大気中CO2濃度の上昇は気温を低下させる④
大気圧の鉛直分布
赤外活性気体からの熱放射の強さに影響を与える要素は、気体の種類による吸収・射出率の波長(あるいは周波数)に対する特性(「温暖化の虚像」p.48)の他に、気体温度と気体密度が重要です。
これまでの検討では、対流圏下層大気による地表面放射の吸収に対しては概ね1気圧の大気に含まれる赤外活性気体の体積濃度で話を進めました。対流圏の乾燥大気の組成は高度にかかわらず同一と考えてよいでしょう。
しかし、気体の熱放射の強さを考えるときに重要なのは相対的な体積濃度ではなく、気体密度です。同じ組成の大気であっても気圧が半分になれば気体密度は半分になります。地球大気は重力の影響で高度が高いほど気体密度は小さくなります。
図に示すように、地表面の大気圧は概ね1000hPaです。高度6kmでは470hPa程度、平均的な対流圏界面の高度である高度12km付近では195hPa程度です。最も大気層厚の薄い対流圏ですが、地球大気の8割程度はここに含まれていることがわかります。したがって対流圏では高度変化に伴う気体密度の低下が大きくなります。対流圏界面付近の大気密度は地上の1/4程度になります。
水蒸気の密度分布
乾燥大気の密度分布については大気圧の分布に従いますが、水蒸気はそうではありません。水蒸気は低温の対流圏上層に上昇するにしたがって、凝結して水滴ないし氷粒となって大気から取り除かれるため、高度の上昇に伴って気体密度が急速に低下します。
上図からわかるように、水蒸気の気体分子密度は対流圏界面付近では殆どゼロに近くなります。したがって、高度の上昇に伴って、地球大気の赤外線の吸収・射出率に占める水蒸気の効果は急速に低下することになります。
地表面と対流圏界面における赤外線に対する吸収・放射率
上図は地表面と高度11kmの対流圏界面付近の大気の電磁波に対する吸収・射出率の波長に対する分布を示しています。
地表面に比較して高度11km付近では水蒸気による吸収・射出率が極端に小さくなっていることがわかります。二酸化炭素CO2による主要な吸収帯域である、15μmと4.3μm付近では殆ど水蒸気H2Oの吸収帯域との重複がないことがわかります。
地表面放射の吸収局面では、圧倒的に大気中濃度の高い水蒸気H2Oと雲による吸収が支配的であり、CO2濃度の多少の変動はほとんど影響することはないと考えられます。
一方、対流圏上層からの上向きの赤外線放射による地球系外への放熱局面では、大気中のH2Oによる放射が大気放射全体に占める割合は極端に小さくなります。
その結果、大気中のCO2濃度が上昇した場合、対流圏下層大気の地表面放射の吸収局面における大気による吸収率に対する寄与は殆どない一方、対流圏上層大気からの上向き赤外線放射による放熱に対する大気の赤外線射出率に対してはCO2濃度変化の効果がそのまま表れることになります。
CO2濃度の上昇は地表面放射の吸収局面では影響が小さく、対流圏上層からの上向き赤外線放射による放熱局面では影響が大きくなるのです。