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2-3 自然エネルギー発電

2-3-1 自然エネルギー発電固有の問題

 自然エネルギーの工業的利用の始まりは、『有限の地下資源によるエネルギー供給は、資源の枯渇によって終了する』という限界を超えるために、主に太陽光によって定常的に供給されるエネルギーを利用しようという発想によるものと思われる。日本における長期エネルギー戦略は、まず原子力発電を実用化し、次に高速増殖炉を導入することで核燃料サイクルを確立し、更に核融合を経て、最終的には太陽光エネルギーの利用という段階を目指すことになっていた。
 この戦略には当初から基本的に大きな誤りがあった。石油をほとんど産出しない日本において、脱石油を目指したエネルギー戦略であったが、既に述べたとおり、原子力発電やその他の石油代替エネルギー供給システムは、石油によって支えられた工業生産が必須であり、単独では自己再生産が出来ないどころか、石油の節約になる可能性すらほとんどないのである。
 太陽光エネルギーの利用に対する、最初の大きな国家プロジェクトは、旧サンシャイン計画の下に行われた香川県仁尾町で行われた太陽熱発電のフィールドテストであろう。この計画は、惨憺たる結果を残して終了した。太陽光を利用するということで、日照時間が長い場所として瀬戸内の仁尾町が選ばれたわけであるが、それが思わぬ結果をもたらした。屋外に太陽光を受けるための広大な平面を作れば、表面に微細な塵が積もるのは至極当然のことである。塵によって集光面の反射率が低下して、思ったような出力が得られなかった。しかも、仁尾町は雨が少なく、集光面に一旦積もった塵は、洗い流されることが無かった。
 このフィールドテストで、自然エネルギーを利用する場合の重要な教訓を得たと考えられる。自然エネルギーを利用するためには、施設を直接屋外に曝すことになる。苛酷な自然環境に曝される施設は、実験室的な発電効率など、あまり意味が無い。実験室的な効率を維持するためには、膨大な保守・点検作業が必要であり、更に天候は全く制御できないため、基本的に出力調整は不可能なのである。
 国家はこれらの教訓から何も学ばず、基本的な検討を行わぬまま、今またニュー・サンシャイン計画という無駄な事業を開始した。以下、自然エネルギーの工業的利用に関する問題点を整理しておく。

a. 低いエネルギー密度

 自然エネルギーを利用しようという発想の一つは、自然エネルギーがどこでも普遍的に存在するから、場所を選ばないという点である。しかし、有機体生命が存在可能な環境中に普遍的に存在するエネルギーは、必然的にエネルギー密度が低い。
 これは、エネルギーを利用するという視点から考えれば、エネルギーを捕捉するための施設が従来のエネルギー供給システムに比較して、相対的に大規模にならざるを得ないことを示している。つまり、自然エネルギー発電システムは、例外なく鉱物資源浪費的な発電システムになる。発電施設は工業製品であるから、鉱物資源と同時に大量のエネルギー、つまり石油消費を伴うことになる。自然エネルギーの使用なのだから、石油消費が無くなる、ないし無条件に石油消費が削減できると考えるのは短絡的な幻想である。

b. 時空的な不安定性

 自然エネルギーは普遍的に存在するが、そのエネルギー密度を定点観測すれば絶えず大きな変動を示す。また、地形や地域的な気象の特性によって場所によってもそのエネルギー密度は変化する。
 例えば、太陽光発電であれば、晴天であっても夜間の発電は出来ない(地球の自転による日変化)。日中であっても、太陽高度によってエネルギー密度は常に変化する(地球の自転による日変化)。気象条件の変化によて更に短周期の変動が起こる。また、季節による太陽高度の変化も大きな変動を示す(地球の公転運動による季節変動)。また、緯度によって太陽高度は変化する。
 工業的なエネルギー供給、特に電気エネルギーでは、基本的に発電と同時に電力が消費されるため、電力需要に対する電力供給の即応性が求められる。こうした電力需要側の要請に応えるためには、電力の安定供給と同時に、完全に制御された出力調整が行われなければならない。自然エネルギー発電の予測不能な出力変動は、致命的な欠陥となる。
 あえてこうした不安定な発電システムを既存の電力供給システムに組み込もうとすれば、既存の発電システムに不断の出力調整を強いることになり、既存の発電システムに過大な負担をかけるだけでなく、既存の発電システムにおけるエネルギー利用効率の低下をも招来する。既存の発電システムの運用だけで自然エネルギー発電に対する出力調整がカバーできなくなれば、供給電力の電圧低下・周波数変動などの供給電力の品質低下を招くことになる。電子機器が社会生活のいたるところに入り込み、生産現場における電子制御が普通となった現在社会において、これは致命的な問題である。
 自然エネルギー発電の出力変動は大きく、例えば、太陽光発電に対する夜間電力のバックアップや、昼間でも雨天であれば発電は行えないため、そのバックアップを考えれば、既存の発電システムに要求される発電能力は、自然エネルギー発電の導入によって削減することは困難である。逆に自然エネルギー発電のバックアップのためにだけに、遊休発電施設が増えることは、既存発電システムの著しいエネルギー効率の低下になる。
 既存の発電システムに負担をかけないように自然エネルギー発電を導入しようとすれば、付帯施設として巨大で複雑な蓄電システムが必要になる。蓄電装置に要求される機能はさまざまである。自然エネルギーの秒単位の変動もあれば、太陽光発電のような1日を周期とする変動、更に季節変動という緩やかではあるが巨大な容量を必要とする変動、更に異常気象による数年にも及ぶ長周期の変動もある。これに対応できるような、巨大で複雑な蓄電システムを構築することになれば(技術的に不可能であろうが・・・)、ただでさえ低効率な自然エネルギー発電システムのエネルギー産出比が石油火力発電を上回ることは有り得ない。大規模な自然エネルギー発電システムの導入は、社会全体のエネルギー効率を著しく悪化させるものであり、行ってはならない。
 では、小規模な自然エネルギー発電施設を、『既存の電力供給システムに影響の無い範囲で部分的に導入する』ことに意味はあるのだろうか?そもそも石油代替エネルギーの目的は、言葉の通り解釈すれば、石油によって行われているエネルギー供給を、石油なしに実現すること、あるいは最近では、二酸化炭素地球温暖化脅威説の下で、エネルギー供給分野からの二酸化炭素排出量を劇的に減らすことであるから、もし行うとすれば、エネルギー供給システム全体を構造的かつ大規模に変革しなければ無意味である。既存の電力供給システムを温存して、それに影響しない範囲でほんの僅かに導入するのでは、これは論理矛盾であり、自己満足にすぎない。自然エネルギー発電システムは、規模の大小を問わず、無意味である。

(2004/05/28)

2-3-2 太陽光発電

 まず、自然エネルギー供給システムの最初の事例として、太陽光発電について考えることにする。自然エネルギーによるエネルギー供給システムの大きな問題は、これを電気エネルギーとして捕捉しようと考えている点にある。既に述べたように、基本的に電気エネルギーは供給と同時に消費するものである。そこで、時空的に不安定で、出力制御が不可能な自然エネルギーは、石油によるバックアップのためのエネルギー供給システムを残すか、あるいは巨大な蓄電システムが必要になる。
 ここでは、石油代替という意味で、主に、蓄電システムによるバックアップを前提として議論を進める。

a. 太陽光エネルギーの特性

 太陽光発電の発電特性は、太陽放射特性によって規定される。まず、太陽光が地球の位置における、太陽光に垂直な単位面積あたりに供給するエネルギー量(太陽定数)は、S=1.95cal/min・cm2程度である。

S = 1.95cal/min・cm2 = 1365 W/m2 (ここに、W=J/sec,1cal=4.2J)

 日本の緯度をN35°とすると、地軸の傾きを考慮した南中時の太陽高度は冬至、春秋分、夏至でそれぞれ、(90-58.4)°=31.6°、(90-35.0)°=55.0°、(90-11.6)°=78.4°になる。


南中時太陽高度

 太陽定数をSとすると、南中時の太陽光の放射強度は、冬至、春秋分、夏至でそれぞれ以下のようになる。

冬至 s=S×sin31.6°= 0.52S = 1.01cal/min・cm2 = 709.8 W/m2
春秋分 s=S×sin55.0°= 0.82S = 1.60cal/min・cm2 = 1118 W/m2
夏至 s=S×sin78.4°= 0.98S = 1.91cal/min・cm2 = 1338 W/m2


南中時太陽放射強度の季節変化

 また、日の出から日没までの時間(D)は、冬至、春秋分、夏至でそれぞれ9.65時間、12時間、14.35時間程度になる。太陽高度による放射強度の日変化を、日の出から日没までを半波長とするサインカーブで表されるものとすると、一日に受取る太陽光からのエネルギー量は、横軸とサインカーブで囲まれた範囲の面積として与えられる。


太陽放射強度の日変化

 以上より、冬至、春秋分、夏至でそれぞれ一日に受取る単位面積あたりのエネルギー量は以下の通りである。

冬至 0.52S×2×9.65÷π=3.19S = 4.354 kWh/m2
春秋分 0.82S×2×12.00÷π=6.26S = 8.545 kWh/m2
夏至 0.98S×2×14.35÷π=8.95S = 12.217 kWh/m2


一日に受取る太陽光エネルギー量の季節変化

 一日に受取るエネルギー量を24時間で割ることによって、見かけの平均的な単位面積あたりの太陽放射強度を求めることが出来る。

冬至  4.354 kWh/m2 日÷ 24h /日= 181W/m2
春秋分  8.545 kWh/m2日 ÷ 24h/日 = 356W/m2
夏至 12.217 kWh/m2日 ÷ 24h /日= 509W/m2

この値を第二軸に示す。

 以上、太陽放射強度の時間的な変動の特性の概略を示してきた。地球の地軸が公転面に垂直な方向から約23.4degだけ傾いている結果、地球の公転運動に伴って、太陽光の放射強度や一日に受取る太陽光エネルギー量は一年周期で大きく変動する。また、地球の自転運動によって、日の出から日没までの太陽光の放射強度は常に変化し、日没後は0になる。

 さて、これまで示した値は、地球大気の影響を全く考えず、天候の影響も考慮していない。いわば地球から大気を剥ぎ取った場合に地表で受取る太陽光エネルギーの特性を示したものである。
 実際に地表の受取る平均的な太陽放射は、大気の影響による反射・吸収によって大気圏外の50%程度になると言われている。
 更に、天候によっても地表に届く太陽光エネルギーは大きく変動することになる。次に示す表は、日本各地の日照時間の平年値を示したものである。

『気象人』the mag for kishojinより

 地方によって、かなり大きなばらつきがあり、また、その季節的な変動パターンも異なっているが、ここではこうした影響を無視して、平均的な値を求めてみると、月当たりの日照時間は157.8時間、一日あたりの平均的な日照時間は5.19時間程度になる。日の出から日没までの時間の平均値は12時間であるから、この内太陽光発電に有効な時間は、
5.19 ÷ 12 = 0.4325 = 43.3%
ということになる。

(2004/06/02)

b.太陽光発電の基本性能

 太陽光の利用は、太陽熱温水器によって、実用化されている。太陽熱温水器は、日照があるときに太陽光を利用して、水に熱エネルギーとしてこれを蓄熱するものである。太陽熱温水器では、短時間の太陽光放射強度の変動や、夜間の問題は発生しない。これは太陽光という変動の激しいエネルギーを利用する上で非常に優れた点である。詳しい分析は行わないが、石油によるエネルギー供給システムの補助システムとして有効であると考えられる。
 この太陽熱温水器の延長線上で考えられたのが仁尾町で実証プラントが建設された『太陽熱発電』だと考えられる。しかし、この二者は似ている様でも決定的に違う点がある。太陽熱発電が電力供給を行う装置であるため、供給と消費の同時性の要求が加わったことである。これが太陽熱発電システムが太陽光を利用するシステムとしての決定的な弱点の一つである。
 そしてもう一つの弱点は、太陽熱温水器が、太陽光から得た熱エネルギーをそのまま水に熱として蓄えて利用したのに比べて、太陽熱発電では、太陽光から得た熱エネルギーを熱機関の熱源として利用し、熱機関によって運動エネルギーに変換し、その運動を更に電気エネルギーに変換するという迂回生産を行ったことである。既に『電力化』の節で触れたように、ここに熱機関の効率の問題が生じたのである。熱として捕捉した太陽光エネルギーのうち、60%程度は発電段階で環境中に散逸してしまうのである。
 この2点に加え、反射鏡に微細な塵が積もるという、極めて当然であるが『予期せぬ』現実が更に太陽熱発電の効率を落とすことになった。

 さて、そこで太陽光発電の登場である。太陽光発電では、太陽放射として得られる太陽光エネルギーを半導体を介して直接電気エネルギーに変換する装置である。蛇足であるが、この装置は発電装置と呼ぶよりは太陽電池と呼ぶ方が適切であろう。ここでは、慣例にしたがって太陽光発電と呼ぶことにする。

 現在、実験室的な環境における太陽電池パネルの太陽光の電気への変換効率は20%を越えているという。しかし、普及品レベルでしかも屋外での厳しい環境下における運用を考えると、せいぜい10%台の変換効率だと考える。ここでは、発電効率を15%と仮定し、太陽光の放射強度に線形的に反応すると仮定する。
 屋外における運用において、最大発電量が期待される夏至の太陽放射を想定して、最大発電能力を算定してみる。夏至における南中時の太陽放射強度は既に算定したように、1338W/m2である。大気による反射・吸収によって地表に到達する太陽放射強度はこの1/2になる。太陽電池パネルが受取る太陽放射強度は、1338/2=669W/m2である。太陽電池パネルは、この太陽放射の15%を電気に変換することが出来るので、屋外環境における最大発電能力は以下の通りである。

669W/m2 × 0.15 = 100.35W/m2

 現在、住宅用に供給されている標準的な3kW太陽光発電ユニットの受光面の面積は30m2程度であるから、その発電能力は、3,000W ÷ 30m2 = 100W/m2であるから、ここでの推定値とほぼ一致している。
 夏至の南中時においてにおいて、概ね100W/m2の出力を持つ太陽電池パネルであるが、これを屋外に設置して環境中で運用する場合、天候の影響を考えなくてはならない。既に見たように、日照時間は、平均的に見て、日の出から日没までの時間の43.3%程度である。曇天や雨天でも多少は発電できることを考慮して、日照率を50%と仮定すると、屋外における実効効率は平均的に晴天時の50%、50W/m2と考えることが出来る。以上の検討から、野外における太陽光発電の太陽放射強度に対する平均的な実効効率は、以下のように算定できる。

50 ÷ 1338 = 0.037 = 3.7%

 だいぶ前のデータであるが、日本における消費エネルギー総量は、一年間に平地に降り注ぐ太陽光エネルギーの4%程度と言われる。もし、仮にこのエネルギーを全て太陽光発電で賄おうとすれば、日本の全ての平地(国土面積の20%程度か?)を全て太陽電池パネルで被い尽くすことが必要になるのである。

 ここでは、太陽光発電の平均的な特性だけを考え、時間的な変動のより困難な問題を考えていないが、このような条件ですら、太陽光発電によるエネルギー供給システムが如何に資源浪費的なシステムであるか、明白であろう。また、これを実現することは荒唐無稽であり、不可能である。

(2004/06/03)


【補足1】
 環境保護論者あるいは経済学者の中に、太陽光発電を初めとする自然エネルギー発電システムに対して、過大な期待を持っている者がいる。そこには仕事の本質を理解していないための誤解があると考える。科学技術には、無から有を生み出す錬金術は存在しないのである。
 例えば、太陽光発電であれば、太陽光というエネルギーを入力して、電気を出力する。これはエネルギー形態の変換であるから、エネルギー保存則にしたがって、出力としての電気エネルギー量が入力としての太陽光エネルギー量を越えることは出来ないのである。
 太陽光発電装置が炎天下に置かれれば、かなりの高温になることは誰でも理解できよう。これは太陽光エネルギーの一部が熱となり、環境中に散逸していることを示している。これは、もう一つの重要な物理法則であるエントロピー増大則に従って、仕事(発電)をする系内(太陽光発電システム内)で必ずエントロピーが発生することを示している。系内において生産される有効な仕事は、系内で発生するエントロピー量に比例して減少する。
 現在、太陽電池パネルの太陽光エネルギーの電気エネルギーへの変換効率は20%程度であるから、どのような技術開発を行おうとも、現在の発電効率が5倍になることは有り得ないのである。
 現実的には、既に発電効率の改善は頭打ち状態であり、今後の技術開発による効率の改善はそれほど期待できない。巷では、新太陽電池素材の開発などが無能なマスコミによって大きく報道されているが、どのような技術開発があったとしても(当然であるが、エネルギー保存則・エントロピー増大則は技術の内容に依らない)、太陽電池パネルの発電効率が現在の2倍になることはないであろう。素人が、個別技術を論じ、過大な期待を寄せるのは誤りの元であり、金儲けをたくらむ企業を喜ばせるだけである。
 仮に発電効率が2倍になったところで、太陽光発電の出力変動を無視した楽観的なケースで考えても、国土の平地面積の半分以上を太陽電池パネルで被い尽くすなどという巨大システムが、現実的に構築可能かどうか、冷静に考えるべきである。

(2004/06/04)


c.太陽光発電システムに要求される基本性能(対日変動)

 前節までで、太陽電池パネル単独の基本的な性能について検討してきた。ここでは、太陽光発電を、電力供給システムとして実際に運用することについて検討する。ここでは、エネルギー供給のうち、現在の発電によるエネルギー供給を太陽光発電システムで代替する場合を想定する。

 まず、太陽光発電の発電特性がどのようなものなのか、公表されているデータを示しておく。初めに示す図は、中国電力のホームページに掲載された発電実績の時間変動を示したグラフである。グラフのピークの包絡線はサインカーブに類似の形状を示している。太陽光発電出力をサインカーブで近似することは妥当であろう。このグラフに示されたデータは、晴天日における発電実績と思われる。急激な出力変動は、太陽が雲に翳ったことに対応する。

 次に示す図は、原子力図面集に掲載された、『太陽光・風力発電の出力変動』からの図である。快晴・曇天・雨天の発電出力のデータが示されている(ただし、曇天のデータは、8:00〜15:00までくらいで、朝・夕は晴天であったようである。)。

 まず、電力消費の実績を見ておくことが必要である。電力供給システムの規模を考える場合、最大電力消費を対象としなければならない。次に示す図は、原子力図面集に掲載された図である。

 ここでは、2001年7月24日のデータを使うことにする。グラフから読取った値なので、あまり細かい数値には信頼性は無いが、この日1日の電力消費量は、3,387×106kWh程度である。これを、仮に夏至の日照時間を想定して、太陽光発電によって供給すると仮定すると、その分布は次の図のようになる。

c-1 太陽光発電システムに要求される基本性能

 太陽光発電システムそのものの規模を算定する。現在の供給電力の周波数変動や電圧変動などの発電システムに要求される電力品質はきわめて高い。また、当然電力供給量に欠損が生じることは許されない。
 前掲の太陽光発電実績のグラフを見ると明らかなように、晴れた日でも、雲による太陽光発電の出力変動はきわめて大きく、曇りや雨の日では極端に出力が落ちることが分かる。電力供給を安定的に行うこと、電力の供給欠損が起こらないことを前提にすると、太陽光発電施設の規模は、最悪の発電状況で、最大消費電力をカバーしなければならない。前節では、太陽光発電の最大発電能力が100W/m2程度であることを示した。しかし、電力供給に欠損が生じないためには、雨天の発電能力によって夏季の最大電力需要をカバーしなければならないのである。
 冒頭に挙げた太陽光発電の発電能力の実績データの雨天における値を見ると、定格出力に対して10%程度と考えられる。つまり、太陽光発電の規模を算定するには、発電能力として10 W/m2を用いなくてはならない。モデル計算のピーク発電量、370.8×106 kWをカバーするために必要な太陽電池パネル面積を算定すると、以下の通りである。

370.8×109 W ÷ 10 W/m2 = 370.8×108 m2 = 370.8×102 km2

 日本の全国土面積は37万km2程度といわれるから、ちょうど国土面積の1割程度を太陽電池パネルで被うことが必要になる。

c-2 蓄電システムに要求される基本性能

 太陽光発電では、日没後の発電は出来ないので、昼間に余分に発電して、これを夜間のために蓄電しておかなければならない。蓄電によるエネルギー損失を無視すると、蓄電容量は1,400×106kWh程度になる。
 さて、現在蓄電システムを実際に併用している発電方式は、自然エネルギー発電システム同様に、出力調整になじまない原子力発電である。その方法は、揚水発電システムによる水の位置エネルギーとしての蓄積である。実際に運用されていることから、大規模な蓄電システムとしては、これが最もコストが廉いものだと考えられる。
 以上から、太陽光発電によるエネルギー供給システムにおいて、夜間のバックアップ電力供給サブ・システムとして、揚水発電システムを使うものとして検討を進める。揚水発電システムに要求される最大発電能力は、日没直後であり、約162.3×106kWである。

 蓄電システムの規模を算定するために、日本における既存の揚水発電のデータを以下に示す。



 これによると、揚水発電所数は42ヶ所、総発電能力は14.724×106kW、揚水発電所1ヶ所の平均的な発電能力は0.351×106kWになる。
 太陽光発電システムのサブ・システムとして必要な揚水発電所数は、

162.3×106kW ÷ 0.351×106kW = 462.4

 つまり、太陽光発電システムを運用するためには、最低でも420(既設揚水発電所の10倍)以上の揚水発電所を新たに建設しなければならないのである。

c-3 短期変動

 以上、太陽光発電を運用するための最低施設規模を算定してきた。しかしながら、これらの施設が出来ても、電力供給が安定して行われる保証は無い。太陽光発電の秒単位、分単位の急激な出力変動をスムースに吸収して、需要側に高品質の電力供給を行うためには、更に技術的に困難な出力調整技術が求められるが、それはほとんど不可能であろう。

(2004/06/06)

 既にお気づきの方も多いだろうと思うが、こうした困難を解消するためには、太陽光発電で得た電気エネルギーは全て一旦蓄電システムに蓄積して、実際の電力供給は蓄電システムを介して行う事が『最も現実的な方法』である。そのためには、蓄電システム、ここでは揚水発電の電力供給能力で、ピーク消費電力を賄うことが必要になる。これによって、揚水発電に要求される発電能力は更に増大するが、太陽電池パネルの必要面積はかなり削減することが可能になるであろう。
 しかしこれは、現実的には大変なことである。つまり、全ての電力を水力発電によって供給し、水力発電に用いる水を全て太陽光発電によって供給される電気エネルギーで汲み上げるということなのである。

d.太陽光発電システムに要求される基本性能(対年変動)

 前節で、日変動に対する検討を行ったが、ここでは1年を周期とする季節変動に対する検討を行う。まず原子力図面集から、一年間の電力消費の実績を示す。

ここに示された値は、一日のピーク電力消費の包絡線を示しているようである。前節で示した2001年7月24日のデータから推測すると、平均的な電力消費は、

(3,387×106 kWh / 24h)/182×10 6kW=0.775

となり、ピーク時の77.5%程度と考えられる。
 一年間の消費電力を賄うような太陽光発電能力を次の図に示す。

 図中の黒の実線が2001年度の一日のピーク電力消費の包絡線であり、緑と水色で着色した部分がその77.5%に対応する。図から年間電力使用量を算定すると、967.8×109kWhとなる。図中に示した太陽光発電のカーブは、a. で示した、『平均的な見かけの太陽光放射強度』に相似なカーブである。
 電力消費量の実績データを原子力図面集から以下に示す。

これによると、2001年度の消費電力量は9,240×109kWhなのでほぼ妥当な推定値であろう。
 図から算定すると、蓄電施設に要求される蓄電容量は、113.6×109kWh になる。ここでは、平均的な値だけ示したが、蓄電容量の大きさ(ダム式発電の平均落差を与えれば、必要な水量を算定できるので、お暇な方は算定してみていただきたい。)もさることながら、実際には気象の影響を考慮すれば、蓄電システムの長期的な安定運用は非常にむづかしいものになると推測される。

(2004/06/07)

e.エネルギー・コストないしエネルギー産出比(対石油消費)

 前節までの検討で、太陽光発電システムによる電力供給の代替が、途方も無く巨大なシステムになることが理解されたと考える。今更、石油火力発電による電力供給システムとエネルギー・コストを比較するまでも無く、このような電力供給システムを構築することは技術的に不可能である。前節で示した、『電源別発電電力量の実績および見通し』の2012年度の数値を見ても分かるように、電力供給における新エネルギーの占める割合は1%に満たないのである。これは電力供給を行う当事者にとって、新エネルギーの非効率性は自明のことであって、本気で導入しようなどと考えている者はいないことを示している。現在の『新エネルギー導入キャンペーン』は、単なる広告塔であり、個人向け太陽光発電システムという『新商品』の需要開拓のお先棒を行政が担っているに過ぎないことに気づくべきであろう。
 しかし、これまでの行き掛かり上、エネルギー・コストについて簡単に触れておくことにする。既に何度も述べているが、新エネルギーについての厳密なエネルギー・コスト分析を行うことは、新エネルギーを推進する者にとって墓穴を掘ることに等しいので、本来ならば石油代替を判断する段階で最も重要なはずのエネルギー・コスト分析が行われたことが無い。既にこの時点で、新エネルギーの有効性に疑問を持つべきである。しかし、現実にはエネルギー・コスト分析が無いことによって、謂れのない期待感だけが増幅している。
 残念ながら、新エネルギーを推進する側からの詳細なデータが無いために、積上げによるエネルギーコスト分析は不可能である。しかし、工業製品である新エネルギー技術であるから、生産コストに含まれるエネルギー関連の経済コストによって、間接的にエネルギー・コストを推定することは可能だと考える。
 次に示すグラフは、環境省の施策総合企画小委員会による『我国のエネルギーコスト水準(H.16.3.26)』に掲載されたものである。

 業種によるばらつきはあるが、高いもので7%程度というところである。実際の工業生産では、鉱物採掘段階から、輸送あるいは、何段階もの中間製品を経て最終製品になることを考えると、ここに示された値の数倍のエネルギーコストが発生していると考えても過大なものではないであろう。ここでは、「とりあえず」ここに示された数値の2〜3倍程度、15%〜20%がエネルギー関連の費用だと仮定する。この数値に関しては、どこまでも推定値であり、異論があることも承知している(信頼に足るバックデータの下に大幅な値の修正が必要であれば、是非資料の提供をお願いしたい。)が、ある程度の目安としてお考え頂きたい。
 さて、大規模な太陽光発電の発電単価は、70円/kWh程度と言われている。実際には、例えば昨年大分市に建設された70kWシステムでは130円/kWh程度のものもあるが、ここではとりあえず70円/kWhを使用することにする。この場合の投入エネルギーの経済コストは、

70円/kWh × ( 0.15〜0.20 ) = 10.5〜14 円/kWh

石油火力発電の5.4円/kWhに比較して、2〜3倍程度の石油投入が必要になる。太陽光発電の時空的な不安定性を調整するための巨大なバックアップシステムを除いた、太陽光発電システムそのものだけで比較しても、石油投入量に対するエネルギー産出比が石油火力の1/3〜1/2という低い値である。太陽光発電システムによる電力供給の代替は全くの石油資源浪費に他ならない。また、太陽光発電システムが自立したエネルギー供給システムになることは有り得ないのである。
 既存の電力供給システムに影響を与えない範囲で行われる、小規模な個人住宅用の太陽光発電システムの導入は、全くの自己満足であり、評価にも値しないが、とりあえずその投入エネルギーの経済コストを試算してみる。小規模太陽光発電システムでは、発電コストは幾分廉く、45円/kWh程度である。

45円/kWh × ( 0.15〜0.20 ) = 6.75〜9 円/kWh

小規模システムにおいても、石油火力の優位性は変わらないのである。

(2004/06/08)

f.最終評価

 以上検討してきた結果、太陽光発電システムによる石油火力発電の代替は、石油資源と鉱物資源、そして何より、本来ならば生態系を育む環境として最も重要な水土を浪費する『環境破壊システム』であることが確認された。
 太陽光発電を含めて、自然エネルギーによって石油火力発電システムを代替するという構想の問題点は、繰り返しになるが、エネルギー密度が低く、電力供給に要求される安定性と生産と消費の同時性の要請に応えられない、あるいは、そのために膨大な付帯設備が必要になることである。これは本質的な問題であり、自然エネルギーの捕捉技術をいくら改善しても乗り越えることは出来ない。太陽電池パネルの発電効率が多少改善されたなどと言うのは、瑣末なことであり、問題の本質とはかかわり無いことである。
 一方、電子部品として考えれば太陽電池は、既に実用化され有効である。電卓や電子腕時計の部品として使用価値が高く、何の公的補助を受けなくとも市場で十分に競争力を持っている。本来電子部品として(=微弱な電力供給において)有効である太陽電池を、石油火力発電という大容量の発電システムの代替として用いるという発想自体に無理がある。太陽電池の有効性のある分野であれば、公的補助など無くても次第に普及するであろうし、逆に公的補助によって無理な導入を進めれば、石油・鉱物資源の浪費を招来し、環境問題を悪化させることになる。
 石油代替エネルギー政策によるエネルギー供給システムに対する国家の介入を完全に排除することが、最も効率的なエネルギー供給システムの構築に有益である。これによって経済的に成り立たない高価な電力供給システム=石油・鉱物資源浪費的なシステム(例えば原子力発電)は、必然的に淘汰される。国家は、電力使用量の抑制のための各種施策の導入にこそ力を傾注すべきである。

(2004/06/09)
参考 HP管理者からNo.288

2-3-3 風力発電

 最近では、太陽光発電に変わって石油代替エネルギー供給システムとして、その主役の座は風力発電に移りつつある。風力発電の発電単価は25円/kWh程度であり、太陽光発電に比べてかなり廉い事から、石油利用効率において太陽光発電より優れていることが推測される。
 しかしながら、風力発電の特性から、一概にこれが優れたエネルギー供給システムかどうかは単純に判断できない。まず、風力発電の特性からみることにする。

a. 風力エネルギーないし風力発電の特性

 風力とは、空気という気体の流れの運動エネルギーである。流体のエネルギーについては、Bernoulli(ベルヌーイ)の定理が知られている。これは、渦の無いスムースな流れに成り立つエネルギー保存則の表現だと考えられる。具体的には次の式で表される。

v2/2g + P + Ω = 一定

v2/2g : 単位質量の持つ運動エネルギー、vは流速、gは重力加速度.
P   : 圧力.
Ω   : 位置エネルギー.

 今、風力発電装置を通過する上流側の値には添字1、通過した後の下流側の値には添字2を付け、風力発電装置で捕捉された仕事をwで表すと、

w = (v12/2g + P1 + Ω1) − (v22/2g + P2 + Ω2

となる。ここでは簡単のために圧力、位置エネルギーは変化しないものとすると、

w = (v12 − v22)/2g

 風力発電装置のブレードの回転する範囲の面積をAとすると、ここを通過する気体の流量Qは Av1となる。気体の密度をρとすると、Aを通過する質量はAv1ρとなる。今、 v2 = cv1 、( 0 < c < 1 )とすると、風力発電装置が捕捉するエネルギー量Wは以下で表される。

W = Av1ρ(v12 − v22)/2g = Aρv13(1 − c2)/2g

 つまり、風力発電装置で捕捉されるエネルギー量は、上流側の風速の3乗に比例し、入力としての上流側の風力に対する効率は(1 − c2)で表される。効率は、c = 0 のとき、即ち、下流側の風速がゼロのとき、最大となる。

 ここでは、理想的な状態について示してきたが、風力発電装置でエントロピー(例えばブレードの振動や回転部分の摩擦などによる発熱など)が生成され、また、自然風が乱流である事から、実際の効率はこれよりも小さくなる。これらを無視して、重要なのは、風力発電装置の捕捉する仕事=発電能力が、上流側風速の3乗に比例することである。

 さて、自然風は絶えず風速が変化している。通常風速とは、10分間平均の値を示す。風速自体も絶えず変化するが、短期的には10分平均風速の数倍の風速が発現する。(瞬間最大風速)/(10分平均風速)で与えられる突風率は、通常1.5〜2程度といわれるが、乱れの大きい場合にはこの値が3を超えることも稀ではない。
 これを風力発電装置で捕捉される仕事に当てはめると、突風率が2の場合、発電量は2の3乗倍の8倍になり、突風率が3の場合は3の3乗倍の27倍にも達する。逆にその次の瞬間風が止まれば、発電量はゼロになる。
 この風力発電の特性を考えれば、発電出力が短時間で激しく変動することは容易に推測できる。以下に原子力図面集に掲載された、『太陽光・風力発電の出力変動』から、実際の発電出力の時間変動の例を示す。

 風力発電は、太陽光発電以上に時間変動の激しい発電方式である。風力発電を大規模に電力供給システムに導入した場合、発電出力の変動があまりにも激しいため、風力発電からの出力をそのまま配電することは考えられない。風力発電からの電力は、蓄電システムを介して送電することが必要になる。
 風力発電の出力は、短時間の変動だけでなく、立地によってその場所の年間を通した風況の特性によっても大きく変動する。次に示すのは、新エネルギー財団のホームページから、山形県立川町の400kW×2風力発電施設の年間稼動実績の変動について示したものである。

 このように、発電出力の季節変動は非常に大きく、また、立地によっても大きく異なることが推測される。蓄電システムの長期運用は太陽光発電より以上に難しいものになると考えられる。

 さて、環境省もこうした風力発電の発電特性の条件の悪さを考慮して、新たな蓄電システムを考えているようである。それは、洋上の浮体構造物上に風力発電装置を作り、そこで水の電気分解による水素製造プラントを作るという方法である。製造した水素は、勿論燃料電池システムで利用しようというのである。
 これは、石油利用効率を無視したとんでもない構想である。まず第一に、陸上においてすら発電コストが25円/kWhと高価な風力発電装置を、環境の厳しい洋上に浮体構造を建設してその上に風力発電装置を作れば、コストは更に跳ね上がるのは検討するまでも無い。ここで発電した電力によって水素を製造し、更に石油利用効率の低い燃料電池システムに投入すれば、最終的に得られた電力の石油利用効率はきわめて低いものになるのは当然である。
 また、潮風に曝される厳しい環境中に曝された風力発電装置の劣化は陸上の比ではなく、保守・点検に投入されるエネルギー・資源量が増えるばかりでなく、耐用年数も大幅に短くなる。風力発電〜水素製造プラントの『実証』試験など、税金をドブに捨てるようなものである。

b.エネルギー・コストないしエネルギー産出比(対石油消費)

 ここでは、石油火力発電との比較で、風力発電の価格構造を少し詳しく見ておく。

(1)石油火力発電

 石油火力発電は、最も主要な発電方式の一つであり、実績も多く、データの信頼性が高いと考えられる。まずこの発電方式に対する試算を試みることにする。

 石油火力発電の総合的な熱効率は0.35である。これに対して、燃料としての重油の燃焼熱に対する発電装置の熱効率は0.4程度である。
 重油1L(リットル)の燃焼によって得られる熱量は9Mcal/L程度である(1Mcal=1,000kcal)。よって、重油1Lによって電力生産に有効に利用できる熱量は次式のとおりである。

9Mcal/L×0.4=3.6Mcal/L=3.6×4.2MJ/L=15.12MJ/L (∵1cal≒4.2J)

 一方、1kWh=1k・(J/sec)・3,600sec=3.6MJである。以上から、重油1Lの燃焼によって得られる電力量は次式で求めることが出来る。

15.2÷3.6=4.22kWh/L

 電力量1kWhを生産するために必要な重油量は、

1/4.22L/kWh=0.236L/kWh=P1

これが、電力量1kWhあたりの石油コスト=エネルギー・コストである。重油の単価は20円/L程度であるから、石油の経済コストは次式で求められる。

0.236×20円/kWh=4.72円/kWh

 石油火力発電の総合的な熱効率は、0.35であった。石油火力発電に投入される全石油量をP0 、その内、燃料として消費される石油量をP1とすると、

0.35P0=0.4P1 ∴P1=0.35/0.4P0=0.875P0

つまり、石油火力発電に投入される全石油量の約88%が発電のための燃料として消費されていることになる。残りの12%は、火力発電の施設建設や運転・保守などの自家消費分として消費されていることになる。

 さて、次に石油火力発電による電力の価格構造を考えてみることにする。石油火力発電の発電単価は8円/kWh、その内、燃料の経済コストは60%程度であるとする。実際に計算してみると、

8円/kWh×0.60=4.80円/kWh

となり、前述のエネルギー・コストから算出した値4.72円/kWhとよく対応している。
 次に、石油火力発電の燃料費以外のコストとは、発電所の施設建設、運転、保守などに必要な経費である。その内、20%を発電用燃料以外の投入エネルギー(石油)の経済コストと仮定すると、

8円/kWh×0.4×0.2=0.64円/kWh

火力発電の投入エネルギーの経済コストの合計は、

4.80円/kWh+0.64円/kWh=5.44円/kWh

燃料費、自家消費の割合は、

燃料費 : 4.80円/kWh÷5.44円/kWh=0.88
自家消費 : 0.64円/kWh÷5.44円/kWh=0.12

となり、エネルギー・コストから算出した比率と良い対応を示す。

 以上より、以下に示す風力発電のエネルギー・コストの推定において、燃料以外の発電費用の20%を投入エネルギーの経済コストとしても、それほど大きな誤りはないものと考えられる。

(2)石油火力発電と風力発電の比較

 石油火力発電と同様に、風力発電の発電単価を25円/kWhとして風力発電の投入エネルギー(石油)の経済コストを算定すると、

25円/kWh×0.2=5.00円/kWh

となり、火力発電と大きな違いはない。以下、石油火力発電、風力発電とも、対石油エネルギー産出比を0.35として説明する。

 以上の二つのモデルのエネルギー産出比の構成を次の図に示す。

 投入エネルギー(石油)量と、最終的に産出される電力量を『総量』で比較すると、当然のことながらエネルギー産出比を0.35で同じと仮定しているので、いずれの発電システムでも同じである。これでは見かけ上、自然エネルギー(風力)発電における電力の『原料』であるはずの風力は何も生み出していないのと同じである。

 二つの発電システムの違いは、投入される石油の使途の構成にある。火力発電では投入する石油の大部分が発電のための燃料として消費されるのに対して、自然エネルギー発電では発電のための燃料として石油を消費しないので、全て設備の建設や運用・保守に投入されることになる。
 投入された石油に占める自家消費分は施設規模に反映される。モデル・ケースでは火力発電では投入石油の12%であるのに対して、自然エネルギー発電では100%になる。つまり、同量の電力を供給するために自然エネルギー発電の方が圧倒的に大量の資源を消費し、したがって、発電システムから排出される廃物量や廃熱量が大きくなると考えられる。


電力生産図

 生産図では、横方向に『原料』から『製品(ここでは電力)』への流れを示し、縦方向に生産システムに投入され、消費されるエネルギー資源、その他資源の流れを示す。投入されたエネルギー資源は最終的に廃熱として環境中に廃棄され、その他資源は施設の耐用年数が経過すると固体廃棄物となる。
 石油火力発電では、石油0.88が発電のための原料としてシステムに投入される。発電の熱効率を40%程度とすると、60%(0.88×0.6≒0.53)は廃熱として環境中に廃棄され、最終的に0.35の電力を生産する。更にシステムの運用のために自家消費される石油(≒0.12)が廃熱となり、合計0.65が廃熱として環境中に捨てられる。また、火力発電所の設備を作るために、1単位の資源が投入され、廃棄される。
 これに対して、風力発電では『原料』として風の運動エネルギー(風力)を捕捉し、これが発電機を介して電力に変換される。運動エネルギーはエントロピーを持たないエネルギーであるが、発電装置の摩擦や振動によってロスが生じ、これが廃熱となって環境中に廃棄される。その値をαで表しておく。最終的に風力発電においても0.35の電力が生産される。
 ここで多少説明を加えておくと、生産図に示した風力は風力発電のブレードを介して捕捉できた正味の運動エネルギーである。風力発電装置のブレードの回転面を通過する風力とは全く別物である。
 風力発電では、システムの運用のために自家消費される石油(=1.00)とαが廃熱として環境中に廃棄される。また、自家消費するエネルギー量に応じた資源が設備建設に投入されるとすると、1.00/0.12≒8.3単位の資源が投入され、耐用年数経過後に固体廃棄物として廃棄される。

 独立行政法人経済産業研究所の戒能一成氏による『電源構成試算モデルと発電コスト比較について』(平成15年7月)の資料によると、平均的な火力発電と風力発電の発電能力当たりの設備費は次の通りである。

風力発電 21.5〜28.0 万円/kW
LNG火力発電 20.8 万円/kW
石油火力発電 28.7 万円/kW

 風力発電に対して、設備利用率20%、耐用年数を17年、火力発電については設備利用率70%、耐用年数40年と仮定して、耐用期間中に発電される単位電力量当たりの設備費用を算定する。耐用期間中に単位発電能力当たりの設備によって生産される電力量、及び、単位電力量あたりの設備費用は次の通りである。

風力発電 17×365×24×0.2= 29.8kWh      7.2〜9.4 円/kWh
LNG火力発電 40×365×24×0.7=245.3kWh   0.8 円/kWh
石油火力発電 40×365×24×0.7=245.3kWh   1.2 円/kWh

 風力発電では、単位発電電力量当たり、火力発電の6〜12倍程度の設備が必要ということになる。ここで行った試算、火力発電の設備を1.0単位としたときの風力発電の設備8.3単位は妥当な推定値であると考える。

 以上の検討より、発電システムで消費される石油以外の資源量、あるいは発生エントロピー量まで視野に入れて評価すれば、圧倒的に火力発電の方が優れた発電方式だと考えられる。更に自然エネルギー発電固有の時間的不安定性やそれに伴うバックアップ施設の必要性を加味すれば、風力発電の利用は全く無意味である。また、太陽光発電など全く論外であることは今更説明の必要はない。

【参考】コンバインドサイクル発電

 最新の火力発電方式では、ガス・タービンの廃熱を蒸気タービンの熱源にすることによって、熱効率で50%以上を達成していると言う。既存火力発電の設備更新の選択肢として、風力発電と競合するのはこのコンバインドサイクル方式の火力発電になると考えられる。コンバインドサイクル火力発電システムはどこにでも建設可能であり、送電ロスも小さい。また、需要の変動に対する熱効率の変動も比較的小さいと言う。時間変動に対するバック・アップ施設の必要な風力発電システムを選択することは考えられない。


三菱重工高砂製作所HPより

 それにもかかわらず、風力発電を導入しようとする背景は何であろうか?これまでの検討で明らかなように、自然エネルギー発電は、燃料として石油を消費しない代わりに火力発電に比較して、圧倒的に施設規模が大きくなる。発電施設を生産する装置メーカーにとって、これは市場の拡大を意味しており、非常に魅力的な発電方式であるはずである。この辺りに真相があるのではないだろうか?。

(2005/01/18追記)

(3) エネルギー・ペイバック・タイム(EPT)

 エネルギー・ペイバック・タイム(EPT)とは、発電システムを運用するために投入したエネルギーを、その発電システムからの出力で賄うために必要な期間のことである。投入エネルギーの評価が問題になるが、発電システムとしての対石油消費に対する性能を比較するという意味において、火力発電では燃料用の石油も含み、その他施設建設、運転、保守、廃棄の全ての段階にかかわる投入エネルギー(石油)を、対象にすべきである。

 既に冒頭で述べたとおり、石油火力発電は勿論、石油代替エネルギー(発電)システムの対石油エネルギー産出比は、1.0を越えることはない。これは、耐用期間中に、投入エネルギーを出力エネルギーで賄うことは出来ないことを意味している。つまり、石油代替エネルギー(発電)システムでは、EPTは定義できないはずである。
 ところが、色々なところで、盛んに自然エネルギー発電のEPTの数値が一人歩きしている。ここでは、最も権威のある例として、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のホームページの風力発電に対する数値を検討する。

 NEDOのホームページによると、『風力発電の場合は、年平均風速に影響を受けるが、年平均風速が4m/s以上、あるいは、利用率が 24%以上であれば、EPTは1年以内となる試算例がある。』としている。これを基に試算する。比較対照は、石油火力発電である。
 
@石油火力発電の価格構成(合計投入金額をC1円とする)

石油以外の費用:0.32×C1(円)
石油費用:0.68×C1(円)
対石油エネルギー産出比:0.35

※C1の内、6割を発電用石油燃料の費用とする。その他の費用には、設備建設、運転、点検・補修などの費用、人件費などを含む。4割をその他の費用とし、その他費用の内の2割を発電用燃料以外の石油の費用とする。つまり、
石油以外の費用=(0.4×0.8)×C1
石油費用=(0.6+0.4×0.2)×C1

A風力発電の価格構成(合計投入金額をC2円とする)

石油以外の費用:0.8×C2(円)
石油費用:0.2×C2(円) ※燃料はないので、その他エネルギーのみ。
対石油エネルギー産出比:20 ※耐用年数20年、EPT1年とした場合。

B石油の単位価格あたりのエネルギー量

a=0.525(kWh/円)※重油:9Mcal/L、20円/L、1cal=4.2Jとした場合。

 以上の仮定で、発電電力量と発電単価を試算する。

石油火力発電

0.68×C1×0.35×a=0.24×C1×a(kWh)
C1/(0.24×C1×a)=4.17/a=7.9(円/kWh)

風力発電

0.2×C2×20×a=4×C2×a(kWh)
C2/(4×C2×a)=0.25/a=0.5(円/kWh)

となり、発電単価は風力発電の方が圧倒的に安くなる。

 風力発電をはじめ、自然エネルギー発電の導入に対して、『経済コストは高くても、石油節約的である』ということがよく言われる。しかし、これは石油を使って物を製造するという工業生産の本質的な構造を理解していないために起こる誤りである。
 ここで示したように、もし風力発電のEPTが1年で、耐用年数が20年(=対石油エネルギー産出比20)だとすれば、風力発電の発電単価は0.5円/kWhという、極めて廉価になるはずである。しかし、実際の風力発電による発電単価は25円/kWh程度と非常に高価である。

 次に、風力発電において、エネルギー産出比を20、発電単価を25円/kWhとした場合、投入金額に占める石油の経済コストの比率Aを求めてみる。発電電力量は、

A×C2×20×0.525=10.5×A×C2(kWh)

発電単価は、

1/(10.5×A)=25(円/kWh)
∴A=0.0038

 もし、エネルギー産出比が20、発電単価が25円/kWhだとすると、投入金額のうち、石油に対する費用の割合は、僅かに0.38%になる。これは、現在の工業的な生産物を使った施設による電力生産ではとても考えられない非現実的に低い値である。もしこの数値が実態を反映しているとすると、風力発電装置メーカーはとんでもない大儲けをしていることになる。

 最後に、風力発電の発電単価が25円/kWh、投入金額に対する石油費用を20%とした場合のエネルギー産出比(g)を試算してみる。発電電力量は、

0.2×C2×g×a(kWh)

発電単価は、

C2/(0.2×C2×g×a)=1/(0.2×g×0.525)
=1/(0.105×g)=25(円/kWh)

以上より、対石油エネルギー産出比は、

g=1/(25×0.105)=0.38<1.0

 ほぼ、既存の石油火力発電と同程度である。この程度の値が実態に近いのではないだろうか?石油エネルギー産出比が1.0未満であれば、EPTは定義不能(∵EPT>耐用年数)である。

 NEDOのホームページのEPTを元に試算を行った二つのケースでは、いずれも現実には有り得ない結果となった。これはEPTの値が非現実的なものであることを示している。その原因は、投入エネルギー算定において重大な積み残しがあると考えられる。あるいは恣意的なデータの捏造によって、新エネルギーの導入を是が非でも行おうとする、環境問題対策以外の強力な意思が働いているものと考えられる。

(2005/06/24追記)

c.最終評価

 風力発電は、発電絶対量に対する石油利用効率は、既存の石油火力発電と同程度と考えられるが、発生エントロピー(廃熱と廃物)量まで考えると、圧倒的に石油火力発電に劣っている。更に、極めて不安定な風力発電を運用するために必要な蓄電装置などの付帯設備まで考えれば、風力発電の導入は無意味である。尚、具体的な事例に基づく評価については、『APU学生起業家による風力発電計画を考える』と『APU風力発電計画総括』を併せてご覧頂きたい。

(2004/06/11)

【参考】二酸化炭素排出量からのエネルギー・コストの推定

 原子力発電のセクションで紹介した電力中研の『ライフサイクルCO2排出量による発電技術の評価』の石油火力発電の二酸化炭素排出量から、エネルギー・コストの試算を試みる。

 グラフによると、石油火力発電で1kWhの発電を行うために、742gの二酸化炭素が発生する。重油の主成分をオクタデカンC18H38(分子量254、比重0.9)だと仮定する。
 二酸化炭素CO2の分子量は44より、発生するCO2のモル数は、

742/44=16.7mol/kWh

である。C18H38が1mol完全燃焼した場合、発生するCO2は18molである。CO2が16.7mol発生するために必要なC18H38のモル数は、

16.7/18=0.93mol

である。C18H38(重油)0.93molの重さは、

0.93×254=236g

である。重油の比重は0.9であるから、単位発電量当たりに投入される石油の量は、

236/0.9=262ml/kWh=0.262L/kWh=P0

である。
 b.エネルギー・コストないしエネルギー産出比(対石油消費)(1) で試算した値から、0.35P0=0.4P1、P1=0.236L/kWhより、

P0=0.4P1/0.35=0.4×0.236/0.35=0.270L/kWh

二酸化炭素排出量から求めたエネルギー・コストと、よい対応を示す。以上より、b.エネルギー・コストないしエネルギー産出比(対石油消費)でもとめた石油火力発電の推定値は、概ね妥当なものであろう。
 しかし、電力中研の『ライフサイクルCO2排出量による発電技術の評価』の火力発電以外のデータから求めたエネルギー産出比は、残念ながら非現実的な値であり、信頼できるものではない。

(2005/07/05追記)


2-3-4 海洋温度差発電

 これまで、太陽光発電・風力発電という、自然エネルギーを使った代表的な発電システムについて検討した。この他にも、波力発電や潮汐力発電などの発電システムが考えられているが、その基本的な問題は同じなので、ここでは敢えて取り上げない。波力にしても潮汐にしても、海水を扱うことから装置の保守・点検により多くのコストがかかり、耐用年数も短いものになる点に留意しておくべきであろう。

 さて、以上で紹介してきた自然エネルギー発電システムの共通の欠点の一つが発電能力の不安定性であった。これを克服するシステムとして登場したのが、『海洋温度差発電』システムである。果たして海洋温度差発電は発電方式として有効であろうか?

a. 海洋温度差発電の仕組みと効率

 海洋温度差発電とは、熱機関の一種である。熱機関とは、温度差のある二つの熱源の間を巡る作動物質の継続的な循環運動によって力学的な仕事を取り出す装置である。火力発電で使われている熱機関である蒸気タービンの構造模式図を以下に示す。

出典/槌田敦著『熱学外論』朝倉書店 p.110


 高温熱源から熱エネルギーq1を受取った蒸気発生器で、高温高圧(T1,P1)の水蒸気を発生させる。この高温高圧の水蒸気を蒸気タービンを介して力学的な仕事w2を取り出し、タービンを通過した水蒸気は復水器でq3を放出して冷却されて水に戻る(T3,P3)。高温側の蒸気発生器で高温高圧の水蒸気を作るために、循環ポンプが復水器側の水を蒸気発生器に高圧で送り込む。この循環ポンプの行う仕事をw4とする。
 この蒸気機関におけるエネルギー収支とエントロピー収支を求めると、

q1 + w4 = q3 + w2
q1/T1 + gs = q3/T3

ここに、gsは、この熱機関内で生成するエントロピー量である。
 この熱機関によって産出される力学的なエネルギー量w0は、水蒸気タービンから取り出される仕事w2から、循環ポンプで消費される仕事w4を差し引いた値となる。

w0 = w2 − w4 = q1 − q3
q3 = q1T3/T1 + T3gs
∴ w0 = q1(1 − T3/T1) − T3gs

 通常、熱機関の産出する仕事は、最終式の右辺第一項で表される場合が多いが、これは理想効率に対する仕事量であって、実際には無限大の時間を要する。効率を犠牲にして能率(仕事率)を上げることによって、系内に発生するエントロピー量に比例して効率は低下する。
 発電システムの効率を高める方法が明らかとなった。つまり一つは、最終式右辺第一項の値を大きくすること、つまり、高温熱源と低温熱源の温度差を大きくすることである。そしてもう一つは、同じく右辺第二項で表されるシステム内の発生エントロピーを減らすことである。

 炭化水素系火力発電では、ガスタービン・水蒸気タービン併用型の発電装置では、熱効率は0.6程度を達成しているようである。
 さて、そこで海洋温度差発電である。これは、海面近くの水温と深海の低い水温の20℃程度の温度差を利用して熱機関を駆動しようというものである。仮に、海面付近の水温を25℃、海底の水温を5℃として、この熱機関の理想効率を求めると、

η = 1 − T3/T1 = 1 − (273+5)/(273+25) = 0.067

 これは、最新の火力発電の熱効率の1/10程度、標準的な火力発電に比べても1/5以下という低い効率である。
 熱効率とは、高温熱源の持っている熱エネルギーの内、どれほどが仕事として取り出せるかを表した値である。海洋温度差発電の場合、既に環境温度まで拡散したエネルギー密度の低い熱エネルギーを利用するため、熱効率以前に絶対的なエネルギー量を確保するために莫大なエネルギー投入が必要になるであろう。
 火力発電では、燃料の燃焼熱によって高温熱源を作り出し、蒸気発生器で高温・高圧の水蒸気を作り、復水器で環境温度付近で廃熱を捨て去る。これに対して、海洋温度差発電では、環境温度(=海面付近の海水温)で熱エネルギーを受取り、深海の冷水に環境温度よりも低い温度で廃熱を捨て去る。海洋温度差発電では、仕事の原動力は、環境温度の海水の持つ熱エネルギーというよりも、深海の冷水の持つ廃熱を熱の穴として拡散させる能力にある。この冷却水を得るために投入される仕事、具体的には冷却水を循環させるための循環ポンプに投入される仕事は非常に大きくなる。この冷却水の循環ポンプで消費される仕事をw5 、発電所施設建設あるいは操業時の運転・点検・補修などに投入される仕事をw6とすると、実質的なエネルギー産出量wは次式で表される。

w = w0 − (w5 + w6) = q1(1 − T3/T1) − T3gs − (w5 + w6) < 0

低効率の熱機関の出力w0に対して、冷却水循環ポンプの運転に投入される仕事と、巨大な発電施設建設などに投入される仕事の合計 (w5 + w6)は、非常に大きくなるため、実質的なエネルギー産出量はマイナスになる。
 海洋温度差発電は、環境温度という既に拡散した、通常では廃熱としか考えられない質の低い(=エントロピーの高い)エネルギーから仕事を取り出そうと構想したところに既に致命的な問題がある。拡散したエネルギーから有効な仕事を取り出すためには、莫大な仕事の投入が必要になる。同じエネルギーを投入するならば、環境温度を低温熱源とし、冷却水を得るために投入されたエネルギーw5を高温熱源の加熱に使ったほうが、はるかに効率が良くなるであろう事は容易に想像できる。つまりそれが石油火力発電なのである。

b. エネルギー・コストないしエネルギー産出比(対石油消費)

 報道によると、佐賀大が実証試験をしている海洋温度差発電システムは、定格出力30kWで、建設費30億円だという。仮に、耐用年数を20年、施設のランニングコスト(循環ポンプの投入エネルギーを考えると莫大なものになると推測される)、保守・点検コストを無視した、控えめな発電単価を試算してみる。

30kW×24h/日×365日/年×20年=5,256,000 kWh
3,000,000,000円÷5,256,000 kWh=570.8円/kWh

 予測どおり、石油火力に比較して極めて低効率であることを反映して、とてつもなく高価な電力であることが分かる。投入エネルギーの経済コストは、これまで通り発電コストの20%と仮定すると、

570.8円/kWh × 0.2 = 114.2円/kWh

石油火力の23倍程度のエネルギー・コストということになる。エネルギー産出比を算定するまでもなく、石油代替になることは有り得ない。

c. 最終評価

 海洋温度差発電に限らず、常温熱として存在する莫大な量の拡散した熱エネルギーを何とか使いたいという欲求は心情的には理解できる。しかしながら、拡散した熱エネルギーは非常に高エントロピー状態にあり、そこから力学的エネルギーというエントロピーを持たない質の高いエネルギーを取り出すためには、常温熱エネルギーの持つエントロピーを全て取り去るだけでなく、更にプロセス中で新たに発生するエントロピーをも取り去らなければならない。そのためには、常温よりも低い温度の大量の冷却水が必要になることは、当然予測されることである。
 熱エネルギーの量にのみ着目し、熱エネルギーの質を考慮せず、熱効率、石油利用効率を無視して行うエネルギー開発は全て無駄である

(2004/06/12)

2-3-5 自然エネルギーの工業的利用と技術の限界

 これまで、太陽光発電、風力発電、そして海洋温度差発電について考えてきた。しかし、いずれの発電システムも自立することはおろか、石油火力発電に比較して石油節約的になる可能性も全くないことが示された。

 自然エネルギーに過大な期待を抱かせる一つの要因は、希少なエネルギー資源、つまり石油を消費せずに、どこにでも存在し、莫大な絶対量を持っているからであろう。しかし、それはエネルギー密度の低い、不安定なエネルギーだという性質を併せ持っている。
 自然エネルギーという、どこにでもあるが、拡散したエネルギーを、工業的に利用できる、高度なエネルギーにするためには、多くの仕事と資源を投入することが必要になる。更に、制御不能な時間的不安定性を持つ自然エネルギーを利用するためには巨大なバッファ装置が必要になる。多くの人々は、自然エネルギーを利用できるようにするために投入されるこれらの工業的エネルギー(=石油エネルギー)と鉱物資源を見落としている。

 自然エネルギーについて語るとき、『現状ではまだ高価だが、技術開発が進めばもっと廉くなり、効率も向上するはずだ』という反発を受けることがよくある。また、『技術の本質を語るためには、個別技術を詳細に検討してから判断すべきだ』ともよく言われる。果たしてそうであろうか?
 エネルギー技術において、利用するエネルギーと捕捉手段が決まれば、最大効率、つまり技術の上限は既に定まってしまう。工業的な技術の改良とは、その系内で発生するエントロピーを減らすことによって、如何に理想効率に近づけるということである。いかなる技術開発を行っても、理想効率を上回ることは有り得ないことを理解しなければならない。個別技術の評価に埋没することによって、全体像を見失っているのが現状である。

 ここでは、代表的な3つのタイプの発電システムについて検討した。一つは、太陽放射をそのまま利用する太陽光発電であり、二つ目は運動エネルギーを利用する風力発電である。運動エネルギーを利用するタイプには、その他に水の運動エネルギーを利用するタイプもあるが、その基本的な特徴は同じである。そして3つ目は、常温熱エネルギーを利用するタイプである。以下、この3タイプの発電方式の限界についてまとめておく。

a. 太陽光発電

 太陽光発電の問題は、既に検討したように二つに要約される。一つは太陽光発電の低効率性である。ここで言う低効率には二つの意味がある。一つは、自然環境中における運用に当たって、入力としての太陽放射に対する発電効率が低いことであリ、もう一つは、その結果として石油利用効率が低いことである。そしてもう一つの問題は、制御不能な発電能力の不安定性である。後者は、技術では解決できない問題であるから、ここでは、発電効率について検討する。

 入力としての太陽放射sに対して理想状態の発電効率をηとする。太陽電池は太陽放射を全て捕捉出来るわけではない。表面による反射、あるいは表面に塵が積もったり、汚れたりすることによる透明度の低下によって太陽放射の捕捉効率は低下する。その低下率をαとする。太陽放射を受けた太陽電池パネルはかなりの高温になる。これは太陽放射の一部が熱化してエントロピーgsが生成されていることを示す。
 更に、太陽光発電の実際の運用のためには、巨大な『土地集約的な』太陽光発電装置が必要である。これを建設し、運転・点検・補修するために投入される仕事をw1とする。
 野外の運用における太陽光発電装置からの出力としての発電量w0は、

w0=η(1−α)s−Tgs

2-3-2の検討から、現在の太陽光発電のエネルギー産出比(対石油消費)は0.1程度であるから、

w0/w1=0.1 ∴w0=0.1w1

以上をまとめると、太陽光発電の正味の発電量wは以下の式で表される。

w = w0 − w1 =η(1−α)s−Tgs-w1= −0.9w1<0

つまり、太陽光発電は、エネルギーを生産するのではなく消費するシステムであるから、石油代替は不可能である。しかも、エネルギー産出比が0.35以下であれば、石油火力発電に対して、石油節約的でもないのである。
 さて、では将来的に技術開発で、どの程度の改善が可能であろうか。既に理想的な発電条件における発電効率は、η=0.2程度であり、発電効率の改善は頭打ちであるから、今後10%オーダーの改善は無いであろう。太陽放射の野外の運用における捕捉量の低下率αは、技術開発では克服することは難しい。また、システムの熱エントロピー発生量にしてもそれほどの改善は考えられない。もし、冷却システムを追加することになれば、gsの改善よりもw1の増加につながり、有効とは考えられない。w1に関しては、多少の改善はあるかもしれないが、劇的な変化は考えられない。
 以上を総合すると、技術開発によって、今回2-3-2で行った太陽光発電の評価を覆すような可能性は皆無である。更に、蓄電システムの問題を考慮すれば、太陽光発電システムの大規模導入は将来にわたって妥当性を持つことは有り得ない。

b. 風力発電

 風力発電の野外の運用における発電量は、2-3-3の表現を使うと、

w0 = Aρv13(1 − c2)/2g − Tgs

エネルギー産出比は、石油火力と同程度とすると、

w0/w1=0.35 ∴w0=0.35w1

風力発電の正味の発電量は、

w = w0 − w1 =Aρv13(1 − c2)/2g − Tgs− w1= −0.65w1<0

 風力発電も、エネルギーを消費するシステムであり、石油代替は不可能である。

 風力発電はシンプルな発電装置である。cは、風を受けるブレードの形状によって定まると考えられるが、今後画期的な改善は無い。風力発電においてエントロピーの発生する部分は、可動部の摩擦や振動であり、それほど多くは無い。つまり風力発電装置はほとんど完成された装置であり、今後の技術開発によって発電効率が顕著に改善することは無い。
 現実に、風力発電システムでは、風力発電装置そのものの発電効率の改善の研究は既に放棄されている。現在の主流は、見かけの発電出力の制御技術である。これは、風力発電には本来必要無い付帯設備の増加を意味するものであり、w1を増加させ、本質的な発電効率を更に悪化させることになる。
 風力発電の激しい出力変動を考慮すれば、将来的にも大規模導入は有り得ない。

c. 海洋温度差発電

 これについては既に2-3-4で検討したとおりである。熱機関の効率ないし、エントロピー増大則を無視して、常温熱から有効なエネルギーを得ようとした発想そのものが誤りである。よって、将来的にも使い物になることは有り得ない。



 自然エネルギーという拡散した時間的に不安定なエネルギーを工業技術によって捕捉する事によって、現行の石油によるエネルギー供給システムを代替し、あるいは石油利用効率を改善することは不可能である。全ての自然エネルギーによる石油代替エネルギー技術の開発は、石油資源の浪費である。

(2004/06/13) 


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