No.981 (2015/02/03)トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカーENew!
燃料電池に対する社会の対応と、トヨタの陰謀の真相

 前回までの検討で、燃料電池車ないし燃料電池システムを社会の基本的なエネルギー供給システムとして利用する科学・技術的な必然性は全くないばかりか、有用資源を浪費することがご理解いただけたと考えます。

燃料電池に対してどう対応すべきか?
 唯一、将来的に燃料電池を社会の基本的なエネルギー供給システムとして利用することに科学・技術的な合理性が成立するための条件は、化石燃料や電力を一切使用せずに、高圧水素燃料を拡大再生産する技術が実現される場合だけなのです。もしそのような“夢の技術”が実現すれば、その段階で初めて燃料電池の導入を検討すればよいのです。
 炭化水素改質水素や水電解水素燃料の使用を前提とする燃料電池システムは有害であって、導入に何の合理性もありません。

燃料電池エネルギー供給システムの中核技術は水素製造
 燃料電池という装置は、例えればロウソクの灯芯、あるいはガスコンロのバーナーのようなものなのです。本質的に重要なのは燃やすための道具ではなく、良質な燃料である蝋(ロウ)やガスが簡単に手に入ることなのです。燃やすための道具は簡便であるほど良いのです。
 現在の工業文明を支えている石油を中心とした化石燃料によるエネルギー供給システムは、鉱物資源として存在している良質な燃料の存在こそがその基盤なのです。私たちはそれを採取して、多少精製してやるだけで簡単な装置でエネルギーを得ることが出来ます。
 燃料電池システムを成立させる本質的な技術は水素製造技術です。化石燃料によるエネルギー供給システムと決定的に違うのは、水素を自然界から手軽に採取することが出来ないことです。高圧水素燃料を製造するためには、高圧水素燃料から得られる電気エネルギーよりもはるかに大量のエネルギーを投入することが不可欠です。この段階で、エネルギー利用効率という観点から、燃料電池を社会の基本的なエネルギー供給装置として導入することには意味が無いことは自明であり、検討の余地すらありません。
 現在の燃料電池に対する技術評価が本質的に倒錯し、誤っているのは、技術の本質である水素製造についての議論をおろそかにして、燃焼装置にすぎない燃料電池にばかり注目が集まっていることです。

トヨタの陰謀の目的
 このクズのようなエネルギー供給技術に対して、原子力発電同様に、発電段階では一切二酸化炭素を放出しないというだけの理由で、近視眼的、視野狭窄に陥った愚かな裸の王様=政策立案者に取り入って、暴利を貪ろうとしているのがトヨタやホンダの経営者たちです。

 トヨタやホンダの技術者たちが本当に燃料電池≒水素が次世代の自動車駆動用の中核的な“燃料”になると考えているとは到底思えません。もし本当にそう“信じ”きっているとすれば、視野狭窄に陥った無能な技術屋としか言えませんが…(笑)。彼らが無能な技術屋ではないとした場合、トヨタは何を狙っているのでしょうか?
 今のところ日本では、燃料電池車は“究極のエコカー”であり、環境性能と将来性という虚像のブランドイメージを持っています。おそらくトヨタの一つの目的は、このイメージの化けの皮が剥がれる前に“売り抜け”て、燃料電池車開発に投入した開発費用を回収し、あわよくばボロ儲けしようとしているのでしょう。そのために裸の王様に取り入って、購入費用に対して1台200万円などという途方も無い国家補助を取り付けました。
 もう一つの狙いは、化けの皮が剥がれる前に燃料電池車を社会的にある程度浸透させ、例えば原子力発電同様、日本社会を“シャブ漬け”状態にして撤退が困難な状況を作り出そうと目論んでいるようにも思えます。
 そのためには、燃料電池車をより一般化させる≒複数の自動車メーカーをこの市場に引きずり込むことが必要です。そこで、通常では考えられないことですが、燃料電池車に関するトヨタの保有する特許を公開することにしたと考えられます。
 更に、採算性から見れば全く割の合わない水素製造・販売については、水素ステーション建設費用の半額を国家補助にするなどということまでやってのけたのです。

燃料電池車の化けの皮を剥げ!
 あまりにもエネルギー利用効率が低く高価な燃料電池車が一般的な自動車の駆動系になる可能性はありません。確かに放って置いても淘汰されることにはなるでしょう。しかし、燃料電池車を葬り去る時期が遅くなれば遅くなるほど日本という国家の財政は悪化し、産業構造が打撃を受けることになります。日本社会が取り返しの付かない状態に陥る前に、一刻も早くトヨタの陰謀を暴露して燃料電池車を社会的に葬り去ることが急務です。

No.972 (2015/01/19) トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカー@
No.974 (2015/01/22) トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカーA
              炭化水素改質水素を用いた場合の燃料電池車の効率
No.975 (2015/01/26) トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカーB
                水電解水素を用いた燃料電池は低効率の蓄電池
No.977 (2015/01/30) トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカーC
                燃料電池車は電気自動車を超えることは出来ない
No.979 (2015/02/03) トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカーD
             ポスト化石燃料文明≒燃料電池・水素社会は実現不可能

 

No.980 (2015/02/06)東京の乾燥化・高温化と富士山New!

 冒頭の写真は、東京都武蔵野市の成城学園の屋上からの富士山の遠望です(2013年1月27日/朝日新聞電子版)。冬空に稜線がくっきり見えています。

 今朝のNHK−TVの朝のニュース番組で、成城学園の富士山の観察記録の話題が取り上げられていました。成城学園では昭和38年から毎日、同校の屋上から富士山と東京タワーが見えるかどうかを記録しているそうです。

 1960年代には日本は公害の真只中にあり、都市部での工場煤煙や車の排気ガスによって大気は随分汚れていました。その後、環境規制が厳しくなることによって、大気は随分綺麗になりました。成蹊学園の観測記録にもその傾向が現れているようです。

 ところが、最近の富士山の観測数が異常に多くなっているそうです。大気が汚れていたとは思えない明治期でも、武蔵野あたりから富士山が遠望できるのは年に100日程度だったといいます。ところが、ここ最近は一年間に富士山が遠望できる日数は100日をはるかに上回り、直近では何と138日にも達しているというのです。これはもはや大気汚染の軽減だけとは考えられません。

 大気中の視程に対して大きな影響を与える要因としては、大気中の水蒸気量があります。水蒸気クラスターが数μm〜数10μm程度になると、可視光線をすべての波長帯域で散乱します。その結果空が白く見え、遠方の景色は見えなくなります。冬から春に季節が移ると空が白っぽく変化するのがよく分かります。春霞です。

 成蹊学園の観測結果から、富士山の視認回数が増えたということは、大気中の水蒸気量が減少していることを反映していると考えられます。つまり、都市化によって自然植生が減少し、地表面が不透水性の舗装で覆われると同時に、雨水が下水道の整備によって速やかに排除されるようになったために、地表面からの水の蒸散が激減しているということです。

 つまり、富士山がよく見えるようになったのは、都市のヒートアイランド現象の進行に対応しているのです。

日本の夏の暑さの原因はヒートアイランド現象

 

No.979 (2015/02/03)トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカーDNew!
ポスト化石燃料文明≒燃料電池・水素社会は実現不可能

 既にこれまでの連載の検討から、燃料電池ないし燃料電池車という技術は、極めて資源浪費的で低効率のエネルギー供給技術であることが分かりました。その内容は2点に集約されます。

@炭化水素燃料を用いるエネルギー供給システムの中で、炭化水素改質水素を用いる燃料電池システムは、投入された炭化水素の持つエネルギー量に対する最終的な供給エネルギー量で比較すると最低の利用効率のエネルギー供給システムであり、使用する必然性がない。

 つまり、最終的に得られるエネルギーに対して、最も大量の炭化水素燃料を消費するということです。これは、極めて優れたエネルギー資源である石油や天然ガスを浪費することを意味します。同時に燃料電池車を導入する本来の目的であったはずの『人為的なCO2排出量を抑制する』という目的とも相容れないのです。

A水電解水素燃料を用いる燃料電池システムは、水素製造に投入する電力量が最終的に得られる電力量よりも大きくなるために、ただ単に『電気エネルギーと、燃料電池システムを成立させるために必要なハードウェアの建設・運用・維持に投入される資源』を浪費するだけであり、無意味どころか、最悪の技術である。

 これに対して、たとえ炭化水素改質水素を利用する燃料電池が無意味だったとしても、『石油・天然ガスや石炭が枯渇した後には、否応なく燃料電池を使わざるを得ない。燃料電池に対して今資本を投入することは先行投資として必要である。』などという非科学的な主張をよく聞くことがあります。水電解水素燃料による『水素社会』などという荒唐無稽な発想が生まれるのか、技術屋としては信じられない日本の状況です。現在において投入される先行投資は、短期的にはトヨタを儲けさせる効果はあるのでしょうが、いずれ不良資産となり、日本経済を苦しめることになるでしょう。

 今回はこうした点について、簡単に触れておくことにします。

 まず、水素ステーションについての産経新聞の記事を紹介します。


2015.1.31 12:00更新【経済インサイド】
「こんな投資はムリ」夢のエコカー燃料電池車
「水素ステーション」建設で揺れるエネルギー業界


水素ステーションで燃料電池車に水素を入れる式典を行う東京ガスの救仁郷豊副社長(右)=平成26年12月18日、東京都練馬

 「究極のエコカー」といわれる燃料電池車(FCV)に、燃料の水素を供給する「水素ステーション」。FCVの普及に欠かせないものだが、エネルギー3社が水素ステーションで販売する水素価格を相次いで公表した。出てきた数字は1キロ当たり1000〜1100円(税別)。これは、経済産業省が平成32年の目標と設定した価格に相当し、ハイブリッド車のガソリン代に匹敵するという。目標を約5年前倒しで達成する戦略的な価格設定といえるが、その一方で水素の価格はガソリンの2倍以上とされるだけに、当面は採算割れは避けられそうにない。このため、エネルギー業界では赤字を垂れ流すことを嫌い、様子見を決め込む企業は多い。安倍晋三首相はFCV普及を後押しするため規制緩和にも前向きだが、実際に普及するかどうかは見通しにくく、エネルギー業界ではリスクを回避する空気がいまだ支配的になっている。

あわてた東京ガス
 東京都練馬区。目白通りをドライブしていると、「水素ステーション」と記された地味な看板が目に入る。トヨタ自動車が国内初の市販FCV「MIRAI(ミライ)」を発売したのに合わせ、東京ガスが昨年12月18日に開設した「練馬水素ステーション」だ。 首都圏初の水素ステーションで、既存の天然ガススタンドと併設するタイプ。外部で調達した水素をトラックで搬入して使う「オフサイト方式」だ。「MIRAI」に搭載する水素タンクの圧力は70メガパスカル。満タンにするには4〜5キロの水素が必要で、同水素ステーションでは1台当たり約3分で充填できるという。
 開所式には多数の報道陣が集まり、救仁郷豊副社長は、満面の笑みを浮かべながらFCVに水素を入れてみせるパフォーマンスを演じた。ただ、「MIRAI」の発売後1カ月あまりしかたっていない現在、水素ステーションは「開店休業」の状態だ。
 一般向け水素ステーションは、LPガス最大手の岩谷産業が昨年7月、兵庫県尼崎市に初めて開設したのが皮切り。岩谷は4カ月後の11月、水素の価格を1キロ当たり1100円(税別)で販売すると発表し、エネルギー業界関係者を驚かせた。上羽尚登副社長は「採算は当初厳しいが、FCVの普及には最初から安めの価格設定を実現すべきだと判断した」と価格設定の根拠をこう説明した。
 岩谷に対抗するかのように、石油元売り最大手のJX日鉱日石エネルギーは12月、水素1キロ当たり1000円(同)で販売すると発表。これにあわてたのが東ガスだ。
 東ガスは水素の価格は、「MIRAI」が実際に納車される来春までに決める方針だったが、「ライバルに後れを取ってしまう」(幹部)との焦燥感が社内に広がり、結局年明けの1月8日、1キロ当たり1100円(同)で販売すると発表した。

ガソリンスタンドの5倍の建設費
 岩谷は27年度に、水素ステーションを20カ所、JXも40カ所にまで増やす計画を掲げている。エネルギー業界でここまで積極的な設置計画をかかげているのは、この2社に限られる。その大きな理由は、ガソリンスタンドの約5倍もかかる水素ステーションの建設コストにある。
 国が整備費の最大半額を補助する制度を始めたものの、まだ高額なコストがかかるのが実情だ。
ガソリンスタンド並みのコストを目指し、東京都と愛知県が国とは別に整備費を補助する事業を始める予定だが、全国に広がらないと普及はおぼつかない。
 また、水素ステーションはガソリンスタンドに比べ、より広い敷地面積が必要で立地の規制も厳しい。FCVの普及が不透明な中、こうした理由が参入をためらわせている。
 コストダウンに向けた企業努力も欠かせない。東ガスの練馬水素ステーションは天然ガススタンドと屋根などの設備を共用し、コストダウンを図った。さいたま市でも水素製造設備を併設した「オンサイト方式」の水素ステーションを建設中で、完成後は練馬への供給も計画する。オンサイト方式とオフサイト方式の両方をバランスよく運用することで、普及初期の水素製造装置の稼働率を向上させるなど設備の効率的な運用と省コストを目指している。
 「MIRAI」は発売後1カ月の受注台数が、当初の年間販売目標の4倍に迫る1500台となるなど出足は好調だ。トヨタは、生産能力を28年に現在の約3倍にあたる年間2000台程度に、29年に4倍強の3000台程度に増強するほか、FCV関連の特許を32年までライバル各社に無償提供し、市場拡大を促す。
 安倍首相は「MIRAI」が首相官邸に納車された15日、ガソリンスタンドと同じようにセルフ式も可能にするなど規制緩和を加速する考えを示した。
 岩谷は、セブン−イレブン・ジャパンと組んで、コンビニエンスストアに併設した水素ステーションを27年秋から大都市圏を中心に順次開設、水素ステーションの多様化を進める計画だ。

設置はまだたった4カ所
 しかし、エネルギー業界は、岩谷やJXのように赤字のリスクがありながらも水素ステーション推進を掲げる企業があるのに対し、大部分の企業が慎重な姿勢を崩していない。2カ所の設置を決めた東ガス幹部でさえ「FCVの普及が1000台規模ではコストダウンにも限界がある。水素の製造や輸送の方法が確立できなければ、普及は難しいだろう」と不安を隠さない。
 政府は27年度中に4大都市圏で水素ステーションを100カ所程度整備する目標だが、現在設置されているのは全国でたった4カ所。大阪ガス幹部は「東京で集中的に整備して、その後、全国に広げるほうがよいのではないか」と政府の戦略に首をかしげる。
 さらに石油元売り大手の首脳は「FCVがどれだけ普及するかわからないのに、建設なんてできない。ガソリンスタンドと併設するにしても、工事中は営業ができなくなる」と話す。
 FCVと水素ステーションは、いわばニワトリと卵の関係だ。「水素ステーションがなければFCVは普及しない」「FCVがなければ水素ステーションも普及しない」。
 トヨタ自動車が世界に先駆けて日本国内で発売したFCV。ホンダが28年3月、日産自動車も29年にも発売する。これらFCVを生かすも殺すも水素ステーションの普及にかかる。政府のさらなる支援、今後のエネルギー各社の経営判断が改めて注目されている。(宇野貴文)


 産経新聞の記述に対して、何点か検討していくことにします。

水素燃料価格について
 水素燃料価格については、その詳細な製造プロセスでどの程度の費用が発生するのか、あるいは販売を前提とした実用レベルのデータはまだ不明なので、ここではとりあえず水電解水素の製造費用を推定してみることにします。連載Bの検討から、1kgの350気圧水電解水素燃料の製造に投入される電力量は、

250MJ=250×106J=(250×106)÷(3.6×106)kWh=69.4kWh

大口電力価格を15円/kWhとした場合、1kgの350気圧水電解水素燃料の製造に投入される電力の料金は15×69.4≒1041円程度になります。1kgの350気圧水電解水素燃料の製造コストは電力料金の2倍程度と考えればの2000円/kg程度でしょうか。700気圧高圧水素はもう少し割高になるでしょう。
 おそらく、今回水素ステーションを作っているエネルギー産業は水電解水素よりも安上がりな炭化水素改質水素を使用しているでしょうから、もう少し安いかもしれません。それでも1000円/kgという価格に東京ガスは『驚き』『あわてた』というのですから、700気圧水電解水素燃料の製造費用は1000円/kgよりもかなり高いと考えられます。

 さて、こうして得られた水素燃料1kgから得られる電力量は、連載Bの検討から、

57.2MJ≒15.9kWh

程度です。
 一方、一般的なガソリン車のガソリンの持つ熱エネルギーに対する動力として有効に利用できるエネルギーの割合は20%台であろうと考えられます。小さめに20%だとした場合、15.9kWhを得るために必要なガソリンの量を求めてみます。ガソリンは数種類の炭化水素の混合物ですが、その熱エネルギー量は34.6MJ/L程度です。したがって必要量は、

((15.9kWh×3.6MJ/kWh)÷0.2)÷(34.6MJ/L)≒8.3L

税抜きのガソリン価格は70円/L程度ですから、8.3Lで581円程度です。ハイブリッド車の燃費をガソリン車の2倍程度とすれば、ガソリンの必要量は4L程度、その価格は280円程度ということになります。燃料電池車の燃料価格は圧倒的に高いことが分かります。

 たとえ、東京ガスが驚くようなダンピング価格である1000円/kgで高圧水素燃料を販売したとしても、走行距離に対する燃料の費用はガソリン車やハイブリッド車に比較して圧倒的に高くなります。ランニングコストから考えても、燃料電池車が一般に普及することはあり得ません。

※註)燃費:
 燃費とは熱機関のエネルギー効率を表す指標の一つです。ところが、この燃費という同じ呼び名で全く反対の数値が存在することで混乱が生じています。
 一つは、自動車のカタログデータに示されているもので、例えば「15km/L」というふうに表されます。単位から分かるように、1L(リットル)の燃料で走行可能な距離を示す場合です。この場合、「燃費が良い=数値が高い」ことになります。言うならば高燃費は効率が良いことになります。
 もう一つは、走行距離に対して消費する燃料の比率を示す値です。単位は例えば「67cc/km」というふうに表されます。この場合、「燃費が良い=数値が低い」ことになります。この場合は低燃費は効率が良いことになります。
 混乱が生じる原因は、カタログデータで燃費が良いのは、燃費の数値が高いこと、前者の燃費を指しているにも関わらず、単独で燃費という言葉を使う場合には効率が良いことを『低燃費』と言う後者の意味で使用しているためです。
 本稿では前者の「1L(リットル)の燃料で走行可能な距離」という意味で表現を統一することにします。つまり「低燃費=効率が悪い」という意味で使用します。

ついでに体積について見ておきます。1気圧の水素1モル(2g)の体積を24Lだとすると、700気圧1kgの水素の体積は、

24L/mol×500mol/kg÷700=17.1L/kg

同じ最終エネルギー量を供給するために必要な燃料容器の容積はガソリン車の2倍程度、ハイブリッド車の4倍程度になります。しかも、超高圧の水素燃料を収納するタンクはかなり分厚い特殊な構造になるため、ガソリン車に比較して収納スペースは格段に大きくなり、移動用の乗り物の燃料としてはこれも不利な条件になります。

水素ステーションの高い建設コスト
 記事にあるように、現在建設が考えられている水素ステーションは、大手のエネルギー関連産業直轄の採算を度外視したアンテナショップのようなものです。
 水素ステーションの建設費用はガソリンスタンドの5倍、一箇所5億円ほどが必要だと言われています。これはどのような条件のステーションを想定しているのか不明ですが、定性的に圧縮水素という扱いにくい燃料を取り扱うことが技術的に大変高度であることを表しています。採算度外視では、ガソリンスタンドのように個人経営の形態で運営することは不可能です。

 したがって、水素ステーションが全国の津々浦々にまで配置されることはありませんから、燃料電池車が走ることが出来るのは、結局、大都市近郊に限定されることになるでしょう。もしかすると、東京オリンピックの客寄せパンダとして使われるのが関の山ということになるのではないでしょうか。

 燃料電池車の電気自動車に対するアドバンテージとして航続距離が長いことが喧伝されています。しかし、電気自動車に給電する施設は、電力網が整備されていれば僅かな設備費でどこにでも、そして個人住宅にでも作ることが出来ますから、充電時間の長さ、1回の充電による航続距離の短さも特段問題になるとは考えられません。燃料電池車に比べればはるかに普及の可能性は高いでしょう。

自立できない水素製造システムはポスト石油文明を支えられない
 いずれ石油や石炭という有限の化石燃料は枯渇するのだから、多少高コストでも水素社会にならざるを得ないなどという頓珍漢な主張をする人がいます。

 工業化社会を支える基本となるエネルギー供給技術の最低要件は、エネルギー自身を拡大再生産することが可能なことです。石油や石炭は、1単位のエネルギーを石油や石炭の採掘や精製に投入した場合、少なくとも10単位のオーダーで拡大再生産が可能な優秀なエネルギー資源だからこそ現在の工業化社会が成立しているのです。

水素―水素システム
 燃料電池による水素社会が成立するためには、水素1単位から供給できる電力を水電解水素製造システムに投入することで水素1単位以上が製造できなければなりません。これは連載Bで既に検討した通り、350気圧水素燃料1kgを製造するためには250MJの電力を投入することが必要であり、1kgの圧縮水素から得られる電力は57.2MJでしたから、エネルギーの拡大率は

57.2÷250=0.23<1.0

となり、理論的かつ必然的に縮小生産となるために自立したエネルギー資源にはなり得ません。

再生可能エネルギー発電―水素システム
 ではどのような場合に水素社会が可能なのでしょうか?その一つは、燃料電池システム以外に効率的に電力を供給する『自律的なシステム=エネルギーを拡大再生産可能なシステム』が存在することです。しかしそれであれば、既に検討してきたように電力を水素製造に投入せずに、そのまま使用したほうがはるかに効率的であり、燃料電池の出番はありません。
 それ以前に、再生可能エネルギーを用いた発電システム、例えば太陽光発電や風力発電は自ら発電した電力だけで発電装置を単純再生産することも出来ませんから、化石燃料が枯渇すれば維持することができなくなります(日本においても既に太陽光発電は事実上見捨てられることになりました。)。

光触媒水素製造システム
 唯一残された道は、自然エネルギーを使って直接水素を製造するシステムが実現できる場合です。例えば光触媒による水素製造システムが実用化することです。

 現状では、紫外線領域ではある程度の水素製造が可能な光触媒が見つかっていますが、地表面に到達する可視光線領域にエネルギーのピークを持ち、紫外線領域(400nmより短波長側)をほとんど含まない太陽光による水素製造を想定した場合には、効率は1%にも満たないのが実情です。現状では光触媒による水素製造はほとんど夢物語のレベルです。
 ちなみに、普及タイプの太陽光発電パネルでさえ発電効率は、地表に到達する全太陽光エネルギーの10%を超えています。

  仮に実用レベルの光触媒が開発されたとしても、大規模な水素製造装置を運用することは太陽光発電に比較して極めて難しいと考えられます。

 太陽光発電では固体でドライな可動部のないユニットを電線で接続することで広大な面的な装置システムを運用することが可能です。
 しかし光触媒による水素製造システムは、ウェットなシステムであり、製品である水素の微細な気泡を回収するためには水と気体の循環システムが必要です。広大な面積に循環システムを実装することはかなり困難ではないかと考えられます。また、生産物である水素の微細な気泡によって、光触媒と水の接触面積が減少することで分解効率を維持することも困難となるでしょう。
 光触媒の持つ能力を実用的なスケールのプラントで実現するためには、水素回収のための付加的な機械的装置システムの実現は技術的に極めて困難であり、同時に投入するエネルギーが大きくなることが予想されるため、光触媒による水素製造システムの実効効率は、研究室レベルの光触媒の効率に遠く及ばない物になると推測されます。

 結論的に「再生可能エネルギー発電―水素システム」以上の効率の光触媒水素製造システムが実現することは不可能であろうと考えます。

続く→

No.972 (2015/01/19) トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカー@
No.974 (2015/01/22) トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカーA
              炭化水素改質水素を用いた場合の燃料電池車の効率
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                水電解水素を用いた燃料電池は低効率の蓄電池
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                燃料電池車は電気自動車を超えることは出来ない

No.978 (2015/01/31)個人情報管理に無頓着な大分県の県立高校ANew!

 1月26日に娘の高校に申し入れを行い、翌27日に大分県教育庁高校教育課の足立課長補佐に高校を指導するように申し入れを行いました。そして、30日に高校の教頭から「本日、保護者全員に対して説明の文書を配布する」との連絡がありました。

 これがお詫びの文章なのでしょうか?「わかりづらい」?一体何を詫びているのでしょうか?これでは何が問題であったのかさっぱり分かりません。

 私が問題とした内容は、
@高校が、卒業生台帳原簿という公文書の体裁をとりながら、任意団体である同窓会の要請を受けて、卒業生台帳原簿には必要ない個人情報を、生徒・保護者に断りなく収集したこと。
A卒業生台帳原簿の個人情報を、安易に目的外の使用である同窓会名簿への流用を容認したこと。
の2つです。

 本来、卒業生台帳原簿は同窓会とは無関係の公文書です。その公文書の内容が、同窓会が流用することを前提として、収集する個人情報にまで影響を受けているという県立高校と同窓会の節度のない関係が最大の問題なのです。
 また、卒業生台帳原簿の取扱いは高校の専権事項であって、「同窓会とも相談し」て取扱を決めるものではありません。高校は本質的な問題が理解できていないようです。

 とても問題の本質が理解されたとは思えませんが、卒業生台帳原簿の個人情報の同窓会への提供は行わないこと、同窓会は別途入会希望の生徒に対して連絡先を確認することの2点は確認できましたので、この問題はここまでにします。

 しかし、県立高校とPTAや同窓会との慣れ合いの節度のない関係はまだまだ一掃されたとは、到底思えません。今後も数々の問題が発生するでしょうが、後はこれから保護者になる皆様のご健闘を期待したいと思います。

No.977 (2015/01/30)トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカーCNew!
燃料電池車は電気自動車を超えることは出来ない

 連載のA、Bにおいて、それぞれ炭化水素改質水素と水電解水素を利用した場合の燃料電池車のエネルギー収支について検討してきました。

 そもそも燃料電池車などという、およそ通常の市場経済では成り立つはずのないシステムの導入がなぜ考えられたのかを原点に戻って考えてみてください。科学的な正誤の判断にはこの際触れませんが、燃料電池車の導入目的は『人為的CO2地球温暖化対策として、CO2を出さない自動車駆動系を導入すること』だったはずです。したがって、炭化水素改質水素を用いる燃料電池車の導入は無意味です。剰え、炭化水素燃料の持つエネルギー量に対するエネルギー利用効率で内燃機関自動車は勿論、電気自動車にも劣る燃料電池車を導入する意味は全くありません。以下の検討では、炭化水素改質水素を用いた燃料電池車については除くことにします。

 さて、ネット上ではエコカーとして優れているのは電気自動車なのか燃料電池車かという話題が散見されます。実にバカバカしい話です。
 自動車駆動系から見れば、燃料電池車は電気自動車に含まれます(→自動車駆動系の評価)。通常、電気自動車という場合には駆動用電気モーターに供給する電力を車載蓄電池から得ていますが、燃料電池車では燃料電池から得ているという違いに過ぎません。つまり、通常の蓄電池と燃料電池のどちらが効率的かという問題に単純化することが出来ます。

 下図に、電気自動車と燃料電池車のエネルギー・フローの概略を示しておきます。数値は連載Bの値を用いています。

図の数値は、電力供給システムが供給する電力量を100としたときの相対的なエネルギー量を表しています。図から明らかなように、通常の電気自動車(図の縦方向の流れ)に比較して燃料電池車の場合は、着色した「燃料電池システム」という迂回過程が必要になります。つまり、いかに技術的に改良が加えられても、水電解水素燃料を使う限り、燃料電池車のエネルギー利用効率が電気自動車のエネルギー利用効率を上回ることは理論的にあり得ないのです。
 しかも、電気自動車の供給電力に対する利用効率が85%なのに対して、燃料電池車ではわずかに22.9%なのです。全くお話になりません。
 米テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEOが『我々は、今まで様々な技術を実験的に試してきたが、燃料電池車に向かうべきではないと考えている。燃料電池車で必要となる水素ガスを作るのに要するエネルギーは、燃料電池から得られるエネルギーよりも多いし、水素ガスの貯蔵や輸送も困難だ。信頼性の高い再生可能エネルギーで発電できるEVと比較すれば、燃料電池車にはエコカーとしての勝ち目はないと思う。』というのは極めて妥当な判断です。日本以外で燃料電池車が普及することはあり得ないことです。

 よく考えて欲しいのですが、最先端技術を用いたエネルギー技術と、エネルギー供給という観点から効率的な技術とは全く次元が異なるのです。たとえ最先端の技術を使ったとしても、利用する自然科学的な現象そのものが低効率であれば、いくら努力しても自然現象の理想的な効率を上回ることは出来ないのです。
 大雑把な話として、エネルギー技術は単純な技術ほど効率が高いのです。迂回度が大きくなるほど、供給可能なエネルギー量は指数関数的に減少するからです。これは経済的な視点から見れば、低価格のエネルギー技術ほど効率が高く、高価なエネルギー技術ほど効率が低いとも言えます。燃料電池車やそれを支える水素ステーションが極めて高価格になることが、燃料電池車の総合的なエネルギー利用効率が極めて低いことを如実に示しているのです。


 燃料電池の場合、折角投入された高品位のエネルギーである電力を使って水素を作り、水素を圧縮し、燃料電池に水素を供給して、最終的にまた電気に戻しているのです。何とバカバカしいことをやっているのでしょうか!!最初から電気エネルギーを使えばよいだけの話です。こんなことは小学生でも分かる話です。
 燃料電池車をはじめとする新規のエネルギー技術の開発に携わっている多くの技術者は、細切れの技術の達成目標に対してだけに視野狭窄が起こっているようです。全体として燃料電池システムのような愚かな技術であることを見ないままに、ただ闇雲に技術の改良を行っているだけです。その結果、小学生にも分かるようなことがわからなくなっているのです。

続く→

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              炭化水素改質水素を用いた場合の燃料電池車の効率
No.975 (2015/01/26) トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカーB
                水電解水素を用いた燃料電池は低効率の蓄電池

No.976 (2015/01/27)個人情報管理に無頓着な大分県の県立高校New!

 久々に大分県の県立高校の問題です(笑)。県立高校を告訴したことで、一応区切りをつけたのですが、また出鱈目な県立高校の実体に出くわしてしまいました。

 私の娘はこの3月に県立高校を卒業します。年が明けて、高校から「卒業生台帳原簿」に個人情報を記入することを求められました。

  卒業生台帳原簿とは、文字通り当該県立高校の卒業生を記録する台帳であり、公文書でしょう。勿論これに必要事項を書くことに否応はありません…、と思ったのですが、その末尾に「※なお、現住所・郵便番号・自宅電話については、卒業後の同窓会活動に利用させていただくことをご了承ください。」との注意書きがあり、驚きました。
 卒業生台帳原簿という公文書に記録された個人情報を、たかが任意団体にすぎない同窓会に提供するなど言語道断です。ただでさえ同窓会名簿は個人情報の流出の元凶になっています。大分県下でも県立高校の同窓会名簿の流出情報が振り込め詐欺に悪用された事件は記憶に新しいところです。
 同窓会という任意団体は、当該県立高校卒業生の全員に参加する義務があるはずもなく、参加するもしないも自由の組織です。当然参加手続きにおいて何らかの意思確認の契約があるはずですから、そこで必要情報を記入させれば済むことであり、県立高校が公文書記録を提供する必要性はありません。
 同窓会が本来行うべき加入手続きをしていないからという、勝手な都合のために安易に公文書記録を提供するなど到底承服できないことです。同窓会に自らの意志で入会した人が、リスクを承知で個人情報を開示するのは勝手です。県立高校が公文書情報を同窓会に利用させ、それが流出することになれば、県立高校の責任は重いといわねばなりません。

 そこで娘の担任にこのままでは記入できない旨を伝えました。

 

 これに対して、県立高校の校長と、弁護士(にしては個人情報について無頓着でお粗末すぎますが…)であるという同窓会長の連名で次のような文書が届き、訂正された「卒業生台帳原簿」が添付されていました。

 

 高校は、抗議した私にだけ校長と同窓会長名の文書と訂正された卒業生台帳原簿を用意しただけでした。訂正された「卒業生台帳原簿」を見て、また驚きました。卒業生台帳原簿に必要な情報とは、卒業生の名前と生年月日だけだったのです。現住所、郵便番号、自宅電話は、同窓会が必要としていた情報だったのです。
 これはでたらめな話です。最初に渡された卒業生台帳原簿を見れば、保護者はそこに記入を求められた全ての情報が公文書としての必要事項だと了解して記入するのです。しかし実際には公文書としての卒業生台帳原簿に必要なのは氏名と生年月日だけであり、本来必要のない住所・郵便番号・電話番号という情報までを勝手に収集し、剰え、それは同窓会のために便宜をはかるための流用を前提としたものだったというのです。

 私は高校に電話し、教頭に卒業生台帳原簿で必要でない住所・郵便番号・電話番号を勝手に収集していたことを保護者全員に周知し、陳謝するように申し入れましたが、即答できないとのことでした。大分県教育庁高校教育課の足立課長補佐に対して、事実確認と陳謝するように指導するように申し入れを行いました。

 PTA問題といい、今回の同窓会問題といい、公立高校と任意団体との節度のない慣れ合いの組織運営には呆れ果ててしまうばかりです。

 

No.975 (2015/01/26)トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカーBNew!
水電解水素を用いた燃料電池は低効率の蓄電池

 前回検討したように、石油や天然ガスを改質して製造した水素を燃料とする燃料電池システムは、石油や天然ガスの持つエネルギーに対するエネルギー産出比でみると、最も低効率で劣悪なエネルギー供給システムであることが分かりました。炭化水素改質水素燃料を用いる燃料電池車の使用は全く無意味であることが分かりました。

 それでも燃料電池を推進しようという人たちは、石油や天然ガスはいずれ枯渇するのだから、ポスト石油エネルギーとして水素エネルギー、就中、燃料電池は重要なエネルギー供給システムだといいます。なんとバカバカしいことを言うのでしょうか(笑)。
 炭化水素改質ができなくなった場合、水素を水の電気分解で製造するとすれば、水素燃料の供給と燃料電池の運転は逆反応です。

 私の高校生の娘に、水の電気分解で水素を作って運用する燃料電池をどう評価するか聞いてみたところ「バカバカしい」ということでした。高校生であれば、化学反応に対する認識があります。高校理科でエントロピー増大則についてどこまで教えているかは不明ですが、あらゆる化学反応はエントロピーを増大させるため、化学プロセスの効率は100%にはなり得ません。したがって、どんなに理想的なシステムであっても、必然的に

水素燃料製造に投入した電気エネルギー水素燃料から得られる電気エネルギー

という関係になります。娘は「そんなことは中学生でも分かる」と言っていましたが…(笑)。つまり、水電解水素燃料を使用する燃料電池エネルギー供給システムは、エネルギーを生産することは出来ない、ただ浪費するだけなのです。こんな簡単なことがどうして理解されないのか、実に不思議です。

参考:燃料電池の理論効率



      僣°=286kJ/mol:エンタルピー(燃焼熱)
      僭°=237kJ/mol:ギブズエネルギー
      儡°:エントロピー
      T =25℃=298K:温度
      
      理論発電電力量 : 僭°=僣°−T儡°  ∴僣°>僭°
      理論発電効率 : ε=僭°/僣°≒0.83

 理論的には、水という液体を電気分解して水素を作るためにはエンタルピー僣°に相当する仕事量が必要です。
 また、水素から電気を取り出して水を生成するときには、エンタルピー僣°からエントロピー発生分に対するT儡°を差し引いたギブズエネルギー僭°を電力として取り出せます。

 つまり、損失のない理想的な場合であっても、水素の製造のために水の電気分解に投入した電気エネルギー量よりも燃料電池から得られるエネルギーは必ず小さくなるのです。これは技術の改良では乗り越えることの出来ないことです。
 燃料電池の発電効率が高いというのは、この理論効率ε=83%のことを指しています。しかし、現実の工業的な燃料電池の発電効率は反応温度などの条件に大きく変わり、燃料電池車に用いられるPEFC固体高分子形燃料電池の発電効率は40%、理論効率の半分程度です。
 

水電解水素製造のエネルギーコスト
 水H2Oの電気分解で水素H2を作る場合、H21モル作るために、理想的には電子が2モル必要になります。

 電子1個の電荷は

e-1.602176565×10−19C/個(C:クーロン=As:アンペア秒)

電子1モル分の電荷1Fd(ファラデー)は、

1Fd1.602176565×10−19C/個×6.02214×1023/mol96,485C/mol

H21モル作るために必要な電荷は、

2Fd2×96,485C/mol192,970As/mol.

 したがって、H2の分子量は2(=2g)なので1kg製造するために必要な電荷の量は

192,970As/mol×500mol/kg96,485,000As/kg

 アルカリ水電解槽における電気分解では、電解電圧は1.72.2Vで操業しているようです。電解電圧を2Vとした場合、H21kg製造するために必要な仕事量は次の通りです。

96,485,000As/kg×2V192,970,000Ws/kg193MJ/kg

 理論的には水の電気分解で水素H2を製造するために必要な電力量は、1kgあたり次の通りです。

286kJ/mol×500mol/kg=143,000kJ/kg=143MJ/kg

工業的にアルカリ水電解法で水素を製造する場合には、理論的な仕事量の193/143≒1.35倍の電力が必要だということです。
 製造した標準状態の水素を350気圧まで圧縮するために必要な仕事は、JHFCの試験結果の値13.79MJ/kgを使用すると、アルカリ水電解法による350気圧高圧水素製造に投入される電力による仕事量の合計は、

W193MJ/kg13.79MJ/kg207MJ/kg

 実際には、水電解プラントの建設・操業・維持には更にエネルギーの投入が必要ですから、250MJ/kg程度が現実的な値ではないでしょうか。

 前回同様、350気圧水電解水素燃料1kg当たりのエネルギー収支をまとめておきます。

投入電力量 水電解 236.21MJ
圧縮 13.79MJ
産出エネルギー量(電力量) 57.2MJ
エネルギー収支 57.2−250=−192.8MJ
エネルギー産出比 57.2÷250=0.229

 

エネルギー技術としての意義
 エネルギー技術において、エネルギーの利用効率を犠牲にしてエネルギーの質を高くするプロセスには意味がある場合があります。
 例えば、内燃機関のように、石油燃料の熱エネルギーを熱機関に投入することによって、力学的なエネルギーにする場合や、火力発電のように石油燃料の熱エネルギーを電気エネルギーに変換する場合です。
 しかし、入力エネルギーと出力エネルギーの質が同一の場合、入力エネルギーよりも出力エネルギーが小さくなるようなシステムは無意味です。

 エネルギー産出比で比較すると、前回示した灯油改質水素を利用した燃料電池の場合と今回示した水電解水素を用いる燃料電池は大差ありませんが、その意味する内容は全く違っています。灯油改質の場合、灯油の持つエネルギーは地下資源である原油がもともと保有していたものですが、水電解に投入される電力は工業製品なのです。

 前回示した灯油改質水素を利用した燃料電池の場合には、最終的に得られる電力による仕事量である57.2MJ/kgに対して、自家消費分の23.3MJ/kgを差し引いても、電力量の収支は33.9MJ/kgだけプラスでした。
 ところが、今回示した水電解水素を利用した燃料電池の場合、自家消費分の電力量は
250MJ/kgであり、電力量の収支はマイナス192.8MJ/kgという値になります。つまり、水電解水素を用いる燃料電池は、電気を浪費するだけであり、全く無意味だということです。

 それでも、電力を使って水素を製造することで、移動用の動力源として利用できるという利点があると主張するかもしれません。しかし、それならば燃料電池車の代わりに電気自動車に電力を投入すれば、リチウム電池の効率から、投入電力量の85%程度、

250MJ/kg×0.85212.5MJ/kg

が有効に利用されます。これは燃料電池車の212.5÷57.23.7倍程度の仕事ができることを意味しています。

 以上の検討からの結論は以下の通りです。

@水電解水素を用いた燃料電池システムは、他に優秀な電力供給システムが存在しない限り運用することは出来ず、勿論、エネルギー収支がマイナスなので独立したエネルギー供給システムにはならない=ポスト石油のエネルギー供給システムにはなり得ない。

A水電解水素を用いた燃料電池システムを「蓄電装置」として考えると、リチウム電池に比較して1/3.70.27倍という低効率であり、無意味である。蓄電装置としても燃料電池を使うことに意味は無い。

 今、水素社会として構想されているのは、自然エネルギー発電によって得た電力で水素を製造して燃料電池を利用するというものです。
 ここでは自然エネルギー発電の効率には詳しく触れませんが、既に見てきたように自然エネルギーで得た電力を自動車駆動用に使うならば、燃料電池車ではなく電気自動車に投入するほうがはるかに電力の利用効率が高いのです。燃料電池車は運用時に排気ガスとして水蒸気しか出さないといいますが、電気自動車であればあらゆる排気ガスを出さないのです。

続く→

No.972 (2015/01/19) トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカー@
No.974 (2015/01/22) トヨタ=政商となった亡国の自動車メーカーA
              炭化水素改質水素を用いた場合の燃料電池車の効率

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