1.原子力を儲かる発電にする制度的なからくり
1-2 地域独占料金と総括原価方式
日本の電力供給体制は全国をブロックに分けて、その中で地域独占の単一電力会社が給電を行うシステムになっています。そして各地域における独占価格は総括原価方式あるいはレートベース方式と呼ばれる方法で算定されます。これは、電力を供給するための必要な経費に一定の利潤を加えて算定されます。具体的には次に示す通りです。
総括原価 = 必要経費(減価償却費+営業費+諸税)+適正利潤
適正利潤(事業報酬)= レートベース × (報酬率)
レートベース= 固定資産+建設中資産+核燃料資産+ 繰延資産 + 運転資本 +
特定投資
電気料金=総括原価÷販売電力量
報酬率は『一般電気事業供給約款料金算定規則(平成11年12月3日通商産業省令第105号)第四条第四項』に次のように定められています。
4
報酬率は、次の各号に掲げる方法により算定した自己資本報酬率及び他人資本報酬率を三十対七十で加重平均した率とする。
一
自己資本報酬率 すべての一般電気事業者を除く全産業の自己資本利益率の実績率に相当する率を上限とし、国債、地方債等公社債の利回りの実績率を下限として算定した率(すべての一般電気事業者を除く全産業の自己資本利益率の実績率に相当する率が、国債、地方債等公社債の利回りの実績率を下回る場合には、国債、地方債等公社債の利回りの実績率)を基に算定した率
二
他人資本報酬率 すべての一般電気事業者の有利子負債額の実績額に応じて当該有利子負債額の実績額に係る利子率の実績率を加重平均して算定した率
つまり報酬率は次のように算定されます。
報酬率=0.3×(自己資本報酬率)+0.7×(他人資本報酬率)
具体的な数値は例えば次の表の通りです。
総括原価方式による電気料金の算定において、適正利潤を大きくするためにはレートベース(固定資産、建設中資産、核燃料資産、繰延資産、運転資本、特定投資)を出来るだけ大きくしてやればよいことになります。つまり、出来るだけ高価な発電施設を導入することが利潤を増やすことになるのです。
電力市場が通常の市場経済で価格競争があるのならば出来るだけ安価で効率的な発電装置を導入することが利潤の増加につながります。しかし地域独占が許された電力供給では、価格競争は存在しませんから消費者は自家発電装置を持っていない限り当該地域の単一電力会社から電力を購入することになるため、電気料金を上げることによって売り上げが減少する心配はありません。電力会社は前回紹介した原賠二法によって原子力発電所事故発生時の経済的なリスクを国家が保障する確約を取り付けたことによって、利潤を大きくすることを目的に一斉に原子力発電の導入にはしったのです。
例えば少し古い資料ですが、『新版原子力の経済学』(室田、1986年)からのデータを示しておきます。
例えば赤線を付した1984年のデータを見ると、火力発電による発電量は57.6%、原子力発電による発電量は25.5%であるのに対して、レートベースに占める割合は火力発電が31.5%であるのに対して原子力発電は57.5%です。これを単位発電量あたりの比率で示すと次のようになります。
(31.5/57.6):(57.5/25.5)=0.547:2.255=1.0:4.122
つまり、単位発電電力量あたり原子力発電は火力発電の4.122倍の利潤を生み出していたのです。逆に見ると、原子力発電は単位発電電力量あたり火力発電の4倍以上の巨大な発電装置・施設を必要とする、非効率的な発電方式なのです。
(続く)
これまで2回の連載で見てきたように、原子力発電は電力供給の高々20%程度を担っているだけに過ぎないのに、国や電力会社などの関連企業は莫大な資金を投入して、まさに半世紀以上にわたる大国家プロジェクトとして進められてきています。
これは裏を返せば、原子力発電はいまだ経済システムとしては自立することができない技術であるために、国家的な財政投入を行わなければ維持できないことを示しています。つまり、原子力発電電力は極めて高コストの電力であるということの証左なのです。
今回の震災に端を発する原子力発電所の脆弱性の露呈で明らかなように、電力会社は原子力発電は重大事故を起こさないことを前提に、事故発生に対する安全対策をほとんど行わずに発電コストを安くしてきました。それでも、原子力発電の発電電力の発電原価は20円/kWh(東電柏崎刈羽原子力発電所5号機;1990年4月運転開始)程度でした。これに対して通常火力発電の発電原価は7円/kWh程度でした。原子力発電は安いというのはマスコミによって刷り込まれた幻想なのです。
しかも、東電によって申告された原発の発電原価には使用済み核燃料の保管や再処理、更に高レベル放射性廃棄物処理など、本来ならば原子力発電のコストに含められるべき大きなコストが、電力会社の事業から政策的に切り離され、莫大な国家予算を投入する国家系の別組織(日本原子力研究開発機構[旧動燃]、日本原燃など)に付け替えられている結果なのです。これらのコストをすべて考慮すれば、原子力発電電力の発電原価は更に数倍に膨れ上がることになります。
通常の民間会社であれば、このような高コスト=非効率的で危険な原子力発電という発電システムを採用することはありえません。なぜ東電はじめ日本の電力会社は原発を採用したがるのでしょうか?そのからくりを二つの側面から示すことにします。
1.原子力を儲かる発電にする制度的なからくり
1-1 原子力賠償二法
既にこのホームページでは再三触れていますが、日本の核技術開発の本来の目標は戦後間もない時期に中曽根康弘らによって目論まれた核武装であり、その技術獲得のための原子炉運転=原子力発電だったのです。
しかし、電力会社にすれば、原子炉内に広島型原爆の数100倍の死の灰を詰め込んでいるため、事故が起こった場合の被害の大きさ、その賠償の危険性を考えると、とても導入できないと考えました。また、保険会社にしても、このような危険なシステムの保険を請け負うことは危険すぎると反対しました。
そこで政府が用意したのが原子力賠償二法です。具体的には、次の二つの法律です。
@原子力損害の賠償に関する法律
A原子力損害賠償補償契約に関する法律
@の目的にこの法律の本質が現れています。曰く『(目的)第一条
この法律は、原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め、もつて被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。』
つまり、事故発生時に原子力事業者に過大な賠償責任を負わせずに、原子力事業の健全な発達を保障することが目的なのです。免責条項として、『異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたもの』が挙げられています。
更に、賠償措置として事業者が準備を義務付けられている支払賠償金額の上限は『その措置により、一工場若しくは一事業所当たり若しくは一原子力船当たり千二百億円(政令で定める原子炉の運転等については、千二百億円以内で政令で定める金額とする。以下「賠償措置額」という。)を原子力損害の賠償に充てることができる』にすぎないのです。
この賠償措置について、その裏づけとして民間損害保険会社との保険契約と国に対する供託の二つの契約を行うことが義務付けられています。民間損保会社には自然災害などの免責事項があります。損保会社が免責される場合には、原子力事業者が国に供託したものから国家からの補償金として支払われることになります。
では、今回の福島第一原発事故のように賠償金額が1200億円を超える場合にはどうするのか?勿論、原賠法の賠償措置金額を超える支払いはこれまで行われたことがなく、実際にどうなるのか現状では不透明ですが、法では『(国の措置)第十六条
政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。』と定められています。
このような国家的な手厚い財政的な保障の確約を取り付けたことによって、原子力事業者=電力会社は原発事故による経済的な破綻=倒産のリスクを回避できることが保障されたので、国家の要請に従い、原子力発電の導入に同意したのです。
少し冷静に考えてみてください。たかが民間企業の一製造設備にすぎない原子力発電所を導入するために特別に法律を制定してまで国家的な財政保障を担保することによってやっと導入されるような発電システムが安価で安全なはずはないのです。
(続く)
さて、もう少し検討しておくことにしましょう。もう一度東電の販売実績を示しておきます。
グラフから、2009年度の電力供給実績は2,802億kWh/年=2.802×108MWh/年です。この電力量に対する平均的な発電能力を計算すると以下の通りです。
2.802×108MWh/年=2.802×108MWh/(365×24h)=31,986MW
東京電力管内の発電設備の利用率は、
31,986MW÷77,692MW=41.2%
東電管内の原子力以外の発電設備で対応する場合の利用率は、
31,986MW÷59,504MW=53.8%
になります。つまり、原子力発電所をすべて閉鎖したとしても、残りの東電管内(受電分を含む)の発電設備を平均的には半分程度利用すれば済んでしまうということです。ただし、電力需要には下の図に示すように季節変動があり、また日変動があります。
そのため、夏の日の午後に現れるピーク需要を賄うことが必要最小限の発電設備規模ということになります。東電の場合、この夏場のピーク需要を示したのが冒頭の図に示した赤い折れ線グラフの値です。前回検討したように、東電の原子力を除いた発電施設の発電能力は59,504MWであり、昨年のような異常な猛暑でもない限り、十分夏場のピーク需要を賄えると考えられます。
しかし、原子力発電を含めると、東電管内の発電設備は余りにも過剰すぎると思われます。それは、東電が原子力発電というお荷物を持っているからなのです。
原子力発電は核分裂性の放射性物質という危険性が高く扱いづらい「燃料」を使用するため、メンテナンスに非常に手間がかかります。他の発電システムに比較して極めて厳重な点検作業が必要であるばかりでなく、その作業が放射線による被爆労働となるために、通常の機械システムのメンテナンスに比較して点検整備のための運転停止期間が格段に長くなるのです。その結果、2003年のように東電管内のすべての原子力発電が点検作業のために運転を停止しなければならないような事態が起こることが考えられるのです。
その結果、原発なしでも電力需要を賄える程度のバックアップ用の発電設備を保有しておくことが必要なのです。しかしこの原子力発電を含めた電力供給システムとは冷静に考えると極めて無駄な発電システムだということがわかります。遊休発電設備が極めて多くなるため、設備利用率が低く、「もしも」の場合に備えてだけ設備を保有することは、無意味な設備維持費だけが増大するため、通常の産業ではこのようなシステムの運用は考えられません。
最も効率的な運用は、原子力発電をすべて廃止して、その他の発電システムですべての供給電力を賄うことなのです。既に検討したように、原子力を含めた場合の平均的な設備利用率は41.2%であるのに対して、原子力発電以外の発電システムだけで運用した場合の設備利用率は53.8%になるのです。
しかも、原子力発電を保有しなければ、単位発電電力量あたりの発電コストが非常に高い原子力発電所は不要です。また、まったく電気を生み出さないにもかかわらず、使用済み核燃料の保管や再処理、更に高レベル核廃棄物処理など莫大な資金とエネルギーの投入の必要な無駄な事業がまったく不要になるのです。
それならば逆に、原子力発電所を増やしてその他の発電設備を減らすことは可能なのでしょうか?
東電の描いた上図は、電力需要と供給量をごちゃ混ぜにしたまったくおかしな図なのですが(揚水用動力とは電力需要であり、それ以外は供給量です。笑)、発電システムの特性は理解できるでしょう。他のエネルギーに比較して電力の供給の難しいところは供給と需要が常に同期していなければならないことです。供給と需要に大きなギャップが生じれば予期せぬ停電などが発生し、供給電力の質が低下することになるのです。
原子力発電は需要にこまめに追随して出力を調整するような発電は行えません。そのため、原子力を大きくしていくにしたがって電力供給量の調整能力が小さくなり、供給電力の質の低下が生じます。これを回避するためには余剰電力の捨て場としての揚水発電所を建設することが必要となり、ただでさえ高コストの原子力発電の電力が更に高価になるのです。
CO2地球温暖化対策として原発の導入推進を目指した菅内閣が、同時に電気自動車の普及を目指したのは、余剰=無駄な夜間余剰電力の捨て場を求めてのことだと考えられます。低エネルギー利用効率で高コストの原子力発電電力を、これまた資源利用効率の低い電気自動車と組み合わせれば、石油をはじめとするエネルギー需要と希少資源を含めた地下資源消費は大幅に増大することになります。
(続く)
さて、このHPでは既にNo.570夏でも東電は電力供給可能で触れたように、東京電力管内の原子力発電がすべて運転を停止しても発電能力は夏のピーク時でもおそらく問題は生じないことを紹介しました。
前回は売電量からの推定値を示しましたが、今回は東電の『平成22年度 数表で見る東京電力』からの数値を紹介することにします。
上に示す数表の平成21年度の実績数値から、他社からの受電分を含めた発電設備の総発電能力は77,692MWであり、そのうち原子力発電は18,188MWであることがわかります。東電の原子力発電を除いた発電能力は、
77,692MW−18,188MW=59,504MW
No.570における推定値は57,681MWとしていましたので、おおむね妥当な数値であったと考えます。つまり、東電の火力発電設備が復旧すれば、原子力なしでも概ね60,000MWの発電が可能なのです。
東電の電力販売実績を上のグラフに示します。図の赤で示した折れ線グラフは各年度のピーク発電量を示しています。単位は万kWなので、赤の数値に10をかけることでMWに変換できます。
このグラフからわかるように、2000年以降、東電管内の年間の電力需要もピーク発電量もほとんど横ばいであり、顕著な上昇はありません。ピーク発電量につきましてはむしろ低下傾向さえ見受けられます。
昨年の夏は猛暑であり、ピーク発電量は60,000MWを超えたようですが、これはむしろ例外的に高い数値です。更に今年の夏は、地震の影響で産業活動は昨年よりも低いレベルで推移することは明らかですから、おそらく去年レベルの猛暑であったとしてもピーク発電量が60,000MWを超えることはあり得ないでしょう。
つまり、東電や政府の恐怖宣伝は在りもしない電力供給不足を前提に企業活動や国民に強制的に節電を行わせることによって、いかに原発が重要であるのかを刷り込むための謀略宣伝としか言いようがないのです。
勿論、既に日本の大都市や大都市住民は電力を使いすぎであり、これを減らすことは当然今後必要な対応です。しかしながら、原発がないから強制的に節電を要求し、虚偽の理由によって原発の必要性を宣伝することはほとんど犯罪行為と言ってよいでしょう。
上の図は、東電管内の発電設備容量の構成比率の推移をグラフ化したものです。平成21年実績で見ると、原子力は全体のわずか23%にすぎないのです。ちなみに、電力10社の合計を次の図に示します。
グラフからわかるように、全国では更に原子力の比率は小さくわずか20%にすぎないのです。
(続く)
このホームページを公開している旧サーバーが5月21日に廃止されることになりました。それに伴い、新しいサーバーへ移行作業を行い、ほぼ正常に閲覧できるようになりました。
なかなか完全にすべてをチェック出来ていない可能性がありますので、おかしな部分がございましたらご連絡いただければ幸いです。
なお、このホームページを継続してご覧いただいている方は、お手数ですがブックマークを新URLに変更してくださいますよう、お願いいたします。
今リビアのカダフィ政権に対する反政府運動が軍事衝突になっている。この第一義的にリビアの国内問題に対して米国・NATO軍は反政府勢力に対するカダフィ政権の軍事攻撃が非人道的であるという名目でこのリビアの内戦に軍事介入している。
まず第一にこのような国内問題に対して軍事衝突の一方の当事者に対して第三国が軍事援助するということが果たして容認されて良いものであろうか?米国ないし西欧諸国は対テロ戦争同様、この機に乗じて火事場泥棒的にリビアに親米、親欧州的な半ば傀儡政権を打ち立てようとしているとしか考えられない。
さて、この米軍・NATO軍の“人道的な目的”を遂行するために劣化ウラン弾をリビアの国土に撃ち込んでいることが明らかになった。彼らは湾岸戦争、コソボ紛争、対テロ戦争など世界各地の紛争地域において劣化ウラン弾をためらうことなく使ってきた。彼らは原発の廃棄物を他国の国土に打ち込んで処分しているのである。
劣化ウラン弾の使用によって弾頭に含まれている微量のウランU235をはじめとする放射性元素が着弾の衝撃と摩擦熱によって周辺に撒き散らされることになる。その結果、ボスニアやコソボやイラクにおいて白血病や奇形児の出産が報告されている。また、戦闘に参加した兵士にも帰還後に晩発性の放射線障害と見られる症状が現れている。
米国は、劣化ウラン弾の弾頭に含まれるウランU235や放射性物質は極微量であり健康に影響を及ぼすことはなく、白血病や奇形児出産が放射線による影響であることを否定している。しかし、現実にその小さな放射線量であってもその微細粉末を吸い込むことによる典型的な低線量の内部被爆によって確実に健康被害が発症しているのである。
広島や長崎に落とされた原爆は言うなればウランU235やプルトニウムPu239の核分裂による強烈な中性子線による外部被爆による急性的な障害によって人を殺す兵器であるのに対して、劣化ウラン弾は放射性物質の核崩壊による放射線による低線量の内部被曝による晩発的な死をもたらす兵器である。
米国やNATO軍の主張はまさに今福島で起こっている低線量放射線に対する国や御用学者が主張する説明の内容と酷似していることは偶然ではないだろう。彼らは人命を軽視するという点において正に考え方を共有している。
劣化ウラン弾の放射能レベルは14.8Bq/mg=14,800Bq/g程度と言われている。福島原発事故で飯館村の雑草から最高2,650,000Bq/kg=2,650Bq/gのセシウムが検出された。劣化ウラン弾は着弾して微細粉末となって拡散することを考えれば、飯館村で検出された放射能レベルは十分危険な値である。
現政権は知らぬ顔を決め込むであろうが、今後徹底的に福島第一原発周辺住民の継続的な健康調査を行い、低線量被爆の健康に及ぼす影響を詳細に記録することが放射線医療関係者の責務であろう。
東京電力から原子炉の安定化の工程表が出されました。おそらくこれは福島県の佐藤知事の意向を受けた政府が東電に描かせたものだと推測します。
しかし、地方自治体も国も一体いつまで同じ過ちを繰り返すのでしょうか。もうそろそろ原子力災害というものが通常の事故や災害とはまったく性質が異なることを理解して、地元住民に率直に理解を求めるべきでしょう。
大分合同新聞2011年4月18日朝刊
まず、簡単に今回出された工程表を見ておくことにします。
現状では、1〜3号機までの原子炉は、程度の差はあるかもしれませんが圧力容器、格納容器とも損傷していることは明らかであり、地下水に高濃度の放射性物質を含んだ汚染水が流れ出していることから原子炉建屋の底部もかなり大きく損傷していると考えられます。
このような状況で注水を行いつつその一方で莫大な量の放射性物質を含んだ汚染水を排水し、圧力容器の新規の循環冷却システムを構築するなど、画餅以外の何物でもないでしょう。この工程を実現するにはまず手始めに原子炉圧力容器、格納容器、建屋からの漏水箇所を発見し、これを補修しなければなりませんが、現状ではそれが出来るとはとても考えられません。
原子炉建屋内の放射線レベルは、1号機では10〜49mSv/h、3号機では28〜57mSv/h程度であり、緊急事態に対する引き上げられた作業員の年間被曝線量をわずか4,5時間で浴びてしまうほど強烈なものです。このような高放射線レベルの劣悪な条件の下で、原子炉建屋内に作業員を入れて圧力容器や格納容器の漏水を止め、新たな循環冷却システムを構築するという困難な作業が出来るとは常識的には考えられないでしょう。根本的にこの工程表は見直す必要があるでしょう。
もっとも、この工程表を出した東電としても、この工程表はあくまでも机上の空論であることは十分に承知した上で、政府や福島県知事をとりあえず黙らせるためにそれらしい内容をまとめたに過ぎないと認識していると思います。
住民からいつ帰れるのかと突き上げられた無能な知事が現状を冷静に判断する能力が無く、そのまま政府に伝え、仕方なく東電が住民を沈静化させるためにとりあえずの絵を描いたというのが真相だと考えます。今回のあまりに楽観的な収束工程表に対して、海江田や菅は出来ればさらに前倒しで工程を進めるようになどという大馬鹿としか言えないコメントを出す始末です。
この工程表を受けて枝野は避難住民が帰れるのは数ヵ月後以降であるなどという空手形を切る始末です。住民にとっては本当に厳しい現実ですが、原子炉が仮に安定したからといって放射性物質で汚染された地域に戻ることは出来ないと早く住民に対して納得を得るように説明を尽くすことこそ行政の勤めだと考えます。
このような、政府や東電の事故発生以来「一貫した」楽観論=『風評』によって住民は裏切られ続けており、その結果住民の中に混乱と不信感が膨れ上がり、事故に対する本格的な対応が遅れているのです。政府や自治体は事態を科学的・客観的に直視し、それを誠実に住民に語るべきことに早く気づくべきです。
おそらくこのままではこの工程表は早晩破綻することになるでしょうが、その時さらに住民の混乱が増すことになるのは必定です。
この夏の東電の電力供給エリアで電力不足の恐怖宣伝が行われている。都市住民の不安感を利用して商売をしようという家電メーカーのしたたかさには脱帽である。禿タカである。
東芝やパナソニックなどの電機メーカーは、菅民主党内閣の推し進める太陽光発電電力の全量高額買取制度の導入による太陽光発電パネルの市場拡大に対して、太陽光発電パネルの普及による電力供給の不安定化を抑制するとして考えられている家庭用蓄電池の販売を前倒しして開始すると発表した。これに先行して大和ハウス、シャープの出資するエリーパワーは2kWh蓄電装置を100万円台前半の価格で販売を開始する(写真)。
さて、今回の東電原発事故を受け、既にこのHPでも紹介した社民党の政府への申し入れ、あるいは『復興構想会議』でも原発の廃止・縮小とセットで自然エネルギー発電の導入促進を主張する愚かな人たちがいる。
No558 (2011/03/30)CO2温暖化と原子力発電でも少し触れたとおり、自然エネルギー発電は本質的に出力制御不能という致命的な欠陥を持ち、最も資源とエネルギーを浪費する発電システムであり、事故発生時の危険性を別にすれば原子力発電よりもはるかに劣る発電システムである。
このような低品質の電力供給システムを無理に利用しようとすれば、付帯設備として巨大な蓄電装置が必要となり、更に資源・エネルギー利用効率が低下することになりまったくお話にならない。
冷静に自然エネルギー発電を科学・技術的に検討すれば、直接化石燃料を燃焼させて発電するよりもはるかに大量の化石燃料とレア・アースを初めとするその他の希少鉱物資源を浪費することは明らかである。つまり、これらの発電システムを導入することによってCO2放出量は増大するのである。
勿論、人為的CO2地球温暖化仮説自体が虚構であるから、温暖化対策としてCO2放出量を削減する必要性はないが、希少・貴重な化石燃料消費を削減することには積極的な意味があるが、自然エネルギー発電ではそれを実現することは出来ない。
熱学的・電力供給技術的な側面からの分析能力のない愚かな人たちの戯言には惑わされないようにしたいものである。
この所、原子炉そのものに関する情報がとても分かり難くなっています。大きな記事として扱われるのは避難地域設定の問題や、復興計画(時期尚早だと思いますが・・・、菅直人のスタンドプレーで実効性には疑問が残ります。)の問題です。確かにこれらの問題も大事ではありますが、皆さん何か勘違いしていないでしょうか?
福島第一原発事故は未だ核燃料や原子炉の状態を制御できる状態にはなく、最悪のケースでは今後更に莫大な放射性物質が環境中に放出される可能性も否定できないのです。状況はまったく改善されていないことを認識し、原子炉本体の事故状況を注視していかなければならない状況です。
昨日はまた原子炉の状況について非常に気になるデータが公表されました(蛇足ですが、原子炉に関するデータについて東電や原子力安全・保安院の会見では“パラメータ”という言葉を使っていますがとても違和感を感じているのですが、私だけでしょうか?笑)。
まず、3号機の圧力容器の上蓋の接合部付近の温度が、フランジで144℃(12日)から165℃(14日)、シールで170℃(12日)から250℃(14日)に急上昇したが原因不明ということです。炉内の発熱反応に何らかの変化があったことを予想させます。
そして、1、2号機建屋下の地下水に含まれるヨウ素131とセシウム137、134の濃度が1週間前の数倍から数十倍に上昇しているということが明らかになりました。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110414t.pdf
上図の縦軸の放射能レベル(Bq/cm3)は対数目盛りなので、判りにくいですが、一目盛りで10倍になります。数値データが示されていないので、グラフからの大まかな読みですが、1号機のヨウ素131は、先週は60(Bq/cm3)程度であったのが今週は400(Bq/cm3)程度に上昇しています。セシウム137は、先週は1.05(Bq/cm3)程度であったのが今週は50(Bq/cm3)程度に上昇しています。
2号機のヨウ素131は、先週は30(Bq/cm3)程度であったのが今週は600(Bq/cm3)程度に上昇しています。セシウム137は、先週は1(Bq/cm3)程度であったのが今週は9(Bq/cm3)程度に上昇しています。
これまで低下傾向にあったヨウ素131やセシウム137の濃度が再び上昇に転じたことは、どういうことが考えられるでしょうか?一つには、度重なる大きな余震によって原子炉内の劣化していた燃料棒が崩落するなどして、冷却水の中により多くの放射性物質が混入した可能性があります。そしてもう一つは崩落して圧力容器の底に溜まっているウラン燃料が部分的に核分裂反応を起こし、新たに核分裂生成物としてヨウ素131などが生成されている可能性も否定できません。
いずれにしても報告されたデータは原子炉の状態がむしろ悪化している可能性を示唆するものばかりです。このような状況を考えれば、国の退避指示は、現状で観測されている土壌の放射能汚染状況や空間放射線レベルで判断するのではなく、更に重大な事態が生じる可能性を考慮して、より広い範囲に対して出されるべきでしょう。
No.561(2011/04/03)原発事故と日本気象学会で紹介した日本気象学会理事長名の3月18日付の日本気象学会員に対する事実上の研究制限の指示を行った通達文章に対して、非難が集中しました。これに驚いたのか(笑)、同じく理事長名で3月18日付の文章に対する弁明の文章が公開されました。少し長くなりますが、そのまま紹介します。
日本気象学会理事長新野宏の弁明は論理的にまったく納得できるものではありません。
御承知のように、槌田敦氏と私は気温と大気中CO2濃度の二者関係について観測データを分析した結果、気温の変動によって大気中のCO2濃度が変動することを観測事実で示し、これを二編の論文にまとめて日本気象学会誌「天気」に投稿しております。しかし、気象学会誌編集委員会は数値モデルによるコンピューター・シミュレーションを唯一の根拠としている人為的CO2地球温暖化仮説を正しいものと主張し、彼らの主張に合わないから私たちの観測事実に基づく論文は気象学会誌に掲載するに値しないとしています。
彼らは観測事実の分析以上に彼らの数値モデルのシミュレーションの方がより真実に近いと主張しているのです。その組織のトップである新野宏は、彼らのモデルに対して『・・・大気運動のカオス的振る舞いに起因する気象場予測の不確定性の問題があり、最先端の大気科学を以ってしても大変困難な課題です。』だというのです。これは一体どういうことでしょうか!?
数値計算に少しでも関わっている方ならお分かりでしょうが、モデルの対象空間領域の大きさ、追跡時間のスパンが大きいほど、シミュレーションの精度は急速に悪化するものです。百年先の全地球的な規模の気候予測が可能だと日頃言っている気象学会が、原発周辺の限られた領域における僅か数日の予測シミュレーションは難しすぎて手に負えないといっているわけです。これは論理的にありえない話です。
新野は『・・・しかしながら、放射性物質の拡散に関しては、これら以外の複雑な過程に関しても・・・』といいますが、拡散シミュレーションでは、拡散するものは放射性物質であろうが煙の粒子であろうが構わないのではないですか?これら以外の複雑な過程とは一体何なのでしょうか??
私は数値モデルによるコンピューター・シミュレーションで百年先の気候予測を行うことは無謀であり、とても信頼できるとは考えていませんが、原発周辺の限られた領域の数日間程度の時間スパンの放射性物質の拡散問題であれば実用上十分な精度で予測可能だと考えます。
いずれにしても前回の通達において、福島原発の放射性物質の拡散に対する研究の自粛を指示した事はどのように弁明しても学問・研究の自由の侵害行為であることは明らかです。勿論、国民に対する避難指示などを行うのは国の専権事項であって、その根拠は政府による統一見解に基づいてなされるのは当然ですが、統一見解を決定するためには多様な検討こそ必要であり、そこに日本気象学会員の自由な研究が保障されることが必要なのだと考えます。SPEEDIによる単一の検討だけを用いるというのはむしろ非常に危険な判断です。重大な問題であればあるほど複数の手法やプログラムによって多角的に検討することで信頼性が高まると考えるのが科学的・合理的な判断だと考えます。
いくら弁明したところで、前回の研究自粛の指示は国ないし気象庁の意向を新野が代弁して気象学会員の自由な研究活動を制限するために出したものであると考える以外に合理的な解釈は無いと考えます。
No.572『再臨界、杞憂?』で福島第一原発が再臨界に達し、核分裂反応が起こっている可能性に触れました。そのとき紹介した赤旗の記事のソースとなった情報を原子力安全・保安院のHPから見つけましたのでまず紹介しておきます。
原子力安全・保安院HP/福島第一原子力発電所1号機タービン建屋地下の溜まり水の測定結果について
確かに塩素38が検出されています。ただし、ヨウ素131とセシウム137の放射能レベルの相対的な比率からは、セシウム137の放射能レベルが高く、核分裂反応が停止してからある程度の時間が経過していてもおかしくない値だと考えます。
この測定結果が正しいとすれば、塩素Cl38が検出されていることから、少なくとも原子炉に海水を注入した後に原子炉内で部分的な核分裂反応が起こっているが、核分裂の規模は今のところそれほど大きくないと解釈できるのではないでしょうか。
京大の原子炉実験所の小出裕章氏は原子炉内で断続的に核分裂反応が起こっている可能性を指摘しています。
昨日、原子力安全委員会と原子力安全・保安院の共同記者会見で福島第一原発事故のINES(原子力事故の深刻度の国際評価尺度)レベルをこれまでの5から最高レベルの7に引き上げるとした。この発表自体は別に驚くには当たらない当然の評価である。
問題は、またしても、既に事故の初期段階でスリーマイル島原発事故のレベルを大きく上回る深刻な事故であり、少なくともINESレベルで6以上であることは誰の目にも明らかであったにもかかわらず、国際的な非難も省みず敢えてレベル5であるとしたことであり、その「政治的な意図」を追及しなければならない。
そしてこのタイミングの突然のレベル7への引き上げに、またしても「政治的な意図」を感じる。つまり、これまでの失敗続きの後手後手の事故対応を正当化した上で、『科学者の分析の結果レベル7であることが今回“はじめて”判った』のだから、それに対応する避難範囲の見直しを今行うことは合理的である、と。しかし、報道によると原子力安全委員会はかなり早い段階、3月23日にはINES7レベルだと認識していたという。
菅直人は一体いつまでこのような無様なことを繰り返す気であろうか。1号炉の深刻な状況について、詳細な情報をあらかじめ開示すべきではないか。最悪の事態が起こってからでは、取り返しのつかない結果になることをなぜ理解できないのか?
何度も書いてきたことだが、原子力も含めてやり直しのきかない重大事故に対する危機管理は通常の政策や事故のように対症療法で何かが起こってから事後に応するという手法は通用しないのである。考え得る最大の被害想定の下で体制を整えることが重要なのである。
まだ無能な政治家や報道は現実をまったく理解していないようである。福島第一原発の現在の状況は未だ安定期に入ったわけではなく、核分裂反応の暴走・水蒸気爆発の可能性を含めてあらゆる展開の可能性が否定できない段階なのである。
しかし、福島第一原発事故によって、これまで聞いたことのないような単位に遭遇することになった方も多いと思う。ついでに最近見るようになった補助単位を整理しておく。
補助単位 | n | μ | m | c | d |
読み | ナノ | マイクロ | ミリ | センチ | デシ |
意味 | ×10-9 | ×10-6 | ×10-3 | ×10-2 | ×10-1 |
例 | μSv | mSv |
D | h | k | M | G | T |
デカ | ヘクト | キロ | メガ | ギガ | テラ |
×101 | ×102 | ×103 | ×106 | ×109 | ×1012 |
TBq |
例えば、ミリシーベルトをマイクロシーベルトに換算する方法は以下の通りである。
12mSv=12×(m/μ)μSv=12×(10-3/10-6)μSv=12×103μSv
福島第一原発事故の深刻度をINES7レベルに引き上げた理由となったという、環境に放出された放射能の量を推計したのが、次の値である。
原子力安全・保安院推計
370,000TBq=370,000×1012Bq=370,000,000,000,000,000Bq
原子力安全委員会推計
630,000TBq=630,000×1012Bq=630,000,000,000,000,000Bq
ここまで大きな数字になると、まったく現実感がないが、とにかく途方もない量の放射能が放出されたことは理解できる。具体的な内訳は下表の通りである。
* 東北地方太平洋沖地震による福島第一原子力発電所の事故・トラブルに対するINES(国際原子力・放射線事象評価尺度)の適用について
今回推計されている放射能の量の主要部分は3月15日には既に環境中に放出されたものであり、既に3月の早い段階で海外の複数の機関は福島第一原発からの放射能放出量は10万テラベクレルを超えていると推計され、INES7レベルと報告されていた。
我々の国は本当に無能な集団なのか、あるいは情報を隠蔽していたのか、あるいはその両方か・・・。
それにしても報道の無能には呆れ果てる。昨日のINES7レベルへの引き上げを報じた新聞記事の記述で
『・・・これまで放出された放射性物質の量について、保安院は37万テラベクレル(テラは1兆)、・・・』
としている。ベクレルBqは『1秒間に自然崩壊して放射線を発する原子核の数』を表す単位、つまり放射能の単位であって、放射性物質の量の単位ではない。彼らの不勉強には呆れ果てる。報道で放射性物質と放射能を混乱して用いているために、肝心なところでとんでもない間違いを引き起こしてしまうのである。
おそらく報道の諸君はこの表を見て、原子炉からはヨウ素131の方がセシウム137よりも大量に放出されたと理解しているのであろう。現実はまったく逆である。セシウムの方がはるかに大量に環境に漏れ出しているのである。
また、昨日の原子力発電所事故関連の新たな情報としては、福島県の原発から40kmを越えるような場所も含めて複数の場所からストロンチウムSr90(半減期28.9年)が微量ながら検出されたという。おそらく水素爆発によって燃料冷却プールの使用済み核燃料の一部が爆風で吹き飛ばされたものであろう。
もう一月がたってしまった。あるいは、まだ1ヶ月しかたっていない。人によって感じ方はまちまちであろうと思う。この間、震災や原発事故という物理的な災害以外に多くのこと、病んでいるこの国の姿が見えてきた。
まず第一は、我々の戴く国、その実体である行政や政権党と大資本のどろどろの癒着構造であり、彼らにとって国民の人命など眼中にないことが明らかになったことである。
ひたすら原発事故を軽微なものに見せ、『混乱を起こさない』ために情報を公表せずに必要な初動の避難措置を怠った政府の責任は許されない。1ヶ月も経過しようというところで、やっと長期的な被曝の危険性を考慮して今後1ヶ月を目処に避難を計画的に行うという。
原発事故発生直後、2度にわたる水素爆発によって放射性物質が大量に周辺地域にばら撒かれた当初には、1ヶ月を経過した現状とは比較にならない高い空間放射線量であったはずであるが、何も知らずに避難もせずに不用意に被曝してしまった人は決して少なくないであろう。
また、原発事故に対応する末端の作業者(おそらく東電の孫受けあるいは曾孫受けの人材派遣会社の未熟練労働者が多いのではないかと思うが・・・。)に対する緊急事故対応の被曝線量の限度が急遽100mSv/年から250mSv/年に引き上げ、更に引き上げを検討しているという。何と非人間的な発電システムであり、人命を軽視する国なのであろうか。
おそらく、福島第一原発の4基の原子炉を一応廃炉にするだけでも10年オーダーの時間と延べ数十万人?という被曝の危険を冒して働く犠牲的な労働者を必要とすることになるであろう。こうした事実を国や東電は早く周辺住民そして国民に知らせ、同時に事故対応の国家的なシステムを早急に構築すべきである。見えないところで未熟練労働者を被曝労働の安全教育も行わないままに、高額な報酬でかき集めて現場に投入するような姑息で非人間的な事は決してやってはならないであろう。
こうした現状や、原発災害の特殊性、放射線被曝に対する正しい情報を避難住民や周辺住民に知らせていない結果、福島県の避難住民の9割近くが元いた家に戻りたいとアンケートに答えているという。最近になって実際に避難地域の住民が我が家に戻るケースが増えているとも言う。国の情報提供が不十分な結果、不用意に大量の被曝をしている人がいるのである。
既に水素爆発によって周辺に撒き散らされた放射性物質の内、初期被曝では主要な線源であったヨウ素131は1ヶ月ほど経過した現在では当初の1/10以下にまで減少し、現在観測されている環境放射線の主要な線源はセシウム137であろうと思われる。半減期は30年余りなので、現状で避難指示が出ている地域、そして今度追加される20mSv/年を越えると考えられる地域には、少なくともこの先数十年は人が住むべきではない。こうした情報を避難住民に早く知らせ、長期的な生活再建に早く動けるように援助すべきであろう。早期に家に戻れるかも知れないという実現性のない期待を持たせることは返って混乱を招くだけである。
さて、もう一つの大きな問題は、この国には『有効』な報道が存在しないことが明らかになったことである。冒頭に政府、行政、資本の癒着に言及したが、更にこれに東大を中心とする学閥、そして報道までがどろどろの癒着構造にあることが明らかとなった。
この間、顕著であったのがTVの報道番組に登場する専門家・研究者の多くが東大などの国策である原子力に協力してきた幇間学者ばかりであり、番組も彼らのプロバガンダに一方的に協力してきた。これも当然である。こうした研究者には東電ないし電事連、そして国から研究費という名目の莫大な賄賂がばら撒かれてきたのであり、まともな批判が出来るわけがない。
また、民放TVキー局はNo.430、431で紹介したNUMOの異常な宣伝でもわかるとおる、東電・電事連から莫大な広告費を受けているので、本質的にこれを批判するような番組は作れない。同様に日本の主要紙はもはやTVによってコントロールされているばかりでなく、新聞自体が読者の購読料よりも広告費に依存する体質になっているため、資本の本質的な批判は出来ない。
では、NHKはどうか?これは最早国家と一体であり、大本営発表の総本山である。特に原子力発電の問題については、このHPでかつて批判したように、原子力発電の宣伝機関である原子力文化振興財団に、NHKの現職の幹部が役員に名を連ねるという有様であった(参照:No.047「拝啓、NHKさま」)。
このような国民の生命よりも自らの利権を優先する国家と、それにすりより体制を批判的に検証する報道本来の機能を失ってしまったマスコミ・報道機関のもとで私たちが暮らしていくためには、徹底的に情報を吟味することが不可欠である。悲しいことである。
今回の地震・原発事故でもう一つ気になっていることがある。
今回の原発事故は世界的に見ても重大な事故であり、世界の原発保有国の英知を集めて対処すべきであるとの見解がある。そして米国軍隊やフランスの原子力専門家チームの来日を好意的に捉える論調が主流である。果たしてそんな奇麗事であろうか?
私はむしろ、広島・長崎の原爆投下後に進駐してきた米軍、あるいは核実験場に突入していったアトミック・ソルジャーに対するデータ収集と同じにおいを感じる。彼らの持ち込んできたロボットも見方によっては核戦争を想定した軍事技術のフィールドテストの意味合いがないか・・・?
現在の福島第一原発の事故状況は、確かに空前の事態であり、それ故、過去の経験から米国やフランスの技術者の方が正しい判断をするという保証はない。日本にも優秀な科学・技術者は存在するのであり、海外からの無軌道な技術的な助言を導入する以前に国内の英知を結集すべきであろう。
私は絶対的な平和主義者であるが、国防族にとって、今回の事故によって日本の危機管理体制や原子力発電所の脆弱性が全世界に知れ渡ったことは、重大な国家的な危機であろう。冷静に考えれば、このように危険で脆弱なシステムを僻地の海岸線に50基以上も並べておいてこの国を外国の攻撃から守ることなど不可能であることが身にしみて判ったはずである。
彼らの今後とりうる選択肢は二つである。一つはこのHPでかねてから主張しているように、自衛隊を武装解除し、実質的な平和国家を目指すことである。そしてもう一つはこの国を超管理・軍事国家にして、原子力発電所を軍事施設として四六時中警備することである。
更に、愚かなマスコミはこんなときこそ国が一体となって国難にあたろうという大キャンペーンを行っている。政党の枠を超えて云々・・・、翼賛国会の出現をマスコミが期待しているのである。これから国家の方針に異議を唱える私のような人間は非国民のレッテルを貼られることになるのかもしれない。
蝦夷縞ふく朗さんの主催する掲示板で、赤旗の3月27日の記事によると東電の分析結果として塩素38が検出された、ということが書き込まれていました。同時に中性子線も検出されたという『うわさ』もあるようです。
もしこれが事実だとすると、塩素38は自然界には存在せず、塩素37が中性子を吸収して出来る放射性同位体であり、半減期は37分ということですから、原子炉内が再臨界に達して核分裂反応が起こっていることを示唆しています。
その後、ヨウ素134(半減期52分程度)が検出されたが、これは誤りであっただとか、放射性物質の検出装置のソフトウェアにバグがあっただとか、かなり放射性物質測定の信頼性が揺らぎ、塩素38の件も間違いだったのかな・・・、などと良い方に解釈しているのですが・・・。
やはり気になるのです。既に原子炉停止後丸1ヶ月になるというのに・・・。確かに水素爆発でばら撒かれた放射性物質による陸上の観測点における空中の放射線量は減衰しています。放射性ヨウ素131による放射線量は32日経過したとすると残留量は1/16にまで減衰していることになるので、今残っている放射性物質の主体はセシウム137になっていると考えられます。蛇足ですが、今後は空中放射線量はほとんど減衰しなくなるでしょう。
それに比べて、圧力容器から漏洩していると思われる高濃度の放射能に汚染された海に放出されている排水中に含まれるヨウ素131の検出量がまったく減っていないように感じるのです。勿論その他の核分裂生成物との相対的な比率が問題なのですが・・・。詳細な情報がありませんのであくまでも感覚的なのですが。
もしかすると既に再臨界を迎え、核分裂反応が静かに進行し始めているのではないかという悪夢がぬぐえません。一昨日の大きな余震の影響も心配を大きくしています。もし仮に再臨界を迎えているとすれば早晩圧力容器の底が破られ、格納容器の大量の海水と触れて水蒸気爆発、格納容器が吹き飛び放射性物質を大気中に放出する・・・。悪夢です。
とにかく原子炉に関する情報が少なすぎます。ここ数日、極端に原子炉の状態についての情報が、前にも増して減ってきたような気がする。
昨晩、また東北地方で大きな地震(余震?)があった。一部回復しつつあった社会機能がまた直撃を受けた。東北地方の原子力関連施設が軒並み機能障害を起こした。
青森県六ヶ所村の使用済み燃料再処理工場では外部電源が切断され、非常用の自家発電装置が起動した。定期点検中の青森県の東通原発でも外部電源が喪失し、非常用の自家発電装置で使用済み核燃料プールの冷却を続けた。宮城県女川原発では4系統の外部電源の内3系統が失われ、残りの1系統で原子炉・使用済み燃料核燃料プールの冷却を続けた。報道によると、東通と女川の使用済み核燃料プールで一時的に冷却機能が喪失したと言う。
今回は幸い非常用電源が上手く作動して、事なきを得たようであるが、紙一重で福島第一原発同様の冷却材の喪失事故につながりかねない状況だった。まさに薄氷を踏む思いである。
福島第一原発では状況に大きな変化はないとしているが、幸運である。使用済み核燃料プールの燃料棒、原子炉に装荷中の燃料棒のいずれもジルカロイの被覆管の損傷はかなりすすんでいるようなので、ここに強い振動が加われば燃料ペレットが崩落してもおかしくない状況であろう。再臨界の悪夢がぬぐいきれない。
果たして核燃料を安定的に冷却し、再臨界を防ぐ処置を施すことが出来るのであろうか?直接状況を見ることの出来ない手探り状態の作業である。まだまだ事故処理はほとんど手付かずの状態である。気の抜けない日々が続く。
一つ問題が解消しましたので最初にお知らせしておきます(笑)。No.566「節電に対する素朴な疑問」で、夜にどうして節電しているのか不思議だと書きました。これは私の認識が間違っていました。
最近の東電の電力供給実績の日変化のグラフを見つけました。これを見ると確かに17:00頃から電力供給量は上昇傾向を示しているのがわかります。納得です。しかし、この時間帯の電力需要を減らすことは本気になればかなり簡単なことのように思いますが・・・。まだとても本気とは思えないですね。
http://aruconsultant.cocolog-nifty.com/blog/
さて、この夏は原子力発電が止まっているので計画停電をしないと大停電が起きるのではないかと早くも恐怖宣伝が横行しています。この点を少し検討しておきましょう。
2011年1月現在の東京電力の自社所有の「発電所認可出力」の数値は次の通りです。
水力 | 火力 | 原子力 | 風力 | 太陽光 | 地熱 | 合計 |
8,981 | 38,696 | 17,308 | 1 | 0 | 3 | 64,988 |
出典:資源エネルギー庁電力調査統計1-(1)発電所認可出力表
つまり、現在は火力発電所もかなりのダメージを受けて供給は厳しいのかもしれませんが、火力発電所が復旧すれば、現状程度の電力供給には何の支障もないということです。
それでも、夏になると原子力発電所無しでは需要を賄えないのではないか、という心配をする方もいるかもしれません。上の表に示したのはあくまでも東京電力自身の保有する発電設備ですが、東京電力はその他に売電業者から電力を購入して自社発電分と併せて電力需要を賄っているのです。
2011年1月の実績(資源エネルギー庁電力調査統計2-(5)発受電実績)では、自社発電分と購入電力の比率は、
24,098,140 MWh : 5,070,040 MWh = 4.753 : 1.0
購入電力から、売電業者の発電設備の最小値を求めると、次の通りです。
5,070,040 MWh/(31×24)h=6,815MW
売電業者の設備利用率を70%程度と仮定すれば、概ね10,000MW程度の発電設備を持っていることになります。全ての原子力発電所が停止した場合の東京電力管内(他社の設備を含む)の発電設備の合計出力は次の通りです。
8,981+38,696+3+1+10,000=57,681MW
おそらく、この夏に東京電力の全ての原子力発電所を停止しても、それほど無理をしなくても十分電力供給は可能だと考えられます。
今回の福島第一原発事故によって、既に九州から北海道まで程度の差はあるにしろ放射性物質による汚染が広がりました。その意味で、否応なく人工放射線と付き合って行かなければならないわけです。放射線被曝による何らかの障害の発症に対して閾値は存在しないことは既に述べたとおりです。人工放射性物質から一切の放射線を受けずに生活することは現実的には不可能です。しかし、だからと言って不用意に放射線を浴び続けて障害を受けたり寿命を縮めたくもありません。
前にも書きましたが、最終的にどの程度までのリスクを受忍するかは、自分自身の責任で決めるべきであり、他者から強制されるべきではないと考えます。そこで今回は、私自身の判断による許容被曝線量について考えてみることにします。
まず、それを判断するためには、被曝線量によってどのような障害発症の危険性があるのかを示しておきます。
この表は、3月26日の槌田氏の学習会の資料として配布されたものです。
放射線を取り扱う労働者に対する緊急の限度量は表の赤線で示す急性の弱い放射線障害が現れるという100mSvという積算線量を1年間で被曝するという限度でしたが、福島第一原発事故処理においては急遽250mSvに引き上げられました。表から判るように、この線量は急性の弱い放射線障害を容認するものです。報道によるとこの値を更に引き上げることを検討しているといいます。何とひどい話でしょうか。
現在、TVや新聞報道で伝えられる放射線レベルの単位はμSv/hという単位です。つまり一時間当たりの放射線量として表されています。年間積算線量と放射線レベルの換算法を以下に示します。
1mSv/年=1000μSv/(365×24)h=1000/8760μSv/h=0.114μSv/h
∴1μSv/h=8.76mSv/年
さて、私の余命が30年とし、生涯積算放射線量を100mSv以下にしたいとします。この場合、
100mSv/30年=3.33mSv/年=0.38μSv/h
つまり、私の余命を30年として急性の放射線障害を発症しないという条件を満足させようとすると、許される時間当たりの被曝放射線量は0.38μSv/hということになります。
仮に、弱い急性の放射線障害の発症までは許容する、つまり生涯積算放射線量を1Sv=1000mSv以下にしたいとします。この場合は次のようになります。
1000mSv/30年=33.3mSv/年=3.8μSv/h
http://radiation.goo.ne.jp/
上の図は、今朝8:40の福島県伊達、原発から北西55kmの観測点における値です。ここに私が30年間住み続ければ、弱い急性の放射線障害を発症する可能性がかなり高いということです。伊達の放射線レベルを年間積算線量に換算すると次の通りです。
3μSv/h=26.3mSv/年
私見ですが、定常的に6μSv/hを超えるような場所は年間積算線量に換算すると通常の放射線を扱う労働者の限度である50mSv/年を超える事になりますから、逃げ出した方がよいように思います。
今回示した許容被曝線量は、あくまでも私の余命を30年としてその中での積算線量によって判断を示したものです。もしあなたに子供がいれば、その安全を守るためには余命を60年あるいは70年として検討しなければなりません。最も影響を強く受ける子供を基準に行動を考えてください。
尚、今回紹介したのはあくまでも環境の放射線に対する外部被曝による確定的な影響(=誰にでも必ず現れる影響)と言われる急性の放射線障害についての安全性からの判断であり、内部被曝や晩発的な障害の発症はまた別の問題です。確率的な影響を考慮すれば、出来るだけ放射線を受けないことが重要です。
追記:低線量外部被曝による確率的なガン死亡リスク
福井県立大学の岡敏弘氏の『放射線リスクへの対処を間違えないために』によりますと、国際放射線防護委員会(ICRP)は、一人当たり100mSv以下という低線量被曝において、被曝線量が1Sv増加することによって1万人の集団に565件(≒570件)の確率でガン死が発生すると推定しており、リスク係数を次のように定めている。
570/10000(1/Sv)=0.057(1/Sv)=0.000057(1/mSv)
例えば、10mSvの被曝をした場合の晩発性のガン死亡者の発生確率は次のように推定されます。
0.000057(1/mSv)×10mSv=0.00057
人口10万人の都市の住民が10mSvの低線量被曝を受けた場合、この都市におけるガン死亡者の増加は次のように推定できます。
100,000人×0.00057=57人
ただし、このガンによる死亡者に一体誰が該当するのかはまったくわかりません。自分であるかもしれないし、そうではないかもしれません。この値をどう評価するのかはあなた自身の問題です。
現在、政府は福島第一原発の避難地域の見直しを検討しており、20mSv/年を目安とするとしています。この場合のリスクは、次のように推定されます。
0.000057(1/mSv)×20mSv/年=0.00114(1/年)
20mSv/年という放射線レベルの地域の1年間当たりの死亡確率が0.00114だと言うことです。例えば、人口10万人の都市であればガン死亡者の増加は次の通りです。
0.00114(1/年)×100,000人=114人/年
つまり、2年間では228人、3年間では342人、・・・、が低線量被曝を原因とするガンで死亡すると言うことです。
(2011/04/08追記)
註)ここでは、積算線量の算定において放射性核種の半減期を考慮していない。一つには、既に半減期の短い核種の影響は小さく、今後の環境放射線レベルの減衰は小さいこと、減衰を考慮しない方がより安全側の結果を得ることを考慮したからである。
さて、福島第一原発事故を巡る連載の中で少し触れてきましたので、人為的CO2地球温暖化仮説というものが、先進工業国グループの原子力発電システムなどの「エコ商品」を世界市場で売り込むために政治的にでっち上げられてきたものであることがある程度ご理解いただいていると思います。
福島第一原発事故において図らずも、政府や東電の情報隠蔽工作に加担している気象庁、気象庁と一体となった日本気象学会(学会組織でありながら気象庁内に事務所がある!)、そして東京大学などが国民の安全よりも原子力発電を守るために行動していることが明らかになってきました。
槌田敦氏と私は、人為的CO2地球温暖化仮説に基づく今日の原子力発電推進体勢を一貫して批判してきました。槌田氏と私は信頼性の高い観測結果を分析することによって人為的CO2地球温暖化説が誤りであることを示し、これを2つの論文にまとめて日本気象学会誌「天気」に投稿しました。
日本気象学会は、学会組織として人為的CO2地球温暖化仮説を支持するという立場をとっています。これは、気象学に関する学問・研究の自由を守り、発展するという本来の目的から逸脱した異常な体質です。図らずも今回の福島第一原発事故後の日本気象学会理事長新野宏が会員に対して配布した文章にもその体質がよく表れています。
気象学会に投稿した槌田−近藤論文に対して気象学会誌編集委員会は何ら自然科学的に合理的な理由を示せないまま、気象学会が支持する人為的CO2地球温暖化仮説を否定するものであるという唯一の理由だけで論文掲載を拒否しています。
第一論文に対する裁判は既に最高裁で敗訴が確定していますが、4月13日から第二論文に関する裁判が東京地方裁判所で開始されます。福島第一原発事故で明らかになったように、この裁判の帰趨は単に日本気象学会だけでなく、政府や電力事業者に関わる内容であるため、敗訴した第一裁判同様、国家的な圧力が作用する非常に厳しい裁判となりますが、読者諸賢には傍聴等を通じてご支援賜りたいと思います。
気象学会論文掲載拒否事件第二裁判
第一回口頭弁論 2011年4月13日10:30〜 東京地方裁判所708号法廷
更に、前東大総長である小宮山宏(現三菱総研理事長)は、「原子力ルネサンス」を掲げ、原子力発電の導入を強力に推し進めようとしていますが、彼らにとっても人為的CO2地球温暖化仮説に否定的な意見があることは目障りであったため、東大在任中に住明正に指示して東大IR3S叢書『地球温暖化懐疑論批判』という冊子を国費で作り、否定的な論者を誹謗・中傷によって社会的に一掃することを画策しました。槌田氏と私もこの冊子の中で謂れのない非科学的な中傷によって名誉を著しく毀損されました。
この件に関しましては別件裁判として既に東京地裁で係争中ですが、裁判の途中で突然裁判官が差し替えられ、原告側の証人として招致しようとしていた小宮山らの招致を認めないという判断が出されました。そこで、更に小宮山宏、明日香壽川らを被告とする名誉毀損訴訟として提訴することになりました。こちらの裁判に関しましてもご支援をお願いいたします。
尚、裁判経過につきましては随時、槌田氏の裁判報告として報告いたしますので、これもご参照ください。
CO2温暖化を問う2つの裁判報告(19) (槌田敦 2011/03/24)New!
CO2温暖化を問う2つの裁判報告(20) (槌田敦 2011/04/05)New!
上申書 (槌田敦 2011/03/23)New!
福島第一原発事故後の槌田さんの2度目の学習会の資料を公開します。併せて、原子力安全・保安院に対する進言についてのFAXも公開します。
スリーマイル島酷似事故からチェルノブイリ酷似事故へ
福島原発災害は多重人災の結果
2011年3月26日 核開発に反対する会 槌田敦
原子力安全・保安院長 寺坂信昭 へのFAX
原子力安全・保安院長寺坂信昭氏への3月30日付のFAXに重要な指摘があります。現在、タービン建屋周辺に溜まっている高レベル放射能を含む汚水を、タービン建屋の復水器に収容するという作業を行おうとしています。これは固形の不純物を大量に含む汚水を復水器の循環システムに投入することになり、復水器本来の機能を回復不能にするものであって、行うべきではないという指摘です。
東電の電力供給エリアでは供給電力不足を回避するために計画停電を行っているようですが、住人ではない私にはその実態はわかりません。ただとても不思議に思っていることがあります。TVのニュース番組を見ていると節電のためといって夜間の電飾看板や店内照明を落としている飲食店の光景がよく見られるような「気がする」のですが、これは私の勘違いでしょうか?
上の図は東電のHPから拝借したものですが、常識的にはここに示すように電力需要のピークは午後の早い時間に現れ、その後は夜に向かって次第に減っていくものです。工場によってはこの需要のピークを避けて夜間にシフトして操業しているという事も聞きます。つまり、夜間供給電力は現状でも十分余裕があるということでしょう?なのになぜ、夜間の電飾や照明が落とされるのか、私の素朴な疑問です。
相変わらず、政府の情報管制が続いています。気象庁が放射性物質の拡散状況を分析していたにもかかわらず、一切公表してこなかった問題について、昨日の会見で枝野は「国民の中に混乱を招かないため」だったと述べました。類推するに、こうした政府の方針を受けて日本気象学会も会員研究者に対してこの問題に対して研究・発表を行わないように理事長新野宏が文書で指示したものだと考えられます(財団法人日本気象学会は気象庁内にあります。)。
今回の原発事故関係の官邸、経済産業省(原子力安全・保安院)、東電などによる基本的な事故に関する情報の隠蔽、あるいは放射線障害に対する正確な情報が公開されていないことによって、被災者や国民の間に事故の捉えかたに大きな開きがあることが混乱を招いているのです。
政府はたびたび「基準値は超えていてもすぐには影響の出るレベルではないから安心」と繰り返し宣伝し、マスコミも「政府による正しい情報に従ってください」とこれを追従しています。
放射線被曝による晩発的な疾病の発症において、閾値は存在しないというのが現在の世界的な認識です。自然科学的には基準値あるいはもっと言えば許容値というもの自体が存在しないのです。
この体制によって定められた基準値あるいは許容値というものは放射線障害に対する受忍限度を示したものであり、体制がここまでの障害は我慢せよと勝手に押し付けているだけのことです。冗談ではありません。自らの健康に対する判断を国家が管理するなどとんでもない話です。低放射線被曝による晩発的な障害の発症には閾値はなく、障害発症の確率は積算被曝線量に伴って増大するのです。
放射線被曝の影響、特に晩発的な影響の評価が難しいのは、実際に放射線に晒されている間に身体症状が現れないことであり(もし急性症状が顕著であれば、それは死に直結します。)、しかも数年後、数十年後に現れる影響は確率的だということです。仮に、同じ被曝線量を受けた人を診察したとしても、将来あなたは発症し、あなたは発症しないという個別の確定診断は不可能なのです。
あくまでもある被曝線量を受けた例えば1万人の集団があったとしたら、誰かはまったくわからないが、その集団において二人には障害が発症する、ということしか言えないのです。その結果、低線量被曝とその障害の因果関係を定量的、直接的に証明することは困難なのです。しかし、因果関係を証明できないことは安全であり、影響が無いこととはまったく意味が異なるのです。
現在政府は、食べたとしても(急性の)身体症状が出る心配はないから安心という一方で農産物などの出荷制限をかけるという措置をとっています。これはまったく理解不能であろうと考えます。生産者とすれば、なぜ身体症状が出ない安全なものが出荷できないのか、という当然の反発をするでしょう。
反対に、消費者は晩発的な障害を懸念して基準値以下の放射能レベルであっても、例えば福島県産の農産品は放射能に汚染されている可能性が高いので購入しないようにします。これまた自己防衛のための当然の危険回避行動であって、「風評被害」などと呼ぶものではありません。
放射能レベルが基準値以上であるか、以下であるかということに本来科学的な合理性は無いのですから、こうした混乱を避けるためにはまず行うべきことは、全ての汚染状況を公開することです。そして、放射線について、晩発的な影響も含めて全ての正確な情報を国民に提示することです。その上で国民が自らの判断でこれに対処するしか方法はないのです。
人が自分の納得した行動をすることは本質的な権利であり、公の名の下に情報を隠蔽して体制の定めた基準に従わせることで秩序を保つというのは戦時国家、あるいはファシズム体制です。
今回の福島第一原発事故で、図らずも行政や民主党政権の行動様式は「よらしむべし、知らしむべからず」という愚民政策を基本としており、戦前戦中の国家体制と変わるところがないということが明らかになりました。このような国の政府がお隣の国に向かってとやかく言うのは誠におこがましい話です。まず自ら律せよ!
まだ福島第一原発事故は始まったばかりですが、福島後を見据えた日本のエネルギー戦略が早くも議論され始めています。
さすがに民主党政権、あるいはこれまで原発を推進してきた自民党も、福島第一原発事故を受けて、今後も『積極的』に原発推進ということは言えなくなってきています。当面、原子力発電所増設の新規事業計画は凍結される公算が強いのではないかと考えます。ただ、それはあくまでも『当面』世論をかわすためである可能性が強く、本質的なエネルギー政策の転換と、既存原子力発電所の段階的廃止を訴え続けていかなくてはならないと考えます。
さて、ポスト福島第一原発事故のエネルギー政策をにらんで、社民党の福島みずほ氏が菅直人に申し入れを行いました。私は、原発政策においては社民党を無条件に支持しています。
2011年3月30日
内閣総理大臣 菅 直人 様
社会民主党党首 福島みずほ
脱原子力と自然エネルギーへの政策転換を求める申し入れ
―福島第一原子力発電所事故をうけた社民党の緊急提案―
福島第一原子力発電所の事故被害は日々拡大を続け、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故と並ぶ史上最悪の事故となる可能性も指摘されています。周辺住民をはじめ多くの国民の生命が危険にさらされ、世界各国の人々にも不安を与えています。東京電力や原子力安全・保安院、原子力安全委員会、政府対策本部の、後手に回る対応や事故情報の開示不足が、人々の落胆と不信感を招いています。
事故の鎮圧に向け24時間体制で取り組む現場の努力に敬意を払いつつ、社民党も事故の一日も早い収束に向け、政府に対し可能な限りの協力をお約束いたします。
その上で、こうした事態をうけ、社民党は、今こそ原子力安全規制を抜本的に強化し、原子力依存からの脱却と自然エネルギー推進へと政策転換を行う時であると確信します。社民党はこれまで、一貫して脱原発政策と、原子力発電所等の安全性確保を主張してきた立場から、以下、提案いたします。
記
1. 福島第一原子力発電所事故の一刻も早い収束に全力を尽くすこと。
@ 人々の不安・不信を払拭すべく、事故情報の徹底開示を行い、我が国と世界の総力を動員して事故の早期収束に全力を尽くすこと。
A
食品、水道水等の規制値や緊急作業員及び一般公衆の被曝限度をこれ以上は緩和せず、被曝のリスクの説明を改善するとともに、被害の最小化に全力を尽くすこと。
B 予防的な視点に立ち、国民および周辺諸国民の生命・財産に対する被害を最小限に抑えることを、最優先の政策目的に据えること。
2. 安全・安心確保のために原子力施設の停止に踏み切ること。
@ 福島第一原子力発電所の廃炉を速やかに決定すること。
A 中部電力・浜岡原子力発電所をはじめ地震や津波被害の危険性が極めて高い原子力施設を、廃炉を視野に即時停止すること。
B 老朽化が指摘される原子力施設は、延命させずに当初の設計寿命もって廃炉にすること。
C
今回の事故の経験をふまえ原子力安全指針・基準を抜本的に強化したうえ、独立性の高い安全規制機関による徹底した安全点検と安全対策を講じること。同時に、国民参加の論議の枠組みを作り、国民の合意が形成されるまで、すべての原子力施設を停止すること。
D
核燃料サイクル技術が確立しない中で、事故の相次ぐ高速増殖炉もんじゅや、六ヶ所村核燃料再処理施設を停止すること。プルサーマル計画も即時撤回すること。
E 中国電力・上関原子力発電所をはじめ新規の建設・増設計画をすべて凍結すること。
F 原子力施設・技術の海外展開計画をすべて凍結すること。
3. 福島第一原子力発電所事故の真相究明体制を早急に確保すること。
@ 事故の事後処理については、経産省・資源エネルギー庁任せにせず、政治主導で行うこと。
A
事後の福島第一原発事故の徹底検証のために、情報保全を確実にするとともに、経済産業省原子力安全・保安院、原子力安全委員会、東京電力から独立した検証委員会を、事故収束後速やかに設置すること。
4. 原子力安全規制行政の大胆な改革に着手すること。
@
原子力安全・保安院を経済産業省から切り離し、原子力安全委員会と統合して独立性の高い安全規制機関に改組(日本版NRCの設立)すること。
A 現在の委員とその選任過程を徹底的に見直すこと。
5. エネルギー政策の抜本的転換に向けて措置をとること。
@ 原子力に頼らないエネルギー政策への抜本転換の検討を開始し、とりわけ自然エネルギーの大胆な促進をはかること。
A エネルギー政策について、経産省・資源エネルギー庁任せにせず、政治主導で政策転換を図ること。
B
東西周波数変換装置の容量拡大、既存電力会社の地域独占の廃止、発送配電分離、総括原価方式の見直し、自然エネルギー電力の系統優先接続等、電力供給体制の完全自由化を図ること。
C 自然エネルギー政策を経産省主導から政治主導に転換し、環境税、排出量取引制度、自然エネルギー電力の固定価格買取制度を早急に導入すること。
D
風力発電や太陽光発電、太陽熱・地熱利用、バイオマス利用の推進や燃料電池などの新技術開発等を促進するとともに、そのための大胆な投資と適切な政策目標の設定をはかること。
以上
しかし、残念ながら社民党は科学的な分析能力のある政策立案者がいないために、人為的CO2地球温暖化脅威説を疑わず、原子力の代わりに自然エネルギー発電の導入を党の方針としたままです。
実は、だめもと(笑)で福島氏には何度か自然エネルギー導入促進を止めるようにメールで進言したことがあるのですが、まったく無視され続けています。今回の菅直人への申し入れでも相変わらず自然エネルギー発電の導入促進を挙げています。
もう一度改めてお願いします。人為的CO2地球温暖化仮説と自然エネルギー発電に対して、科学技術的に徹底的に再検討することを強く望みます。さもなければ、社民党も科学的な裏づけのない原子力発電を無謀にも推進してきた自民党や菅民主党と同レベルの過ちを繰り返すことになります。
さて、TVや新聞報道でもこのところさすがに内部被曝の問題が紹介されるようになりました。しかし、ここでまたしてもとんでもない説明が横行しています。
最近の報道でよく聞くようになったのが放射性物質の半減期あるいは生物学的半減期です。これについては既にNo.547『外部被曝と内部被曝』で説明したとおりです。今回の説明で必要な部分を再掲しておくことにします。
半減期
放射性物質の半減期とは、放射性物質が原子核崩壊を起こし、その量が半分になるまでの時間のことである。放射性ヨウ素T131の場合についてその減少の様子を次の図に示す。放射性ヨウ素T131の半減期は約8日であるから、8日後には1/2になり、16日後には(1/2)2になり、24日後には(1/2)3・・・・と減少していくことになる。
生物学的半減期
生物体を構成する物質はある期間で代謝する。生物体を構成する物質の半分が入れ替わる期間を生物学的半減期と言う。体組織の部位や物質の種類によって生物学的半減期は一定ではない。
実効半減期
放射性物質の半減期と生物学的半減期の双方の効果から、体内に一度に取り入れられた(追加の定常的な摂取が無いとした場合)放射性物質の残留量が半分になる期間を実効半減期と呼ぶ。
1/(実効半減期)=1/(半減期)+1/(生物学的半減期)
主な放射性核種 | 半減期 | 生物学的 半減期 |
実効 半減期 |
蓄積部位 | 主な放射線 |
ストロンチウム Sr90 | 29年 | 骨 | β線 | ||
ヨウ素 I131 | 8日 | 180日 | 7.7日 | 甲状腺 | β線 |
セシウム Cs137 | 30年 | 70日 | 70日 | 全身(筋肉・生殖器) | β線 |
プルトニウム Pu239 | 24100年 | 肺など | α線 |
No.550『ヨウ素131は無害か』で触れたとおり、この半減期という数値は、ある瞬間に一定量の放射性物質を生体が取り入れ、それ以後は一切放射性物質を取り込まなかった場合に、体内に存在する放射性物質がどれだけ減るかを示しています。
しかし、現在問題となっているのは生活環境に放射性物質が拡散して、汚染された生活環境で暮らす人が環境から定常的、連続的に放射性物質を取り込む場合において、生体内にどれほどの放射性物質が存在するのかという問題なのです。
これは、ちょうどこのホームページで長らく取り扱ってきている大気中のCO2濃度の決定方法と同じ構造を持つ問題です。
上の図を生体が取り込む放射性物質量の時間変化を示すグラフだと読み替えてください。ある短い時間dtの間に環境から体内に取り入れられる放射性物質の量はq(t)×dt(上の図の斜線の面積)になります。もし、それ以後放射性物質を取り込まないとすれば、下の図のように体内に残留する放射性物質の量は減衰していきます。
ところが、既に放射性物質が生活環境に拡散している場合には、生体は環境から継続的に放射性物質を取り込み続けることになります。ここでは問題を単純化するために、生体が環境から単位時間当たり(ここでは仮に1日当たりとしましょう。)取り入れる放射性物質の量q(t)=q(一定)とし、減衰の特性を表す数値kも変化しないものとすると、生体内に存在する放射性物質量はある定常値Qに収束します。その値は次の通りです。
Q=−q/k
kは、放射性物質の減衰の特性を表す数値です。
q・dt・ek(t1-t)=0.5q・dt ∴ek(t1-t)=0.5
上式を満足する時間(t1−t)が半減期になります。放射性ヨウ素131について考えることにしましょう。
ヨウ素131の実効半減期は7.7日でした。これからkの値を求めてみます。
e7.7k=0.5 ∴7.7k=ln(0.5) , k=−0.09
(ln は自然対数, lnA=logeA)
になります。したがって生体内に蓄積し続ける放射性ヨウ素131の量は、
Q=−q/k=−q/(−0.09)=11.1q
つまり、生体内には生体が一日に取り込むヨウ素131の量qの11日分が定常的に存在し続けることになるのです。
生活環境が既に放射性物質に汚染されている場合、生体はどのように注意しても必ず少量の放射性物質を取り込み続けることになります。
例に挙げたヨウ素131の場合には、環境中のヨウ素131の量が半減期8日で減衰していきますから、qの値が急速に小さくなっていくことになります。ところが、セシウム137の半減期は30年になりますから、環境から取り込まれる放射性物質の量qは短期的にはほとんど変化しないと考えて差し支えありません。セシウム137について計算すると
e70k=0.5 ∴70k=ln(0.5) , k=−0.0099 , Q=101q
つまり、環境から1日に取り込むセシウム137の量の101日分が体内に存在し続けることになるのです。
これを考えると、現在行われている環境の放射線レベルを計測して『安全だ』などというのではなく、生活環境の土壌がどの程度放射能によって汚染されているのかを調査する必要があるのです。