標準的な人為的CO2地球温暖化仮説では、ハワイと南極で大気中CO2濃度の連続精密観測を行っていたC.D.Keelingのデータから、近年観測されている大気中のCO2濃度の上昇傾向は人為的に大気中に放出されているCO2の半量程度が大気中に“蓄積”されることによって起こると主張しています。
 しかし、大気中に存在するCO2の量は炭素重量で700Gt程度であるのに対して、地表面環境は年間200Gt程度のCO2を放出しています。この事実は、大気中のCO2は平均滞留時間は3.5年程度で絶えず入れ替わっていることを示しています。槌田はこの事実に着目し、大気中のCO2に対す1年毎の離散的な表現による循環モデル=級数モデルを示し、大気中CO2濃度の上昇の主因は人為的な影響ではないことを示しました。
 一方、根本順吉の著書『超異常気象』において、C.D.Keelingによる、気温と長期変動傾向を取り除いた大気中CO2濃度の時系列変動を示した図が掲載されました。

この図は、長期的傾向を取り除いた大気中CO2濃度の変動が気温変動に遅れて現れることを示しており、標準的な人為的CO2地球温暖化仮説とは逆の因果関係を示しています。これについて、日本気象学会は、海洋開発研究機構の河宮未知生によるレポートを学会誌『天気』(2005.6)に公開しました。そこで河宮は、C.D.Keelingが取り除いた長期傾向の中にこそ人為的な影響が潜んでいるという、苦し紛れの説明を行いました。この河宮の主張は非科学的な主張ですが、C.D.Keelingの報告では長期傾向を取り除くという恣意的な操作を行っているという弱点が存在することも事実でした。
 私は、長期傾向を含めた形で気温変動と大気中CO2濃度の関係を明らかにしたいと考え、独自にデータを分析することにしました。このレポートはその端緒となった報告です。このレポートを公開した時点では、気温あるいは海面水温と大気中CO2濃度変動の間の時間遅れの解釈に曖昧さがありますが、この問題は後に槌田敦によって明確な解釈が提示されることになります。

2014.01.23

HP管理者 近藤邦明


大気中二酸化炭素濃度と海面水温・気温の関係

HP管理者 近藤邦明

§0 はじめに

 既にホームページ『環境問題を考える』において、大気中の二酸化炭素濃度の変動に海面温度が大きく影響している可能性を示唆した。ここではこの問題をもう少し詳細に検討することにする。
 検討するデータは、C.D.Keelingのグループによるハワイ Mauna Loa における大気中二酸化炭素濃度の連続観測データと、気象庁による「全球平均海面水温偏差」および「世界平均気温偏差」である。

§1 Mauna Loa における二酸化炭素濃度の観測値

 最初に示す図は、Mauna Loa における1970年以降の大気中二酸化炭素濃度の観測値を示している。

グラフでは、1970年における年平均二酸化炭素濃度325.68ppmを差し引いた値を示す。黒の実線が季節変動を取り除いた二酸化炭素濃度の長期的な変動傾向を示している。
 季節変動を取り除いたもう少し詳細な変動傾向を調べるために、着目月の対前年同月に対する年増分を求めた値(二酸化炭素濃度の長期変動傾向の微分の近似値)を求めたのが次の図である。

 回帰直線が右上がりの直線となっていることから、大気中二酸化炭素濃度は下に凸の二次関数的に増加していると考えられる。

§2 大気中二酸化炭素濃度と海面水温

2-1 ヘンリーの法則

 気体と水で構成された系では、ヘンリーの法則が成り立つ。つまり、「気体の液体(海水)に対する溶解度は気体圧力に比例する」ことになる。溶媒に溶け込む気体の質量ないし溶解度をm、溶媒に接する気体の圧力(混合気体の場合には着目する気体の分圧)をp、比例定数をCとすると、

m = Cp

 何らかの原因で大気中の二酸化炭素濃度(分圧)が上昇すれば海水への二酸化炭素の溶解度は大きくなり、大気中の二酸化炭素が海水に吸収され、逆に大気中の二酸化炭素濃度が低下すれば海水から大気中へ二酸化炭素が放出されて平衡状態が回復することになる。
 溶解度mは、一般に温度の関数となるので、C=F(t)とおくと

m = F(t)p

二酸化炭素の溶解度は、気温の上昇とともに減少することがわかる。F(t)の近似曲線を求めると以下の通りである。

F(t) = 2.55208E-9×t4 - 6.14583E-7×t3 + 5.82292E-5×t2 -2.829167E-3×t + 0.0768

19℃と21℃について実際に値を求めると以下の通りである。

F(19) = 0.0402
F(21) = 0.0379

 つまり、海面水温を20℃程度とすると、1℃の海水温の変化で、二酸化炭素の溶解度は3%程度変動する。海面水温がこれよりも低い海域では変動幅はより大きくなり、逆に高い海域では変動幅は小さくなる(ただし、海水に対する二酸化炭素溶解度は、水に対する溶解度よりも少し大きくなる)。

 大気と海洋で構成される系の大気中の二酸化炭素濃度は、海水温と大気中の二酸化炭素濃度(分圧)の二つの要素によって影響を受けることになる。

2-2 エルニーニョ/ラニーニャと大気中二酸化炭素濃度

 海面水温の変動と大気中二酸化炭素濃度の関係について、すぐに思い浮かぶのがエルニーニョ/ラニーニャ現象であろう。エルニーニョ/ラニーニャ現象と大気中二酸化炭素濃度の関係については既に報告しているので、簡単に触れておくことにする。

 グラフから明らかなように、エルニーニョ(海面水温の上昇、桃色の着色部分)が発生すると大気中二酸化炭素濃度は急激な上昇傾向を示し、ラニーニャ(海面水温の低下、水色の着色部分)がおこると逆に低下傾向を示す。
 エルニーニョ現象が発現すると、二酸化炭素の海水(表層水)への溶解度の温度効果によって、海面水温が上昇することにより溶解度が小さくなり、ヘンリーの法則を満足するために海水中から大気中へ二酸化炭素が放出されることに対応していると考えられる。ラニーニャ現象の発現時にはこれと逆の現象が起こると考えられる。

2-3 全球平均海面水温偏差と大気中二酸化炭素濃度

 全球の海面水温偏差に関して、気象庁からデータが公表されている。このデータは、緯度方向で±80°、経度方向で0〜360°の領域をそれぞれ2°で分割した各領域に対して、月毎の平均水温が示されている。下図に、1997年12月のエルニーニョ発現時と1988年6月のラニーニャ発現時の海面水温偏差の分布図を示す。

 海面水温偏差とは、1971年から2000年の各領域の月毎の平均水温と各月の平均水温の観測値との差を示す。 各月に対してこの水温偏差の全球(有効な観測値の存在する領域について)の平均値を求めたのが全球平均海面水温偏差である。これを下図に示す。

 大気中二酸化炭素濃度年増分と比較するために、全球平均海面水温偏差に関しても年増分を求め、比較したのが下図である(13ヶ月移動平均)。

 図から明らかなように、平均海面水温偏差の年増分と大気中二酸化炭素濃度の年増分は非常に良く同期している。二つの曲線の極値の発現位置を比較すると、海面水温の変動に対して半年から1年程度の遅れで大気中二酸化炭素濃度が追従して変動している。
 次に示す図は、平均海面水温偏差年増分のデータを8ヶ月シフトして大気中二酸化炭素濃度年増分のデータとの相関関係を調べたものである。

§3 大気中二酸化炭素濃度と気温

 世界の平均気温偏差について、気象庁のホームページ「世界の1月平均地上気温の平年差の経年変化」のデータを下図に示す。

 気温に関しても前と同様に年増分を求めて、これを大気中二酸化炭素濃度の年増分と比較したものを下図に示す。

 気温偏差の変動も海面水温の変動とほとんど同じ傾向を示す。二つの曲線の極値の発現位置を比較すると、気温の変動に対してやはり半年から1年程度の遅れで大気中二酸化炭素濃度が追従して変動している。
 次に示す図は、世界気温偏差年増分のデータを7ヶ月シフトして大気中二酸化炭素濃度年増分のデータとの相関関係を調べたものである。

§4 結果の分析と考えられるシナリオ

 今回の検討で利用した海面水温、世界気温のデータは、面的な広がりを持つ各観測地点の物理・生物・化学的な定性的な背景を一切捨象した算術的な平均値であるにもかかわらず、Mauna Loa における二酸化炭素の大気中濃度の定点観測値と強い相関があることが示された。
 また、海面水温あるいは気温変動に数ヶ月から1年程度の間を置いて大気中二酸化炭素濃度が追従するように変動することが示された。これは、時系列的にみて、海面水温あるいは気温変動が原因となって、その結果として大気中の二酸化炭素濃度が変動することを示している。

標準的な二酸化炭素地球温暖化説の主張は、

■大気の温室効果、特に二酸化炭素による温室効果はいまだ飽和しておらず、大気中の二酸化炭素濃度の上昇は温室効果の増大につながり、気温を上昇させる。
■大気中二酸化炭素濃度の増加は人為的に排出された二酸化炭素による。

を前提に構成されている。それ故、

大気中二酸化炭素濃度の上昇→気温・海水温の上昇→海洋からの二酸化炭素の放出

という正のフィードバックによって地球は熱暴走過程に入っていると主張する。
 もしこの仮定が正しいとすれば、海面水温・気温の変動よりも大気中の二酸化炭素濃度の変動が先に現れなければならない。しかし、観測値はこれとは逆に海面水温・気温の変動に大気中二酸化炭素濃度の変動が追従しており、因果関係が逆転していることを示している。
 また、二酸化炭素温暖化論が主張するような二酸化炭素濃度による正のフィードバック過程が存在するならば、海面水温・気温と大気中二酸化炭素濃度の関係は非線形な関係となり、今回示したグラフのような明確な2者関係が現れるとは考えられない。

 大気中二酸化炭素濃度の対前年増分と海面水温・気温の年増分の経年変化を比較したグラフをみると、海面水温と気温は0℃のラインを中心とした振幅を示すのに対して、大気中二酸化炭素濃度に関しては約1.5ppmのラインを中心にした振幅を示している。
 これをもう少し詳しくみるために示したそれぞれの散布図によると、回帰直線のy切片はいずれも1.47ppm程度を示している。これは、海面水温あるいは気温が前年と変化しない場合においても、大気中の二酸化炭素濃度は1.47ppm程度増加していることを示している。
 つまり、大気中の二酸化炭素濃度の増加のうち、年率1.47ppm程度は海面水温や気温の変動とは独立に増加していると考えられる。そして、大気中二酸化炭素濃度年増分から1.47ppmを差し引いた部分の変動は海面水温あるいは気温に同期して変動しているのである。

 別稿で述べたとおり、地球大気の温室効果に有効な二酸化炭素濃度は既に飽和状態に近いと考えられる。付加的な二酸化炭素による温室効果が無効であると仮定すると、大気中の二酸化炭素濃度が上昇しても、これに同期して海面水温・気温が変動することはない。
 しかし、何らかの原因で海面水温が変動すれば、ヘンリーの法則を満足するために新たな平衡状態へ遷移し、大気中の二酸化炭素濃度が変動するのである。
 今回示した大気中二酸化炭素濃度年増分のうち、地球からの何らかの原因(地球生態系の変化、森林の消失や砂漠化による有機物の分解速度の変化や工業起源の二酸化炭素排出)による二酸化炭素の排出増による大気中の二酸化炭素濃度の増加が固定部分の約1.47ppmに対応するものと考えられる。この部分は二酸化炭素の温室効果が既に飽和していると仮定すると海面水温・気温に変化をもたらすことはないのである。
 残りの変動部分は、何らかの原因(例えば太陽放射量の変動など)によって海面水温・気温が変化し、ヘンリーの法則にしたがって大気中二酸化炭素濃度の変動として観測されると考えられるのである。

2006.2.21

【参考】南極における大気中二酸化炭素濃度年増分

 C.D.Keelingのグループは南極においても大気中二酸化炭素濃度の連続観測を行っている。ここでは参考のために Mauna Loa のデータと同様の処理を行った南極における二酸化炭素濃度年増分と世界平均気温偏差年増分のデータをグラフ化したものを示す。尚、南極の観測データでは幾つかのデータ欠損があるが、欠損部分は直線で補間して処理している。

 南極における観測データも Mauna Loa とほとんど同じ傾向を示していることがわかる。

(2006/08/03 追記)

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