■東アジアの軍事的緊張の元凶は米国の覇権拡大政策
米国の東欧・ロシアへの覇権拡大が今回のウクライナ紛争の原因でした。同様に、米国は東アジアにおいても軍事的・経済的な覇権拡大の動きを強めています。その当面の懸案が中国と北朝鮮です。
アジアの大国である中国が近代化によって東南アジア地域で政治・経済・軍事的な存在感を増しているのは事実です。中国に第三国に対して侵略の意図がなくても、周辺の国家と政治・経済・軍事的な関係が強まり、与える影響が大きくなるのは自然なことです。
それに対して、米国が太平洋を挟んだ反対側に位置する東南アジア地域にまで米軍を展開して、中国を退けて覇権を確立しようとする行為こそが異常な行動です。これは明らかに米国の世界戦略として政治・経済・軍事的に中国の台頭を力(軍事力、経済力)によって抑え込むという攻撃的な意図の表れです。
台湾問題は、「東アジアにおけるウクライナ紛争」なのです。本来、米欧諸国は白人以外の人権問題について関心を持っていません。例えば、米国内の黒人に対する扱いを見れば明らかです。また、難民問題でも中東アジア諸国の難民問題と、今回のウクライナでは全く反応が違うことは明白です。米国が中国の人権問題や台湾問題を殊更持ち出すのは、あくまでも軍事介入するための口実として利用するためにすぎません。
2019年日米韓豪合同演習
日本のマスコミ報道は、盛んに中国の海洋進出に対して東アジアの軍事的緊張を高めていると吹聴しています。しかし、米国の太平洋艦隊が東南アジア海域に展開し、特に近年オーストラリア・韓国・日本と西太平洋地域で合同軍事演習を行うなど、東南アジア地域における動きを活発化させていることが原因であり、これに対抗する形で中国の海洋進出が強まっているのです。
■米国のアジア戦略における日本軍(自衛隊)の位置づけ
まず、米国の世界戦略について、客観的な事実で確認しておくことにします。
アジア・アフリカ・ヨーロッパに展開する米軍の分布を図に示します。
少し古いデータですが、図からわかるように、ヨーロッパ側では米国の主要な対抗国であるロシア、中国に隣接する多くの国に1000人規模の米軍が展開しています。それ以外にもNATO軍事同盟に参加している事実上の米軍の配下となる軍隊が存在します。
それに対してアジアではロシア・中国に対して1000人規模の米軍が展開しているのは、実質的に米国の傀儡政権である日本と韓国だけです。南アジア、東南アジアの多くの国に対して米国の覇権はまだまだ確立していないのが現状です。
蛇足ですが、そのためにウクライナ紛争におけるロシアに対する経済制裁についてアジアでは日本、韓国以外は積極的ではありません。そのため、岸田の東南アジア歴訪において「米国の使い」としてロシア制裁の協力を取り付けようとしましたが、うまくいきませんでした。
もう少し詳しい数字を見ておきます。
少し古い2011年のデータですが、米軍の総人員は1,414,149人です。そのうち米国以外に展開している米軍の合計は196,248人です。そのうち、東アジア・太平洋地域とヨーロッパ地域にそれぞれ8万人程度が配備されています。
東アジア地域では、日本に36,708人、韓国に28,500人が配備されています。太平洋上の艦隊の13,618人を加えると東アジア・太平洋地域に配備された米軍の99%になります。実質的にアジア・太平洋地域に配備される米軍とは、日本と韓国に駐留する米軍なのです。
韓国は現在も朝鮮戦争の休戦期間であるため、駐留米軍が多いのは当然と言えば当然です。そのような中で韓国を上回る最大規模の米軍が駐留(進駐)しているのが日本です。これは、東アジア地域で有事があれば即応するのは日本の米軍基地に配置されている米軍だということです。つまり、日本は米軍の東アジアにおける唯一無二の拠点だということです。
世界に展開する米軍の規模
ウクライナに対するロシアの侵攻が始まると、米国は数年後には中国と台湾の間に軍事衝突が起こるとして、台湾に対する兵器供与を増大させることを表明しました。これは、ウクライナの状況を見れば、数年後に台中戦争になるように中国の領土問題に米国が介入することを表明し、その準備にかかったものだと思われます。
昨日、日本を訪れているバイデンは記者会見の席上、中台間で軍事衝突が起これば米軍が参戦することを表明しました。台中間で戦闘が開始されれば、沖縄の米軍基地は否応なく米軍の最前線として機能させられることになります。場合によっては報復攻撃の標的になる可能性も否定できません。今年の4月27日に、エマニュエル駐日大使が日本政府の頭越しに沖縄の玉城知事に直接面会し、台湾有事を念頭に米国に対する協力を迫ったのはその準備なのでしょう。
米国は台湾有事あるいは、展開によっては米中戦争において、日本の基地を使用するだけでなく、20万人余りの自衛隊を米軍指揮下で機能する軍隊にすることを目論んでいるのです。
米国は、アジア地域において米国の覇権を確立するために、米国の指揮下で忠実に任務を果たす日本を期待しているのです。米国の「国防計画指針(DPG:Defense Planning Guidance)」にあるように、日本はあくまでも傀儡政権であって、対等な同盟国ではありません。勿論、今回のウクライナ同様、日本の平和や日本国民の生命を守ることはありません。
■岸田政権の愚かな外交・防衛政策
岸田政権はウクライナ紛争を利用して、ありもしない東アジアの軍事的緊張が高まっているように国民世論をミスリードしています。台中問題は、米国が台湾に軍事的なテコ入れを強化すると表明したことによって中国の対応が硬化して、その結果として緊張関係が高まったのであり、正に米国の自作自演によるマッチポンプです。
岸田は米国のアジア戦略に呼応するように日本の平和憲法を踏みにじる防衛戦略を矢継ぎ早に表明しています。岸田は、敵国の中枢に対する攻撃を含む敵基地攻撃能力の保持を目指し、防衛費を軍事同盟であるNATO参加国並みにGDPの2%程度にまで引き上げるなど、戦争を放棄している平和国家としては考えられない政策を打ち出しています。
ここで日本のGDPの推移を見ておきます。
日本のGDPは概ね550兆円程度で推移しています。GDP比2%の防衛費=軍事費は11兆円程度(1US$=105円とすると11兆円=104,762百万US$)ということになります。
次に2020年の世界の軍事費上位20か国を見ておきます。
軍事費上位20か国
日本が防衛費GDP比2%を実現すると、米国、中国に次ぐ世界第3位の軍事大国になることがわかります。これはもはや防衛力などというレベルではありません。さらに敵国の中枢部に対する攻撃を含めた敵基地攻撃能力を保持することになれば、周辺国を軍事力によって恫喝するに十分であり、アジア諸国にとって日本の軍事大国化の脅威と認識されることは当然です。この日本の防衛政策自体が東アジアの軍事的緊張関係を増大させることは必定です。
バイデン―岸田会談において、拡大抑止・対処能力の強化という方針を示しました。
拡大抑止、つまり米国の核の傘の共同運用、によって日本の平和や国民の生命が守れないことは既に何度も述べた通りです。
対処能力の強化とは戦術の高度化のことだと想像しますが、それは既に戦闘状態に至った後の話であり、平和が失われた段階で平和国家の安全保障政策として失敗していることにほかなりません。
岸田をはじめ政府関係者は、今回のウクライナ紛争が米国のロシア弱体化のための戦略であること、台中有事への関与の表明は米国のアジアの覇権確立のための中国弱体化を目論んだ戦略であることを知っているはずです。
岸田の一連の外交・防衛政策によって、日本と米国との一体化がさらにすすみ、その結果として日本の国家としての独自の決定権は失われ、日本の外交・防衛政策は日本国民のあずかり知らないところ(ワシントン)で決定されるようになります。
米軍と自衛隊=日本軍の一体化が進めば進むほど、日本は米国の無謀な覇権拡大によって生じる戦闘に巻き込まれる危険性が高くなり、米国の東アジアにおける不沈空母として今回のウクライナのような捨て駒になる一方、ICBMを打ち合う核戦争にでもならない限り、遠く離れた米国本土は安泰なのです。
それを承知の上で、岸田政権は自ら米国ネオコンの強権的な政策に敢えて積極的に協力して、日本国民を犠牲にしてでも、そのおこぼれとしてアジア地域での覇権の一部を担うことを目論んでいるのではないかと想像します。まさに米国傀儡政権の売国奴の面目躍如です。
■米国の自由・民主主義が世界を破壊している
米国、特にネオコンの主張である、「自由と民主主義という普遍的価値の下の開かれた世界」について考えてみます。
米欧や日本のマスコミは、ウクライナ紛争に対してしばしば「自由・民主主義の正義と専制主義の悪との戦い」と表現しています。しかしこれは実態とかけ離れています。
かつての社会主義国は共産党の一党独裁という政治形態でしたが、だからと言って社会主義国家の国民に自由が全く無かったかと言えばそんなことはありません。また、共産党の中にも民主主義はありました。また生産財は共同所有であっても個人の所有物も当然ありました。
そもそも、社会主義は野放図な自由主義的資本主義によって、一握りの富裕層と大多数の弱者の貧富の差の拡大によって人権が迫害された経験から、格差のない平等な社会、生存権をはじめとする基本的な人権を大切にする社会を目指したものです。確かに旧社会主義国家では理念と現実の社会システムの運用に必ずしも成功したとは言えませんが、それが悪であるとは到底言えないものです。
さらに付け加えれば、ロシアは既に民主主義国家であり、独裁的な専制国家ではありません。プーチンは国民の圧倒的な支持によって選ばれた大統領です。
これに対して、ロシアの選挙は民主的に行われていないなどという批判をする米欧や日本ですが、翻って、日本の選挙が公平公正ですか?保守政党はコネ金カバンで票を縛っていませんか?米国の選挙に飛び交う資金は途方もない金額であり、金権選挙ではありませんか?国民に対して誤った情報を提供していませんか? 今回のウクライナ紛争に対する米欧、日本の報道は嘘で塗り固められていることは、ご承知の通りです。これは明らかに大衆をミスリードするための情報操作であり、洗脳です。米欧や日本の民主主義が優れた普遍的な価値とは噴飯ものです。
現在の米国は自由(主義経済=資本主義経済)と民主主義を基本とする国です。しかし、それが人々の幸福と直結しているかと言えばそうではありません。
国内的には、恐らく世界で最も貧富の格差の大きな経済的な不平等の国であることは明らかです。米国の自由とは強者が独り勝ちすることができる自由です。大企業や大富豪が経済的利益を独り占めし、力のある者の意見を通すことのできる自由です。
実際のアメリカ社会は一握りの富裕層の優雅な暮らしの陰で多数の国民が貧困にあえぎ、経済的基盤や人種による迫害する自由がまかり通る、野蛮な国家です。
私は最大多数の幸福のためには、個人の自由はある程度制限されるのが当然、いや制限されなければ社会システムが成り立たないと考えます。自由主義国家にも法律があるのはそのためであり、法治国家は既に自由な社会ではないのです。
民主主義国家の自由にしろかつての社会主義国家の自由、あるいはイスラムの自由・・・は相対的なものであって、「米国的野蛮な自由が普遍的な価値」ではありません。
さらに米国の外交・国防政策は、正に強者の自由に貫かれています。9.11以降のイラク、アフガニスタンへの侵略や今回のウクライナ紛争を仕掛けたやり方を見ると、どのような悪辣で凶悪な手段を使っても米国のやることであればそれは正義であるという傲慢なものです。そして米国の暴挙を止める手段がない=米国は自由だというのですからあきれ果てます。
要するに米国の言う「自由と民主主義という普遍的価値の下の開かれた世界」とは、米国の金持ちや大企業が好き放題する自由であり、米国が他国に対して土足で勝手に踏み込める世界という謂いなのです。
こうした米国のやりたい放題の自由のために国家間の軋轢が生まれ、それに巻き込まれて力のない「善良な市民」が犠牲になっていくのです。
日本政府、とりわけ岸田は口癖のように「(米国による)自由と民主主義という普遍的価値観を共有する云々」と言いますが、これは岸田内閣が米国ネオコンに服従して、国民の犠牲を払ってでも米国のおこぼれに与かろうという、まことに浅ましい政策を表明しているのだと考えます。私はそんな自由や民主主義はまっぴらです。
■米国の強引な覇権拡大がロシアのウクライナ侵攻の原因
東欧社会主義国家、ソビエト連邦の崩壊以後、米国は世界でほとんど唯一の覇権国家になりました。その結果、米国、特にネオコンによる世界戦略は、米国の覇権の下で単一の価値基準による全世界の支配を目指すようになりました。
ネオコンの主張とは、『自由・民主主義、グローバル経済を人間社会の「普遍的な価値」であるとして、これに反する社会制度・政治体制・文化・宗教は悪であり、軍事的な介入によって変更することは正義』だという主張です。
ジョージH.W.ブッシュ大統領(左)とチェイニー国防長官(右)
ブッシュ(父)政権下においてネオコンであるチェイニー国防長官らがまとめた文書である「国防計画指針(DPG:Defense Planning
Guidance)」に米国の外交の基本姿勢が示されています。それはネオコンの思想を色濃く反映したもので、以下の内容を含んでいます。
●冷戦後唯一の超大国となった米国だけが優越した軍事力を独占し、米国だけが国際秩序を形成できるようにする。
●米国に対して服従しないものや潜在的な対抗勢力を排除することに全力を挙げる。
●欧州の安全保障の基盤を米国主導のNATOとし、欧州諸国が独自の安全保障システムを構築することを許さない。
●東アジアにおいて、日本が太平洋地域で大きな役割を担うことを許さない。
●エネルギー資源を支配し、アメリカ主導の新世界秩序を築き上げる。
などを内容とするものです。
これは、軍事・経済の両面で米国による世界の独裁的な支配体制を確立することを宣言したものであり、米国一国主義・帝国主義であり、あるいはナチズムを世界規模に拡張したような内容です。
この外交政策に沿って、米国は西欧諸国の協力を得ながら、東欧社会主義国家、ソビエト連邦の崩壊した地域に対して経済援助あるいは紛争への軍事的介入などあらゆる手段で米国の覇権を拡大しました。
米国はウクライナに対して2004年のオレンジ革命の政変頃から積極的に政治・経済・軍事的な介入を開始し、ネオナチや民族主義者武装組織を育成し、2014年に軍事クーデター「マイダン革命」によって米国傀儡ウクライナ政権を作りました。
東部ドンバス地方やクリミアなど、親ロシア住民の多い地域では米国傀儡ウクライナ政権を認めませんでした。米国はウクライナ軍に編入されたネオナチや民族主義者の武装組織を使って民族紛争に介入して親ロシア勢力を一掃することを目的に東部ドンバス地方に対する攻撃を開始しました(2014年)。
この武力衝突に対して、第三国の立会いの下でミンスク議定書で停戦合意されましたが、ウクライナ政府軍はこれを無視して攻撃を続け、ロシア侵攻以前にドンバス地方の住民や兵士1万4000人以上が虐殺されました。
2021年末に米国のバイデンとロシアのプーチンがウクライナ情勢について電話会談し、プーチンはNATOのウクライナへの拡大は軍事的な緊張を高めるのでやめるべきであり、ウクライナを中立化し、米国のウクライナに対する介入を控えるよう求めましたが、米国はこれを無視しました。むしろロシアをウクライナ内戦に引きずり出すために米国・NATOの支援を受けたウクライナ軍のドンバス地方への攻撃をさらに激化させました(大地舜の動画参照)。これに対応するために、ロシアはドネツク・ルガンスク両人民共和国の要請により、集団的自衛権の行使としてウクライナに侵攻したのです。
今回のウクライナへのロシアの侵攻は、米国とこれに協力する欧州、NATOの支援を受けた軍事クーデターによって作られた正当性のない米国傀儡ウクライナ政権による東部ドンバス地方の親ロシア住民に対する不当な軍事攻撃・虐殺に対して、防衛的に侵攻したものです。
ウクライナの戦闘は外形的にはウクライナを舞台とした民族紛争ですが、その本質はアメリカの覇権拡大政策によるロシア排除の目的で起きた軍事衝突です。
■日本がウクライナ紛争から学ぶべきこと
今回の2014年から現在まで続くウクライナの内戦から私たち日本人が学ぶべきことをまとめておくことにします。
@米国による安全保障政策の基本的性格
●米国の外交・安全保障政策は、全世界を米国の覇権の下に一元的に支配するという世界秩序を構築することを目的とし、その実現のためには手段を選ばない。
●米国を含む軍事同盟は、米国の主導のもとに運営される。
●米国は軍事同盟の加盟国の平和や国民の安全は守らない。むしろ作戦の目的達成を人命よりも重視する。
A軍事的な安全保障の限界
●軍事力の強化による抑止効果に実効性はない。
●核兵器を保有する米国との軍事同盟に参加し軍事力を強化しても、戦争状態になれば軍事力によって攻撃を完全に無力化することはできない。一旦先端が開かれれば国土・人命は必ず犠牲になる。
■日本の平和と安全はどうすれば守れるか
ウクライナ紛争に近代戦争を技術的な問題として見ると、兵器の新技術開発は急速に進んでおり、防御的に攻撃を完全に無力化することは不可能であることが明らかです。
島国である日本が攻撃を受ける場合、いきなり日本本土に敵性の軍隊が上陸して地上戦になることは考えられません。日本は海に囲まれているので、船舶(潜水艦を含む)からの攻撃も含めて、短距離の巡航ミサイルあるいはドローンで攻撃される可能性が高いでしょう。こうした攻撃はレーダー網で探知することさえ困難であり、防ぎようはありません。日本の主要な大都市はすべて臨海部にあるため、海上からの攻撃だけで、壊滅的な被害を受けることになります。
もし本気で日本の降伏を迫るような全面的な戦争状態になれば、原子力発電所に対する攻撃も考えられます。これを防御する手段も存在しません。
このように冷静に判断すれば、日本の安全や国民の生命を軍事力の強化や米国の核の傘で守ることは技術的に不可能です。日本の平和と国民の生命を守る現実的な方法は、唯一、戦争をしないことだけです。すなわち、憲法第9条を完全に遵守することが最も現実的な安全保障政策なのです。
そのためには、外交的には中立を保ち、出来る限り軍備を縮小して他国に脅威を与えないこと、互恵的な全方位外交を積極的に進めることです。仮に、外交的な問題が発生した場合には、速やかに相手国との協議を行い問題の解消を図ることです。多少の妥協をしてでも、平和的な解決を目指すことが肝要です。
■ウクライナ紛争報道に見る日本の危うさ
既にこのホームページでは、ロシアのウクライナ侵攻についての日本のマスメディアから垂れ流されている大量の報道は、米欧の視点、極論すれば米国の戦争研究所というネオコンによって都合よく編集された虚偽情報ばかりだということを述べてきました。
それでも、大衆が理論的な思考能力を持って情報に接していれば、明らかに不合理な報道が多いことに気づくはずですが、残念ながら第二次世界大戦後70年を超える期間の米国によるコントロールされた偏向報道に慣れてしまった大多数は、自らの頭で考察することすら行わなくなっています。
第二次世界大戦後、一貫して日本の首都にまで米軍という実力組織が居座り続けており、日本政府は外交・防衛に関する重要国家政策については米国の同意なしには何も決定できない、実質的には米国の傀儡政権です。したがって、米国の行うことは正義であり、それに対立するものは悪であるという判断基準が浸透しています。
洗脳された考えることを放棄した善意の大衆の存在によって、このままでは日本は今回のウクライナ同様、米国のアジア戦略、つまり、米国に従わない国を排除して米国の覇権を確立するという野望の実現のための捨て駒として戦闘に巻き込まれる可能性が極めて高いと考えられます。
■欧米のプロパガンダに騙されるな!欧米諸国は強権国家で帝国主義!/大地舜
■ロシア国防省が公開した捕虜の証言
■ウクライナ・マリウポリ住民の声
今回は、ロシアのウクライナ侵攻について、米欧の軍事産業との関係から見ておくことにします。
■米欧の軍事産業の思惑
もう一つ確認しておかなくてはならないのは、米欧の軍事産業の存在です。
例えば下表に示すように、米国の軍事産業上位10社の年間売り上げは40兆円にもなります(2013年)。
2013年の米国軍事企業の売上高
これは米国経済の中でも大きな産業分野であり、米国政府との結びつきがとても強いのです。米国が武力による覇権を目指す世界戦略上、常に世界最高水準の最新兵器を開発する能力のある軍事産業を維持することが必要です。したがって、米国の巨大軍事産業が維持できる程度の武器需要を常に生み出し続けることが米国政府の一つの重要な「経済政策」なのです。こうして米国では経済政策と国防政策が密接にリンクしているのです。
特にバイデン政権にはオースティン国防長官、ブリンケン国務長官、ヌーランド国務次官など、軍事産業とつながりの強い閣僚が多く、戦闘を長期化させる圧力がかかっていることは想像に難くありません。
今回のウクライナ特需によって、既に米国は1.6兆円の武器供与を決定しています。EUでは約7兆円程度です。この戦闘が長期化すれば更に大きな予算が配分されることになります。こうした費用の大部分は米欧の巨大軍事産業の売り上げとして吸収されるのです。このウクライナ特需を受けて、米欧の軍事産業は活況を呈しており、主要軍事産業の株価は急上昇しています。
2022年の米国軍事産業の株価の推移
こうして米欧の軍事産業が大儲けをする一方で、供給された兵器によってウクライナ東部地区の住民や兵士、そしてロシア軍の兵士の命が奪われているのです。
このような中で、軍事産業にとっては新規顧客開拓の重要イベントである武器の展示会が2022年9月にウクライナのキエフで開催される予定です。今、米欧の兵器産業はウクライナに対して最新兵器を供給していますが、これには兵器の実戦による実験を行い、性能をアピールするための絶好の機会なのです。米欧先進国のウクライナへの最新兵器供与の出費は、言わば兵器産業のCM料であり、実戦で効果のあった兵器を第三国に売ることによって儲けるのです。その売り先はNATO加盟国であり、日本や韓国、そして世界の紛争当事国なのです。
世界から戦争が減らない大きな原因は、こうした米欧ないしロシア等の巨大軍事産業の存在があります。単純なことですが、巨大軍事産業をすべて廃業させれば大部分の戦争や武力紛争は沈静化することになります。しかし残念ながら、極めて利益率が高く、巨大産業となってしまった軍事産業を米欧先進国は手放すことはありません。
2020年の世界の軍事費上位10か国
上図は2020年の軍事費の上位10か国です。2020年の世界の軍事費の総額は1,928,852百万US$(≒200兆円余り)です。この巨大な市場を放棄させることは、容易なことではないでしょう。米欧の脅威がなくならない限りロシアが兵器産業を手放すこともないでしょう。
つまり、米欧先進国、その多くは国連安全保障理事会の常任理事国ですが、彼らは同時に巨大軍事産業を擁する兵器供給国なのです。彼らが本当に世界平和を願っていることはなく、彼らに任せておく限り平和な世界は実現されることはありません。
米国盲従の安倍晋三や岸田文雄はミニ・ネオコンとなり、日本の自衛隊を米軍の下請けの軍隊にし、日本国内にも軍事産業を育成して輸出産業にしようとしています。前大戦の反省から、日本の大学研究機関は軍事研究は行わないとしてきましたが、それも今壊れつつあります。このままでは、日本も近い将来、兵器を輸出して人の命の犠牲の上に経済発展を求める米欧先進国並みの「死の商人」の仲間入りするのかもしれません。おぞましいことです。
■戦闘の長期化の原因はロシアではなく米欧側の対応
米欧や日本のマスコミ報道は、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻に始まる戦闘は、ロシアが撤退しないので長期化する可能性が高いと、すべてをロシア側の責任であるという報道になっています。しかし、ロシアは旧ソ連とは異なり、最早軍事大国ではありません。前出の軍事費を見ればわかる通り、その規模は米国の1/10以下であり、わが日本とそれほど変わらない程度の規模なのです。長期戦に耐えられないことは明らかであり、初期の目的が果たされれば一日でも早く停戦したいと考えているはずです。
ウクライナの戦闘は今年2月に始まったわけではなく、直接的には2014年の米欧が関与した軍事クーデター「マイダン革命」から8年間以上継続している米欧傀儡のウクライナ政府軍による東部ドネツク・ルガンスク両人民共和国への攻撃に始まる戦闘の延長線上にあるものです。
更に遡れば、1991年の旧ソ連崩壊時のワルシャワ条約機構の解体時にNATOを東方に拡大しないという紳士協定を米欧側が一方的に踏みにじり、旧東欧諸国ないし旧ソ連構成国にまでNATO加盟国を増やし続けていることによって緊張が高まったことが根本的な原因です。
マイダン革命以降に限ってみると、ウクライナ政府軍と東部ドネツク・ルガンスク両人民共和国の間に、第三国の立会いの下でミンスク議定書において停戦合意が交わされたにもかかわらず、ウクライナ政府軍はこれを守らず、攻撃を現在まで継続しています。
2月にロシアが侵攻して早い時期に、ロシアが停戦内容として提示した東部ドネツク・ルガンスク両人民共和国に対するウクライナ政府軍の攻撃停止という「ミンスク議定書」の順守と、ウクライナの中立化という条件で停戦協議を真摯に行えば、早期に停戦が実現していたはずです。
ところがその後、米欧からの軍事的・経済的支援が本格化したことによって、停戦協議の機会が失われました。この米欧の軍事的・経済的支援について、米国保守派の評論家であるダグ・バンドウ(Doug
Bandow)氏はアメリカの純粋な保守系ウェブサイトであるThe American
Conservative(アメリカの保守)の4月14日付の<Washington
Will Fight Russia To The Last
Ukrainian(ワシントンはウクライナ人が最後の一人になるまでロシアと戦う)>という記事の中で停戦を考えないバイデン政権の政策を非難して以下のように述べています(再掲)。
1.アメリカと欧州はウクライナを支援しているが、しかし、それは平和を作るためではない。それどころか、モスクワと戦うウクライナ人が最後の一人になるまで、ゼレンスキー政府を支援するつもりだ。
2.アメリカと欧州は、キ―ウに豊富な武器を提供し、モスクワに耐え難い経済制裁を科しているが、それはウクライナ戦争を長引かせることに役立っている。最も憂慮すべきことは、ウクライナ国民が最も必要としている平和を、アメリカと欧州は支持していないことだ。「アメリカはウクライナ戦争の外交的解決(=停戦)を邪魔したい」のだ。
3.戦争が長引けば長引くほど、死者数が増え破壊の程度は高まるが、アメリカと欧州は平和支援をしていない。ワシントンは、ウクライナ指導部が平和のための妥協案を検討するのを思いとどまらせようとしている。
4.戦闘資金の援助は戦いを長引かせることを意味し、アメリカと欧州は、ウクライナ人が永遠に戦えるようにするだろう。
5.戦争によって荒廃しているのはウクライナだ。現在進行中の紛争を止める必要があるのはウクライナ人だ。たしかにロシアはウクライナ侵略の全責任を負っている。しかし、米国と欧州の政府は、紛争を引き起こした責任を共有している。欧米の私利私欲と偽善のために、世界は今、高い代償を払っている。(引用ここまで)
米欧諸国はウクライナの戦闘状態を招いた原因が自らの行動にあることを糊塗するため、ゼレンスキー・ウクライナ政府に対して兵器・資金援助はいくらでもするので、その代わり少なくともロシアの今回の侵攻が失敗であったと言える状況になるまで、戦闘を止めることを許さないのです。残念ですが、この世界は未だに道理や正論ではなく、米欧のように悪辣で野蛮なな行為であろうと、「勝てば官軍」であり、軍事的に勝利した者が正義になるのです。
それに加えて、今回述べたように米欧の巨大軍事産業による戦争長期化の要請によって戦闘状態が続いているのです。
このところ、ロシアのウクライナ侵攻についての記事ばかり書いています。今後の戦況がどうなるかは分かりませんが、この軍事衝突の本質については既に結論が出たと考えています。
ここでは、今回のウクライナに対するロシア侵攻の背景の総括と、今後の日本の外交・安全保障上の対応について考察して一段落としたいと思います。
米欧・日本のマスコミ報道は、まるで善良で平和な国であったウクライナにロシアが突然軍事侵攻して暴虐の限りを尽くしており、これに対して正義のウクライナ・ゼレンスキー政権が米欧の協力を受けてウクライナの国土を守ろうとしているという「シナリオ」に沿った報道を行っています。しかし、その実像は全く違っています。
今回は、ロシアのウクライナ侵攻に至る経緯について、概要をまとめておくことにします。
■米国ネオコンの世界戦略
1989年に東ドイツのベルリンの壁崩壊を機に東欧諸国でドミノ的に共産党独裁体制が崩壊し、1991年にはソビエト連邦が崩壊し、ソビエト連邦を中核とする東欧諸国の軍事同盟であったワルシャワ条約機構が崩壊しました。
この一連の「東欧民主化革命」に対して、米国ないし西欧諸国がどのように関わったのかは定かではありません。ただ、その後2000年頃から始まる一連の「カラー革命」(ウクライナでは2004年オレンジ革命と呼ばれた)や2010年頃からの「アラブの春」そして今回舞台となったウクライナの2014年の「マイダン革命」に米国CIAやジョージ・ソロスらが資金や武器供与などによって関わっていたことから類推すれば、無関係ではないでしょう。米国現国務次官であるビクトリア・ヌーランドはウクライナのマイダン革命は米国が行ったと公言しているようです。
ネオコン強硬派であるバイデン政権ビクトリア・ヌーランド国務次官
ヌーランドはネオコン強硬派であり、夫ロバート・ケイガンはネオコンの幹部、妹のキンバリー・ケイガンもネオコンであり、最近よく耳にする米国の戦争研究所(ISW)の所長であり、米国兵器産業から資金援助を受けています。
戦争研究所(ISW)所長キンバリー・ケイガン
ソ連の崩壊を受けて、米国は1992年にブッシュ政権下においてネオコンのチェイニー国防長官らによって、「米国だけが優越した軍事力を独占し、米国だけが国際秩序を形成できるようにする。ロシアの核兵器を急速に減少させ、ロシアが東欧における覇権的地位を回復するのを阻止する。欧州の安全保障の基盤を米国主導のNATOとし、欧州諸国が独自の安全保障システムを構築することを許さない。日本が太平洋地域で大きな役割を担うことを許さない」ことを内容とする国防計画指針(DPG)を策定しました。要するに米国の覇権を世界全体に広げるという、傲慢な計画です。
ネオコンについて、少しだけ触れておきます。ネオコンとは Neoconservatismであり、新保守主義と訳されています。その思想は「自由主義や民主主義を重視してアメリカの国益や実益よりも思想と理想を優先し、武力介入も辞さない思想(日本語版Wikipedia)」というものです。これはとても暴力的であり、文明の多様性を認めない傲慢な思想と言うしかありません。
つまり、ネオコンにとってかつての社会主義国家体制やキリスト教的自由と相いれないイスラム教など社会・経済体制や文化・宗教的に米国と異なるものは「悪」であり、これを武力によって一方的に改変しても構わない、それこそが正義であるという傲慢で手前勝手な主張です。
ソ連が崩壊しワルシャワ条約機構が解体されたことで、米国にとってそれまで手を出すことのできなかった旧社会主義国という新たな市場が生まれました。米国ブッシュ(父)政権は、ワルシャワ条約機構解体に際してNATOを一切東方に拡大しないというロシアとの紳士協定を踏みにじり、米国の世界戦略はそれまで以上に強硬・強引になりました。
例えば、2001年の米国同時多発テロを口実に、大量破壊兵器を保有するという捏造された大義名分でイスラム文化圏であるイラクを侵略しフセイン政権を転覆させ、米国傀儡政権を作り、更にアフガニスタンのイスラム原理主義タリバン政権をも崩壊させ、泥沼の内戦状態にしましたが、これはネオコンにとって「イスラム=悪の枢軸」との正義のための戦いだということです。
日本では、米国の共和党=タカ派=好戦的という先入観があるようですが、必ずしもそうではありません。ブッシュ(父)政権後の民主党のクリントン政権の大統領夫人ヒラリー・クリントン、オバマ政権のヒラリー・クリントン国務長官、ヌーランド国務次官補というネオコンの大物がいました。民主党のネオコンは、その好戦的な性格から「リベラル・ホーク(liberal hawk)」と呼ばれています。
元国務長官ヒラリー・クリントン
クリントン政権は米国に直接かかわりのないソマリア内戦、コソボ内戦に米軍を軍事介入させ、オバマ政権もアフガニスタンへの軍事介入を続けました。オバマは日本では核兵器反対論者だと思われていますが、彼の政権下でも小型の使える戦術核兵器の開発を推進しました。
一方、一見乱暴に見えるトランプですが、彼の共和党政権では世界の紛争に軍事介入することを控え、北朝鮮とも良好な関係を築こうとしましたが、政権内にいた強硬なネオコンであるボルトンの妨害を受け、失敗しました。
ネオコン強硬派トランプ政権のジョン・ボルトン大統領補佐官
現在のバイデン政権は、彼がオバマ政権で副大統領を務めていたころからウクライナと強いつながりがあり、彼の息子はウクライナのエネルギー企業役員になり、不正に多額の報酬を受けていました。バイデン政権内には前出のヌーランド国務次官に加えてブリンケン国務長官、オースティン国防長官というネオコンがおり、ネオコンの政権とも言えそうな極めて好戦的な性格を持っています。
ブリンケン国務長官(左) オースティン国防長官(右)
付け加えると、オースティン国防長官は、巨大軍需産業レイセオンの取締役であり、ブリンケン国務長官はWest Exec Advisors Inc.という軍事コンサルタントの創始者です。
■近年のウクライナ紛争のロシア侵攻までの概要
ソ連崩壊と同時に1991年にウクライナは独立国になりました。当初、ロシアの支配から離れ親米の大統領が続きましたが、社会・経済は混乱していました。2004年の大統領選挙で親米のユシチェンコと親ロシアのヤヌコーヴィッチが争い、ヤヌコーヴィッチが勝利しました。しかし、反ロシア勢力から選挙不正があったとして抗議を受け、再選挙となりました。
ユシチェンコについてはこの間に毒を盛られ、風貌が変わるという事件がありましたが、ロシアの仕業という噂が流れましたが、真偽は不明のままです。これは同情票を集めるための自作自演の「偽旗作戦」だという説もあながち嘘ではないかもしれません。その影響もあり、再選挙の結果ユシチェンコが当選しました。この選挙に対する抗議運動からユシチェンコの大統領就任に至る政変を「オレンジ革命」と呼んでいます。
ヤヌコーヴィッチ(左)とユシチェンコ(右)
ユシチェンコの夫人はウクライナ系の米国人であり、米国の政府機関で働いていました。ユシチェンコ自身も米国と強い関係を持っていました。ユシチェンコ政権の時、オバマ政権の副大統領であったバイデンはウクライナを訪問し、親米ユシチェンコ政権への協力を表明しました。
ユシチェンコ政権は政治的に混乱を招き、2010年の大統領選挙で親ロシア派のヤヌコーヴィッチが大統領に就任しました。そして2014年にウクライナのEU加盟問題を契機に反政府運動が激化し流血の武力闘争となり、ヤヌコーヴィッチ政権は崩壊し、親米のポロシェンコ政権になりました。この実質的な軍事クーデターである「マイダン革命」には米欧諸国がネオナチや過激な民族主義組織であるアゾフ大隊やOUNなどに対して武器や資金協力、更には軍事訓練をしていました。この点については米国現国務次官であるヌーランドが認めている通りです。
このヤヌコーヴィッチ政権を軍事クーデターで崩壊させて成立したキエフのウクライナ政権は、公用語からロシア語を除外するなど、ロシア語を話す親ロシア派の東部住民等を敵視する政策をとりました。これに対して、親ロシア派の住民の多い東部ウクライナやクリミアではキエフ政権を認めない人が多くいました。
2014年3月にクリミア自治共和国は住民投票を経てロシアに編入されました。東部ルガンスク、ドネツクでは反政府勢力が武装蜂起し、それぞれ2014年5月にルガンスク自治共和国、ドネツク自治共和国として独立を宣言し、これをロシアは承認しましたが、キエフのウクライナ政権は認めず、ウクライナ国内の反政府組織としてウクライナ正規軍に編入されたアゾフ大隊などによって攻撃を開始しました。
ウクライナの武力衝突について2014年9月に停戦合意文書「ミンスク議定書」がまとめられました。
「2014年9月にウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が調印した、ドンバス地域における戦闘(ドンバス戦争)の停止について合意した文書。これは欧州安全保障協力機構(OSCE)の援助の下、ベラルーシのミンスクで調印された。以前から行われていたドンバス地域での戦闘停止の試みに添い、即時休戦の実施を合意している。しかしドンバスでの休戦は失敗した。
2015年2月11日にはドイツとフランスの仲介によりミンスク2が調印された。
2021年10月末のウクライナ軍のトルコ製攻撃ドローンによるドンバス地域への攻撃を端に発したロシア・ウクライナ危機
(2021年-2022年)が対立の激しさを増し・・・(Wikipedia)」
ソ連崩壊後、独立したウクライナでは民族対立が表面化していました。ネオナチや民族主義者たちは親ロシア系の住民を敵視し、虐殺事件が起きていました。現キエフのウクライナ政権は、マイダン革命に寄与したネオナチや、民族主義軍事組織をウクライナ正規軍に編入し、民族対立を利用して親ロシア勢力に武力攻撃を開始しました。
2014年から今回のロシアによるウクライナ侵攻までの8年間に、ウクライナ政府軍はミンスク議定書の停戦合意を無視して、東部地区の住民や兵士1万4000人以上を虐殺してきました。
オザワ•ヤニナ(ドネツク人民共和国)
リャザノワ•イリーナ(ルガンスク 人民共和国)
2022/5/8
■ロシアのウクライナ侵攻の意味
ソ連崩壊によって、ロシアも他の旧社会主義国同様に世界市場経済に晒されることになりました。資本主義の苛烈な競争にさらされた結果、原油、天然ガスなどのエネルギー産業をはじめとする鉱業以外の国内産業の多くが没落・崩壊し、それに代わって海外からの輸入増加になりました。特に、エリツィン政権では米国の経済顧問団のアドバイスを受け急進的な資本主義経済への改革・解放が行われ、オリガルヒという財閥が生まれると同時に貧富の格差が大きくなり、社会的な不安が増大しました。
一方、米欧諸国は旧社会主義国を資本主義の新たな市場に取り込むために、EUへの加盟を進め、同時にワルシャワ条約機構解体時のNATO不拡大の紳士協定を踏みにじりNATOへの囲い込みを進めました。
西側諸国にとってはマーケットの拡大で輸出が増加した一方で、西側の工業製品が安価で導入されることで、旧社会主義国の産業は鉱業部門以外は没落し、経済状況は悪化することになりました。
ロシアはソ連時代の経済圏を米欧に奪われ、更にNATOの東への拡大で軍事的にも追い詰められることになりました。ロシア西部で隣接する国家ではベラルーシ、ウクライナとフィンランドだけが非NATO加盟国という状況になりました。
このような状況下で、ウクライナのEU加盟の推進を求める反政府運動に対して米欧が軍事的、資金的な援助で介入し、実質的な軍事クーデターであった「マイダン革命」によって正統に選挙で選出された親ロシアのヤヌコーヴィッチ政権を倒して親米ウクライナ政権が擁立されました。親米政権(傀儡政権?)はEU、NATOへの加盟を目指し、マイダン革命で功績のあったネオナチや民族主義者の軍事組織をウクライナ軍に編入し、親ロシアのドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国を攻撃し、多くの住民や兵士を虐殺しました。
ロシアのウクライナ侵攻の直接的な根拠は、防衛協力関係を結ぶ友好国であるドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国に対して、ミンスク合意を踏みにじったウクライナが2021年末から攻撃を激化させ住民を虐殺しているのに対して、集団的自衛権の行使として両国の防衛のために侵攻したということです。
同時に、米欧によるウクライナへの軍事的・経済的影響力の増大、EU加盟、更にはNATO加盟の動きは、ロシアの安全保障を脅かすものであり、ウクライナを軍事的な緩衝地帯として中立、非武装化することを求めるロシアの主張と相いれないものであり、米欧によるウクライナに対するこれ以上の影響の拡大を食い止めることがもう一つの大きな目的です。ロシアにとって、ウクライナ侵攻は苦渋の選択であったのではないでしょうか。
■米国の目論見
米国ネオコンの最終的な目的は、全世界を米国の覇権の下に一元的に管理することです。その上で重要なのは、東欧と旧ソビエト連邦という旧社会主義圏、中国・アジア圏、中東・アラブのイスラム文化圏の掌握です。
中東・アラブのイスラム文化圏では、濡れ衣によってイラクのフセイン政権を打倒したものの、アフガニスタンでは混迷が続き、イランは核開発を含めて米国に対して対決姿勢を崩していません。アラブの春によって一旦「民主化」したかに見えたアラブ諸国も米国の思惑は外れ、混迷が続いています。
その中で、唯一進んでいるのが東欧諸国のEUないしNATOへの囲い込みです。更に、旧ソビエト連邦の構成国の内、バルト3国は既にNATOに加盟し、ベラルーシとウクライナを囲い込めば米欧の勢力圏が東方でロシアと接することになり、ロシアにとって大きな脅威となります。
一般的に、敵対する国に対して接近しようとするのは攻撃的な意図を持つ側であり、距離を置こうとするのは防衛的な側です。ロシアに接近する米欧は攻撃的な意図があり、非武装の中立地帯を設けようとするロシアには防衛的な意図が強いと理解してよいでしょう。
ウクライナには根深い民族紛争があり、マイダン革命以降8年以上にわたってネオナチや過激な民族主義者の武装組織が親ロシア系住民を攻撃する内戦状態が続いています。米欧はこれを利用して、ロシアをウクライナ内戦に引きずり込むことによって、米欧が表立ってウクライナを軍事支援できるような状態を作ったと考えるのが合理的です。
米国のバイデン政権=ネオコン政権のウクライナへの武器や資金援助は、ウクライナの民族紛争を利用して、ウクライナ国内の親ロシア勢力を一掃し、同時に経済制裁を含めてロシアそのものの軍事・経済力を消耗させ、ロシア国民のプーチンに対する批判を煽り、バイデンがうっかり口を滑らせたように、あわよくばプーチンに替わる親米の新大統領を擁立することです。
米欧のウクライナへの軍事支援は、ウクライナ国民の安全を守るためではなく、あくまでも米欧の覇権拡大の野望を実現するために行われているのです。ウクライナのゼレンスキー米欧傀儡政権は兵器の供与を要求し、米欧はこれに応えロシアとの闘いを長期化することで、ロシアを疲弊させるだけでなく、同時にウクライナ民間人の犠牲を増やし続けているのです。
客観的に見て、ロシアの軍事力は米国のように世界展開して覇権を及ぼすほどの力はなく、核兵器を持っていることを除けば、現実的には米欧が喧伝するようにロシアの軍事的な脅威は大きなものではありません。
米欧がウクライナに最新兵器を惜しみなく投入し続ければ、ロシアは追い詰められて戦術核兵器を使用して反撃する可能性は低くないかもしれません。穿った見方をすれば、米欧はむしろロシアに戦術核を使用させ、ロシアを決定的な悪玉にして、例えば国連安全保障理事会から排除して、国際的な政治的影響力を削ぐことを目論んでいるのかもしれません。