CO2温暖化対策が環境・社会を破壊する④
工業化社会を成立させるエネルギー供給システムの条件
ここで、工業化社会を成立させるためのエネルギー供給システムに求められる条件を示しておきます。
これまで見てきたように、エネルギー供給というプロセス自体も工業生産プロセスです。したがって、生産工場でエネルギー原料と低エントロピー資源を消費することによってエネルギーを供給しています。
製品として大量のエネルギーを供給する工場があったとしても、エネルギーを供給するために消費した投入エネルギー量が莫大であれば、必ずしも優れたエネルギー供給プロセスとは言えません。エネルギー供給プロセスが優れているかどうかは、前回示した「エネルギー産出比」によって評価します。
エネルギー産出比=(産出エネルギー量)/(投入エネルギー量)<1.0
の場合、このプロセスはエネルギーを消費しているだけです。エネルギー産出比が1.0未満の場合、エネルギー供給プロセスは自ら供給したエネルギーだけでは自己再生産することができないことを示しています。つまり、エネルギー以外の工業製品を製造する工業生産プロセスに対して利用可能なエネルギーを一切供給することができないことを示しています。これでは工業化社会は成り立ちません。
したがって、工業化社会を成立させるエネルギー供給システムの最低満足すべき必要条件は、
エネルギー産出比>1.0
ということになります。
ただし、エネルギー産出比が1.0より多少大きい程度では、エネルギーの大半がエネルギー供給システム自身の維持に費やされるため、十分な社会システムの工業化は不可能です。現実的にはエネルギー産出比が10程度あるいはそれ以上が必要でしょう。
工業を支えるエネルギー資源の条件
発電システムの考察で見たように、エネルギー資源を使って一連の物理・化学変化プロセスによって製品としての工業的なエネルギーを供給する場合、各プロセスにおいてエントロピーが発生するために変換効率は1.0未満になります。変換過程が多くなればなるほど合計の変換効率は指数関数的に小さくなります。
化石燃料の利用効率の高い火力発電のエネルギー産出比でも0.3~0.4程度が限界です。再生可能エネルギー発電はシステム構造が異なりますが、化石燃料に対するエネルギー産出比は火力発電よりも低くて0.3未満と考えてよいでしょう。このように、電力供給だけで工業化社会を維持することは不可能です。
産業革命以降、工業生産を支えてきたエネルギー資源は石炭、石油、天然ガスです。これらの資源の共通の性質は、以下の三点です。
①天然資源であること。
②低エントロピー状態で適度にエネルギー密度が高いこと。
③量が豊富であること。
天然資源、つまり人為的に手を加えなくても資源そのものが高品質の熱エネルギーに転化する能力を持った状態で産出することが本質的に重要です。
低エントロピー状態というのは、不純物が少ない状態でまとまった状態で産出することを示しています。これは、効率的に採掘できること、しかも精製に投入するエネルギーが少なくて済むことに対応します。
例えば、露天掘りで良質の石炭を産出する炭鉱であれば、石炭のエネルギー産出比は40あるいはそれ以上ともいわれます。つまり、石炭採掘のために工業的なエネルギーを1単位投入すると、その40倍の熱量を供給できるだけの石炭を生産できるということです。
この炭鉱に石炭火力発電所を建設して電力を供給すれば、石炭火力発電単独のエネルギー産出比が0.35であったとしても、「炭鉱-石炭火力発電」システムのエネルギー産出比は、
「炭鉱-石炭火力発電」システムのエネルギー産出比=40×0.35=14≫1.0
になるので、余剰の13単位のエネルギーが工業生産のために供給できるのです。
もちろん、出来るだけ石炭の熱エネルギーを電力に変換せずに利用可能であれば、そのまま消費する方がエネルギー産出比は高くなり、石炭の持つエネルギー利用効率は高くなります。
例えば、暖房ならば石炭ストーブを用いるほうが石炭火力発電電力で電気ヒーターを用いるよりも石炭の熱エネルギーを2倍以上の効率で有効利用できます。
しかし、移動用の動力として用いる場合は、動力供給システムの重量や大きさなどがシステムの総合的な効率に大きな影響を与えるため、石炭火力発電電力を用いる方が良い場合もあります。
最終的にエネルギーをどのように使用するのか、用途によって最適な利用方法を選択することが必要です。昨今の日本の風潮として「オール電化」がもてはやされていますが、闇雲に最終エネルギー形態を電力化することは化石燃料消費を増加させることにつながります。