これまで述べてきたとおり、今回のウクライナを舞台とした軍事衝突の本質は、米国、特にネオコンの「世界を米国の価値基準に一元化する」という傲慢な世界戦略を実現するためのロシアないし親ロシア勢力を弱体化させるための戦争です。そのためにウクライナの民族紛争とウクライナ人が利用されているのです。
私は報道の真贋論争をするつもりはありません。米欧や日本の報道は、ネオコンの描いたストーリーに沿う報道をすることで協力しています。当事者へのインタビュー映像を使った報道であっても、編集の仕方でインタビューに答えた人の意図とは逆の内容を創ることもできます。
特に説明の必要はないと思いますので、次の映像をご覧ください。
4月29日から岸田文雄がアジア歴訪に出ました。
東アジア諸国は西欧とは異なり、日本を除けばウクライナに対するロシア侵攻について、積極的に米国に協力して一方的にロシア批判を行う国はありません。岸田はインドネシア、ベトナム、タイを訪問し、各国に対して日本の米国盲従の立場を説明し、ロシアに対する批判を明確にするよう要請しました。更に、これもまた米国の世界戦略上邪魔になる中国の太平洋への進出へ協力してこれを抑えることを訴えました。
日本政府が米国の傀儡であることを述べてきましたが、今回の岸田のアジア歴訪は、正に米国ネオコンのエージェントとして米国の世界戦略を説明する旅であったようです。
大分合同新聞5月3日
ウクライナへのロシア侵攻に対する米欧側からの「一方的」な報道による日本国民に対する「洗脳」の成功に自信を持った自民党は反撃能力の保持で憲法9条を完全に有名無実にし、同時に憲法改正を加速させようとしています。
以前は岸田文雄は安倍晋三の党内影響力を慮って憲法改正に言及しているのかとも考えていましたが、政権担当後もますます憲法改正への意欲を強くし、ロシアのウクライナ侵攻を受けて9条改正への意欲も強めています。総理就任後の岸田の発言を見ると正に米国ネオコンの影響を強く受けているようです。「被爆地広島出身の総理大臣」を売りにしていた岸田ですが、どうもハトの皮をかぶったタカであったようです。
日本の外交・防衛政策は米国に逆らうことができないと述べてきました。今回の反撃能力の保持、そして防衛文章の秘密化は、「米軍の指揮下で自衛隊が米軍と一体となって運用される」ために必要な措置ということです。これによって、自衛隊の行動は米軍によってコントロールされることになり、日本国民は自衛隊の行動を知ることができなくなるということです。まさに日本の主権の放棄というしかありません。
大分合同新聞5月1日
比較的良識的な考えを持っているとみていた知人の中にも、ウクライナへのロシア侵攻を見て憲法9条の平和条項の見直しや自衛隊の軍備拡張も止む無しと考える方が増えています。日本人の米国による洗脳の根深さ、あるいは日本人の論理的思考の停止状態はここまで来ているのかと愕然とする今日この頃です。
太平洋戦争に敗れた日本が米国の占領下に置かれたことは、日本人には拒絶することの出来ないことでした。朝鮮半島のように大国の思惑によって南北に分断された状態が現在まで続いている状況に比較すれば、幸運であったのかもしれません。
その代わり、外形的に主権を回復した後も、世界で最も凶悪で好戦的な米国の軍隊が駐留し続け、事実上の傀儡政権が続いています。
その結果、日本は東アジアにおける米軍基地としていいように利用されることになりました。米軍基地があったおかげで朝鮮特需やベトナム特需で重工業メーカーが経済的な恩恵を受けましたが、裏を返せばその結果としてアジアの同胞たちの命を奪うことに協力してきたのです。
戦後の一時期、労働運動や学生運動が米国の支配に抵抗した時期がありましたが、経済成長を続ける中で政治意識は薄れ、文化的にも思想的にも米国を無条件で肯定するようになってしまいました。こうして政治だけでなく、マスコミ報道、学問教育までも完全に米国盲従となってしまいました。
最近よく聞くようになった自民党・岸田政権の外交姿勢として「自由主義と民主主義、資本主義、グローバリズムという普遍的価値を共有し、力による一方的な現状変更を許さない」と述べています。しかしこれらは米国ネオコンの主張であって、世界共通の普遍的価値ではないし、これと異なる価値観が悪であるというのは傲慢です。
また、第二次世界大戦後の世界において、最も数多く武力による一方的な政治体制の変更を実行してきたのは他ならぬ米国です。
例えば記憶に新しい2001.9.11後のイラク侵略、アフガニスタン侵略は、明らかに何の合理的な理由もなく、米国が気に食わなかったから一方的に体制を破壊した戦争でした。明らかな犯罪行為です。こともあろうにこの戦争には日本の自衛隊も参加しました。
このことに対して、日本政府はこれまで一切の謝罪も行わず、日本国民に対しての説明責任も果たしていません。この侵略戦争に対する日本のマスコミ報道は、米軍や自衛隊の活動に対して批判的な報道をしたでしょうか?
日本のマスコミ報道の姿勢は明らかなダブルスタンダードであり、偏向報道です。
しかし、それでも日本は独立国家であり、日本人は科学的な教育を受けており、論理的な思考と判断能力を涵養されているのですから、自らの判断で凶悪な米国の軛から解き放つ道を選ぶことも不可能ではないはずですが・・・・。
歴代の保守党、自民党政権は米国の意に沿うことで米国の威を借りて東アジアで覇権を握ることを目的に、自ら進んで米国に忠誠を誓っていることは既に述べてきました。
「善良な国民」はそこまで積極的ではないにしろ、長年の米国的な価値感や視点からの大量の情報に曝された結果、自ら情報を分析して判断を下すことを怠り、米国一辺倒のマスコミ報道を正しいものとして受け入れてしまうようになってしまいました。
その典型的な例が、反ロシアであり反北朝鮮でしょう。ロシアや北朝鮮など米国の敵対国は「絶対的に悪であるはず」であり、米国は絶対的に正しいという先入観です。
今回のウクライナに対するロシアの侵攻についてのロシアの報道に対して、日本のマスコミ報道はロシア政府による情報統制によって洗脳されたロシア国民のロシア政府に対する支持率が高いと報道しています。それは事実でしょう。
しかし日本のマスコミ報道は、自らもまた米欧側の一方的な視点からの「洗脳」報道しかしていないことに対して全く疑問を持っていないことに唖然とします。ここにも米欧に対する無批判な盲従姿勢が表れています。
そして、ウクライナに対するロシア侵攻を受けて、好戦的な自民党などが憲法9条を骨抜きにし、自衛隊をNATO並みの軍事予算に増大させ、米軍との一体化を進めようとしていることに理解を示し始めている多くの「善良な国民」の対応は、「戦争の現実に対する理性的な判断を忘却した=平和ボケ」した実に愚かな対応としか言いようがありません。
米国の正義を妄信し、事実の検証を放棄した思考停止状態に陥った愚かな日本国民によって平和国家日本の最後の歯止めが崩れようとしています。
■米欧の一面的な報道を垂れ流す日本の愚かなマスコミ報道
ロシアのウクライナ侵攻について、相変わらず日本のマスコミ報道は全く無意味な内容ばかりを垂れ流しています。
ウクライナに対して戦争遂行のための資金や武器・弾薬を供給している実質的に戦争の一方の当事者である米国、EUないしNATOに加盟している欧州の報道は、初めから自らの加害責任を隠ぺいして、ロシアの罪だけを告発する確信犯的な内容であることは当然です。一方、ロシアの報道内容はほとんど伝えられることはありませんが、おそらく同様に、自らの侵攻の正当性を主張しているのであろうと想像します。
戦争の当事国の報道は、いずれも自らに都合の悪い内容は隠し、相手の非難に力点が置かれるのは当然です。一方の報道は完全に正しく、もう一方の報道が完全に間違いであるなどということはありません。
日本は本来は第三国として、中立の立場から多面的な情報を収集して冷静に状況を分析して、自らの外交政策、ないし国家の平和を守るための最良の判断をするように努めるべきです。
しかし、残念ながら日本政府は米国、EUやNATO側の主張を一方的に支持する立場をとっています。日本の歴代政権は実質的に米国の傀儡政権だということです。しかし、これはとても危ういことです。
同じように、日本のマスコミ報道は政府の意思を忖度してか、米欧の主張は無条件に正しいものとして、米欧の正義に対する予定調和的な報道だけを行っています。これは、日本国民に対して偏った情報を与えることであり、国政の進路を誤らせるものです。
今回のウクライナに対するロシアの侵攻には二つの側面があります。
■ウクライナの複雑な歴史を背景とする民族紛争
一つは、ウクライナという国の歴史・民族・文化的背景による民族問題です。これはウクライナという国の宿命的な問題です。歴史上、様々な大国のせめぎ合い・支配によって今のウクライナという国の地理的な範囲の中に文化、民族、言語を異にする人々が存在しています。
近年、ソ連時代には社会主義的な支配構造によってある程度抑え込まれていた民族問題が、ソ連崩壊によって再び顕在化しました。
近年のネオナチないし過激な民族主義武装組織が関与した2014年のマイダン革命という軍事クーデター以降、ウクライナ政権はロシア語を公用語から外すなど、ロシアの文化的・政治的影響を排除することを目指し、ロシア語を話す住民の多い東部2州の武装勢力との間で泥沼の内戦状態が続いていました。
最近取り沙汰されているアゾフ大隊はマイダン革命後にウクライナ正規軍に編入されたといいます。そうすると2014年以降、今回のロシア侵攻までに、ウクライナ軍は、米欧の軍事的・経済的な援助を受けながら、ウクライナ東部地域に住んでいた自国民を1万人以上も虐殺していたということになります。ロシアがウクライナ政府の横暴から民族・文化的に共通する同胞を救済するという主張には一定の合理性があります。
ウクライナの民族紛争は、近代国家の地理的な国境線と民族・文化との境界が必ずしも一致していないことに起因する悲劇です。この種の民族紛争は、何らかの平和的なルールによって共存の道を探るべきです。ただし、ウクライナ固有の問題について、私にはその複雑さを理解するだけの情報を探る術もないので、これ以上軽々に論評することは避けたいと思います。
民族問題は、歴史的な遺恨の根深さから、悲しいことですが、武力による紛争になることが往々にしてあるようですが、民族紛争は得てして全く関係のない大国(=米国)の利害による介入を許す原因となることだけは銘記しておきたいと思います。
■米国ネオコンの世界戦略としてのロシアとの闘い
さて、日本に関して重要なのはもう一つの側面です。
近代の戦争の多くは、経済的に富める国が更に貪欲に領土を増やし、資源を略奪し、さらに市場を拡大することを目的に行われてきました。
19世紀には欧米諸国は世界中に植民地を作りました。20世紀の二つの世界大戦は、欧米・日本による世界の植民地支配をめぐる身勝手な利権争いです。
第二次世界大戦後に、大部分の植民地は外形的には独立国家になりました。しかし、旧宗主国と旧植民地の関係は相変わらず旧宗主国による経済的・軍事的な支配関係が残ったままです。こうした欧米による経済援助や軍事同盟化あるいは傀儡政権の樹立による実質的な支配関係が現在も続いており、これがいわゆる新植民地主義です。国際通貨基金IMFや世界銀行WBなど欧米主導の国際的な経済機関による貸し付けは、欧米諸国にとって有利になる経済改革を要求するもので、新植民地主義の道具の一つです。
こうした新植民地主義の中心にいるのが米国です。第二次世界大戦後は19世紀のような有無を言わせぬ武力による露骨な植民地支配は難しくなったため、米国は色々な大義名分を作って軍事介入を行い、あるいは要人の暗殺などによって傀儡政権を作り、自らの勢力範囲を拡大しています。
米国は第二次世界大戦後、朝鮮半島、ベトナム、カンボジア、ラオス、中近東諸国、中南米諸国、チリ、パナマ、ニカラグア、キューバ、イラン、そして2001年以降のイラク戦争、アフガニスタン紛争と絶え間なく世界のどこかで新植民地拡張のための戦争を続けています。
現在、米国の世界支配戦略の中で中心的な役割を担っているのがいわゆる「ネオコン(Neoconservatism)」=新保守主義(自由主義、民主主義、グローバリズム至上主義、これに反する勢力に対して武力的な介入も辞さない過激思想)者です。
米国の世界戦略の近年の一つの画期となったのが1991年のソ連の崩壊でした。米国は、NATOと対峙していたソ連・東欧の軍事同盟であるワルシャワ条約機構の解散によって、それまで手を出すことのできなかった東欧・ロシアの経済圏にまで勢力を伸ばす機会を得たのです。
当初、ワルシャワ条約機構の廃止に際して、米欧諸国はロシアに対してNATOを東方に一切拡大しないという「紳士協定」を結びました。しかし当時の米国大統領ブッシュはこれを無視してNATO加盟国を増やし、その後の歴代米国大統領もこれを踏襲して続けています。
旧東欧諸国は、米国・西欧の経済的繁栄にあこがれ、次々に西欧の自由主義・資本主義経済体制に移行しました。しかし、いきなり過酷な市場経済にさらされた旧東欧諸国の経済は混乱し、庶民経済はむしろ悪化することになりました。例えばウクライナはソ連時代には科学技術や工業生産の中核を担う国でしたが、独立後にはGDPが1/3程度にまで落ち込み、国内産業は破壊され、数100万人が周辺国に出稼ぎに出る状態になりました。
米国をはじめ西欧諸国は旧東欧諸国に対して経済援助やNATO加盟による軍事同盟化=新植民地化を進めています。ウクライナやロシアでは市場経済の導入による経済・社会混乱によって庶民生活が悪化したため、その揺り戻しとしてかつてのソ連的な国家運営に戻ろうとする動きが起こりました。そこで登場したのがロシアのプーチン政権です。
ウクライナでは、米国CIAが資金・武器援助などで関与したとされる一連の「カラー革命」の一つであるオレンジ革命によって2005年から親米派のユシチェンコが大統領を務めましたが社会・経済的な混乱・失敗を招き、2010年には親ロシア派のヤヌコーヴィッチが大統領になりました。
蛇足ですが、ユシチェンコ体制下においてオバマ政権の副大統領としてバイデンはウクライナを訪問し、その直後に彼の息子はウクライナのエネルギー企業の重役に就任し、就労実体がないのに不正な莫大な報酬を得たといいます。このようにウクライナは米欧の食い物にされることになったのです。その一方で米国は親米ウクライナ政権に対して経済的援助だけでなく、ロシアに対する最前線基地とするために軍事援助を行いました。
米欧、特に米国にとって莫大な資金援助、武器供与を進めて新植民地化したウクライナに親ロシア政権が樹立されたことは世界戦略上の後退を意味するものでした。そこで、ヤヌコーヴィッチ政権に対するウクライナの反政府運動に資金と武器を提供して「マイダン革命」という名の軍事クーデターを起こし、武力で政権を倒して現在のゼレンスキー政権につながる親米の傀儡政権を擁立しました。
このように、今回のロシアによるウクライナ侵攻のもう一つの側面とは、米国、とりわけ好戦的なネオコンによるワルシャワ条約機構解体時のNATO不拡大という約束を無視した新植民地拡張という世界戦略の一環として、ロシアに接するウクライナを舞台としたロシアと、米国の代理としての親米ウクライナ政権の衝突ということです。
■手段を選ばない米国の貪欲な新植民地政策
米国の世界戦略による軍事介入において、自由主義・民主主義・グローバリズムは「普遍的価値」を持つ正義であるという主張をよく使います。また独裁国家は悪であり、自由・民主主義は正義だとも言います。しかしこれは米国の勝手な主張であり、世界の多様な文化に対する敬意のかけらすらない傲慢な主張です。力によって米国の価値観を押し付ける一方的な現状変更を「正義」だとして侵略行為を正当化しています。
しかし、実際に米国がやってきたことを見るとこれすら建前にすぎないことがわかります。
例えば、第二次世界大戦後、パフラヴィ―(パーレビ)国王による独裁国家イランと米欧は良好な関係を持っていました。これは、パフラヴィ―が米欧に従順であり、実質的な傀儡だったからです。
親米のパフラヴィー独裁王制を民衆によるイスラム革命で打倒して作られた反米のイラン共和国を攻撃するために、今度は隣国イラクに対して資金や兵器供与を行いました。
アフガニスタンでは親ソ連政権が成立すると、イスラム過激派組織「アルカイダ」に対して資金・兵器・軍事参謀の援助を行い、政権の打倒を目指しました。アルカイダは後に2001年9月11日にアメリカ本土に同時多発テロを行い、米国は手痛いしっぺ返しを受けたことはご承知の通りです。
結局、米国は、国内情勢の不安定さに付け込んで軍事的な介入の口実を作っては新植民地を拡大させているのです。その目的を遂行するためには、イスラム過激派であろうが、独裁国家であろうが、ナチスの残党でも使えるものは何でも使うのです。
YouTubeの動画“This was a murder plot to make me disappear”: Former
CIA Officer on Leaving the Agency (1995)の中で、CIAがナチスの残党を庇護し、欧州にファシストを残すことを目論んでいたことを告白しています。曰く、
「アメリカ政府はヒットラー政権の軍人ゲーレンを雇い、ナチス軍人、SS党員、戦争犯罪人を動員して、ソ連に対する戦争を継続した」
「ウクライナをはじめとする、いたるところにいたファシストを組織して、右翼過激派を、バルカン半島にも、東欧にも、ドイツにも、イタリアにも、東欧にも、つくり、これがヨーロッパの極右スキンヘッドや、アメリカのKKKや、キリスト教原理主義運動に引き継がれている」
マイダン革命後のアゾフ連隊などネオナチの私兵組織を含むウクライナ軍と東部親ロシア派の武装勢力の間の内戦は泥沼化していました。米国は、このウクライナの内戦の泥沼状態を利用してウクライナの親ロシア勢力を一掃するために、米欧諸国がこの内戦に強力に介入するための大義名分が必要でした。そのためにネオナチのアゾフ大隊などによる東部に対する攻撃を強めることでロシアを挑発し、軍事侵攻を決断させたのでしょう。
米国は、ヨーロッパ大陸における米国の覇権を揺るぎないものにするための最大の障壁である旧東欧諸国の親ロシア派を一掃すると同時にロシアを経済的・軍事的に弱体化させるという世界戦略の一環として、ウクライナにおける政府軍と東部の反政府軍の内戦を利用してロシアを巻き込むことで戦線を拡大して、米欧の軍事的介入を正当化したのです。
したがって、米欧はロシアを疲弊させ、国際社会の中で孤立させることが目的なので、ウクライナに対して必要なだけ武器と資金を注ぎ込み徹底抗戦を指示し、出来るだけこの戦争状態を長期化させようとしているのです。ダグ・バンドウ(Doug
Bandow)氏が米欧の軍事的な関与について「モスクワと戦うウクライナ人が最後の一人になるまで、ゼレンスキー政府を支援する」、「最も憂慮すべきことは、ウクライナ国民が最も必要としている平和を、アメリカと欧州は支持していない」と言うように、米欧にとってウクライナの市民の生命の安全を守ることの戦略的な優先順位は極めて低いのです。
米欧諸国が本当にウクライナの平和を願うのであれば、ソ連崩壊後のNATO不拡張という原点に立ち戻って、ロシアとの間に中立的な緩衝地帯をつくるなど、ヨーロッパ全体の平和的な枠組みを再構築することを前提とした停戦協議を仲介すべきであり、それ以外にないでしょう。残念ながら、米欧、特に米国にはそのような意思はないようなので、今のところ戦争の出口は全く見えません。
■日本固有の外交問題が武力紛争に発展する蓋然性は低い
では本題の日本を取り巻く東アジアの状況について考えることにします。
日本が関係する東アジア地域の主要な外交問題は、領土問題と北朝鮮による拉致問題です。
領土問題としては、
@尖閣諸島について中国ないし台湾
A竹島について韓国
B北方四島についてロシア
の3件があります。いずれについても、喫緊に武力紛争に至る状況ではありません。真摯かつ積極的に外交的な努力を積み重ねて何らかの妥協点を見つけるべき外交事案です。交渉を行わないのは日本政府の怠慢以外の何物でもないでしょう。
ただし、ウクライナを巡って日本が米欧側の一方的な主張に賛同してロシアに対する経済制裁に参加し、ロシアを一方的に非難するとともに米欧NATOと協力を強めるという軽率な判断をしたために、ロシアは領土問題の交渉を事実上凍結しました。状況は悪化しましたが、それでも日本が実力を持ってこの問題を解決しようとしない限り、ロシアとしては日本に対して軍事的に侵攻することは考えられません。
拉致問題についても、武力によって解決する問題ではありません。北朝鮮との平和条約を締結するための外交交渉を誠実に実行するのと並行して解決すべき問題です。
このように、日本が直接かかわる東アジアの外交問題によって戦争状態になる蓋然性は今のところ極めて小さいと考えられます。
■日米軍事同盟の存在が日本を戦争の危険にさらす最大の要因
一方、米国ネオコンの世界戦略(例えば米国の「国防計画指針(DPG)」)、つまり地球上のあらゆる地域において自由主義・民主主義・資本主義・グローバリズムを普遍の価値とする米国の覇権を確立する上において、東アジア地域における最大の障壁は中国の存在であり、その次に北朝鮮の存在です。
ソ連の崩壊によってロシアや東欧は経済的に大きなダメージを受けましたが、中国は着実に経済力を伸ばしています。近い将来経済規模で米国を逆転するのも時間の問題かもしれません。中国の経済力の拡大にしたがって、アジア・アフリカ地域において、中国の政治・経済的な影響力は確実に大きくなっています。米国の世界支配の戦略において、今や最大の障壁が中国なのです。
米国、特にネオコンは今回のロシア同様、中国を封じ込め、東アジアにおける中国の政治・経済・軍事的な影響力を削ぐことを目論んでいることに疑問の余地はありません。
今回、ロシアのウクライナ侵攻が始まる前から、米国は執拗にロシアがウクライナに侵攻するのは間近であるとアナウンスしていました。これは米国がオレンジ革命やマイダン革命を含めてウクライナに軍事支援を続け、時間をかけてロシアをウクライナの紛争に巻き込み弱体化させるための周到な準備を行ってきたからに他なりません。
現在のウクライナとロシアの戦争の本質は、米国の世界戦略の一環としてロシアを弱体化させるために、米国がウクライナの民族問題に起因する内戦を利用してロシアに仕掛けた戦争であり、戦場としてウクライナが利用され、米兵の代わりにウクライナ人が戦っているのです。
同じように米国は、数年後に中国本土と台湾との間に戦争が起こると繰り返し述べています。これは、数年後に中国本土と台湾の間に戦争が起こるように米国が周到な準備段階に入ったことを表明しているということです。事実、ロシアのウクライナ侵攻が始まると同時に、米国の台湾への軍事援助の拡大が発表されました。
また、米国の北朝鮮政策はトランプの登場で一旦正常化の方向に進むかに見えましたが、ネオコンの中でも強硬派であるボルトンによって頓挫し、外交分野にブリンケンなどのネオコンの高官が多数いるバイデン政権の登場で再び緊張し始めています。
日本を含む東アジア地域に影響する戦争が起こるとすれば、最も蓋然性の高いのは米国の干渉による中国・台湾戦争であり、その次に韓国・北朝鮮戦争です。特に、台湾については前述の通り米国は数年後の開戦を目指して準備段階に入ったものと考えらえます。
また、韓国ではムン・ジェイン(文在寅)政権に代わり親米対北朝鮮強硬派のユン・ソギョル(尹錫悦)政権になったことでにわかに緊張関係が高まることが予想されます。
東アジアにおいても今回のウクライナ同様、米国は自らの世界支配の貪欲な野望を隠し、見かけ上、民族紛争を米国の一方的な価値観による「人道的」な立場から支援するという名目で介入して、実質的に中国や北朝鮮の弱体化を実現しようとしています。これは正にベトナム化政策――ベトナム戦争において、米国傀儡のベトナム人と米国に敵対するベトナム人同士を戦わせる政策――を踏襲したものです。
現在のウクライナの人々、そして台湾に住む中国人、韓国人は、米国の世界戦略の道具として利用されているのです。米国はウクライナ同様、市民の生命を守ることに興味はないのです。
日本が近い将来、東アジア地域の戦争に巻き込まれる可能性があるとすれば、いずれの戦争にも関与している米軍と日米安保条約で結ばれ、日本国内に多数の米軍基地があることがその原因です。
米軍が中国や北朝鮮に対して直接軍事介入したとしても、中国、北朝鮮がいきなりICBMで米国本土を攻撃することは考えにくいことです。まず標的とされるのは東アジアの米軍基地ないし米軍基地を配備されている国です。その意味で日本が最初の標的になる蓋然性が極めて高いのです。
以上見てきたように、日本の安全保障上の最大の危険要因は、「世界中に米国の覇権を確立する」という傲慢で危険な世界戦略を目指す米国と安全保障条約を結んでいることで、米国の野望を実現するための戦争に日本が巻き込まれることであることがわかります。これは日本の安全保障にとって論理矛盾であり、全く本末転倒と言うしかありません。
■日本の保守政権は実質的に米国の傀儡政権
日本は第二次世界大戦に敗れて敗戦国として米国の支配下に置かれました。1952年4月28日、サンフランシスコ平和条約が発効し一応は日本の主権は回復されましたが、同時に日米安全保障条約によって現在まで米軍が日本領土内に駐留し続けています。
戦後の日本国民の自主的な民主化運動は「レッドパージ」によって潰され、日本の歴代保守党政権の外交・安全保障政策は米国の意思によって決定され、これを逸脱することは許されず、事実上日本は現在まで一貫して米国の傀儡政権が支配しています。
日本の安全保障についてみると、1950年に朝鮮戦争の勃発による駐留米軍が手薄になり、GHQの要請によってそれを補完する「日本国内の暴動鎮圧」を目的とする警察予備隊が創設され、その後駐留米軍の補完部隊である自衛隊になりました。付け加えるならば、朝鮮戦争、ベトナム戦争において日本は米軍の前線基地であると同時に兵站として機能し、日本の重化学工業メーカーは多大な利益を得ました。
日本の自衛隊は、名前とは裏腹に日本を守るための組織ではなく、あくまでも米軍ないし米欧の軍隊の補完部隊です。災害復旧で出動する以外の実質的な出動は、例えば1991年の湾岸戦争における海上自衛隊のペルシャ湾への派遣、2001年9.11米国同時多発テロ後の米国によるイラク侵略戦争への出動と、米軍ないしその軍事同盟国への後方支援なのです。
このホームページでは再三述べてきたとおり、軍事力によって日本国民の安全を守ることは技術的に不可能です。軍備による「抑止力」とは戦争が起こらないことを前提とした考え方であり、ひとたび戦争になれば必ず人命は失われ、国土が破壊されるのです。日本を戦場とする本格的な戦争になれば、原子力発電所の存在は決定的な弱点になります。
安倍晋三を筆頭とする好戦的な軍国主義者たちの言う「米軍との同盟を強化し、自衛隊の軍備を強化することで日本国民の人命が守られ、国土を守ることができる」という主張が額面通りであれば、それは論理的・科学的な思考能力の欠如した夢想家の愚かな戯言であり、これを信じる国民は平和ボケした愚か者というしかありません。
「額面通り」と言ったのは、本音は違うところにあるのではないかと想像するからです。近年、特に小泉純一郎以降の首相の考え方が、米国のネオコンの影響を強く受けているように感じるからです。特に安倍晋三、菅義偉、岸田文雄が外交問題においてしばしば口にするフレーズとして「自由と民主主義という普遍的価値を共有する云々」があります。これは正しく米国のネオコンの世界戦略の根幹をなす思想であり、これを実現するためには武力による一方的な現状変更も厭わないというものです。
現在の日本政府は米国ネオコンの世界戦略に積極的に参加して、米国の一元的な価値観による覇権の確立に貢献して、多少日本人の犠牲を払ってでも、自らもそのおこぼれに与かろうと考えているからではないでしょうか。あわよくば米国の威を借りて、太平洋戦争では無し得なかった東アジアにおける日本の覇権の確立=大東亜共栄圏の実現を狙っているのではないでしょうか?そうであればアナクロニズムの戦前美化論者の安倍晋三が米国に媚を売る姿もすべて合点がいくのですが・・・。
■日本の軍事国家化によって日本の危険が増大する
ロシアのウクライナ侵攻以降、安倍晋三を筆頭とする好戦的な自民党は、敵基地攻撃能力改め反撃能力という先制攻撃の合法化、防衛予算のNATO加盟国並みの2%(11兆円余り)への引き上げ、米核兵器の共同運用などを骨子とする提言をまとめました。
既に述べたとおり、いくら日本の軍備を強化しても、日本人の生命を守ることは不可能です。これは正に現在のウクライナの実態が証明しています。ウクライナはに米国・欧州各国から戦争遂行のために必要な最新兵器を含む物資や資金が惜しみなく供給されていますが、その結果戦線が拡大する一方で犠牲者は増え続けています。結果として、ウクライナに対する援助が大きくなればなるほど戦争犠牲者が増加し、ウクライナ国土は破壊されることになります。
つまり防衛費に費やされる日本の税金は、日本人の生命を守ることには役に立たないのです。その一方、日本人の支払う血税で賄われる防衛費の大部分は米国の軍需企業に垂れ流され、彼らを肥え太らせることになるのです。
敵基地ないし敵国の中枢部への先制攻撃=反撃能力を合法化するということは、事実上侵略戦争を可能とすることです。米軍核兵器の共同運用と合わせると、正に自衛隊が米軍の指揮下で米軍と一体化して侵略戦争を含むすべての戦闘行為に参加することが可能になる、否、半ば参戦を強要されることになります。
これは、中国やロシアにとって日本海を挟んだ日本という不沈空母に米軍と米軍と一体となった日本軍と核兵器が配備されるということであり、まさしく現在のウクライナとロシアの関係と同じです。軍事的な緊張関係が一気に高まることになるでしょう。
■本質を見失っている日本・欧米のウクライナ反戦平和運動
最後にロシアのウクライナ侵攻に対する本質を見失った的外れの反戦平和運動について一言述べておきたいと思います。
ダグ・バンドウ(Doug Bandow)氏は、“Washington Will Fight Russia To The Last Ukrainian”の中で「ロシアのスポーツ選手、歌手、指揮者などの熱狂的な支持者たちは、プーチンを糾弾する告白を要求している、そうしなければ職を失うと。」と述べています。これは国家と個人を混同した愚かな対応です。しかし実際に起きていることです。
例えば日本に居住しているロシア人は、プーチン政権の軍事侵攻を批判しなければ、ロシア国籍を持つというだけで攻撃の対象になります。逆に、日本のマスメディアは日本に逃れてきたウクライナの戦争難民に対してゼレンスキー政権の「英雄的な」徹底抗戦を支持するコメントを求めます。
しかし、ロシアはウクライナに軍事侵攻していますが、同時に貪欲な米国の世界戦略の被害者です。平和を望むならば、プーチン政権の軍事進攻に反対するのと同様に、否、それ以上にNATO不拡大の約束を破ってロシアをそのような状態に追い込んだ米欧の対応を批判すべきでしょう。更に、米欧のウクライナに対する軍事援助に反対し、早期に抜本的な平和停戦を実現するように求めるべきです。また、ロシア軍に対して徹底抗戦を求めるゼレンスキー政権のウクライナ人に対する非道さに対しても反戦の意思を示すべきです。
だいぶ長くなりましたので私の意見はこの辺にしておきます。以下、天木さんのメールマガジンの重要記事を紹介しておきます。
□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】
■□■
□■ 天木直人のメールマガジン2022年4月25日第186号
■ https://foomii.com/00001
=========================================================
読者からの投稿を共有する(ネオコンが差配するウクライナ戦争)
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以下は読者から教えてもらった田中良紹というジャーナリストの見解である。
バイデン政権のネオコンがウクライナ戦争に関与していた事は知っているつもりであったが、ここまでとは知らなかった。
最後に彼が書いている、米国こそ追いつめられている、というのは私もまったく同感である。
投稿者に感謝して、他の読者と共有したい(了)
引用開始
冷戦後、唯一の超大国となった米国を自滅させたのは「テロとの戦い」である。
2001年の「9・11同時多発テロ」への報復を口実に、米国はアフガニスタンとイラクに戦争を仕掛け、中東地域を「民主化」しようとしたが、それが米国を史上最長の泥沼の戦争に引きずり込んだ。
アフガニスタンとイラクに作った米国の傀儡政権は国民の支持を得られず、イラクではイスラム内部の宗派対立を激化させ、より過激な集団「イスラム国」を生み出し、またアフガニスタンでは20年の戦闘の末タリバン政権の復活を許した。昨年夏のなりふり構わぬ米軍撤退は国際社会を失望させ、米国の威信は失墜した。
米国は中東地域での影響力を失い、代わってロシアと中国が影響力を強めたが、米国を自滅させた「テロとの戦い」を主導したのは、ブッシュ(子)政権内に勢力を持っていたネオコン(新保守主義)である。
ネオコンは自由と民主主義を人類普遍の価値と捉え、理想のためには武力介入を辞さない思想を持ち、「米国型民主主義の輸出」を自分たちの使命と考える。そのネオコンが今、バイデン政権内の要職を握り、ウクライナ戦争を主導してロシアのプーチン大統領を打倒しようとしている。
日本の新聞やテレビはウクライナ戦争の現状を説明するのに、ロシア軍がウクライナのどこまで侵攻したかを赤色で示す地図を使用する。テレビではすべての番組が毎日その地図を使い、それをテレビで目にしない日はない。
この地図を作成しているのは米国のシンクタンク「戦争研究所」である。「戦争研究所」の所長はキンバリー・ケーガンというネオコンだ。そして「戦争研究所」が「ロシア軍は当初の作戦に失敗した」とか「失敗したため東部に力を集中する」とかの分析を行い、それを日本の専門家が自分の考えのようにテレビで解説している。
つまり日本人は毎日、新聞・テレビを通してネオコン主導のウクライナ戦争をネオコンの解説によって理解させられている。
筆者は、冷戦が終わる直前からワシントンに事務所を置いて、米国議会の議論を日本に紹介する仕事をしてきたが、米国の議論でどうしても違和感を抱いてしまうのがネオコンの考え方だった。
1991年12月にソ連が崩壊すると、92年2月にブッシュ(父)政権内にいたチェイニー国防長官とウォルフォウィッツ国防次官という2人のネオコンが、「国防計画指針(DPG)」という米国の世界一極支配戦略を作成した。
DPGの内容は、「米国だけが優越した軍事力を独占し、米国だけが国際秩序を形成できるようにする。ロシアの核兵器を急速に減少させ、ロシアが東欧における覇権的地位を回復するのを阻止する。欧州の安全保障の基盤を米国主導のNATOとし、欧州諸国が独自の安全保障システムを構築することを許さない。日本が太平洋地域で大きな役割を担うことを許さない」というもので、敵性国家としてロシア、中国、ドイツ、日本の名を挙げた。
同じ92年には日系人の政治学者フランシス・フクヤマが『歴史の終わり』を出版しネオコンの論客として注目された。内容は「自由民主主義が最終的な勝利を収めることで、人類発展の歴史は終わる」というもので、米国が冷戦に勝利したことで人類は歴史の最終形態に近づいたと説いた。
すると米国の政治学者サミュエル・ハンティントンは、教え子のフランシス・フクヤマに呼応する形で『文明の衝突』を書き、冷戦後の世界では文明と文明が衝突する。西欧文明と衝突する可能性が高いのはイスラム文明と中華文明だと説いた。
ハンティントンはネオコンではないが、この『歴史の終わり』と『文明の衝突』の2つが、同時多発テロを奇貨として「イスラム文明」の中東に米国が「民主主義を輸出」しようとするネオコンの考えに繋がったと筆者は見ている。
「テロとの戦い」を始める前にブッシュ(子)は、「真珠湾奇襲攻撃という野蛮な行為をした日本は、戦争に負けると民主化され、米国の忠実な同盟者となった。だから中東のテロ国家に勝って中東を民主化する」と発言した。
「テロとの戦い」の前にもネオコンに影響されたクリントン大統領の行動がある。1993年に大統領に就任したクリントンは、アフリカのソマリヤ内戦で多数の死者が出ているのを人道的に許せないとして、「世界の警察官」としての米軍を軍事介入させた。
米国が攻撃を受けていないのに軍事介入するのを、キッシンジャー元国務長官らは反対したが、クリントンは続いてコソボ内戦にも介入する。ユーゴスラビアのミロシェビッチ大統領がアルバニア人をジェノサイド(民族浄化)していると主張して、精密誘導兵器による空爆を行った。クリントン政権のオルブライト国務長官はネオコンだった。
ネオコンは共和党にもいるが民主党にもいる。民主党にいるネオコンはリベラルホーク(リベラルなタカ派)と呼ばれ、その代表格はヒラリー・クリントンである。一方でウクライナのNATO加盟を強力に推進するヴィクトリア・ヌーランドも強力なネオコンだ。
彼女は現在バイデン政権の国務次官だが、夫はネオコン幹部のロバート・ケーガン、その弟の妻が先ほど紹介した「戦争研究所」の所長キンバリー・ケーガンとなる。
バイデン政権のブリンケン国務長官もオースティン国防長官もネオコンである。
米国はこの戦争に地上部隊を派遣しないだけで、それ以外の分野では全力を挙げてウクライナ軍を支援している。ロシアのプーチン大統領を潰したいがためだ。だからこの戦争はロシアがウクライナに軍事侵攻したように見えるが、実はプーチンと米国のネオコンとの2008年以来の戦争である。
NATOを拡大しないという米国の基本戦略を投げ捨てて、NATOの東方拡大に舵を切ったのは大統領選挙でポーランド移民の票が欲しかったクリントンだが、ネオコンに取り巻かれたブッシュ(子)は2008年、ロシアが絶対に認めないウクライナとジョージアのNATO加盟を強く推した。
米国に協力的だったプーチンはそれ以来反米となる。
ドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領が「将来の加盟」という先送り案を提示して収めたが、直後にジョージア軍が親露派の南オセチアに戦争を仕掛け、ロシア軍は冷戦後初めて欧州で戦争することになった。ジョージア軍の後ろにはネオコンの米国がいた。
これも独仏が仲介して停戦するが、ジョージア内の南オセチアとアブハジアの独立をロシアは承認し、ロシア軍はその後も駐留している。そして2014年、問題のウクライナにクーデターが起き、親露派政権を打倒した「マイダン革命」を米国がやらせたと言ったのはオバマ政権で国務次官補を務めていたヴィクトリア・ヌーランドである。
この時、プーチンは黒海艦隊の拠点があるクリミア半島を武力併合して対抗したが、実は裏側では米国が黒海に軍艦を出動させ、ロシアはキューバに軍艦を出動させてにらみ合い、米ロは第三次世界大戦一歩手前のところにまで行った。
ヴィクトリア・ヌーランドはロシアのプーチンを潰すためになら何でもやる人物だ。それがこの戦争が始まってから一切表に出てこないので不思議に思っていたが、義理の妹が所長を務める「戦争研究所」が世界のメディアに情報を提供することで、世界の世論がプーチンに敵対的になるよう仕向けていることが分かった。
ネオコンのルーツは、戦前に白人から差別されていたユダヤ系の反スターリン主義左翼である。それが戦後になって民主党に入り、労働運動や公民権運動を行っていたが、ベトナム反戦運動やソ連との緊張緩和に幻滅して右翼に転向した。
スターリンの「一国社会主義」と対立したトロツキーの「世界革命」の思想を受け継ぎ、スターリンの影響を受けたロシアを嫌い、同時にトロツキーが共産主義革命を世界に広めようとしたように、米国の価値観を国際社会に広めることを軍事力を使ってでも実現しようとする。従ってネオコンは軍需産業とつながりが深く、「戦争研究所」も軍需産業からの資金援助を受けている。
しかし米国は「テロとの戦い」に足をすくわれ、オバマ大統領は中東からの米軍撤退を公約に掲げ、「世界の警察官をやめる」と言って大統領に就任した。だが軍産複合体が政治を牛耳る米国で米軍撤退を実現するのは難しく、オバマはウサマ・ビンラディンを暗殺しただけに終わった。
次のトランプ大統領は、ネオコン路線とは異なる外交姿勢を取り、ロシアのプーチンと融和的であるだけでなく、北朝鮮の金正恩とも首脳会談を行って朝鮮半島統一に道筋が見つけられるかと思わせた。
しかしネオコンのジョン・ボルトンが国家安全保障担当大統領補佐官を務めていたこともあり、米朝首脳会談は不調に終わる。韓国と北朝鮮はボルトンの妨害があったと批判している。
そして昨年1月にバイデン政権が誕生すると、トランプ政権で影を潜めていたネオコンが政権の要職に復活した。バイデン政権の重要課題は当初は気候変動問題と対中外交と思われたが、一転してロシアとの戦争が勃発し、筆者はその背後にネオコンの存在があると感じた。
こうして世界はいつまで続くか分からない「戦争の時代」を迎えたのである。
ネオコンの説明を聞くと、戦争が思い通りにならないプーチンは求心力を失い、ロシア国民からも批判され、失脚の運命が待ち受けているように思わされる。しかしネオコンが主導した「テロとの戦い」は当初は破竹の勢いだった米国が、勝利宣言をした後に逆転され、米国は散々な目に遭ったのである。
同じことになったら大変だ。米国が世界を支配するには欧州、中東、アジアの3か所で覇権を確立しなければならない。中東での覇権は「テロとの戦い」で消滅した。米国は欧州のロシアとアジアの中国と戦って2つの地域の覇権を獲得しなければならない。
しかしG20を見ても、米国の経済制裁に同調する国は半分で、それ以外のアジア、アフリカ、中東諸国はほとんど米国に背を向けている。
米国がプーチンとの戦争に勝てなければ、30年前に唯一の超大国に上り詰めた米国は王座から転落する。ウクライナ戦争は、ウクライナではなく米国こそが、国家の命運をかけた戦いを強いられているのだ。
引用終わり
■マリウポリ製鉄所は太平洋戦争末期の日本を彷彿とさせる
連日、マリウポリの製鉄所に立て籠るウクライナ軍(アゾフ連隊?)とロシア軍の攻防についての報道が続いています。製鉄所内に立て籠っている兵士や多くの民間人には逃げ場がないので、殲滅されるか、投降するかしか選択肢はないでしょう。
ロシア軍は期限を延長して繰り返し投降を呼びかけていますが、ウクライナ政権並びに軍は徹底抗戦をするとしています。
民間人の多くは、投降してでも生きたいと考えるのが普通ではないでしょうか?兵士と一緒に自ら最後まで立て籠ろうなどと考えるでしょうか?
合理的に考えれば、立て籠っている市民は「人間の盾」として利用されているということです。ロシア軍の攻撃を回避できれば成功、例え殲滅されたとしても、ロシアの非道を宣伝するための材料が一つ増えるというわけでしょう。少なくとも、私のような小市民は、名誉のために自ら死を選ぶなど、などまっぴらです。
あくまでも憶測ですが、ゼレンスキー政権はまるで太平洋戦争の日本帝国のように、マリウポリ製鉄所に立て籠る兵士と民間人に、「玉砕」し、「集団自決」を強要していとしか考えられません。このようなゼレンスキー政権が「人道的」な「正義」の政権だとは到底考えられません。
■米欧はウクライナの早期停戦を望まない
米国のバイデンは、ウクライナの戦闘は少なくとも1年間以上続くであろうと主張しました。これは、米欧諸国が武器をはじめとする戦争遂行のための物資や資金をウクライナに注ぎ込み、「戦争が終われないようにする」ことを表明しているのです。
ではなぜ米欧は戦争を長く続けさせたいのか?それは、この戦争によってロシアを軍事的にも経済的にも徹底的の消耗させ、弱体化させるために始めた戦争だからです(あわよくば、プーチンを追い落としてロシアに米欧傀儡政権を樹立したいのかもしれません)。米欧にウクライナ人を助けようなどという考えは毛頭ないのです。
それはあまりにもお前の勝手な想像であろうという方もいるかもしれません。しかし、これは例えば米国の共和党保守派の論客であると言われるダグ・バンドウ(Doug Bandow)氏の主張です。反ネオコン(ネオコン=新保守主義)を掲げるアメリカの純粋な保守系ウェブサイトであるThe American Conservative(アメリカの保守)は、4月14日に<Washington Will Fight Russia To The Last Ukrainian(ワシントンはウクライナ人が最後の一人になるまでロシアと戦う)>という見出しでバイデン政権の好戦性を批判する論考を発表しました。そのサブタイトルは<Kiev faces a choice: make peace for its people or war for its supposed friends?(キーウは選択を迫られている:国民のために平和を作りだすのか、それとも仮想の友人(=米国)のために戦い続けるのか?)>です。
彼の主張の概要の和訳をYAHOO!ニュースの記事から以下に引用します。
1.アメリカと欧州はウクライナを支援しているが、しかし、それは平和を作るためではない。それどころか、モスクワと戦うウクライナ人が最後の一人になるまで、ゼレンスキー政府を支援するつもりだ。
2.アメリカと欧州は、キ―ウに豊富な武器を提供し、モスクワに耐え難い経済制裁を科しているが、それはウクライナ戦争を長引かせることに役立っている。最も憂慮すべきことは、ウクライナ国民が最も必要としている平和を、アメリカと欧州は支持していないことだ。「アメリカはウクライナ戦争の外交的解決(=停戦)を邪魔したい」のだ。
3.戦争が長引けば長引くほど、死者数が増え破壊の程度は高まるが、アメリカと欧州は平和支援をしていない。ワシントンは、ウクライナ指導部が平和のための妥協案を検討するのを思いとどまらせようとしている。
4.戦闘資金の援助は戦いを長引かせることを意味し、アメリカと欧州は、ウクライナ人が永遠に戦えるようにするだろう。
5.戦争によって荒廃しているのはウクライナだ。現在進行中の紛争を止める必要があるのはウクライナ人だ。たしかにロシアはウクライナ侵略の全責任を負っている。しかし、米国と欧州の政府は、紛争を引き起こした責任を共有している。欧米の私利私欲と偽善のために、世界は今、高い代償を払っている。
(引用はここまで。)
ウクライナに米欧が武器や資金を供与しているのは、あくまでも米国ネオコン(例えば、元国務長官ヒラリー・クリントン、現国務長官アントニー・ブリンケン、国務次官ビクトリア・ヌーランド・・・等)によるロシア弱体化を目指す世界戦略のための道具としてウクライナのネオナチやゼレンスキーを利用しているということです。
おそらくゼレンスキーやネオナチは、米欧からの潤沢な資金を得て、米欧の思い通り、自国民の生命を顧みることなく、「徹底抗戦」を兵士や国民に強いているのでしょう。それが、例えばマリウポリ製鉄所における玉砕を指示させているのでしょう。
■ウクライナ政権とネオナチの関係を必死にもみ消す日本政府
マリウポリ製鉄所に立て籠り徹底抗戦を続けるウクライナ軍の中核に「アゾフ連隊」がいるようです。米欧や日本の報道によるとアゾフ連隊はウクライナ軍の精鋭部隊であり、英雄だとされています。
しかし、実際にはウクライナの国外に逃れていたステパーン・バンデーラ等、第二次世界大戦のナチスの残党が、ソ連崩壊後のウクライナ政府によって祖国救済の英雄として復権し、その後継の民族主義者たちが私兵団を組織したものであり、れっきとしたナチズムの後継者たちを中核とする軍事組織です。
ロシアは、ゼレンスキー政権にネオナチ武装組織の幹部がおり、アゾフ大隊などが2014年の「マイダン革命」以降、親ロシアのウクライナ国民に対して虐殺を繰り返してきたことを侵攻の理由としています。そのためゼレンスキー政権にまつわるネオナチの暗い事実をもみ消すことに躍起になっています。
アゾフ大隊やその他にもウクライナにはネオナチないし過激な民族主義私兵組織があることは、米欧では常識的な事柄です。これについては、既に紹介したオリバー・ストーンの「ウクライナ・オン・ファイアー」、「乗っ取られたウクライナ」をご覧ください。
日本では、公安の情報にウクライナの過激組織として「アゾフ連隊」が記載されていましたが、ウクライナへのロシア侵攻が始まると、泥縄でこの情報が削除されました。このことが4月21日の大分合同新聞に記事が載りました。
記事にある通り、公安資料にテロリストとしてアゾフ連隊の記述があったことは事実であり、公安としての判断ではなかったとしても、それは多くの情報機関や研究の結果であり、公安資料の記述を削除したからと言ってアゾフ大隊がテロ集団であることを否定しているわけではないのです。
例えば、2022年03月23日の朝日論座のルポライター清義明氏の記事「特集:ウクライナ侵攻 ウクライナには「ネオナチ」という象がいる〜プーチンの「非ナチ化」プロパガンダのなかの実像」なども参考になります。
●ウクライナには「ネオナチ」という象がいる〜プーチンの「非ナチ化」プロパガンダのなかの実像(上)
●ウクライナには「ネオナチ」という象がいる〜プーチンの「非ナチ化」プロパガンダのなかの実像(中)
●ウクライナには「ネオナチ」という象がいる〜プーチンの「非ナチ化」プロパガンダのなかの実像(下)
■日本の軍事国家化を進める愚かな自民党/平和憲法を参議院選挙の争点に!
マスコミ報道ではウクライナ問題を連日放映していますが、まったくピント外れとしか言えません。自民党や維新の会などの好戦的な勢力は、ロシアによるウクライナ侵攻を利用して、一気に日本を先制攻撃を含めて戦争のできる国に作り替えようとしています。戦後日本の守り抜いてきた平和国家としての遺産を一気にぶっ潰そうとしている、まさに戦後最大の危機を迎えようとしています。
4月21日の新聞記事を紹介します。
自民党の提案を見ると、安倍晋三の主張通り、敵基地攻撃能力の保有では飽き足らず、敵国の中枢を攻撃することを可能にすべきだとし、平和憲法を持っている日本の軍事予算をNATO加盟国並みに引き上げることを求めています。これは明らかな日本国憲法の趣旨を空洞化する内容であり、事実上、平和国家日本の終焉を意味するものです。
このような平和国家日本の存亡の危機に際して、野党勢力、マスメディアはいったい何をとぼけたことをやっているのでしょうか?来る6月の参議院選挙の争点として徹底的に議論すべきだと考えます。