の短期的な変動傾向の関係を示すために取り除いたCO2濃度の長期的な変動傾向の大部分は自然起源のCO2濃度の長期傾向であったことが分かります。
気象学会誌『天気』における気象研究所の河宮の説明の前提
回 答:問題とされている図に関してまず注意しなければいけないのは,質問中でも指摘されている通り,二酸化炭素の長期的な上昇傾向が除いてあるという点です.地球温暖化の原因となるのは正にこの長期的上昇傾向です.それが取り除かれたこの図で表されているのは自然起源の変動であり,人間活動に端を発する地球温暖化とは比較的関連の少ないものと言えます.(後略)
は誤りなのです。したがって、これ以降の河宮の説明は砂上の楼閣ということです。
冒頭に、河宮の主張の誤りは化学を履修した高校生ならば容易に指摘できるであろうと述べました。化学反応速度論、質量作用の法則など、化学反応の基本を理解していれば、人為的に放出されたCO2が大気中に“蓄積”することが近年の大気中CO2濃度上昇の主要な原因であるという主張が誤りであることは容易に分かるはずです。ところが、高校の理科や社会科の教科書には、理論的な説明を省いて「近年、人為的に放出されたCO2によって大気中CO2濃度が上昇している」と書かれています。一体高校の理科教師たちは何を考えているのでしょうか?誤ったことを生徒に教え続ける罪は極めて大きいと考えます。
近年の気温と大気中CO2濃度/C.D.Keelingの示したグラフの解釈
前回紹介した通り、過去の氷期−間氷期サイクルに伴う大気中のCO2濃度の変動は、化学平衡の理論に従って、気温変動が原因となって結果として大気中のCO2濃度が変動することが分かりました。
それでは近年の観測値はどうなっているのでしょうか?大気中のCO2濃度を、局所的な影響を受けないように精密に観測することは簡単なことではありません。近年、大気中のCO2濃度の精密連続観測がC.D.Keelingによって始まったのは、1950年代に南極のSouth
PoleとハワイのMauna Loa山です。
Keelengは、彼のCO2濃度の観測データと世界平均気温偏差のグラフから、有名な次に示すグラフを発表しました。
熱物理学者の槌田敦は、元気象庁予報官であった根本の著書に紹介されたこのグラフについて、環境経済・政策学会和文年報第4集(1999年)において次のように報告しました。
1.気温の変化がCO2濃度の変化に先行する
多くの研究者は,大気中のCO2
濃度の増大が気温を上昇させるという.しかし,事実は逆である.ハワイのマウナロア観測所でのCO2の長期観測者として知られるC.D.Keeling
グループの研究によれば,図1 に示すように,気温の上がった半年〜1 年後にCO2が増えている.[1]
また,C.D.Keeligらは,エルニーニョ発生の1年後にCO2が増えたことも発表した[1],[2].赤道付近の海面温度の上昇がCO2濃度の上昇の原因となっているのである.
(事実A)
したがって,大気中のCO2濃度の増加で温暖化するのではなく,気温(海面温度)の上昇でCO2濃度が増えるというべきである.根本順吉は,このC.D.Keelingらの仕事に注目し,「現在の温暖化のすべてを温室効果ガスによって説明することはたいへん無理である」と述べた[3].しかし,このC.D.Keeling らの研究も,根本氏の見解も無視されたまま,現在に至っている.
[参考文献]
[1] Keeling,C.D. et al., Aspects of Climate
Variability in the Pacific and the Western Americas (ed.
Peterson, D. H.),pp.165-236(Geophys.
Monogr. 55, Am. Geophys. Union, Washington DC, 1989)
[2] Keeling, C. D. et al., Nature, 375
668,(1995)
[3] 根本順吉 『超異常気象』中公新書, 1994 年.
本来、冷静な自然科学者であれば、このKeelingの分析結果から、現在においても気温変動が原因となってその結果として大気中CO2濃度が変動することを確認して、この問題は終局したはずです。
しかし、人為的CO2地球温暖化脅威説に与する日本をはじめとする世界の主流の気象研究者にとって、「現在においても気温変動が原因で大気中CO2濃度変動は結果」という主張は大変都合の悪いものでした。
そこでこのグラフに対する別の解釈が作られました。その典型的な例が気象庁気象研究所の河宮未知生による気象学会誌『天気』2005年6月号に掲載された説明です。
回 答:問題とされている図に関してまず注意しなければいけないのは,質問中でも指摘されている通り,二酸化炭素の長期的な上昇傾向が除いてあるという点です.地球温暖化の原因となるのは正にこの長期的上昇傾向です.それが取り除かれたこの図で表されているのは自然起源の変動であり,人間活動に端を発する地球温暖化とは比較的関連の少ないものと言えます.(後略)
この説明は、高等学校で化学を受講した生徒にとっては誤りであることを指摘することはそれほど難しくないのではないかと考えます(笑)。
人為的CO2蓄積説
河宮の回答を分析することにします。まず、産業革命後の大気中CO2濃度の変動の模式図を次に示します。
この模式図では、1800年代初頭の大気中CO2濃度を285ppm、2000年の大気中CO2濃度を390ppmとして描いています。4年周期で大気中CO2濃度が変動しているように描いています。この変動は、季節変動ではなく、エルニーニョ/ラニーニャの周期に同期する変動を示しています。
さて、河宮等、主流の気象研究者は、産業革命後の大気中CO2濃度の上昇は、すべて人為的に大気中に放出されたCO2が“蓄積”することで生じているという主張です。
つまり大気中CO2濃度は、上図に示すように、数年周期で変動するが、平均値は285ppmで変化しない自然起源のCO2と、産業革命後に放出された人為的なCO2が蓄積されて次第に上昇する人為的CO2増加という2つの部分を加え合わせることで説明できるというのです。
河宮等の主張は、C.D.Keelingのグラフは、赤の曲線で示す大気中CO2濃度の長期的な上昇傾向=人為的CO2増加を取り除き、自然起源CO2のエルニーニョ/ラニーニャの時間スケールである数年の周期変動を表すものだという主張です。
炭素循環の概要/IPCC第4次報告(2007年)
大気中のCO2濃度は、大気中のCO2の海水・陸上環境への吸収と海水・陸上環境からのCO2放出という2つの逆方向の生物化学反応の反応速度平衡として理解できます。これは前回紹介した氷期−間氷期サイクルと大気中CO2濃度の関係で紹介した通りです。
具体的な数値の推定値をIPCC2007年の報告書から見ておくことにします。
図の数値は、四角で囲んだストック量はGtC(炭素重量ギガトン=×109t) 、矢印で示したフローはGtCyr-1(炭素重量ギガトン/年)です。
黒で示した文字は、産業革命以前の定常状態の数値、赤で示した文字はその後の変化量を示しています。
従って、産業革命以前の状態は次のように表すことが出来ます。
Q=597Gt, qin=qout=190.2Gt/年
同様に、現在の状態は次のように表すことが出来ます。
Q=597+165=762Gt
qin=119.6+1.6+70.6+20+6.4=218.2Gt/年
qout=0.2+120+2.6+70+22.2=215Gt/年
地表環境から放出されるCO2増加量のうち、6.4Gt/年が人為的な炭化水素燃料の燃焼によって増加した分です。
大気中の滞留量の1年間当たりの変化量をdQ(Gt/年)とすると
dQ=qin−qout=3.2Gt/年
注目して欲しいのは、現在の大気中のCO2滞留量Q=762Gtは、地表面環境が1年間に放出するCO2量 qin=218.2Gt/年の僅か 762/218.2≒3.5 倍にすぎないということです。言い換えると大気中にはCO2年間放出量の3.5年分しか存在しておらず、1年間あたりQの 1/3.5≒28.6%が入れ替わっているのです。
IPCC炭素循環図に対する蓄積説の解釈
人為的CO2蓄積説によるIPCCの炭素循環図の理解を図示してみます。まず産業革命前の定常状態の模式図を示します。
蓄積説では、大気に地表面環境から放出された190.2Gt/年の自然起源のCO2は、そのまま再び地表面環境に吸収されると考えます。つまり、地表面環境から放出されたCO2は、もともと大気中に滞留していた597GtのCO2とは混合しないと考えます。
次に産業革命以後の状態の模式図を示します。
人為的CO2蓄積説では、地表面環境から放出される自然起源のCO2(q1)と人為的に放出されるCO2(q2)は混合せずに、大気中で別々の振る舞いをします。
自然起源のCO2であるq1は、産業革命以前では190.2Gt/年でしたが、現在は211.8Gt/年に増加していますが、常に完全に地表環境が吸収します(吸収率=1.0)。
一方、人為的に放出されるCO2であるq2は、半量は地表環境に吸収され、半量は大気中に蓄積して大気中CO2濃度を上昇させていると主張します。
支離滅裂で化学的に成り立たない蓄積説
蓄積説には、数々の疑問があります。
まず、最も単純かつ本質的な問題であり、化学を履修した高校生ならば容易にわかる問題です。
図に示したように、ある時点において既に大気中に存在しているCO2、そして地表面環境から今まさに大気中に放出されたCO2、しかも自然起源のCO2と人為的に放出されたCO2が、それぞれ全く異なる振る舞いをすることを前提としなければ蓄積説は成立しません。
しかし、大気という仕切りのない空間に存在するCO2は、一旦大気中に放出されてしまえば、その放出された時期、放出源の如何にかかわらず、化学的に区別することは出来ず、全く同じ振る舞いをすることになります。特定の時期に放出された特定の発生源から放出されたCO2だけが選択的に大気中に蓄積することはありません。したがって、人為的CO2蓄積説は成立し得ないのです。
もう少し具体的に指摘しておきます。
蓄積説では、地表面環境からの自然起源のCO2放出q1は、産業革命以前の190.2Gt/年から現在は211.8Gt/年に増加しているにもかかわらず、常にすべてが再び単年度で完全に吸収される(吸収率=1.0)のはなぜでしょう?しかも、q1の変動が大気中のCO2滞留量Qに一切影響を与えないのはなぜでしょうか?
例えば、氷期−間氷期サイクルの気温変動によってq1が変動したとき、それにしたがって大気中のCO2滞留量Qは大きく変動しました。蓄積説は過去の事実と矛盾しています。
自然起源のCO2放出q1は常にすべてが単年度で完全に吸収される一方、人為的なCO2放出q2は、大気に放出された初年度に1/2が地表面環境に吸収されます(吸収率=0.5)。なぜq1とq2に対する吸収率が区別されるのでしょうか?
その翌年にも大気中にはq2/2が吸収されずに残っているのですから(q2/2)✕1/2=q2/4が地表面環境に吸収されるはずなのに、なぜ吸収されないのでしょうか?これは蓄積説が放出した時期によってCO2の挙動を区別していることを示しています。
また、IPCCの炭素循環図によると、産業革命から現在までに人為的なCO2放出量が6.4Gt/年増加した同じ期間に、海洋からのCO2放出量は20Gt/年増加しています。海洋からのCO2放出の増加分は全て吸収されるのに、それよりも少ない人為的なCO2放出だけが大気中に蓄積されてQを増加させるのはどうしてでしょう?
大気中のCO2の挙動を放出源毎に区別しないかぎり、人為的なCO2放出より多くの増加を示した海洋からのCO2放出の方が大気中CO2濃度の上昇に対してより大きく寄与するはずです。
蓄積説では、有限の人為的なCO2放出がある場合の大気中CO2の増加量を、数式を使って(笑)、次のように表現しています。
人間活動によって放出されるCO2量をQ、森林や海洋による吸収量のQに対する割合をrとし、Qとrは時間変化しないと仮定すれば、大気中に残存するCO2量の正しい計算方法は、
Q×(1−r)+Q×(1−r)+Q×(1−r)+...
ということになる。この数列の和は収束せず、人間活動によるCO2放出が続く限り大気中のCO2量は増えていくことになる。
(東京大学IR3S/TIGS叢書No.1 『地球温暖化懐疑論批判』議論18、p.42)
註)『地球温暖化懐疑論批判』議論18でQと表現されているのは、本稿ではq2として図示しています。したがってここでの主張は図中に示した Σ0.5q2と同義です。
蓄積説では、定常状態からほんの僅かでも人為的なCO2放出が増加すれば、大気中に滞留するCO2量が増え続け、無限大に発散してしまうことになります。地球環境はそのような不安定な系ではありません。環境の変化は時間の経過とともに緩和されます。蓄積説では時間の経過による緩和を表現できません。
また、蓄積説で人為的なCO2放出がゼロになった場合には大気中のCO2濃度はどうなるのでしょうか?不変なのでしょうか??
蓄積説では、地表面環境のCO2吸収についての考察を一切行っていないために合理的な説明ができないのです。
蓄積説は現実の現象を見ることを放棄し、人為的CO2放出によって大気中CO2濃度が上昇することをこじつけるための机上の空論です。
氷期−間氷期サイクルと大気中CO2濃度
最初に、南極のVostok基地の過去40万年間程度の氷床アイスコア分析の結果を紹介しておきます。約10万年周期で現れている氷期−間氷期のサイクルは、主に地球の惑星としての軌道要素の周期変動によって太陽放射に対する地球の受光効率が変動することによって起こると考えられています(ミランコビッチ・サイクル)。
図には、現在を基準とした気温偏差(青)、大気中CO2濃度推定値(緑)、塵(赤)の分析結果を示しています。気温についてはおそらく酸素の同位体比率δ18Cと気温の関係から気温変動を推定したものだと考えられます。
Vostokの氷床アイスコア分析の結果の範囲では、少なくともVostok基地周辺では、現在の気温は過去の間氷期に比較してもそれほど異常に高いという状況ではなく、むしろ低いことが分かります。
グラフから、気温が上昇すると大気中のCO2濃度が上昇し、大気中の塵の量が減少することが分かります。
気温が上昇すると地表面環境(海面も含む)に存在していたCO2の大気中への放出量が増大するためです。
上図は、水に対するCO2の溶解度曲線です。温度が上昇することで海水のCO2溶解度が減少することで大気中のCO2濃度が高くなる方向に化学平衡が変化するという化学の基本的な理論に合致した現象です。
参考:石黒 秦 氏 「未来への化学」 ヘンリーの法則と化学平衡
上図に、気温に対する飽和水蒸気量を示します。気温が上昇すると地表面環境からの水の蒸発量が多くなり、水循環が活発になるため、降雨量が多くなり、地表面環境が湿潤になり、おそらく陸上の植生も豊かになる結果、地表面から大気中に巻き上げられる砂塵の量が減るのです。
Vostok基地の氷床アイスコア分析の気温と大気中CO2濃度の変動を詳しく比較した図を次に示します(冒頭に示した図とは時間軸が逆方向なので注意してください。)。
図からわかるように、気温と大気中CO2濃度の変動は同じような変動傾向を示していますが、詳しく見ると気温変動が先に起こり、少し遅れて大気中CO2濃度が変動していることが分かります(赤の曲線のほうが僅かに右寄り)。
分析結果の時系列的な関係からも、気温変動が原因となって、結果として大気中CO2濃度が変動することが確認されています。
以上から、氷期−間氷期サイクルの気温変動を原因として、その結果として大気中CO2濃度が変動することが分かりました。この現象については、既に科学的・世界的なコンセンサスが確立されています。
気温観測点の環境変化
前回まで、人為的な影響による気温上昇の仕組みを紹介しました。人為的な影響を受けた環境では局所的に大きな気温上昇が起こります。20世紀の間、特に開発が進み、人工的なエネルギー消費が急激に増大した20世紀後半は人間の居住環境の急激な変化が起こったと考えられます。
気温観測点は、その信頼性を確保するために、直射日光や降雨を避け、地表面からの過大な放射を受けない風通しの良い場所の地上1−2mの高さに設置されることが原則です。当初は適切な場所に設置されていた気温観測点であったとしても、管理上どうしてもあまり人里離れた場所には設置されていない関係上、その後の環境変化によって人為的な影響を受けています。
つまり、恣意的な改竄ではなくても、同じ観測点を使い続けることによって、近年の気温観測データはどうしても局所的な人為的な影響を過大に評価しているのです。地球全体の気温の変動傾向を評価する場合にはこの点に留意することが重要です。
例えば、昨年12月に気温観測点『東京』の場所が移転しました。これは、観測点周辺の環境があまりにも人為的な影響を強く受けすぎているために、気象観測データとしての信頼性が保証できないと判断したためでしょう。
移転前、観測点は気象庁の敷地内にありました。高速道路やビル群に取り囲まれた場所でした。
観測点『東京』は約900m離れた緑豊かな北の丸公園の一角に移転しました。
この移転に備えて、気象庁では旧観測点と北の丸公園の現在の観測点で3年間観測を行いました。その結果、この2地点でかなり大きな気温差があることが判っていました。
わずか900mの移動で年間平均気温で−0.9℃、年間平均最低気温で−1.4℃、熱帯夜が−17日という大きな違いが確認されました。
観測点『東京』の場合は極端な例かもしれませんが、日本中、そして世界中の観測点で、程度の差はあるにしても、同じような局所的な環境変化の影響を受けているのです(勿論、巨大都市東京の中の緑地である新観測点と言えども、人為的な影響を少なからず受けています。)。
この人為的な影響に留意すれば、IPCCのように近年の気温観測データの温暖化傾向を、歴史的な過去の気温変動の復元曲線に直結することが、いかに無謀な行為であるかは言うまでもありません。
不自然なGHCNの気温観測点数の激減
20世紀の終盤、政治的な目的で地球温暖化によって生態系に致命的な悪影響が起こるという『地球温暖化脅威説』が提起され、瞬く間に“世界標準”の気象理論として世界中に広がり、現在では温暖化の解消が世界政治の中心的な課題となり、最早これを“表立って”理論的に疑う人は影を潜めてしまいました。このホームページは数少ない生き残り(死に損ない?笑)です(蛇足ですが、この連載を始めてからJAMSTEC(海洋研究開発機構)から時々アクセスが有り、Google、yahoo!の両検索サイトで当ホームページのランキングが急激に下がるという、いつもの怪奇現象が起きました(笑)。)。
Climategate事件とはIPCC=気候変動に関する政府間パネルに参加する中心的な組織の一つである英国イーストアングリア大学・気象ユニット(CRU)のPhil
Jones所長のメールがハッキングされ、気象観測データの改竄をはじめとする不正行為が暴露された事件です。
ここでは、20世紀の生態系に驚異的な悪影響を及ぼすという急激な気温上昇がどのように捏造されたのかを、幾つかの実例で紹介することにします。
世界の主要な気温観測データベースの一つであるGHCNの気温観測点の変化を示した地図です。1970年以降の急激な観測点の減少にご注目ください。
GHCN(Global Historical Climatic Network)の観測点数と、GHCNによる世界平均気温の変動を次の図に示します。
上図について少しコメントしておくと、1700年代については西欧の先進国の一部の地理的に偏った気温観測データ(北半球温帯の一部)であり、しかもデータ数が少なすぎるために、これをもって地球全体の気温の変動傾向を表すのは不適切です。
しかも平均気温偏差ではなく平均気温を使用しているために、小氷期の終わりから現在までに7℃以上という、地球全体の平均気温の変動としては考えられない大きなの気温上昇を示しています。これは地球全体の気温の変動傾向を示しているのではなく、観測点数の変化による地理的な偏りの影響を反映した結果だと考えられます。
地球全体の気温変動の傾向を示す指標として平均気温を利用することは適切ではありません。観測点数が少なく、地理的な偏りがある場合には、全く無意味と言ってよいでしょう。平均気温を使用する場合には、複数の観測点の平均を取るよりも、同一点の単独の連続記録を見ることの方が気温変動傾向を見る上で有効です。
さて、問題は1970年代以降です。本来、気温観測点数を増やしてデータの信頼性を高めると考えるところですが、実際にはこの時期から気温観測点数は激減しています。それと同期して、世界平均気温が急上昇していることが分かります。
このGHCNのデータ数の削減において、気温の上昇傾向の強い観測点を残し、気温の上昇傾向の小さい観測点や気温が低下傾向を示す観測点が除かれたのではないかと言われています。1970年−1980年代とは、地球温暖化脅威説が登場した時期でもあります。
Climategate事件−補正というデータ改竄の実体
ここでは、観測点のデータがどのように改ざんされたのか、幾つかの実例を紹介します。
最初に紹介するのは、GHCNの観測点であるダーウィン空港のデータです。
青の折れ線で示しているのが、実際の観測値です。回帰直線の傾きは100年間で−0.7℃を示していることが分かります。
ところが、GHCNはこの生データに対して“補正(adjustment)”と称して黒の実線で示す値(右側の目盛り)を加える事によって赤の折れ線で示すデータを捏造したのです。回帰直線の傾きは、100年間で+1.2℃を示しています。100年間で実に2℃近くも下駄を履かせているのです。
次に示すのはDarwin Zeroについての同様のデータです。
本来の気温観測値は低下傾向を示しているにもかかわらず、1941年以降は、何と100年あたり6℃の上昇傾向に改ざんされています。
次の図はGISS(NASA Goddard Institute for Space Studies )によるアラスカ州のBarrowの気温観測データです。
茶色の折れ線が観測値、青の折れ線が“均質化(Homogenization)”という改竄後のデータです。補正量は緑の階段状の値であり右側の目盛りに対応しています。
次図は、パラグアイの年平均気温偏差のデータです。
緑の折れ線が生データ、茶色の折れ線はUCHCN(The
United States Historical Climatology Network)がGISSによる補正データを元に求めたものです。
ここでも生データは明らかな気温の低下傾向を示していますが、補正されたデータではその傾向が消されています。
次の図は、ニュージーランドの年平均気温の変動です。
緑の曲線が補正前の生データであり、赤の曲線はNIWA(The National Institute of Water and Atmospheric Research:ニュージーランド国立水圏大気研究所)による補正後のデータです。
次図はカナダ北極圏の気温偏差(?)です。
青の折れ線はEnvironment Canadaによる観測値(?)であり、オレンジ色の折れ線はGHCNによる補正後のデータです。
以上、気温観測データの改竄のごく一部を見てきました。本来ならば、気温観測点に対する人為的な影響を排除するためには、補正値として温度勾配を小さくすべきですが、いずれの“補正”も温度勾配を大きくする方向の調整が行われています。
これは補正というよりは、気温の上昇傾向を作り出すための恣意的な改竄であり、データの捏造と呼ぶべきでしょう。
現在の地球全体の温度状態は全く異常ではない
最後に、冒頭で示したGHCNによる観測点数と気温変動について、同じGHCNのデータベースを使って、補正を行わなかった場合の平均気温偏差の変動を求めた図を示します。
GHCNのオリジナルの図では平均気温の変動を示しており、小氷期から現在までの上昇は7℃以上になっていました。この図では指標として平均気温偏差を使用しています。現在の気温は14世紀半ばから19世紀半ばまで継続していた小氷期の中のマウンダー極小期とダルトン極小期の間の気温回復期の極大値と同程度であり、小氷期以降の気温上昇は1℃程度です。おそらく現在は中世温暖期よりはだいぶ低温であると考えられます。
恣意的な補正を取り除いたとしても、1900年代後半のデータには人為的な影響が過大に評価されており、1970年代以降のデータには恣意的な選別の可能性がありますから、これを考慮すると、小氷期から現在までの気温上昇量は大きく見積もっても1℃に満たないと考えられます。
Global Warming Petition Project というホームページのArthur B. Robinson, Noah E. Robinson, and Willie Soon によるレポートから幾つかの図を紹介します。
上図は北大西洋のサルガッソ海の海面温度の変動を海中堆積物の同位体比率から推定したものです。これによると、現在は小氷期よりも1℃高温であり、中世温暖期よりも1℃程度低温であることが分かります。
上図は地表氷河の後退を示したものです。氷河の後退は小氷期の終了と同期して増大し始め、その後は線形的に増加しており、その傾向は炭化水素燃料消費が急激に増大した第二次世界大戦終戦前後で変化はありません。
そして、観測されている北極地方の気温変動は太陽放射強度に同期しており、炭化水素燃料消費とは関係していないことを示しています。
これらのデータは、太陽活動と気温の関係は小氷期当時も現在も特に変わりがないことを示しています。全地球的に見れば、現在の地球の温度状態は異常なものではありません。
20世紀の気温上昇の脅威とは、陸上環境の都市化と人工的なエネルギーの集中的な利用による極めて局所的・限定的な気温上昇だということです。
雑木林・雑草地・未舗装道・水溜りが消えた
私は大分県別府市という地方都市に住んでいます。私が物心ついた小学生の頃、1960年代には至る所に雑木林や竹やぶ、原っぱがありました。主要な道路以外は未舗装の凸凹道ばかりでした。市の中心の商業地以外では下水などほとんど整備されていませんでした。
小学生の頃、一巡目の大分国体が開催される事になり、実家の近くに新設されたサッカー場へ通じる道が舗装された時には、随分都会的になったものだと感心したものです(笑)。それでも相変わらず幹線以外は未舗装で、雨が降ればそこここに水溜りが出来たものです。
高校を卒業して別府を離れ、再び別府に戻ってきたのは30年近く経ってからです。環境は激変しました。ほとんどすべての道は舗装路となり、学校や病院などの施設の敷地内も花壇に囲い込まれた場所以外では生きた土壌は姿を消しました。水田や畑、雑木林や原っぱは激減してしまいました。
おそらく、終戦後、日本中の地方都市でも同じことが起きたのではないでしょうか?地方中核都市や東京などの巨大都市の激変はこの比ではないでしょう。
こうした身近な自然環境に対する激変は、水循環を破壊し、地表面環境の乾燥化を招きました。
不透水性舗装はなぜ暑いのか?
生きた地面や植生が貧弱になった場所は、とにかく暑い。真夏の昼間に舗装された地面は、50℃を超えるほど熱くなります。
ところが、そのすぐ横の花壇の土の表面温度はそれほど高くありません。植物の葉の表面温度は更に低いようです。何が違うのでしょうか?
もう一度地表面付近の熱収支図を示しておきます。
地表面の熱収支を見ると、地表面からの放熱には赤外線放射以外に蒸発と熱伝導があります。図に示す蒸発による潜熱23について考えてみます。
地球の全表面積に対して年間1,000mm程度の降水があると考えられています。海水面の水位が顕著に変動しないことから、同時に年間1,000mm程度の水が地表面、海面から蒸発しているということです。
1,000mmの蒸発量とは、1m2当たり1m3=1,000,000cm3≒1,000,000gの水が蒸発するということです。水の気化熱は、気温によって変化しますが、590cal/g=2,468.56J/g程度です。1年間通して一定量ずつ蒸発するとした場合、その平均的な仕事率は次の通りです。
2,468.56×1,000,000÷(365×24×3,600)=78.3(W/m2)
これは、341.5(W/m2)を100とした場合、22.9≒23に相当します。水の蒸発の潜熱によって1m2当たり78.3(W/m2)の冷却効果があるということです。
例えば、地表面に降った雨が不透水性の舗装や下水道によって、速やかに地表面から取り除かれ、地表面からの蒸発量がそれまでの半分程度になったとします。その時の地表面の熱収支は次のようになります。
図に示すように、蒸発による熱の放出を半分程度の12にします。蒸発量が減ったことによる地表面からの放熱量の減少分を地表面放射で補うとすれば、114から125(=426.88 W/m2)に増加します。この時の地表面の温度は次の通りです。
平均的な地球環境で蒸発量が500mm程度減少すると、平均気温で6.7℃程度も上昇するということです。これは、東京のような大都市の人工熱源の増加による昇温効果よりも大きい値です。
実際には、日本の平均年間降水量は1,700mm程度です。また、都市部では降雨の大部分が不透水性舗装された地表面から下水道に流し込まれるために、地表面からの雨水の蒸発の減少量は、500mmどころかもっと大きくなっていると考えられます。
日本では大都市部だけにとどまらず、全国の可住地で不透水性舗装と下水道による雨水の地表面からの排除による乾燥化によって気温が上昇しています。可住地域全体を平均的に見れば、人工的なエネルギー消費(5.442W/m2)の増加による気温上昇よりも、地表面の乾燥化によって失われる冷却効果(78.3÷2=39.15W/m2)の減少による気温上昇の影響のほうが遥かにが大きいと考えられます。
沙漠とは違う日本の熱帯夜
夏場の日本の都市部における地表面からの蒸発量の減少による温度上昇の仕組みは、昼間の沙漠が高温である仕組みと似ています。しかし全く同じではありません。
沙漠では大気自体の湿度が低いため、湿潤な地域とは異なり、熱い地表面からの強い赤外線放射で直接宇宙空間に放熱することで急速に地表面の冷却が進みます。日本で言えば、秋から冬にかけてよく聞く放射冷却現象です。そのため、太陽放射の強い昼間はとても高温になりますが、一旦日が沈めば急速に気温が下がります。
これに対して温帯の島国である日本では、絶えず湿った空気が流れこむために、特に夏場には放射冷却現象はほとんど起こりません。その結果、日中高温になった地表面からの放射は大気に吸収され、暖められた大気によって地表面が暖められるために、太陽が沈んでもそれほど気温が急激に下がることはありません。熱帯夜です。
更に、舗装路や建築物が蓄熱装置となって高温の昼間の熱を蓄え、夜間には放熱するためにますます寝苦しい夜になります。
ヒートアイランド現象とゲリラ豪雨
これまで見てきたように、夏場の蒸発量の減少は深刻な気温上昇をもたらします。表面舗装−下水道システムによる地表面環境の乾燥化だけでなく緑地の減少も大きな影響を与えます。森は同じ面積の水面と同程度の量の水蒸気を蒸散しています。
暑い夏の日でも、緑豊かな公園に足を踏み入れると、体感的にも明らかに涼しさを感じるのは蒸散による冷却効果のためです。緑地の減少は気温上昇の大きな原因です。
ヒートアイランド現象=都市部の高温化の主要な原因は、地表面環境の乾燥化・緑地の減少と人工エネルギー消費の集中的な使用です。付け加えれば構造物による蓄熱容量の増加です。
一方で大都市では異常な集中豪雨=ゲリラ豪雨が頻発しています。この2つの現象は密接に関係しています。
日本の巨大都市の多くは太平洋側の臨海部に集中しています。日本の夏には太平洋高気圧が、地表面の乾燥化と人工エネルギー消費で高温になっている都市部に、水蒸気をたっぷり含んだ大気を絶えず供給しています。水蒸気をたっぷり含んだ地表付近の大気はヒートアイランドと化した大都市部で急激に加熱されることで強い上昇気流を生じ、巨大な積乱雲が発生することになり、極めて狭い範囲に豪雨を降らせます。
日本における温暖化問題=ヒートアイランド現象の解消法は明らか
日本において、温暖化の脅威として認識されている問題は、生活環境の地表面の乾燥化・緑地の減少と人工的エネルギーの集中的な使用を原因とする、主に夏場の局所的な温度上昇≒ヒートアイランド現象です。この問題の原因はこれまで見てきたように明快ですから、対策方法も明快です。日本における温暖化対策は、巨大都市を解体してこれを日本全国に出来るだけ均一に分散すること、人工的なエネルギー消費を減らすこと、できるだけ舗装面を減らして植生を回復して生態系の水循環を豊かにすることです。
増々都市を巨大化させ、エネルギー消費を増大させることで利便性の追求を目指していては、日本の温暖化問題は解決することは出来ません。
気温はどのように決まるのか
まず、少し面倒なのですが、気温=地表面付近の大気の温度がどのように決まるのかを紹介します。
上図は、地球の表面環境の平均的な熱収支を示した模式図です。
地球の大気圏外の太陽放射強度を1366W/m2として、地球の受け取る太陽放射を地球の表面積で均等に受け取るとすると、平均的な放射強度は1/4である341.5W/m2になります(下図参照)。
冒頭の図の矢印に付した数値は、341.5W/m2を100として表した単位時間当たりのエネルギーの流量を示しています。
気温とは、地表面付近(地上1.25−2.00m)の大気温度です。便宜的に地表面の温度で近似できるものとします。物体の表面の温度は、物体表面からの放射強度をI(W/m2)をとして、近似的に次式に示すステファン・ボルツマンの式で求めることが出来ます。
冒頭の図から、地表面からの赤外線放射は114なので、放射強度は、
I=341.5W/m2×114/100=389.3W/m2
になります。これをステファン・ボルツマンの式に代入すると
したがって、平均的な地表面の温度≒288K=15℃≒地球の平均気温です。
人工的なエネルギーの利用による大都市の気温上昇
人為的な影響としてまず思いつくのが、工業的に生産されたエネルギーの消費です。利用されたエネルギーは最終的にすべて排熱となります。
例えば、2012年度の日本の1年間の一次エネルギーの消費量は20.819×1018Jでした。これを日本の国土面積(37.793km2)の中の可住地面積32.1%で消費すると仮定した時の単位面積当たりの平均的な仕事率を求めると次の通りです。
20.819×1018÷(365×24×3600)÷(37.793×106×0.321)=5.442(W/m2)
人工的なエネルギーからの排熱が全て地表面を温めるものとします。東京のような大都市では、平均的な一次エネルギー消費量の5倍程度(27.21W/m2)を消費するものと仮定すると、地表面の熱収支は次の図に示すように変化します。
人工熱源=27.21W/m2×(100/341.5W/m2)≒8
実際には人工熱源によって増えた入力は蒸発や伝導によっても放熱されますが、ここでは全て地表面からの赤外線放射によって放熱されるものと仮定しています。この時、地表面放射は I=341.5W/m2×122/100=416.63W/m2、地表面温度Tは次のように計算できます。
つまり、大都市部では人工的なエネルギーの消費で平均気温で4.8℃も気温が上昇することになります。勿論実際には大気の流れ等によって熱は拡散するため、ここまで昇温することは考えられませんが、無視できない気温上昇が起こることになります。
参考のために、日本の可住地の平均気温は次のように計算できます。
日本の平均的な可住地では、人工的なエネルギーの消費によって0.9℃の気温上昇が起こることになります。
人工エネルギーによる地球の気温変動は無視できる
地球全体の平均気温に与える人工エネルギー消費の影響を考えてみます。2014年度の世界の一次エネルギー消費量は559.818×1018Jです。地球の単位面積あたりの仕事率は次の通りです。
559.818×1018J÷(365×24×3600)s÷(510064471×106)m2=0.035(W/m2)
これは、平均的な太陽放射のわずか0.035÷341.5≒0.01%に過ぎません。人工的なエネルギーの消費による気温上昇は日本のように過度にエネルギーを消費する国の都市部のごく限られた、極めて局所的な問題であり、地球の温暖化とは全く関わりのない現象です。
逆の見方をすれば、日本はあまりにも多くの人工的なエネルギーを浪費しているということです。