No.860 (2013/05/26)ふざけた米国・オバマの人権感覚

 民主党のオバマが米大統領に就任した時、日本の核廃絶運動の指導者・知識人たちは核軍縮・平和主義に期待を持ち、歓迎しました。このHPでは、オバマに過大な期待を寄せてはならないと述べてきました。
 客観的に見れば、第二次世界大戦後の世界の戦争犠牲者の大部分は朝鮮半島、ベトナム、中東地域において帝国主義米国による“防衛”の名の下に行なわれた侵略戦争によって殺された人々であることは誰の目にも明らかです。オバマは米帝国主義の総帥なのです。

参考 
No.483(2010/07/05)米帝国主義総帥オバマと売国米傀儡政権首相菅直人

 オバマは、前大統領G.W.ブッシュによって開始された“テロとの戦い”=アフガニスタン〜イラクへの侵略戦争を引き継ぎ、今なお中東地域で一方的にテロリストというレッテルを貼り付けた組織の掃討のための虐殺を続けています。この一連の戦闘では、劣化ウラン弾による攻撃に始まり、無人兵器による虐殺が行なわれています。パキスタンでは主権を無視して米軍の無人機による一方的な虐殺が繰り返し行われていることを既に報告しました。

参考 
No.529(2011/02/23)暴走する科学技術 そのG軍需技術と民生技術の融合
No.749(2012/05/01)米国無人機によるパキスタン爆撃

 英国の非営利団体「調査報道局」によると、米中央情報局(CIA)による無人機攻撃で、パキスタン国内では2004年以降に最大約3500人が死亡。うち884人は民間人とみられるということです。パキスタン政府は、主権を無視した米国によるパキスタン領内における無人機による殺戮を「主権侵害であり、国際法にも触れる非人道的な行為」として非難しています。
 テロリズムとは何でしょうか?本来的な意味は、非合法の組織的暴力の行使によって相手に恐怖心を与えることで自らの主張に従わせようとする考え方のことです。米国や日本の愚かなマスコミの言う“狭義の”テロリストとは、欧米にとって都合の悪い非国家武力集団に参加して抵抗運動を行う者のことを指しているようです。
 しかし、これは誠に身勝手な呼び名です。例えば“アラブの春”において、反政府の暴力的な活動によって政権を転覆した運動も非合法の組織的暴力であり、本来的な意味ではテロリズムですが、欧米諸国にとって都合の良い時にはこれを“民主化運動”と報道し、場合によっては自ら軍事援助しています。
 欧米の国家的な正規軍による軍事行動は正義であり、これに対抗する中東の非政府武力闘争が悪などというのはまったく何の根拠もない思い込みなのです。欧米の干渉によって傀儡政権が樹立された地域では、抵抗運動は必然的に非国家組織が行うことになるのです。中東産油国地域などの反欧米の抵抗運動が発生するのは、この地域への欧米諸国によるエゴイスティックで非人道的な侵略の結果なのです。

参考 
No.292(2007/09/25)シリーズ・テロ特措法批判@
No.293(2007/09/27)シリーズ・テロ特措法批判A
No.294(2007/09/29)シリーズ・テロ特措法批判B
No.295(2007/10/01)シリーズ・テロ特措法批判C
No.296(2007/10/03)シリーズ・テロ特措法批判D
No.297(2007/10/12)シリーズ・テロ特措法批判E番外編

 そして今またアメリカは無人機を使って、テロリストというレッテルを張ってパキスタンやその他の中東地域で非戦闘員を含む無差別の虐殺を続けているのです。

 パキスタンで主権を無視して行なわれている米軍無人機による民間人を含むテロリスト虐殺作戦に対して、オバマは米国に対するテロ攻撃に対する“正当防衛”であり、合法であり、今後も作戦を継続するとしました(2013.5.23)。
 ふざけたことを言ってはいけません。地勢的にパキスタン国内にいる“テロリスト”がどうして米国に対する差し迫った脅威なのでしょうか!これを正当防衛というならば、あらゆる侵略戦争は正当防衛の名の下に正当化されます。しかも、民間人を含む無差別爆撃を行う無人機は、パキスタンから遠く離れたネバダ州にあるインディアン・スプリングスの基地で、ディスプレイとキーボードを使って操作されているというのです(写真参照)。
 何というグロテスクな虐殺なのでしょうか。無人機を操作するオペレーターは戦場から遠く離れた安全な場所で、幸せな家庭を持ち、定時にオフィスに出勤してディスプレイを見ながら“テロリスト”を追い詰め、ミサイルを発射して殺人を実行する…。無人機による虐殺は、ナチスドイツによるガス室による虐殺にも通じる、異様な光景です。

 もし日本が憲法を改正して軍隊を保有することを合憲とすれば、日本は名実ともに米国の軍事同盟に引きずり込まれ、防衛の名の下に行なわれる米国の侵略戦争・虐殺行為に加担させられることになるのです。テレビゲーム化された現実感のない無人兵器による虐殺行為の加害者にならないことを願わずにいられません。

No.859 (2013/05/25)驕る安倍晋三の悪ふざけ?!

 どういうわけか、この国のオメデタイ大多数の有権者は、“アベノミクス”による実体経済の伴わない投資バブルで一見好調に見える景気に浮かれて、救世主安倍晋三に記録的な高支持率を与えています。一昨日はバブルが小爆発を起こしたようですが、どう見てもこの景気はそう長くは持ちそうにありませんが…。

 高支持率に浮かれた安倍政権は、参議院選まではおとなしくしているつもりだった当初の予定を変更して、衣の下から鎧が見え始めています。どうせならば参議院選までにその本性を表して欲しいと思うところです。彼の浮かれた気分を示す二つの写真を紹介します。

 左の写真は自衛隊の練習機に乗り込みはしゃぐ安倍晋三です。その機体番号“731”はある程度の年齢の日本人であれば、第二次世界大戦期の大日本帝国陸軍に存在した研究機関のひとつである関東軍防疫給水部本部、通称七三一部隊の“悪夢”に直結する数字です。
 そして右の写真は、日本で最も右翼的な球団である読売巨人“軍”に在籍していた二人の元野球選手が揃って国民栄誉賞を受賞した記念のセレモニーに参加してはしゃぐ安倍晋三です。アンパイヤ役として登場した彼は背番号96をつけていました。折しも、憲法96条改正を実現しようという野望を持つ彼のデモンストレーションなのでしょう。
 一つの出来事ならいざしらず、二つ続けば何らかの明確な意図を感じるのは、私だけではないのではないでしょうか。

註:731部隊
初代部隊長の石井四郎(陸軍軍医中将)にちなんで石井部隊とも呼ばれ、多数の軍医によって防疫研究のみならず、細菌兵器の研究・開発を行なっていた。戦時中の敵軍捕虜に人体実験を行い、夥しい犠牲者を出した。人体実験に供される捕虜を“マルタ(丸太)”という隠語で呼んでいた。人体実験や細菌兵器の研究成果を米軍に渡すことと引き換えに極東裁判では無罪となったとも言われている。詳しくは森村誠一著『悪魔の飽食』などを参照。大分協和病院の医師、山本真氏による元731部隊少年兵からの聞き取りの記録がネット上で読める。

No.858 (2013/05/23)橋下の慰安婦発言C〜読者へのメール

 正直、橋下の発言を半ば肯定するような記事を書けば、批判のメールが殺到するのではないかと怯えて(笑)いましたが、さすがにこのHPの読者諸賢は冷静・論理的に内用を把握してくださったようで、好意的な反応が多かったことは嬉しい限りです。頂いたメールへの私の返信を紹介することで、記事の内容を補足してこの連載を終わることにします。

 まず、女性読者から頂いたメールへの私の返信を紹介します。


***** 様

 HPをご覧いただき有り難うございます。私は維新の会や橋下の極右思想はとても危険なものだと感じています。ですから基本的に私のHPでは橋下は悪者です(笑)。しかし、だからと言って彼の言っていることを全て否定するつもりも毛頭ありません。
 慰安婦問題についての彼の発言を冷静かつ論理的に理解しようとすれば、一体どこが問題なのかわからないのです。

 欧米各国や韓国では橋下バッシングが起きていますが、一体何を批判しているのかわかりません。
 日本軍の中国戦線での非戦闘員の女性に対するレイプと凄惨な虐殺は震撼すべきものです。本多勝一の「中国の旅」という書籍に詳しいですが、妊婦を強姦した後に虐殺し、腹を割いて嬰児を引きずり出すなどという行為を、“ごく普通の日本人”が行なっているのです。戦場や軍隊の異常性は個人ではどうしようもない、これを避けるためには軍を持たず、戦争をしないことしか無いと考えています。
 太平洋戦争では従軍慰安婦として被害を受けた韓国も、ベトナム戦線では太平洋戦争における日本軍同様、ベトナムのおびただしい数の非戦闘員の女性をレイプし、虐殺したことが明らかになっています(その数、数万人という)。
 最近でも米軍は、アフガニスタン〜イラク戦争で同様に非戦闘員の女性に対してレイプ・虐殺を行なっていることはご存知の通りです。またHPに書いた通り、軍内部でのレイプ事件も凄まじい数に登っています。

 軍隊あるいは戦争とレイプ・虐殺はほとんど不可分の関係にあることを否定出来ないと考えます。この問題に関しては、橋下も言う通り、他国もやっているから日本が免責されるという事柄ではなく、すべての国がこの問題を直視すべきだと考えます。

 この橋下の問題提起に対して、日本の政治家、特に女性の政治家にはリアリティーがなさ過ぎます。性に関する問題はなるべく触れないでおこうというような従来の対応では、いつまでたっても問題は解決されません。橋下が言う通り、日本社会では合法的な風俗業が認可されているのですから、それを利用するように進言することには何の違法性もないはずです。合法的な風俗業やその従事者そのものを蔑視するような女性議員たちの発言こそ、職業差別の偏見というべきでしょう。
 現実問題として、日本の米軍基地周辺では米兵によるレイプ事件が数多く発生しているのです。この犯罪被害を未然に防ぐための方策として、合法的な風俗業を利用するというのは、極めて合理的だと考えます。

 橋下の提案に不快感を示す米国は、あまりにも橋下の指摘が的確すぎ、米軍の戦場や軍隊内での性にまつわる不祥事に対して日本を始めとする諸国の注目が集まることを嫌っての対応にすぎないのです。日本のマスコミは骨の髄まで米国傀儡ぶりを示しているようです。

近藤邦明


 次に、男性読者から頂いたメールを紹介します。


近藤 邦明さま
                   ++++

 以下に記された、貴殿の論考 読ませて頂きました。確かに、知識人と称する人達の反応みて反吐がでる思いしたのは、私も同じです。

 橋下氏は、沖縄の現状認めたうえでの発言と思われ、若い兵士の性欲処理方法として、風俗業がある限り、それを利用してはと提案したのは、それほど可笑しいとは思えませんが、彼がほんとうにそう思うのなら、「日本維新の会」所属国会議員を通して、総理に「質問主意書」を出し、事の是非問うべきであったと思われます。

 以下 私の思うこと、挟み込みで書いておきます。 

●沖縄だけで、婦女暴行事件が起こっているのではありません。韓国でも起こっています。「本当は憲法よりも大切な日米地位協定入門」(創元社)に書かれています。

橋下氏が、ずるいと思うのは、なぜ米軍基地 アメリカ本土に移設せよといわなかったかです。日米地位協定が「韓美地位協定」と比べても、米兵が起こした犯罪に対して、捜査権 制約されていることにあります。弁護士である橋下氏 ここをつくべきでした。アメリカに基本的には媚びへつらう姿勢かえずに、意表をつく(?)発言したことにあります。

   [註] 「美」=「米」

●その通りと思われます。沖縄県民にとって、殺人集団である軍隊をせめて沖縄から出て行けということ、現実化すべきです。それは米軍基地を「国外へ移設、少なくとも県外へ移設」と言った鳩山総理の発言の意味再考すべきで、橋下氏は大阪府知事の頃 「大阪でも引き受けなければならない」と云い、すぐ前言翻し顰蹙を買ってること、見るべきと思われます。

●私も絶対平和主義です。米軍基地移設しても、日本の安全に支障きたすことはないと思います。USAと本気で交渉するのか否かに係っています。

こういう事実(参考:世界の趨勢は売春の合法化に向かいつつある:近藤註) 日本では知っている人 殆ど居いないというか、物知りインテリが嫌うので、知らされていないのかも知れません。


 このメールに対する私の返信を紹介します。


++++ 様

 メールを有り難うございます。私のHPでこのような内容を書けば、私自身がバッシングを受けることになると思いながらも、書かなければならないと思った次第です。

 軍と性欲の処理装置以前の問題として、人間社会と性労働、売春行為についての問題は以前から気になっています。善悪の問題ではなく、人間社会あるいは生物にとって根源的な営みであり、タブー視していては何の解決にもなりません。生物的に根源的な営みであり、人間社会が貨幣経済であれば、必然的に売春行為は必ず存在します。日本、そしておどろくべきことに米国では売春行為が違法ですが、実質的には売春行為が氾濫していることはみんなが知っているという、おかしな状況になっています。
 日本における性をめぐる今日的な最大の問題は、売春が違法であるから社会的に存在してはならないという建前であるために、現実を直視したくない、触れたくないという意識があるために、これを正面から議論できない状況になっていることだと考えます。規制する警察も大変だと思います(笑)。
 一方、現実にはネット情報が自由に使える環境下で、アルバイト感覚の売春の低年齢化、一般の婦人への拡大、総じて性モラルの低下が拡大しているように感じます。
 動物の根源的な欲求である性欲を抑圧することは本来無意味であり、一方で社会的な秩序を維持するためには、何らかの制御システムが必要だと考えます。現在の基本システムの一つが日本も含めて、一夫一婦制の婚姻制度です。単身者などを含めて、婚姻制度を補完するために社会的にどのようなシステムを利用すべきかという、現実的な問題として捉えるべきだと考えます。その一方で、性モラルについての教育、性労働者への差別や偏見が生じないようにすることも重要だと考えます。

 私は橋下維新の会という極右政党は絶対支持できません。日米安保条約、在日米軍の肯定、自衛隊の国防軍化を求める彼らの主張には絶対反対です。++++さんも言われる通り、駐留米軍による日本人レイプ事件をなくすためには、米軍を日本から排除することが根本的な解決策であるという点には、橋下は触れません。これが彼との違いです。

 ただ、先日の女性国会議員たちのような現実を見ない理想論では問題は何も解決されません。彼女たちは大多数の民衆が聖人君子であるとでも思っているのでしょうか?浮世離れした彼女たちの主張は何も生み出さないように思います。
 社民党であれば、日米安保に反対ですから、究極的には駐留米軍の排除を目指すとしても、現実には米軍基地周辺の民間人女性に対するレイプ事件が繰り返しているのですから、米軍に対して米兵の性欲コントロールを要求し、具体的・合法的提案として風俗業の利用を提案した橋下のほうがむしろ建設的な提案をしていると考えます。
 彼女たちの主張は、性風俗に触れるような発言は先進国に対して恥ずかしいという自虐的で現実と乖離した認識であり、そして性労働に対する偏見に満ちているように思います。

近藤邦明


追記(2013.05.25)
 昨日、橋下は米軍司令官に対する風俗業の利用の提案について、米国に対して謝罪してしまいました。++++さんのメールに『アメリカに基本的には媚びへつらう姿勢かえず…』とある通り、橋下維新の会の米国傀儡ぶりの限界が透けて見える対応でした。所詮これが彼の限界なのでしょう。

No.857 (2013/05/18)橋下の慰安婦発言B〜米国の反応と無能なマスコミ

 日本のマスコミは今のところ橋下バッシングが中心のようです。橋下が言うように、私も橋下の発言のどこをどう読んで批判が行なわれているのかわかりません。誤読・曲解のたぐい、為にする批判が蔓延しているように思います。相変わらず愚かな日本のマスコミは自ら橋下発言を論理的に検証して批判するのではなく、「超党派の女性国会議員が批判・・・」という無責任で無意味な論評ばかり繰り返しています。そして今度は米国の報道官が初めて公式に批判したと、鬼の首でもとったような記事です。
 米国の立場としては、米兵の日本人民間人女性に対するレイプ事件という、最も触れられたくない恥部について、正面からこれを是正するように求める橋下の現実的な提案を、ハイそうですね、使わせていただきますと言えば、『常に正しくあるべき米海兵隊』の軍規の乱れを認め、人権の国としてはあってはならない性的な欲求の処理システムの必要性を認めることになりますから、本音はともかく建前としては対日的には絶対に認めたくないのでしょう。しかしこれを無批判に報道する日本のマスコミは泥棒の一方的な言い分を報道しているようなものです。米国の立場を報道した記事を紹介します。


日本経済新聞
米報道官、慰安婦発言「不快だ」 橋下氏は反論
2013/5/17 10:53
【ワシントン=共同】
 米国務省のサキ報道官は16日の記者会見で、従軍慰安婦は必要だったとした、日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長による発言について「言語道断で不快だ」と非難した。

 橋下市長の発言をめぐっては、在日米軍に風俗業者の利用を求めたことに絡んで米国防総省のリトル報道官が、米軍が買春を拒否するのは「言うまでもない」と述べていたが、米政府当局者が公式の場で正面から批判したのは初めて。

 これに対し、橋下市長は17日、「米国は日本占領期に日本人女性を活用した。(日本人を)特殊な人種と批判するが、それは違う」とツイッターで反論した。

 サキ報道官は従軍慰安婦について「性を目的に人身売買された女性たちの身に起きた出来事は嘆かわしく、とてつもなく重大な人権侵害であることは明白だ。犠牲者に心から同情する」とも指摘した。

 その上で報道官は「日本が過去に起因するこれらの問題の解決に近隣諸国と共に取り組み続け、前に進むことができるような関係を構築することを期待する」と述べ、日本が歴史認識問題を克服するよう促した。

 報道官が強い表現で橋下市長の発言を批判した理由について、国務省当局者は「非常に不快な発言についてコメントを求められたからだ」と説明。「(国務省の)建物の中にいるみんなが腹を立てている」と述べた。

 サキ氏はヌランド氏の後任の女性報道官で、13日に初の定例記者会見に臨んだ。
http://www.nikkei.com/article/DGXNSSXKF0166_X10C13A5000000/


 従軍慰安婦という形ではなくとも、米国も含めて多くの国の軍隊において形態は様々ですが兵士の性的な欲求を解消する何らかのシステムを用意していたことも橋下の言うとおりです。サキ報道官の批判はそのまま米軍にも向けられなければ、橋下の言うとおり、アンフェアでしょう。だからと言って過去の日本の従軍慰安婦制度が免罪されることはないことは橋下も繰り返し述べており、サキ報道官の“性を目的に人身売買された女性たちの身に起きた出来事は嘆かわしく、とてつもなく重大な人権侵害であることは明白だ。”という主張と変わるものではなく、何を批判しているのか不明です。
 しかし問題は現在です。米軍の性的な問題による軍規の乱れは甚だしい状況であることは前回紹介した通りです。それが軍内部におけるレイプ事件にとどまらず、イラク戦争でも民間人や捕虜に対するレイプ虐殺事件が起き、在日米軍基地周辺では民間人女性に対するレイプ事件が跡を絶たないのです。このような軍規の乱れについてはオバマも放置することが出来ず、次のように報道されています。


jiji.com
軍内の性暴力根絶を=国の安全「危険にさらす」−オバマ米大統領

【ワシントン時事】
 オバマ米大統領は16日、ホワイトハウスにヘーゲル国防長官やデンプシー統合参謀本部議長ら国防総省・米軍の幹部を集め、軍内部で頻発している性暴力の根絶に向け、対策を強化するよう指示した。
 大統領はこの席で、「制服を着た男女がチームとして働くことができるのは、信頼を基礎としているからだ」と指摘。さらに「性暴力はこうした信頼を損ねて軍の実動能力を低下させ、国家の安全を危険にさらす」と述べ、性暴力の防止担当部門の訓練強化や、報復を恐れず被害を訴えられる環境の整備、厳罰の徹底を図るよう命じた。(2013/05/17-11:38)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2013051700372


 米軍のレイプ事件の被害者である日本にしてみれば、事件が起こらないように米軍に対して兵士の性欲のコントロールを要求することは当然であり、そのための一つの具体的現実的な提案が風俗業の利用であったということです。橋下の提案を“不快”というならば、しっかりと米兵の性欲のコントロールを行いレイプ事件を根絶する具体的なプランを示すべきでしょう。少なくとも、軍内外で性的な問題を頻発させておきながら橋下の提案を不快などというのは盗人猛々しいというべきでしょう。

 今、TBS系列の『サンデーモーニング』という番組で橋下発言が取り上げられています。単なる橋下バッシングであったものから少し変わって、橋下の言うことは誤りではないが、他国の反日感情、特に米国の感情を刺激するような発言であり、“国益に反する”という主張に変わってきたようです。なんと卑屈な態度なのでしょうか。現実を見てください。過去の問題ではなく、今現在、日本駐留米軍によって日本の民間人女性たちがレイプ被害を受け続けているのです。この被害を根本的になくすには在日米軍基地を全廃することであり、それまでの次善の策として何らかの米兵の性欲のコントロールを求めることは、現実的であり、あまりにも当然すぎる要求だと考えます。

続く→

No.856 (2013/05/17)橋下の慰安婦発言A〜日本の女性議員の反応

 昨日、日本の超党派の女性国会議員が橋下の慰安婦に関する発言に対して抗議の共同会見を行いました。まずその報道を紹介します。


女性国会議員ら 橋下氏の発言を相次ぎ批判

2013年05月16日 19:28

 日本維新の会の橋下徹共同代表の従軍慰安婦問題に対する発言や在日米軍沖縄司令官との会話での性的エネルギー発散を意図した風俗業活用を促すような発言などに対し、民主、社民、生活などの女性国会議員が超党派で16日、抗議の記者会見を行った。

 橋本氏と同じ大阪を地盤としている辻元清美衆議院議員(民主党)は「大阪の子どもをグローバル人材に育てると言ってきた人がグローバルな人権感覚がないということを世界に知らしめたということで大変恥ずかしい」と厳しく批判。

 辻元議員は「(橋下発言は)戦争遂行に女性の性を利用することを肯定したに等しく、女性の人権侵害だけでなく、男性に対する侮辱であり、男とはそういうものと言わんばかりの発言で、大阪の恥だと思う」と非難した。

 蓮舫参議院議員(民主党)も「大阪市民を代表する市長として、公党の代表として、橋下発言は時代錯誤も甚だしい、暴論」と批判。「米軍のオペレーションに口を出すことは外交的に大変な損失であり、一日も早く謝罪、撤回し、自らの立場を市民に問うくらいまで考えるべきだ」と国益を損ねる発言との認識を示した。

 社会民主党の福島みずほ党首は前日に党としての談話も発表しているが「日本軍の軍事的性的奴隷問題がアジアの女性の人権を剥奪し、女性の尊厳と名誉を深く傷つけたことへの思慮も、軍や基地の構造的問題だという認識も持ち合わせていないもので、言語道断」とし、発言の撤回とすべての女性に対する謝罪が必要とした。(編集担当:森高龍二)


 女性議員たちの批判は、感情が先に立っているようで、橋下のどの発言を指して批判しているのかよくわかりません。もう少し具体的、論理的な批判が必要です。推測の域を出ないのですが、彼女たちの意見を検証してみます。
 女性議員たちの橋下批判の焦点は次の2点のようです。
@戦争遂行のためには軍隊の規律を維持するために兵士(男性)の性欲を女性によって解消するすることが有効であるとした認識。
A米海兵隊に対して兵士の性欲解消のために日本の合法的な風俗業の利用を進言したこと。


●辻本議員:“戦争遂行に女性の性を利用することを肯定したに等しく、女性の人権侵害だけでなく、男性に対する侮辱であり、男とはそういうものと言わんばかりの発言”
 橋下は、戦争遂行に女性の性を利用することを肯定した、と言うよりもそのような事実があったという歴史認識を示しています。
 辻本は女性の人権侵害を問題にしていますが、大部分の兵士もまた徴兵制度によって人権を蹂躙され、個人の意志に反して強制的に軍隊に徴用され、殺し合いの場に連れて行かれています。兵士は男性に限らないのですが、女性議員たちは兵士≒男性と認識しているようです。辻本の表現を借りれば、“戦争遂行に男性の全肉体と生命を利用している”ということになります。
 そして軍隊という大半が男性という異様な集団、しかも明日の命も保証されないような極限状態の精神的重圧を受けている集団の精神的な安定を維持するために、ストレスを緩和する手段として性欲の開放が有効であることは生理的な事実だと考えます。辻本は“(性欲の開放によって精神的な安定を得るという認識は)男性に対する侮辱であり”と述べていますがこれはお門違いであり、橋下の認識のほうが事実であると考えます。
 女性議員たちは生身の人間をあまりにも理想化しているように感じられます。大部分の人間は俗な生き物であり、悟りを開いた聖人のように生理的な欲求を精神的におさえ込めるわけではありません。それは男性も女性も同じです。女性議員たちははじめから女性が性的虐待の加害者になることを想定していないように見えます。しかし実際には、つい最近のアフガニスタン紛争〜イラク戦争において、アブグレイブ刑務所において米女性兵士による捕虜に対する性的虐待があった(勿論、女性捕虜に対する男性兵士によるレイプは日常的だったようです。)ことが報道されているように、女性が性的な虐待の加害者になりうることを理解しなければなりません。


 辻本の橋下批判の論点は何なのでしょうか?@男性が恋愛関係あるいは婚姻関係にない女性と性的な関係をもつことを批判しているのか、A兵士に対して性的なサービスを行う女性の存在そのものを批判しているのか、B人権を蹂躙され暴力的・強制的な行為を強いることを批判しているのか、判然としません。
 辻本の主張が以上の3点であれば、私が問題と考えるのはBだけですが、橋下は少なくとも私が聞いた範囲では人権侵害や暴力的・強制的な性労働を肯定してはいないようであり、批判する意味が不明です。

●蓮舫議員“米軍のオペレーションに口を出すことは外交的に大変な損失”
と言っている内容は、米海兵隊の司令官に風俗業を利用して兵士の性欲を解消することを進言したことですが、レイプ事件を減らすために合法的な風俗業の利用を進言することが批判の対象になることが理解出来ません。実際に日本の米軍基地周辺でレイプ被害が後を絶たない現実を見れば、綺麗事ではなくその被害を減らすための合法的・現実的な方策の一つであると考えます。
 おそらく米軍の司令官は、橋下の発言が米軍内における頻発する性的な暴力事件という恥部に触れる本質的な指摘であったことを不快に思ったのだと考えます。


 女性兵士の33.5%が米軍内でレイプされ 63.8%が性的いやがらせを受けた

 『毎日新聞』(3月19日付)の「イラクは今:開戦10年 米女性兵3割レイプ被害 軍内部、公聴会ようやく」という記事によると、「米英軍主導の侵攻から20日で10年を迎えるイラクや国際部隊の駐留が続くアフガニスタンに派遣された米女性兵士延べ28万人の3割以上が、上官らから性的な暴行を受けていたことが分かり、米国内で『見えない戦争』と問題視されている。連邦上院の軍事委員会で13日、『軍内性的トラウマ(MST)』と呼ばれる心的ストレスに関する公聴会が初めて開かれた。新たな被害を恐れ沈黙を余儀なくされてきた被害者は『風穴が開いた』と歓迎している」、「カリフォルニア州図書館調査局が昨年9月に発表した実態調査によると、イラクとアフガニスタンに派遣された女性兵士の33.5%が米軍内でレイプされ、63.8%が性的いやがらせを受けたと回答した。国防総省も問題を認めている。軍内での性的暴力は2010年だけで、男性の被害も含め推計1万9,000件にのぼる」とのことです。

 被害申告が出ているのは17%にすぎない
 その上、軍内性暴力の申請の32%しか認められていない
 ホームレスの女性退役軍人のうち39%が性暴力被害者

 さらに、この記事では、「被害申告が出ているのは17%にすぎない」ことや、イラク戦争で上官から性的暴力を受けたコーリン・ブッシュネルさん(39)が「上官を訴えても自分を助けてくれる人がいると思えなかった」と精神的なバランスを崩し、06年に退役。2人の子供がいる家には帰れず、「自分が恥ずかしく、行く場所がなかった」と5年近くホームレス生活を続けたことなどが告発されています。その上、退役軍人庁の2011年の統計によると、ホームレスの女性退役軍人のうち39%が軍内性暴力の被害者になっているのですが、軍内性暴力の申請の32%しか認められていないとのことです。

米兵の性暴力は1日平均52件
米軍基地の外の一般住民に及び、沖縄は世界最悪

 さらなる大きな問題は、米兵の性暴力というのは、軍内性暴力だけに限らないということです。米国防省の「米軍の性暴力に関する年次報告」(2011年度版)によると、2011年度内に申告された性暴力は3,192件で、過去10年間で最悪だった2009年度の3,271件に匹敵しています。しかもこの米国防省の報告では、申告されていない性暴力も含めれば約1万9千件になり、1日平均で52件にも達することが指摘されています。1日平均52件ということは、米兵による性暴力は27分に1件も行われていることになります。

 2012年6月に米海軍省が公表した報告書によると、2011年度に沖縄の海兵隊基地群で申告された性暴力事件は67件で、2番目の件数となる他国の米軍基地の発生率の2倍以上にもなっています。米軍基地内の被害者の多くは女性兵士ですが沖縄の米軍基地には多くの日本人従業員が勤務しており、日本人が被害者となるケースも生まれています。

 米軍基地内に蔓延する性暴力は基地の外の一般住民にも及んでいます。警察庁によると、1989年から2011年までの23年間で、米兵による強姦事件の検挙件数は全国で55件(67人)となっていて、半数を超えて集中している沖縄県29件(33人)、神奈川県12件(18人)、長崎県6件(8人)と続いています。

(以上、http://webronza.asahi.com/bloggers/2013032200004.htmlより引用)


 繰り返しますが、戦争において軍隊に徴兵されて人権を無視して戦地に強制的に投入される兵士、そしてその兵士たちの性欲の解消のために人権を無視され強制的に性労働に従事させられる人、捕虜となって虐待される人、そして民間人全てが犠牲者です。皆が犠牲者ですが、中でもより弱い方に犠牲のしわ寄せが集中するというのが悲しい戦争の実態です。

 従軍慰安婦の問題の本質は、こうした戦争における人権侵害という構造的な問題の一つの側面である強制的性労働の問題だと私は解釈しています。これだけを特別視するのは無意味な気がしてなりません。戦争、そしてこれを遂行する異常な集団である軍隊組織を放棄することだけがこの問題の解決策だと考えます。私は平和憲法を堅持することだけがこうした悲劇を回避する道だと考えます。
続く→

No.855 (2013/05/14)橋下の慰安婦発言

 昨日来、橋下大阪市長の慰安婦に関する発言が物議を醸しています。強制的・暴力的な人権を無視した慰安所の経営はもちろん許されざることです。しかし彼の慰安所というシステムに対する認識は、必ずしも間違ったことを発言しているわけではないように思います。むしろ、橋下発言に対して女性の人権をなんだと思っているだとか、慰安所が存在したことを認めるような橋下発言は命を賭けた兵士や戦死した兵士たち英霊に対する冒涜だなどと聖人ぶった綺麗事だけを並べるジャーナリスト(例えば大谷 昭宏など)のほうが歴史に対して不誠実であり、反吐の出る思いです。与野党の政治家までが橋下発言を批判する綺麗事を並べていますが、どうなのでしょうか?
 橋下が沖縄の米海兵隊の司令官に風俗業を活用するよう進言したことを批判するマスコミも多いようですが、果たしてそうとばかり言えるのでしょうか?橋下が言うように日本社会で公認されている風俗業という存在をマスコミや政治家は一体どう位置づけているのでしょうか?
 歴史的に、近代戦争において洋の東西を問わず、公娼、私娼を含めて兵士の性的な欲求の処理システムが存在したことは否定しがたい事実です。軍隊という殺人を職業とする異常な集団の規律を維持するためには、事の良し悪しは別として、安全装置の一つとして性的な欲求を処理するシステムが有効なのは事実でしょう。沖縄では、米兵による婦女暴行事件が繰り返し起こっているのはなぜなのでしょうか?
 公娼か私娼かそしてどのようなシステムで運営するかは色々な場合があるでしょうが、戦争状態、軍隊という異常環境で長期間人殺しに従事する兵士集団の精神的な安定を維持するためには、現在も、そして未来においても影のように存在し続けるのではないかと考えます。性的な欲求の処理システムが良いか悪いかなどという問題より、殺人集団である軍隊の存在のほうがはるかに異常だと考えます。

 私は絶対平和主義者であり、そして女性の人権は守られなければならないと考えます。これを両立させる解答は、異常な人間集団である軍隊組織が必要な状況を作らないことしかないのではないでしょうか。

参考:世界の趨勢は売春の合法化に向かいつつある

 日本という国は売買春について建前と実態に大きな乖離があります。欧米先進国の中では米国も同じです。売買春を違法としながら、現実には近年ますます売買春の若年化・普遍化が進んでいるようです。
 橋下発言に対して与野党の女性議員がこぞって女性の人権を踏みにじる発言であり、言語道断だと述べていますが、彼女たちは日本の性産業の状況をどのように考えているのでしょうか?オーストラリアでは女性議員が推進することで売春が合法化されたのとは対照的な反応です。
 冷静に考えると、売春という行為が他の労働と隔絶しているという合理的な説明は困難なのではないかと考えます。
 売春労働に従事する者が暴力的に扱われ、強制的、個人の自由意志・人権を蹂躙されるような形で行為を強制されている場合、売春労働に従事するものは刑法的に被害者であり、強制したものは犯罪者として処罰されるべきです。これは、何も売春労働に限った話ではありません。むしろ、社会的に違法とされているが故に売春は麻薬の密売同様、暴力団などの資金源としてブラックマーケットを構成しています。
 一方、売春労働を自由意志で自発的に行う場合、売春労働者の罪とは何なのでしょうか?性に関する行為を商取引の対象としていることに違法性があるのでしょうか?日本の女性議員たちは性労働を卑しいものとして差別しているようですが、何か合理的な理由があるのでしょうか?
 私の個人的な見解としては性を商取引としている行為として法外な対価を要求する不妊治療、しかも他人の卵子の利用や、誰のものともわからない精子の利用、他人の子宮を利用する、遺伝子操作を行うなどという行為のほうがよほど自然の有り様に反する生命倫理的に見て異様な行為であり、法規制すべきではないかと考えます。
 婚姻制度、貨幣制度を認める限り、売春は普遍的な実体として存続します。これは良い悪いという問題ではありません。現実を直視すれば、売春を社会的な行為として認める=合法化することが合理的な対応です。その上で暴力団などの資金源にならないこと、売春労働従事者の自由意志を尊重し人権を守ること、あるいは社会全体の秩序を乱さないように適切に管理していく制度的な枠組みを整備することが求められるのではないでしょうか。

出典:Wikipedia「売春」
参考:Wikipedia「セックスボランティア」

続く→

No.854 (2013/05/13)安倍政権の政策を考えるD 〜経済政策

 現在の安倍内閣の高い支持率の要因は、いわゆるアベノミクスと呼ばれる為替誘導による経済政策が短期的に成功を収めていることによります。アベノミクスの内容は次の3点とされています。

@大規模な金融緩和
A大規模な財政出動
B産業の新たな成長戦略の構築

 @は日銀が国債を大規模に購入することで、市中の通貨供給量を増加させることです。これは明らかに政策的なインフレ誘導です。この金融政策によって急激な円安が進み、これを歓迎して株価も高騰しています。

 その結果、自動車を中心とする輸出関連企業は円安の恩恵を受け、輸出が好調になり、株価の高騰によって軒並み経常利益の増加につながっています。

 構造的に赤字を計上していた日本唯一のDRAMメーカーであるエルピーダメモリーですが、アベノミクスの円安の恩恵を受けて黒字転換したのは象徴的な出来事です。
 しかし、この前例のない大規模な量的緩和政策による為替誘導は、恒久的に続けられるような政策ではなく、いつ崩壊するのか、大きな危険性を持っています。今のところ輸出企業の業績は急激な回復・好転を見せていますが、これは日本の産業の実力ではなく、単に為替相場の影響と、これを今のところ好材料と見ている株投資家の思惑によって膨れ上がったバブルにすぎません。

 冷静に見れば、日本の産業は後発の工業国に対して相対的に高コスト構造になっており、この本質的な原因が解消されたわけではありません。
 日本の労働環境は労働者派遣法の規制緩和が進み、労働者全体に占める非正規雇用の比率は40%に迫っています。これ以上の給与コスト削減による国際競争力の回復は非正規労働者の更なる増加によって国内労働者の所得格差を増大し、社会的な不安要因になるでしょう。

 さらに、福島第一原発事故に端を発する電力価格の高騰、再生可能エネルギー導入拡大政策による不安定電力の増加と電力の安定供給に対する社会的費用の増加によって、電力価格は今後ますます高騰することになり、製造業のエネルギーコストを押し上げることになります。

 短期的に見ても既に輸入資源価格は円安の影響で高騰し始めています。国内の中小企業は為替変動の100%を価格転嫁することは難しいため、経営環境はますます苦しいものになっています。海外へ移転できる余力のある企業はますます製造拠点を国外へ移し、国内産業の空洞化が加速することになるでしょう。
 安倍内閣の量的緩和による為替誘導は、短期的に輸出企業の業績を好転させ、株価上昇という金融バブルを作り出し、総じて輸出大企業の業績の好転をもたらしますが、中小零細企業にとってはコスト上昇による経営環境の悪化をもたらし、業種による企業間格差を拡大することになります。大部分の一般消費者にとっては給与所得の上昇よりも物価上昇が大きくなる可能性が大きいのではないかと予想されます。

 次に大規模な財政出動による公共事業規模拡大による有効需要の拡大政策は、日本の財政悪化をさらに加速することになります。「国土強靭化」といった防災に対する財政支出は、工事による需要を作り出すだけであって、事業そのものから経済が恩恵をうけることはないため、長期的には財政赤字を増やすだけです。

 アベノミクスの2つの財政政策は、多かれ少なかれ短期的には日本経済を活性化することはわかりきっています。ただ、現状では過大な期待でバブルが急速に膨らんでいますが、これはむしろ危険な徴候かもしれません。株投資家はこの期に高く売り抜けて実質的な儲けを出すことはあるでしょうが、所詮一時しのぎの経済政策です。問題は、この稼いだ時間で日本の社会構造や経済構造を立て直すことが出来るかどうかという問題です。

 そこで第3の政策の成否がアベノミクスの評価を決めることになります。しかし、既に述べたように、人件費の削減は限界に達しつつあり、エネルギー価格は長期的に上昇する傾向があるため、同一の工業製品市場では後発の工業国との価格競争に勝ち残ることは難しいでしょう。
 日本の工業生産は既に成熟期に入っており、世界市場において大衆を対象とした普及品市場において大量生産で大きな儲けを得るということは難しいのです。この基本的な条件を基本に、工業生産システムの質と規模を根本的に見なおしていくことが必要でしょう。
 高付加価値で特殊な製品に特化するといっても、経済合理性の欠如したエネルギー供給技術や実質的に不必要な製品を目指してもうまくは行かないでしょう。家電メーカーでは4Kテレビ(水平画素数が3840≒4000=4K)や8Kテレビを量産化すると言っていますが、明らかにオーバースペックではないでしょうか?果たしてそのような高解像度を必要とする巨大モニターを大量消費するような社会が来るとは思えません。
 また、安倍政権はPPPに参加し、将来的には例外なき貿易の自由化を目指していますが、圧倒的に生産条件の劣る農林業は大打撃を受けることになるでしょう。今は技術的なアドバンテージで好調な自動車を中心とする工業製品についても、これを維持し続けることは容易なことではありません。国際市場で短期的な利益を最大化させることだけを目指すPPP参加による関税の全面撤廃は、長期的には国内産業を疲弊させることになるでしょう。

 安倍政権の経済政策は、マスコミによる加熱した報道によって煽られ、成功しているように見えますが、それは輸出大企業頼みの経済成長に過ぎず、中小零細企業の経営環境は厳しさを増し、円安・物価上昇の影響を受ける庶民生活は苦しくなりつつあるというのが実態です。国民は安倍政権の経済政策に対してもう少し冷静な評価が必要です。そして来年度には、まず間違いなく消費税率が引き上げられることになり、庶民生活はますます厳しくなるでしょう。
 社会・経済構造の改革において「正解」を提示することは難しいことですが、経済成長第一主義で進んできた日本の戦後社会ですが、福島第一原発事故を経験し、エネルギー資源の限界が近づきつつある現在、大量生産・大量消費、自然環境を犠牲にしてきた産業・社会構造を本質的に見直し、地球環境≒生態系の定常性に依拠する社会を考える時期に来ているように思います。

No.853 (2013/05/08)安倍政権の政策を考えるC 〜核武装と原子力発電

 日本の核武装について、技術的な到達点を確認しておくことにします。核兵器技術は大きく二つの技術によって成り立っています。一つは核爆弾あるいは核弾頭の製造技術です。そしてもう一つはその運搬手段を実現する技術です。

 まず運搬手段に関する技術について見ておきます。戦術あるいは戦域核兵器のための中〜長距離運搬手段として重要なのは巡航ミサイルであり、戦略核兵器用の長距離運搬手段としては弾道ミサイル技術です。
 日本は既に自前の衛星打ち上げ用ロケット技術を確立しています。H2ロケットはかなり安定してきたようです。ロケット制御技術=ミサイル誘導技術については既に完成され実用段階に入ったと考えてよいでしょう。ただしH2ロケットのメインエンジンは液体水素燃料を用いているため、運用上そのまま兵器用のミサイルへの転用は難しいと言われています。しかし、JAXAは既に固体燃料を使用するメインエンジンを持つイプシロンロケットの開発に着手していますので、実現は目前と考えてよいでしょう。

 さて、日本はなぜ自前の衛星打ち上げ用のロケット技術の開発・保有に固執してきたのでしょうか?経済合理性から言えば、衛星の製造は自国でやるとして、衛星の打ち上げ自体は既に商業的に行なわれている欧米のロケット打ち上げ業者に委託したほうがはるかに優れていたはずです。つまり、日本は衛星を打ち上げることだけが目的だったのではなく、ロケット技術の獲得を大きな目的にしていたということです。何のために?そこに自前の弾道ミサイルの保有の意図があることは間違いないのです。
 2012年12月12日に北朝鮮の衛星「光明星3号2号機」の打ち上げロケット「銀河3号」についての報道において、日本のマスコミはわざわざ「衛星と称する事実上の弾道ミサイル」という表現を使いました。勿論、北朝鮮の目的は米国を脅かすためのICBM(大陸間弾道ミサイル)技術の獲得にあることは間違いありません。それと同様に、日本における衛星打ち上げも弾道ミサイルの実用化の一環だということを忘れてはいけません。

 次に、日本における巡航ミサイル開発についてです。これについては過去に防衛庁が開発を要求しています。

“「明らかに専守防衛に反し、周辺国を刺激する」「自国に対地ミサイルを撃ち込む事になる(島嶼防衛用)」「ミサイルの推進方式を改良すれば射程を延ばす事は可能である」との公明党の反発によりいずれも土壇場で見送られている。また、同時期に海上自衛隊は先制攻撃のためのトマホークの導入をあからさまに要求してきたという。”
(出典:Wikipedia)

 仮に自民党保守政権によって憲法が改正され、自衛隊が国防軍になれば日米安全保障条約によって事実上日本軍は米軍と一体になりますから、独自開発であるかトマホークの導入によるかによらず、即座に中〜長距離用の巡航ミサイルという核兵器運搬手段を獲得することになるでしょう。

 このように現行の平和憲法のもとでも、民生技術の名目で日本は既に核兵器運搬技術をほとんど手に入れているのです。自民党保守政権によって憲法9条が骨抜きにされれば、日本の核武装は加速すると考えなければならないでしょう。

 そして核兵器を実現するためのもう一つの技術が核弾頭あるいは核爆弾の製造技術です。核兵器には核分裂性のウラン爆弾、プルトニウム爆弾、核融合を用いる水素爆弾があります。中でも比較的低コストで実用的なのがプルトニウム爆弾です。
 日本の原子力発電は、国家プロジェクトとして当初から核兵器製造技術を確立するための技術獲得の一環として推し進められてきました。日本は商業用原子炉として再処理プルトニウムを核兵器に使用しやすい重水炉の導入を検討しましたが、米国によって軽水炉に変更されました。軽水炉の使用済み核燃料を再処理して得られるプルトニウムには239プルトニウム以外の同位体比率が高く、核兵器用プルトニウムには使いにくいのです。
 そこで、日本の原子力発電はウランの有効利用と高純度の239プルトニウム=兵器級プルトニウムを得るために、経済合理性を度外視して、軽水炉使用済み核燃料の再処理と高速増殖炉による「高速増殖炉核燃料サイクル」の実現を目指すことになりました。高速増殖炉のブランケットから得られるプルトニウムは高い純度を持つため、すぐに核兵器用プルトニウムとして使用可能です。

 日本では、日本原子力研究開発機構が高速増殖炉として大洗にある実験炉「常陽」と敦賀にある原型炉「もんじゅ」を持っており、その運転によって既に兵器用のプルトニウムを36kg保有しており、これによって30発ほどのプルトニウム型爆弾が製造可能です。

 日本は、2011年の東京電力福島第一原子力発電所の重大事故を経験し、この事故によって原子力発電のあり方が根本的に問われることになりました。不十分とはいえ、前民主党政権では2030年代を目指して脱原発依存の方向性を打ち出していました。しかし、安倍自民党政権は前政権の方針を白紙撤回し、原子力発電の早期再開、高速増殖炉核燃料サイクルの実現を再び目指しているのです。安倍政権になって、自民党の石破らは将来的な核兵器保有に言及して原子力発電の継続を主張しています。
 原子力発電の技術的な問題については既に連載『再考・原子力発電』で触れていますのでここでは繰り返しません。原子力発電は電力供給技術としては極めて高価で非効率的な発電方式であり存在意義はありません。日本における原子力発電の唯一合理的な存在意義は核兵器保持のための技術と設備を保有することなのです。このように、安倍極右政権の改憲と国防軍の創設、そして核武装および原子力発電の再開は正に一貫した政策であることがわかります。

 最後に直接関係ないのですが、日本の核廃絶運動について触れておきます。日本の反核平和運動は、広島・長崎において被曝した被害者として核兵器の悲惨さを海外に向けて訴える運動になっています。しかし、このホームページでは現実を直視していない日本の反核平和運動の見当はずれの主張を再三批判して来ました(例えばNo.644(2011/08/09)長崎平和宣言の無邪気さ・・・)。反核を叫びながら自分の国は米国の核の傘によって庇護され、それどころか独自の核武装を公言する国の反核平和運動など、信頼されないのは当たり前でしょう。

< 参考過去記事 >
No.419 (2009/08/25) 核傘下の核兵器廃絶運動の怪〜自民党の憲法違反の外交・防衛政策
No.282 (2007/07/24) 原子力発電の脆弱性と経済性
No.200 (2006/04/02) 暗鬱なプルトニウム時代の開闢
No.180 (2005/09/12) 原子力発電は何のため?
核開発に反対する会ニュース

 つい先日、NPTの準備委員会が2013年4月24日にジュネーブで開かれ「核兵器不使用の声明」において「いかなる状況下でも核兵器が再び使用されないことが人類の共存のためになる」とうたわれ、70か国以上が賛同しましたが、日本は賛同しませんでした。日本政府の見解は「日本は日米安全保障条約で米国と同盟関係にあり、その下での国防政策と相容れないから」というものです。つまり、米国の核兵器の使用、そして将来的には日本の核兵器の使用を視野に入れ、これを縛るような声明には賛同できないということです。
 日本の反核平和運動はこの現実を直視し、まず日本政府の核武装政策に対する反対運動を組織することこそ急務だということに目覚めなければなりません。

追記(2013.05.11)

 今日、福島第二原子力発電所で大規模なテロ対策訓練が行なわれました。原子力が社会に浸透すれば核燃料という「軍事物資」を扱うことになり、必然的に日本社会は警察国家あるいは超管理社会になり、原子力発電所が軍事要塞化することが避けられないことは原子力発電が本格導入されはじめた当初から指摘されていました(例えば「プルトニウムの恐怖」高木仁三郎著、岩波新書、1981年)。
 福島第一原発事故によってその脆弱性を世界中に露呈したことによって、軍事的な標的になる可能性が高くなったといえるでしょう。これによってますます原子力発電所内の安全施設を始めとする内部構造は厚い企業秘密、軍事機密として秘匿されることになるでしょう。こうした軍事的な安全対策は逆に原子炉の運用上の安全管理の弱点となり、あるいは放射能漏洩事故などの隠蔽に繋がることになるかもしれません。
 また、テロ対策という名目で原子力発電所関連の労働者に対する思想調査をはじめとする管理体制は徹底されることになり、社会全体が息苦しいものになるでしょう。このことは、原子力発電所内の運転に係る放射能漏れなどの事故の隠蔽体質に拍車をかけることになるでしょう。
 たかが、表向きは民生用の電力の供給施設であるはずの原子力発電所は、警察や軍隊によって四六時中監視することでしか運用できない軍事施設ということです。この原子力発電所の監視・防衛に関わる費用は当然原子力発電の発電経費に上乗せしなくてはなりません。民生用の電力供給システムとして原子力発電にはまったく経済合理性はないのです。原子力発電は名実ともに軍事工場ということです。

続く→

No.852 (2013/05/05)安倍政権の政策を考えるB 〜国防軍と日米安保条約

 自民党、維新の会を中心とする戦前回帰の憲法改正を目指す勢力がある一方で、時代の変化による要素を憲法に盛り込むことを求める人もいます。例えば環境権やネット上の人権保護の問題などを憲法に書き込むことを求める声です。安倍政権の政策とは直接関係ありませんが、少し触れておくことにします。
 憲法とは人間社会において権力機関や統治機構から守るべき普遍的で基本的な国民の権利の概念的な範囲を記したものです。時代や社会情勢、国家体制の特殊性による個別具体的な事柄について細かく記述すべきではないと考えます。それは一般法で具体的に定めれば良いことです。例えば、環境権は人間の生存権の一部であると解釈すれば良いと考えます。憲法に個別具体的な記述を書き込むことは、むしろ憲法が擁護する国民の権利の幅を狭める危険性があるのです。

 本題に戻ります。安倍自民党政権は、憲法改正によって自衛隊を国防軍にすることを目標にしています。この点について考えることにします。
 自民党などは国防軍を持たない国は日本以外になく、国防軍を持たない国は主権国家とは言えないと言います。私はこのホームページで繰り返し述べている通り、絶対平和主義者です。これに対してそれは理想論であり、平和ボケであると批判されることがあります。こう批判する人たちは、国土を防衛する(ここで言う国土の防衛とは、あくまでも相手国から攻撃を受けた場合の防衛だとします。)ためには最小限の武力は必要だと主張します。しかし、これこそ現実を見ない愚かな妄想でしか無いのです。

 まず、技術的な問題から検討します。近代戦争における戦闘の大部分は空爆やミサイル等(米国などでは既に無人のロボット戦闘機、ロボット戦車を実用化しています)によって後方からの攻撃です。もし日本が他国から攻撃を受ける場合、こうした飛び道具による攻撃を地対空迎撃ミサイルによって100%撃ち落として国土を守ることは技術的に不可能です。北朝鮮のミサイル発射実験に対して、我が国はPAC3を配備しましたが、弾道ミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落とせると考えるのは過信です。あれは北朝鮮が日本に向かって弾道ミサイルを発射しないことを見越して、国民を騙すためにブリキの兵隊を並べただけのことであり、実質的には何の役にも立っていないのです。
 しかも日本の、特に日本海側の海岸線には原子力発電所が多数あり、例えば少数精鋭の特殊部隊が小型の高速艇で海岸線に上陸して原子力発電所の制御システムや冷却システムなどの脆弱な部分を破壊すれば、日本は致命的な打撃を受けることになります。
 無防備な原子力発電所を数多く抱え、長い海岸線を持ち、狭小な国土に国家機能が集中している巨大都市を持つ日本の国土を受動的に武力によって守ることなど技術的に不可能であるという現実を知るべきです。もし本気で日本を武力によって受動的に防衛しようとするならば、長大な海岸線を常時監視し、原子力発電所を軍事要塞化し、全国に地対空迎撃ミサイルを配備しなければならないでしょう。しかしそれでも尚、完璧に国土を防衛することは不可能です。それ以前に国家として、国防費の負担にとても耐えられるものではないのです。

 次に、日本が攻撃を受ける場合の原因について考えます。
 近代戦争の原因は、まず第一に有用資源の争奪戦です。これは中東地域に対する欧米の侵攻に典型的です。次に大国の世界戦略における前線基地の確保、あるいは敵対する国の前線基地に対する攻撃です。そして北朝鮮や中東諸国のように政治体制や宗教的に、米国主導の国連による世界体制に対して服従しない国に対する報復です。その他に宗教対立による局地戦争があります。
 ここからわかることは近代戦争の侵略側は圧倒的に米国を中心とする欧米諸国であり、中東諸国やベトナム、北朝鮮などは防衛のための受動的な戦争を強いられてきたのです。
 では、日本を攻撃する国があるとして、その原因は何でしょうか?日本には戦略的に重要な有用地下資源が豊富にあるわけではありません。また、狭小な農地や漁場を得るために高いリスクを犯し、莫大な資金を投入して日本を攻撃する国があるとは思えません。また、日本はほとんど米国の傀儡政権であり、欧米諸国から攻撃されることは考えにくいことです。
 つまり、日本が攻撃される可能性があるとすれば、唯一の原因は、東アジアにおける最大の米軍基地が日本にあるからにほかなりません。自民党は日米安保条約があるから日本は守られているという何の謂れの無い説明をしていますが、実態は日本の領土に米軍基地が多数あることによって日本が軍事的に攻撃され、あるいはテロ攻撃される可能性が高まっているのです。
 日米安保条約を破棄して日本の国土から米軍基地を一掃することが最も有効な日本の防衛政策なのです。こうして日本への武力攻撃の原因を排除した上で、技術的に不可能な受動的な武力による国土防衛のための兵力は放棄することが最も合理的で現実的な対応です。自衛隊は国防軍にするのではなく、武装解除して国土保全・災害救助隊・過疎地医療を行う組織に再編することが現実的です。

 以上から、前回述べたように、日本が平和国家として穏やかに生きていくためには現行の平和憲法を名実ともに遵守して自衛隊を武装解除し、日米安全保障条約を破棄して日本の国土から米軍基地を一掃することが最も現実的で経済合理的な対応です。

 これに対して、自民党の考える防衛戦略はまったく異なっています。彼らの戦略は受動的な国土防衛=専守防衛ではないのです。彼らの主張は仮想敵国に対して軍事力=攻撃能力(防衛能力ではない!)の絶対的な優位性を保有することです。その究極の目的は日本が核兵器保有国になり“核抑止力”を持つことです。日本の自民党を中心として国会議員の大多数が防衛力としての核兵器保有を肯定しているのは周知(?)の事実です。核兵器の保有は戦後の保守政権の悲願であり、日本が原子力発電を国策として推進し、脱原発が実現出来ない根源的な原因は核兵器保有という自民党保守政権の軍事政策があるからです。


 日本は既に衛星打ち上げ用ロケットの実用化によって弾道ミサイルの制御技術を確立している。水素燃料ロケットを使用するH2とは別に固体燃料を使うイプシロンロケットの実用化によって弾道ミサイル技術は完成する。

 現実的には、防衛力=受動的な国家防衛のための核兵器など存在しません。核兵器は相手国に対する能動的な攻撃のための兵器としてのみ意味があるのです。自民党の考える防衛戦略とは、日米軍事同盟を強固なものにすることによって当面は米国の核の傘で、将来的には自ら核兵器保有国となり核兵器を含む軍事的な優位性によって国土を防衛することです。そこには、核保有国になって国連の安全保障理事会の常任理事国になって名実ともに欧米諸国と肩を並べ世界を牛耳る野望があるからです。
 しかし、米軍の世界戦略は防衛と称して先制攻撃を行うことはご存知の通りです。日本は平和憲法を持っているためにかろうじて現状では集団的自衛権の行使による海外派兵から免れています。この平和憲法を破棄して軍隊を保持することを明文化すれば、日米安全保障条約は完全な軍事同盟となり、否応なくアメリカの東アジアにおける軍事行動の補完部隊として出兵すること=侵略国になることが避けられなくなることは明白です。
 一方、米軍とともに日本軍が相手国に対して先制攻撃を行ったとしても、報復攻撃を受ければ日本の国土が防衛できないことは既に述べた通りです。駐留米軍は日本を守るための軍隊ではなく、あくまでも東アジア地域での能動的な軍事行動を行うための部隊です。日本の米軍基地を守ることはあっても日本の国土を守ることなど端から想定していないのは当たり前です。

 つまり日本が再軍備することは集団的自衛権によって、米軍と一体になって東アジア地域を中心とした米国の世界戦略の実働部隊の一部となって否応なく海外派兵を余儀なくされるだけであって、日本の国土を守ることなど出来ないのです。むしろ、米軍と一体になることによってこれまで以上に日本の国土が直接報復攻撃の対象となる危険性が高まると考えなければなりません。米国との集団的自衛権を持つ日本は米国主導の軍事行動に引きずり込まれることによって、東アジア地域で報復を受けることになりますが、首謀者の米国本土は無傷ということになります。馬鹿な話です。
 ではなぜそのような危険を犯してまで自民党保守政権は平和憲法を改正して米国との軍事同盟を強化し、国防軍を作り核武装しようとしているのでしょうか?それは、第二次世界大戦後も続いている米国を始めとする武力を背景とした力による世界政治において、前大戦では敗北を喫した米国と軍事同盟を組み核武装することで、かつての帝国主義日本が単独では果たせなかった東アジアにおける覇権の確立を実現しようと考えているのです(立場は逆ですが、自民党の防衛戦略は北朝鮮の防衛戦略と本質的に同じであることがわかります。)。つまり自民党保守政権は本質的に前大戦の反省などしていないということであり、したがって靖国神社を信奉し続けているのです。前大戦において米軍と敵対したことだけが彼らにとっての過去の誤りであり、これを反省して米国との軍事同盟関係を結ぶことにしたということです。

 自民党保守政権の憲法改正と国防軍の保持とは日本の国土の専守防衛ではなく、軍事力と経済力を背景とした米国流のアメとムチによる力の外交政策=恫喝によって周辺諸国を牛耳ることを目指しているのです。私、そして大多数の日本人はこのような帝国主義日本の亡霊の復活など望んではいません。

続く→

No.851 (2013/04/30)NHKお馬鹿番組の記録S

●2013年4月29日10:05〜
●解説スタジアム『変わるの?日本の電力』
●司会 柳澤秀夫解説委員長、兼清麻美アナウンサー
●パネラー 嶋津八生、竹田忠、二村伸、室山哲也 各解説委員

 NHKの無能な解説委員が揃い踏みで、愚かな電力供給論議を行なっていた。彼らの議論は、優れた電力供給システムとは一体どういうものかという根本的な認識が欠如しているため、すべてが思い込みの空論に陥る。技術的に可能かどうかなどと言う低次元の議論ではどうしようもないのである。
 嶋津は多少は現実が見えているのかもしれないが、それでも技術認識が低すぎ。最悪なのは“新技術オタク”の室山哲也。これまでも何度か彼のお馬鹿さ加減に言及してきたが、嶋津は室山さえ論破できないのだから仕方ない。無駄な番組である。

No.850 (2013/04/29)安倍政権の政策を考えるA 〜国家観と憲法

 前回、戦後自民党、そしてそれを端的に表している安倍の国家観に少し触れました。それを具体的な形として表しているのが安倍ないし自民党による日本国憲法の改正案です。
 安倍は、彼の国家観を「美しい日本」と呼び、それは日本の「戦後レジュームからの脱却」であるという抽象的な言葉で表現しています。
 安倍あるいは日本の戦後保守政権は、第二次世界大戦における日本の敗戦によってそれ以前の国家体制や価値観が壊され、戦勝国による価値観が押し付けられているのであって、そこから脱却して日本の自主的な価値観を復活させる自主憲法を制定することが必要だと主張し、悲願であるとしています。
 では、安倍の言う戦後レジームによって壊された日本の自主的な価値観とは何だったのでしょうか?それは、大日本帝国憲法によって規定された天皇を元首とする立憲君主制の全体主義的な軍事国家体制であり、それに基づく膨張主義的な侵略戦争を遂行してきた国家体制です。そこでは「滅私奉公」、つまり国家体制の護持が最優先され、国民の人権や自由は制限されることが当然という価値観でした。思想・信条は思想警察や国民相互の密告体制によって弾圧され、教育は若者を戦場に駆り出すために利用されました。私有財産は国家の都合によって制限され、あるいは強制的に没収することも可能でした。

 こうした第二次世界大戦敗戦までの帝国日本の国家体制や価値観が壊され、押し付けられた戦後レジュームとは何でしょうか?
 主権在民の憲法によって、国民の基本的な人権は国家権力によって犯すことの出来ないものとして思想・信条の自由、表現の自由が明記されました。また、明治以降連綿と続いた近隣アジア諸国に対する侵略戦争の過ちを繰り返さないように、国際紛争の解決手段として武力の使用を禁止し、軍隊を保持しないことが明記されました。私は、この日本国憲法の平和条項は最も世界に対して誇るべき画期的な内容だと考えます。
 しかし、戦後レジュームは全てが肯定すべきものではありません。日本と米国の間の二国間の条約として締結された日米安全保障条約によって、日本は米国の世界戦略に組み込まれ、第二次世界大戦後の朝鮮戦争やベトナム戦争において東アジアにおける米軍の前線基地あるいは兵站として侵略行為に加担しました。戦後保守政権は事実上米国の傀儡政権であり、現在もなお日本国民の主権よりも米国の思惑を重視し、沖縄を中心とする日本各地に米軍基地が置かれているのです。
 私は日本が真に独立国になるためには安倍や自民党政権の主張とは異なり、日米安全保障条約こそ戦後レジュームの中で唯一脱却すべきものだと考えます。これを破棄して日本の国土から米軍基地を一掃し、すべての近隣諸国との間に平和条約を締結し、米国の圧力を排除することによって初めて日本は実質的に独立国家として自立し、本当の意味での独自外交を実現出来るのだと考えます。

 安倍は戦後レジュームからの脱却と抽象的に表現していますが、これはごまかしに過ぎません。安倍あるいは自民党の目指しているのは、極論すれば現行の国民主権の日本国憲法を廃して、日本を敗戦以前の国家体制や価値観に引き戻すことです。その一方で戦後レジュームの主要な構成要素である日米安全保障条約は断固強化すると言っているのです。支離滅裂です。要するに、安倍ないし自民党の言う戦後レジュームからの脱却とは、自らの改憲議論を正当化するためのご都合主義の詭弁にすぎません。

 安倍自民党政権はこうも言っています。60年間以上日本国憲法は一度も手を加えられていない、だから改正しやすくしなければいけないと。これはまったく本末転倒の議論です。憲法の条文を改正すべきであると国民大多数が望んでいるのであればともかく、日本国民はそれを必要としていないから国民の間に憲法論議が起こっていないのです。それどころか、国民の大多数は憲法があるから安心し、安倍自民党政権でも無茶はしないだろうなどと高をくくっているのです。安倍自民党政権はそこに漬け込んで改悪を画策しているのです。憲法を改悪しようとしている安倍ないし自民党の政治屋たちが、彼らの憲法改悪の目論見を実現するために政治主導で憲法論議を焚きつけているのが実態です。
 そもそも近代憲法とは、主権者である国民から国家の運営を委任された国家権力が、国家運営において行き過ぎた権力の行使によって主権者たる国民の権利を侵害しないように国民の基本的な権利を最高法として明文化したものです(97条)。つまり国民の総意である憲法を守るべきなのは国家権力の側なのです。国家の権力機関である国会やその構成員である国会議員の都合によって憲法改正をしやすくすることは、倒錯した憲法の形骸化にほかなりません。
 安倍自民党は憲法改正の手始めに憲法改正の手続きを定めた第96条を改定しようとしています。安倍や自民党が96条を最初の標的にしているのは、その後に憲法を徹底的に形骸化する目論見があるからです。憲法改正手続きを示す96条と憲法の本質について触れた97条と自民党改定案を以下に示しておきます。

現行憲法 自民党改定案
第九章 改正

第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

A 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
第十章 改正

第百条 この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議により、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を得なければならない。この承認には、法律の定めるところにより行われる国民の投票において有効投票の過半数の賛成を必要とする。

2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、直ちに憲法改正を公布する。
第十章 最高法規

第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
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 安倍ないし自民党の憲法改正案は、基本的に戦前回帰の方向を目指していることが特徴です。詳しくは、

などをご覧ください。

 自民党憲法改正案の特徴は以下の3点に要約できるでしょう。
@国家元首を天皇とする立憲君主制の復活。
A軍隊の復活。
B公益や秩序を名目に、国家による国民の基本的人権に対する制限の拡大。
 これらを特徴的に表す条文を幾つか紹介しておきます。

現行憲法 自民党改正案
第一章 天皇

第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第一章 天皇

(天皇)
第一条

天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。
第二章 戦争の放棄

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

A 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第二章 安全保障

(平和主義)
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。

2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。

(国防軍)
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
第十三条

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
(人としての尊重等)
第十三条

 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
第二十一条

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
A 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
(表現の自由)
第二十一条

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
  第九章 緊急事態 新設

(緊急事態の宣言)
第九十八条

内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。

(緊急事態の宣言の効果)
第九十九条

緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

 前回、安倍国家観についてアナクロニズムの似非国粋主義だと述べました。天皇を再び国家元首として担ぎ出すなど、明治維新のアナロジーには戦慄を覚えます。これは明治期から第二次世界大戦敗戦までの帝国日本の天皇の軍隊による侵略戦争を遂行してきた国家観の全面的な復権を目指している「美しい日本」にとって欠かせない要素なのでしょう。ただし“似非”国粋主義と述べたのは、日米安全保障条約を堅持し、その実態が米国傀儡の体制だからです。

 安倍ないし自民党、あるいはこれに同調する維新の会などの極右勢力は、国会議員の数を頼みに、一気に現行憲法によって守られてきた主権者である国民の権利を制限し、同時に戦える軍隊を憲法に明文化しようとしているのです。この危険な安倍自民党内閣の暴走を許してはならないと考えます。

続く→

No.849 (2013/04/26)安倍政権の政策を考える@ 〜国家観と外交

 第二次安倍内閣が発足して120日が経過し目指す方向が次第に明らかになって来ました。内閣支持率は60〜70%台という高率が続いています。私にはまったく理解できません。


 基本的に安倍内閣は第一次安倍内閣同様、戦前回帰のアナクロニズムの似非国粋主義だという基本的な立場はそのままです。政権発足早々、第二次世界大戦に対する河野談話・村山談話を見直すべきであるという姿勢をとりました。これは日本軍国主義復活への警戒感を少なからず近隣アジア諸国に喚起することになりました。それは単に幻想ではなく、自衛隊の国防軍への昇格を狙っていることからも明らかです。
 安倍内閣は基本的に第二次世界大戦における近隣アジア諸国に対する植民地支配や侵略行為に対して反省する意志は持っていないのです。おそらく彼らの本音は勝てば官軍、負ければ賊軍という価値観なのであろうと思われます。負けたから謂れの無い批判を受けているにすぎないのだと考えているのです。戦後70年になるというのにA級戦犯岸信介や吉田茂の亡霊たちが牛耳るこの国のあり方には、日本人として実に恥ずかしいことだと考えます。

 安倍内閣ないし自民党は愛国心という言葉を弄んで国民を欺いています。愛国心とは、自分の生まれ育った風土や人とのつながりに対して好感を持つことです。これは人には自然にある感情です。しかし安倍や保守政治家たちの持ちだす愛国心とは国の支配体制に対する忠誠心あるいは無批判な服従を指す言葉として使われています。故に彼らの理想とする国とは全体主義国家なのでしょう。

 江戸時代末期から明治時代初期において、世界侵略を進める欧米の武力攻撃に対して、日本が富国強兵政策をとって対抗したことは、悲しいことでしたが、ある意味で歴史的な必然であったかもしれません。しかしその後、第二次世界大戦敗戦までの日本のアジア諸国への侵略の歴史は、ミイラ取りがミイラとなって欧米同様、エゴイスティックな膨張政策として近隣諸国を蹂躙してきた歴史です。
 保守政治家の中には帝国主義日本による侵略と植民地支配によってアジア諸国において治水工事が行なわれたり産業が興ったり悪いことばかりではなかったなどという手前勝手な評価をする者がいます。あくまでもそれは植民地からより多くの収益を上げるための手段であり、日本の都合だったのです。

 こうした明治以降の帝国主義日本のアジア侵略において、戦死者を英霊として神格化し美化することで侵略戦争を美化し、国民を戦場に駆り立てるための装置として政治的に利用したのが靖国神社です。愚かな帝国主義日本のアジア侵略戦争に駆り出され、心ならずも戦死した名も無き多くの人たちに対して哀悼の念を持つことは自然な感情です。しかし、これは侵略戦争を美化するための装置である靖国神社に対して参拝することとは正反対の感情です。
 保守政治家たちが政治的なデモンストレーションとして靖国神社に参拝する行為とは、取りも直さず第二次世界大戦までの帝国主義日本の膨張主義的な国家政策を支持することを表明することです。これに対して中国や韓国、北朝鮮が猛烈に反発することは当然です。

 帝国主義日本の罪の本質は、他国の国土と国民そして主権を犯したことそのものです。また自国の国民の人権をも侵害してきたことです。南京大虐殺の虐殺数は大虐殺という程ではなかった、従軍慰安婦を軍が制度的に作った証拠はない、沖縄戦で民間人に自決を強要した証拠はない等という問題を矮小化する弁明に終始する安倍を始めとする保守政治家や思想家たちの無様な対応は悲しむべきことです。安倍の言う「美しい日本」の本質とは、第二次世界大戦までの国家の政策に対する「国民の服従と忠誠」=愛国心の復活を目指す、上位下達の全体主義的な国家観です。

 戦後歴代の保守政権は一貫してアジア諸国に対する侵略戦争について本質的にその誤りを総括することなく、反省しないまま、今また憲法を改正して戦争の出来る国にすることを目論んでいます。経済関係として日本という国との関係を持とうとするアジアの国は多くても、日本という国が本当に信頼され、尊敬を得ることが出来ないことは、当然の結果です。この状況は愛国心の強い私にとってはとても悲しい状況です。自分の生まれた国を愛することと、過去の過ちを不問にすることとはまったく別の問題です。
 安倍や保守政治家たちは侵略戦争を真摯に総括しようとする人々に対して自虐的な歴史観などと批判するのですが、そうではありません。日本という国を愛するためにこそ、過去の誤りを真摯に総括することが必要だと考えます。
 逆に、過去の侵略戦争という事実を真摯に総括せずに靖国神社に参拝する保守政治家には、現行の平和憲法を改悪して戦争を出来る国にしようとする政治的な意図があるからにほかなりません。

 昨年来、隣国韓国と中国の間に竹島問題、尖閣問題が俄に緊張を増しています。また、冒険主義的な北朝鮮の行動を阻止するためには韓国や中国との信頼関係を強固にすることが必要です。このような時期に、近隣諸国との信頼関係を損なうことがわかりきっているにもかかわらず、敢えて靖国神社に閣僚が参拝し、かつてない数の国会議員が大挙して参拝するなど、呆れ果てた愚行です。
 韓国や中国の靖国参拝に対する批判に対して、安倍は国会において靖国神社への参拝は他国にとやかく言われる問題ではなく、他国の干渉は受けない旨の答弁をしました。また、菅官房長官は記者会見で靖国問題で国際関係が悪化することはないと考えるなどと、現実とはかけ離れた認識を述べました。
 このような日本の外交感覚は一体いつまで続くのか…。外交関係とは自国の認識だけではなく、相手国がどのように受け止めるかという問題です。今回の靖国参拝で日本と韓国、中国との関係は確実に悪化し、国民にとって外交的不利益という実害を及ぼしています。こうした近隣アジア諸国に対して配慮を欠いた外交姿勢によって、アジアの中で、そして世界の中で日本が孤立してしまうことを憂慮します。

 安倍自民党政権や保守政治家たちは、アジア外交において「未来志向の建設的な関係」の構築などと耳障りの良い表現をします。それは結構です。しかしそれは帝国主義日本のアジア近隣諸国への過去の侵略行為という犯罪行為を不問に付して頬被りすることではなく、徹底的に総括することによって信頼を得るところから始めなければならないでしょう。

続く→

No.848 (2013/04/18)再考・原子力発電N

終章 フクシマ後の原子力発電政策を考える

 このところ、福島第一原発についての東電の杜撰な対応が続発しています。仮設の配電盤の結線部分がカバーされていなかったことにより、小動物によってショートしたことによる送電停止事件、さらにこれを修復する工事の失敗による送電停止事件、放射能汚染冷却水の仮設の地下貯水施設からの漏洩、さらに汚染水移送作業中の汚染水の漏洩・・・・。あまりにも馬鹿馬鹿しい失態が続くことに唖然としています。

 例えば地山を掘削し、これに防水シートを被覆しただけの放射能汚染水貯水施設など計画の段階で狂っているとしか言いようのないものです。これは増え続ける放射能汚染水を大量に貯める場所をとりあえず手っ取り早く作ろうとした安易な考えがあったことは想像に固くありません。この構造は比較的危険性の少ないゴミを埋め立てる『管理型最終処分場』の構造を模していると考えられます。

出典:株式会社大倉 http://www.ohkura-web.co.jp

 管理型のゴミ最終処分場では底に溜まる水は集水管で集めて処理して環境中に放水します。しかし、放射能汚染水は処理できないから貯水されているのです。愚かとしか言いようがありません。ゴミではなく放射能汚染水をこのような施設に貯めれば大きな静水圧が作用した底面では地山の弱い部分で局所的に防水シートの変形が大きくなり漏水することはわかりきったことです。
 ちなみに重金属などの危険物を多く含むゴミのための遮断型最終処分場であれば、コンクリート構造物を建設してさらに漏水の防止加工を行なっているのです。

東電はせめて遮断型の最終処分場をベースに地下貯水施設を計画すべきであったことは言うまでもありません。
 東電から放射能汚染水貯水施設の相談を受けたゼネコン(前田建設工業)はどのような条件を提示されたのかわかりませんが、ゴミ最終処分場と同程度の構造で良いと彼らが判断したとしたら、彼らもまた無能な技術者集団であったということです。
 福島第一原発事故後の国や東電の対応を見ていると、想像以上に現場技術者のレベルが低いことに唖然とするばかりです。これまで重大事故が起こらなかったことはほとんど奇跡のようなものです。とても彼らには原子力発電を運用するだけの能力も責任感もありません。
 少し前置きが長くなりました。

 これまで検討してきたように、原子力発電という技術は電力供給システムとして極めて危険であるばかりでなく資源浪費的で劣悪な発電方式です(これは、原子力発電に対して国家が深く介入していることだけからも明らかなことです。)。原子力発電という劣悪な発電方式を導入したことによる社会的な損失を最小限に抑えるためには、即刻全ての原子力発電の運転を停止し、可及的速やかにその後処理にかかること以外に選択肢はありません。
 しかし、原子力関連企業は福島第一原発事故以前の原子力に対する国家介入(=巨額の経済的補助)を温存した上で、儲けの大きな原子力発電を温存しようとしています。民主党に替わった安倍自民党政権は露骨に原子力発電の再開を推し進めようとしていますが、そこには、核兵器保有への強い執着があることも見逃せません。
 これを阻止するためには、原子力発電システムに対して国家の介入を完全に排除して、徹底的な電力市場の自由化を行い、同時に原子力発電所および関連産業を完全に民営化して市場経済の中で自立させる事を求めることが必要です。原子力発電を完全に民営化することで電力市場の中で淘汰されることになります。

 原子力発電からの撤退のためには解決すべき大きな問題が2つあります。
 一つは、何の有用物も生み出さない原子力発電所、及び核関連施設の処分と放射性廃棄物の管理には今後莫大な費用が必要になるわけですが、これをどのように調達するかという問題です。
 本来、原子力発電という民間事業によって生じた後処理ですから、電力料金として徴収することが建前です。その意味で、超長期間に及ぶ放射性廃棄物の管理も含めた原子力発電からの撤退計画を明らかにした上で、その費用を算定した上で電力料金に上乗せして徴収することが筋です。電力会社はこれまで後処理のための引当金を適切に電力原価に反映せずに将来世代に放射性廃棄物処理費をつけ回すことでダンピング販売を行ない、私達はそのダンピング販売された電気を使用して図らずもその恩恵を享受してきたのです。その意味で私達電力消費者は原子力発電という犯罪行為の共同正犯であり、何らかの責任を分担することは当然のことです。
 原子力発電の後処理費用ということを明らかにするのならば、私は電力料金の引き上げには賛成であり、むしろそうすべきだと考えます。
 しかし、電力料金に原子力発電の後処理費用を上乗せした場合、全ての工業製品の製造コストが上昇することになり、日本の工業製品の国際競争力が低下し中小企業は軒並み壊滅し、あるいは大企業の海外移転が加速され、国内製造業が空洞化する事になるでしょう。これを避けるためには、電力自由化に際して電力会社のすべての資産を売却してその収益を原子力発電の後処理に充当し、それでも足りない部分は税金から支出することが考えられます。原発から完全撤退するのであれば、税金からの後処理費の投入は許されると考えます。

 もう一つの問題は、原子力発電の後処理のための技術を担保するための優秀な技術者と労働者を育成し、長期にわたって安定的に供給できる制度を構築することです。これだけ多くの原子力発電所を持ちながら、日本の高等教育において原子力工学あるいはそれに類する学科は衰退し、若い研究者や技術者は育っていないのが現実です。原子力発電から撤退するためには、今こそ国家プロジェクトとして原子力発電から撤退するための技術を担う優秀な研究者・技術者の継続的な育成を行うと同時に、現場労働者に対する適切な労働条件を確保することが必要不可欠です。

 私達の世代は、原子力発電という取り返しの付かない誤った選択をしてしまいました。私達の世代の責任として、出来る限り将来世代に対する負担を軽減するように対策をとることが必要です。
 しかしながら、現実には安倍自民党という時代錯誤の似非国粋主義に侵された最悪の政権によって原子力発電が急速に息を吹き返そうとしています。この愚かな動きを封じるためには、まずこの夏の参議院選挙に向けて脱原発勢力の結集が不可欠なのですが…。

No.847 (2013/04/13)安倍・小野寺の防衛認識

 北朝鮮のミサイル発射が有るのか無いのか、今のところ何とも言えない状況です。ミサイル発射実験の可能性はあるとしても、実際に韓国・日本・米国の軍事拠点を攻撃する可能性は限りなくゼロに等しいと思います。

 まあ、日本の国土がミサイル攻撃されることはないと高をくくっているからか、安倍首相や小野寺防衛相は『北朝鮮のミサイル攻撃に対して万全の備えで国民を守る』などと出来もしない『大言壮語』を繰り返し口にしています。彼らの言う万全の備えとは地対空迎撃ミサイルPAC3を何箇所かに配備しただけです。こんなものでは本当にミサイル攻撃が行なわれた場合には、日本の国土や国民を守ることなどとても無理な話です。
 本当に安倍や小野寺が額面通りに自らの発言を信じているとすれば、こんな愚か者には国防など語る資格はないでしょう。しかし、彼らは日本の自衛隊は米軍のアジア戦略の補完部隊であって、日本を防衛することなど端から目的ではないことを隠蔽して、国土を防衛する部隊だと虚偽の宣伝をしているというのが現実でしょう。

 それはさておき、安倍や小野寺の無能・無責任発言を技術的に検討することもなく追従する報道を行なって、前大戦中同様に脳天気な国民を騙すマスコミの無能・悪辣さは許されないことだと考えます。

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