2.エネルギー技術特集 槌田先生の大放談 

食品と暮らしと安全 No.170 2003年6月1日

特集 槌田敦先生の大放談

名城大学 槌田 敦

 この夏、大停電が起こると東電は宣伝しています。
北朝鮮の核保有宣言で、日本の核武装問題が浮上、
有事法も成立というこの時期に、
錯綜する原発問題をどう考えるか、
槌田先生が語ります。

原発事故より停電を

トラブル隠しから始まった原発の運転停止で、
首都圏に「脱原発状況」が実現。
このままでは「大停電」と宣伝されていますが、
原発事故より、停電の方がずっとましなのです。

■ 東電が脱原発を達成

― 4月15日、東京電力の17基の原発のうち、最後まで稼動していた福島第1原発6号機(110万kW)がついに停止。首都圏に「脱原発状況」が実現しました。
 この状態は、柏崎刈羽6号機(135.6万kW)が再稼働した5月7日まで続きましたが、何事もなく、平常どおり生活できました。
 原発が全部止まってもこの程度なら、原発はやめた方がいいと思うのですが、新聞は「電力不足」から「電力危機」まで書き立て、東電も夏までに10基は動かさないと大停電になると言っています。本当に「東京大停電」は起こるのでしようか?
槌田 本当にそうなるのかどうかは、その時になってみなければわかりません。
 この冬も、東電の原発17基のうち13基が停止して、冬場の電力供給不足がいわれましたが、大丈夫でした。
 東電が電力の一部を融通している東北電力管内でも、火力発電の稼働率を上げ、長期停止していた火力発電を再開して、東北の冬場の電力需要のピークを上回る供給量を確保しました。
 さらに3月危機がいわれましたが、それも無事に過ぎました。

「大停電」の脅しにおびえるな

― でも、夏のピークは乗り切れないのではないですか?
槌田 夏に電力消費のピークがあるのは事実ですが、どうも大騒ぎさせて原発擁護に引きずり込もうとしているようです。
 止めていた火力発電の再開、新設火力発電の運転開始繰り上げ、西日本の電力会社からの電力融通、夏季割り増し料金、大口需要家と結んでいる需給調整契約、大型夏休みなどで乗り切れるはずです。
 それでもだめなら、だめでもいいじゃないですか。死ぬわけじゃなし、クーラーが入らないだけ、コンピュータが使えないだけでしょう。病院などのように停電して困るところは、自家発電できるようになっているので心配ありません。
 とにかく、その時にどうするか考えればよいことです。節電も、今からやっても夏場に役立ちません。電力は貯めておけないので、その時その時の消費量に合わせて発電しなければなりません。いざとなったらその時に節電すればよいのです。
 大停電の脅しにおびえ、原発擁護のお先棒をかつぐようなことはやめましょう。

■ 神話が崩れてトラブル隠し

― トラブルは東京電力に集中しているようですが、なぜですか?
槌田 今回のトラブルは沸騰水型原発で起こりやすい種類のものであり、東電の原発がすべて沸騰水型であるためです。
 「同じ型の原発ばかり持っていると同じようなトラブルが同時に起こり、一挙に使えなくなる場合がある」ということは、指摘されていました。それを「同時に使えなくなることなどありえない」と言って、東電はすべて沸騰水型、関電は加圧水型でそろえてしまいました。
 「安全神話」を自分たちでつくり、神話が崩れると、トラブルを隠した上に、「危機だ、危機だ」と言って、ひびだらけの原発を動かそうとしているのです。電力の危機より、原発の危険性の方が深刻な結果をもたらすことを忘れてはいけません。

■ 初めからわかっていた沸騰水型の欠点

― なぜ沸騰水型の原発でひび割れが起こるのですか?
槌田 原子炉の中を流れる水の水質が悪いからです。
 発電機を通った蒸気を海水で冷却し、水に戻すのですが、この冷却するところは減圧されていますので、海水が冷却管の微小な穴から浸み込みます。汚れた冷却水はイオン交換樹脂で浄化されますが、汚染を除き切れないまま原子炉に戻ります。その結果、原子炉内部や配管に化学反応でひび割れができてしまうのです。海水で冷却する日本の原発特有の欠点ですね。
 中部電力浜岡原発、東北電力女川原発、日本原電敦賀原発も、沸騰水型で、再循環系配管やシュラウド(炉心隔壁)に多数のひび割れが見つかっています。
 東電もひび割れたものは取り替えたいのですが、お金がない。少しずつやっていたが、間に合わないというのが現実でした。そこで、ひび割れがないとウソをついてしまい、全原発の運転停止となったのです。
 「原子炉容器そのものがひび割れているわけではないから、すぐに危険というわけではない」と彼らは言います。しかし、検査基準を改定し、ひび割れの部分を削り取って、運転再開するのは危険です。炉心を覆うシュラウドが本格的に割れたり、ポンプ配管が破断すると、冷却不能になり、炉心熔融となります。

加圧水型原発が怖い 関西電力
北海道電力
四国電力
九州電力
日本原電
事故の不安を抱えたまま、運転を続ける原発。
電力の安定供給の使命も果たせず、
国策とのはざまで
電力会社も悩んでいます。

■ 細管破断かひびだらけの原発しかない

― 関西電力などか採用している加圧水型の方が安全性が高いのでしょうか?
槌田 たしかに加圧水型では、沸騰水型で多発するひび割れは少ないのです。冷却方式が二重になっているので、二次冷却水には海水が混じりますが、原子炉の中には入りません。
 しかし、加圧水型には沸騰水型とは違う欠点があり、問題はもっと深刻です。
 加圧水型のアキレス腱は、蒸気発生器の細管です。原子炉の水からタービンの水に熱交換するのが蒸気発生器ですが、その細管は親指ほどの細さの金属のパイプです。この細管もしばしばひび割れするのですが、そのときは細管に栓をして、使用しないようにしています。
 しかし、細管のひび割れが成長して破断すると、原子炉の水が抜けて大事故になります。この事故は1991年に美浜原発で起こりました。もう少しで、スリ一マイル島のような炉心熔融事故になるという深刻なものでした。
 この事故で細管破断の怖さを知った関西電力は、その後の原発建設をやめました。加圧水型原発の方が事故は深刻なのです。
 加圧水型の原発は、日本原子力発電が1基、北海道電力が2基、関西電力が11基、四国電力が3基、九州電力が6基を稼動させています。
 安心安全な原発などありません。どちらの事故も、炉心熔融事故に発展します。

■ 安定供給・ベストミックスのうそ

― トラブル隠し事件から、原子力の電源としての危うさも浮き彫りになりました。
槌田 そうですね。原発はいったん造ったら、使い続けなければ損です。そこで、止めずに運転し続けて、これを電力の安定供給と称してきたのです。
 発電量の調節は、動かしたり止めたりが自由になる火力と水力に担わせてきました。
 そして、電源は原子力をべ一スに、石油、天然ガス、石炭、水力の「ベストミックスで」と言っていたのですが、原子力をべ一スに据えることは、少しもベストでなかったのです。
 原発の事故やトラブルは、火力や水力に比べて極端に多いのです。今までは隠されて、見えなかったにすぎません。
 日本で稼動中(検査中を含む)の原発は52基、そのうち21基は1970年代に運転を開始しています。
 老朽化が進めばなお一層トラブルが増え、事故の危険性も増します。
 原発に頼っていては、電力の安定供給もおぼつかなくなってしまいます。


一部運転を再開した柏崎刈羽原子力発電所


■ 原発が電力会社のお荷物に

― コストが高く危険な上、安定供給の役にも立たないとすれば、電力会社にとって原発のメリットはあるのでしょうか?

槌田 実は、原発は電力会社にとってもお荷物なのです。
 全面自由化に向かっている競争市場の中で、巨額な初期投資が必要な原発の経営リスクは大きいものがあります。また、放射能のため、原発を維持し、運転するのに費用がかさみます。建設費用より、維持運転費用の方が大きいのです。
 しかし、原子力発電の推進は国策です。電力会社が国に協力することは当然として進められたのですが、そもそも初めから電力会社は原発をやりたくなかったのです。
 もっとも大きな理由は、事故が起こった場合、その保障は一企業でできるようなものではないことでした。事故を起こしたら即倒産ということになりかねません。
 そこで政府は、事故を起こしても電力会社が倒産しないように、国が支払うという形をとることで押し切り、いやがる電力会社に原発を造らせたのです。
 中でも一番気の毒なのは北陸電力です。最後まで原発はいやだと抵抗した社長は首になり、とうとう志賀原発を造らされてしまいました。
 ところが、北陸では電力の需要が多くありません。余った電力を他の会社に融通しようとしても、引き受けてもらえないのです。
 建設中の2号機(135.8万kW)は、2006年3月に営業運転を開始する予定ですが、運転が始まれば、北陸電力は自社の火力発電所を止めなければならないでしょう。
 電力は発電所で作られますが、実際は「消費地で使うときに、使う分だけ、発電所で電力ができる」のです。
 消費地で使わなければ、発電機は空回りし、無理がかかって発電システムが壊れます。そのため電力会社は、余った夜の原発電力を「湯を沸かす」ために原価割れで安売りしてきたのです。「深夜電力はエコ」という宣伝は厚顔無恥というものです。

核武装化すすむ日本
その気になれば、いつでも核武装が可能な日本。
北朝鮮に備え、中国に備え、
アメリカの意向に沿って軍備を増強すれば
戦争への参加を余儀なくされます。

■ 北朝鮮の使えない核

― 話題は変わりますが、北朝鮮が核を持つなら、対抗して日本も核を持つべきだという声が国の内外から聞こえてくるのですが。
槌田 「日本核武装論」はアメリカの上層部からも来るので、アメリカは日本に核を持たせたがっているのだと理解できます。
 核開発は、北朝鮮にとっては経済支援を得るための重要なカードでしょうが、本当に持っているかどうかは疑問です。仮に、1発か2発分持っていても、使えないのではないでしょうか。一旦使ったら、報復されることは目に見えています。核兵器は、まだまだ使えない兵器なのです。
 北朝鮮の核に対して日本も核武装をというのは、核を持ちたい人、持たせたい人の口実に過ぎません。

■ 日本もすでに核保有国?

― ところで、日本の核開発はどのレベルにあるのでしょうか?
槌田 その気になれば、日本はいつでも自前の核を持てます。日本はすでに軍用プルトニウムを大量に所有しています。軍用プルトニウムは電力会社の原発では作れないのですが、核燃サイクルの所有する二つの高速炉で製造できます。
 高速増殖炉「常陽」は、今は作っていませんが、昔作った約30kgの軍用プルトニウムを保管しています。高速増殖炉「もんじゅ」は、事故までの1年半の運転で、約80kgの軍用プルトニウムを作ったはずです。合計して100kg以上ですが、これを再処理すれば50発の原爆が作れます。
フランスは高速増殖炉を「発電用」と言っていましたが、うまくいかず、発電をやめて軍事専用にしました。日本も核兵器を作ることになれば、「常陽」は軍用プルトニウムの生産を再開し、「もんじゅ」はフランスと同じように、発電をやめて軍用プルトニウムの生産だけをするでしょう。

■ アメリカの狙いはアジアの核の均衡

槌田 日本の核保有を言う人たちの狙いは、北朝鮮ではなく中国です。中国の方が脅威なのです。アメリカのチェイニー副大統領は日本に核武装させたがっている一人ですが、中国と日本の間で核開発競争を起こさせ、国力を消耗させながら、アジア人同士で核の均衡をとらせたいと考えているようです。その思惑どおりになれば、日本は不況の中で中国との冷戦に突入することになるでしょう。
 日本がアメリカから核兵器を買うということも考えられます。
 海上自衛隊のイージス艦が、米軍支援活動のためインド洋に派遣されていますが、このイージス艦と同じように、日本がアメリカから原爆を買えば、いとも簡単に核武装できます。
 昨年5月、安部官房副長官と福田官房長官が、相次いで「日本も核を使うことができる」と言っています。イージス艦のように、核を「買って使う」密約ができているのではないかと疑います。
 「まず、日本はアメリカの核兵器を買うことによって核武装する、次の段階では、独自のものを作り、中国と核開発競争をしながら、インド、パキスタンに睨みをきかせて力の均衡を保つ」一こんな構図に、日本は組み込まれてはなりません。
 核武装して、軍拡競争で疲弊するなど、まったく愚かなことです。

■ 備えあれば憂い増す

― 有事法が衆議院で可決されました。
槌田 小泉首相は「備えあれば憂いなし」と主張して、懸案だった「有事法」を成立させました。
 日本人は忘れっぽいのです。前の戦争は、日本の陸海軍が戦争能力を増強したことで始まったのです。
 日本とアメリカが戦争したら、日本が負けることは、当時誰もが知っていました。では、なぜ負けるに決まっている戦争をしたのでしょうか。
 当時、陸軍は中国との戦争で困っており、アメリカとの戦争を望んでいたわけではありません。しかし、海軍は何もすることがなかったので、アメリカとの戦争を想定して軍備を増強することにしました。これでは予算は海軍に取られます。そこで陸軍もアメリカとの戦争準備を始めました。
 そして、海軍は、ドイツがヨーロッパで戦争に勝つと判断し、「勝ち馬に乗る」として、真珠湾を攻撃したのです。

■ 第3次大戦を考える

― また戦争が起こるのでしょうか?
槌田 現在のアメリカは、世界の『幕藩体制』を望んでいるようです。アメリカのみが世界政治を行う。他の国は自治だけに徹する。このやり方に従うしかないという国もあれば、これに抵抗する国もあります。
 そこで、天下分け目の「関が原合戦」となり、アメリカ同盟軍とそれ以外の連合軍が対立し、戦争が始まるかもしれません。
 そのとき、日本に戦争能力がなければ、憲法9条を口実にして、どちらの側にも参加することはないでしょう。
 しかし、憲法9条を改正して、集団自衛権を認め、強大な陸海空軍を持つことになれば、また勝ち馬に乗ろうとして戦争に参加するに違いありません。
 今回の有事法の成立は、その道に一歩踏み出したことを意味します。私はそのとき生きていないでしょうが、心残りですね。

(文責早坂)。

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