HP管理者 近 藤 邦 明
§1. はじめに
§2. 事例検討
§3. 風力発電の構造的欠陥
§4. 経済的に見た風力発電
§5. APU風力発電計画の検討
§6. 風力発電の二酸化炭素排出量削減の有効性の検討
§7. 新エネルギーの二酸化炭素排出量削減の有効性の検討
【補足1】一次エネルギーと二次エネルギー (2003/12/24)
【補足2】風力発電導入におけるパラドックス (2003/12/26)
§1.はじめに
本HPの『§2-5 二酸化炭素地球温暖化脅威説批判』で検討したとおり、人為的な大気中二酸化炭素濃度の上昇が近年の全球平均気温の上昇傾向の主因である可能性は極めて低い。また、現在よりも1℃〜3℃高温だったといわれるヒプシサーマル期あるいは中世温暖期は、世界的に豊かな農業生産に支えられて文明は繁栄したといわれる。これに対して、マウンダー極小期には全球的な低温傾向によって飢饉が頻発している。
これらの事実から明らかなように、二酸化炭素地球温暖化説あるいは温暖化脅威説は、いずれも科学的な根拠はない。二酸化炭素地球温暖化脅威説を論拠とする、二酸化炭素排出量の抑制対策は不毛な論議である。この文脈において、人為的な二酸化炭素排出量削減の中心的な技術として注目されている、『新エネルギー』あるいは『エコ・エネルギー』であるが、これは全く無意味で、見当はずれの議論である。
しかし、問題はそれだけではない。現在提案されている『新エネルギー』とは、高コストによって自立的な技術として普及が望めない技術なのである(『新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法』)。高コストということは、資源・エネルギー的に見て、効率の低いシステムであるということの経済的な表現に他ならない。即ち、『新エネルギー』ないし『エコ・エネルギー』と呼ばれるエネルギー供給技術(主に発電技術)は、謳い文句とは裏腹に、明らかに鉱物資源浪費的な技術であるばかりでなく、二酸化炭素排出量においてすら、石油を中心とする炭化水素火力発電に劣る可能性が高いのである。
大分県では、この春施行された『エコエネルギー導入促進条例』によって、今後県下の公共施設を中心に『エコエネルギー』の導入促進が図られようとしている。
しかしながら、既に本HPにおいて、公開討論B『大分県エコエネルギー導入促進条例(素案)』を考える、あるいは§2-6大分県エコエネルギー導入促進条例批判でも述べたとおり、国の言う『新エネルギー』、あるいは大分県では『エコエネルギー』と称される「自然エネルギー」を中心とした発電システムの導入が、果たして彼らが言うように社会システムから排出される総二酸化炭素量の削減に有効であるかどうか、全く実証的な証拠が示されていないのが現実である。
このような中で、大分県では今年度の『エコエネルギー導入促進条例』の対象事業として、県下の小中学校に太陽光発電施設の導入を計画している。また、我が別府市においては、APU立命館アジア太平洋大学の学生が、風力発電による売電を目的とする会社を起業した。その目的として、「起業に挑戦するというだけでなく、市民出資による風力発電を運用することで、新エネルギーへの理解を深め地球環境を考える契機にしたい」としている。
APUの学生の「風力発電で(二酸化炭素排出を削減することで)環境問題が改善できる」という認識は、とんでもない考え違いである。市民に環境意識を啓蒙するための契機にするなど、まったく見当はずれであり、彼ら自身が風力発電の実態を正確に見つめなおし、環境問題の本質とは何なのかを問い直すことこそ必要である。彼らの実証的な裏づけのない風力発電に対する妄信を別府市民に押し付け、資金援助を募り、私の慣れ親しんだ自然景観の中に『異様な巨大風車』を作ることを看過することは出来ない。また、繰り返されるNEDOの無意味な資金ばら撒きは、極めて重大な国民に対する背信行為であリ、批判されねばならない。
直接の動機は以上の通りであるが、このような状況は今後全国各地で見られるようになることが考えられる。ここでは、出来るだけ現実の風力発電の稼動実績に基づき、あるいは信頼性の高いと思われるデータを示しながら、主にAPU立命館アジア太平洋大学の風力発電計画を題材に、自然エネルギーないし新エネルギーの二酸化炭素削減効果の実効性を検討するとともに、問題点を明らかにし、妄信的な新エネルギーに対する信仰を排し、一旦立ち止まって冷静な議論を行う契機になることを願うものである。
【2003年10月30日記/12月22日更新】
※ このレポートは、HP管理者からNo.93〜100に加筆・修正したものである。
§2.事例検討
事例@ 京都府太鼓山(資料:京都府企業局HPより引用)
発電所遠景
まず発電出力ですが、上の表では最大出力と表記されていますが、総発電量と表記されている資料もあります。ここでは、定格発電能力と呼ぶことにします。定格発電能力4500kWに対して、計画年間発電量は8500MWh=8500000kWhに設定されています。この数値から、計画段階でどの程度の施設稼働率を想定しているのかを算定してみます。
8500000(kWh/年)÷365(日/年)÷24(h/日)÷4500(kW)=0.216
施設稼働率として21.6%程度を想定しているようです。
ではその稼動実績はどうでしょう?太鼓山風力発電所の運用開始はH.13年11月15日と言うことになっているので、初年度の実質稼働日数は135日だと仮定しておきます。この仮定の下に、上に示す風力発電による売電による収益から実質的な稼働率を算定してみます。関電への売電単価は11.4円/kWhです。
18,397,080(円/135日)÷11.4(円/kWh)÷24(h/日)÷4500(kW)=0.111
計画発電量の算定においては、稼働率を21.6%に設定していましたが、初年度の実質稼働率は11.1%、計画の半分程度の稼働率に止まっています。
それに対して、この発電量を得るための初年度の経費は、21,300,241円であり、売電による営業収益を上回っています。単純に考えると、この風力発電施設は営業を続けるほど赤字が膨らむことになってしまいます。
以下、この発電施設の耐用年数を20年とした場合の、発電単価を算定してみます。モデルAでは、平成13年度の稼動実績をそのまま使用し、モデルBでは、経費を半分にした場合で検討することにします。
モデルA
耐用期間総発電量 (18,397,080÷11.4÷135×365)×20=87,263,602(kWh)
総発電経費 1,500,000,000+(21,300,241÷135×365)×20=26.5(億円)
発電単価 2,650,000,000÷87,263,602=30.4(円/kWh)
モデルB
総発電経費 1,500,000,000+(21,300,241÷135×365÷2)×20=20.8(億円)
発電単価 2,080,000,000÷87,263,602=23.8(円/kWh)
いずれの場合も、売電価格11.4円/kWhの2倍以上の発電経費がかかることになり、経営的には全く成り立たないことは明らかです。
風力発電施設は、発電装置自体が環境中に曝されているため、常に自然災害と隣りあわせと言ってよいでしょう。太鼓山風力発電所、その他の風力発電施設においても、落雷事故が発生しています。自然災害による事故が発生しなくても、発電施設が直接環境中にむき出しになっていることにより、一般の機械設備に比較して、苛酷な環境下での機械設備の損耗は激しく、メンテナンスコストは高くなリ、場合によっては天災による甚大なる事故が起こる可能性も低くないことを考慮しておかなくてはならないでしょう。モデル計算における操業時の発電経費は過小になっている可能性があることを付記しておきます。
事例A 島根県多伎町(資料 多伎町ホームページ)
さて、実際の稼動状況を見ておきます。今年3月から10月まで(210日と仮定)の総発電量は806000kWです。この値から、実際の施設稼働率を算定してみます。
実効発電能力 806000(kWh/210日) ÷ 24(h/日) = 159.9(kW)
定格発電能力に対する実効効率 159.9(kW) ÷ 1700(kW) = 0.0941 = 9.41(%)
また、
維持費(人件費を含む)は、年間2千万円(二年間は保証でこれほどはかからないとの事ですが、それ以降は全額町の負担となるらしいです)程度だと言うことです。以上から、この発電施設の耐用年数を20年とした場合の発電単価を算定してみます。
施設廃棄までの総経費 3.52億円 + 0.2(億円/年)×20(年) = 7.52億円
電力の発電単価 752,000,000÷(806000×(365÷210)×20)=26.8(円/kWh)
中電への売電価格を11.4円/kWhだと仮定すると、これでは全く営業的には成り立ちません。
売電による年間収益 806,000×(365÷210)×11.4=15,970,314円
つまり、これでは初期費用の3.52億円を償還するどころか、発電施設操業のための年間経費さえ賄えないことになります。
地元の方のお話によると、多伎町は海辺の町で、写真でもわかるように風力発電施設は海岸線のすぐそばに建設されているそうです。多岐町は潮風が強いようで(だから風力発電なのでしょうが・・・)、『冬の日本海の荒れは激しく、中学の校舎の窓に塩がついていたのを良く覚えています。』とのことです。潮風による風力発電施設の劣化はかなり厳しいものと予測されます。また、太鼓山同様、冬場の落雷の可能性も決して低くないようです。操業時のメンテナンスコストは予想以上に大きくなる可能性が高いと考えるべきでしょう。
§3.風力発電の構造的な欠陥
さて、2箇所の風力発電施設について、稼動実績を検討してきました。しかしながら、この2箇所のように稼動実績が把握できるケースは極めて稀です。風力発電を推し進めようという多くの民間のホームページにおいて、環境問題の改善に本当に風力発電の導入が有効であるかどうか、その検討のためには絶対不可欠な実際の稼動実績を検討したサイトが皆無なのは一体どういうことでしょうか?気分ではなく、もっと緻密で科学的な分析を行うことが先ではないでしょうか?
しかしながら、風力発電も含めて、新エネルギーの稼動実績やコスト分析のデータを個人で入手することが非常にむづかしい状況であることは事実です。裏返せば、これらの技術が掛け声ほど有効な実績を残していない査証なのだと考えられます。
しかし、そうも言っていられないので、もう少し現実的な評価を試みることにします。まずその前に、東電のホームページの風力発電の仕組みについての解説から風力発電の特性を整理しておきます。
この風力発電機は、500kWの標準的なものです。風力発電の諸元のうち、特徴的なのが、カットイン、カットアウトです。東電のこの主要諸元ではわかり易く、発電開始風速、発電停止風速と書いてあります。発電開始風速以下では風が弱すぎて発電できず、発電停止風速以上では、風が強すぎて発電機の能力を超えるために発電を停止します。
その他の諸元で注目したいデータは、ブレードの長さと回転数です。この風力発電機の場合、ブレードの長さは20.15mです。1回転すると、ブレードの先端は 20.15×2×3.14=126.6m を移動します。この風力発電機では、毎分18回転から38回転します。それぞれの場合の先端の移動速度は以下の通りです。
126.6×18=2,279m/min=136km/h
126.6×38=4,811m/min=289km/h
遠目には優雅にまわる風力発電機のブレードですが、そこを通過しようとする鳥にとっては『巨大なフードプロセッサー』です。
さて、では問題の発電能力の問題です。実験室的な理想状態で、滑らかに風速が変化したときの発電出力の変化を示したのが『パワーカーブ』です。このホームページでも何度か触れていますが、風の持つエネルギーは風速の3乗に比例します。パワーカーブの下に凸の部分は3次曲線に類似の動きなのでしょう。カットアウト風速に近づくと、ピッチを変えることによって滑らかに定格出力になるように調整しているようです。 この風力発電機では、風速14m/secで定格出力に達するようになっています。
さて、まず重要なことは、風力発電機の定格出力にはそれほど大きな意味はないということです。この値は、十分なエネルギーの供給があれば、この発電機ではここまでの発電能力がありますよ、と言う意味に過ぎず、実際にどの程度の発電を行えるのかは全く別の話しです。問題はどの程度のエネルギーがどのような変動で供給されるのか、と言う点です。
国内の風力発電施設では、計画稼働率を20〜26%程度に設定して、計画年間発電量を算定しているようです。ところが、既に見てきた例では、実際の稼働率は10%程度にとどまっているようです。これには色々な要因が考えられます。
例えば、八丈島の風力発電施設のパワーカーブから、稼働率20%に対応する風速は約7m/sec程度です。単純に考えると、風況調査において平均風速が7m/sec以上あれば稼働率20%は確保できるように見えます。しかし、例えば風速がカットアウト風速以上であれば、それは発電施設にとっては風が吹いていないのと同じです。
また、自然環境中の風は、乱流であり、渦を含んだ流れであるため、一様に平均的な風速で空気が流れるわけではなく、平均風速の周辺でかなり大きな風速変動が存在します。また、近年建設されている巨大な風力発電装置では、ブレードの回転範囲内でも局所的には流れにばらつきがあると考えられます。また、乱れのスケールによっては、風力発電装置周辺の平均風速すら短時間に大きく変動することが考えられます。これらの風の『乱れ』は発電効率のロスになると考えられます。単純にパワーカーブの風速での評価は、乱流である自然風の平均風速とは比較できないでしょう。
風速変動に対して、東電の解説では、ブレードの風に対する迎角の調整によって安定した電力供給を行うと説明されていますが、急激かつ局所的に変化する自然風にリアルタイムで対応することは、ほとんど不可能なように想像されます。風力発電の風速変動に対する難しさについて、京都新聞の記事(太鼓山風力発電所)は次のように報じています。
Kyoto Shimbun 2002.06.15 News
風力弱く、初期調整不十分
伊根の風力発電 収益伸び悩み
京都府が昨秋から伊根町で始めた風力発電事業の収益が、当初見込み額より大きく落ち込んでいることが十四日、分かった。風力などに応じてコンピューター制御で効果的に電力を生むための「初期調整」が十分でなかったほか、風力自体の弱さも要因という。一億円の年間収益見込みに対し、稼働から半年たった現在、収益は二千五百万円程度にとどまっており、府企業局は「初期調整はメーカー側の責任。収益の不足分を補ってもらう」としている。
風力発電はクリーンエネルギーの開発をめざす府が、伊根町野村の太鼓山(標高六八三メートル)に六基の風車(タワー五十メートル、羽の直径五十・五メートル)を設置。一キロワット当たり十一円四十銭で関西電力に売る契約を結び、昨年十一月中旬から発電を始めた。
一基の発電能力は一時間当たり最大七百五十キロワットで、年間収益を一億円程度と見込んでいた。ところが、コンピューター制御によって、現地の風力や風向の急速な変化に合わせ、最大の電力を生む初期調整が「十分できなかった」ほか、平均風力が当初見込みより弱かったため、収益が伸び悩んでいる。
府企業局によると、五月末までの発電量は約二千二百万キロワットで、半年間の収益は二千五百四十万円。目標額を大きく下回っていることから、「早急に初期調整の修正を行い、最大の電力を生むようにした」という。
風力発電の初期調整は、他の自治体や民間でも苦労しているといい、企業局は「初期調整が原因の収益不足は、風車メーカーに負担してもらうため、問題はない」と話している。
ただ、夏場にかけて風力が弱まることが予想されており、収益目標を達成できるかどうかは微妙なようだ。
註)記事中の『発電量は約二千二百万キロワット』は、約二百二十万キロワットの誤りだと思われます(近藤)。
更に、風は季節によってもその風向、風速ばかりでなく、その乱れの状況も性質が異なります。発電量の短期的な時間変動ばかりでなく、年間を通した季節変動も風力発電の大きな問題です。次に示すのは、新エネルギー財団のホームページから、山形県立川町の400kW×2風力発電施設の年間稼動実績の変動について示したものです。
風力発電について、ある町の担当者が面白いことを語っています。
『電力の安定供給は重要なことですが、現在の需要側が安定していないため、その変動に対応するため、どうしても火力発電をなくすことはできません。しかし、風力発電の設置により、その変動部分の一部を補うことができ、火力発電所で作る電気の量を減らすことにつながります。』
この認識は、二つの点でとんでもない思い違いをしています。まず、需要変動に対応するためには、発電出力が完全に人間の制御下になければなりません。同じ『変動』と言っても、風力発電の発電量の変動は、全く人知の及ばない変動であり、制御することなど不能です。
第二に、こうした風力発電の予測不能な急激な出力変動は、人間社会の予測可能な緩やかな需要変動より以上に対応が難しいものであって、既存の短期的な出力調整が可能な火力発電や水力発電による電力供給システムに、多大な負担を付加するものです。環境省がなぜ、大幅なエネルギーロスを承知で、風力発電を既存の電力供給システムから切り離して水素製造に使う実験を行おうとしているのか、ちょっと考えてみればわかることだと思うのですが・・・。
§4.経済的に見た風力発電
前回、風力発電の特性を概観しました。重要な点は、カタログデータとして示されている風力発電における発電能力、あるいは定格出力として示されているデータは、風力発電装置を構成する『発電機』の定格出力を示したものであって、風力発電システム全体の発電能力とは全く別物である点です。
風力発電システムに供給されるエネルギー=風は、時空的に極めて不安定であり、全く同じ風力発電システムであってもその設置場所によって実際の発電能力、特性は全く別なものになります。ある特定の場所に設置された風力発電システムを評価するには、少なくとも発電能力と平均稼働率の積で評価すべきです。しかし、稼働率自身が長期・短期で大きく変動するため、発電能力と平均稼働率の積をとっても、それは平均的な発電能力を評価したに過ぎず、厳密には更に稼働率の時間的な変動を考慮して評価しなくてはならないことを銘記しておかなくてはなりません。
現在の電力供給システムに要求されることは、絶対的な電力量だけではなく、需要に即応し、更に安定的に電力を供給することです。風力発電システムは、こうした電力供給システムの必要要件を全く満たしていない『欠陥発電システム』であることは論を待ちません。風速は、平均風速の周りで短期的には秒単位で変動し、その平均風速も時々刻々変化します。更に、前回示した立川町の風力発電システムの月別発電実績からもわかるように、季節変動も非常に大きいのです。
このような風力発電システムを無理やり既存の発電システムに組み込むためには、いくつかの方法が考えられます。まず一つは、既存システムとの間にバッファを置くことです。具体的には巨大な蓄電装置を用いたり、水素の製造に使う方法です。しかし、この方法はただでさえ発電コスト=資源・エネルギーコストの高い風力発電システムのコストを更に悪化させることは明白であり、あまり現実的ではないでしょう。
もう一つは、何とか既存システムのネットワークの中で、他の発電システム、例えば出力調整の比較的容易な火力発電や水力発電の出力調整によって変動分を吸収することです。しかし実際には短期的な変動に対して完全な出力調整など不可能ですから、システムには過大な電圧がかかったり逆に電圧低下が起こったりするでしょう。更に既存の電力供給システムの発電効率を大きく悪化させることになります。そのため、風力発電システムを大規模に既存システムに組み込むことは電力供給システム全体のエネルギー効率を著しく悪化させることになります。
定性的な分析はこの程度にして、実際に稼動実績を考慮しつつ、独立行政法人経済産業研究所の戒能一成氏による『電源構成試算モデルと発電コスト比較について』(平成15年7月)という研究を題材に少し定量的な検討を行うことにします。
まず、電源別前提諸元を示します。これは、資源エネルギー庁のデータのようですが、ここでは直接関係ありませんが、原発についての値・注意書きはほとんど信頼性はありませんので、注意してください。電源別の建設単価は、定格出力1kWあたりの値です。
次に示すのは、償却方法を考慮した発電単価(円/kWh)の値です。当然のことですが、施設稼働率が高いほど発電単価は安くなります。これは見方を変えると、施設稼働率が高いほど、発電効率が良くなり、資源・エネルギーコストが下がることを意味します。逆に、風力発電の不安定な電力を供給するために、既存発電システムの稼働率を変動させることは、著しくこれらのシステムの発電効率を落とすことは明白です。
次に示すのは、新エネルギーと既存の主要発電システムとの発電コストの比較です。
さて、ここに示された設置費用は定格発電能力に対する施設建設費を示しています。この表だけを見ると、大規模な風力発電システムは、火力発電よりも廉く建設できることになります。ここが、冒頭で述べた風力発電のトリックなのです。風力発電の定格発電能力は全く無意味です。風力発電と既存の火力発電を同列に比較するためには、定格発電能力ではなく、(定格発電能力×平均稼働率)で比較しなければなりません。
実際の幾つかの風力発電システムの平均稼働率から、風力発電システムの稼働率を15%と仮定して表の値を補正してみます。
風力発電(標準) 28.0(万円/0.15kW)=186.7(万円/kW)
風力発電(大規模) 21.5(万円/0.15kW)=143.3(万円/kW)
表では、平均稼働率を20%として発電単価を算出していますが、実際には風力発電システムを最大限に稼動させたとしても定格能力に対する平均稼働率は20%になることは考えられません。ここでは、大規模風力発電のモデルとして定格発電能力1500kW、平均稼働率15%で、耐用年数を20年と仮定して風力発電の発電コストを算出してみます。
設置費用 21.5(万円/kW)×1500(kW)=3.225(億円/kW)
耐用年数期間中総発電量 1500(kW)×0.15×24(h/日)×365(日/年)×20(年)=39,420,000(kWh)
発電単価=322,500,000(円)÷39,420,000(kWh)+11.9(円/kWh)=20.1(円/kWh)
註)発電単価の算定において、単純化するために、初期投資の償却において利子を無視し、耐用期間中の発電量に対して均等に配分すると仮定する。実際には更に発電単価は大きくなる。
さて、これに対してLNG火力や石油火力に対して、表では平均稼働率20%という、これらの発電システムとしては異常に低い値を設定しています。これは風力発電の平均稼働率に揃えただけですが、全く現実的ではありません。現実的には、火力発電全体で平均発電単価は7.3円/kWh程度と言われています。
以上の検討により、大規模風力発電システムにおいての発電単価は、火力発電の3倍程度というのが現実的な数値のようです(しかしより厳密には、風力発電を導入することによって発生した既存火力発電システムの損失を、風力発電システムのコストとして計上すべきでしょう。)。電力会社への売電単価が11円/kWh程度ですから、経営的には全く成り立たないことは明らかです。更に、たとえNEDOのばら撒き補助金などで設置費用がほとんどかからなかったとしても、表から明らかなように運転費用だけで既に11円/kWh以上かかっているのですから、風力発電の売電専業の会社を起こすことなど全くナンセンスと言ってよいでしょう。
戒能氏は風力発電について、風力発電の例外性として、特に次のように記述しています。
§5.APU風力発電計画の検討
では、立命館アジア太平洋大学APUの風力発電計画の経済的な検討に入ります。計画の概要は以下の通りです(計画稼働率、年間運転経費、発電単価は近藤による推定値)。
定格出力 1500kW
初期投資(建設費) 3.75億円
年間計画発電量 304万kWh
計画稼働率 3,040,000(kWh/年)÷365(日/年)÷24(h/日)÷1500(kW)=0.231=23.1%
売電収益 3,500 (万円/年) (15年間で5.25億円)
年間利益 約3,000万円
年間運転経費 500万円/年
計画発電単価(耐用年数20年)
(3.75(億円)+0.05(億円/年)×20(年))÷(304(万kWh/年)×20(年))=7.8(円/kWh)
このAPUの風力発電計画を、前回示した、より現実に近いと思われる推定値で補正してやります。まず、平均稼働率を15%、運転費用を11.9円/kWhとします。
年間発電量 3,040,000×(15÷23.1)=1,974,026(kWh/年)
年間売電収益 1,974,026(kWh/年)×11.5(円/kWh)=22,701,299(円/年)
年間運転費用 1,974,026(kWh/年)×11.9(円/kWh)=23,490,909(円/年)
年間利益 22,701,299(円/年) − 23,490,909(円/年) = ▲ 789,610(円/年)
耐用年数を20年とした場合の総経費を算定してみます。
総発電経費 3.75(億円)+0.235(億円/年)×20(年)=8.45億円
耐用期間中に発電される総発電量 1,974,026(kWh/年)×20(年)=39,480,520(kWh)
発電単価 845,000,000(円)÷39,480,520(kWh)=21.4(円/kWh)
以上の算定結果とAPUの当初計画の数値の比較を下表に示します。
項目 | APU当初計画 | 計画補正値 |
定格出力 | 1500kW | 1500kW |
建設費 | 3.75億円 | 3.75億円 |
平均稼働率 | 23.1% | 15% |
年間発電量 | 304万kWh | 197.4万kWh |
売電単価 | 11.5円/kWh | 11.5円/kWh |
年間売電収益 | 3,496万円 | 2,270万円 |
年間運転経費 | 500万円 | 2,349万円 |
年間利益 | 約3000万円 | ▲79万円 |
発電単価 | 7.8円/kWh | 21.4円/kWh |
APU計画では、23%の平均施設稼働率を前提にしています。既存の風力発電施設では、調べた範囲では、『計画発電量』として、20〜26%程度を想定しています。また、前回示した戒能氏のレポートでも20%という値を採用していました。しかしながら、太鼓山の風力発電施設の記事にもあった通り、実際にはこうした当初見込みを大幅に下回る発電量しか得られず、各風力発電施設は苦慮しているのが実態です。
既存の風力発電施設を運営しているのは、自治体や第三セクター、あるいは大企業という、風力発電施設で経済的に欠損が出ても、何とか穴埋め出来る経営体力を持つ組織なのです。APUの学生諸君、あるいはNPOの風力発電による売電専業の弱小企業では、もっと厳しい現実に即した評価をしなければならないでしょう。ここでのモデル計算では、平均稼働率15%を見込みましたが、太鼓山(11.1%)、多伎町(9.41%)の実績を考えると、この値さえ少し大きめの値かもしれません。
次に注目すべきは、運転費用です。戒能氏のレポートでは、大規模風力発電の場合でも単位発電量あたり11.9円かかるとしています。この値から推定すると、APUの風力発電施設では年間2,349万円の運転経費が発生します。あるいはAPUと同規模の風力発電施設を持つ多伎町の場合も、年間経費として2,000万円を想定していますから、これは妥当な値なのだと考えます。APUの計画では、年間の運転経費としてわずか500万円しか見込んでいません。これでは、施設メンテナンスどころか人件費すら賄えないのではないでしょうか?あまりにも非現実的な値です。
夢のような仮定に基づくAPUの風力発電計画は、環境問題以前の問題として、経営的に全く成立しません。NEDOが一体どれほどの初期費用を分担することになるのか(多伎町の例では1.55億円程度)定かではありませんが、売電収入で施設操業のための運転経費を稼ぎ出すことすら、至難の業だと考えます。建設費を含めた初期費用を全く棒引きにしたとしても、市民に配当金を出すどころか、毎年市民から追加の資金を集めて自転車操業で火達磨になる可能性が極めて高いと考えます。
仮に、順調に操業すればそれなりの利益が上がる事業だとしても、自然を相手にした、非常に不安定な事業一本で起業しようというのはあまりにも無謀としか言いようがありません。一度、落雷事故のような突発的な大きなトラブルが発生すれば、それで経営的には即破綻です。風力発電による売電専業の会社を運営するためには、自然災害に対する巨額の保険にでも入らなくてはならないでしょう。しかし、何の実績もない弱小な専業の会社に入れるような保険はまず存在しないでしょうが・・・。それ以前に、最初から製造コストの半分で製品を売るような商売が、一体どうして成り立つのですか!?補助金や他人の懐をあてに会社を興すなど、経営者として失格です。
APUの学生諸君、NEDOや君らの取り巻きに踊らされて大火傷をする前に、事業からの撤退を冷静に考えた方がいいのではないですか?
§6.風力発電の二酸化炭素排出量削減の有効性の検討
前回までの風力発電に関する検討で、風力発電が経済的に自立して営業できる可能性は皆無であることが理解されたと思います。さて、今回からが本番で、風力発電が環境問題の改善に資することが出来るか否かについてを検討していくことにします。まず、風力発電をはじめとする自然エネルギー発電システムの導入が考えられた経緯を概観しておきます。
自然エネルギー発電が注目され始めたのは、二酸化炭素増加による地球温暖化脅威説によります。以下にアウトラインだけ要約しておきます。近年、継続的な地球の平均気温の上昇傾向が続いており、同時に二酸化炭素の大気中濃度の上昇傾向が続いている。二酸化炭素の人為的な発生量も近年増加傾向にある。二酸化炭素は温室効果ガスである。これらの事実をつなぎ合わせて、極めて短絡的に『人為的な二酸化炭素の発生(炭化水素燃料の燃焼)によって地球が温暖化している』としたのが、二酸化炭素地球温暖化説です。
更に、温暖化することによって氷河の融解で海面上昇し陸地が失われ、旱魃が多発するという脅かしとが結びついて、二酸化炭素地球温暖化脅威説としてまとめられ、いつしか環境問題の中心的な課題と位置付けられるようになりました。
米国と日本はこれを機に、斜陽に向かいつつある原子力産業の活性化を目論み、脱原発の潮流が主流となった欧州では、風力発電を中心とする自然エネルギー、いわゆるエコビジネスで経済的な覇権を取り戻す契機にしようとしているのが現在です。真偽のほどは定かではありませんが、むしろ米国の経済(原子力)戦略として二酸化炭素地球温暖化説がでっち上げられたという話もよく耳にします。
二酸化炭素地球温暖化脅威説は、欧米や日本の企業戦略とも融合し、環境問題の最重点目標に祭り上げられました。その対応策として、エネルギー供給分野において、『直接的に』炭化水素燃料の燃焼からエネルギーを取り出すエネルギー供給システムを削減することが目標とされました。
しかしながら、二酸化炭素地球温暖化脅威説はほとんど虚構であり、科学的な裏づけは、全く確立していません。詳細な検討は、§2−5で既に行っておりますので、そちらをご覧ください。APUの学生起業家諸君は、まずこの二酸化炭素地球温暖化脅威説の妥当性を示さなくてはなりません。
話を元に戻します。日本ではこうした『脱炭化水素燃料』を目指して『新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法』を制定しています。その中で、新エネルギーを以下のように定義しています。
・・・「新エネルギー利用等」とは、石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律(昭和五十五年法律第七十一号。以下「石油代替エネルギー法」という。)第二条に規定する石油代替エネルギー(以下この条において「石油代替エネルギー」という。)を製造し、若しくは発生させ、又は利用すること及び電気を変換して得られる動力を利用すること(石油に対する依存度の軽減に特に寄与するものに限る。)のうち、経済性の面における制約から普及が十分でないもの・・・
石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律第二条を以下に引用します。
第2条 この法律において「石油代替エネルギー」とは、次に掲げるものをいう。
1.石油(原油及び揮発油、重油その他の経済産業省令で定める石油製品をいう。以下同じ。)に代えて燃焼の用に供される物
2.石油を熱源とする熱に代えて使用される熱(前号に掲げる物の燃焼によるもの及び電気を変換して得られるものを除く。)
3.石油を熱源とする熱を変換して得られる動力(以下「石油に係る動力」という。)に代えて使用される動力(熱又は電気を変換して得られるものを除く。)
4.石油に係る動力を変換して得られる電気に代えて使用される電気(動力を変換して得られるものを除く。)
石油代替エネルギー法第2条の定義に従えば、確かに風力発電や太陽光発電、燃料電池は「石油代替エネルギー」ではあるかもしれませんが、新エネルギーと呼ぶためには更に、石油に対する依存度の軽減に特に寄与するものに限る、という条件を満足させなければなりません。とりあえず、ここの議論では二酸化炭素地球温暖化脅威説の真偽についての判断は保留しておきますが、少なくとも、この新エネルギーの定義を満足するか否かというのは、決定的に重要な判断基準を示していることを確認しておきたいと思います。
まず、法的な意味ではなく、風力発電が、既存の火力発電を中心とする発電システムの代替が可能かどうかを検討してみます。次の図は、既存の発電システムに風力発電システムを導入した場合の発電量の時間変動を模式的に表しています。
既存の発電システムは、風力発電システムの平均発電能力に対応する発電能力を減らすことが可能なはずです。しかしながら、風力発電システムは実際には、風速に応じて、時々刻々、予測不能な時間変動を生じます。既存の発電システムは、この時間変動を相殺すべく、発電量を変動させてやらなくてはなりません。結局、既存の発電システムに要求される発電能力は、風力発電導入以前と全く同じなのです。つまり、風力発電システムは、既存の電力供給システムを全く代替出来ないのです。それどころか、風力発電の導入は、既存の発電システムに不規則な出力変動を要求します。これは、既存の発電システムには非常に大きな負担となり、エネルギー変換効率を著しく落とすことになります。
更に、風力発電を既存システムに接続するという運用形態では、既存の発電システムに大きな負担をかけるだけでなく、模式図のように、完全には風力発電の予測不能な変動を相殺するような運転は不可能ですから、供給電力が質的に悪化することになります。こうした事情から、将来的にも、風力発電や太陽光発電など、制御された出力調整が行えないシステムが、大規模に導入されることはありえないのです。
風力発電や太陽光発電は、環境政策の広告塔という機能を除けば、電力供給システムのお荷物にしかならない、高価な玩具にすぎないのです。
既に見てきたように、風力発電は既存の電力供給システムを設備的には全く代替出来ないことがわかりました。ここでは、『石油代替エネルギー』の導入が合理性を持つための必要条件を示しておきます。これは、室田武氏が「原子力の経済学」の中でまとめたものを、原子力を石油代替エネルギーと読替えたものです。
@石油代替エネルギーは石油にとって代わるエネルギー源である。【石油おきかえ説】
A石油代替エネルギーに投入される石油エネルギー量より、そこから産出されて人間社会内で有効に使えるエネルギー量のほうが大きい。【エネルギー収支プラス説】
B同一量の石油を消費する場合、石油代替エネルギーに投入する方が石油を節約できる。【石油有効利用説】
本質的な意味で石油代替とは@だけです。しかし、工業生産システムを考えれば明らかなように、石油を全く使わずに一切の工業製品を作ることは不能です。故に、石油なしに自らを(拡大)再生産できるエネルギーは存在しません。つまり本質的な意味における石油代替エネルギーは存在しません(ただし、石炭、天然ガスなどは可能)。
ここで異論があるかもしれません。風力や太陽光などの自然エネルギーは、石油を消費しなくても、常に供給されているから、石油代替エネルギーになる可能性があるのではないか、という点です。風や太陽光のエネルギーの起源は、太陽で行われている核融合反応です。その意味では石油消費とは無縁のものです。しかし、この自然エネルギーを、地球上の工業的生産・社会システムの中に組み込んで使用するためには、風力や太陽光を利用可能にするための設備が必要になります。例えば風力発電システムであったり、太陽電池パネルです。こうした自然エネルギーを利用するための施設の建設には、大量の鉱物資源と石油エネルギーの投入が不可欠です。自然エネルギーも本質的な意味で工業生産システムを支える石油代替エネルギーになることは出来ないのです。
しかし、AあるいはBの条件が満足されるならば、部分的に石油エネルギーシステムを代替する可能性は残されています。新エネ特措法で言う『新エネルギー』とはこの意味であると理解されます。
さて、HP管理者からNo.90で紹介したように、環境省の言う、風力発電導入による二酸化炭素の削減効果とは、風力発電によって発電した電力量に、同一の電力量を得るために火力発電ないし既存発電システムから排出される二酸化炭素量を乗じた値に過ぎないことを示しました。これでは全く現実を反映していません。
発電施設を建設するためには、鉱物資源とともに石油エネルギーが投入されます。風力発電は既に見てきたように、火力発電をはじめとする既存の発電システムと比較して、エネルギー密度が低く、単位電力量あたりの施設規模が相対的に非常に大きくなり、しかも制御できない急激な出力変動が発生するため、稼働率が極めて低くなります。§4.では、風力発電の実効平均発電能力当たりの施設建設費を算定しました。その結果、石油火力発電 28.7(万円/kW)、LNG火力発電 20.8(万円/kW)に対して、風力発電 143.3〜186.7(万円/kW)という数値を示しました。
しかし、これは必ずしも正しくありません。本来比較すべきは、各発電システムの耐用期間中に発電される総電力量について、その単位電力量あたりの費用として比較しなければなりません。耐用年数は、火力発電では40年、風力発電では20年で算定します。
石油火力発電 28.7(万円/kW)÷(24(h/日)×365(日/年)×40(年))=0.82(円/kWh)
LNG火力発電 20.8(万円/kW)÷(24(h/日)×365(日/年)×40(年))=0.59(円/kWh)
風力発電 143.3〜186.7(万円/kW)÷(24(h/日)×365(日/年)×20(年))=8.18〜10.66(円/kWh)
発電施設建設コストを比較すると、風力発電は、火力発電の10倍から18倍程度ということになります。これは、火力発電を風力発電でおきかえることによって、発電所の施設建設にかかわる工業部門の生産が10〜18倍に膨れ上がることを意味しています。これは、メーカーにとって、実に魅力的な市場が創設されることを意味しています。同時に、発電施設建設における石油投入量、環境負荷も10〜18倍に膨れ上がることを意味しています。
更に、これに運転費用を加算して最終的な電力の単価は次のようになります。
石油火力発電 0.82+6.2=7.02(円/kWh)
LNG火力発電 0.59+6.0=6.59(円/kWh)
風力発電 (8.18+11.9)〜(10.66+15.5)=20.08〜26.16(円/kWh)
さて、だいたい実際の発電単価に近い値が得られました。火力発電では、発電単価の6割が燃料費といわれています。ここからは正確なデータがないために予測になりますが、燃料費以外の経費のうち、2割程度は何らかの(石油)エネルギーの対価だと仮定します。以上をまとめると、火力発電における石油投入量に対する費用は以下のとおりになります。
石油火力発電 7.02×(0.6+0.4×0.2)=4.77(円/kWh)
LNG火力発電 6.59×(0.6+0.4×0.2)=4.48(円/kWh)
同様に、風力発電の石油投入量に対する費用は以下の通りです。
風力発電 20.08〜26.16×0.2=4.02〜5.23(円/kWh)
さて、燃料費以外の経費のうちの2割を石油消費の対価とした仮定が正しいかどうか、難しいのですが、少なくとも火力発電と風力発電において、消費する石油量は同オーダー程度の違いにしか過ぎず、風力発電を導入することで、著しく二酸化炭素排出量が削減される可能性はないように見えます。
逆に、施設建設やメンテナンスにかかわる部門の工業生産量は、風力発電を導入することによって確実に10数倍に膨れ上がります。これは鉱物資源の消費量の増大、工業生産部門からの産業廃棄物の増大を招来します。
前回の風力発電に関する検討で、風力発電の導入によって、既存の発電システムを代替することは出来ないことを示しました。総合的に判断するならば、二酸化炭素排出量が削減できるかどうかも定かでなく、工業生産規模は確実に肥大し、しかも既存の発電システムを全く削減できないような無意味な風力発電を導入することに合理性があるとは到底思えません。
更に、風力発電の制御不能な出力変動を相殺するために、既存の火力発電が被る不規則な出力調整による発電効率の悪化は、火力発電の単位発電量当たりの石油消費量を増加させ、二酸化炭素排出量を増大させます。
これらを勘案すると、既存の発電システムに風力発電システムを導入した新たな発電システム全体からの二酸化炭素排出量は増加する可能性が極めて高いと考えざるを得ません。
APU立命館アジア太平洋大学の起業家諸君、私には風力発電の導入が二酸化炭素排出量の削減に結びつくとは考えられないし、まして環境問題の改善に資するなどということは、あり得ないと考えています。あなた方の納得できる説明を是非お聞かせください。
§7.新エネルギーの二酸化炭素排出量削減の有効性の検討
風力発電システムは経済的に自立した営業運転は不可能なこと、そして炭化水素火力(石油火力、LNG火力、石炭火力)を中心とする既存の電力供給システムを代替出来ないこと、更に、二酸化炭素排出量を削減できる可能性が低いこと、鉱物資源を大量に浪費することが明らかになりました。
内容については、既に§2-2エネルギーで述べた範囲を超えるような新たな内容はなく、自然エネルギー全般の致命的な問題を再確認したにとどまりました。石油代替を目指す自然エネルギーの中では、最も現実性の高いと見られている風力発電ですが、その実態は、この程度のものです。太陽光発電では、その発電コストは風力発電よりも更に1オーダー高く、評価の必要もないと考えられます。その他、波力・潮汐力発電においても基本的な問題は同様です。また、このホームページでも触れた海洋温度差発電や燃料電池についても、その総合的な低効率性から、環境問題の改善に有効である可能性はほとんどないといってよいでしょう。
最後に、少し視点を変えて、現在社会の『工業的な』エネルギーの消費構造について考えてみます。まず最初に示すのは、一次エネルギーの需給の動向です。
このグラフは、石油換算の表示です。グラフに示されている、新エネルギー・水力・地熱・原子力は、ほぼ100%二次エネルギーとして電力供給に充てられると考えられます。
近年省エネ技術が進んでいるといわれていますが、一貫してエネルギー消費量は増加傾向を示しています。エネルギー問題の根本的な問題は、この総エネルギー量の増加傾向にあることを確認しておかなくてはなりません。ここでは敢えて内容にまでは触れませんが、基本的な問題解決の方向性は、工業的なエネルギー消費を削減する社会構造を如何に再構築するか、ということです。
グラフから明らかなように、一次エネルギーの中で、『新エネ等』の占める割合は、極めて低く、新エネルギーの導入でエネルギー需給構造の構造的な変化が実現されることはありえません。行政やマスコミが大声で新エネルギーによる環境問題の改善を訴えていますが、これはエクスキューズのための広告塔を大袈裟に宣伝し、衆目を環境問題・エネルギー問題の本質から逸らしているだけなのです。
次のグラフは、石油の用途を示したものです。
グラフからわかるように、石油の用途として火力発電に投入されている割合は7%程度に過ぎません。新エネルギー戦略の根本的な問題点の一つは、石油消費の削減を目指すとしていますが、それは電力供給分野に限定されたものであり、本質的な問題解決には結びつかないことです。更に、今回風力発電で検討したように、火力発電を風力発電で代替することによって、発電施設の規模は10倍以上に肥大します。これによって、直接電力部門に投入される石油量は削減できたとしても、鉱工業部門に投入される石油量は確実に増え、石油消費全体としてはむしろ増大する可能性が高いのです。
次の図は、発電量の推移と、その電源別の構成を示したグラフです。
図から明らかなように、近年、電力の消費量は急速な伸びを示しています。現在の電力消費量は1970年の3倍程度に増大しています。前に示した一次エネルギー消費量の伸び率よりも電力の伸び率が高くなっています。その中で、新エネルギーの占める割合はきわめて小さく、2010年の目標値でも1%に過ぎないことの意味を考えなくてはなりません。
次の図は、一次エネルギーの中で、電力供給分野に投入される比率『電力化率』の推移を示したグラフです。
このグラフからも、消費される電力量が絶対量のみならず、総エネルギーに占める割合も急速に伸びていることがわかります。
電気エネルギーは、エネルギー形態としては非常に質の高いものです。簡単に熱、運動、光、に変換できますし、電子機器を駆動するには不可欠です。物理的には、低エントロピーで、『使用段階における廃物・廃熱』が非常に少ないということです。しかし、その質の高い電気エネルギーを生み出すためには、エネルギー転換の段階で極めて大量のエントロピー=廃物・廃熱を生産しているのです。中でも、燃料電池システムは最も環境負荷の大きな発電システムであると考えられます。
一般に、摩擦や物性的な限界の存在する地球環境において、電気以外のエネルギーでも出来る作業を、電気という非常に質の高いエネルギーを利用して行う『迂回生産過程』の場合、総合的なエントロピー=廃物・廃熱=環境負荷の発生量は増大すると考えられます。特に、近年電力会社や家電メーカーが推進している、夜間電力利用の電気温水器や、調理用ヒーターなど、電気エネルギーを低温熱源として利用するというのは、まったく馬鹿げた利用方法です。使用段階におけるエントロピー発生量が少ないということと、社会システム全体におけるエントロピー発生量=環境負荷の発生量は峻別して考えなくてはなりません。
現在のエネルギー問題についてのいくつかの視点を示しました。二酸化炭素地球温暖化脅威説という、全く信頼性に乏しい一仮説に基づく、温暖化ガスである二酸化炭素排出量の削減という文脈における新エネルギーの導入など、全く無意味なことです。反面、石油あるいは炭化水素燃料という、非常に優れたエネルギー資源の浪費を食い止め、来るべき『後期石油文明』構築に温存することは大変重要なことだと考えます。しかし、現在提案されている『新エネルギー』政策にはほとんど実効性はありません。
今回の風力発電における検討で述べたとおり、今日の工業製品の全ては石油の大量消費の下に製造されており、炭化水素火力発電に対して、(設備利用)効率の極めて低い新エネルギーは、その反映として相対的に発電コストが非常に高くなります。風力発電において、その設備規模の大きさから、炭化水素火力発電に比較して明らかに石油節約的になる可能性は極めて小さいと考えられます。これは、普遍的な関係であり、風力発電以上に高コストである太陽光発電、燃料電池、海洋温度差発電等など、そして原子力発電にも、石油起源の二酸化炭素排出量を削減する可能性は全くありません。
大分県を始め、これから新エネルギーの導入を図ろうとしている自治体の皆さん、そしてAPU立命館アジア太平洋大学の学生起業家諸君、環境問題の全般を視野に入れた視点から、もう一度冷静な検討をしてはどうですか?
既に風力発電に着手している地方自治体、第三セクター、施設運営者の皆さん、せっかく大金をつぎ込んだ壮大な実験施設を作ったのですから、稼動に関する詳細なデータを収集して、これを全て公開して本質的な技術の進歩のために寄与する努力を、切に望みます。
風力発電初め、新エネルギー開発に携わる企業ないし企業技術者の皆さん、補助金にたかるような商売はやめて、もう少し本質的な問題に眼を向けてみませんか?
大学、公的研究機関の研究者の皆さん、研究費目当ての派手な研究は、そろそろ止めにしてはいかがですか。
【補足1】一次エネルギーと二次エネルギー
§7のエネルギーに関する統計において、「一次エネルギー」「二次エネルギー」という分類が使われています。この分類は、あまり有効な分類とはいえません。『原子力のページ』の説明を以下に引用します。
エネルギーには石油や石炭等を燃やして熱として利用したり、その熱を電気に変換して利用したり、石油をガソリンに加工して自動車を走らせたりいろいろな利用の仕方があります。
一次エネルギーとはいろいろな形のエネルギーの最初にエネルギーの源となるもので、石油・石炭・天然ガス等の化石燃料、原子力の燃料であるウラン、水力・太陽・地熱等の自然エネルギー等自然から直接得られるエネルギーのことを言います。
これに対し、電気・ガソリン・都市ガス等、一次エネルギーを変換や加工して得られるエネルギーのことを二次エネルギーと言います。
この一次エネルギーの定義は、ひどくあいまいなものです。現在の工業的な生産過程において、ここに挙げられた『一次』エネルギーないし一次エネルギー資源として分類されているものの中には、そのまま用いることの出来ない資源が含まれています。
例えば、原子力とは、ウランの核分裂反応から得られるエネルギーを利用するわけですが、核分裂性のウランは潜在的に核分裂反応によってエネルギーを放出する能力があったとしても、そのままの状態で利用することは不可能です。工業的に制御されたエネルギー=意味のあるエネルギーとして利用するためには、ウラン燃料の工業的な加工・製造過程、厳重に管理された原子炉等が必要です。
また、水力・風力・太陽光・地熱などの、いわゆる自然エネルギーは利用の仕方によって一次エネルギーでもあり、二次エネルギーでもあります。例えば、太陽光をそのまま採光して光源として用いたり、タライに入れた水を温めるために利用するのならば、これは一次エネルギーです。しかし、このような利用は、§7で示した統計値には通常含まれているとは考えられません(一次エネルギーとして計上されている原子力や新エネルギーは、二次エネルギーとしての供給電力量を得るために、仮に石油を用いて同量の電力供給を行う場合どれほどの石油が必要かを、カロリーベースで換算した値に過ぎません。)。あくまでも産業分野における統計値として表面に出る太陽光エネルギーとは、太陽光を、例えば太陽電池パネルを介して、電気エネルギーに変換して利用する場合です。工業的な利用においては、原子力同様に太陽光をはじめとする自然エネルギーは二次エネルギーです。
このように、現在一般に言われている一次エネルギーの定義は、流動的であいまいなものです。工業的な生産過程を支える基本的なエネルギー資源という視点に立てば、一次エネルギーないし一次エネルギー資源とは、『自らの生み出す工業的に制御されたエネルギーだけで、自らを再生産し、更に工業的な生産過程で有効に使える余剰なエネルギーを供給する能力のあるエネルギーないしエネルギー資源』と定義すべきです。これは簡単に言えば、自らの能力で工業的に拡大再生産が可能なエネルギーないしエネルギー資源と言うことが出来ます。
このように定義すれば、客観的に一次エネルギーを定義することが可能になります。つまり、あるエネルギー供給システムにおいて、{(産出エネルギー)-(投入エネルギー)}で定義されるエネルギー収支がプラス、あるいは{(産出エネルギー)/(投入エネルギー)}で定義される産出比が1.0よりも大きければ、それは一次エネルギーないし一次エネルギー資源だと考えられます。
この一次エネルギーの定義に従えば、石油・石炭・天然ガス以外に一次エネルギーはありません。逆に、一次エネルギーではない原子力や新エネルギーでこれらのエネルギー資源を全面的に代替する、いわゆる石油代替エネルギーの構想は実現不可能です。
少し視点を変えて、電気というエネルギー形態について考えてみます。これは、使用段階において、比較的簡単に色々な仕事に利用できる、便利なものです。しかし、電気エネルギーを得るためにはエネルギー転換(=発電)の段階で、投入されるエネルギーのかなり多くの部分が、環境中に散逸します。それ故、発電という操作にだけに注目すれば、必ずエネルギー収支はマイナスになります。
これは炭化水素燃料を用いた火力発電でも同じです。しかし、石油・石炭・天然ガスという優れたエネルギー資源では、発電プロセスに投入する以前の段階において、エネルギー産出比が10倍のオーダーであるため、発電プロセスの産出比が0.4程度としても、総合的には依然エネルギー産出比が1.0を大きく上回ること、更に二次エネルギーとして直接燃焼させて利用される部分があることから、石油・石炭・天然ガスによって供給されるエネルギーの総合的な産出比は大きく1.0を上回ることになります。
これに対して、事実上、工業的な生産過程において電力として使用することしか考えられない原子力や新エネルギーでは、発電プロセスにおけるエネルギー収支がマイナスであるということは、そのまま致命的な欠陥になります。しかし、これだけでは石油文明下において、原子力や新エネルギーの利用価値が全くないかどうかは判断できません。原子力や新エネルギーが全面的に石油・石炭・天然ガスによるエネルギー供給システムを代替することは不可能ですが、ある条件下において有用な資源である石油・石炭・天然ガスを節約する可能性があるからです。
例えば同量の石油を、火力発電プロセスとその他の、例えば原子力や新エネルギーによる発電プロセスに投入した場合、出力として得られる発電量において、後者の方が明らかに勝っている場合です。しかし、現実的にはこの石油資源利用効率(プロセスに投入した石油資源の持つエネルギー量に対する産出としての発電量の比率)においても、原子力発電で0.1〜0.64(室田の試算による)、風力発電で0.3〜0.4程度でしょう。最新の炭化水素火力発電では、0.4〜0.5程度でしょうから、この点からも原子力や風力発電をはじめとする新エネルギーを利用することに合理性はありません。
更に、自然エネルギーの多くは、工業的な生産過程を支える電力源としては致命的な欠点である、制御不能な出力変動を避けられないため、この点だけに着目しても大規模な導入はありえません。
(2003/12/24)
【補足2】風力発電導入におけるパラドックス
風力発電をはじめとする自然エネルギー(発電システム)には普遍的・致命的な欠点がいくつかあります。まず一つは、どこでも普遍的に存在するが、エネルギー密度が低いことです。その結果として、単位発電量当たりの設備規模が非常に大きくなリます。これが、自然エネルギーの工業的な利用において石油資源利用効率が低い原因です。
そしてもう一つの致命的な欠陥が、予測不能な時間変動が発生することです。中でも、風力発電は、自然風の特性から、最も出力の時間変動の大きな発電システムの一つです。現在、風力発電を導入するうえで中心的な問題として技術的に検討されているのがこの問題です。
具体的にどのような問題が起こるのか考えて見ます。まず第一は、風速の時間変動は、風力発電からの発電量の変動を生じます。更に、急激な出力変動は、供給電力の周波数変動を引き起こします。最も問題になるのは、風速が大きく、カットアウト風速を超える場合で、それまで風力発電システムの最大(定格)発電量であったものが、突然出力がゼロになってしまいます。こうした、風力発電による供給電力の『品質の悪化』が、具体的にどのような影響を及ぼすのかを見ておきます。
総合エネルギー調査会新エネルギー部会電力系統影響評価検討小委員会中間報告(H.12.7.14)に、風力発電を既存の電力供給システムと連系させる場合の技術的な問題点がまとめられています。これによりますと、電力品質に敏感な産業分野において、電動機の回転ムラによる製品不良、OA機器、精密計測器等の精度低下等が挙げられています。
このような事情から、風力発電システムからの出力変動を如何に抑え、『安定した』電力供給を行うかが風力発電の技術開発の中心的な課題になっていることは理解できます。
既存の電力供給システムに最も負担をかけない方法は、風力発電システムと既存の電力供給システムの間に巨大なバッファーを置いて、何らかの方法で風力発電システムからの出力を一旦蓄積して、バッファーから既存電力供給システムに対して完全に制御した電力供給を行うことです。しかし、この方式では、風力発電システムの付帯設備が巨大なものになり、ただでさえ石油資源利用効率の低い風力発電システムでは、ほぼ間違いなく石油資源利用効率において火力発電システムを下回ることになり、電力供給部門からの二酸化炭素排出量削減という風力発電導入の初期の目標と相容れない結果になってしまいます。
このような事情から、この種の対応策はあまり現実性がないのですが、現在ほとんど唯一この無謀な考え方を検討しているのが、こともあろうに環境省の風力発電〜水素製造プラント〜燃料電池システムです。このシステムの石油資源利用効率の低さは改めて実験検証などするまでもなく、全くの税金の無駄使いです。
そこで、現実的な対応として検討されている多くの方法は、風力発電の時間変動のうち、比較的短周期の時間変動を抑えて、出力変動を出来るだけ平滑化することによって、既存電力供給システムに対する変動負荷を小さくしようというものです。
既に最も広く行われている方法が、ブレードの風に対する迎角を変化させる方法です。この手法については、沖縄電力のレポートが参考になるでしょう。沖縄電力のレポートを見ると、ピッチ変更だけの制御としてはかなりうまくいっているように見えます。変動制御がない風車の出力は秒単位の激しい変動を見せていますが、ピッチ制御を行った場合、秒単位の激しい変動はかなりつぶされて、分単位の変動が支配的になるようです。しかし、分単位に数10%の出力変動を伴うような電力は、決して安定した電源とは程遠いものです。カットオフ風速を超えた場合の突然の発電停止による影響は防げません。また、この種の平滑化操作では、出力側のピークをカットしていくことになり、出力変動が抑えられる代わりに、発電効率は低下し、総出力が減少し、石油資源利用効率が低下することになります。
そのほかに、フライホイールや小さな蓄電システムを使用した出力変動抑制制御の方法が検討されています。変動抑制制御を極限まで推し進めていけば、結局巨大なバッファを設けるか、あるいは風力発電システムと同等の発電容量を持つ安定した発電システムを追加することになり、これでは石油資源利用効率から考えて、風力発電の存在意義は消滅してしまいます。
その他にも、風力発電とあまり相関のない自然エネルギー、例えば太陽電池パネルとを複合させた電力供給システムで、お互いの変動を相殺するというハイブリッド・システムを研究している方もいるようですが、風力以上に石油利用効率の低い太陽電池パネルによる発電を組み合わせては、総合的な石油利用効率は風力単独よりも更に悪化する可能性が高いと考えられます。
そこで、『現実的な対応』として、供給電力の品質低下は避けられないことを前提に、品質低下の許容値を設定して、その範囲において風力発電を導入しようという折衷策です。その具体的な風力発電導入可能量(=連系可能量)の算定の過程を北海道電力のホームページから紹介しておきます。ポイントは2点です。第一点は、風力発電による出力変動が、既存の電力供給システム(火力・水力)によって調整可能な範囲であることです。第二点は、出力変動によって引き起こされる周波数変動が、産業界の要請する、±0.3Hz以内であることです。その結果、出力変動抑制制御の程度にもよりますが、現時点で北海道電力管内で許容できる風力発電量(連系可能量)は25万kWだと結論されています。
このレポートには幾つか注目すべき点があります。まず一つは、実績から見た北海道電力の風力発電との最小連系量は0kWだということです。本編§6において、風力発電の導入によって、既存発電設備を代替することは出来ないことを述べました。北海道電力のデータはこの主張を実証しています。
更に、風力発電の連系可能量は、既存の電力供給システムの調整容量によって規定されることが述べられています。その結果、北海道電力管内で許容できる連系量は、現段階ではわずか25万kWです。もし、電力品質の低下を許容範囲内に抑えながら、風力発電との連系可能量を増加させようとすれば、風力発電からの変動出力を調整可能な何らかの安定した発電システムを新たに増設することが必要になるのです。
以上のように、風力発電システムを大規模に導入しようとすれば、出力制御を行うために石油資源利用効率が低下し、あるいは変動出力調整が可能な火力発電システムを増設する必要が生じます。いずれにしても、風力発電を導入することによって風力発電のみならず、その付帯設備の増大によって、電力供給部門の設備は確実に増大し、しかも石油利用効率が低下すると考えられます。正にパラドックスです。
註)平成14年度の北海道電力の売電実績は2,924,700万kWhです。北海道電力の風力発電との連系可能量はわずか25万kW、年間発電量は施設稼働率を20%と仮定した場合、
25万kW×0.2×24×365=43,800万kWh.
北海道電力の総売電量に対する割合は、
43,800万kWh/2,924,700万kWh=0.0150=1.5%.
現状では、連系可能な風力発電によって供給される電力量は、全体のわずか1.5%に過ぎません。風力発電システム、あるいは自然エネルギー発電システムの導入によって、発電システムからの排出二酸化炭素量を激減させるような、電力供給システムの構造的な変革が実現される可能性は皆無です。
(2003/12/26)