吸収率 r についての覚書 循環モデルを表す微分方程式について、大気中のCO2量Qに対する海洋・地表面環境の吸収率 r と、海洋・地表面環境からのCO2放出量 qin について一定とした場合の解を示しました。 実際には r も qin も時間の経過に対して予測不能な不規則変動するため、微分方程式の一般解を厳密に求めることは不可能です。 この微分方程式の利用価値は、ある時点における大気中のCO2量Q(あるいはCO2濃度)、qin の内訳が観測などによって計測できた場合に、その時点の静的な大気中のCO2量の構成や、海洋・地表面環境の吸収率 r がどの程度であるのかを推測することに役立ちます。そのためには、大気中のCO2量の変動は十分ゆっくりであると考えられるので、微分方程式の定常解さえ分かっていれば十分です。
今回は、吸収率 r が物理的にどのような意味を持つのかについて考えることにします。
CO2の水への溶解反応は可逆反応であり次のように表すことができます。
溶解反応速度 v1 は速度定数 k1 とCO2の大気中濃度[CO2(gas)]∝Qを使って、次のように表すことができます。 v1 = k1[CO2(gas)] 速度定数は一般に反応系の温度 T の関数となります。例えばアレニウスの式では次のように表されます。 k(T) = A exp(-Ea/RT) Ea は反応の活性化エネルギー、Rは気体定数です。Aは頻度因子と呼ばれます。アレニウスの式から、速度定数は活性化エネルギー Ea が小さいほど、反応系の温度 T が高いほど大きくなります。
循環モデルの大気中のCO2に対する吸収率 r は、海洋部分と陸上部分の双方の影響を受けるために、単純にCO2の水への溶解反応の速度定数に比例するわけではなく、地球表面環境や生態系の様々な影響を受けることになります。 IPCCの炭素循環図によれば、産業革命以前の吸収率 r = 0.3186 であり、現在の吸収率 r =0.2864 になっています。この変化は、気温変化だけではなく陸上の土地利用・水循環の変化、植生、農業形態、森林伐採、人口増加を含めた動物の生態の変化などの複合的な影響の総体を含んでいます。