No.1435(2022/10/15) ノルドストリームの損傷は米国の破壊工作
コロンビア大学経済学部教授Jeffrey Sachsの発言

 ノルドストリームの損傷について、米国コロンビア大学経済学部の教授である Jeffrey Sachs氏が米国とポーランドの破壊工作であるという発言をしています。

 この動画は、ライブ配信の映像らしく、司会者が慌ててJeffrey Sachs氏の発言を制止しようとしている姿に、真実があるように思います。女性の司会者は事実を知らないのでSachs氏の発言に反論することが出来ないと告白しています。

 合理的に考え、あるいはシュピーゲルの記事、Sachs氏の発言からも、ノルドストリームの破壊工作を行ったのは米国であることは疑いのないことです。

 米国という国はとことんずる賢く傲慢で、恐ろしい国だと思います。米国のネオコンの行動は「アメリカ合州国は世界のどこの国とも異なる特権を持つ国であり、アメリカはどんなことをしても許される」=「US Exceptionalism」が貫徹しています。
 例えば、濡れ衣だったとはいえ、イラクが大量破壊兵器を持つ危険な国だから攻撃することが許されるなど、でたらめな理論です。世界で最も大量の大量破壊兵器を持っている米国が何を言っているのか、悪い冗談です。
 例えば、核兵器をちらつかせて北朝鮮を威嚇しておきながら、北朝鮮の核兵器開発は許されないなど、噴飯ものの主張です。
 こうした米国の全く不合理な主張に疑いを持たなくしまっている日本という国や国民、そして「国際社会」もまたUS Exceptionalism に洗脳され、あるいは隷属しているのです。能天気な日本人は、国際連合などの国際機関は中立・公正であるという「建前」を疑っていないようですが、現実は第二次世界大戦戦勝国である連合国(United Nations)によって世界を牛耳ることを目的としていることを理解すべきでしょう。要するに「国際社会」は連合国のボスである米国の傍若無人を抑えることはできないのです。
 その結果、完全な濡れ衣であったイラクの大量破壊兵器保有を前提とした日本の自衛隊を含む多国籍軍のイラク攻撃(米国は劣化ウラン弾まで使用しています)と米国傀儡政権の樹立は実質的に何ら裁かれることはないままです。
 それに比べて、今回のウクライナ紛争に対するロシアの侵攻は、米欧の支援を受けたネオナチの軍事クーデターで樹立された正当性のない米国の傀儡である現ウクライナ政権から2014年以降8年間にわたってネオナチを含むウクライナ政府軍によって虐殺され続けている東部地区住民からの要請を受けての理由のある侵攻であるにもかかわらず、米国に牛耳られている「国際社会」は徹底的にロシアを悪者に仕立て上げています。
 蛇足ですが、米国はしばしば他国の人権問題を口実に軍事的な介入を行っていますが、それは単なる方便にすぎません。本当に米国の正義が万人の人権を尊重するものならば、同国民を虐殺しているゼレンスキーのウクライナ政権やパレスチナを攻撃するイスラエルこそ非難すべきです。米国は、米国にとって政治・経済・軍事的に利用価値のある人権問題にだけ興味があるのです。そもそも、国内の警察権力などによる人種差別による虐待の頻発する米国が人権問題で他国を非難するなど、噴飯ものです。

 1992年2月にブッシュ(父)政権内にいたチェイニー国防長官とウォルフォウィッツ国防次官という2人のネオコンが「国防計画指針(DPG)」という米国の世界一極支配戦略を作成し、その内容は「米国だけが優越した軍事力を独占し、米国だけが国際秩序を形成できるようにする。ロシアの核兵器を急速に減少させ、ロシアが東欧における覇権的地位を回復するのを阻止する。欧州の安全保障の基盤を米国主導のNATOとし、欧州諸国が独自の安全保障システムを構築することを許さない。日本が太平洋地域で大きな役割を担うことを許さない」というものです。

 ここで注目しておきたいのは、米国の同盟国であるNATO加盟国や日
本であっても、あくまでも米国のコントロール下の属国とみていることです(それどころか、日本は敵性国家と認識されています。)。米国はNATO諸国や日本が米国と対等になることを決して許さず、常に弱体化させることを考えているのです。
 今回のノルドストリームの破壊は、ウクライナ紛争におけるロシアに対する経済制裁に乗じて、西欧諸国、特にEUの中心的経済大国であるドイツに経済的な大きな打撃を与えることを承知の上で、むしろドイツの台頭を押さえつけるために利用している節があります。また、ウクライナ紛争を長期化させることはそれ自体がNATO加盟国の経済状態を悪化させるために仕組まれているのではないでしょうか?
 「それは米国自身も同じでjはないか?」と思われるかもしれませんが、米国は巨大兵器産業を擁しており、戦争の長期化は利益の拡大なのです。また、米国はエネルギーにしろ食糧にしろ自給できる条件を持つ「特別な国」なのです。

 ウクライナ紛争を機に米国は日本の防衛費をNATO加盟国並みに倍増することを求めています。これは、日本をアジアにおいて米国の代理戦争をする国、つまり今回のウクライナと同じ役割を担わせることに加えて、防衛費の支出を大きくすることで日本の経済を弱体化させることをも狙っていると考えられます。一方、日本の軍事費増加による正面装備の多くは米国製の兵器購入に充てられるので、これによって米国は大儲けすることになります。日本の軍備拡大は米国にとって正に一石三鳥なのです。
 既に防衛費の捻出について日本は混乱を深めています。医療福祉予算の削減か、増税か、はたまた軍事国債の発行か・・・・。

 冷静に日本の置かれた状況を考えれば、世界で最も凶悪な軍事大国である米国が東アジアで仕掛けている覇権拡大の世界戦略に日米同盟によって日本が巻き込まれて戦場となること以外に軍事的な攻撃を受けることは考えられません。つまり日本の安全保障上最大の危険要因は日本が米国と軍事同盟を結んでいることそのものなのだということに、日本国民は気づかなければなりません。米国が世界の正義の体現者であり、日本を守ってくれているなどというのは幻想であり、現実は、US Exceptionalism という「選民思想」による身勝手にすぎないことを直視しなければなりません。
 このネオコンの主張はナチズムに通底している危険な思想です。例えば、過激なネオコンとして知られる米国国務次官ビクトリア・ヌーランドはロシアを弱体化させるためならばどんな手段を使っても許されるとし、ウクライナの2014年のネオナチ=アゾフ大隊によるヤヌコビッチ政権に対するテロによる軍事クーデターは「我々=米国」がやったのだと公言しています。
 中国の海洋進出は確かに覇権拡大の意図があるのと同じように、米国が太平洋の反対側のアジアにまで進出し、関与することも明らかに覇権拡大なのです。

 米国、なんと恐ろしい、化け物のような国です。

 しかし、これは他人ごとではありません。日本も米国に毒された結果、「日本は特別な国」と考えている日本人が大勢を占めています。日本がアジアの中で中心的な位置を占めるのだという日本政府の姿勢に理解を示す国民が多いようですが、それこそが覇権主義です。
 例えば、北朝鮮がロケットエンジンテストを行えばミサイル開発実験であり、日本がロケットエンジンテストをすればこれは宇宙開発だという報道をだれも疑いませんが、両者は全く同じことです。ロケット制御技術とはミサイルの制御技術と同じです。日本がロケットエンジンを開発してもよいが北朝鮮はおこなってはならないと言うのは不合理です。
 また例えば、日本は原子力発電大国であり、ウラン濃縮や使用済み核燃料再処理技術を持っており、莫大なプルトニウムを保有しています。原子力発電を自前で行っている国は全て核兵器保有国です。日本が特別に例外などということはあり得ません。
 事実、政府見解では「自衛の範囲の核兵器保有は合法」だとし、福島原発事故によって脱原発論議が活発化する中で原子力発電技術は安全保障に資する(2012年6月原子力基本法第二条2)ために必要と法律に書き込みました。小出裕章さんは、これが日本が原発をやめられない本質的な理由だと述べています。
 日本政府は、必要であれば1年以内に核兵器を製造することが可能であるとしており、核兵器製造可能な技術を有する、現状でも世界第9位の規模の軍隊を擁する軍事大国であるというのが日本の現実の姿なのです(軍事費を2倍にすれば、米国、中国に続く第3位の軍事大国になる)。北朝鮮は核開発をしてはいけないが、日本は防衛力として核兵器を保有してもよいなどというのは、まったく手前勝手で非論理的な主張です。こんな当たり前のことすら冷静に評価することが出来ないほど、日本国民も思い上がっているのです。

 

No.1434(2022/10/14) 環境問題・資本主義・自由貿易・ウクライナQ
工業文明の持続可能性について/SDGsは自然科学的に実現不可能A

4−1 生産という過程

 何かを「生産」するとは具体的にどのような過程なのでしょうか?まず、光合成について振り返ってみることにします。
 植物は、大気水循環から二酸化炭素CO2と水H2Oを「原料」として取り入れ、太陽光からの電磁波のエネルギーを利用して「生産物」であるブドウ糖を合成します。

 この反応をエントロピー変化を含めた化学式で次のように表すことができます。

 上式に示す横方向の変化は、左辺に示す光合成の「原料」が右辺に示す「生産物」であるブドウ糖になる過程を示しています。

左辺のエントロピー=83.9(cal/K)>右辺のエントロピー=60.6(cal/K)

 一般に複数の原材料資源を合成してより高度な構造を持つ生産物を作る場合、原材料資源のエントロピーに比較して生産物のエントロピーの方が小さくなります。

 しかし、熱学的な世界の全ての現象はエントロピーが増大する方向にしか起こりません。したがって、光合成反応が起こるためにはCO2とH2Oがブドウ糖になる以外に、エントロピーを発生する現象が並行して起こっていることを示しています。光合成では水の蒸発です。液体の水1molが水蒸気になることで28.4(cal/K)だけエントロピーが増加します。22.9molの水が蒸発することで、650.4(cal/K)だけエントロピーが増加します。

 一般に何かを生産する場合、原料から製品への変化の外に、必ず並行して低エントロピー資源の拡散応力を「消費」する変化が進行しています。その意味で、すべての生産過程は低エントロピー資源の消費過程なのです。

(続く)

 

No.1433(2022/10/11) ウクライナ軍がロシアのクリミア大橋を破壊
ロシア・ウクライナ戦争を煽り、ウクライナ国民を犠牲にする米欧の対応を非難する

 ウクライナがロシアのクリミア大橋を破壊しました。これはこれまでのウクライナ内戦の枠を踏み越え、ウクライナがロシアそのものを明確に攻撃したものです。ウクライナは虎の尾を踏んでしまったのです。プーチンは、これまでの特別作戦ではなく、対ウクライナ戦争として対応を変えることは明白です。
 これまでロシア軍が自制していたウクライナ東部地区以外への大規模攻撃が既に始まってしまいました。ゼレンスキーの愚かなロシア挑発行為によって、ウクライナ中の住民がロシアの攻撃対象になったのです。
 これに対して、「国際社会」という米欧・日諸国が本当に平和を希求するのであれば、ウクライナとロシアの双方に対して和平協議の開始を勧告すべきです。
 しかし、早くも米国のバイデンはじめG7メンバーは更なるウクライナに対する軍事支援を行い、ゼレンスキーに徹底抗戦をさせようとしています。

 これはこのコーナーのNo.1388の米欧はウクライナの早期停戦を望まない等で既に述べているように、米欧、特に米国は建前としてのウクライナの救済ではなく、世界戦略として、ロシアの影響力を削ぎ、あるいはロシアそのものを新植民地化するためにウクライナのネオナチを使って戦争を始めたのであり、「ウクライナ人が最後の一人になるまで軍事支援する」つもりです。今のところその方針は変わらないようです。

 ウクライナ国民は、そろそろ米欧のたくらみに気付き、米欧傀儡ゼレンスキー政権に対して和平交渉を再開するように行動を起こすべき時が来ているように思います。

 

No.1432(2022/10/10) 2022年大阪河合塾文化講演/小出裕章
「脱炭素・原発再稼働・小型原発を問う」

 私は昨年7月に大阪河合塾で講演する機会をいただきました。その内容をまとめたものを「温暖化とは何か」として公開しているのはご承知の通りです。
 私の講演を実現させてくださった河合塾のチームが、今年は京都大学原子炉実験所でながらく助教を務めていらっしゃった小出裕章さんの講演会を行いました。小出さんは、日本で数少ない尊敬できる原子炉の専門家でいらっしゃることは、皆さんご承知の通りです。
 蛇足ですが、これだけ著名な研究者が京都大学では最後まで助教であったことに、この国の科学研究の問題が凝縮されているように思います。恐らく、現役の気象研究者の多くは小出さんのようになることを恐れて、バカバカしい人為的CO2地球温暖化説を批判せずにいるのであろうと考えます。

 河合塾の知人から、小出さんの講演録が掲載された季刊誌「季節」を送っていただきました。講演録と合わせて小出さんの二つの記事を紹介いたします。

「脱炭素・原発再稼働・小型原発を問う」小出裕章

 

No.1431(2022/10/09) ノーベル賞とは米欧の政治的宣伝の道具
ウクライナ東部4州ロシア編入報道に見る米欧・日の報道機関の劣化は絶望的

 昨年のノーベル物理学賞では、温暖化研究の先鞭をつけたとして、子供だましの初期の気象予測のコンピュータゲームの作成者である真鍋叔郎が受賞しました。この受賞を見て、ノーベル賞の科学賞もすでに米欧の政治的な道具と化したことが明白になりました。
 勿論、ノーベル平和賞は既に昔から米欧の政治的な影響があからさまに反映されていることはよく知られたことでした。佐藤栄作の受賞やマララ・ユスフザイなどなど。

 そして今回、ロシアのウクライナ侵攻に反対する人々がノーベル平和賞の対象になりました。あからさまな米欧によるノーベル賞の政治利用は明らかでしょう。大分合同新聞2022年10月8日の記事を紹介しておきます。

 しかし、実際には2014年以降続いている米欧傀儡キーウ・ウクライナ政権による東部の親ロシア系のウクライナ国民に対する弾圧・虐殺から解放するための運動に対するロシアによる救援のための侵攻であることは全く米欧・日の主要メディアから報じられることはありません。
 今回の東部4州のロシア帰属をめぐる住民投票についても、全く逆のことが報道されています。日本では目にすることのない報道をご覧ください。どう判断するかは視聴者の判断にゆだねます。

追 記

 過去にこのコーナーで紹介してきたウクライナ紛争に関する動画の多くが閲覧できなくなっています。ロシアや中国は情報統制するが、米欧・日本においては自由に情報が得られると考えるのは全くの幻想であることの証拠だと考えます。こうした状況から、今回の動画は動画ファイルをダウンロードして公開しています。
 この動画を作成したRTはロシアの国営メディアですが、過去のこのホームページで紹介した西側ジャーナリストの報道との整合性から、私自身は米欧・日メディアよりもはるかに信憑性が高いと判断しています。
 ロシア国内の反戦運動の報道が目に触れますが、ウクライナ国内の反戦運動の映像が流れることはありません。これもウクライナ政府や米欧による情報統制の結果です。
 実際にはキーウ・ウクライナ政権下でも反政府的な言動があるためウクライナ政府は反政府的な複数の報道機関を閉鎖し、反政府的な人物を粛正している
ということです。

最後にもう一つ、以前にも紹介した大地舜氏の新しい動画を紹介します。

 日本がウクライナの轍を踏まないことを願うばかりです。 

 

No.1430(2022/10/06) エネルギー価格上昇に見る工業文明の崩壊
石油・天然ガス価格が高騰しても再生可能エネルギーは普及しないのはなぜ?

 ロシアのウクライナ侵攻に対する米欧ないし日本・韓国による経済制裁によって原油や天然ガスの世界市場価格が高騰し、更に日本の低金利政策の大失敗による円安が重なり、日本のエネルギー価格が高騰しています。
 支持率が急低下している岸田政権はエネルギー価格上昇を引き金とする物価上昇を緩和するために場当たり的な財政出動の拡大を続けています。更に脱炭素社会への支出、軍備拡大を行えば日本の財政は悪化の一途をたどることは必定です。

 穿った見方をすれば、温暖化対策・脱炭素化や軍備拡張という日本政府の政策は、米国による日本の経済力を削ぐために仕組まれた罠なのではないかとさえ思えます。少し脱線しました(笑)。

 大分合同新聞の関連記事を紹介します。

 今回の石油・天然ガス価格の上昇は一過的なものですが、このまま工業文明の膨張を許していけば、百年程度先には石油・天然ガス・石炭などのエネルギー資源の枯渇に伴う絶対的な供給量の減少・不足が起こることになります。それに伴ってエネルギー価格は単調に、天井知らずに上昇することになります。

 今回のエネルギー価格の上昇によって、すべての動力機械、製造設備、運輸手段の運用費用が上昇しました。その結果、鉱工業製品だけではなく、農産物、食品加工製品を含めてすべての商品価格が上昇しています。

 さて、一方では2050年に工業の脱炭素化を目指すとして再生可能エネルギーの導入を加速させようとしています。もし本当に再生可能エネルギーによって化石燃料を代替して工業文明を支えることが可能なのであれば、化石燃料価格が高騰している今こそ好機であり、再生可能エネルギーは急速に導入拡大が進むはずです。
 化石燃料を再生可能エネルギーで置き換えることができるならば、化石燃料費に比較して再生可能エネルギー発電電力は相対的に安くなるはずですが、実際にはそうはなりません。化石燃料価格上昇によるエネルギー価格の上昇で、再生可能エネルギー発電価格も上昇するのです。なぜなら、再生可能エネルギー発電装置は全て化石燃料をエネルギー源とする工業生産によって生産されている工業製品だからです。
 それならば、再生可能エネルギー発電装置を再生可能エネルギー発電電力だけを使って製造すればよいだけの話ではないか、という声が聞こえてきそうです。それは至極もっともな主張です。しかし残念ながらそうはいきません。
 再生可能エネルギー発電電力だけで生産設備を運用して再生可能エネルギー発電装置を作れば、再生可能エネルギー発電装置価格は爆発的に高騰することになり、したがって再生可能エネルギー発電電力は高騰することになるのです。
 結局、再生可能エネルギー発電電力は化石燃料でつくられているのです。化石燃料費が上昇すれば再生可能エネルギー発電電力価格はさらに上昇します。それは、再生可能エネルギー発電とは、化石燃料を消費しているだけで、消費した化石燃料から得られるエネルギー以上の電力を生み出すことができないからです。
 熱量ベースで見れば、再生可能エネルギー発電に対して化石燃料のエネルギー1単位を投入した時、得られる有用な再生可能エネルギー発電電力量のエネルギーは0.2程度にすぎません。したがって、再生可能エネルギー発電は化石燃料を浪費しているだけなのです。このあたりの詳細については今後、現在連載中の「工業文明の持続可能性について/SDGsは自然科学的に実現不可能」の中で示すことにします。


 さて、工業文明の末期にも現在のエネルギー価格高騰の影響と同様のことが更に極端に表れることになります。エネルギー不足によって生産設備を動かすことができなくなり、工業生産量が縮小し、工業製品はすべて希少となり、価格が暴騰します。工業化された農業は農業機械が動かせなくなり、農業資材も手に入らなくなり、農産物の収量が激減します。
 おそらく現在の工業文明を放置すれば、希少資源、農産品などを巡って熾烈な奪い合い、もっと言えば殺し合い=戦争が起こる可能性が強く、更に工業文明の終焉は悲惨なものになる蓋然性が極めて高いでしょう。

  

No.1429(2022/10/04) 役に立たないJアラートのミサイル情報
北朝鮮のミサイル発射実験に対する危機感を煽る報道は岸田内閣支持率低下の影響

 今朝のNHKのニュース番組の途中でJアラートのミサイル情報が流れ、それ以後は延々とこの報道が続きました。
 まず最初のJアラートのミサイル情報には、相変わらず笑わされました。

 対象地域として北海道から伊豆諸島、小笠原諸島までが挙げられており、これらの地域の住民に対して堅固な構造物に退避するようにというのです。一体どうしろというのでしょうか? これだけ対象地域が広くては、まったく意味をなさないのは当然です。

 このJアラートのミサイル情報からわかることは、発射されたミサイルが一体どこに向かうのかを全く捕捉できていないということであり、日本のミサイル監視システムは全く実戦では役に立たないということです。もし実戦でミサイルが日本を標的に発射されたとしてもこれを防ぐことは不可能だということです。
 既に北朝鮮は日本全土を射程とするミサイル技術を保有しており、近年は巡航ミサイル、超音速ミサイル、潜水艦搭載ミサイルも完成しているようですから、仮に戦争状態になれば日本国民や国土の安全を守ることは技術的に不可能だということです。
 さらに、日本海沿岸には原子力発電所(稼働中か否かに関わりない)という動かぬ核弾頭が多数あるのですから、日本の国土を武力で守るなどということは幻想なのです。
 この現状を見れば、日本の安全を守る唯一の「現実的」方法は、憲法9条を順守して一切の軍事力を放棄し、米駐留軍を日本から排除した上で全方位外交を行うこと以外にないということです。その上で日本を軍事的に攻撃しようという国は私には考えられません。
 この時最も危険なのは言うまでもなく日本の独自外交を許そうとしない米国による妨害、もしかすると軍事侵攻してくるかもしれないと考えます。

 北朝鮮のミサイル開発の目的は、日本に対する攻撃ではなく、米国との対等の立場による交渉を行うための前提として、米国本土を攻撃できる核弾頭ミサイルを開発することです。一刻も早く日米同盟を解消して集団的自衛権によって米国の戦争に日本が巻き込まれることがないようにすることこそ日本の安全保障上喫緊の課題なのです。 

 今回のミサイル実験については、7時42分に日本上空を通過してEEZ外側の太平洋に着水したという情報が流れました。Jアラートのミサイル情報は7:27に発射確認し、7:42に何の影響もなかったことが確認されました。この間僅か15分間の出来事でした。
 しかし、NHK、そしてテレビ朝日の朝の情報番組などでは延々と北朝鮮の脅威を煽る報道が現在9:10の段階でも垂れ流され続けています。
 これは、穿った見方をすれば、臨時国会が開催され、内閣支持率が危険水域まで低下しつつある岸田政権を救済するために、統一教会問題、国葬問題から国民の目を逸らし、北朝鮮の脅威を殊更国民に印象付け、国内世論を軍事国家化へまとめることが目的なのではないかと推測します。

追 記

 夕方のニュース番組によると、今朝のJアラートのミサイル情報において、伊豆諸島や小笠原諸島について対象地域としたのは「結果として」誤りであったとの政府見解が示されました。また、最初のJアラートを発出した7:29分にはすでにミサイルは青森上空を過ぎていたということです。なんとも無様で税金の無駄遣いとしか言いようのないミサイル監視システムです。 

追記2 : 2022年10月5日大分合同新聞

 予想通り。岸田政権は北朝鮮のミサイル発射実験を最大限利用しようと躍起です。10月5日の新聞記事を紹介します。

 官邸筋の「ミサイルを打つほど我々を利する・・・」という発言にはあきれ果てます。彼の言う我々を利するということは平和憲法を破棄して日本を軍事国家化して東アジアにおける覇権を拡大することを指していることは疑う余地はありません。
 日本国民は、岸田内閣において再び第二次世界大戦に突入していった過去と同じことが今くりかえされようとしていることを認識しなければなりません。

 

No.1428(2022/10/02) ウクライナ東部4州のロシア編入が正式調印
米国、EU主要国の新植民地主義を的確に評価したプーチン氏の調印式の演説

 ウクライナ東部4州が住民投票を経て圧倒的支持でロシア編入が選択されました。欧米の報道では銃を持ったロシア兵士による脅迫があったとしていますが、最早この種の報道には全く信憑性はありません。西側のジャーナリストであるパトリック・ランカスタ−氏のYouTube映像をご覧ください(設定から字幕/自動翻訳≫日本語でご覧ください。)。

 

 ウクライナはもともと西部・中部・東部で文化的にかなり異質の民族が集まっていました。ソビエト連邦時代はソビエト連邦を構成する一つの共和国であったため民族間の大きな紛争にはならなかったようです。東部にはロシア語を母語とするロシア人が暮らしていました。
 ところが1991年のソ連崩壊によってソビエト時代のウクライナ共和国の国境線でロシアと分離されることになりました。ウクライナ東部地区にはロシア語を母語とするロシア人たちがロシアから引き離されて取り残されました
 独立後のウクライナは西欧への傾倒を強めましたが、米欧はウクライナを対等の国家としてではなく新植民地主義の「草刈り場」ととらえていたことに疑問の余地はないでしょう。独立後のウクライナでは産業が軒並み崩壊し、単なる資源・食糧の供給地となり、生活できなくなった国民数100万人がEU諸国に出稼ぎに出る状態になりました。
 ロシアも1990年代のゴルバチョフ〜エリツィンの急激な開放路線で米欧の草刈り場となって国内産業が破壊され、極貧状態に陥りかけましたが、行き過ぎたエリツィンを解任して、ロシアの独立を意識したプーチン政権の登場で劇的に経済状況を改善させました。
 一方ウクライナでは2004年のオレンジ革命という米国の介入による似非民主革命で米国傀儡のユシュチェンコ政権が成立しますが、経済政策は失敗し国内産業の崩壊は止まらず、2010年の大統領選挙で親ロシア派でウクライナの再生を目指すヤヌコヴィッチが大統領に就任しました。
 ウクライナを足掛かりにロシアそのものを新植民地主義の草刈り場にしたい米国ないしEU主要国、特に英国はウクライナのネオナチ極右民族主義者を軍事支援し、正当な大統領選挙で成立したヤヌコヴィッチ政権を2014年に「マイダン革命」という軍事クーデターによって倒し、再びウクライナに米国傀儡政権を作りました。
 
この米欧に軍事支援されたネオナチによるクーデターで作られた正当性のないキーウのウクライナ政権をロシア系住民の多く住む地域は当然承認せず、クリミアはいち早く住民投票の上、ロシアへの帰属を決めました。キーウのウクライナ政権は、東部地区のロシア系住民に対するロシア語使用の禁止などを含む弾圧政策と並行してネオナチ軍事組織であるアゾフ大隊を中心とする軍事攻撃・虐殺を開始しました。
 その後、フランスなどの立会いでキーウ政権の東部地区攻撃についての停戦協定である「ミンスク合意」が成立しますが、キーウの米国傀儡ウクライナ政権はこれを無視して軍事攻撃を続け、ロシアが進行を開始する2022年2月までの8年間で1万人以上の東部地区住民を虐殺しました

 

 1990年代のソ連崩壊による東西冷戦終結によって、一旦は軍事的な緊張関係は解消したかに見えましたが、米国は東欧諸国やロシアを対等の国として敬意をもって付き合おうとはせず、ソ連崩壊時にブッシュとゴルバチョフの間で交わされたNATOの拡張を行わないという紳士協定を踏みにじり、貪欲に東欧諸国を軍事的・経済的に米国の管理下に組み込み新植民地主義の膨張を続けました。今回のウクライナ紛争は、正に米国による世界の一極支配を目指す横暴が根源にあることを確認しておかなくてはなりません。

 以下、ウクライナ東部4州のロシア編入調印式におけるプーチン演説全文を紹介します。

2022年9月30日
ウクライナ東部4州ロシア編入調印式のプーチン演説

※プーチン演説の中でも触れられているロシア〜欧州を結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」ないし「ノルドストリーム2」の破壊工作について、米国CIAがドイツ政府に対して9月であることを通告していたという記事がドイツの雑誌「シュピーゲル」に掲載されているそうです。攻撃の主体については明言を避けているようですが、ロシアが自らの資産を破壊することは考えにくい。ロシアはただガスを止めればよいだけなのだから。米欧の偽旗作戦と考えるのが合理的だと考えます。

 

No.1427(2022/09/30) 環境問題・資本主義・自由貿易・ウクライナP
工業文明の持続可能性について/SDGsは自然科学的に実現不可能@

 前回までの議論で現在の環境問題とはどういう構造を持っているのかを示してきました。今回から、現在の工業文明の持続可能性について考えることにします。

 私たちが環境問題について考えるのは、人類社会がどうすれば少しでも長期間にわたって生き延びていくことができるのかを探るためです。勿論、人間が生物である以上、環境の変化に対応して、その生き方も不断に変化していくことになります。
 人類の数万年ないし十数万年の歴史において、この200年間程度の期間続いている工業文明という形態は極めて特殊で一過的な社会形態です。
 この工業文明という特殊な文明は、化石燃料という極めて優れたエネルギー資源を得たことで、かつて経験したことのない物質的な豊かさを実現しました。確かに、ものに溢れた豊かな世界がいつまでも続くのであれば、それは素晴らしいことなのかもしれません。
 しかし、工業文明によって人間社会がいびつに肥大化することによって、生物である人間の依って立つ根源的なシステムである地球生態系の物質循環や大気水循環が壊され、あるいは汚染されることによって環境問題という、謂わば人類文明の自家中毒現象が起きたのです。

 一方、工業文明が成立するための本質的な条件である優れたエネルギー資源の取得には限界があります。前回示したように、鉱物資源である化石燃料あるいはウラン鉱の確認埋蔵量に対する可採年数は僅か数10年〜100数10年にすぎません。探鉱技術の進歩によって、可採年数はもう少し長くなると考えられますが、工業文明は長くても数100年先には確実に終焉を迎えることになります。工業文明は僅か1000年足らずのごく短命な文明なのです。

 このように、工業文明という有限のエネルギー資源に依存している物質的に豊かな時代は永続することはありません。それどころか、近い将来必ず終焉を迎えることは自然科学的な必然です。
 しかし、工業文明の永続を願う大多数の人々はこの事実を認めようとしません。そして、科学者や技術者は科学技術によって無限の有用なエネルギー供給技術を生み出すという見果てぬ夢に憑りつかれることになりました。

 人為的CO2地球温暖化脅威論が蔓延し始めると、エネルギー資源の枯渇とは異なる文脈、つまり温暖化を防止するためにCO2を放出しないエネルギー技術が必要であると言われるようになり、「脱炭素社会」を目指すことが世界的な共通の目標として掲げられました。

 最近はやりのSDGs=Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標は、化石燃料に替わって工業文明を支え得るエネルギー供給技術が実現されていることを前提としてまとめられた砂上の楼閣です。
 このところSDGsを取り上げたテレビ番組が盛んに放映されています。また学校教育現場でも児童生徒に対して再生可能エネルギーや持続可能な社会について科学的の裏付けのない安直な教育が、いや洗脳が行われています。

 例えば、大分合同新聞の投書欄では、大分県竹田市の中学生の意見が紹介されていました。これは、中学校の国語の授業で「モアイは語る―地球の未来」という地理学者・環境考古学者である安田喜憲氏の文章が取り上げられ、これを基にした環境問題を考える一環として生徒に与えられたレポートのようです。まず、「モアイは語る―地球の未来」の全文を紹介します。

 安田氏の文章は格調高く、私たち大人にとっても示唆に富んだ内容だと思います。

 しかし問題は、安田氏の文章を教材とした中学校の教育現場で、教師によって一体どのような方向付けが行われたのか、それを生徒たちのレポートに見ることができると思います。

 最初に中学生の文を読んだとき、安田氏の文章を読んで、一体どうしてこのような意見になるのか理解に苦しみました。安田氏もこのような反応は全く意図していなかったのではないでしょうか?
 安田氏の文章が指摘していることは、農耕文明を維持するためには森林を含む生態系を維持することが必要であり、人間社会による過大な収奪的な資源利用が農耕文明を崩壊させたということです。
 私であれば、イースター島の教訓から、地球の森林環境を守り、あるいは復活させることに努力すること、森林を基礎とする地球生態系を安定的に持続できるような規模にまで人間社会を縮小することが真っ先に浮かびます。

 ところが中学生の文章にはそのような主張を見ることができません。複数の生徒が言及しているのは、多層階の農産物工場の導入です。あるいはCO2の削減のための再生可能エネルギーを用いた発電と蓄電池の導入や、CO2の工業的再利用によるCO2放出量の削減です。これはおそらく彼ら自身の考えではなく、授業において教師による方向付けによってもたらされた知識の受け売りだとしか考えられないように思います。
 ここに共通しているのは、工業文明の持続的発展を肯定するSDGsの発想そのものです。つまり、化石燃料を代替して工業文明を支えることのできる無尽蔵のエネルギー供給技術が獲得できるという前提に、工業的な技術による解決策を提案しているのです。

 SDGsの特徴は、誰にでも受け容れられるように、工業的な技術による開発=経済膨張によってすべての人が豊かで幸せになれるのだというバラ色の未来像を提示することです。これは、化石燃料の枯渇によって終焉を迎えることから目を逸らせ、目の前の豊かさに固執する強欲な先進国の現代人の非科学的で無責任な願望です。例えば、池田清彦氏の著書「SDGsの大嘘」(宝島社新書、2022年6月)をご覧ください。

 何の技術的な裏付けのないSDGsあるいは温暖化対策としての脱炭素化を進めることによって、工業文明は、安田氏がイースター島の研究で述べているように食糧や資源を奪い合う悲惨な戦争を含む、破局的な終焉を迎えることになります。

 次回以降、工業文明の持続可能性について、具体的に検討することにします。 

(続く)

 

No.1426(2022/09/24) 環境問題・資本主義・自由貿易・ウクライナO
環境問題がなぜ起こるのかD

3−4 現在の特徴的な環境問題

(1) 地表面環境の乾燥化

 一つは、古代文明が滅亡したのと同様な農地の大規模開発による森林破壊による物質循環、大気・水循環の破壊による砂漠化です。前回見たように世界人口はいまだに爆発的な増加を示しており、食糧増産は不可避的な状況です。
 工業化された農業では、ダム建設などの直接的な水循環の改変や地下水のくみ上げによる灌漑農法が広域で実施されています。地下水はやがて枯渇する有限の資源であり、高効率=栄養収奪的な農業を支えるために大量の化学肥料や土壌改良剤の使用と相まって、限界的な農地の塩害による乾燥化・砂漠化が進行しています。
 農地の砂漠化は工業文明においても最大の環境問題です。

 工業文明では農地以外でも都市化による地表面環境の乾燥化が進んでいます。都市や住宅地では交通手段の利便性のために地表面が舗装され、降雨は速やかに環境から隔離された暗渠化された河川や広域下水道に流し込まれます。植生の貧弱な都市や住宅地ですが、更に地表水を失うことで乾燥化が進行しています。

 上図に平均的な地球の表面環境の熱収支を示します。地表面は水の蒸発によって冷やされています。341.5W/m2100とした場合、蒸発による放熱量は23(78.5W/m2)です。

 都市化され表面舗装された環境では、地表面からの水の蒸発潜熱による冷却効果が失われることになります。 

 例えば、都市化され舗装された地表面からの水の蒸発量が上図に示すように23から12に減少し、それに代わって地表面放射が125に増加すると仮定します。この場合、地球の平均的な環境では地表面温度≒気温が7℃程度上昇することになります。
 この種の都市部における異常気温上昇に対する対策は明快です。巨大都市を解体して、人・モノの分散化を図り、表面舗装を撤去して生きた土壌を復活させることです。
 
 現在、人為的CO2地球温暖化という非科学的な主張が世界に蔓延しています。工業文明によって、都市人口が増加しているため、多くの人たちが感じている気温上昇とは、ここに示した都市の乾燥化によって水の蒸発潜熱による冷却能力が低下したことによる気温上昇です。大気中の人為的なCO2濃度の上昇とは無関係です。

(2) 都市部における工業エネルギーの集中的な消費

 例えば、日本の巨大都市では、地表面積1平方メートル当たり平均28Wほどの工業的なエネルギーを消費しています。341.5W/m2100とした場合8に相当します。この場合、地球の平均的な環境では地表面温度≒気温が5℃程度上昇することになります。

 下の写真は地球の夜半球を撮影したものです。白く見えるのは人工照明です。照明の密度の高さは都市化の程度を表すと考えられます。都市では乾燥化による表面温度上昇だけでなく、大量の人工的なエネルギー消費が行われています。

 写真を見ると、特に北半球のアメリカ東部、ヨーロッパ大陸の西海岸側、および日本を含めたアジア大陸東海岸部などに光点が集中しています。こうした場所では地表面環境の乾燥化と人工エネルギーの集中的な消費によって局所的に地表面温度が上昇しています。これらの場所では上昇気流が強まり、大気水循環に擾乱を与えていると考えられます。
 例えば、近年日本でよくみられるゲリラ豪雨は都市の異常高温化が原因です。世界中の都市化の進んだ地域に遍在する大気水循環の擾乱が、地球の大気大循環に乱れを与え、地球規模の異常気象に繋がっている蓋然性は極めて高いと考えられます。

(3) 温暖化防止対策・脱炭素化による環境問題

 これは最も愚かな環境問題と言ってよいでしょう。なぜなら、人為的CO2地球温暖化という幻影におびえて、本来まったく必要でない対策を行うことによって引き起こされている環境問題だからです。

 人為的CO2地球温暖化脅威論が登場して以来、二酸化炭素CO2が汚染物質であり環境問題の元凶であるかのような馬鹿げた宗教的思想が蔓延しています。
 地球上のあらゆる生命体は炭素を骨格とする体組織を持っています。つまり、炭素は地球生態系にとって必要不可欠な物質です。
 生態系の豊かさを決定づけている地球生態系の第一生産者である光合成生物にとって、大気中のCO2は決定的に重要な資源であり、現在の大気中CO2濃度は光合成生物にとっては希薄すぎる状態です。施設園芸農家では、作物の生育を促進するために、例えば灯油を燃やして施設内を加温すると同時に、燃焼によって発生するCO2で施設内のCO2濃度を高くしています。

 CO2が環境汚染物質であるという妄想から、ゴミ問題が悪化しています。既に述べてきたように、工業生産からの廃物のうち、CO2は地球生態系の中で処理可能な有用資源です。ところが、温暖化対策あるいは脱炭素化という愚かな妄想から、人間社会から発生する廃物の大きな部分を占めているプラスチックゴミの焼却処分が忌避されています。
 その結果、膨大なプラスチックごみは一部は申し訳程度にリサイクルされるものの大半は環境中に廃棄処分されることになります。その結果、適切に管理されない投棄プラスチックは、環境中で劣化し、粉砕されマイクロプラスチックとなり海洋に流れ込み、海棲生物に悪影響を与えています。

 最も愚かな対応が社会の脱炭素化として、人間社会から化石燃料を排除するという無謀な政策がとられようとしています。
 工業文明とは化石燃料の優れた能力があるからこそ成立した文明です。化石燃料の排除とは工業文明を放棄することと同義ですが、そこが理解されていません。これは有限の資源である化石燃料に支えられている工業文明は永続できないことから、長期的な人間社会の生存戦略として正しい判断ですが、しかるべき脱工業文明の段階を周到に準備しなければ実現できることではありません。

 現在の「脱炭素化」政策の本質的な誤りは、化石燃料以外で工業文明を支えることのできる無限のエネルギー供給技術が実現可能であるという、自然科学的に何の根拠もない妄想を前提として組み立てられていることです。その結果、「単に」エネルギー供給源を化石燃料からその他へ転換すれば可能なのだという安直な発想なのです。それは「SDGs」に象徴的に表れています。

 その石油代替エネルギーの中核と目されているのが太陽光発電や風力発電です。こうした環境中に不偏的に存在する自然エネルギーはエネルギー密度が小さいため、それを補足するためには巨大な装置システムが必要になります。
 例えば、300kWの内燃機関発電装置の重量は6t 程度です。それに対して、陸上風力発電では平均出力300kWを得るためには300t 程度の施設が必要です。更に激しく変動する風力発電の出力を需要に同期させるためには巨大な蓄電システムや広域の高規格送電線網、バックアップ用の火力発電所が必要です。
 その結果、再生可能エネルギーの導入によって工業生産規模が爆発的に肥大化することになります。同時にこれらのシステムを製造・維持・管理するために化石燃料消費は大幅に増加することになります。
 例えば、現在の日本の最終エネルギー消費を熱量ベースで太陽光発電で賄うとすれば、日本の国土面積の12%程度を太陽光発電所にすることが必要です。風力発電では、2MW級(主塔の高さが100m程度)の風力発電が全国土に500m四方に1基の密度で林立することになります。
 もし本気で再生可能エネルギーを導入することになれば、日本の国土は深刻な環境破壊に晒されることになります。

 さすがに再生可能エネルギーの愚かさに気付き始めた国は、一旦は放棄する方向に進んでいた原子力発電を新たに推進することに政策転換しました。しかし、原子力発電もまた化石燃料の消費なしには実現できないシステムです。

 また、ウラン自体有限の地下資源です。可採年数を見ると石炭よりもはるかに短いことがわかります。可採年数とは、確認埋蔵量をその年の消費量で割った値です。原子力発電を行う国はごく限られていることを考えれば、エネルギー供給量は化石燃料よりも圧倒的に小さいことがわかります。
 化石燃料やウランの枯渇したはるか未来まで数万年に及ぶ高レベル放射性廃棄物の管理という環境リスクを負うことは愚かとしか言いようがありません。 

(続く)

Copyright (C) 2013 環境問題を考える All Rights Reserved.