No.477 (2010/05/27)NHKお馬鹿番組の記録07

 

 既にご承知の通り、5月21日に金星探査衛星あかつきなどを載せたH-UA17号機が打ち上げられました。このあかつきに絡んで、とんでもないデマがマスコミに流れています。金星はCO2を90数%含む大気組成のおかげで温室効果によって表面温度が400℃を超えていると!!
 気体の状態方程式を知っている高校生であれば、金星表面が高温なのは表面気圧が90気圧を超える高圧であることによることは自明であり、こんな愚かなデマには騙されないでしょうが・・・。(この件については本編の大気温度はどのように決まるかをご覧ください。)
 おそらく、JAXAの専門家や惑星科学の研究者であれば、金星大気がCO2濃度が高いので高温だなどと本気で信じている者はいないはずです。ただ、大金の掛かる金星探査衛星という彼らの高価なおもちゃの予算を、財政破綻寸前の国庫から引き出すためにはそれ相応の方便がいるわけで、その方便として『CO2温暖化研究に役立つ』と言うのが今のところの殺し文句なのです。

 愚かなNHKをはじめとする無能な報道機関の似非科学解説者には、彼らの方便を検証する能力もなく、ただただ右から左へ垂れ流し続けているわけです。こんな屑報道をする連中に視聴料を払うなどとんでもないことです(笑)。

 いろんなところで報道されていますが、代表として、たまたま今日見たNHKの番組を上げておきます(笑)。

●2010年5月27日NHK総合13:00〜14:00 スタジオパークからこんにちは『ニュース解説』
●解説者:室山哲也

No.476 (2010/05/15)『もんじゅ』、『島根原発』・・・

 また『もんじゅ』で計器の誤動作事故、島根原発では点検不備が報道されています。まずは大分合同新聞5月15日朝刊の記事を紹介します。

 

 

 この種の原子力発電の事故報道では、一つ一つの事故は小さく重大なものではなかったというものがほとんどです。

 しかし、14年間の停止期間を経て、十二分の安全に対する準備を行ってこの5月に運転再開されたばかりのもんじゅにおいて、これだけ頻繁に事故が多発するということ自体がきわめて危険な兆候だと思います。
 原発も含めて、巨大な装置システムの大事故というものは、個別には些細な事故の積み重ねによって起こる可能性が一番高いと考えられます。大事故になる前にもんじゅを早急に停止することを望みたいと思います。

 島根原発の問題は、原発の定期点検の信頼性を揺るがすことであり、許されざる行為でしょう。次第に国内の原発は老朽化が進み事故の危険性が高まってきていることに鑑み、重大な問題であろうと考えます。

 原発(軽水炉、高速増殖炉とも)の強引な運転再開や定期検査の手抜きというものが発生する遠因は、原子力発電が高コスト=資源浪費的な発電方式であることであり、この事実を糊塗するために、直接経費以外の安全性に対する経費を低く抑えようと無理を重ねているからです。
 原子力発電が単なる電力供給装置だと主張するのならば、重大事故と引き替えのコスト削減などとんでもないことです。原子力発電が資源浪費的な発電方式であることを直視して、早急に原子力発電から撤退することこそ最も合理的な判断です。

 ただ、原子力発電というものが隠れ蓑で、本当の目標が核兵器保有であれば、どんなこじつけの理由を付けてでも原発の運転を継続することになるのでしょうが・・・。

No.475 (2010/05/13)日経新聞の「人為的CO2温暖化」報道

 kikulog(http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1273674969)に日本学術会議の公開シンポジウムの録音が公開されています。私は講演部分を聴いていなかったのでありがたく聞かせていただきました。
 結局のところ、名大の草野さんの講演以外は、残念ながら容疑者の弁明を長々と聞かされただけでした。蛇足ですが、kikulogでは菊池さんは私とはまったく逆に、パネル・ディスカッションの江守君の数値シミュレーションに対するわけのわからない説明と発言妨害を「会場からの質問者の中に、その意味で長期と短期の区別がついていないのに、詰問調で迫るかたがおられて、江守さんが匙を投げてしまいましたが、ああいう詰問調は事業仕分けの真似なんでしょうか。こういう場面では、詰問調で迫ろうがおだやかに質問しようが、出てくる答は同じです。じっくり説明を聞く気がないなら、質問しないほうが他の人のためです。」と評しているのは興味深く拝見しました(笑)。
参照:『時間追跡による気候予測は不可能』

 さて、本題です。本日(13日)、やっと日経新聞が日本学術会議公開シンポジウム関連の社説を掲載しました。約2週間、この問題をどう扱うか社内的にかなり逡巡があったのではないかと推察します(笑)。いつもはあまりお立ち寄り下さらないのに(笑)、ここ数日間はえらく頻繁に当HPにも顔を出され、当HPも含めてネット上の反応を調査していたのかもしれません・・・。
 内容的には先行した読売新聞や毎日新聞とは一線を画す内容でした。まず記事を転載しておきます。


 

 私は以前、このコーナーで日経には目端の利いた記者がいると持ち上げておきました。シンポジウムの発言を聞いても、毎日の記者よりは数段意味のある受け応えをしていたようですが、日経新聞中枢にはこれは通じないようです。まあ、江守君を連載記事のライターにしたり、元東大総長小宮山宏の思想弾圧発言を掲載するような感覚なのですから仕方ないでしょうが・・・。

 まず特徴的なのが何が何でも人為的CO2地球温暖化仮説は正しいという立場を堅持することを表明していることです。今回のIPCCを巡る問題は、ごく些細な問題で人為的CO2地球温暖化仮説の正しさはゆるぎないというわけで、IPCCの全面擁護の立場を鮮明にしました。
 Climategate事件につきましては、本HPで既に検討してきたように、人為的CO2地球温暖化仮説の根幹が覆ろうとしているのです。日経新聞中枢は、事実から目をそらせてIPCCあるいは日本政府に盲従する決断をしたようです。
 次に、「些細な誤り」ですが(笑)、『人類は地球が吸収できる2倍のCO2を出し』というのは、人為的CO2蓄積仮説を支持する明日香さんたちのグループないし東大IR3S『地球温暖化懐疑論批判』の主張を鵜呑みにしているようです。IPCC2007年の図を見てもそんなことは主張していません。図からわかるように、人為起源のCO2は64億トン/年(炭素重量換算)に対して、地表面環境(陸・海合計)のCO2吸収量は2150億トン/年です。新聞はウソを報道してはいけません(笑)。

 また、日経の記事では、
「気温上昇」=「人為的CO2放出量増加に伴う大気中CO2濃度の上昇を起源とする温室効果の増大による温暖化」
と同一視しています。これもIPCC系気象学者からの悪影響ですね。ここにはいくつもの主張が含まれており、単純ではないのです。私は繰り返し述べていますが、近年の温暖化自体を否定する気は毛頭ありません。私が人為的CO2地球温暖化仮説を否定する理由は次の通りです。
@産業革命以降の大気中CO2濃度の上昇の主因は人為的な影響ではありえない。
A大気中CO2濃度は気温変動に遅れて発現するので、CO2濃度の上昇が原因となって気温が上昇するのではなく、因果関係が逆である。
 @によって、仮にCO2地球温暖化が事実であったとしても、それは自然現象であって人為的な関与(化石燃料燃焼に伴うCO2放出など)は原因ではないのです。また、Aについてもこれを否定する事実は今のところ存在しません。ゆえに、現在観測されている気温上昇(があるとすれば)それは自然現象ないし、CO2の影響以外の原因に起因するのです。
 『温暖化=人為的CO2地球温暖化』というIPCC系気象学者による恣意的に理論を混乱させる主張に、まんまと洗脳されているようです。よく考えてください。仮に温暖化の主要な原因が、CO2濃度の上昇だったとしても、CO2濃度の上昇が人為的な影響でなかったら現在の温暖化対策などまったく無意味なのです。

 残念ながら、日経新聞中枢の温暖化問題に対する判断は読売、毎日の3社の内で最低です。

No.474 (2010/05/11)早くも事故続きの『もんじゅ』・・・

 この5月6日に運転を強行再開した高速増殖炉『もんじゅ』は、運転開始早々事故続きです。まずは報道を紹介します。


大分合同新聞5月10日朝刊


もんじゅ制御棒挿入でミス
[2010年05月11日 00:19]


 日本原子力研究開発機構は10日、高速増殖炉原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)で核分裂を抑制する制御棒の挿入作業に一時的なミスがあったと発表した。機器の故障ではなく、環境や運転に影響はないとしている。
 原子力機構によると、10日の炉心確認試験を終えた午後8時半すぎ、制御棒が十分に挿入されず残り3ミリの位置で停止したため、8時50分ごろから10時半すぎまで約1時間半、挿入作業が中断した。その後、再び作業を始め、10時38分に完了したという。
 1995年のナトリウム漏れ事故で停止したもんじゅは、6日に14年5カ月ぶりに運転を再開。8日に臨界に到達した。

(大分合同新聞電子版)


 機械装置は、新品を試運転するより、一旦長期間放置された中古品を再始動するほうが圧倒的に難しいというのが常識です。ことにシステムが複雑かつ大規模であればあるほど困難になります。

 さて、民主党政権は、自民党政権以上に人為的CO2地球温暖化対策に熱心であり、自民党政権以上に原子力発電の拡大と高速増殖炉の再開に熱心です。
 既に本HPでは繰り返し述べている(例えば太陽光発電電力高値買取に反対する)ことですが、エネルギー供給装置としての原子力発電は核廃物処理まで含めて総合的に考えれば、火力発電よりもはるかに石油利用効率の低い装置であり(つまり単位発電電力量あたり石油火力発電以上に大量のCO2を放出する)、しかも放射性廃物という猛毒の危険物質を大量に作り出す欠陥システムです。
 原子力発電がエネルギー供給装置として無意味であることは、自民党もそして民主党も知らないはずはありません。それでもなおかつ、人為的CO2地球温暖化対策という『方便』を使ってまでなぜ原子力発電、中でも高速増殖炉もんじゅの運転再開に固執するのか?合理的な理由は、もんじゅは超兵器級プルトニウムを効率的に生産できるからだという理由以外に考えられないのです。

 以下、『核開発に反対する会』の会報から、槌田敦氏のレポートを転載します。


 福井県は、この4月中にもんじゅ運転再開との情報を垂れ流している。しかし、その情報は確実ではない。民主党の地域振興に乗りたい福井県の希望的情報ではないかと思われる。というのは、もんじゅ運転を担当する原子力機構には勢いが感ぜられず、またも口実を設けて運転延期ではないかと思われるからである。

周辺部から起きる事故の危険
 なぜ、原子力機構(旧動燃)に勢いがないかというと、もんじゅは、年間200億円も投じてナトリウムを加熱し、この循環で生命装置を働かせ、その寝たきり状態を14年間も維持してきた。装置の劣化も問題だが、それよりも関係者の退職・配転などで、この特殊原子炉は正常に運転できるかどうかの方が心配である。
 もんじゅは、当初予定した予算(国と電力の資金)では建設できなかった。自由に使える電力の資金は原子炉の建設に早々と使い果たしてしまった。そこで、周辺部の建設では、この作業をいくらでしてください、という発注方式をとることになった。そのため、事故を起こした温度計には動燃は一切関与していなかった。その後の故障もすべて動燃のまったく知らない周辺部で起こっている。したがって、運転再開しても、すぐに周辺部の事故になって止まるであろう。

核武装のためのプルトニウム
 それなのに、なぜ、民主党政権は、もんじゅの運転を強行しようとしているのか。それは、もんじゅが日本で唯一の軍用炉だからである。兵器級プルトを生産していた東海原発は廃炉になった。常陽は兵器級プルトを生産するブランケットを外している。もんじゅだけがこれを生産できる原子炉だからである。
 日本が、田母神の言うようにアメリ力から核兵器を買って核武装するという方針を取るとしても、日本が独自に核兵器を生産できて、これを管理する能力がなければならない。この管理能力がなく、テロに盗まれるかも知れない国にアメリカは核兵器を売る訳がない。
 そこで、少なくとも100発程度の核兵器を自力で作り、これを管理する能力を世界に示さなければならない。そのためには、自力で兵器級プルトを200キロほど生産しなければならない。すでに日本の所有している量は36キロである。これを追加するには、もんじゅしかないのである。
 しかし、この方法では国民の同意を得る事はできない。そこで利用されるのが、プルトを増殖する夢の原子炉(高速増殖炉)というウリなのだ。
 話題になっているのは「倍増時間」である。プルトを倍に増やすのに90年かかるという。
 だから新しいもんじゅを作るのは90年後だという。だが、それは違う。日本は多数の原発から大量のプルトを生産しているので、あといくつももんじゅを作ることができる。

高速炉では増殖できない
 高速増殖炉は、そもそも増殖できない原子炉である。それは炉心の再処理ができない原子炉だからである。高速増殖炉の炉心は、通常原発の軽水炉に比べて大量の白金属元素が発生している。これは硝酸には溶けないから再処理すると大量のヘドロが発生する。
 このヘドロの中にプルトが閉じ込められて完全回収ができないのである。
 六ヶ所再処理工場が運転できないのも、原発の使用済燃料の中の白金属元素が輸送パイプを詰まらせたからで、高速増殖炉ではなおさらである。
 もんじゅの例でいうと、もんじゅには炉心におよそ1400キログラムのプルトを投入する。これを1年間運転すると、炉心のプルトは多少減っておよそ1392キロになる。しかし、ブランケットで新しく62キロのプルトが生産される。したがって、54キロのプルトが増殖されることになる。
 しかし、炉心の再処理で、4%のプルトが回収できない(回収率96%)と、未回収の量は56キロである。それでは増殖にならないのである。おそらく回収率は80%程度と考えられるので、これではプルトの減少である(下表参照)。それなのに、「高速増殖炉」などと名乗るとは、ハッタリである。

炉心再処理回収率 プルトニウム量 年間増殖率
炉心回収量 ブランケット生成量 合計
100% 1392kg 62kg 1454kg 1.0386
96% 1336kg 1398kg 0.9986
80% 1114kg 1176kg 0.8400 


※年間増殖率=(合計)/1400kgとした。年間増殖率<1.0ならば『減少』である。

 「嘘つきは泥棒の始まり」という。実は、ブランケットで生産される62キロのプルトが濃縮度98%という最高級の核兵器原料であることを、この増殖という言葉で隠蔽することができる。
 マスコミの中枢も、脱原発指導者の一部も、この事実を語ろうとはしない。彼らはこの事実を知らない訳ではない。しかし、彼らは、内心では、日本の核武装を望んでいる。
 中国が核武装しているのに、日本が非核では、戦争になって負ける。本心ではなんとかしたいと思い、この事実を話たくないのである。

 しかし、その結果として、インドに続く核武装国日本。それは世界史でどのような意味を持つことになるのだろうか。


 大分合同新聞2010年5月12日朝刊から原子力発電関係の2編の記事を転載しておきます。


 

 

No.473 (2010/05/09)日本学術会議公開シンポジウムの評価

日本学術会議公開シンポジウム「IPCC問題の検証と今後の科学の課題」の評価

HP管理者 近藤 邦明

 去る2010年4月30日に掲題の公開シンポジウムが行われた。既にネット上にもいくつかの論評が公開されているが、本HPの立場から総括を行っておくことにする。

1.IPCCの免罪と人為的CO2地球温暖化仮説擁護のためのシンポジウム

 まず、テーマからも推察される通り、このシンポジウムは、昨年末にIPCCにかかわる主要な研究者同士のメールの流出に始まるいわゆる『Climategate事件』をきっかけに、それまでくすぶっていたIPCCにかかわる研究者によるデータ改竄・捏造、あるいは自然科学的な根拠の無い流言に等しい報告書の内容、IPCCに批判的な研究成果の握り潰しなどが次々に明らかになった一連の事件に対して、その事実経過や影響の実体を明らかにし、どう対処すべきかという自然科学における焦眉の課題を正面から検討することを回避し、問題をIPCCという組織の運営の問題に矮小化したものであった。

 この点は、次に示す当日配布された資料集からも明らかであろう。

資料1 PROCEDURES FOR THE PREPARATION,APPROVAL AND PUBLICATION OF IPCC REPORTS
資料2 IPCCの原則と手続に関する声明(環境省仮訳)
資料3 Statement on IPCC principles and procedures
資料4 IPCC statement on the melting of Himalayan
資料5 ヒマラヤの氷河の融解に関するIPCC声明(環境省仮訳)
資料6 Statement by ICSU on the controversy around the 4th IPCC Assessment
資料7 IPCC第4次報告をめぐる論争についての国際科学会議(ICSU)の声明

 このシンポジウムは事件を起こした当事者=犯罪組織IPCCによる資料ないしIPCCを擁護するICSUの簡単な声明を元に議論するようにはじめから仕組まれていた。

 日本学術会議の意図は、当日の参加者の人選からもまた明らかであった。気象研究を専門とする講演者あるいはパネリストは、日本のIPCC協力機関に在籍する者が多数含まれ、第三者的な立場の批判的参加者はごく小数に限られた。

《講演者・パネリスト》
中島 映至 (東京大学 大気海洋研究所 教授)
西岡 秀三 (国立環境研究所 特別客員研究員)
草野 完也 (名古屋大学 太陽地球環境研究所 教授)
米本 昌平 (東京大学先端科学研究センター 特任教授)
江守 正多 (国立環境研究所 温暖化リスク評価研究室長)
安成 哲三 (名古屋大学 地球水循環研究センター教授)
伊藤 公紀 (横浜国立大学 大学院工学研究院 教授)
横山 広美 (東京大学 大学院理学系研究科 准教授)

 本来ならば、この種の組織犯罪の問題を検討するためには、主要な参加者ないし報告者は少なくとも対象機関との関係の無い人選を行い、事前に情報を収集した上で問題点を整理した上で基調報告を行い、その上で事情聴取のための参考人として日本のIPCC協力機関に在籍する者を召致するという形式にすべきであった。
 今回は、犯罪当事者ないし限りなく黒に近い容疑者に無制限に発言を許し弁明の機会を与えるものであることは人選の段階で既に明らかであった。
 日本学術会議としての事前の事実関係の調査や問題点の整理などの最低限の準備も行わずに、この時期に拙速で形式的なシンポジウムを開催した意図とは、IPCCの免罪と本質的な問題の隠蔽による『人為的CO2地球温暖化仮説』に対する批判的世論を早期に沈静化することが目的であったと考えざるを得ない。日本学術会議の準備不足は後述のシンポジウムのパネルディスカッションの議事運営でも見事に露呈した。

2.シンポジウムの概要

 シンポジウムに参加した読者からの報告と、パネル・ディスカッションの録音からシンポジウムの概要をまとめておく。

 基本的には資料として配布された『IPCC第4次報告をめぐる論争についての国際科学会議(ICSU)の声明』の内容を追認するものであり、IPCCの中における手続き上の問題、あるいは「熱心な研究者」の勇み足によって一部報告書に誤った記述があったことなど、反省すべき点はあるが、報告書全体から見れば『些細な問題(!)』にすぎず、IPCCの主張自体には何ら影響しないという論調でまとめられたようである。おそらくこれは日本学術会議の目論見どおりの成り行きであったものと思われる。
 既に本HPの複数のレポートで紹介している気象観測データの恣意的な改竄・捏造の問題など、きわめて本質的かつ重大な問題に対する具体的な検討はまったく無かったようである。

 特徴的な議論の具体的な内容は後に検討する。全体としてシンポジウムの司会者の無能あるいは事前準備の不十分さによって、結果的にIPCCを擁護するパネリストの言いたい放題の無意味な意見交換が行われたのみである。司会者は彼らの発言に含まれる自然科学的な明らかな誤りや偏向した理論に対して何ら有効な対応をとらず、正に言った者勝ちの無法状態という感があった。

3.特徴的な発言

 パネル・ディスカッションないし会場からの発言で特徴的であったものについていくつか紹介する。

(1)江守正多(国立環境研究所 温暖化リスク評価研究室長)

 人為的CO2地球温暖化仮説の強力な支持者としてマスメディアへの露出が多く、非科学的な詭弁でCO2地球温暖化懐疑論を排斥する急先鋒として、研究者というよりは宣伝マンとして著名な江守君の発言は、IPCCを支持するパネリストの中でも突出したものである。蛇足であるが、日本学術会議の人選において最悪の一人である。
 彼の主張はICSUの声明を全肯定するものであり、特に内容に見るべきものは無い。第三者から見ると彼ほどIPCCの権威を振り回し、彼らが温暖化懐疑論と呼ぶ人為的CO2地球温暖化仮説に対して自然科学的な疑問を呈する研究者を非論理によって積極的かつ露骨に排斥する者は珍しい。しかし、彼は自分を評して中立の立場からの発言を心がけているとのことである。これにはまったく恐れ入った。
 その舌の根も乾かぬうちに、気候シミュレーションモデルには不確定性はあるが、CO2が増えれば地表面付近の気温が上昇するというCO2温暖化仮説は定性的には確定しているものであって、モデルによる誤差以前の問題であると主張する。つまりCO2地球温暖化懐疑論を排除する主張を行っているのである。
 会場から気候シミュレーションに対して短期的な気象の数値予測精度でさえ低いのに、100年先の気候シミュレーションを信頼できるのかという趣旨の質問に対して、非論理的な理由で気候シミュレーションを擁護する発言を繰り返し、発言妨害をした。江守君の行動様式は非常にわかりやすい。自説のウィークポイントにかかわる本質的な意見に対しては大きな声による恫喝・威圧でこれを押さえ込むようである。愚かなだけでなく、まったく討論の礼儀をわきまえぬ無礼な行動である。彼の発言の内容を放置し、また彼の粗暴な行動を制止しなかった司会者にはあきれる。

 こうした、発言者の発言内容についての真偽あるいは意味を判断できない無能な司会者によるシンポジウムでは江守君のような非論理的でも声が大きい者の主張が会場の雰囲気をリードするようである。おそらくそれを見越して日本学術会議は江守君を選考したのであろうと思う。その意味でこの選考は奏功したと言えるであろう。

(2)横山広美(東京大学 大学院理学系研究科准教授)

 日本学術会議の人選における第二の失敗が横山女史を用いたことである。日本学術会議の横山女史選任の理由が不明である。彼女は気候変動問題についてはまったくのど素人であるばかりでなく、事前の調査もせずにこのシンポジウムに参加したようである。
 彼女はIPCCの弁明を妄信し、Climategate事件の本質的な問題であるデータ捏造・改竄の重大性を何ら理解せず、誤りは全報告書のごく一部の些細な問題であるとした上で、日本のマスコミがこの事件について報道しなかったことは良識ある対応であったと「評価」した。
 また、彼女は科学論争において多数派の意見と少数派の意見を同等に報道することは好ましくないという趣旨の発言をした点には驚嘆した。彼女は科学論争も多数決で決めることが正しいと考えているようである。なんと浅墓な人なのであろうか!
 この様な人選を行った日本学術会議の判断基準は何であったのか、むしろそちらの方に興味をそそられた。

(3)草野完也(名古屋大学 太陽地球環境研究所教授)

 草野氏は、自然科学者としてはごく良識的な立場からコメントされた。気候変動という地球科学の問題はきわめて複雑な問題であり、関連するパラメータの数は莫大な数に上ることを理解しておかなければならないことを強調された。私たちが観測できる気象データとはその膨大な数のパラメータすべての影響を反映したものであるから、問題の間口を狭めるような対応は好ましくないと主張された。
 これは、人為的CO2地球温暖化仮説が近年観測されている気温上昇の唯一絶対の原因だと主張するIPCCはじめ江守君に代表される日本の主流の気象研究者の態度に対する痛烈な批判であったが、あまりにも上品な表現であったために、シンポジウムの流れを変える有効なカウンターとして機能しなかったのは残念である。

(4)松野太郎(JAMSTEC 独立行政法人海洋研究開発機構)

 会場からの発言であったが、IPCC事件に関して容疑者グループの輩出母体の一つであるJAMSTECの研究者であり、まさにIPCC報告書作成に直接かかわっている彼は、人為的CO2による地球の温暖化は最早議論の余地も無いほど確からしいと自らを正当化する発言を行っていた。

4.シンポジウム総括

 シンポジウムは、おそらく日本学術会議の当初の目論見どおり、IPCCの対応には一部改善すべき点があるものの、影響は些細なものであり、人為的CO2地球温暖化仮説の信頼性自体はまったく問題ないという結論であるらしい。

 シンポジウムは終始IPCCを擁護する参加者のペースで進み、彼ら自身はIPCC事件とはかかわり無いかのような発言を行い、自らその行動様式を反省することは無かったようである。
 Climategate事件によって欧米の気象関係の学会組織において、組織的に人為的CO2地球温暖化仮説に批判的な研究を排除していたことが明らかになったが、その状況は正にこの日本でも同じである。その実行部隊として行動しているのがシンポジウムに参加したIPCCを擁護するパネラー達であり、まったく反省などしていないことは、前節で紹介した江守・松野などによる非科学的な懐疑論排斥発言で象徴的に示されている。

 総じて、この日本学術会議のシンポジウムはIPCCを擁護する日本の主流気象研究者グループの免罪と禊(ミソギ)の場として機能し、Climategate事件を矮小化し、問題の本質をむしろ隠蔽する結果になったのではないだろうか。
 しかし、Climategate事件は現在までに何も解決されておらず、正に現在進行形の問題である。現状では温暖化問題を含めた気候変動を議論するための最も基本的な気候観測データに対する改竄・捏造の全体像すら完全には把握されておらず、その実態を明らかにした上で信頼に足るデータを再構築することこそ第一義的に重要である。
 更に、欧米にとどまらず日本も含めて気象研究にたずさわるIPCCを頂点とする利権集団・研究者集団(例えば、気象庁気象研究所、国立環境研究所、JAMSTEC、JAXAなど)によって捻じ曲げられてきた気候変動に関する自然科学的な議論(例えば、気象学会における講演・論文掲載拒否事件、東大IR3Sによる「地球温暖化懐疑論批判」という謀略冊子の刊行など)を、本来の自然科学の論議のあるべき自由闊達なものにしていくことが必要である。とりわけ、『人為的CO2地球温暖化仮説』を自然科学の場で徹底的に再検討することが必要である。

 もし日本学術会議が今回の問題に対して本気で取り組むつもりであるならば、IPCCに協力する日本の研究機関とは直接かかわりの無い第三者機関を構成した上で、事件の詳細情報を収集し、問題の事実関係をIPCC関係者のフィルターを排除して独自に行うことが最低必要条件である。
 その過程で、今回のシンポジウムでは排除されているIPCCや人為的CO2地球温暖化仮説に自然科学的な疑問を呈している国内の研究者に対する聞き取り調査を行うことも必要であろう。

(2010.05.09)


資料7
2010年2月23日
国際科学会議


IPCC第4次報告をめぐる論争についての国際科学会議(ICSU)の声明

 国際科学会議(ICSU)は、気候変動を含む地球環境の変化に関する研究に積極的に参画してきた世界を代表する科学組織として、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に関わる論争を現在まで注視し続けてきた。この論争においては、科学的知見、特に将来の変化予測に関する知見の解釈と、IPCCによって採用されて来た評価手順の双方に関して重要な問題が提起されている。
 IPCC第4次評価報告書に示されているのは、130以上の国から選ばれた450名以上の代表著者、800名以上の執筆協力者、そして2500名を超える査読者による、かつてない包括的な国際評価である。この評価には、気候システムと、その今日までの進化、そして将来予想される将来変化について、集約された最新の知見が反映されている。作業の膨大さを考えるならば驚くに当たらないことだが、報告書の一部に誤りがあった事は今や明白である。しかしながら、分析と評価がなされた研究全体の規模に比するならば、これらの正確さの欠如は些少であり、主要な結論を少しも損ねるものではない。注目すべきは、これらの誤りか最初、科学者自身によって発見されて公にされ、その結果、誤った理解は今や修正できているという事実である。この一連の出来事は、気候変動の科学の誠実さと信頼性を傷つけるものではなく、むしろそれ自体が科学的手順の活力と厳格さを体現している。

 如何なる科学の分野においても、間違いや新しい証拠に照らして変更を迫られる古い仮説があれば、それを率直に認め、訂正することが大切である。社会の選択や政策に広く深く影響を与えるIPCC報告書の場合、とりわけそうである。現在の論争から教訓を学びとらねばならない。IPCCの手順は試され、吟味されているが、決して無謬ではない。(また、その無謬性が科学者コミュニティによって示されたこともない。)最近の出来事に照らして、いまこそこれらの手順を再検討して、@)まず誤りが入り込む余地を減らすため、そしてA)それでも防ぎ切れずにIPCCの最終報告に誤りが残ってしまった場合には、それを見つけ訂正する最適な仕組みを構築するために、どのような変更を加えるべきかを調べる絶好の機会である。IPCCの評価報告を作る手順には、科学コミュニティのみならず政府機関も関与している。それらは複雑で、直接関与していない者には必ずしも分かり易いものではない。よって、これらの手順の透明性を可能な限り高め、一般社会に説明できるものにするよう努力を続ける事が肝要である。

 IPCC報告書中に誤りが見出されたのは残念な事である。しかし、IPCCの採った手順の複雑さに照らせばやむを得ないものと理解できる。これらの誤りが、報告書の主要な結論の信頼性を貶める企てや、科学的陰謀だとする非難、そして科学者への個人攻撃を引き起こしてしまった事は、容認されるべきものではない。IPCCのような科学的評価(アセスメント)は、我々の社会の現在および将来を形作るための意志決定をする上で重要な基盤となるものである。科学者、政府、その他の社会の利害関係者は、そのような評価の質と妥当性を確かなものにするために協力して行く必要がある。我々は、現在の論争を教訓とし、必要な改善を施さねばならない。我々は、何千人もの科学者がIPCCやその他の科学的評価に無償で時間を捧げている事に感謝すべきである。そして我々は、批判的であり続けなければならない。しかし、それはあくまで建設的で、科学的手順それ自体の強さと限界を率直に認めた上でのものでなくてはならない。

※アンダーラインは近藤による

この声明は国際科学会議(ICSU)の執行部(Officers)により承認されたものである(ICSU、2010年2月)。ICSUは、各国の科学団体(メンバー数119)および国際学術団体(メンバー数30)を代表する非政府の国際組織である。この声明は必ずしもすべての個々のメンバーの見解を代表するものではない。


温暖化報道(科学報道)と報道機関の責任〜反省しない報道機関には期待出来ない

HP管理者 近藤 邦明

 シンポジウムの報告では敢えて触れなかった、人為的CO2地球温暖化を巡るマスコミの科学報道について少し触れておく。

 シンポジウム当日、多くのマスコミ・報道機関の関係者も会場に参加していたようである。実際にシンポジウムにおいて発言した毎日新聞と日経新聞の記者の発言に、この問題を含めたマスコミの科学報道の無能さが露呈した。
 日本においてClimategate事件に関する報道がほとんど無いという点についての発言であった。毎日新聞の記者は、この事件がそれほど重大な問題だとは考えなかったことが原因であるとした。日経新聞の記者は現地駐在員から記事が送られてこなかったこと、日本においては国家上げて温暖化対策に取り組むことを「国是」とする世論が大勢を占めており、その原因の一つとしてマスコミ・報道機関が大きな役割を果たしてきたこと、これを覆すようなClimategate事件報道をすることは、これまでの自らの報道内容を全否定することになるため、躊躇があったことを挙げた。
 彼らの発言は、温暖化問題を含め、マスコミ・報道機関の科学報道が、関係機関の記者発表を元に、単にこれを要領よく要約して垂れ流してきたことを示している。記者発表とは本質的に当事者の都合の良い事実だけを発表するものであるから、報道する者はその内容を多角的に吟味した上で報道すべきことは報道機関の基本であるはずではないか?それを怠ってきたマスコミ・報道機関の責任は重大である。
 温暖化問題を含め、結論の確定していない今日的な科学論争とは必ず対立意見が存在するのは当然である。特に、温暖化問題という地球科学の問題はきわめて複雑であり、『人為的CO2温暖化仮説』などと言う単純な出来の悪い仮説ですべてが語れるものではないことは当然である。事実、人為的CO2地球温暖化仮説は当初から多くの科学的な反論が存在していることは周知の事実であり、『玄関ネタ』だけに頼った安易な報道が現在の人為的CO2地球温暖化の狂騒状態を作り出したのであり、マスコミ・報道関係者の対応は万死に値するほど重大な過失である。これでは前大戦中の大本営発表に頼った彼らの歴史的失敗の教訓がまったく生かされていない。その結果、日本は今また温暖化ファシズムの支配する温暖化翼賛国会による全体主義国家体制に突入しようとしている。

 さて、シンポジウム後のマスコミ報道の一部を、読売新聞と毎日新聞の記事で紹介する。いかがであろうか?

 記事の内容自体は、不十分とは言え、それなりの報道かもしれない。しかし、この様な状況になったことに加担してきた自らの報道姿勢に対する反省はまったくどこにも見られず、すべてを研究者集団の責任とし、研究者集団に対する改善の要求に終始し、自らの責任を免罪している。
 自らの責任を総括した上で、今後の温暖化報道や科学報道においていかにあるべきかを徹底的に吟味しなおす作業をしない限り、彼らの報道は今後とも同じ過ちを繰り返すことになるであろうし、期待することは困難である。

(2010.05.11追記)


■ 地球温暖化 科学的な根拠の検証が急務だ(5月4日付・読売社説)

 地球温暖化の科学的な信頼性が揺らぐ中、日本の科学者を代表する日本学術会議が初めて、この問題を公開の場で論議する会合を開いた。
 だが、会合では、専門家がそれぞれ自説を述べるだけで学術会議の見解は示されなかった。このまま終わらせてはならない。
 取り上げられたのは、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が過去4回にわたってまとめてきた温暖化問題に関する科学報告書だ。次々に、根拠の怪しい記述が見つかっている。
 報告書の作成には、日本人研究者も多数関与している。
 しかも、この報告書は、日本をはじめ各国の温暖化対策の論拠にもなっている。学術会議自身、これをもとに、早急な温暖化対策を求める提言をしてきた。
 どうして、根拠なき記述が盛り込まれたのか。国連も、国際的な科学者団体であるインターアカデミーカウンシル(IAC)に、IPCCの報告書作成の問題点を検証するよう依頼している。
 国際的に多くの疑問が指摘されている以上、科学者集団として日本学術会議は、問題点を洗い直す検証作業が急務だろう。
 IPCCは3〜4年後に新たな報告書をまとめる予定だ。学術会議は、報告書の信頼性を向上させるためにも、検証結果を積極的に提言していくべきだ。
 現在の報告書に対し出ている疑問の多くは、温暖化による影響の評価に関する記述だ。
 「ヒマラヤの氷河が2035年に消失する」「アフリカの穀物収穫が2020年に半減する」といった危機感を煽(あお)る内容で、対策の緊急性を訴えるため、各所で引用され、紹介されてきた。
 しかし、環境団体の文書を参考にするなど、IPCCが報告書作成の際の基準としていた、科学的な審査を経た論文に基づくものではなかった。
 欧米では問題が表面化して温暖化の科学予測に不信が広がり、対策を巡る議論も停滞している。
 日本も、鳩山政権が温室効果ガスの排出量を2020年までに1990年比で25%削減する目標を掲げているが、ただでさえ厳しすぎると言われている。不満が一層広がりはしないか。
 欧米では、危機感を煽るのではなく、率直に論議する動きが出ている。この10年、温室効果ガスは増える一方なのに気温は上がっていない矛盾を、温暖化問題で主導的な英国の研究者が公的に認めたのはその例だ。参考にしたい。

(2010年5月4日01時18分 読売新聞


■疑惑、冷静に対処を=科学環境部・江口一(毎日新聞 2010年5月7日 東京朝刊)

 期待はずれだった。「クライメート(気候)ゲート事件」と呼ばれる疑惑で、日本の科学者を代表する日本学術会議が4月末に初めて取り上げた公開討論会のことだ。専門家は自説を述べることに終始し、改善策について建設的な議論は乏しかった。

 疑惑とは、地球温暖化に警鐘を鳴らした「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書で気温データが操作されたという内容で、ニクソン米大統領辞任につながった「ウォーターゲート事件」をもじって呼ばれる。

 この疑惑は、報道の扱いが難しい問題だった。理由は発覚した時期にある。09年12月の京都議定書後の温暖化対策を決める国際交渉の直前だった。実は気温データの信頼性は10年近く論争があり、大げさに取り上げるのは何者かに利用されることにならないかと感じた。データ操作以外にも「ヒマラヤ氷河が2035年に消失」は「2350年に5分の1に縮小」の誤りだったが、3000ページに及ぶ報告書のごく一部だ。ミスをどこまで重大視するのかは難しい。

 最近、英議会などは疑惑について「問題なし」と発表し、「人間活動が温暖化原因である可能性は90%以上」という報告書の根幹は揺らいでいない。だが、小さなミスも全体の信頼性を損ないかねない。欧米では市民の温暖化への危機意識がすでに低くなっているとの調査もある。

 日本では一連の問題が欧米のように大騒ぎになっていない分、研究者は冷静に議論する場があると言える。温暖化は政治、経済、社会に影響を与え、報告書の作成には日本人も中核でかかわった。「議論した」だけで終わらせず、再発防止策を提言してほしい。

註)シンポジウムに参加した毎日新聞の記者の某氏は、Climategate事件を報道しなかった理由として「大した事件ではないと思った」と述べていた。日本の新聞記者の人為的CO2地球温暖化に対する認識レベルをよく表している。(近藤)


No475 (2010/05/13)日経新聞の「人為的CO2温暖化」報道


 

No.472 (2010/04/27)捏造されるCO2濃度データ

 このコーナーNo.470「捏造される気温データ」で、Climategate事件において改竄が疑われる気温データについて紹介しました。今回は本編に「科学史上最悪のスキャンダル」を公開していますH.M.博士から紹介いただいた二つのレポート(http://icecap.us/images/uploads/EE_18-2_Beck.pdf、http://www.21stcenturysciencetech.com/Articles%202007/20_1-2_CO2_Scandal.pdf)を参考に、大気中CO2濃度データについて紹介することにします。

 まず、前回の補足の意味から、気温データについて少し触れておくことにします。

1.シナリオに沿って改竄された気温データ

 約1万年ほど前に始まるこの間氷期の地球の気温変動の概略を示す図を紹介しておきます。

 

 この図は、IPCC(1990)の気温復元図です。図には、古代文明の栄えた6000年ほど前(Holocene warming)、ローマ帝国が隆盛を誇った2000年ほど前(Roman warming)、そして北欧のバイキングが栄え、日本では平安文化が華やかであった1000年ほど前(Medieval warming)に温暖な期間があり、その後17世紀から19世紀にかけて低温化が顕著な小氷期(Little Ice Age)が示されています。
 その後IPCCの報告で採用されたMann等によるいわゆる「ホッケー・スティック曲線」を次に示します。

 

 この図は過去1000年間の気温を復元したものですが、1990年の図と比較すると、1000年ほど前の中世温暖期、あるいはその後19世紀まで続いた小氷期が消えています(詳細は本編の「ホッケースティック曲線の何が間違いなのか」伊藤公紀参照。)。
 更に、No.470で紹介した気象庁による気温データを再度紹介しておきます。

 この図では、人為的CO2地球温暖化仮説とはまったく矛盾する歴史的気温変動の一つであった第二次世界大戦後から1970年代まで続く低温化傾向が消されています。

 この様に、最近の気温データはCO2地球温暖化仮説を補強するために、次第にデータの改竄が進んできているようです。産業革命以降の人為的なCO2の放出量の増加に同期して気温が上昇したことを印象付けることを意図した改竄が繰り返されてきたことをうかがわせます。

2.産業革命以降のCO2濃度は単調に増加したのか?

 さて、それでは今回の本題である大気中のCO2観測データはどうなのでしょうか?産業革命以降のCO2濃度の「増加」を表す曲線としてよく見るのは次のようなものではないでしょうか?

 

 これを見ると大気中のCO2濃度は単調に増加しているように描かれています。しかし、大気中のCO2濃度の測定は、かなり微妙なもので、1958年にKeelingの精密連続観測が開始されて以降に初めて客観的なデータとしてその値が確定したのです。
 それ以前のCO2濃度はどのように推定されたのでしょうか?

 

 上図はIPCC2007のCO2濃度の復元図です。この図は、日本物理学会誌 Vol.65 No.4「地球温暖化の科学―遅れてきた懐疑論の虚妄と罪 阿部修治(産総研)」にも引用されています。1958年以前のCO2濃度は、南極の氷床から推定した値です。既にこのHPでは繰り返し述べてきたことですが、氷床に残されたCO2濃度とは、長期間の平均的なCO2濃度を表すものであり、これをKeelingの精密観測データと直結することは、あまりにも無謀です。
 更にこの図には意図的な改竄が行われています。

 

 上図は、私たちの見慣れたCO2濃度の単調増加=“CO2 HOCKEY CURVES”がどのように作られたかを示しています。氷床コアから推定されたCO2濃度とKeelingによるハワイのMauna Loaにおける観測データを同じ時間軸でプロットしたのが左の図です。氷床コアのデータとKeelingの観測値は不連続であることがわかります。そこで、氷床コアから得られたCO2濃度の値を83年間ずらすことによって、私たちのよく知るCO2濃度の単調増加を示す右側の図を捏造したのです。こうして、人為的CO2排出による地球温暖化仮説にとって「望ましい」CO2の単調増加曲線が得られたのです。

 大気中のCO2濃度観測データは1958年以前にも直接観測が行われていなかったわけではありません。次の図は、歴史的なCO2濃度の直接観測データとCO2濃度の単調増加曲線を描いたものです。

 

 右側の赤いギザギザの線は季節変動まで捉えたKeelingによる精密観測データであり、緑色の線は氷床コアからの「望ましい曲線」を示したものです。図の黒点がCO2濃度の直接観測値です(ヨーロッパ、北アメリカ、Peru)。確かにKeelingの観測以前のCO2濃度の観測値には大きなばらつきがあり、その信頼性の判断はかなり難しいと思われます。それを利用して、都合の良い黒線で囲った観測データだけを使うことによって、捏造された「望ましい曲線」が正当化されたのです。

3.Keeling以前のCO2の直接観測データ 〜Beckの研究から〜

 Beckは1958年以前のCO2濃度の直接観測データから北半球のCO2濃度の復元を行っています(2007)。

 

 図の下側の灰色の滑らかな曲線は氷床コア〜Keeling観測値(Mauna Loa)を示しています。Beckの得た黒で示す曲線は、1812〜2004年の間の43の観測点の90000以上のCO2濃度の化学的な直接観測値を元に復元した北半球の大気中CO2濃度変化を示しています。両者はかなり異なる変動を示しています。
 前述したように、過去の観測データの定量的な信頼性や、観測点の状況のばらつきからBeckの得た曲線が絶対的によりすぐれていると断言する事は出来ませんが、非常に興味深い内容を示唆する結果です(Beckの曲線の信頼性について、1958年以降の値では、Keelingの観測値との差は10ppm[3%]程度であり、かなり良い一致を示しています。)。
 Beckの復元曲線とKeelingの観測値をいきなり定量的に比較することには問題はあるものの、定性的には〜1958年までの氷床コアから推定した時間的に低解像度の(しかも83年間もずらして捏造された!)滑らかな曲線よりもはるかにCO2濃度の変動の実態を反映した多くの情報を含む優れたデータだと考えられます。

 Beckの曲線でまず特徴的なのが1940年頃に400ppmを超える極大値が生じていることです。その後、急激な下降傾向を示し、1950年代以降はKeelingの観測値とも矛盾しない変動傾向を示しています。
 第二次世界大戦後、工業化によって人為的なCO2放出量が激増した時期にBeckの復元曲線はまったく逆に大気中CO2濃度は急激な低下傾向を示しているのは大変興味深い結果です。
 この時期、気温も低下傾向を示し、「地球寒冷化」が取りざたされていたことを考えれば、BeckのCO2濃度の復元曲線は気温に追従して大気中のCO2濃度が変動している可能性を強く示唆していると考えられます。更に、人為的なCO2放出量と大気中CO2濃度はまったく連動していないことをBeckの曲線は主張しています。

 

 上図は、BeckのCO2濃度曲線(灰色)と南極の5ヶ所の氷床コアの安定同位体測定から地表温度を復元した曲線(黒)を示したものです。地表温度は南極の局所的な情報ですが、定性的に見ると地表温度とCO2濃度の極値の発現状況は同期しています(赤)。

4.結論 

 以上、気温と大気中CO2濃度の観測値や歴史的な復元において、人為的CO2地球温暖化仮説を正当化するために恣意的なデータ操作が行われていることが明らかになりました。特に、人為的CO2地球温暖化仮説が主張するように、前世紀以降の急激なCO2濃度と気温上昇がきわめて特殊な現象であるというシナリオに沿って、都合の良い歴史的な観測事実だけを恣意的に選択するだけでなく、データの明らかな改竄を行っていることは悪質だといわなければなりません。
 今回明らかになったIPCCの使用している気候に関するデータの改竄事実を契機に、基礎データの徹底的な見直しを行うとともに、人為的CO2地球温暖化仮説の自然科学的な再検討を行うことが不可欠であると考えます。
 

No.471 (2010/04/22)日本学術会議シンポジウム・・・

 既にご存知の方も多いと思いますが、日本学術会議がClimategate事件を受けて公開シンポジウム『IPCC(気候変動に関する政府間パネル)問題の検証と今後の科学の課題』を開催します。まず、案内メールを以下に転載しておきます。


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日本学術会議 公開シンポジウム「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)問題の検証と今後の科学の課題」の開催(ご案内)
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◆日  時:平成22年4月30日(金)13:00〜17:00
◆場  所:日本学術会議講堂(東京都港区六本木7−22−34)
◆主  催:日本学術会議第三部
◆開催趣旨:
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)をめぐる問題(Climate-gate, IPCC-gates)について、科学的観点から事実関係を明らかにし、その情報と認識を共有すること、そして、今後このような問題が生じないためのIPCCの科学的作業の在り方、社会と政策への情報提供の倫理性、科学者の行動規範などについて討議する。

◆次  第:
・開会(13:00)
・開会の辞 岩澤 康裕 (日本学術会議第三部 部長)
・挨拶 金澤 一郎 (日本学術会議会長)

・「IPCCの意義と課題」 13:15〜13:40 中島 映至 (東京大学 大気海洋研究所 教授)
・「氷河問題とIPCC 今日の課題」 13:40〜14:05 西岡 秀三 (国立環境研究所 特別客員研究員)
・「科学問題としての温暖化をめぐる視点」 14:05〜14:30 草野 完也 (名古屋大学 太陽地球環境研究所 教授)
・「IPCCと科学論的視点」 14:30〜14:55 米本 昌平 (東京大学先端科学研究センター 特任教授)
<休憩 14:55〜15:10>
・パネルディスカッション 15:10〜16:55
「IPCC問題が問いかけるもの:科学的作業、情報・倫理、科学者の行動規範」
(司会:日本学術会議第三部部長・電気通信大学教授 岩澤 康裕)

パネリスト(順不同)
中島 映至(東京大学 大気海洋研究所 教授、第三部会員)
江守 正多(国立環境研究所 温暖化リスク評価研究室長)
草野 完也(名古屋大学 太陽地球環境研究所 教授)
安成 哲三(名古屋大学 地球水循環研究センター教授、第三部会員)
伊藤 公紀(横浜国立大学 大学院工学研究院 教授)
米本 昌平 (東京大学先端科学研究センター 特任教授)
横山 広美(東京大学 大学院理学系研究科 准教授)

・閉会の辞 16:55〜17:00  大垣 眞一郎 (日本学術会議副会長)
・閉会(17:00)

◆参加費無料
◆申込み方法
事前申込み不要。当日先着順300名まで。
満席になり次第入場をお断りしますので、よろしくご容赦下さい。
◆問い合わせ先
岩澤 康裕 日本学術会議第三部長
電気通信大学大学院情報理工学研究科
Tel: 042-443-5921 e-mail: iwasawa@pc.uec.ac.jp


 私はこのシンポジウムのテーマ『IPCC(気候変動に関する政府間パネル)問題の検証と今後の科学の課題』を見て違和感を覚えました。これではIPCCをめぐるClimategate事件は既に過去のものとなり、これを『他山の石(つまり日本の研究者は無罪であるが気をつけましょう)』として今後に生かしましょう、とでも言っているようです。
 とんでもない話です。Climategate事件によって日本を含む世界の気象研究者が行ってきた不正行為を知る端緒が得られたところです。正にこれからその全体像を明らかにしていくことこそ焦眉の課題であるはずです。
 更に、講演者やパネリストの顔ぶれを見て唖然としました。IPCCに協力してきた日本の研究者が名を連ねており、正にClimategate事件の容疑者による弁明の場としてこのシンポジウムが開催されることは明らかです。

 今必要なことは、温暖化議論の大前提となる気温観測データをはじめとする観測データを徹底的に再検証して、誰もが納得あるいは信頼できる客観的な情報を再構築すると同時に、CO2地球温暖化仮説を自然科学の場で徹底的に検証することです。槌田敦氏は、これを実現するためのきっかけとするために、日本学術会議に以下の申し入れ書を提出しました。

 

日本学術会議公開シンポジウム「IPCC問題の検証と今後の科学の課題」の評価


No.470 (2010/04/21)捏造される気温データ

 Climategate事件で問題になっている事実の一つが気温データの『捏造』です。これだけ観測体勢が充実してきた現在において気温データが捏造されるというのは考えられない、あるいは気温なんて簡単に測定できるはずだし、簡単に検証できるはずだと思っている人が圧倒的に多いのではないでしょうか?

1.平均気温をどのように推定するのか?

 確かに、ある地点における気温(地上1〜2mの大気温度)を測定するだけならば、適切に調整された温度計を用いることで比較的簡単に測定することが出来るでしょう。
 ところが、面的な広がりを持つ領域の平均的な気温をどのように決めるかという問題になると、とたんに問題は難しくなってしまいます。
 面的な広がりを持つ領域の平均気温を求めるために、まず考えられるのは、対象領域の中に複数の観測点を設置して、それぞれの観測点における観測値の算術平均を求めることです。
 もう少し精度を上げようとすれば、各観測点が代表する領域の面積を考慮して、その面積を重みとする加重平均を求めることです。具体的に示してみましょう。
 平均気温を求めようという領域全体の面積をA、この領域の中の観測点数をnとします。各観測点で観測された気温をTi (i=1,2,3,・・・n)、各観測点が代表する領域の面積をAi (i=1,2,3,・・・n、ただしΣAi=A)だとします。このとき、Tiの代表する領域面積Aiを用いた加重平均によって求めた領域Aの平均気温Tは次のように表すことが出来ます。

T=Σ(Ti×Ai)/ΣAi (ただし、記号Σはi=1〜nの合計を表すとします。)

 観測点が領域Aの中に均等に分布し、Aiがすべて等しいとすると、上式は簡単に次のような算術平均になります。

T=ΣTi/n

 さて、これで面的な広がりを持つ領域の平均気温を決める方法は決まりました。後は、適切な観測点を設置して気温を決めてやればよいのです。ところが、『適切な観測点』を設置するということは、実は非常に難しいことなのです。理想的な観測点とは、その観測点iの観測気温Tiが、代表する領域Aiの平均気温を適切に反映していなくてはならないのです(後述するように、Climategate事件ではこの点を逆に利用して、観測点の恣意的な選別によって気温上昇を大きくしている疑いがあるのです。)。
 この条件を機械的に満足させるためには、n→∞(Ai→0)にすればよいことになります。しかし、これは現実的には不可能なことです。そこで、私たちが利用する有限個の観測点の気温の観測値を用いて求めた面的な広がりを持つ領域の平均気温には避けようの無い不確定要素が入り込むことになり、一意的に確定することは非常に困難な作業になる、いや厳密に言えば絶対不可能なのです。

 以上、ある時点における平均気温について考えてきました。しかし、私たちが平均気温を利用する局面、特に現在における地球温暖化を議論する場合に問題になるのは、平均気温の時間軸に沿った変動の問題であり、更に問題は複雑になります。
 観測点の地表環境は土地利用の変化、たとえば都市化や農地化、森林伐採などなどの要因で激変する可能性を持っています。その結果、同じ観測点のセットを用いた時間的に隔たりのある複数の平均気温を相対的に比較して、単純に温暖化したとか寒冷化したとかを判断することは果たして意味があるのかどうか、それすら判断することは簡単ではないのです。

 これでは厳密に言えば地球の平均気温に関する議論は不可知論になってしまいますが、ここで述べたかったことは、それほど地球の平均気温を推定するという作業は難しい問題であるということです。

2.世界月平均気温偏差(平年差)

 地球温暖化問題を議論する場合、地球の気温状態を代表する指標として、平均気温ではなく平均気温偏差を利用しています。
 まず、月平均気温偏差について説明します。ある観測点iのj月の月平均気温の過去30年間の平均値を観測点iの月平均気温の平年値Tij0とします。着目年の観測点iのj月の月平均気温をTijだとします。このときの月平均気温偏差ΔTijは次のように計算されます。

ΔTij=Tij−Tij0

 月平均気温偏差ΔTijの意味は、観測点iにおける着目年のj月の月平均気温が平年値に比較してどれだけ高いかを示す値です。つまり、月平均気温偏差ΔTijは平均的な季節変動を取り除いた情報なのです。

 実際には、地球表面を領域に分割し、分割した領域iに含まれる複数の観測点の平均気温で領域を代表する着目年の領域iのj月の月平均気温Tijとします。領域の月平均気温の平年値も同様に求めます。
 この様にして求めた領域iにおける着目年のj月の月平均気温偏差ΔTijについて、領域面積Aiを重みとする全地球表面に亘る加重平均によって『全球(世界)月平均気温偏差』ΔTを次のように計算します。

ΔT=Σ(ΔTij×Ai)/ΣAi (ただし、記号Σはi=1〜nの合計を表すとします。)

 全球(世界)月平均気温偏差ΔTは、基礎データであるΔTijにおいて既に着目月の平年値=領域iの季節特性の情報を取り除いており、さらに全地球表面についての加重平均操作を行っているため、もはや季節変動とはかかわり無く、『地球の平均的な気温状態がどのように変化しているのか』を表す指標として用いることが出来ると考えられるのです。

 では実際の気象庁の世界月平均気温偏差(平年差)はどのように求められているのかを気象庁のHPの説明から見ておくことにします。
 
○陸域で観測された気温データ
1880〜2000 年までは,米国海洋大気庁気候データセンター(NCDC)が世界の気候変動の監視に供するために整備したGHCN(Global Historical Climatology Network)データを主に使用し,使用地点数は年により異なりますが,約300〜3900 地点です。2001 年以降については,気象庁に入電した月気候気象通報(CLIMAT 報)のデータを使用し,使用地点数は1000〜1300です。
注:世界の観測所については、都市化による昇温を考慮して除いていません。

○海面水温データ
1891 年以降整備されている、海面水温ならびに海上気象要素の客観解析データベースCOBE( Centennial in-situ Observation Based Estimates of variability of SST and marine meteorological variables)の中の海面水温解析データ(COBE-SST)で、緯度方向1度、経度方向1度の格子点データになっています。
注:海面水温の変化は、広域的・長期的には直上の海上気温の変化と同じだとみなせることが確かめられており、均質な海上気温データの整備が難しいことから、世界的に広く海面水温データを用いた世界の平均気温の算出が行われています。

 この陸域と海域の基礎データを基に、緯度・経度5°の領域内の観測点の気温を平均した上で平年値(1971 年から2000 年の30 年間の平均値)からの偏差を求め、全球に対して領域面積による加重平均を求めています。

3.気温データはどのように捏造されたのか

 Climategate事件における気温観測データの改竄の手法は二つあるようです。

 まず、明らかなデータ改竄手法は、観測データに直接数値的な変更を加えるものです。
 例えば次の図は、オーストラリアのある観測点における気温の観測データ(青線)GHCN(NCDC[National Climatic Data Center]=海洋大気庁気候データセンターによる世界気温データ)による補正(改竄?)された気温データ(赤線)を比較したものです。

 図の黒太線は右側のスケールで表されるGHCNによる気温補正量を示しています。1940年以降のデータに対して急激にプラスの補正量が大きくなっていることがわかります。
 図中に直線で示された100年当たりのトレンドで見ると、観測データそのものは、-0.7(℃/100年)に対してGHCNによる補正データでは1.2(℃/100年)というまったく異なる傾向に改竄されていることがわかります。

 もう一つの改竄方法は直接的に観測データに手を加えるのではなく、観測点を恣意的に選別するという方法です。
 次の図は、GHCNの採用している気温観測点数と世界の年平均気温の変化を示したものです。

 GHCNの採用する気温観測点数は実に奇妙な変化を示しています。常識的に考えれば、近年になるほど気象観測体勢が充実してきているでしょうから、観測点数は単調に増加しているはずです。ところが、GHCNの世界年平均気温を決めるために採用される観測点数は1970年頃をピークに、激減しているのです。1970年以降の観測点数の激減が、観測点の恣意的な選別、つまり気温の上昇傾向の強い観測点を選択的に残し、上昇傾向が弱いあるいは低下傾向にある観測点を選択的に排除していると考えられるのです。
 事実、世界年平均気温は1970年頃をピークとして一旦下降傾向を示しますが、観測点数が激減するのと同期して再び急激な上昇傾向を見せていることがわかります。
 この観測点数の激減について、当事者たちは採用している観測点のデータだけで適切に世界気温を評価できると主張しているようですが、合理的な根拠は無く疑惑は拭い去ることは出来ません。彼らの主張を検証するためには、少なくとも1970年当時に採用していた観測点を用いた上で、世界気温を計算して比較検証することが不可欠です。

4.気象庁の気温データは大丈夫か?

 では、日本の気象庁による気温データは大丈夫なのでしょうか?

 今のところ、国内の観測点の気温データに対してGHCNが行ったような直接観測データを『補正(改竄?)』した事実の報告はありませんが・・・。既に示したように、気象庁の世界月平均気温平年差の計算に用いる海外の観測点のデータは、『1880〜2000 年までは,米国海洋大気庁気候データセンター(NCDC)が世界の気候変動の監視に供するために整備したGHCN(Global Historical Climatology Network)データを主に使用』しているために、NCDCによるデータ捏造疑惑の影響を少なからず受けている可能性が強いと考えるべきでしょう。
 本編に公開しているはれほれ氏のレポート『人為的温暖化の正体』から気象庁の世界月平均気温平年差の算定に使用している気温観測点数の推移を次に示しておきます。

 図から明らかなように、気象庁の採用している気温観測点数もNCDCの場合と同様、1970年頃から激減し、現在の観測点数はピーク時の1/4程度に減っていることがわかります。気象庁によると『2001 年以降については,気象庁に入電した月気候気象通報(CLIMAT 報)のデータを使用』ということになっており、NCDCの直接の影響は無いのでしょうが、観測点数はその後も減少したままです。

 上図は、気象庁による『世界の年平均気温平年差』の推移を示したグラフです。この種の以前のグラフでは前大戦後1940年代〜1970年代にはかなり明確な気温の低下傾向が現れていましたが、この気象庁のグラフではその傾向がまったく現れていないのはどういうことなのでしょうか?1940年代〜1970年代の気温の低下傾向は、北極海の海氷面積の増大をはじめ多くの観測事実があり、その結果当時は世界的に寒冷化の問題が取りざたされていたはずですが・・・。
 このグラフを見る限り、気象庁のデータにおいても何らかの恣意的な『温暖化バイアス』の存在を疑わせるのに十分ではないでしょうか?

5.結論 〜今何をすべきなのか?〜

 私はこれまで、気温の観測データは観測点数の増加による影響で、極大・極小値の変動幅は次第に大きくなっているとは想像していましたが、平均的な上昇傾向には一定の信頼をしていました。しかしClimategate事件発覚後、1970年代以降、観測点数が恣意的な選別によって激減しているという事実が発覚した結果、近年報告されている世界平均気温の上昇傾向自体果たして信頼に足るものかどうかを疑わざるを得なくなりました。
 今われわれが最初にすべきことは、気温変動を議論する大前提となる気温観測データを徹底的に見直し、誰もが信頼できる気温変動データを再構築することではないでしょうか。

No.469 (2010/04/14)NHKお馬鹿番組の記録06

 久しぶりのシリーズの更新です(笑)。

●2010年4月14日NHK総合テレビ19:30〜20:00 クローズアップ現代『宇宙から温暖化を監視』
●キャスター:国谷裕子
●ゲスト:住明正(東京大学IR3S/TIGS統括ディレクター)

●内容:
 番組HPの表現を使えば『日本が打ち上げた世界初の温暖化監視衛星』である「いぶき」によってCO2濃度が面的に観測可能になったことを前提に、これが世界のCO2排出権取引を合理的かつ円滑に行えるようにする、というもの。

■感想:
 賢そうだが、実質は無知で不勉強な女性キャスターが、いぶきのリモートセンシングによって全球的な高精度のCO2濃度測定が可能になったと誤解した上で、これでCO2排出権取引やCO2排出監視体制が確立したような幻想を抱かせる内容。この番組はCO2温暖化対策を強引に推し進めようとする国策番組であろうと推測しています(文科省と経産省辺りがNHKの番組を買い取ってお手盛りで制作した(させた?)のか、はたまたおっちょこちょいのNHKが企画を持ち込んだのか・・・)。
 CO2濃度を直接リモートセンシングで測定することなど不可能です。要するに地表面からの赤外線放射の減衰から、CO2濃度を推定しようとしているだけです。天候、水蒸気量、各種エアロゾル、浮遊粉塵量などなど様々な影響を考慮した上で、一体どの程度の精度が得られるのか・・・。住氏自身言っていたように、CO2発生源の考えにくいアフリカの砂漠地帯のCO2濃度が高かったり、定性的にも実用的な段階ではありませんし、将来的にも確実な値など求めることは出来ません。
 こんな眉唾な値を信じてCO2排出量規制や排出権取引に応じるナイーブな国が現れるはずがありません。あきれてものが言えません。
 住さんはいろんなところに顔を出して、CO2利権によって得た既得権を守るための宣伝マンになったようです(笑)。

No.468 (2010/04/12)Climategate事件/週刊新潮

 世界的にIPCCによる人為的CO2温暖化仮説の信頼性を揺るがしているClimategate事件ですが、日本では本HPに紹介している『化学』などの学術専門誌を除けば、報道はほとんど皆無といってよい状態です。
 そのような中で、週刊新潮4月15日号がおそらく日本の商業誌としては始めてこの問題の特集記事を出しました。十分な内容とはいえませんが、日本においては正に画期的な出来事ではないでしょうか?これを機に日本のマスコミ・報道機関が目を覚まし、流れが変わるのでしょうか?現時点ではあくまでも『???』ですが、少し注意して見ていきたいと思います。

 

 

 

No.467 (2010/04/12)大丈夫?日本物理学会・産総研!

 既にご承知だと思いますが、本編に日本物理学会誌Vol.65 No.4から、槌田敦氏の『原因は気温高, CO2濃度増は結果』と(独)産業技術総合研究所の阿部修治氏の『地球温暖化の科学一遅れて来た懐疑論の虚妄と罪』との2編の論文を公開しています。

 槌田氏のレポートは既にこのHPでも紹介している大気中CO2濃度変化率が気温の一次関数で表すことが出来るという結果ですが、明日香さんがこだわる(笑)査読付の自然科学誌に載る最初の報告になります。
 このコーナーで既に報告したように、物理学会誌編集委員会の槌田論文の掲載の条件は、(独)産業技術総合研究所の阿部修治氏のカウンター論文との同時掲載という、誠に訳のわからぬものでした。この阿部論文がいつまでたっても提出されないことによって、槌田論文の掲載は1年以上も遅れることになりました。

 さて、やっと提出された阿部論文を読んで、私は唖然としました。これは、東大IR3Sの『地球温暖化懐疑論批判』にも勝るとも劣らぬ(笑)低劣極まりない内容であり、とても伝統ある日本の自然科学の学術団体である日本物理学会の会誌に掲載するようなレベルとは程遠いものだったからです。
 内容的には阿部氏の前回の槌田批判論文(日本物理学会誌 Vol.62, No.7, 2007『CO2増加は自然現象だろうか』)から新しい主張は無く、理由も示さずに槌田の主張は虚妄であるという罵詈雑言を並べている『負け犬の遠吠え』であり、最早科学論文とは呼べないものに堕していると感じました。
 阿部氏のレベルはよくわかりましたが、むしろ問題だと思ったのは、この様な情けない内容の主張をする研究者を擁している(独)産総研という国家機関の危うさであり、またこの様な低劣で批判する相手の主張さえろくに理解せず誤解(曲解?)による思い込みに基づいた非科学的な主張を述べただけの悪口雑言論文を適切に査読によって訂正させることの出来なかった日本物理学会誌編集委員会の対応の方です。

 一般の物理学会員の皆さんは、この阿部論文ないしその掲載を許可した学会誌編集委員会について、どのようにお考えなのでしょうか?ぜひご意見をお聞かせください。

 尚、本編において、私以外の第三者から見た阿部論文に対する論評をまとめる予定です。乞う、御期待!

No.466 (2010/04/01)温暖化対策の欺瞞を暴く2冊の本

 人為的CO2地球温暖化仮説あるいは温暖化対策に対するNHKの報道内容の低劣さ、愚かさは手がつけられず、ますますエスカレートするばかりです。
 今朝横目で眺めていたNHKの朝のニュース番組で、またしてもとんでもない温暖化対策の実例を報告していました。ただ、まともに聞いていなかったので細部については多少正確さに欠けると思いますが、お許しください(NHKさん、何か誤りがあれば教えてください)。まずその内容を紹介しましょう。

 関東圏(おそらく東京?)のある企業のCO2排出量削減対策についての報道です。この企業は事業所からのCO2排出量を削減するために、電力として東北(青森県だったでしょうか?)の風力発電と北海道から『CO2を排出しない電力(笑)』を長大な送電線網を通じて購入することにするというのです。これによってこの企業は電力消費にかかわるCO2排出量を6割(?)程度減らすことが出来るというような内容でした。

 常識的に考えれば、こんなことをすれば実質的なエネルギー利用効率が下がる一方、つまりCO2排出量は増加することは当たり前のことです。無能なNHKや報道機関の愚か者たちはそんなこともわからなくなっているのです。なぜこんな馬鹿なことになるのか?それは彼らや国の進める温暖化対策に科学・技術的な評価の視点が完全に欠落しているからです。
 CO2排出削減量の算定方法については、「地球温暖化対策の推進に関する法律施行令(平成十一年四月七日政令第百四十三号)」に定められています。

「地球温暖化対策の推進に関する法律施行令(平成十一年四月七日政令第百四十三号)」という法令があります。その第三条ロに「総排出量算定期間において使用された他人から供給された電気の量(キロワット時で表した量をいう。)に、当該電気の一キロワット時当たりの使用に伴い排出されるキログラムで表した二酸化炭素の量として〇・五五五を乗じて得られる量」を商用電力の使用によるCO2排出量とすると定めているのです。
(「誰も答えない!太陽光発電の大疑問」不知火書房、83頁)

 風力発電など国によると『発電時にCO2を排出しない』発電方式で発電された電力の購入量に、0.555kg/kWhという通常の商用電力を使った場合のCO2排出量を乗じた値をもって、CO2排出削減量としているのです。しかし、風力発電や太陽光発電など、発電時にCO2を排出しない発電装置を作るためには、製造段階で莫大な資源とエネルギー≒石油の投入が必要なのです。その結果、ライフサイクルの全期間を総合した風力発電や太陽光発電のCO2発生量は既存の石油火力発電よりも大きいというのがエネルギー技術者の常識なのです。『発電時にCO2を排出しない』ことが、『その発電システムがCO2を排出しない』というのとはまったく別であることを理解していただきたいと思います。
 更に今回の報道にあるように、ただでさえCO2排出量の大きな風力発電電力を長大な送電線によって運んでくれば、その過程の電圧降下によるエネルギーロスは非常に大きくなります。(蛇足になりますが、こうした電圧降下を避けるための技術として、これまた膨大な資材とエネルギーを投入した超伝導を使う送電システムの開発が巨額の国費を使って研究されています。まったく愚かとしか言いようがありません。)
 更におかしな点は、風力発電電力は秒単位で激しく出力が変動しますから、そのまま送電しても使い物になりません。今回報道された企業の購入する電力は、形式的には風力発電の電力なのかもしれませんが、実質的には対象となる風力発電施設が系統連携している電力ネットワークから電力を購入するという意味でしかないはずです。

 今回はNHKで報道された風力発電に関する話題を紹介しましたが、この愚かな温暖化対策にかかわる技術はそれだけに止まらず太陽光発電や原子力発電でも同様です。日本の愚かな温暖化対策は人為的CO2地球温暖化懐疑論を抹殺しようとしている元東大総長の小宮山宏(三菱総研理事長)等、『原子力』ロビイストによって捻じ曲げられていることを知っていただきたいと思います。
 こうした温暖化対策として進められようとしている愚かな政策を科学・技術的に検討することを目的に、本HPに関する2冊目の本を上梓することになりました。『誰も言わない!太陽光発電の大疑問』という題名ですが、内容としては太陽光発電にとどまらず、原子力を含むエネルギー技術一般に対する評価の視点を紹介することを目的にまとめたものです。


シリーズ[環境問題を考える]2
『誰も答えない!太陽光発電の大疑問』
(エネルギー供給技術を評価する視点)1,200円
不知火書房(福岡市) Tel, Fax 092-781-6962 

 現在、国やそれに同調してかつての大本営発表のように情報を垂れ流すだけになったNHKを始めとするマスメディア、報道機関の無能によって、あたかも環境問題=人為的CO2温暖化問題というきわめて一面的な捉え方が蔓延しています。
 小宮山らの暗躍によって、温暖化対策という名目で息を吹き返しつつある原子力産業は、『発電時にCO2を排出しない』という理由で、こともあろうに環境に優しい発電方式などというふれこみで、本来原子力の持つ環境破壊的な問題を隠蔽して増設されようとしているのです。
 私たちは原子力発電の持つ本質的な問題を見逃してはなりません。こうした視点から、原子力発電の問題について正面から取り組むブックレットが発行されていますので紹介しておきます。


<著者紹介>
中野行男
佐藤正典(鹿児島大学理学部教授:底棲生物学)
橋爪健郎(元鹿児島大学理学部助教:環境物理学)

南方ブックレット2
『九電と原発』
(@温排水と海の環境破壊)1000円
南方新社(鹿児島市) Tel 099-248-5455
URL http://www.nanpou.com/
e-mail info@nanpou.com 


 この本は、原子力発電所の問題としては、放射能に比べてあまり取り上げられることの無い温排水が海洋生態系に与える影響についてまとめられたものです。
 本の中にも書かれているのですが、温排水の問題は原子力発電所固有の問題ではありません。火力発電所においても冷却水が使われていることはご承知の通りです。ただ、発電される単位電力あたりの温排水による排熱量に大きな差があるのです。
 ここで発電の熱効率について考えてみましょう。火力発電も原子力発電も、ともに外燃機関であって、最終的には蒸気タービンによって発電機を回しています。火力発電では、燃料の燃焼によって得た熱エネルギーの40%程度が電気エネルギーに変換されています(排熱は60%)。最新のハイブリッドタイプの火力発電では更に熱効率は高くなっているでしょう。これに対して原子力発電では核分裂反応で得た熱エネルギーの30%程度が電気エネルギーに変換されます(排熱は70%)。ここで、最終製品である電気エネルギー1単位あたりの排熱量を比較してみましょう。火力発電では、
60/40=1.5
原子力発電では
70/30=2.33
です。つまり、原子力発電は火力発電に比べて単位発電電力量あたり2.33/1.5=1.55倍の排熱を出しているということになります。つまり、高度な技術を投入した原子力発電ですが、熱機関としての効率は火力発電にまったく及ばない低熱効率の発電システムにすぎないのです。何故か?
 熱機関の効率は、高温熱源と廃熱温度の差によって大勢が決まってしまいます。同じ水(水蒸気)を動作物質として利用する原子力発電と火力発電ですから、排熱の温度はそれほど変わりは無いでしょう。ということは、高温熱源の温度の差が発電の熱効率の差となるのです。
 原子力発電は放射性物質という究極の環境汚染物質である猛毒を取り扱うため、環境への放射能漏れの危険性に十二分の配慮が必要です。そのため、高温熱源の温度を高くすることによる高温蒸気の圧力を高めることは放射能漏れのリスクを増大させるために火力発電ほどに高くすることが出来ないのです。また熱交換器配管からの放射能漏れを防ぐために、配管の肉厚についても火力発電よりも厚くしなければならないでしょう。これも熱効率を落とす要因になります。
 このように原子力発電の安全性を高くすることは、その引き換えとして熱効率を低下させることになります。原子力発電の安全性を確保するためにはこれ以上の飛躍的な熱効率の改善は不可能なのです。

 だいぶ横道にそれてしまいました。つまり、温暖化対策という名目で火力発電所を原子力発電所に置き換えることによって、温排水によって日本の沿岸水域に排出される熱量が大きくなり、沿岸海域の漁業資源は直撃されることになるのです。

 温暖化対策という国家的詐欺・謀略宣伝によってこうした大きな問題が隠蔽されていることに気付いていただきたいと思います。

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